リアン君とウィル君の下へ定期的に通いつつ、たまに本部に顔を出して……気がつけば1週間が経過していた。その間に新たな殺人は起きていない。
FBI捜査官と警察官が、見回りを強化しているせいかもしれない。
そんな中。うちのチームが捜査した結果、容疑者を3人まで絞る事ができた。3人共に前科がある人間だ。
兄弟達にその写真を見てもらい、見覚えが無いかどうかを聞きたいとジェイムズに言われた。
俺は医師と相談し、医師の立ち会いのもとで2人に写真を見てもらう事にした。……その中に犯人がいた場合、それを見た2人がまた錯乱してしまう可能性があるため、念のためだ。
そして現在。リアン君とウィル君がいる病室に、医師と俺、秀一、ジョディ、ジェイムズが入る。
今では秀一もジョディもジェイムズも、2人と顔見知りになっている。見知らぬ捜査官を見るよりは安心するだろう。
まず事件とは関係ない話をして2人の緊張を解き……頃合いを見て事件の事に触れた。
「……実は、今日は2人に見てもらいたい写真が3枚あってね」
「写真……?」
「……もしかして、オレ達を襲った犯人の写真?」
「…………察しがいいね。その通りだ。正確には容疑者……まだ犯人だと確定していない状態なんだが」
「ちょっとカズヤ!教えていいの!?……その子達、怖がるんじゃ……」
「何も教えなかった場合、もしも万が一容疑者の中に犯人がいたら……その写真を見てしまった時のショックが大きいだろう?だから、最初に教えた方がいいと考えた」
ジョディにそう言ってから2人を見ると、顔が強張っていた。……しかし、泣き出すなど錯乱する様子は見られない。この子達も以前に比べたら成長しているのだ。
「……しかし、無理にとは言わないよ。君達がまだ不安を感じているのであれば、また日を改めるから」
「「…………」」
すると、リアン君とウィル君は互いを見て――深く頷き合った。
「……その写真、見せて!」
「ボク達、頑張ってみる!」
「……ありがとう」
続けざまに秀一達もお礼を言った後に、1枚ずつ写真を見せる事にした。
――1枚目。
「…………違うね」
「あぁ、違う。……この人じゃない」
――2枚目。
「……見た事ないな」
「この人も違う」
――――3枚目。
「――違う……?」
「――うん。違う!カズヤ兄ちゃん、この人も見た事無い人だよ?」
「何!?」
「嘘でしょ……!?」
「ホー……」
ジェイムズとジョディは驚き、秀一はあまり動揺していない。
三者三様の反応を見せているが……俺も秀一と同様に、あまり驚かなかった。容疑者はあくまでも容疑者。犯人だと確定しているわけじゃないからな。
「…………協力してくれてありがとう、2人共。少なくとも、この3人が犯人ではないという情報を得られたからね。お手柄だ」
「もう一度、容疑者を洗い直しましょう」
「そうだな」
「……荒垣君。……2人から犯人の特徴を聞く事は、まだ無理かね?」
「……俺は無理だと思うが……先生はどう思いますか?」
「私も荒垣さんに賛成です。……ただ、2人の状態からしてあともう少しではないかと考えています。
荒垣さんのおかげで、精神的にもかなり安定してきています。……しかし、まだ油断はできないかと」
「……との事だ。悪いな、ジェイムズ」
「なに、君のせいでも子供達のせいでも無いのだから、謝る必要はないさ」
医師の判断もあり、2人への事情聴取を終えようとしたのだが……
「…………カズヤ兄ちゃん」
「うん?」
ウィル君に呼ばれて振り向くと……真剣な表情で俺を見る兄弟達と、目が合った。
「……オレ達、もう少し頑張ってみたい」
「……何だって?」
「あの日、ボク達を襲った人の事――お母さんを殺した人の事を思い出してみる」
「っ!?」
その言葉に、俺達は驚いた。すかさず医師が彼らを心配する。
「待ちなさい。……無理をしなくていいんだよ?」
「……うん。まだちょっと怖いけど……」
「でも、それでも決めた。――オレ達は、早く母さんを殺した危ない人を捕まえてもらいたいんだ!」
「それに――それでカズヤ兄ちゃんの助けになるなら……ボク達はもう少し頑張りたい!」
「――っ、」
俺達は……大人は誰もが息を呑んだ。それだけ、子供達は強い覚悟を見せた。
……俺はベッドに座る子供達の前に跪き、2人の手を握る。
「――分かった。聞かせてくれ。……君達の勇気ある行動に、心から感謝する」
今度は、医師も止めようとしなかった。
「……では、俺が2人の証言をもとに似顔絵を書きます」
「「「えっ?」」」
思わず振り返って秀一の顔を凝視する。……ジョディとジェイムズも目を丸くして秀一を見ていた。
「……何ですか?」
「え、お前――似顔絵書けるのか?」
「書こうと思えば書けますが……言った事ありませんでしたか?」
「聞いてない聞いてない」
ちょっと待て。俺がヨーロッパに行ってた6年間を除いてもこいつとはそれなりに長い付き合いだが……似顔絵が書けるなんて聞いてないぞ!?
「ちなみに。学生時代の美術の成績は基本Aでした」
「よし、書け!」
「了解」
美術がAだと!?俺は美術でそんな成績は取った事がない。
「意外過ぎるわ……」
「……そういえば、荒垣君はどうだった?美術の成績は」
「…………よくてB。それもC寄りのB。たまにCが出る時もあった」
「「「えっ!?」」」
今度は俺が驚かれた。
「それも意外だわ……!」
「てっきりAかと……」
「美術、苦手なんですか?」
「……リアルな絵を書くのは苦手なんだよ。デフォルメなら書けるけど」
人物画は特に苦手なんだ。動物はまぁまぁ書けるが。
「ボクはこの前Aだった!」
「オレはAだったり、たまにBだったりする!兄ちゃんよりも上!」
「そ、そうか……」
子供に負けた……!だがしかし!
「別に美術がBでもCでもいいんだよ!音楽は絶対にAだったから!」
「あぁー!なるほどね!」
「うむ。それは納得できる」
「和哉さんのピアノ演奏はプロレベルだからな」
2年前。組織壊滅作戦後に、FBIと公安で慰労会を行った。その時に会場にあったピアノを使って、俺が何度も演奏したのだ。リクエストの数は結構多かった。
食べ物を食って酒飲んで歌っての大騒ぎだった。翌日に大勢が二日酔いしたのは今では笑い話だ。
それから秀一。さすがにプロレベルは言い過ぎだ。プロレベルなのは音大の卒業生である俺のお袋の方だから。
「カズヤ兄ちゃん、ピアノ弾けるの!?」
「すげぇ!今度聞かせて!」
「また今度な。……悪いが、今は話を元に戻していいか?」
「「!!」」
2人が再び真剣な表情に戻った。……手を強く握られたので、俺も握り返す。
「焦らなくていい。ゆっくりでいいから――聞かせてくれ」
俺の言葉に頷いた2人は、少しずつ話し出す。
秀一がメモ帳にペンを走らせる。時々質問を挟んだりして……やがて、書き終えた。
「……最後だ。2人が見た犯人の顔は――この顔か?」
そう言って、秀一がメモ帳を2人に見せる。
「「――この人だ!!」」
声を揃えてそう言った後、2人は俺にすがり付いた。
「よしよし……!よく頑張った!ありがとう!」
「協力に感謝する」
「シュウ、見せて!…………あら、上手!」
「……おぉ。素晴らしいな。美術がAというのは嘘ではなかったか」
「疑っていたのかジェイムズ。酷いな」
後ろの会話を他所に、俺は今まで以上に2人を褒めた。本当によくやってくれた!よく恐怖に打ち勝ってくれたものだ。
「ジェイムズ。今日は……」
「分かっている。君はこのまま子供達と一緒にいてあげてくれ。その方が彼らも喜ぶだろう」
「ありがとう。……聞いたか?2人共。今日はこのまま一緒にいられるぞ」
「「本当!?」」
「あぁ。……何かやりたい事や頼み事はあるか?頑張ってくれたご褒美に、できる限りで叶えるぞ」
「やったぁ!それじゃあ、えっと……」
「……あ、そうだ!ピアノの演奏!兄ちゃんのピアノ演奏が聞きたい!」
「ピアノ!ボクも聞きたい!!」
「あーピアノかぁ……さすがに病院には、」
「いえ、ありますよ」
「え」
医師から思わぬ言葉を聞いた。病院にあるのか!?何故?
「音楽療法のために使用する事がありまして。定期的に調律しているので、いつでも使えます」
「ホー……それはそれは」
「いいじゃない!ねぇ、ボス。せめて1曲聞いてから本部に行きましょう!」
「俺もジョディに賛成」
「うむ。そうしようか。……では、1曲頼むよ荒垣君」
「…………はいはい分かりましたよ……」
「やった!」
「行こう行こう!先生、ピアノってどこにあるの?」
「案内するよ」
子供達もその気だし、俺も演奏は好きだし。……というわけで、医師の案内でピアノがある場所まで向かった。
その後。秀一達は一曲聞いた後に本部に戻ったが、俺はリアン君とウィル君がリクエストした曲を何曲か弾き続けた。2人は大いに喜んでくれた。