忠犬と飼い主の非日常   作:herz

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・ジェイムズ視点

・普通の会話は「」、盗聴器越しに聞こえる会話は《》。




――決着の時は近い【後編】

 

SIDE:ジェイムズ・ブラック

 

 

 ……夕方。荒垣君と沖矢昴に変装した赤井君は喫茶店に向かった。私とジョディ君はキャメル君が運転する車に乗り、喫茶店の近辺で待機している。

 後に荒垣君が赤井君と別れた後、彼を拾うためだ。それから血塗れの悪魔を捕獲する場所まで向かう。

 

 現在。我々は車の中で盗聴器越しに荒垣君達の会話を聞いていた。

 

 

《……視線は相変わらず、ですね》

 

《奴はまだ食い付いている。このまま、奴を捕獲するまで引き付けよう》

 

《はい。……それはそれとしてこの紅茶、美味しいです》

 

《だろ?自分で淹れるのもいいが、たまにこの喫茶店の紅茶が飲みたくなるんだ》

 

《和哉さんが淹れる紅茶の方が美味しいですよ?》

 

《世辞はいらねぇ》

 

《いやいや。そんな謙遜することはないでしょう》

 

《はいはい》

 

 

 

 

「……何だか、力が抜けるわね。私達よりも囮役のカズヤ達の方が緊張感が無いじゃない……」

 

「あはは……荒垣さんと赤井さんらしいというか……何というか」

 

 

 ジョディ君は呆れ、キャメル君は苦笑いをしている。私は……少し違う事を考えていた。

 

 

「……いや。おそらく彼らは、互いを信頼しているからこそ緊張感が無いのだろう。相手が別の誰かだったら、また違っていたかもしれない」

 

「なるほど……確かに、そうかもしれませんね」

 

「まぁ、そうね。……ちょっと安心したわ。カズヤの長期任務の話を聞いたから、てっきり彼が血塗れの悪魔に復讐するために暴走しちゃうんじゃないかと……」

 

 

 ジョディ君の心配はもっともだ。……しかし、大丈夫だろう。荒垣君には赤井君がついている。

 

 

 私からあの真っ赤なメッセージカードを奪い取った後、荒垣君はいつもの落ち着いた態度はどこへやら。まるで鬼のように怒り、殺気立っていた。

 

 私はヨーロッパの長期任務の報告を聞いて、後に時間を取って彼とその件について話した事がある。その時の彼は表面上は淡々としていたが……何かを抑え込んでいるような、そんな気配があった。

 それを心配してあれこれ声を掛けてみたものの、あまり効果はなかったと思う。遂にはこの件についてはできれば追及しないで欲しい……そう、遠回しに拒絶されてしまった。

 他の事であれば話してくれるのに、長期任務について聞こうとすると途端に心を閉ざす……それは誰に対しても同じだった。

 

 そんな彼の心を開いたのは、赤井君だ。

 

 あのメッセージカードの一件。怒りで我を忘れた彼が冷静になったのは、赤井君のおかげだった。

 荒垣君は赤井君に長期任務について大体の事を打ち明けていたらしい。私はそれを聞いて、内心では驚愕していた。心を閉ざしていた荒垣君からどうやって話を聞き出したのだろう、と。

 

 それを、赤井君と2人きりの時に聞いてみたところ……彼は自分から赤井君に話してくれたそうだ。

 

 

「飲み会の後、和哉さんに聞きたいか?と言われて、正直に"聞きたい"と答えたら話してくれたぞ」

 

 

 決して、酒に酔っていたから口が軽くなった……というわけではないだろう。そもそも、荒垣君は滅多に酔わない。

 相手が赤井君だから、心を開いて全てを明かした。……それを悟った時、私は赤井君の事が羨ましくなってしまった。

 

 荒垣君が、私の憧れの人の息子だったからだ。……あの人の息子の心を開いたという事は、赤井君があの人に興味を持たれる可能性が高い。

 

 

 ――荒垣君は、彼の父親によく似ている。見た目ではなく、心の在り方が。

 

 彼の父親……私の元上司で、かつての敏腕捜査官は無口で無愛想だが、不器用な優しさを持つ男だった。しかし……なかなか気を許してくれない人だった

 プライベートは謎に包まれており、FBIの中でもそれを知る者はいなかった。

 

 彼が結婚していて子供までいる事を知ったのは、FBI捜査官になった荒垣君に出会ってからだ。その時には既に、彼はとある任務中に負った怪我が原因で退職していた。

 私や、彼の事を知っているベテランの捜査官達……彼のチームに所属していた者達はとにかく驚いた。

 

 荒垣君は彼の息子だとは思えない程に社交的だったが……長く付き合っていると、荒垣君が密かに線引きをしている事が分かった。

 その線引きの内側に入る事ができるのは、荒垣君に心から信頼されている者だけだ。……それは、非常に警戒心が強かった彼の父とそっくりだった。

 

 確かに荒垣君は彼の息子なのだと、その時改めて思った。

 

 

(荒垣君は赤井君を、その線引きの内側に招き入れたのだ)

 

 

 父親によく似て、警戒心の強い荒垣君が心を開いたという事は……そういう事なのだろう。

 

 

《……なぁ、昴》

 

《何ですか?》

 

《――死なないでくれ》

 

 

 荒垣君の声を聞いて、息を呑む。……彼のこんな弱々しい声は、今まで一度も聞いた事がない。

 私と同じ事を考えたのか、運転席にいるキャメル君と助手席にいるジョディ君が顔を見合わせた。

 

 

《……あなたらしくないですね。どうしたんですか?》

 

《分かるだろ。……お前が奴よりも強いのは確かだが、それでも心配なんだ》

 

《ふむ。では、こうしましょうか。――俺に命令しろ》

 

《命、令……》

 

《そう、命令。……俺はあなたに忠実な犬だ。忠犬は飼い主の命令を必ず守る》

 

《…………》

 

《俺の愛しいmaster (ご主人様)。――あなたは俺に、何を望む?》

 

 

 

 

 

 

《――死ぬな。……これは、命令だ。必ず守れ》

 

《――Yes, master(はい、ご主人様)。必ず守ります。命を掛けて》

 

《死ぬなって言ってんのに命掛けてどうすんだよ阿呆》

 

《あっ》

 

《…………》

 

《…………》

 

《……くっ、》

 

《ふふ、》

 

《 《――っ、ははははは!!》 》

 

 

 急に笑い出した2人。……我々は3人揃ってビクッと肩を震わせた。

 

 

《お前、実は馬鹿だな?今何も考えずにそう言っただろ!?》

 

《馬鹿ですみません!》

 

《素直か!?……ふ、はは……あーもう、なんか馬鹿馬鹿しくなってきた》

 

 

 

 

「……あの2人が、あんな風に大笑いするなんて……」

 

「驚かせないでよね!全く……」

 

 

 ……そう言いつつ、キャメル君もジョディ君も安心したように笑っている。

 

 

《もしも、お前が命令を守れずに死んだら――》

 

《……死んだら?》

 

《…………》

 

《……和哉さん?》

 

《――泣くぞ》

 

《えっ?》

 

「「「えっ?」」」

 

 

 奇しくも、赤井君と我々の声が重なった。

 

 

《1日思い切り泣いて、その後は前を向いてやる。後ろは見ない。……そのうち、お前の事を忘れちまうかもな?》

 

《…………それは困りますね。もし、俺が死んだら――和哉さんには俺の墓の前で毎日泣いて欲しいです。死ぬまで》

 

《おい、》

 

《ふっ……冗談ですよ》

 

《冗談?…………まぁ、いい。――行くか》

 

《えぇ。そろそろお開きの時間ですね》

 

 

 はっと時計を見ると、時間が迫っていた。……ここからは荒垣君と別れた赤井君が囮になり、血塗れの悪魔を誘き寄せる。

 

 

《じゃあな。今日は楽しかったぜ》

 

《私も楽しかったです。――では、また》

 

《――おう。またな》

 

 

 

 

「……ミステリー小説なら、これが今生の別れになるところだが、」

 

「ちょっと、ジェイムズ。不謹慎よ」

 

「いやいや、まだ続きがある。――我らがエースは必ず、上手くやってくれるはずだ」

 

「……ふふっ。そうね!」

 

「えぇ!……大丈夫ですよ。赤井さんなら」

 

 

 それから、しばらく待っていると……赤井君の声が聞こえた。

 

 

《――獲物はこちらに食い付いた》

 

 

 

 

「――キャメル君。荒垣君の下へ」

 

「はい」

 

「……ここまではカズヤの作戦通りね」

 

 

 血塗れの悪魔が赤井君の方へ向かった後なら、車を動かして荒垣君を回収しても気づかれないはず。

 

 

 ……やがて荒垣君を発見した我々は、彼を車に乗せて次の場所へ向かう。

 

 

「……キャメル。できる限り急いでくれ」

 

「了解!」

 

 

 キャメル君に短くそう言った後。荒垣君は黙り込んだ。

 

 

「……やはり、赤井君の事が心配かね?」

 

「……まぁな。でも、あいつは俺の命令を必ず守る。――そう、信じているんだ」

 

「――――」

 

 

 静かに。……それでいて力強く言い切った荒垣君の目は、輝いていた。

 

 その目は――荒垣君が、父親について語っていた時の目と同じで。

 

 

「…………そういえば、」

 

「うん?」

 

「――少し、似ているね。……君の父親と赤井君」

 

「…………んん?」

 

 

 私の言葉に首を傾げた荒垣君は、腕を組んで上を向く。

 

 

「……秀一に関しては俺という例外を除いて、基本的に無口」

 

「うむ」

 

「無愛想」

 

「うむ」

 

「不器用」

 

「うむ」

 

「……実は、優しい」

 

「うむ」

 

「天才」

 

「うむ」

 

「…………あれれーよく似てるなぁ」

 

「……コナン君を思い出すセリフだな。棒読みだが」

 

「マジで所々似てるぞ……?というか、まだまだありそうだな。共通点」

 

「……カズヤの父親ってどんな人?ジェイムズ、知り合いなの?」

 

 

 ジョディ君がそう聞いてきたが、私は首を振る。

 

 

「すまないな、ジョディ君。あの人の事は本人の希望で、詳しく話す事ができないのだ。荒垣君にも口止めされている」

 

「俺の親父は慎重……悪く言えば神経質な人で、個人情報の扱いにはかなり気を使っているんだ。もちろん、それが必要になった場合は状況に応じて明かす事もあるが……」

 

「そう……秘密主義って事?」

 

「いや、ただ警戒心が強いだけだ。俺以上にな。基本的に、家族以外の人間には気を許さない人だ。……あ、勘違いしないでくれよ?本当は優しい人なんだ」

 

 

 私もそれには強く頷いた。……荒垣君の言う通り、あの人は荒垣君以上に警戒心が強い。まるで野生動物のように。しかし、決して冷たい人間ではない。

 

 

「――皆さん。そろそろ目的地に到着しますよ」

 

 

 キャメル君がそう言うと、荒垣は――挑戦的な笑みを見せる。

 

 

 

 

 

 

――決着の時は近い

 

 

 

 

 

 

(待ってろよ、血塗れの悪魔。お前の事は、自分(・・)が絶対に――)

 

 

 

 

 

 





・囮捜査中の飼い主

 遊んでいる……と見せかけて、ちゃんと真面目に任務を遂行中。

 時計屋で(自分に対しては)素直な弟子をからかって遊んだ。任務は忘れてない。大丈夫
(`・ω・´)キリッ
 ずっと遊んでしまうと拗ねるので、切りの良いところで"アメ"をあげた。ただし、それが赤井のハートを正確に撃ち抜いているという自覚はない。

 服屋で赤井の逆襲を受けた。着せ替え人形は疲れるがそれよりも後ろ!後ろの視線!!あと、絶対いろいろ勘違いされるから意味深な態度やめろ。
 最後に入った喫茶店で、つい弱気になってしまったが、赤井の言葉に元気付けられる。……で、お前が死んだら毎日墓の前で俺に泣いて欲しいだと?――それ、本当に冗談か?

 決着の時が近い事を悟って、思わずニヤリ。待ってろよ、血塗れの悪魔。お前の事は、自分(・・)が絶対に――


・囮捜査中の忠犬

 久々に沖矢昴の出番。デート()と見せかけて真面目に任務遂行中。

 誰かに時計をプレゼントしようとするオリ主に独占欲を発揮したら、全力で遊ばれた。
 散々遊ばれたが、最終的に特大の"アメ"を与えられて天を仰ぐ。これだから俺の飼い主は!!

 からの、服屋で逆襲劇。和哉さんは俺の着せ替え人形!異論は認めない!だがしかし、任務も忘れていない。意味深な態度を見せてローザを煽った。
 喫茶店で弱気になったオリ主に、命令をするよう求める。カッコ良く決められたら最高だったのに、最後でミスをした。馬鹿ですみません!……でも、それで和哉さんが元気になるならいくらでも馬鹿になります。

 オリ主と別れても気味の悪い視線を感じていた。これは食い付いたと判断し、盗聴器に向けて符丁を口にする。――獲物はこちらに食い付いた。


・煽られまくった赤毛の女

 ――あの男、コロス<●><●>カッ





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