「……とりあえず、説教はここまでにしておきましょう。全く、人を助けるためとはいえ、車の前に飛び出すなんて……」
「悪かったよ……でも、そのおかげで潜入に成功したんだから結果オーライ――」
「――は?」
「――というのは嘘ですごめんなさい」
「……まぁ、もういいです。それよりも話の続きをお願いします」
「おう。……といっても潜入した後は特に大きな問題もなく、任務も順調に進んでいた。――あの、赤毛の女に出会うまでは」
・マフィアについていろいろ捏造あり。
・オリジナルのマフィアが登場します。
・設定が甘いところは大目に見てくれると助かります(´・ω・`)いろいろと内容が飛び飛び。
・過去編なので赤井さんは登場しません。オリ主を含め、オリキャラばかり。
ヨーロッパに渡ってから、4年の月日が流れた。
その時には既に、コンカート・ファミリーの調査班のリーダーを任されるぐらいには信頼されており、構成員達にはそれなりに一目置かれていたと思う。
任務の方も順調で、人身売買についての情報が集まりつつあった。
現在、後詰めでヨーロッパに渡って来た捜査官達とも協力し、米国内の人身売買のルートを探っている。……おそらく、あと少しで判明するだろう。
あとは、そのルートが判明した時に可能であればそれを潰す事。そして、攫われた被害者をできる限り救出する事。
それさえ終われば、任務完了だ。……同時に、コンカート・ファミリーとの別れも近づいている。
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その日。俺はアマンダ・コンカート……お嬢の買い物に付き合い、荷物持ちになってコンカート・ファミリーの屋敷に帰って来たのだが……彼女の部屋まで荷物を運ぼうとした時、俺達の前に立ち塞がる人間がいた。
「――あなたが、ボスが言っていた情報屋のシンジね。私はローザよ。初めまして!……ところで、あなた良い男ね!彼女とかいないなら私とセフレにならない?」
「なっ……こら、ローザ!シンジは私の付き人なんだから誘惑しないで!!」
「あら?……そう。残念ね」
長い赤毛を靡かせている、美しい女だった。目は青みの強いグレー。モデルのようにスタイルが良く、体型が良く分かるピッチリとした服を着ている。それに露出の激しい服だった。
スタイルに自信がなければこんな服は着れないだろう。
と、冷静に考えつつ……俺はこの女から嫌な気配を感じていた。
(ローザ……この女が――血塗れの悪魔、か)
ジェラルド・コンカート……ボスに話だけは聞いていた。
コンカート・ファミリーが雇った殺し屋、ローザ。"血塗れの悪魔"という異名を持つ女だ。5年前にボスから依頼されてロシアに渡ったと聞いていたが……依頼を完了させて帰国したのか?
なお。赤毛が血に染まった髪のように見えるから、または殺し方が残酷でよく血塗れになる事からその異名がついたとか……真実は定かではないが。
「それにしても本当に久しぶりね、ローザ!お仕事は終わったの?」
「えぇ、まぁね。今回は警戒心の強い男がターゲットだったから、懐に潜り込むのに苦労して……結局5年もあんな寒い場所に縛られてしまったわ。……ねぇ、シンジ。私の体を暖めてくれない?お礼にいくらでも触っていいから。ね?」
と、女が俺の腕に抱き着いて、豊満な胸を押し付けてきた。俺は荷物持ちで両手が塞がっており、それを振り払う事ができない。
さっきから何か嫌な感じがする。この女の事は好きになれそうにない。
とりあえず離れてもらおうと、言葉での説得を試みる。
「なぁ。悪いんだけどちょっと離れて…」
「ローザ!!」
すると、お嬢が大声で女を呼ぶ。……何故か、お嬢は女の事を睨んでいた。
「……はいはい、分かったわよ。やきもち焼きね、お嬢は」
「えっ!?わ、私はそんなつもりじゃ、」
「うんうん、分かってる分かってる。……じゃ、私は帰るわ。またね、シンジ」
女は最後に投げキッスをして去って行った。……鳥肌が立った。
「…………シンジも、」
「ん?」
「シンジも胸が大きくて、い、色気のある女の人が好きなの……!?」
「はい!?……いやいや。自分は
「あんな女……?」
「あっ。……いや、えっと……ははは、まぁ気にしないでよ!とにかく、自分はあの人には興味ないから。……それよりお嬢、早く荷物を置かせて欲しいんだが?」
「あぁ、ごめんなさい!行きましょう」
先に歩き出したお嬢の後をついて行きながら、俺はひっそりとため息をついた。……阿呆が。何やってんだよ、俺は。
今は潜入捜査中だ。荒垣和哉としての感情を表に出さないようにしなければ。
あの女はファミリーに雇われているようだから、何度か顔を合わせる事になるだろう。今の俺は"シンジ"だ。味方に対しては基本的に人懐っこいキャラクターだ。
あの女に対しても、そうでなくてはいけない。本気で嫌悪感しかないが、我慢しよう。
「……ねぇ。さっき言ってた事は本当?本当に、興味ないの?」
「ないない。……お嬢の方が可愛いから」
「ひぇ!?……なっ、あう…か、からかわないでよね!!」
「あはは、顔が真っ赤だぜ?お嬢さん?」
「もう、シンジったら!!」
可愛らしい少女が顔を真っ赤にして怒っている。……彼女の付き人になった時はどうなるかと思ったが、今はそれなりに楽しんでいた。やりがいがあるし、彼女をからかうと面白い。
少女というか……もう大人の女性か。二十歳を過ぎたし、出会った当初に比べると身長も伸びた。ファミリーの構成員の間では"最近、お嬢が綺麗になった"と話題になっている。
確かに、随分綺麗になった。……おや?
「……お嬢」
「な、何?」
「香水変えた?……今までと違う香りがする」
「!!そ、そうなの!ちょっと気分転換にね……えっと、シンジは今までの香水の方が好き?」
「自分だったらこっちの香りの方が好きだけど……何で?」
「え!?……その、えっと……っ、何でもない!忘れて!」
「?……うん」
次からこっちの香水にしよう……なんて、ボソッと呟いたお嬢が早歩きになった。……急に機嫌が良くなったな。どうしたんだろう?
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「シンジー飲みに行かない?」
「いやぁ、悪いけどボスに呼ばれてるから……」
「大丈夫よ、待ってるから」
「いやいや。女の人を待たせるのは悪いし、遠慮する」
「そんな事言わずに……ね?」
……お嬢の買い物に付き合ったあの日から、赤毛の女がしつこい。うざい。
隙あらば俺の体に胸を押し付けて、ギラギラした目で所謂"夜のお誘い"をしてくる。一体何を考えて俺に付き纏っているんだ?俺の顔が気に入ったのか?体目当てなのか?
それとも――俺が潜入捜査官である事に気がついた?……いや、さすがにそれはないか。
というかボスに呼ばれているのは本当だからさっさと離せ!
「シンジ!こんなところにいたのか。待ちくたびれたから探しに来てしまったぞ!君に任せたい仕事があるんだ。ちょっと来てくれ」
「ちょ、ボス、ボス!首締まる……!」
そこへ颯爽と現れたボスが、俺の首根っこを掴んでずるずると引きずっていく。……おかげであの女から離れる事ができた。ナイスだぜ、ボス。
屋敷内にあるボスの執務室に入ると、ボスはようやく手を離してくれた。首が痛い。
「……相変わらずローザに狙われているようだな」
「はは……そうなんですよー……参りました。一体自分のどこが気に入ったんでしょうかね、彼女は。自分にはその気が無いんですが……」
「…………君は相変わらず鈍感のようだな。シンジを狙っている女はファミリーの中にも外にも大勢いるぞ。君は無自覚に女性を落とすからな。ある意味自業自得と言えるだろう」
「えぇ?いやいや、まさかそんな……」
「……はぁ……まぁ、いい。仕事の話をしよう」
……そして話が終わった時、お嬢がやって来た。最近はあの女に会うのが嫌で、この屋敷に来る頻度を必要最低限にしているから、彼女に会うのは久々だ。
「シンジ!やっと会えた……!!」
「どうも、お嬢。久しぶり。……ごめんな。最近はあまり会いにいけなくて……」
「……確かにそれは寂しいけど、シンジは悪くないわ!ローザが悪いの!」
ぷんぷんと怒りながら、お嬢がソファーに座っている俺の隣に座る。
当然、お嬢も俺があの女に狙われている事を知っていた。俺のために怒ってくれる彼女の気持ちが嬉しい。
「ふむ……せっかくだ。この部屋で会話を楽しみなさい。部下にお菓子と紅茶を用意させよう」
「え、いいの?お父さん。ここで話したらお仕事の邪魔になるんじゃ……」
「あまりうるさくしなければ、構わないよ。……この部屋ならローザに邪魔されずに話せるだろう?入室には私の許可が必要だからな」
「お父さん……!ありがとう!」
「あれ?自分の拒否権は――」
「――あると思うか?」
「ですよねー……」
というわけで、ボスに頼まれた仕事に取り掛かる前に、お嬢との会話を楽しむ事になった。
基本的にお嬢が話して、俺が聞き役になる。……彼女はとても楽しそうに話をしてくれた。最近、パンが美味しい店を見つけた事。お気に入りの本の話。よく見掛ける可愛い野良猫の話……
視界の端で、そんな彼女の様子を微笑ましく見守っているボスの姿を見つけた。……ボスはきっと、娘の事を心から愛しているのだろう。
……本当に、純粋な良い子だと思う。ボスとその妻の教育が良かったんだろうな。だからこそ、もったいないと思った。
(――もっと、別の形で出会いたかった)
何故お嬢は……アマンダは、マフィアのボスの娘なのだろう。何故ボスは……ジェラルドさんは、マフィアのボスなのだろう。
俺なんかに優しくしてくれる良い家族なのに、心温まる家族なのに……できる事ならもっと仲良くなりたいのに、任務が完了すればこの関係は破壊される。
この優しさは、"シンジ"がコンカート・ファミリーの一員だから感じられる事だ。マフィアの敵となる"荒垣和哉"には関係無い。
「――シンジ?」
「っ!?」
「どうしたの?……具合でも悪い?」
「いや、……大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけで……」
「本当に大丈夫か?まさか、風邪を引いたんじゃないだろうな?」
「大丈夫ですよ、ボス!」
ほら。少し上の空だっただけでこんなに心配してくる。……お嬢はともかく、ボス。あんたは本当にマフィアか?しっかりしてくれよ。
――あんたの目の前にいるのは、裏切り者なんだぜ?
後編は20時過ぎに投稿します!