忠犬と飼い主の非日常   作:herz

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 ――一般人3名+現役FBI2名(逃走役) VS 正体不明の男達(鬼役)による強制鬼ごっこ!!

 ――なお、逃走役は全員パルクールを使用する模様。

「"ずる"すんじゃねぇよ!!」by正体不明の男達


※後書きに作者からのお知らせあり!




鬼ごっこ、強制スタート

 ――とある、廃墟と化した小さな町にて。

 

 俺は、パルクールを駆使してその町の建物の上を走り回っていた。

 

 

(……まるで草食動物が肉食動物に追い掛けられているようだ)

 

 

 ちらりと背後を見て……黒い影に追跡されている事を確認し、そんな事を思う。

 ――あの肉食獣には今、俺が獲物にしか見えていないのだろう。

 

 

(――絶対に逃げ切ってやる……!)

 

 

 本音を言えば弱音を吐きたいところだが、そんな気持ちになればすぐに狩られてしまう。……あいつはそれを見逃すような甘い奴じゃない。

 

 

 ……しばらく後ろを確認しながら逃げ続けた後。俺はある建物の屋上の陰に身を潜め、近くにいるあいつの様子を伺う。……俺を見失ったようだな。辺りを見渡している。

 

 一瞬だけ時計を見た。――残り、5分。

 

 

(――って、いない!?)

 

 

 俺が時計を見たほんの一瞬の隙に、あいつは姿を消していた。どこに行った!?建物の下に降りたか?いや、多分それは無い。だとすれば――

 

 

「上か!?――ぐっ!?」

 

 

 塔屋の陰にいた俺が上を見上げた瞬間、何かに押し倒された。そして流れるように両手を頭の上にまとめ上げられ、拘束される。

 

 

 

 

 

 

「――ようやく捕まえました。……俺の勝ちですね、和哉さん」

 

「――あぁ、参った。俺の負けだ」

 

 

 俺を拘束した肉食獣――秀一は、愉しそうに笑った。

 

 

「これで5戦中、俺の3勝2敗……最終結果も俺の勝ちという事で、いいですよね?だから約束通り…」

 

「あーはいはい。ご褒美だろ?」

 

「はい!次の休日、和哉さんの1日の時間は丸ごと俺のものです!」

 

「分かった分かった……」

 

 

 ため息が出た。……奢って欲しいとかだったら普通のご褒美だが、こいつが求めるものは俺の時間。全く普通じゃない。どうかしている。

 

 ……まぁ、どうかしているのはそれが嫌だと思っていない俺自身も同じ事――

 

 

「――あー!"ヤマト"さんが"ウルフ"さんに襲われてる!!」

 

「何っ!?ついに喰われる寸前か!?」

 

「マジで!?」

 

「いや襲われてねぇから!?」

 

 

 そんな3人分の声が聞こえ、即座に否定した。

 

 

「……ホー?ならばご期待通りにこの場で身ぐるみを剥がしてやろうか?なぁ、ヤマトさ――」

 

「――てめぇもアホな事抜かしてんじゃねぇぞクソウルフ!!」

 

「ぐはっ!?」

 

 

 あ、やべ。思わず本気で顎に掌底食らわせちまった。ごめん、秀一。

 

 秀一が仰け反った隙にその下から抜け出し、立ち上がる。……顎と首を擦って痛そうにしていた。恨めしそうに俺を見る。

 いや、本当にごめん。また後で謝るから。……でも、いくらなんでもその悪ノリはどうかと思う。そう、お前も悪い!

 

 

「……で、冗談はさておき。負けちまったのか?ヤマトさん」

 

 

 3人のうち一番大柄な男……この廃墟街では"レッド"と呼ばれている男が、俺にそう問い掛けてきた。

 

 

「あぁ負けたぜ……最終結果で負けたのは初めてだ!」

 

「おー!すごいね、ウルフさん!初めてだって!!」

 

「……今回は5戦だけだったからな。もしも昔のように10戦やっていたらヤマトさんが勝っていたかもしれない」

 

 

 この中で一番若い男……"ドッグ"と呼ばれている男が、無邪気に秀一を称賛する。

 その秀一は痛みが収まってきたのか立ち上がり、彼にそっけない言葉を返した。

 

 いやいや、むしろ10戦やった方が惨敗してたかもしれないぞ?今の俺は若くないから昔のように勝ち続けるのは無理だ。

 無論、もしもやる事になったら最後まで足掻くつもりでいるが。

 

 

「それなんだけどさー。……おやっさんが言ってたけど、昔ヤマトさんがウルフさんに10戦中9勝したって話は本当?」

 

 

 最後に細身の男……"グレイ"と呼ばれている男がそう聞いてきた。

 

 

「あぁ、それな!俺もそれは"ロック"の親父から聞いたぜ。……なぁ、マジなのか?」

 

「本当だ。その時の俺はまだ未熟で、ヤマトさんを全く捕まえられなかった。

 最後に一度だけ勝てたのは、俺の方がヤマトさんよりも少しだけ体力が上回っていたおかげだ。ヤマトさんにまだ体力があったら全敗で終わっていただろう」

 

 

 ロックさんとは、この場所――俺達は廃墟街と呼んでいる――の管理者である60代の男性だ。少々変わっている人だが、悪い人では無い。

 

 そういえば、当時のあの人は俺と秀一の"鬼ごっこ"を見学していたな。よくもまぁ30分10セットのパルクール鬼ごっこを飽きもせずに観戦したものだ。

 朝早くから始めたものの、1セット終わるごとに休憩もしてたからかなり時間が掛かっていたのに。

 

 

「ひぇー……!ウルフさんは化け物だと思ってたけどヤマトさんも化け物だった!?」

 

「おいてめ、ドッグ!誰が化け物だよ、誰が!"パピー"って呼ぶぞこら!!」

 

「それは止めて!!」

 

 

 "パピー"とは。ロックさんに名付けられた、ドッグの本来のあだ名である。

 そのあだ名が男らしくないからと拒否したドッグは、せめてpuppy(子犬)ではなくただのdog()にして欲しいと頼み込み、それが採用された。

 

 お前、それでいいのかよ。と、そのあだ名の由来を聞いた誰もが突っ込んだ。

 

 

 ……このように。この場にいる俺達5人は、管理者であるロックさんにあだ名を付けられていた。

 この廃墟街を利用する者は、廃墟街の中では本名を名乗らずにロックさんに付けられたあだ名を使う事。……それが、ここでのルールだった。

 

 レッドは赤毛の髪が目立っていたから。グレイは瞳が綺麗な灰色だったから。ドッグはその雰囲気がまるで子犬のようだったから。

 秀一がウルフと呼ばれるのは、ドッグと同じような理由で雰囲気が狼のようだったから。

 

 そして俺がヤマトと呼ばれるのは――

 

 

「おいおい。俺の弟分をいじめないでくれよ"ナデシコ"さ――」

 

「――あ"?」

 

「すみませんでした」

 

「兄貴!?」

 

「はやっ!?レッド謝るのはやっ!そしてヤマトさん怖っ!?」

 

 

 ……見た目が日本人で、ロックさん曰く美人だったから大和撫子から撫子を取ってナデシコ……となる前に、俺が軽く脅して大和の方にしてもらった。

 しかし。いつの間にかこいつらはロックさんからその話を聞いたらしく、たまにふざけてそう呼んでくるのだ。

 そもそも、なぜロックさんは日本人でも日本好きでもないくせに大和撫子という言葉を知っていたんだ?

 

 あ、そうそう。ちなみにロックさんの名前もあだ名だ。ここに来る若い奴らの大半は親父とかおやっさんって呼ぶ方が多いが。

 2年前からここを利用し始めた、彼ら仲良し3人組もよくそう呼んでいた。

 

 

 

 

 俺は10年以上前からパルクールの鍛練のためにこの廃墟街を利用しているため、ここではかなりの古株である。ロックさんとの付き合いも長い。

 俺ほど長いわけでは無いが、秀一もそうだ。俺の弟子になって間もない頃にこの場所を教えてやった。

 

 俺がヨーロッパの長期任務に行ったあたりから俺も秀一も長く利用していなかったが、去年久々に利用した時に……レッド、グレイ、ドッグの3人と出会った。

 ここでは互いの素性を聞かない事もルールの1つとされているため、それを明かす事はなかったが……全員がパルクールを通して仲良くなった。

 それ以降、彼らとは廃墟街でよく顔を合わせている。

 

 俺と秀一はそれぞれ軽い変装をして見た目を誤魔化している事もあり、もしも廃墟街の外で出会っても彼らには気づかれないはず。

 特に、超有名人である秀一は変装に気を使っている。普段被っているニット帽を外し、前髪を下ろして黒のカラコンと銀縁メガネまでつけているのだ。

 俺は逆に前髪を上げてオールバックにして野球帽を深めに被り、口調や雰囲気を意識して変えている。

 

 

 そんな俺と秀一は今日。久々にパルクール鬼ごっこ……の、短縮バージョンをやった。

 昔はまだ若かったから30分10セットなんて真似ができたが……もう40になった俺が久々に10セットやるのはさすがにきつい。よって、5セットに短縮した。

 

 3人組は俺達がパルクール鬼ごっこをやると聞き、それを見学していたのだ。

 

 

「なぁ、そろそろ昼飯食べに行かねぇか?腹減った」

 

 

 レッドの声で我に返った。もうそんな時間か。

 

 

「それじゃ、ロックさんも誘って飯食いに行こうぜ」

 

「わーい!ヤマトさんの奢り!」

 

「誰がいつ奢るって言った!?奢らねぇよ!」

 

「「「えー?」」」

 

「えー?じゃねぇ!」

 

 

 ……まぁ、あらかじめ設定しておいた"ヤマトのキャラ"を考えると、結局奢る事になりそうだけどな。

 

 

 

 

━━━

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 ……1ヶ月後の午後。俺と秀一はまた廃墟街に来ていた。1ヶ月前にここでまた会おうと3人組と約束したからだ。

 

 あいつらは俺達のパルクール鬼ごっこを見て、自分達もやりたいと思ったらしい。今度は5人でやりたいと言ってきた。

 それを快諾した俺達は、3人組と今日その鬼ごっこをやろうと約束していた。

 

 

 廃墟街の入り口付近には小さな一軒家がある。廃墟街の管理者であるロックさんはそこに住んでいるのだ。

 俺と秀一は彼に挨拶しようと、ドアチャイムを押して呼び出す。

 

 

「はいはい……おぉ、ヤマトとウルフか!よく来たな!」

 

「うっす、ロックさん」

 

「……どうも」

 

「あいつらはもう来てるのか?」

 

「おう。今頃は空を飛び回ってるはずだ。今日は例の鬼ごっこを5人でやるそうだな!オレもできれば見に行きたかったが……もうパルクールを使える年齢じゃないからなぁ……」

 

「無理すんなよ爺さん」

 

「誰が爺さんだ!俺はまだ爺じゃないぞ!」

 

「ははっ!悪りぃな」

 

 

 そうだな。まだまだ元気な人だ。この人がいずれ年老いた老人になるとは思えないほどに。

 でも、年を重ねているのは事実なんだよな……ロックさんにはできれば長生きして欲しい。

 

 そう思いながら、俺は秀一と共に廃墟街に入って3人組を探す事にした。

 

 

 

 

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 3人組を発見した後。さっそく鬼ごっこを開始した。俺と秀一が逃げる役で、3人組が鬼役だ。

 

 しばらくそれを続けていたが、3人組がなかなか俺達を捕まえられない。だから役を交代してお手本を見せてやった。

 大体10分程で3人組を全員捕まえたら、3人揃って真顔で"無理"と言ってきた。

 

 これぐらいは序の口だぞ。もっと頑張れ。

 

 

 ……やがて、夕方になった。3人組は結局俺達を一度も捕らえられずに終わってしまった。"次こそは絶対に捕まえてやる!"と息巻いている。

 その意気や良し、また相手になってやろう。俺も秀一も結構楽しめたからな。またやりたい。

 

 いつもより長めの休憩を取り、体力をしっかり回復させた後。今日はこれで解散という事になった。

 暗くなる前に帰ろうと、全員でパルクールを使って出口へと向かうが――

 

 

 

 

 

 

 ――パァンッ!!

 

 

「――っ!?」

 

 

 その音が聞こえた瞬間、俺は建物の屋上で急停止した。……銃声だ!

 

 

「ヤマトさん!」

 

「今のって……!?」

 

 

 他の4人が俺の下へ集まってきた。……全員の顔が強張っている。

 

 

「……銃声だな、間違いなく」

 

「やっぱりそうだよな!?」

 

「……ちょ、ちょっと待って――おやっさん、大丈夫、だよな……?」

 

 

 グレイがそう言うと、レッドとドッグの顔が真っ青になった。……そして、2人は突然走り出した!パルクールを使って廃墟街の出口に向かっている!?

 

 

「おい!!」

 

「っ、レッド、ドッグ待て!迂闊に行動すんじゃねぇ!戻れ!!」

 

「お、俺も行く!!」

 

「グレイ!?」

 

 

 俺と秀一が呼び止めるが、グレイまで走り出してしまった。……っ、くそ!!

 

 

「俺達も行くぞ!」

 

「はい!」

 

 

 FBIとして見過ごせない!

 

 そして走りながら、耳に付けているワイヤレスインカムを通して3人に呼び掛ける。

 このインカムはロックさんから借りている物だ。廃墟街に入る時は全員これを借りて、遠くからでも互いに連絡を取り合えるようにしている。

 

 一般にはあまり出回っていない高性能なインカムで、実はFBIでも支給されている。

 他には陸軍でも支給される事があるほどの優れ物だが……ロックさんは一体どこでこれを入手したんだ?彼は8セットも所持しているらしいが……

 

 

 って、今そんな事はどうでもいい!

 

 

「落ち着け3人共!危ねぇ奴が拳銃を持ってるかもしれないんだぞ!?」

 

「お前達にその銃口が向いたらどうする!?」

 

「確かに危ねぇが、親父が無事かどうか確かめたいんだ!!」

 

「ごめんヤマトさん、ウルフさん!でも行かなきゃ!!」

 

「悪いけど俺もレッドとドッグに賛成!」

 

 

 3人は特にロックさんを慕っていたからそれも仕方ないかもしれないが……!どう考えても無謀だ!!

 

 ……しかし。インカム越しに説得している途中で廃墟街の入り口付近に到着してしまった。

 俺達が建物の上から地面に下りたその時。10人ほどの柄の悪い男達が入り口から入って来て、俺達の存在に気づく。

 

 ――男達は、拳銃やナイフなどの武器を所持していた。

 

 それを目撃した俺は、叫ぶ。

 

 

「――全員逃げろ!!」

 

 

 

 

 

 

鬼ごっこ、強制スタート

 

 

 

 

 

 

 ――俺達5人は即座に建物の屋上へ登り、パルクールを駆使した逃亡を開始した。

 

 

 

 

 




・年齢不詳のヤマトさん(飼い主)

 口は悪いし怒らせると怖いが、実は仲間に甘いツンデレ系男子。年齢は秘密……と軽く設定されたキャラクター。飼い主絶賛演技中。

 赤井と久々に鬼ごっこ(ガチ)をやった。昔は赤井を相手に10戦中9勝していたが、さすがに40歳になってしまうとそれは無理。
 確保された後。3人組の冗談に悪ノリした赤井の顎に掌底ヒット!あ、ごめん秀一。でもお前も悪い!

 1ヶ月後に3人組と鬼ごっこ(ガチ)。赤井よりは捕まえやすいはず!と3人組によく狙われていたが、実は赤井よりも逃げ足が早い。
 銃声が聞こえ、ロックを心配した3人組を追いかけた先で柄の悪い男達に遭遇。咄嗟に逃げろと叫んだ。

 ――さて、一度撒いたらジェイムズに連絡しないとな。


・一般人(偽)のウルフさん(忠犬)

 普段との違いは見た目とオリ主への態度ぐらい。普段よりは敬意を前面に出していないし、頻繁にオリ主をからかっている。

 久々の鬼ごっこ(ガチ)。短縮したとはいえ初めて勝ったぞ!ご褒美が待ち遠しい……
 3人組の冗談を聞いていつものように悪ノリしたら、予想外の反撃を受けた。首と顎が痛い……ツンデレ(物理)ですか、なるほど分かりません
(´・ω・`)

 3人組も入れて鬼ごっこ(ガチ)をやった。……和哉さんばっかり狙いやがって!潰すぞガキ共
(#・∀・)
 実は内心イラついていたので、鬼役になった時の形相が怖くなった。まさしく般若。

 オリ主と共に銃声を聞いて走り出した3人組を追い、柄の悪い男達と遭遇。オリ主の言葉に即座に従って逃げたが、後で男達を物理で潰す気満々。


・一般人(真)の3人組

 1年前にオリ主と赤井に出会い、以降はパルクール仲間として仲良くなる。オリ主達は3人組にとって廃墟街の先輩にあたるので、さん付け。
 以前。赤井がふとした拍子に"俺のヤマトさん"と口にした事をきっかけに、そういう(・・・・)ネタでオリ主達をからかう事が増えた。

 多少の荒事には慣れているが、それは素手の人間を相手にした場合のみ。武器を所持している相手との荒事には慣れていない若者達。


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 今日から1話完結の話は8時過ぎに投稿し、前編後編の話は1日に2回、8時過ぎと20時過ぎに投稿します!お楽しみに!

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