忠犬と飼い主の非日常   作:herz

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お疲れ飼い主と、棚ぼたの忠犬【前編】

 

 秀一達が退室した後。俺はリアン君とウィル君の心のケアに必死になった。……医師と看護婦の手助けもあり、なんとか持ち直してくれた。

 ……ただ、医師と看護婦は俺の事も心配していた。精神が不安定な子供達を支えようと必死になるあまり、その支えている側の精神も不安定になる事例は珍しくないらしい。

 

 

「あなたも、あまり無理をしないようにしてください」

 

「全てを1人で抱え込む必要はありません。……例えば、誰か1人だけでもいいんです。不安な気持ちや辛い気持ちを吐き出せる相手がいれば……」

 

「……あぁ。それなら大丈夫です。――1人、頼れる奴がいますから」

 

 

 そう言って頭に思い浮かべたのは、唯一の愛弟子の姿だった。

 

 

 ……その後。泣き疲れたのか兄弟達は眠ってしまった。そこで一度彼らの事を医師と看護婦に任せて、俺は病室から出て秀一達の下へ行く事に。

 探し始めてからすぐに秀一達を発見した。……そこには俺に良い笑顔を向ける秀一と、死んだ目をしているジョディとジェイムズ。

 

 それから――灰になっているヘンリー・ベネットがいた。

 

 …………事情は、大体察した。とりあえず俺は秀一を褒めておいた。よしよし、俺の代わりによくやってくれたな。

 

 

「で、これ(・・)は俺達に今回の事件の担当を引き継ぐと言ってくれたか?」

 

「はい!もちろんです」

 

「あ、あぁ……言ってくれた、というより……言わせた、の方が正しいが」

 

「さすがにこれ以上追い討ちを掛けるような事は……しないでよ……?ただでさえシュウがオーバーキルしたばかりなんだから……」

 

「……うん。そうだな……もう懲りたようだし、社会的に潰すのは遠慮しておこう」

 

 

 そう言うと秀一は残念そうな顔、ジェイムズとジョディは恐怖で顔を引き攣らせ、ヘンリー・ベネットは僅かに息を吹き返した。

 

 

「ただし、それは――もう二度と子供を傷つけるような真似をしない事。俺達のチームに変に対抗心を燃やさず、ちょっかいも出さない事。二度と俺達の足を引っ張ろうとしない事。

 

 この3つを約束してくれたらの話だけどな……?この約束を破ったら次こそ必ず――」

 

「――かしこまりました!!絶対に守ります!!」

 

「……まだ途中だったんだが……まぁいいか。理解したのであれば、それでいい」

 

 

 これだけ念入りに言っておけば、もう余計な事はしないだろう。

 

 その時。兄弟達の病室にいるはずの看護婦が、慌てた様子でこちらにやって来た。

 

 

「あ、いた!荒垣さん、今すぐに戻ってください!ウィル君とリアン君があなたがいない事に気づいてまた泣き出してしまって……!!」

 

「すぐに行きます!」

 

「赤井君、君もついて行って荒垣君のフォローを頼む。私とジョディ君はこのままベネット君と引き継ぎについて話し合う」

 

「了解」

 

 

 ジェイムズ、ナイス判断!この男までつれて行ったら、また兄弟達がパニックになってしまう。ここに残らせた方がいい。

 秀一と共に病室へ戻ると、2人は泣きながら俺の名前を呼んでいた。

 

 

「リアン!ウィル!」

 

「カズヤ兄ちゃんっ!!」

 

「どこ行ってたんだよ!!」

 

「ごめんな。仲間と仕事の話をするために、ちょっと席を外していたんだ」

 

 

 謝りながら2人の下へ行くと、すぐにしがみ付かれた。

 

 

「目が覚めて、兄ちゃんがいなくて……兄ちゃんに会えた事が夢だと思った…っ……!!」

 

「夢じゃないさ。ここにいるだろう?」

 

「うん……夢じゃなかった……」

 

「…………カズヤ兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「――もうどこにも行かないでくれよ……!」

 

「――ボク達を置いて行かないで……!!」

 

「――――」

 

 

 ……この様子じゃ、いつかは言われるんじゃないかと危惧していたが……やっぱりか。

 

 無責任に"どこにも行かない"などと言えば、この子達は俺をこの病室から出そうとしなくなるだろう。俺から離れようとしなくなるだろう。それだけ依存されている自覚はある。

 しかし、それでは駄目だ。将来的にこの子達のためにならないし、俺にもFBIとしてまだまだやるべき事がある。だから――

 

 

「――それなら、こうしよう」

 

 

 俺は先ほども使った変装用の帽子と眼鏡を取り出し、帽子をウィル君の頭に被せて、眼鏡をリアン君に掛けさせる。

 

 

「……君達に、それを預ける。俺の大事な変装道具だ。今のところ変装する必要は無いが、それがなくなってしまうと俺は困る。だから――それを持っている君達の下へ俺は必ず定期的に戻って来る。

 

 つまり。俺が何度かリアン君とウィル君の下から離れても、君達がそれを手にしている限り、俺は必ず君達の下へ戻って来るんだよ」

 

「…………本当に?」

 

「本当だ。それについては約束できる。……でもな。今はまだだが、俺はいずれ君達から離れなくてはいけない時が来る…あ、待て待て!泣くな!話は最後まで聞くように」

 

 

 話の途中で2人が涙目になってしまったので、慌てて止めた。

 

 

「……だが、そうなっても君達ならきっと大丈夫。自分の隣を見てみろ。――頼りになる兄弟がいるじゃないか」

 

「「――――」」

 

「……しかし今すぐに俺から離れるのは不安だろう?だから、しばらくは俺も君達の様子を見に来る。その約束の証として、君達に俺の変装道具を預けようと思う。

 俺から離れる時が来るまで、それを大事に持っていてくれ」

 

「……でも、でもボク、カズヤ兄ちゃんと離れたくない!」

 

「……リアン!カズヤ兄ちゃんを困らせたら駄目だ!」

 

「でも――お父さんもお母さんも、もういなくなっちゃったのに……!!」

 

「っ、それ、は……」

 

 

 一度はリアン君を止めたウィル君も、言葉を詰まらせた。

 

 

「…………リアン君、ウィル君。……自分達の名前が元々どんな意味を持っているのか、知っているか?」

 

「……オレは、知らないけど……?」

 

「ボクも知らない……」

 

「知らないか。なら、教えてあげよう。リアンという名前は――動揺しない守護者。ウィルという名前は――勇敢な守護者。……という意味を持っているんだ」

 

「動揺しない守護者……」

 

「勇敢な守護者……」

 

「……君達はどちらも守護者の意味を持つ名前をお父さんとお母さんから授かった。――俺から離れた後も、その名前の通りお互いを守り合ってくれたら……と。そう、思っている」

 

「「――――」」

 

 

 ……すると、2人は互いに顔を見合わせて……大きく頷いた。

 

 

「……オレ達、頑張るよ!」

 

「ウィル兄ちゃんと一緒に、カズヤ兄ちゃんがいなくても平気になれるように頑張ってみる!」

 

「――っ、良く言った!偉いぞ!」

 

 

 本当に言いたかった言葉を――"すまない"という謝罪の言葉を呑み込んで、褒める事を優先した。2人を抱き締めて、その頭を撫でる。

 

 

「本当にいい子だよ、君達は!……俺もリアン君とウィル君から離れる時が来るまで、君達を支える事を――約束しよう」

 

 

 ……俺に依存したらこの子達の将来のためにならないし、いつまでも立ち直れないままだ。

 だからこうして布石を打ったのだ。いずれ訪れる別れに備えて、少しずつ立ち直ってもらうために。

 

 しかし――

 

 

(――本当は謝りたい。……大人のエゴのためにそんな事を言わせてしまってすまない、と)

 

 

 ……そう口にすれば、勇気を持って一歩を踏み出してくれた兄弟達の覚悟が台無しになってしまうから、絶対に言えないけどな。

 

 

 

 

 

 

 ――そんな俺を見つめる秀一の視線が、背中に刺さっていた。……きっと、心配されている。

 

 

 

 

 

 

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