・インカムについて捏造あり。
「――捕まえろ!」
不快なダミ声が聞こえた。下が騒がしくなる。……パルクールで飛び回りながら、インカムを使って全員に呼び掛けた。
「全員よく聞け!まずはあいつらを撒くんだ!真っ正面からぶつかろうとするな!」
「撒いた後はどうする?」
「1ヶ月前に俺がウルフに捕まった場所!覚えてるか!?」
「あ、あぁ!覚えてるぜ!」
「あの廃ビルの屋上だよね!?」
「えっと……あ、あそこか!思い出した!」
「もちろん、覚えている!……そこで落ち合うんだな?」
「そうだ!」
秀一の声にそう答え、全員の位置を確認する。
(この位置関係なら……俺が1人で逃げた方がいいな)
そう思い、それぞれが逃げる方向を伝えた。レッドとドッグはそのまま真っ直ぐ。グレイと秀一は右に。そして、俺は左に散開して逃げるのだ。
好都合だな。1人の方が
「今伝えた方向に逃げてあいつらを撒け!それと、これから離れる奴らとのインカムの接続は切って、逃げることに集中しろ!絶対に捕まるんじゃねぇぞ!!」
「え、待って!ヤマトさん1人で大丈夫!?」
「3人で俺を狙って結局捕まえられなかったガキが心配すんじゃねぇ!俺は逃げ足だけならウルフにも負けねぇんだよ!――いいから散れ!!」
「…、ヤマトさん。気を付けろよ!行くぞ、グレイ!」
「わ、分かった!」
まず、秀一がグレイを連れて右へ向かう。次に、俺が左へ逃げながらレッドとドッグに声を掛けた。
「レッド、ドッグ!……今は自分達のことだけを考えろ。まずはあいつらを撒いて、全員で合流してからどうするかを話し合うんだからな!」
「っ……分かってる!」
「それじゃ、また後で!」
「おう!」
全員が散開し、インカムの接続も切られた。……レッドとドッグがちょっと心配だが、あいつらを1人にするよりはましだろう。
奴らは十数人程度だった。下をちらっと見ると、そのうちの5、6人が俺の後を追っている。……1人に対して人数が多い気もするが、1人を確実に捕まえようとしているのか?
「あのガキを捕まえて人質にするんだ!そうすりゃあ他の奴らも観念するだろ!」
そんな声が聞こえた。…………へぇ。
(悪くない手だが――相手が悪かったな)
……秀一達とも離れたし、そろそろいいか。
「……あ?何だ?」
「下りて来たぞ!?」
建物の屋上から、竪樋を伝ってするすると路地裏に下りた。男達が俺を見て訝しげにしている。……どいつもこいつも、30には届いていないだろう。
「……逃げるのが面倒くさくなったから下りて来たぜ」
「あん?……降参するのか、ガキ」
「……っは。ガキ、ね。――なめるなよ、若造共」
静かにそう言って、地を蹴った。まず、男達の中でも一番体格の大きい男に肉薄し、ハイキックで顎を狙う。……突然のことで反応が遅れたのか、声も上げずに仰向けに倒れた。
次に。真横にいた男に足払いを掛け、相手が仰向けに倒れた瞬間にその腹を思い切り踏んだ。悲鳴が上がる。
「……っ!!あいつを止めろ!!」
そこでようやく我に返ったらしい。1人がそう叫び、残りの奴らが飛び掛かって来た。
━━━
━━━━━━
━━━━━━━━━
……短い時間で全員を気絶させて、持ち物を調べた。すると――
「――ホー……」
おっと。思わず秀一の口癖が出てしまった。……拳銃やナイフ等の武器、タバコ、スマホ、財布といった持ち物の中に紛れて――チャック付きの小さなポリ袋の中に、白い粉。
(はい、DEA案件!)
マジか。一気に面倒事になったぞ。DEA――麻薬取締局も呼ばないと駄目なやつだ。いや、まだこれが麻薬だと決まったわけではないが……十中八九、そうだろうなぁ……
ハンカチに包んだそれを懐に仕舞い込み、男達のネクタイやベルトを使って拘束。建物の中に適当に転がしてから、スマホを取り出した。
「……もしもし、今話しても大丈夫か?ボス」
「あぁ、荒垣君。大丈夫だよ。今日は赤井君と一緒に休暇を取っていたはずだが……何かあったのかい?」
「それが――」
……電話でジェイムズに事の次第を説明すると、ため息をつかれた。
「……君と赤井君は本当に巻き込まれ体質だな……」
「俺もあいつも好きで巻き込まれてるわけじゃねぇよ。大事な休暇を潰されて、ため息をつきたいのは俺達の方だ」
「そうだったな。すまない。……では、麻薬取締局にも連絡して、すぐにそちらへ向かうよ」
「頼んだ。俺は今から他の奴らと合流する。一般人が3人いるから、俺達は彼らの護衛に徹する」
「情報を手に入れるためとはいえ、既に数人を気絶させた君がそれを言うのかい?……赤井君に怒られるのでは?」
「…………それを言わないでくれ。じゃあな」
電話を切り、ため息をついた。……隠してもどうせ後々全部報告することになるし、バレるよなぁ……後で素直に謝ろう。
秀一達には正面からぶつかるなと言ったが、俺は最初から情報収集をするために数名を倒すつもりでいた。……ガキ扱いされてちょっと腹が立ったという、私怨が含まれていたことは否定しない。
そのことは若者3人には隠すつもりだが、もしかしたら秀一は感付いているかもしれない。去り際、俺に声を掛けた時に少し間があったしな。
「……よし。やることもやったし、合流するか」
再び建物の屋上に上り、周囲を警戒しながら合流場所へ向かう事にした。
━━━
━━━━━━
━━━━━━━━━
SIDE:赤井秀一
和哉さん達と別れ、グレイと共に建物の屋上から屋上へ飛び回る。……1人になったあの人の事が心配だな。きっと情報収集のためとか言って無茶をするに決まっている。
後で何をしていたのか、問い詰めなければ。
「ウ、ウルフさん!あいつら、どうやって撒く!?」
「そうだな……」
グレイからインカム越しに話しかけられた。和哉さん達とのインカムの接続は切ったが、グレイとの接続はそのままにしてある。……さて。このまま屋上を飛び回っているだけでは埒が明かないし――
「――一度、下りるか」
「えぇっ!?それじゃあ捕まっちゃうだろ!?」
「いいや。……わざと引き付けるのさ。奴らが馬鹿なら簡単に引っ掛かるだろう」
……グレイに作戦を説明し、同意を得た。その後、さっそく実行する。
ある建物の屋上から中に入り、俺1人で1階まで下りた。そこから外に出て、俺達を追い掛けて来ていた3、4人の目の前に姿を現す。
「――鬼さんこちら!手の鳴る方へ!!」
面を食らっている男達の前でそう言って手を叩き、建物の中に入る。……奴らは怒声上げて追い掛けて来た。よし。これならいけるな。
走って屋上まで上がり、振り返ると……顔を真っ赤にした男達が息を荒らげて上がって来た。これで全員か。
「――グレイ!今だ!」
「りょ、了解!!」
俺がグレイを呼ぶと、彼は屋上の扉を閉めた。それからすぐに何かが倒れる音がした。男達が慌てて扉に駆け寄り、それを開けようとするが……扉は動かない。
「開かねぇぞ!?」
「閉じ込められた!!」
俺はその隙に屋上から隣の建物の屋上に向かって飛び、そこから再び下に下りた。同じく下まで下りて来たグレイと合流する。上からぎゃあぎゃあと騒ぐ声が聞こえたが、無視だ。
「やったな、ウルフさん!」
「あぁ。よくやってくれた」
「いや、俺は扉閉めて棚を倒して道を塞いだだけだし……」
作戦は至ってシンプル。俺が相手を挑発して屋上まで誘き寄せ、物陰に隠れていたグレイが扉の近くにある重い棚を扉の内側で倒し、道を塞ぐ。
あとは俺が隣の建物に飛び移れば、馬鹿な奴らが屋上に取り残されるだけ。……あの建物はそれなりに高いし、非常階段が無い。あそこから下りるには、それこそパルクールの力を借りなければ不可能。
袋の鼠の出来上がりだ。
「……さぁ。あのビルの屋上へ向かうぞ」
━━━
━━━━━━
━━━━━━━━━
……例の廃ビルの屋上に到着すると、塔屋の陰に秀一とグレイの姿があった。レッドとドッグはまだか?
「あっ、ヤマトさん!良かった……!」
「ヤマトさん!……大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だ。ピンピンしてるぜ」
「…………そのようだな。……怪我が無いなら、それでいい」
やっぱり気づかれてるよな、これ。"後でいろいろ聞かせてもらいますからね"と、目がそう言っている。はい、すみません。後でちゃんと謝ります。
「レッドとドッグはどうした?」
「まだ来てな、」
「いや。今来たようだ。……しかし、おかしいぞ。レッドがいない」
ドッグは俺達を見つけると、涙目でこう言った。
「ヤマトさん、ウルフさん、グレイ!どうしよう!!――兄貴が、兄貴が捕まった!!」
後編は20時過ぎに投稿します!