忠犬と飼い主の非日常   作:herz

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 ……荒垣とキラーが邂逅した時、その場にいた誰もがこう思った。

(――荒垣さん逃げて!超逃げてぇぇっ!!)




・オリキャラが登場します。変態警報。

・降谷さんと風見さんのセリフ少なめ。相変わらず赤井さんとオリ主が目立ってます。




赤井秀一は、荒垣和哉の誇りである【前編】

 ジンと面会した日から1ヶ月が過ぎた頃。俺と秀一はアメリカの空港にやって来ていた。……と言っても、俺達がいる場所は多くの人々が行き交うターミナルではなく、人気の無い格納庫。

 何故そんなところにいるのか。それは……1ヶ月前の俺の勘が、現実となってしまったからだ。

 

 

 結局。被害者男性の頭部はまだ発見されていない。公安警察がキラーの潜伏先を中心にしらみ潰しに探し回ったそうだが、それでも見つからなかったらしい。

 キラーは相変わらず、世間話以外では黙秘しているという。俺もジンから聞いた話を降谷に伝えたが、やはりそれだけでは隠し場所を特定できなかった。

 このままでは被害者男性の遺族に申し訳が立たないし、マスコミによって世間にこの話が広まってしまったため、警察に批判が殺到している。

 

 そこで、公安がFBIに対して正式に協力を申し出た。キラーの要望通り、奴をジンに会わせてくれ、と。……FBIにとっては好都合だった。公安に貸しを作る事ができるのだから。

 

 ……と、うちの上層部の馬鹿共はそう考えているだろう。俺はむしろ、これでようやく公安に借りを返す事ができると思っているがな。

 2年前に日本で好き勝手やってしまった借りは、これまでに返して来た多くの借りと合わせて、今回でチャラ……になってくれるといいなぁ。

 

 

 そして現在。俺達は日本から来るキラーと、公安警察の人間を待っていた。ジンがいる刑務所までは、こちらが用意した車で向かう予定だ。

 キラーが引き起こした事件はアメリカでも有名で、捜査の進展にはかなりの注目が集まると予想される。そんな騒ぎの中心人物が日本ではなくアメリカにいると分かったら、とんだ大事になってしまう。よって、この任務は秘密裏に遂行しなければならなかった。

 

 

「さて……公安からは誰が来ると思いますか?さすがに、降谷君は来ないと思いますが」

 

「そうだな。極秘任務で少数精鋭が求められるとはいえ、ここは俺達のホームであって彼らの領域ではない。そんな場所に、ゼロの中心人物がノコノコとやって来るはずがない」

 

 

 秀一の言葉に、俺はそう答えた。……そう。この場にいる捜査官の人数はあまり多くない。俺と秀一以外に3人で、合計5人。日本から来る公安の警官も5人だ。

 そのうちFBIと公安からそれぞれ2人、キラーと共に車に乗って刑務所まで向かう。残された6人は別の車に乗って、距離を保ちながら追い掛ける。道中も他のFBI捜査官が外から密かに見張っているから、万が一不測の事態が起こったとしても対処してくれるだろう。

 

 刑務所ではジェイムズやジョディ、キャメル達が待機している。キラーが逃走を図るかもしれないので、それに備えて警備を強化した。……体制は万全。後は奴の到着を待つだけだ。

 

 

「おっと。ようやく来たか――って……!?」

 

「あれは……!?」

 

 

 スーツを着ている男達5人に囲まれて、拘束されている1人の男がいる。あれがキラーだろう。……だが、今はそれどころではない。

 

 ――先頭を歩く、金髪青目の男に目を奪われた。……その一歩後ろを歩く黒髪黒目の、眼鏡を掛けた男にも非常に見覚えがあったが、それはともかく。

 

 

「…………風見が来るのはまぁ、まだ良いとして……降谷、お前何で来たんだ?日本から離れて大丈夫なのか?企画課の統率は?」

 

「荒垣さん。もっと言ってやってください!降谷さんが急に自分が行くって言い出して企画課が大騒ぎになったんです!」

 

「風見……もう良いだろう、その話は。……お久しぶりです、荒垣さん。今回はご協力していただき、ありがとうございます」

 

 

 ――降谷零。……黒の組織壊滅作戦後、昇進して現場に出る事が少なくなった男がそこにいた。降谷と共に来た風見も昇進したと聞く。

 降谷よりはここに来る可能性が高かったとは言え、こいつも本来なら日本にいるべきではないか?

 

 

「やぁ、降谷君に風見君。久しぶりだな」

 

「……えぇそうですね、お久しぶりです赤井。できればあまり見たくなかった顔ですね!」

 

「……と言いつつ、少し嬉しそう――」

 

「何か言ったか風見……!」

 

「何も言ってません!!」

 

「俺は久々に会えて嬉しかったんだが……君は違うのか?」

 

「違う。別に嬉しくない!違うからな!!」

 

 

 ……秀一は楽しそうだ。俺も思わぬ再会には驚いたが、嬉しい。互いに忙しくてなかなか会えず、電話で話す事は何度かあったが……直接会うのは2年振りだ。

 俺は秀一、降谷、風見のやり取りを一歩離れた場所から見ていた。他の捜査官3人や向こうの公安の3人も、俺と同様に秀一達を穏やかに見守っている。良い空気だった。俺の気分も良かった。

 

 

 ――そんな良い気分を台無しにしたのは、俺に絡み付くねっとりとした視線だった。

 

 

「っ――!!」

 

 

 その視線の主は、キラーだった。……奴の容姿は、平凡。見た目で特徴的な部分はない。強いて言えば、顔立ちが少し幼いぐらいか?短い黒髪に黒目の、典型的な日本人だ。無表情で、感情が見えない。そんな男がねっとりとした視線を俺に送るものだから気味が悪い。

 周りいる人間はまだこの事に気づいていない。……俺は最初こそ動揺したが、すぐに冷静さを取り戻し、奴の視線を静かに受け止めた。

 

 その時だった。――奴が、ニタリと笑ったのは。

 

 

「――なぁ、あんた。名前は?」

 

 

 周りからすれば、キラーが急に話し出したように聞こえただろう。だが、秀一は奴の視線の先にいるのが俺である事に気づき、俺を庇う位置に移動した。……それに構わず、俺は口を開く。

 

 

「――俺の名前が知りたいか?ならば自分の本名を名乗れ、ネームレス」

 

「……ひひっ!あんた、声も良いなぁ。――サカキだ。サカキ、ミライ。サカキは神棚に供える、あの榊。ミライはそのまま。過去、現在、未来……あ、ライの字は人って漢字が入ってる、珍しい方のライね」

 

「なっ……!?」

 

「取り調べの時に俺達がいくら聞いても名乗らなかったくせに……!!」

 

「風見、今のを書き留めろ」

 

「はい!」

 

 

 公安の面子が驚いていた。降谷がすかさず風見に指示を出す。……正直、俺も驚いた。まさか本当に名乗るとは思わなかった。

 

 

「榊、未來……名前の意味はともかく、響きは綺麗だな」

 

「くははっ!そう、そうなんだよ!神に関係している榊に、ポジティブな未來って名前は殺人犯の僕には似合わない。でも、意味さえ無視すれば美しい響きの名前だ。僕は気に入ってるよ!」

 

「そうか。……俺は荒垣和哉だ。荒野の荒に、垣根の垣。和風の和に、"快哉を叫ぶ"の哉で……荒垣和哉」

 

「ありゃ?犯罪者相手にあっさりと名乗っていいのか?」

 

「相手が名乗れば自分も名乗る……普通の事だろう?」

 

「普通……そうだな。普通だ!しかし殺人犯を相手にごく普通の態度を取るなんて……和哉さんって物好きなんだな!」

 

 

 そう言って、キラーは機嫌良く笑っている。……思った通りだ。こちらが色眼鏡で見ることなく、常識的な対応をすれば素直になってくれる。

 

 

 キラーについて、ジンの話と降谷の話を聞いた後。それらを合わせて奴の大まかな人物像を予測してみた。

 奴は人間の"美しい"部位は好んでいるが……それ以外の部位は、ストレス発散のために使われているのではないかと思われる。奴は多分、誰かに何らかの苦痛を与える事で自身の快楽を得るタイプだ。以前それらしい発言をジンが聞いたという。

 

 それから、その人間に"美しい"部位が多くあればある程、相手への関心も強くなる。これは降谷から聞いた話だが、彼の部下の中に1人。キラーに気に入られた女性がいた。

 その女性は奴に胸から下が美しいと言われた。降谷は鎖骨から上が美しいと言われ、それ以外にも足と手が美しいと言われた者や顔が美しいと言われた者がいたそうだが、特に気に入られていたのがその女性だった。

 キラーはその女性との世間話を好み、彼女が所要で相手ができない時は別の者……美しいと言われた部位が彼女の次に多い者との会話を望んだ。

 

 おそらく、奴は自分の中で人間をランク付けしている。その判断基準が、奴の言う"美しい"部位の数なのだろう。

 

 そして話は変わってしまうが、いろんな意味で逸脱している人間は……普通の会話を求める傾向にある。その理由は様々だ。暇潰しだったり、何らかの癒しを求めるためだったり……自分があまりよく知らない、平凡な日常を求めるためであったり。

 キラーが求めているものは分からないが、俺がごく普通の態度で会話に応じている事が嬉しかったらしい。これで注意を引く事ができた。

 

 このまま会話に乗じて、いろいろと情報を入手できれば御の字だな。

 

 

「……にしても――」

 

「……?」

 

 

 キラーが、俺を上から下まで舐めるように見る。鳥肌が立ったが、どうにか平静を装った。……我慢しろ、俺。怯むな!

 

 

「――凄い。あんたの体は全てが"美しいもの"だ。まさか現実で出会えるとは思わなかった!和哉さんは僕の理想の人間だよ!!これは切り離したらもったいないぜ!そのまま冷凍保存だね!」

 

 

 奴がそう言った瞬間、目の前から頼りがいのある背が消えた。俺は、咄嗟に叫ぶ。

 

 

「――Stay(待て)!!」

 

 

 ……秀一は、キラーの胸ぐらを掴んだところで動きを止めた。俺の側からキラーの下まで一足飛びだった。この超人め。

 

 

「あれ?怒った……って、おやぁ?」

 

「っ!?」

 

「さっきはよく見えなかったけど、あんたの手も"美しいもの"だ。いいね!」

 

 

 キラーが手錠を嵌められたまま、秀一の手を掴んでそう言った。秀一は即座に奴の胸ぐらから手を離し、距離を取る。

 

 

「あ、離れちゃった……もしかして、あんたが赤井秀一?」

 

「…………そうだ」

 

「そっか!じゃあ赤井サン、その手を僕にくれない?」

 

「誰が渡すか!!」

 

「秀一」

 

「っ、はい」

 

「戻って来い」

 

 

 秀一に俺の後ろへ下がるようにと目で訴える。……しかし、秀一はそれを拒否して俺の前に立った。あくまでも俺を庇いたいらしい。キラーはその様子を興味深そうに見ていた。

 

 

「おい、キラー。これ以降は不用意な発言を控えろ。……次は、俺が貴様をぶん殴ってやる」

 

 

 と、降谷がそう言ってキラーに拳銃を向けた。むしろ、次は殴るよりも一発撃ってしまいそうな雰囲気だ。

 

 

「降谷さん、落ち着いてください」

 

「風見……あぁ、分かって、」

 

「あーあ。日本で逮捕される前にアメリカに行ってたら和哉さんを見つけてたかもしれないのかぁ。もったいない事した……せめて和哉さんを冷凍保存してから捕まるべきだっ――」

 

「――貴様ぁっ!!」

 

「てめぇっ!!」

 

「降谷さん!」

 

「降谷、落ち着け!秀一もStay(待て)!……お前らもだ。全員頭を冷やせ!」

 

 

 風見が降谷を、俺が秀一を押さえた。それから、殺気立っていた他の捜査官3人と公安の3人にも声を掛ける。そして、降谷よりも落ち着いているように見える風見だが、その目は据わっていた。……冷静なのは俺だけか。

 

 

「ふぅ……騒がしくしてすまないな、キラー。しかし、彼らは俺を心配して怒っていたんだ。どうかその気持ちを分かってやって欲しい」

 

「……うん、いいよ。仲間思いだね!」

 

「あぁ。自慢の仲間達だ。できれば、彼らを心配させるような発言は控えて欲しいんだが……」

 

「分かってるよ。もう言わない。……その代わりに1つ、頼みたい事があるんだけど」

 

「……なんだ?」

 

「1回だけ握手させて!」

 

「…………まぁ、いいだろう」

 

 

 頷いて前に出ようとした俺の肩を、秀一が掴む。目が合うと、彼は首を横に振った。……心配か。それなら、

 

 

「お前も来い」

 

「はい!」

 

 

 力強く頷いた秀一と共に、キラーの下へ歩み寄る。するとすぐに、奴が俺の右手を両手で掴んだ。

 

 

「――あぁ、やっぱり……!僕の理想の"美しいもの"だ!これはいい……!!」

 

「っ……!!」

 

 

 キラーは俺の手を揉みながら、恍惚とした表情を見せる。…………心頭滅却心頭滅却心頭滅却……!!無我の境地に至れば変態的行動を受けても何のその……!!

 

 しかし次の瞬間。秀一がキラーの手首に向かって手刀を振り下ろした。奴は間一髪で俺の手を離し、それを避ける。

 

 

「おっと!?」

 

「――殺す」

 

「待て待て落ち着け」

 

 

 片腕で俺を抱き寄せた秀一は、いつの間にか取り出した拳銃をキラーに向けていた。……重苦しい殺気を感じる。こいつは本気だ。不味い。

 そのせいで格納庫内が騒然とする中、キラーだけがニヤニヤと笑っていた。

 

 

「あ、そうそう和哉さん!俺のことはキラーじゃなくて未來って呼んでね!」

 

「厚かましい!そして和哉さんの名前を気安く呼ぶな!この―――――がぁっ!!」

 

Stop(やめろ)!おいちょっとマジで落ち着け秀一おいStay(待て)!!」

 

 

 良い子だからそのセーフティを元に戻しなさい!ステイ!!

 

 

 

 

 

 






 後編は20時過ぎに投稿します!
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