忠犬と飼い主の非日常   作:herz

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 ――吸引力の変わらないただ1人の犯罪者ホイホイ(飼い主)が、また新たな犯罪者を吸い寄せる……!?

忠犬「俺の飼い主は掃除機だった……?いや、確かに犯罪者はゴミだが」

飼い主「俺は掃除機じゃねぇ!」("不本意"、"解せぬ"のプラカードを掲げながら)




・途中、モブ女アンチ注意。

・オリ主が毒を吐いてます。下品な言葉を普通に言っちゃってます。

・際どい発言あり。

・最後は三人称視点。残酷な描写あり。





血塗れの悪魔

 

 朝、自宅で目が覚めると身動きが取れない状態だった。何故か左半身が暑い。……そして、誰かの寝息が聞こえる。

 

 

「――またか」

 

 

 横目で確認すれば案の定、俺の弟子が俺を抱き枕にして眠っていた。

 

 

 日本で起こった連続殺人事件の犯人、キラーとの一件以来。最近ではこういう事がよく起こった。

 秀一は自分で宣言した通り、俺と2人きりの時は遠慮するのを止めたらしい。俺への執着心を隠す事なく、真正面からぶつけてくる。

 

 俺のベッドに忍び込んで来るのも、その一環であるらしい。去年には既に俺の自宅の合鍵を渡してあったし、俺だって秀一の自宅の合鍵をその時に渡されたが、今までこいつが勝手に入って来る事は一度もなかった。

 それが今では、このように不法侵入をするようになってしまった。……いや、合鍵を渡したのは俺だけどな?でもまさか、俺のベッドに忍び込むためにそれを使うとは思わないだろ?

 

 

(…………気持ち良さそうに眠りやがって、この野郎)

 

 

 俺がプライベートスペースへの侵入だけでなく、添い寝なんて馬鹿な真似を許すのはお前だけなんだぞ、秀一。それがどれだけ凄い事なのか、分かってんのか?

 

 

 俺は人の気配に敏感だ。例え熟睡していても誰かが俺の体に触れようとすれば、即座に察知してそれを防ぐ。

 相手の手を掴み、自分がナイフ等の凶器を持っていた時はそれを相手の首元に突きつける。……FBIになってから数年後に身に付けた、条件反射だ。ヨーロッパでの長期任務中、何度かこの条件反射に助けられた事がある。

 

 ジェイムズや数人のベテラン捜査官はそれを知っているため、俺が眠っている時はかなり警戒する。

 そういえば、秀一にはまだ俺の条件反射の事を教えてなかったか?そもそも俺が誰かの目の前で眠る事自体が珍しいからな……

 

 

「…………かずや、さ……」

 

「おはよう、不法侵入者。……朝飯作るけど、まだ眠いなら寝てもいいぞ」

 

「…………起き、ます」

 

「そうか?じゃあ朝飯作るの手伝え。お前が来るの知らなかったから、冷蔵庫の中は寂しいが」

 

「…………昨日、」

 

「ん?」

 

「昨日の、うちに……食材……」

 

「……買って置いたのか?」

 

「ん」

 

「ベッドに忍び込んだ事の詫びのつもりか?全く……」

 

「……ごめん、なさい……」

 

「…………そんな目で見るんじゃねぇよ。今ならさっさと起きれば許してやるから」

 

 

 きっと、何かがあったんだろう。こいつは毎回不法侵入するわけじゃない。

 俺の断りなく勝手に入って来るのは、大抵がよっぽど疲れた時か、もしくは何らかの理由で不安になった時だ。

 

 だからか、俺のベッドに忍び込んだ日は決まって酷く申し訳なさそうな顔をする。……そんな顔をされたら、怒れないじゃないか。

 

 

「……夢を、」

 

「うん?」

 

「悪夢を、見たんです。――赤毛の女に、和哉さんが殺されてしまう夢を……」

 

「――――」

 

 

 赤毛の、女。

 

 

 

 

 

 

 "――愛してる。殺したい程に愛してるの!あなたの事を!!"

 

 

 "――あなたを殺して、私のモノにするわ"

 

 

 

 

 

 

(――あの女(・・・)も、赤毛だったな)

 

 

 …………嫌な事を思い出しちまった。

 

 

「……夢は夢だ。俺は生きてるだろ?」

 

「……はい。……生きてます」

 

 

 そうだ。俺は生きている。

 

 

「老衰以外は、俺が許しません。あなたが誰かに殺されたら必ず報復します。夢の中で赤毛の女は俺が殺しておきました」

 

「……頼むから、現実ではそんな事するなよ?お前が逮捕されるからな」

 

「…………さて、どうしましょうか」

 

「やめろ」

 

 

 お前が言うと洒落にならないからマジでやめろ。

 

 

「……以前、ジンに言われた事があります」

 

「ジンに?」

 

「……キラーのように、あなたに惹かれて自分の物にしようとする犯罪者が、今後も必ず現れる。自分は刑務所にいるからあなたを守れない。だから俺が守れ……と。

 ……ふん。偉そうな事を言う。そんな事は言われずとも分かっているさ」

 

 

 そう言って、俺の腰に腕を巻き付けて離れようとしない。それを剥がそうとして――

 

 

「何よりも――和哉さんは俺にただ守られるだけの男じゃない。キラーのような奴が現れても、俺と和哉さんが共に戦って返り討ちにすればいい。俺とあなたの絆は世界一だ。

 俺達は師弟で――心から信頼し合う飼い主と忠犬だ。そんな俺達に敵う奴なんて何処にもいない。……そうですよね?」

 

 

 ――やめた。それどころか頭をぐしゃぐしゃに撫でてやった。……別に、別に嬉しくなんかない。

 

 

 ただ。このどうしようもない愛弟子兼愛犬の事を、無性に構いたくなっただけだ。

 

 

 

 

━━━

━━━━━━

━━━━━━━━━

 

 

「あ"ー……やっぱり飲み会なんて付き合わなきゃよかった……」

 

「すみません。俺が巻き込んだせいで……」

 

「過ぎた事を言っても仕方ないから、もういい。というか巻き込んだのは俺の方だろ?」

 

 

 ある日の夜中。俺と秀一は夜道を歩いていた。先程までとあるバー――なお、貸切状態――でFBIの仲間達と飲み会をしていたのだが……俺は最初、なんとなく嫌な予感がして飲みに誘われても断っていた。

 しかし秀一が俺の同僚達に捕まってしまい、ほぼ強制的にバーに連れて行かれそうになっているところを目撃。……秀一が不憫だと思ったので、仕方なく付き合う事に。

 

 

 その結果、俺の嫌な予感が的中した。

 

 いざ飲み会に参加してみると、女性の捜査官が多かった。……それも、大体が俺目当てで飲み会に参加したらしい。秀一を目当てにしている女性もいたが……俺目当ての女性達の方が多かった。

 同僚を問い詰めたところ、俺は飲み会には滅多に参加しない"レアキャラ"扱いをされているようで、今回は絶対に俺を参加させるから飲み会に来てくれと、彼女達に豪語したのだとか。

 

 そして俺が頷かない事に焦った同僚達は、ターゲットを秀一に変えた。俺が無理なら、せめて同じくらい"レアキャラ"扱いされている秀一を連れて行かないと成果にならない……と、判断したらしい。

 

 

「俺が捕まらないから秀一を巻き込んだ、だと?――てめぇらボコボコにされてぇのか?」

 

 

 思わず軽くキレそうになったが、秀一に止められた。……当の本人がやめろと言うなら仕方ない。

 とりあえず、腹いせに不機嫌を前面に出しながら参加してやった。さすがに女性達に当たる事はなかったが、男共の事は秀一以外、大分ぞんざいな扱いをしていたと思う。酒が入ったせいか、かなり口が悪くなっていた事は自覚している。

 

 賢い女性達はそれを察知して、俺と少し会話した後はすぐに離れて行った。ありがたい事だ。……しかし1人だけ、馬鹿な女がいた。

 

 どうもその女は、俺に対して本気になっているらしい。ただ恋をしているだけなら構わない。それは本人の自由だからな。……でも、俺はしつこい女が大嫌いだ。普段からよく鈍感だと言われる俺でも気づくぐらい、しつこい女だった。

 俺の体に胸を押し付けたり妙にベタベタ触って来たり寄り掛かって来たり……その猛アピールは迷惑でしかない。相手は一応女だから、厳しく言わずにやんわり離れるように言っても人の話を聞かなかった。

 

 俺の苛立ちは増すばかり。秀一と他の男共がそれを察して、慌ててその女を引き離そうとしても全く効果がない。

 遂には俺よりも先に秀一の方がキレそうになり、一旦冷静になってこいつを止めた。俺は確かに不機嫌だが、大人げなく女に怒りを向けようとは思っていない。

 女性と子供には基本的に優しく。……俺がいつも心がけている事だ。

 

 だから頑張って耐えた。――それを、女が無駄にした。

 

 

 事が起きたのは、一次会を終えた時。

 

 俺と秀一は二次会まで付き合う義理はないからと、すぐに帰ろうとした。それを無理やり引き留めたのが、俺にずっと付き纏っていた女だった。

 女は俺にベタベタとくっついて、一緒に二次会に行こうと駄々をこねる。俺はまた苛立ちを抑えて遠回しに断るが、やはり聞いてくれない。

 

 他の女性達も男共もさすがに目が余ると思ったのか、女を非難する。……しかし、それさえも耳に入らなかったようだ。

 

 

「じゃあ二次会に行かない代わりに、カズヤの家に連れて行って!」

 

 

 さらに、俺の家に行きたいと抜かしやがった。……俺が口を開く前に、秀一が怒鳴る。

 

 

「――いい加減にしろよてめぇ……!!」

 

「秀一!」

 

「っ、…………すみません」

 

「いや。……そこから先は俺が言う」

 

 

 こいつを巻き込んでしまったのは俺だ。それに、いつまでも相手が女だからと遠慮していた俺が悪かった。はっきり言わなくては。

 

 

「……君には悪いが、正直に言うと君のアピールは迷惑だ。俺は……君に興味がない。恋人が欲しいなら他を当たってくれ」

 

「恋人が駄目なら、セフレは?私、体には自信あるわよ。絶対にあなたを満足させてあげる。カズヤって彼女いないんでしょ?溜まってるんじゃない?」

 

「――――」

 

 

 絶句した。……何故そうなる!?馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたがまさかここまで馬鹿だったとは!このクソ(アマ)は本当にFBIなのか!?信じられない!

 

 それに、こいつの言動はあの女(・・・)を思い出させた。……気分が悪い。

 

 

 その時。秀一が前に出ようとする気配を感じて、咄嗟にその手首を掴んで止めた。

 

 

「…………止めないでください、和哉さん」

 

「駄目だ。……お前、その女を殴ろうとしたな?」

 

「当たり前でしょう。こんな、捜査官の自覚が足りていない女を放って置いても害にしかならない」

 

「いいから、やめろ」

 

 

 ついでに手首を下に引っ張り、秀一の耳元が近づいたところで囁く。

 

 

「――こんな阿婆擦れを殴ったら、お前の拳の方が汚れるだろうが。

 大体、体に自信があって欲求不満なら警官辞めて風俗店で働けばいい。どっかで勝手にアンアン啼いて男に腰振らせておけよ。頭おかしいな、このクソ(アマ)

 

「っ!?」

 

 

 俺が日本語でボソボソとそんな事を話すと、秀一はぎょっとした表情で俺から少し離れた。何故か愕然としている。……何だよ、その態度は。まぁ何でもいいか。

 

 

「……とにかく。俺は君に興味がないし強引な女性は好きじゃない。できれば、今後はあまり関わらないでくれ。……秀一。帰るぞ」

 

「は、……はい」

 

 

 なんとか怒りを抑え込み、女に背を向けて歩き出した。

 

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 

 女が追い掛けて来て、俺に触れようとする。俺はその手を掴み、振り向いて女を見下した。

 今の俺は相当冷たい目をしているのだろう。女の顔が青ざめた。

 

 

「……さっきの言葉、もっとはっきり言ってやろうか?――俺はてめぇのように、人に散々迷惑を掛けるような女は大嫌いだ。……二度と俺に関わるな」

 

「そんな、いくらなんでも――っ!?」

 

 

 俺に文句を言おうとした女が、俺の背後を見て突然黙った。……顔色が青どころか白に近づいていく。

 俺の背後にいるのは秀一だけだ。多分、秀一が何かしたんだろう。

 

 後ろを見ると、にっこりと笑う秀一がいた。

 

 

「秀一。お前、今……」

 

「何ですか?」

 

「……いや、いい。帰ろう…っと、その前に。言いたい事は言っておかないとな」

 

 

 俺は同僚達と女性捜査官達の方を睨み、口を開く。

 

 

「俺はもうこんな、合コン染みた飲み会なんて嫌だ。……理由は、分かるな?てめぇらはこの馬鹿な女とは違って、賢い男と女だろ?」

 

「は、はいっ!!」

 

「そうだよな。よしよし。……じゃあ、俺は今後てめぇらに誘われた時に限り、二度と飲み会には参加しないから、そのつもりでな」

 

「えっ!?」

 

「お、おいカズヤ――」

 

「――あ"?」

 

「…………イ、イイエ」

 

「何でもないです……」

 

「分かればいい。じゃあ、お疲れ。……帰ろうぜ、秀一」

 

「あ、俺も一言。――和哉さんが参加しないなら、俺もそうする。俺も二度とお前らの誘いに乗らない。今決めた」

 

「えぇぇぇっ!?」

 

「ちょっ、シュウ!お前まで!?」

 

「誰が好き好んで和哉さんの機嫌を損ねたてめぇらの誘いに乗ってやるというんだ?和哉さんの敵は俺の敵だ。……さぁ帰りましょう!和哉さん」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 ……それから、俺達を引き留める声を全て無視して秀一と帰路に就き……今に至る。

 

 

「あいつら、きっと今頃女達に責められてるだろうな」

 

「俺達を飲み会に呼ぶチャンスを、自ら無駄にしましたからね。……ところで、和哉さん。――実は内心、かなり怒っていましたよね?酒も入っているのに、よく耐えられたものです」

 

「……分かるか?」

 

「えぇ、もちろんですよ。……あなたが俺に、あの女への下品な暴言を口にした時……余程頭にきたのだろうと思いました。アバズレとか風俗で働けとか、クソ(アマ)とか……まさか、和哉さんの口からそんな言葉が出てくるとは……」

 

「…………お前なぁ。俺の事を聖人君子か何かだと勘違いしてないか?俺だって言いたい時は言うぞ。女への悪口でもな」

 

「えぇ。今日思い知りました。……それで、どうしたんですか?最近は機嫌が悪い日が続いていますよね?」

 

「ぐっ」

 

 

 気づかれていたか……!

 

 

「俺としては、今日の飲み会でストレスを発散してくれたらと思ったのですが……あの女のせいで当てが外れてしまいました」

 

「……お前その口振り、まさかわざとあいつらに捕まったのか?」

 

「いえ、運悪く捕まったのは本当です。……そこから本気で抵抗する事なく、和哉さんに助けを求めたところはわざとですが」

 

「…………」

 

「……だから謝ったんですよ。俺が巻き込んだせいで、とね」

 

 

 秀一は苦笑いして、ちらりと俺を見る。……叱られると分かって飼い主の様子を窺う犬のようだ。

 

 

「……俺は傷ついた」

 

「すみません……」

 

「慰謝料代わりに――飲むぞ」

 

「えっ」

 

「今日はもっと飲みたい。酒買ってお前の家で飲み直そうぜ。酒のつまみ出せ」

 

「っ、はい!喜んで!」

 

「居酒屋の店員みたいな返事だな」

 

 

 ちょっと笑えた。……そうだな。まぁ、こいつなら話してもいいか……

 

 

「……俺の機嫌が悪かったのは、ある夢をよく見るようになったからだ。それと視線が…」

 

「視線?」

 

「あぁ、いや……後で詳しく話す」

 

「……では、夢とは?」

 

「――ヨーロッパの長期任務」

 

「!」

 

「あの時の事をよく夢に見る。それと同時に、胸騒ぎを感じるようになってな……近いうちに何かが起こるような…」

 

「やめてください。……あなたが言うと本当に何かが起こりそうだ」

 

 

 珍しく、秀一が俺を睨んでいる。確かに俺の勘は何故かよく当たるからな……俺が以前、胸騒ぎや嫌な予感を感じた時の事を思い出したんだろう。

 

 

「……そういえば、長期任務の話ってお前にした事あったか?」

 

「いえ……少し話に触れる事はありましたが、本格的に話してくれた事はまだありません」

 

「そうか……聞きたいか?」

 

「是非、聞かせてください」

 

「ん。……お前の家に着いたら、話そう」

 

 

 俺も、お前に聞いてもらいたい気分なんだ。

 

 

 

 

━━━

━━━━━━

━━━━━━━━━

 

 

 FBIの飲み会で荒垣に付き纏っていた女は、苛立ちを隠そうともせずに帰路に就いていた。……それなりに酒を飲んだため、少しふらふらしているが。

 

 

 女は荒垣に振られた後、二次会では1人で飲んでいた。荒垣にあれだけしつこく付き纏い、荒垣にも赤井にも嫌われた女の下には、誰も近づこうとしなかったのだ。

 さすがに空気の悪さを感じ取った女は、早々に自宅に帰る事にした。特に、同じ女性捜査官達の目が痛かった。

 

 荒垣、赤井と"お近づき"になる機会が失われた原因なのだから、その恨みが女に集中するのは当然だろう。

 

 

 帰り道。女は荒垣の冷たい目と――赤井の、恐ろしい顔を思い出した。荒垣よりも赤井の方が恐ろしかった。

 あの、感情が全く見えない表情。それから……まるで、その辺の虫けらを見るかのような目。

 

 あの目で見下ろしながら、自分の事をどのように駆除しようか考えていたのだろう……と、女は思う。

 しかし。荒垣が赤井の方へ振り向いた瞬間、それらは笑顔と愛しい存在を見るような暖かい目に変貌した。……気味が悪かった。

 

 

(――気持ち悪い!何なのよ、あれは!?男が男にあんな目を向けるなんて本当に気色悪い!……やっぱり、ゲイ?カズヤもシュウも男が好きなのね!だからどっちも私に靡かないんだわ!)

 

 

 そんな見当違いな事を考えている女。……実は以前、荒垣に言い寄る前に赤井にも言い寄っていた。

 赤井は女に関する記憶を抹消していたが、女はよく覚えていた。彼女は赤井に手酷く振られたのだ。

 

 今回荒垣に付き纏ったのは、その仕返しのつもりだった。赤井が心酔している荒垣の事を自分が横取りするつもりでいた。

 男なんて自分の体を使えば誰だって自分の物にできる……と、馬鹿な事を考えた末の迷惑行為だった。

 

 

(明日からあいつらがゲイカップルだって噂を広めてやる!この私にあんな仕打ちをした奴らは社会的に死ねばいいんだわ!!)

 

 

 哀れな女は、先に自分が社会的に……それどころか物理的に死ぬ事になる運命を知らずに、そんな事を考えている。

 

 

 女が人気の無い路地裏を歩いていた時――その運命は訪れた。

 

 

「……誰よ、あんた」

 

「…………ふふ」

 

 

 女の前に、誰かが立ち塞がった。――赤毛の女だ。

 女よりも背が高く、モデル体型だった。青みの強いグレーの瞳がギラギラと輝いている。……赤毛の女の事を不気味に思い、彼女は後退りした。

 

 その両足に、銃弾が命中した。

 

 

「え――っ、あああぁぁぁっ!!痛いぃ……っ!!」

 

 

 一瞬の間。それからすぐに悲鳴が上がった。……赤毛の女はいつの間にか拳銃を手にしていた。拳銃にはサイレンサーがついており、音が小さ過ぎて聞こえなかったのだ。

 撃たれた女は尻餅をつき、両足を押さえている。

 

 

「血が、血が……っ!!痛い、痛いよ、誰か…っむぐ!?」

 

「……うるさいわねー。FBIのくせにこの程度で悲鳴を上げて……また叫ばれて耳が痛くなるのも嫌だから……」

 

 

 そう言って、赤毛の女は震えている女の口をガムテープで塞ぐ。

 

 

「んんー!!むぐぅ……!!」

 

「はいはい大人しくしてちょうだい――本番はこれからなんだから」

 

 

 赤毛の女は嗜虐的な笑みを浮かべ、すぐ近くにあった空き家まで女を引きずっていく。

 中に入って女を放り出し、女の上に馬乗りなった。

 

 

「さーて、まずは――彼にベタベタと触っていた、この指から切り落としましょう」

 

「――――」

 

 

 女の絶望に染まった顔を見て、赤毛の女が嗤う。

 

 

 

 

━━━

━━━━━━

━━━━━━━━━

 

 

 ……全てが終わった後。赤毛の女は物言わなくなった死体を見下ろしていた。

 

 

「全く……私のシンジ(・・・)にベタベタ触ってしつこくするからこうなるのよ。……彼は私のモノなんだから」

 

 

 そう呟き、嘲笑した赤毛の女は……次に恍惚とした笑みを浮かべる。

 

 

「それにしてもシンジったら……相変わらずイケメンだったわー……素敵。早く、早く!彼を殺して私のモノに……!!――でも、」

 

 

 すっ、と真顔になった彼女は、ゆっくりと首を傾げる。

 

 

「――どうして私のシンジに、あんな男が付き纏っているのかしら?……"FBIの英雄"だか何だか知らないけど、不愉快。……しかも、私が敵いそうにない相手なんだもの。厄介極まりないわ。

 ……やっぱり、あれは放って置いてシンジだけを誘き寄せないと。私も早く彼を殺したいし……」

 

 

 再び恍惚とした表情になった赤毛の女。……うっとりとしながら、呟く。

 

 

「……待ってなさいシンジ――いえ、荒垣和哉。絶対に、あなたを私のモノにしてみせるから。

 

 私がアメリカにいる事を知ったら、きっと驚くでしょうね」

 

 

 赤毛の女は、目をギラギラさせてその場から立ち去る。

 

 空き家に残されたのは――指を切り落とされ、胸を切り刻まれ、目をくり貫かれ……その他いろいろと残酷な仕打ちを受けた、無残な女の死体。

 それから、死体の胸の上に乗せられた、真っ赤なメッセージカード。

 

 

 

 

 

血塗れの悪魔

 

 

 

 

 

 

 ――Dear,Shinji(親愛なるシンジへ)

 

 ――With love,(愛を込めて)

 

 ――Bloody Devil(血塗れの悪魔より)

 

 ――そんな白い文字が、真っ赤なカードに記されていた。

 

 

 

 

 

 





・胸騒ぎを感じている飼い主

 吸引力の変わらないただ1人の犯罪者ホイホイ。胸騒ぎの正体(赤毛の女)にはまだ気づいていない。

 警戒心が非常に強いオリ主がプライベートスペースへの侵入を許し、あまつさえ添い寝まで許す相手は、両親を除けば赤井だけ。
 赤井の言葉で、ヨーロッパでの長期任務中に出会った赤毛の女の事を思い出した。……これ以降その夢を頻繁に見るようになり、ほぼ毎日不機嫌に。
 まだ赤井には明かしていないが、最近になって、たまに街中を歩いている時に何者かの視線を感じるようになった。これも不機嫌になった理由の1つ。

 そんな中、例の飲み会に参加させられてモブ女に絡まれ、さらに不機嫌になった。そんなオリ主に八つ当たりされた男達は、生きた心地がしなかったという。
 飲み会終わりに遂に我慢の限界が来た。ボソボソと毒を吐き、モブ女の事もはっきり拒絶。この阿婆擦れが(# ゜Д゜)

 しかし、赤井に対しては甘々。秀一と一緒ならいくらでも飲めるぞ。


・たまに不法侵入する忠犬

 不法侵入ではない。合鍵をもらっているのだから合法だ(キリッ……とはいえ、勝手にベッドに忍び込むのは申し訳なく思っている。

 悪夢に出て来た赤毛の女はきっちりと血祭りにあげた。オリ主の最期は老衰しか認めない。もしも現実で誰かがオリ主を殺したら――
<●><●>カッ
 自分とオリ主の絆は世界一であると信じてやまない。俺達に敵う奴なんて何処にもいない。そうですよね?……って、何故そんなに頭を撫でるんですか、いいぞもっとやれ!(歓喜)

 オリ主の機嫌が悪い事に気づき、飲み会でストレス発散してもらおうとしたが……大失敗。あの女のせいで台無しだ!!
 毒を吐くオリ主に、愕然。聖人君子のように思っていた事は否定しない。だがしかし毒を吐く和哉さんも素敵です※処置なし。

 わざとオリ主に助けを求めた事を叱られると思いきや、棚ぼただった。酒飲み延長?つまみを寄越せ?はい、喜んで!それは慰謝料ではありません。ご褒美です!!


・赤毛の女

 ヨーロッパの長期任務の時にオリ主が出会った、"血塗れの悪魔"という異名を持つ女。オリ主に並々ならぬ執着心を寄せている。
 今までは身を隠していたが、最近になってこっそりとアメリカに入国し、陰からオリ主を観察していた。オリ主が感じていた視線の正体。
 オリ主の側にいる赤井が邪魔だと思っているが、力量差を冷静に判断して手を出さないようにしている。
 オリ主に付き纏うモブ女を妬み、残酷なやり方で殺し、メッセージを残した。

 待ってなさいシンジ――いえ、荒垣和哉。絶対に、あなたを私のモノにしてみせるから。





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