・後半、残酷な描写あり。シリアス。
――ふと、目が覚めた。
「……あら……素敵な反射ね。とてもただの情報屋だとは思えないわ」
「――――」
何故か、目の前に赤毛の女がいた。……俺の左手は女の手首を掴み、右手に持ったナイフが女の首に当てられている。
それだけで状況を把握した。……この女は眠っている俺に触れようとして、俺が身に付けた条件反射に引っ掛かったのだ。
……で?
「……どうやって入った?」
「いつもと雰囲気が違うわね……寝起きだから?」
「質問に答えろ、血塗れの悪魔。……自分は寝起きが壊滅的に悪くてな。今機嫌が悪いんだ」
咄嗟に女の言葉に合わせて、一瞬素を見せてしまった事を誤魔化す。……女は納得したらしく、口を開いた。
「窓から入ったわ。鍵はちゃんと閉めた方がいいわよ?」
そういえば、昨日はボスから任された仕事のために走り回ったから凄く疲れていて……真夜中にホテルに帰って来てすぐにベッドにダイブしたんだった。
ドアの鍵は閉めたが、窓の確認を忘れていた。……FBIの名折れだな、クソが。
「……忠告ありがとう、さっさと帰れ」
「まぁ。……誰にでも優しいシンジ君はどこに行ったのかしら。でも、そういう強気なあなたも素敵ね……ますます惚れちゃった」
「……何の用だ。自分は眠いんだぞ。寝かせろ」
「んー……別に寝ててもいいわよ?――私はあなたの上で、好き勝手にやるし」
俺の腹の上に馬乗りした状態で腰を揺らすクソ
「俺の上から、退け。――殺すぞ」
思わず殺気を出しながら首元に押し付けたナイフをさらに押すと、血が流れた。
「あらやだ。……もう、しょうがないわね」
女が俺の上から退いた瞬間、ベッドから素早く下りて構える。女が何かしようとした時、すぐに対応できるように。
「……あなた、本当にただの情報屋?」
「……多少荒事に慣れてるだけだよ。それで、何の用かな?ローズさん」
「機嫌が直ったようね。……あわよくば、そのままセックスに雪崩れ込めたら良かったんだけど……無理そうね」
「自分にその気は無いよ。……以前からそう伝えているはず」
「そうなんだけど……!もったいないじゃない!そんな良い体を持ってる男とセックスできないなんて!別にゲイではないんでしょ?一度くらいシてくれても…」
「確かに自分はノーマルだけど、嫌なものは嫌だ」
この痴女が!性交だけが目的ならさっさと消え失せろよ!!
「あなたがそんなに嫌がるのは……お嬢のせい?」
「お嬢?……何で彼女が出てくる?」
「お嬢と付き合ってるんじゃないのね?」
「違うよ」
「他の女とは?セフレとか?」
「付き合ってない。セフレもいない。……自分自身、あまり性欲が無いからね。そこまで乗り気になれないんだ。だからローズさんの期待には応えられない」
てめぇのような得体の知れない女と誰がヤってやるものか。
「…………じゃあボスとかお嬢とか、コンカート・ファミリーはあなたにとっての何?」
「何って……質問の意図が読めないけど、それに答えれば帰ってくれるか?」
「……えぇ。帰るわ」
ならばさっさと答えるとしよう。……シンジなら、この質問にどう答える?
「……コンカート・ファミリーは、自分の大事な居場所だ」
「…………」
「ボスもお嬢も、ファミリーの構成員達もみんな、自分なんかに優しくしてくれる。……本当にマフィアなのか、疑いたくなるぐらいにね」
そう。彼らは身内に優し過ぎる。ボスとお嬢だけじゃない。構成員達もそうだ。仲間に対して情が深い。……それに触れる度に、罪悪感で心が痛くなる。
「そして、自分がそのファミリーの一員である事を……誇りに思う。今の仕事が楽しいよ。調査班のみんなは面白いし……お嬢の付き人って仕事も、何だかんだ言って役得だと思ってる。ボスも自分にはもったいないぐらいの良い上司で……
――居心地が良いんだよ。コンカート・ファミリーは」
シンジとして笑顔を見せながら、内心では苦笑い。……本当に、居心地が良過ぎて困る。
俺はいずれ"シンジ"から"荒垣和哉"に戻らないといけないのに、馴染み過ぎた。何やってんだよ俺は。
表面上は照れた様子を装いながら俯き……ため息を噛み殺した。
馬鹿野郎が。偽りの自分に成りきってどうする?本当の自分に戻れなくなるぞ。
(――まだまだ教わりたい事がある、無事に帰って来い……あいつだってそう言ってたじゃないか!)
そうだ。俺の誇りである元弟子が、帰りを待ってる!
よし。大丈夫。――俺は"荒垣和哉"だ。
「…………へぇ、そう――邪魔ね。あいつら」
女がボソリと、何かを呟いた。何だ?よく聞こえなかった。
「ローザさん?……今、何て?」
「何でもないわよ?……答えてくれてありがとう。今日は帰るけど、私は諦めないわよ。――絶対に私のモノにするって、決めたから」
「――っ!?」
背筋が凍る。――肉食獣のように爛々と輝く瞳が、俺を見つめていた。後退りしそうになった足を必死に止める。……怯むな!落ち着け。
「だからね、私のモノが私以外の誰かに愛されている事も、私のモノが私以外の誰かを愛している事も許せないのよ。……じゃあね、シンジ。おやすみ」
そう言って、女は来た時と同じように窓から出て行った。……ここは3階だぞ。本当にどうやって侵入した?よじ登って来たのか?
下りるにしても周辺に乗り移れそうな建物は無い。外に出たら落ちるだけだ。……まぁその程度で死ぬような女じゃないか。
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例の人身売買のルートが判明し、被害者達の居場所も判明した。
仲間達によると、しっかり準備すればそのルートを潰す事も可能だという。その準備に時間は掛かるが、年内にでも作戦を実行できそうだ。
着々と"シンジ"がお役御免となる時が近づいているが……俺は、"荒垣和哉"だ。元弟子が――秀一が待っているし、さっさと帰らないといけない。
もう迷わない。そう決めたんだ。――それなのに、
(心が痛いのは、何故だ?)
……そんな、ある日の事。――別れは唐突だった。
俺はその日、ボスから休日をもらって外に出掛けていた。コンカート・ファミリーの屋敷がある街とは別の街だ。
そこでFBIの仲間の1人と接触し、例の作戦の準備の進行具合について報告を受けていた。
その時。シンジが使っている携帯に着信が入った。……相手はお嬢だ。
目の前にいる仲間に静かにするよう身振りで伝えて、電話に出る。
「もしもし、お嬢?……どうしたの?」
「シンジ……!シンジ、助けて!」
助けを求めるその声を聞いて、体に緊張が走った。
「……何があったの?今どこにいる!?」
「自分の部屋にいるんだけど、さっきから悲鳴とか銃声が外から聞こえて……!私、怖くて動けな――あ、」
「……お嬢?」
「足音が、」
「足音?」
「この部屋に近づいて来る……おかしいわ。さっきまで騒がしかったのに、いつの間にか静かになって――きゃあっ!?」
「お嬢!?」
電話口から銃声が聞こえた!それから、これはおそらく――ドアが破られた音だ!
「――ローザ!?あなた何を、ひっ!?」
「静かにしなさい」
――あの女!!
「いやっ!シンジ、助けてっ!!」
「彼は今日休みなんだから助けは来ないわよ…って、あら?電話が……」
「っ……おい、ローザさん!一体何をしている!?お嬢に何をした!?」
「その声、シンジ?……やだ。タイミングが悪いわね、私ったら……いや、でも悪くないかも」
「おい!」
「あぁ、ごめんなさいね。――あなたの居場所、壊す事にしたのよ」
「は……?」
俺の、居場所……いや、シンジの居場所は――
「――ボスは!?ファミリーのみんなは!?何をしたんだお前!!」
「ふふ……それらはもう壊した後よ。最後にお嬢を壊せば、あなたの居場所は消える。……じゃあ、また後でね。シンジ。――あなたが来る頃には、全て終わってるはずだから」
「何、」
「――ひっ!?やだやだ、いや、いやああああっ!?」
「っ――アマンダ!?」
彼女の悲鳴を最後に、電話は切られた。
「くそっ……!!俺はファミリーの屋敷に向かう!念のためにお前らの中から数人、武装を整えてから俺の後を追うように伝えてくれ!頼んだぞ!!」
「あっ、おい!?」
その場から全速力で車を止めてある場所まで走り、急いで車に乗り込んだ。
冷静に考えれば、もう間に合わない事が分かっただろう。だが、当時の俺は酷く焦っていて、そこまで考えられなかった。
ただ。愛らしいあの子を、アマンダを、助けたかった。……それしか考えていなかったのだ。
そのせいで、俺は悲惨な現実を目撃する事になる。
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屋敷の前に到着した俺は、入り口に駆け寄って扉を開ける。――その先は、
「――うぅ……っ!!あの、女……!!」
――血の海だった。むせ返るような鉄の臭いで吐き気を催す。……何とかそれを抑えて辺りを見渡すと、ファミリーの構成員達……シンジの仲間達の死体が、そこら中に転がっていた。
よくも、よくも
「……っ……アマンダっ!!」
我に返り、慌てて階段を駆け上がって彼女の部屋に向かう。……その途中で、ボスの死体を発見した。
ボスの死体は、首と胴体が繋がっていなかった。体中を撃たれたのか、至る所から血が溢れ出ている。
「ジェラルド、さん――っ、くそ……くそぉっ!!」
せめて、せめてアマンダだけでも助けなくては!!
その一心で廊下を駆け抜け、お嬢の部屋の扉を勢い良く開け放つ。
「――シンジ!あぁ、やっと来てくれた!!」
「――――」
「ねぇ、見てよこれ……醜い顔よねー。涙と鼻水で汚れちゃって……あぁ汚い」
ぽいっと捨てられたそれは――愛らしいあの子の、頭。
「最期までうるさかったわ。シンジ、シンジ、シンジって――シンジは私のモノなんだから、気安く名前を呼ばないでよ、全く」
「――――」
「……ここに来るまでに見たでしょ?あなたの仲間とボスの死体。――シンジが大切にしていた居場所を壊したのはこの私……血塗れの悪魔、ローザよ!ちゃーんと覚えておいてね?」
「それじゃあ最後は――メインディッシュを頂きましょう」
「――――」
「――愛してる。殺したい程に愛してるの!あなたの事を!!」
「――――」
「――あなたを殺して、私のモノにするわ」
「――血塗れの悪魔ぁぁっ!!お前だけは絶対に!俺が殺してやるぅぅっ!!」
「……ふふっ、ははは、あは、はははははっ!!いいわ、最高よシンジ!!――私と、殺し
彼の怒りは悪鬼羅刹が如く
――その後の記憶は、曖昧だ。
・SAN値直葬された情報屋(飼い主)
コンカート・ファミリーに馴染み過ぎたせいで、
ローザと出会った瞬間から嫌な気配を感じ、警戒する。そもそもいきなりセフレにならない?とか聞いてくる女と仲良くできるはずがない。
アマンダに好意を寄せられている事には全く気づいていない。(ウルトラ級鈍感)オリ主は彼女に対して妹に向けるような愛情を抱いている。あんな女よりもお嬢の方が数億倍かわいい(真顔)
しつこい女は昔から大嫌い。本当ならローザを突き放して絶対零度の冷たい目を向けてやりたいが、潜入中なので我慢。後にコンカート親子に癒されてストレス解消。
その後。ついに夜這いまで仕掛けてきたローザにぶち切れ寸前。俺の上で腰を揺らすんじゃねぇよ痴女(#・∀・)
しかし、ローザの問いがきっかけで自分が"荒垣和哉"である事を再確認できたので、ほんの1ミリ程度は感謝している。なお、正気に戻った理由は元弟子の存在があったから。
ある日突然、ローザの手でコンカート・ファミリーという居場所を壊され――SAN値直葬。そのショックで
【急募】忠犬によるアニマルセラピー。
・惨殺されたマフィア親子と構成員達
"シンジ"の事を心から信頼しており、結局最期までNOCである事に気づかなかった。
ジェラルドはオリ主の事を娘の婿候補として見ており、アマンダとオリ主の事を温かく見守っていた。
恋心を自覚したアマンダはオリ主のために自分を磨き、振り向いてもらおうと必死に頑張っていた。そんな彼女の事を、コンカート・ファミリーの構成員達が陰ながら応援していた。
敵に対しては冷酷だが身内には非常に甘いこのファミリーは、惨殺事件をきっかけに壊滅まで一直線に進む。
・惨殺事件を引き起こした赤毛の女
初対面でオリ主に一目惚れからの猛アタック。しかし、全く手応えが無い事にびっくり。今まで私に迫られて陥落しなかった男なんていなかったのに……!!
今まで付き合って来た男達とは正反対の反応を見せるオリ主にさらに興味を持ち……それがいつしか狂愛に変化。殺して自分のモノにしたいと願うようになる。
夜這いに行った先で"シンジ"のコンカート・ファミリーに対する"愛"を聞き、内心で怒り狂っていた。私以外の誰かに愛される事も、私以外の誰かを愛する事も許さない……!!
念入りにコンカート・ファミリー抹殺計画を考え、それを実行。屋敷内にいた構成員とジェラルド、アマンダを殺害した。
後にやって来たオリ主が怒りを爆発させた姿を見て、愉悦に浸る。いいわ、最高よシンジ!!――私と、殺し
・飼い主の重過ぎる昔話を聞いた忠犬
和哉さん……(;ω;)