――目を覚ますと、何故か秀一が涙目で微笑んでいた。
「――おはようございます」
「――おはよう。……涙目だぞ?どうした?」
「っ、いえ!これは……何でもないです。目にゴミが入っただけですから」
「ふーん……?」
嘘だな。……後で問い詰めるか。
「それよりも、よく眠れましたか?」
「……あぁ。良い目覚めだ。すっきりした」
「それは何よりです。――また、いつでも頼ってください」
「……ん。そうする。――ありがとう」
感謝の言葉を口にすると、秀一は笑みを浮かべる。
――今までで一番、嬉しそうな笑顔だった。
・前半はオリ主視点。後に赤井さん視点。
リアン君とウィル君との顔合わせを終えた後。俺はジェイムズの指示で、事件の捜査よりも兄弟達の心のケアを優先して欲しいと言われた。
彼らに目撃情報を話してもらうにはまだまだ心の傷が深過ぎる。それを徐々に癒し、可能であれば情報を得る事が俺の役目だ。
事件の捜査は仲間達に任せて、俺は定期的に彼らの下へ行き、その心のケアのために共に過ごすが……
「――ちゃん、……ねぇカズヤ兄ちゃん!」
「っ、……悪い、ぼーっとしてた。何だ?」
「……大丈夫か?カズヤ兄ちゃん。疲れてるのか?」
「え?兄ちゃん、疲れてるの?」
――大正解。……と、正直には言えないので。
「……いや?そんな事はないが?」
ポーカーフェイスを張り付けて、ごく自然に嘘をつく。……素直な子供達はそれで騙されてくれたようだ。
「……そうか?ならいいけど……」
「あ、そうだカズヤ兄ちゃん!トランプで遊ぼう!」
「トランプな、いいぞ。ウィル君もやるか?」
「やる!」
トランプの山札を手に取り……ふと、かなり前の潜入捜査中に身に付けたシャッフルのやり方を思い出した。
「……えっ!?」
「っ、なにそれ!?凄い!!」
「も、もう一回やって!!」
マジシャンとかカジノのディーラーがたまにやるような無駄に綺麗なシャッフルを見せてやると、彼らは目をキラキラさせた。
リクエストに答えて今度は別のシャッフルを見せてやると、さらに喜んだ。
その後。彼らはトランプのゲームよりもシャッフルに夢中になった。いくつかシャッフルのやり方を教えていた時、リアン君がぽつりと呟く。
「……お父さんは、トランプのシャッフル下手だった」
「……そういえば、そうだったな」
「…………でも、お母さんは上手だった」
「…………そう、だったな……」
――まずい。来るか?
「――ぐす……っ、お母さぁん……っ!!」
「っ、ばかリアン!泣くなよっ!……オレまで泣いて……っ、うぅ……!!」
やっぱりかぁ……さて、お仕事だな。
「――おいで」
「う、ぁぁっ……!!」
「っ、ひっく、ぅぅ……っ!!」
泣き出した2人を呼ぶと、揃って飛び付いてきた。それを受け止めて背中を撫でたり頭を撫でたりして、慰める。
リアン君、ウィル君と再会した日以降。彼らはよく泣くようになった。今回のように両親を思い出させるような出来事があったり……犯人に襲われた日の事を思い出したりすると、泣いてしまう。
しかし、医師によればこれは悪い事ではないらしい。泣く事でストレスの発散になり、心の安定にも繋がる。また、辛い感情を和らげる効果もあるそうだ。
2人はどうも、俺が現れるまではあまり泣く事がなかったらしい。今でも俺がいない時には不安そうな様子を見せるが、泣く事がないという。
だから、俺の側で泣いてもらう事は2人に良い影響を与えるのだとか。
「……寝た、か?……うん、寝たな。よしよし」
今、彼らは泣き疲れて眠っている。……最近はましになったようだが、以前は2人共に寝不足が目立っていたらしい。
たくさん遊んだり泣いたりして、疲れさせて眠ってもらう事も心の健康に良いと医師から聞いた。
――とはいえ。
(子供が泣いている姿を目の当たりにするのは、正直――精神的にきつい)
幼い子供が"お父さん"、"お母さん"と泣き叫ぶ姿を見る事が、悲しい。……ただこうやって慰める事しかできない自分がもどかしい。――無力だ。
…………まだ限界という程ではないが、精神的ダメージが大きいのは確かだな。
「そろそろ、頼るか――」
―――
――――――
―――――――――
SIDE:赤井秀一
仕事終わりに、和哉さんから電話があった。"もしも時間があるなら、病院に来てくれ"、との事だった。
幸い特に予定は無かったため、すぐに和哉さんとあの兄弟達がいる病院へ向かった。
FBIの英雄という煩わしい肩書きのせいで、俺は色んな人間に顔を覚えられている。よって、前もって病院側に頼んで裏口から入る許可をもらっていた。
こっそり病院内に入り、人目につかないように移動して病室に向かう。
……病室の前に到着し、そのドアをノックした。和哉さんが入室を許可したので、中に入る。
和哉さんは靴を脱いでベッドの上に枕側を背にして座っていた。その両脇で、ウィル君とリアン君が眠っている。
「……よく眠っていますね、子供達」
「……あぁ」
「……?」
……様子がおかしいな。心ここにあらず、といった様子だ。
「秀一」
「はい?」
「ちょっと来い」
呼ばれたので、側に歩み寄った。
「……ここに座れ」
「……分かりました」
そう言って示されたのは、ベッドの枕がある側。指示通りそこに座る。ここまでは良かったのだが……
問題は、その直後に起きた。
「――え、?」
おもむろに子供達の位置と自分の位置を調節し――和哉さんは、俺の膝を枕に仰向けに寝た。
「和哉、さん?」
「――つかれた」
「――――」
……その言葉を皮切りに、和哉さんは次々と弱音や愚痴を吐く。
泣いている子供達を見るのが辛い。子供達にとって何が地雷になるのかが分からなくて怖い。とりあえず犯人ぶっ潰したい。正直自分も泣きたい。眠い。辛い。早く犯人をブタ箱にぶち込んでやりたい。悲しい。眠い。
――何もできない自分が、情けない。
……そんな、支離滅裂な言葉を立て続けに呟いた後。
「――よし、寝る。……しばらくしたら適当に起こせ」
「は、はい。――おやすみなさい」
「――おやすみ」
仰向けの状態から病室のドアがある方に顔を向けて横になり、瞼を閉じる。……和哉さんはすぐに眠りについた。
「――レアだ……」
和哉さんが弱音を吐いた!それも、ほぼ強制的に膝枕させた上に眠るなんて!!……こんな姿、今までに見た事がない。
その時。病室のドアがノックされた。……眠っている和哉さんを見て、少々迷ったが……入室の許可を告げる。
「失礼します……あら……」
相手は看護婦だった。兄弟達と顔合わせした時に立ち会っていた、あの看護婦だ。彼女は目を見開いている。
「子供達と……荒垣さんも眠っているんですね。珍しい……」
「何かご用でしょうか?」
……できる限り和哉さんの寝顔を他人に見られたくなかったため、話し掛けて自分に意識を向けさせる事にした。
「あぁ、いえ。少し様子を見に来ただけです。……子供達もそうですが、荒垣さんが無理をしていないかどうかも気になっていて……」
……表情を見るに、彼女は邪な感情を持っているのではなく純粋に和哉さんの事を心配しているようだ。少し警戒を解いた。
「……彼が無理をしていないか、とは?」
「……実は――」
看護婦曰く。精神的に不安定な相手を支えようと必死になるあまり、支える側も精神的に不安定になる事がよくあるという。
だから、医師も看護婦も和哉さんが無理をしていないかどうかが気になっていたらしい。
「でも、良かった。その様子なら大丈夫そうですね。……もしかしたら、以前荒垣さんが言っていたのは赤井さんの事なのかしら……?」
「彼は何と言っていましたか?」
思わず食い付いた。
「私達が"不安な気持ちや辛い気持ちを吐き出せる相手はいないか"と聞いた時、"1人頼れる奴がいる"と言っていたんです。
それから――"限界が来る前にその相手を頼って、愚痴や弱音を吐いた後に一眠りします"……なんて、冗談交じりに言ってましたけど……」
「――――」
……その後の会話は、正直うろ覚えだ。気がついた時には看護婦が退室していた。
多分ちゃんとした受け答えができていた……と思う。
俺は、両手で顔を覆って天を仰いだ。
「――なんて、尊い……!!」
尊い。俺の唯一無二が尊い……!!
(――俺は、この人に頼られている!誰にも弱味を見せず、人一倍警戒心の強いこの人にとって、愚痴や弱音を吐いて良い相手なのだと認識されている!!)
その事実が、泣いて喜びたくなる程に嬉しかった。……ここは外だからそんな事はしないが、自宅で1人になったら本気でそうするかもしれない。
今も涙腺が緩みそうで怖い。
お疲れ飼い主と、棚ぼたの忠犬
後に。自宅で1人になった俺は、ひっそり涙を溢してその喜びを噛み締めた。
・お疲れ飼い主
兄弟の精神安定剤。兄弟のSAN値を回復させる代わりに自分のSAN値を削っているお疲れな飼い主。
灰になったベネットを見て……あっ(察し)とりあえず、秀一はよくやった!これなら社会的に潰すまでもないな。
兄弟の異変を知って病室に直行。兄弟が自身に依存する寸前で軌道修正。これもこの子達の将来のためだが――すまない。
その後も定期的に兄弟のケアのために病院通い。相変わらずSAN値を削られ、これはそろそろまずいと自覚して頼れる愛弟子にヘルプ!
呼び出した赤井に強制膝枕を要求。からの、弱音&愚痴吐き。眠気のせいで支離滅裂。赤井への信頼度がMax状態だからこそできた事。昔だったら絶対にやらない。
目を覚ました後、とてもすっきりした状態で起きた。SAN値が急激に回復。……はっ!まさか、これがアニマルセラピーってやつなのか!?※違……わないかもしれない。
・棚ぼたの忠犬
飼い主専用のセラピードッグ。呼び出された先でまさかの棚ぼたに遭遇した忠犬。
オリ主の代わりにベネットと"楽しい楽しい話し合い"をした。オーバーキル!!後にオリ主に褒められてニコニコ。……え?社会的に潰さない?……残念。
オリ主と共に病室に行き、兄弟とオリ主の様子を見守っていた。また1人で抱え込まないかどうかが心配で、その背中に視線を送る。
呼び出された先で強制膝枕を要求され、一瞬だけ思考停止。さらに、支離滅裂な弱音と愚痴を聞かされて内心かなり慌てていた。激レア和哉さん……だと!?
純粋にオリ主を心配していた看護婦に対しても独占欲を発揮する、心の狭い忠犬。しかし、その看護婦からオリ主の話を聞き――俺の唯一無二、尊い……!!
後に、目を覚ましたオリ主に向けて涙目で微笑んだ。その感謝の言葉に、今までで一番の笑顔を見せた。
・依存する前に踏み留まった兄弟
――目標!カズヤ兄ちゃん離れ!
最初はオリ主がいないとすぐに泣いて呼び求めていたが、徐々にオリ主離れができるようになってきた。
オリ主から預かった帽子と眼鏡は2人の宝物。常に肌身離さず身に付けている。
自分達の名前に恥じないよう強くなろうと兄弟で誓い合った。