・風見視点。
・相変わらずオリ主と赤井さんが目立つ。
SIDE:風見裕也
荒垣さん、赤井さんと別れ、我々は3人のFBI捜査官の案内で刑務所の入り口に向かった。
入り口の前に到着すると、そこにはジェイムズさん、ジョディさん、キャメル君がいた。彼らと会うのも随分と久々だ。
そんな彼らは、私と降谷さんを見て酷く驚いていた。
「降谷君に、風見君!?日本を離れてもいいのか?」
「お久しぶりです、ジェイムズさん。……大丈夫です。問題ありません」
降谷さんには問題ありませんが、あなたの部下達は今頃不安でいっぱいになりながら仕事をしていると思いますよ。
確かに。降谷さんがいると部下達は彼を頼ってしまって成長もできないと思うし、これは必要な事だと理解はしている。……しかし、それにしたって話が急過ぎた。おかげで部下達はてんやわんやだ。
"突然の事態に対応できなければ公安は務まらない"……そう言っていたが、いくらなんでも企画課の人達が可哀想だと思った。
まぁ、私も。降谷さんと共に行くために自分の部下達にいろいろと押し付けてきたので、人の事は言えないが。
「……それならいいが……あまり部下達を心配させないようにした方がいいぞ?」
「あはは。お気遣い、ありがとうございます」
「本当に分かってるのかしら……?」
ジョディさん、鋭い。今のこの人はジェイムズさんの話を聞き流すつもりでいると思います。……その時。キャメル君が首を傾げてキョロキョロとこちらを見た。
「……あれ?赤井さんと荒垣さんはどこに?」
「あぁ。荒垣さんに、赤井さんと話したい事があるから先に言って欲しいと言われたんだ」
私がそう答えた時。後ろから声が掛かった。
「すまない!待たせた」
振り向くと、荒垣さんと赤井さんがいた。話は終わったらしい。……降谷さんが、何故か赤井さんの事をじっと見つめている。
「…………」
「……どうした?降谷君。俺の顔に何かついているか?」
「……ふん。さっきよりはマシな顔になったな」
「!……気づかれていたか。心配させたな」
「はぁ?誰が心配なんてするか。ただ、珍しいと思っただけだ。荒垣さん以外の誰かの言葉1つでお前が動揺するなんて……らしくない」
「そうか、すまないな。ありがとう」
「だから心配なんてしてないって言ってるだろ!」
「礼を言っただけだぞ」
会話から察するに、どうやら赤井さんは車内でキラーが言っていた言葉……おそらく、荒垣さんが激怒しそうになるきっかけとなった言葉を聞いて動揺していたらしい。
私は全く気づかなかったが、降谷さんは気づいていた。……何だかんだ言って、この人は赤井さんの事をよく見ているのだ。素直になれないだけで。
そして動揺していた赤井さんを、降谷さん曰く"マシな顔"にしたのが……荒垣さんか。彼と赤井さんの関係性は相変わらずのようだ。
強固な信頼関係……その絆は2年前よりも強化されているように見える。ここに来るまでに何度かアイコンタクトで会話していたし、以前よりも主従関係……いや、飼い主と犬という関係が表に出ていた。
正直に言うと、私は彼らの強い絆に対して少しだけ憧れを抱いている。
「それで……そこの彼が、キラーか」
「……あぁ。本名は榊未來だとさ」
「本名を聞き出せたのか!」
「俺の名前を知りたかったら本名を名乗れって言ったら、本当に教えてくれた」
「そ、そうか……さすがだ、荒垣君」
荒垣さんはあっさりしているが、本人は事の重大さを分かっているのだろうか?キラーは公安の人間が何度聞いても名乗らなかった本名を、荒垣さんには教えた。
車内では荒垣さんに聞かれるがままにいくつか個人情報を話していた。これも我々が聞き出せなかった情報だ。私はそれを真面目に手帳に書き留めていた。
ジンといい、キラーといい……荒垣さんはどうしてこうも犯罪者達を惹き付けるのだろうか。無論、それは犯罪者だけに留まらないが。
「……ふーん。そっちの金髪美人さんの足も"美しいもの"だね」
と、キラーが突然口を開く。ジョディさんの足を舐めるように見ていた。……それに気づいたキャメル君がジョディさんの前に立ち塞がる。
「あ、ちょっと退いてくれない?僕、"美しいもの"以外には興味ないんだ。あんたには"美しい"部位がない」
「何を言っているの……?」
「……キラー」
「未來って呼んでよ、和哉さん!」
「…………未來君。そろそろ君の目的を果たそう。ジンに会いたいんだろう?」
荒垣さんが自分に注意を向けるためか、ジョディさん達に背を向けて立った。赤井さんもその側にいる。
「あー……そういえば、そうだったね。すっかり忘れてた」
「忘れてた……?」
「ぶっちゃけ、ここに来るまではそれが目的だったんだけど……どうでもよくなっちゃった!和哉さんに出会えた事が衝撃過ぎて!」
口元が引きつった。……何を言ってるんだこの屑!我々がわざわざアメリカにやって来たのは貴様のためなんだぞ!?
「なら、会わないのか?」
「いやいや。せっかくだし、会うよ!用が終わったら約束も守る」
「……その言葉、忘れるなよ」
「はーい」
それから、全員でジンが待っている面会室まで向かう。
……やがて、目的地に到着した。面会室内に入るのはキラーと私と降谷さん、荒垣さんと赤井さん。それから、ジェイムズさんとジョディさんと、キャメル君。
ジンも加えたら、キラー以外は2年前のあの作戦を思い出させるメンバーだ。
中に入ると、強化ガラスの先にある部屋でジンが椅子に座っていた。その後ろに2人の看守がいる。帽子を被っていないため、ジンの表情がよく見える。
荒垣さんが前に出ると、その表情は柔らかくなった。……こいつ、本当に
「……よぉ、和哉。やっと来たのか」
「待たせたな。わざわざ協力させてすまない」
「構わねぇよ。他ならないあんたの頼みだからな」
「……先に報酬を確約してやったし?」
「くくくっ……あぁその通りだ。楽しみにしてるぜ?」
「はいはい」
FBI捜査官と悪の組織の元幹部が穏やかに会話している。まるで旧友のようなやり取りをしているが、2年前に元幹部の方が捜査官に神経毒を盛った間柄だ。互いに何とも思っていない……なんて事はあり得ないと思うが。
「やぁ、ジンさん!久しぶり!」
「…………本当に久々に見る顔だな」
ジンはうんざりとした表情を見せた。……さすがのジンも、キラーには手を焼いているらしい。
「……何のために俺に会いに来たんだ?」
「あは、せっかちだね。ちょっとぐらい世間話してもいいじゃん」
「俺にその気はねぇ。和哉から頼まれたからてめぇと会ってやってるだけだ」
「……へぇ。ジンさんも和哉さんがお気に入りなんだ?……和哉さんって、ニュートラルな感じがしない?時と場合によって光にも闇にもなれる人……でも、決して闇に捕らわれない人。何があっても自分が正義側である事を忘れない人」
「……それには同感だな。和哉は芯が強い男だ。もしも誰かが和哉を闇に引きずり込もうとしても、その人は絶対に闇に堕ちない。……だが、闇を知らないわけじゃねぇ。堕ちる事はねぇが闇を理解し、ある程度は許容している」
「そうそう!だからこそ、どっぷりと闇に浸かってる犯罪者にとって和哉さんの存在は――劇薬みたいな物だ。光に焦がれ、でもその光には嫌われている闇側の住人。そんな時、光側にいるのに闇を許容してくれる存在がいたら?闇側の住人は、誰もがその存在を欲するだろうねぇ。
……うん。やっぱりジンさんは分かるんだね!和哉さんの本当の魅力が!僕の理想の"美しいもの"であり、闇への理解もある!もっと早くに会いたかった!」
……急に、詩人のような事を言い始めた。私にはよく分からなかった。周りを見ても、誰もが怪訝そうにジンとキラーの会話を聞いている。
いや。荒垣さんと赤井さんは無表情だ。もしかしたらポーカーフェイスで表に出ていないだけかもしれないが……あるいは、奴らの話を理解している?
「……和哉が理想の"美しいもの"?」
「あぁ!和哉さんの体はね、全てが美しいんだ!初めてなんだよ、こんなにも"美しいもの"を見たのは!本当に惜しい事をした。日本で捕まらずにアメリカに行ったら和哉さんに出会えたかもしれないのに!冷凍保存できたかもしれないのに!!」
――ガンッ!!
「っ!?」
「うわぁっ!……ジンさん?どうしたんだ、急に」
椅子から立ち上がったジンが、手錠を嵌められた両手で思い切り強化ガラスを殴った!ジンの後ろにいた看守達が慌てて奴を取り押さえる。
しかし、ジンはそれ以上暴れる事はなかった。……そして、顔を上げる。
――ぞっとした。奴の目が血走っている。
「……おやおやぁ?ジンさん、もしかして本気で怒ってる?わぁ珍し、」
「もしもてめぇが和哉に手を出したら――ここを脱獄してでもてめぇを殺しに行くぞ」
「…………はは。それは怖いなぁ」
キラーが冷や汗を流している。……少し溜飲が下がった。
「ジン」
「……和哉。そいつ、今のうちに俺が殺してやろうか?」
「いや。お前はちゃんと、ここで罪を償ってくれ。今から罪を重ねる必要はない。……それに、日本警察は優秀だからな。彼らが未來君を見張ってくれるから俺は安全だ。心配するな。……そうだろう?降谷、風見」
「あ……はい!任せてください」
「我々日本警察が責任を持って、キラーを見張ります」
「ほらな?大丈夫だよ。……ありがとう。俺のために怒ってくれて」
荒垣さんがそう言うと、ジンはくわっと目を見開き……それから気まずそうに視線を逸らす。
「…………別に。俺はただ、そいつが気に入らなかっただけだ。あんたのためじゃねぇ」
……なんとなく、赤井さんに対する降谷さんの態度を思い出した。
「ふーん……丸くなったね、ジンさん」
「うるせぇ!それで、てめぇの目的は結局何だ!?」
「あ、うん。もうそれは終わってるよ」
ジンが八つ当たりのように問い掛けると、キラーはあっさりとそう言った。我々はそれぞれすっとんきょうな声を出す。はぁ?もう終わってるってどういう事だ!?
「僕がジンさんに会いたかった理由は、確かめたかったから」
「何をだ?」
「僕が隠した頭部とジンさんの首から下を合わせたら、"美しいもの"になるのかどうか」
「俺を殺すつもりで来たのか」
「いやいや!公安とFBIを出し抜けるわけがないし、そのつもりはないよ。……想像できれば、それだけで充分さ。もちろんジンさんを殺して首から下をもらいたいって気持ちもあるけど!」
「死ね」
……本当に、それだけ?たかがその程度の目的のために公安を振り回したのか……!?
「「…………はぁ……」」
ため息をつくと、それが降谷さんのため息と重なった。……互いの顔を見る。お疲れ様です、降谷さん。日本に帰ったら飲みに行きましょう、そうしましょう。
「今年、最初に殺した男の頭部……今隠してる頭部がさ、ジンさんの首から下に合わせたら今までで一番の"美しいもの"になるはず!そう思ったんだ。
でも黒の組織は壊滅して、幹部は全員逮捕されたって聞いてたからジンさんに会えないなぁ、と一度は諦めようとしたんだけど……諦めきれなくてな。で、その時思った。――そうだ、わざと捕まって公安と取引しよう、と」
「は?」
「その時は男の頭部とジンさんの首から下を合わせた"美しいもの"を、想像でもいいから形にしたい!って強く思ってた。だから、逮捕されてでもその目的を果たしたいって思った。――でも」
キラーはそこで言葉を切り、ジンから荒垣さんへと視線を移す。……その表情は恍惚としていて、それが自分に向けられたわけでもないのに、つい後退りしてしまった。逆に赤井さんは荒垣さんの前に出て、奴の目から荒垣さんを守る。
「和哉さんという、理想に出会った!!まさか切り離す必要のない、理想の"美しいもの"に出会えるとは思わなかった!!和哉さんを一目見た時からジンさんに会いに行く事なんてどうでも良くなった!だって、ずっとずっとずーっと求めていた理想が今!僕の目の前にある!!」
「く――狂ってる……!!何なんだ、この男は……!」
キャメル君が、思わずといった様子でそう口にする。私も同感だった。――この男が、自分からアメリカに行かなくて良かった。我々が捕まえる前に荒垣さんと出会わなくて本当に良かった。
出会っていたら最後。この男は本気で荒垣さんを殺そうとしていただろう。……もっとも、そうなったら赤井さんのライフルの的になるだけだが。
「あっ、忘れるところだった。男の頭部は僕の秘密の地下室の中にあるよ!場所は――」
……そして、キラーはあっさりと隠し場所を吐いた。まさか、その地下室がキラーの潜伏先から遠く離れた森の地面を掘って作られた場所だったとは……そんなの見つかるわけがない!公安による捜索は骨折り損だったわけか……
「それにしても――
「何……?」
「さっきも言ったでしょ?和哉さん。――赤井秀一の根っ子の部分は、僕と同じだってね」
荒垣さんの表情が抜け落ちる。……雲行きが怪しくなってきた。
後編は20時過ぎに投稿します!