忠犬と飼い主の非日常   作:herz

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・刑務所について捏造あり。

・ジンについて捏造あり&キャラ崩壊あり。




狂犬と飼い主は立ち去り、とある囚人が呟く【前編】

 ある日、俺と秀一はアメリカ国内のとある刑務所に向かった。そこにいる1人の囚人と面会するためだ。

 初めは俺1人でいいと秀一に言ったのだが……こいつは言う事を聞かなかった。

 

 

「今回はいつもの面会とは違って仕事で行くだけだから、別に1人でもいいだろ。わざわざ付き合わなくてもいいんだぞ?」

 

「いいえ、駄目です!たった1人で会いに行って奴の毒牙にかかってしまったらどうするんですか!?」

 

「毒牙って……ガラス越しに会話するだけでそんなこと、」

 

「最近の和哉さんは奴に対して甘い。甘過ぎる。相手は手強い犯罪者なんですから、油断してはいけません。……というわけで、俺もついて行きます。絶対に1人で行かないでください!」

 

 

 ……そんな会話をした結果。過保護な番犬がお供となった。面会相手である囚人と秀一は相性が悪いから、間違いなく余計な諍いが起こるだろう。普段なら放っておけばいいが、仕事の話をしたい時は邪魔になる。

 あいつとの面会が始まったら、犬同士が吠え合う前にそれを止めよう。秀一もあいつも、俺が本気で止めれば言う事を聞いてくれるはず。

 

 

 刑務所内に入った俺達は、看守の案内で面会室に向かう。……その途中ですれ違う他の看守達は、秀一を見て驚いていた。

 然もありなん。FBIの英雄という肩書きは伊達じゃない。以前から裏で銀の弾丸(シルバー・ブレット)の異名と共に噂が広まっていたが、その肩書きが追加されたことで表でも有名になったからな。

 

 

「…………視線が鬱陶しい」

 

「もう少しだけ我慢だ。そろそろ面会室に着く」

 

「……はい」

 

 

 不機嫌な秀一を宥めた後、しばらく歩いたところで面会室に到着した。看守に中で待つようにと言われ、中に入る。

 

 室内には2つの椅子があり、その正面に張られた強化ガラスの先にはもう1つ椅子が置いてあった。

 俺と秀一はそれぞれ、並べられた椅子に座って面会相手を待つ。……やがて、ガラスの向こうの部屋の扉が開いた。

 

 扉の先にいたのは2人の看守と、1人の囚人。

 

 

「……よう、和哉。会えて嬉しいぜ」

 

「はいはい。……調子はどうだ――ジン」

 

「最高だ。あんたが会いに来てくれたからな」

 

 

 その囚人――かつて黒の組織の幹部だった男は、ニヤリと笑った。

 

 

 

 

━━━

━━━━━━

━━━━━━━━━

 

 

 遡ること数日前。ボスの元にとある一報が届いた。その一報は、日本から送られて来たものだった。

 

 

「――キラー。もしくはネームレスと呼ばれていた男、か」

 

「……組織に潜入していた頃、その男についての噂を耳にしたことがあります。

 本名不明の殺し屋で、快楽殺人鬼。以前、組織に勧誘されたこともあるそうですが……その勧誘を蹴り、あくまでもビジネスパートナーとしての付き合いを組織に対して求めていた、と。

 

 そして、組織の構成員の中でキラーに最も関わっていたのが、ジン。……奴が重宝するほど腕の良い殺し屋だったそうです」

 

「ジンが?」

 

 

 秀一の言葉に、思わず目を見開く。……あのジンが重宝していた。それだけで、キラーという男は重要人物だと言える。

 黒の組織に潜入していた秀一と降谷の話によると、あいつは組織の幹部以外の人間とは深く関わっていなかったと言うし、ジン本人に聴取した時も自分でそう言っていた。

 

 そんなあいつが認める、腕の良い殺し屋……一体どんな人物なんだ?

 

 

「それで……そのキラーが降谷達の手で逮捕されたのか」

 

「うむ。キラーは今年に入ってから日本で起こった、例の連続殺人事件の犯人だったのだ」

 

「えっ?あの殺人事件の犯人だったの!?」

 

「ようやく捕まったんですね!……良かった」

 

 

 現在、この場には黒の組織壊滅作戦に参加していた仲間達がいる。その中でボスの話を聞いて驚いたのがジョディ。安心したのがキャメルだ。

 俺も驚いたし、ほっとした。あの殺人事件の話はアメリカや他の国でも有名になる程、悲惨な状況だったからな。……大切な故郷の国民達を脅かす犯人に対して、俺は以前から憤りを覚えていた。

 

 

 その殺人事件の被害者は、必ず体の一部がなくなっていた。それは指先や目、耳といったほんの一部であったり……胸から上や、腰から下といった大部分であったり。

 現場に残された死体には凶器によって刻まれた傷があり、被害者達の死に顔はどれも恐怖の表情が浮かんでいたそうだ。おそらく、キラーは被害者達をいたぶった上で殺していたのだろう。女性の被害者の中には性的虐待を受けた形跡がある者もいたらしい。

 

 さて。そんな被害者達の体の一部は、一体どこへ消えたのか。……ボスがその疑問に答えてくれた。

 

 

「――キラーの潜伏先にあった、広い冷凍室の中で保管されていたそうだよ。しかし、保管方法が問題だった」

 

 

 日本の警察官達がその冷凍室に乗り込んだ時。彼らの体の一部は、まるでパズルのように組み合わされ、1つの"人形"になっていたという。その"人形"がいくつも設置されており、全てが冷凍されていたので血は既に止まっていたが、部屋の床は真っ赤。さらに、臓器の一部や骨が転がっていたそうだ。

 それを見た数人の警官が悲鳴を上げたり嘔吐したりと……現場は散々な状況だったとか。

 

 酷い話を聞いたうちのチームの若手連中は、一様に口元を押さえて気持ち悪そうにしていた。俺を含めた古参の捜査官達はなんとか耐えたが、全員の表情が強張っている。

 

 

「……おぞましいな。そんなことを仕出かす野郎が日本にいたとは……」

 

「被害がさらに拡大する前に逮捕されて、本当に良かったですね」

 

「全くだ。降谷達には感謝しないとな」

 

「……で、わざわざ俺達を集めたということは、話はこれで終わりではないんだろう?ジェイムズ」

 

「その通りだ、赤井君。……実は、キラーによって持ち去られた被害者達の体の一部のうち、1人の男性の頭部がまだ発見されていない。その行方について降谷君がキラーに聞いたところ――」

 

 

 

 

 ――もちろん知ってるが、ただでは教えねぇぞ。……一度だけ、ジンさんに会わせてくれよ!そうしたら隠し場所を教えてやる。

 

 ――ニュースで知ったよ。公安とFBIが黒の組織の幹部達を逮捕したんだろ?そこにあの人も含まれてるはずだ。

 

 ――ジンさんに会わせてくれるまで僕は黙秘し続ける!何を言われても、何をされても黙り続けてやるぜ。……あ、世間話だったら話してやるぞ。

 

 

 

 

 ……キラーは嗤いながらそう言って、それ以降は宣言通り世間話以外は黙秘を続けているという。

 

 

「ジンに会いたい?……キラーは何が目的なんだ?」

 

「それが分からないから、降谷君がこちらに連絡を取って来たのだよ。こちらでジンに心当たりが無いかどうかを聞いて欲しい、とね。……彼はできるだけ我々に借りは作りたくないと言っていたが、事が事だ。上の人間とも相談した結果、仕方なく連絡を取ったのだと言っていたよ」

 

「はは……降谷らしいな」

 

 

 不本意だと言いながら、渋々と電話をしている降谷の姿が目に浮かんだ。

 

 

「公安警察は、今も発見されていない体の一部を捜索しているそうだ。自分達が先にそれを見つければ、奴の要求に答える必要もなくなるのだと意気込んでいたよ。……そこで、だ。荒垣君」

 

「キラーの目的に加えて、奴が被害者の体の一部を隠しそうな場所について心当たりがないかどうかも、ジンに聞けばいいんだろう?」

 

「うむ。頼んだぞ。……荒垣君のおかげで、公安とは以前よりも友好的な関係を築いているが……さりげなく恩を売っておく事に損はない」

 

「……その"さりげなく"っていう部分が交渉において難しいところなんだぞ」

 

「分かっているとも。だが、君なら相手に恩を売られたと思わせないようにできるだろう?2年前も降谷君との交渉で上手くやってくれた事だし、期待しているよ」

 

「人遣いが荒い!……まぁ、頼まれたからにはやるけどな?」

 

 

 しかし、いい加減に交渉を丸投げするのはやめて欲しい。

 

 

 2年前。俺達FBIは、自分達のホームではない日本で勝手に捜査をしてしまった。公安に対してその借りを返す事になった時、交渉役を任されたのが俺だった。

 俺は降谷との交渉を行った際、公安側が有利となる条件を提案し、その代わりに今後は友好的な関係を築きたいと伝え、それを了承してもらった。当時は明らかにFBI側に非があったからな。……これを仲間達に納得させるには骨が折れた。

 

 まぁ、これのせいでアメリカに帰って来てからしばらくは上層部からの風当たりが強くなったが、それはどうでもいいとして……

 

 

「すまないね。交渉だけでなく、ジンへの聞き取りまで……君には苦労を掛ける」

 

「……いや、それは仕方ない。ジンの奴、俺以外の人間には全く協力してくれないし」

 

 

 そうだ。2年前も今も、俺が忙しくなったり胃を痛める事になったりしたのはあいつのせいだ!

 

 

 ジンは俺達に捕まった時から、3日間黙秘を続けた。取り調べは公安が担当していたが、公安側が何を聞いても全く話さなかったのだ。

 そして漸く口を開いたと思えば、第一声が――荒垣和哉を呼べ、だった。本人曰く、元々俺からの取り調べだけは受けるつもりでいたと言う。

 

 その後もあいつが"自分の身柄をFBIに引き渡さなければ二度と口を利かない"と言ったせいで、俺がその件についての交渉を押し付けられ、面倒な事になった。

 2年経過した今でも、ジンに何らかの協力を求める事ができるのは俺だけだ。他の捜査官があいつと話そうとしても全く口を利かない。それどころか不機嫌になって殺気を撒き散らす。

 しかし、俺がジンの元に行けば饒舌になり、基本的に上機嫌だ。実に面倒くさい男である。

 

 

(思えば、あいつがやった事はろくでもない事ばかりだな)

 

 

 新一に毒薬を飲ませたり秀一の元恋人である宮野明美を殺害したりハッキング仕掛けて俺の個人情報を勝手に調べたりその他諸々!

 それから……組織壊滅作戦の最中、あいつは俺に神経毒を盛って人質にした。さらに、それが秀一のトラウマになってしまった。

 

 本当にろくでもない。特に、俺の愛弟子にトラウマを植え付けやがった事は未だに根に持っている。……だが、あいつの過去を知った今となってはあまり憎めない。

 

 物心ついた頃には既にアメリカのスラム街にいたジンは、そこで生きる事に必死になっていた。スラム街にいる者にとって、生き延びるために犯罪に手を出す事は当然だった。――死にたくない。……その気持ちが、ジンの原動力となっていた。

 そんなあいつを救ったのが、黒の組織のボスだったわけだが……2年前、ジンは奴に裏切られた。それが、後に俺が人質にされた出来事に繋がる。……その話まですると長くなってしまうので、省略させてもらおう。

 

 とにかく。ジンは酷い環境で育った過去があり、泣きたくても泣き方を知らない……子供のような男だ。そして俺はそんな男に絆されてしまった。――だから、憎めない。

 

 

「それじゃ、さっそく刑務所に行くとするか」

 

「俺も行きます」

 

 

 そう言った秀一に対して、俺は1人でいいからと断った結果が冒頭の会話である。

 

 

 

 

 

 






 後編は20時過ぎに投稿します!
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