忠犬と飼い主の非日常   作:herz

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・赤井さん視点。

・オリキャラの女(ローザ)が変態です。気持ち悪いです。一度見て、無理と思ったらブラウザバック!

・戦闘シーンはほとんどありません。




煙草と涙と忠犬と共に、過去へ別れを告げた【前編】

 

 

SIDE:赤井秀一

 

 

 和哉さんと別れ、しばらく歩いていると――あの気味の悪い視線を感じた。……よし。

 

 

「――獲物はこちらに食い付いた」

 

 

 盗聴器に向けて小さくそう呟き、俺は大通りを逸れて人気のない道に入った。

 事前に覚えておいた、仲間達が待ち構えている目的地への最短ルートを確認する。血塗れの悪魔に追われながらそのルートを進むのは少し厳しいかもしれないが、そこは臨機応変に行動しなければ。

 

 そして、大通りからかなり離れたところで――俺は咄嗟に、横へ飛び退いた。

 

 さっきまでいた場所を銃弾が通り過ぎる。……サイレンサーがついているのか、音は聞こえなかった。自分の勘に従って正解だったな。

 

 

「あら?……意外に勘が鋭いわね。日本人ってどいつもこいつも平和ボケしてるんじゃないかと思ってたわ……あ、私のシンジは別ね!彼の動きの俊敏さといったらもう……!ふふ、ふふふ……っ!!」

 

 

 振り向くと、赤毛の女がいた。……こいつが、血塗れの悪魔。

 

 

(――和哉さんを、傷つけた女)

 

 

 そう思うとつい、握った拳に力が入ってしまう。……それを隠し、まるで怯えているように後退りをする。

 俺の役目は囮。ここから逃げると見せ掛けて、この女を目的地まで誘導しなければならない。殴るにはまだ早いのだから、落ち着け。

 

 

「……逃げられるものなら、逃げてみなさい。もしかしたら、生きて帰れるかもしれないわ。でもね――私のシンジに、あんなに馴れ馴れしくしていた罪は重い」

 

「っ、」

 

「絶対に、逃がさない!」

 

 

 その言葉をきっかけに、俺は走り出す。後を追い掛けてくる女の足音が聞こえた。たまに飛んでくる銃弾やナイフを紙一重で避けつつ、目的地へ向かう。

 頃合いを見てそれらをわざと体に掠らせて、俺が疲れていると勘違いさせた。そうすれば、

 

 

「あは、あはははっ!もう限界なんじゃない?今諦めてくれたら、シンジにベタベタ触ってたその指を切り落とすだけで許してあげるわよ?あとは楽にしてあげる!!」

 

 

 ――ほら。奴が油断してくれる。目的地まで、あと少しだ。

 

 

 ……銃弾やナイフが体に当たったところで今さら怯む事はないが……それよりも今、血塗れの悪魔が口にしている言葉の方が精神的なダメージになっている。

 

 

「だいたい、私のシンジとデートなんて百年早いのよ!今の私だとシンジが警戒するから彼の体に触れる事さえも許されないのに!!なんで、なんであんたみたいな胡散臭い男が許されて私がそれを許されないの!?

 男のくせに私のシンジに服なんて贈って……!後々脱がせてあの素敵な体を貪るつもりだったの!?シンジはノーマルなのに!女の私を抱いてくれない!むしろ私が彼を抱いて喘がせたいの!!あの綺麗な顔が快楽に歪む、その瞬間を見たいの!!それなのに――誰よあんた!!」

 

 

 ヒステリックな女ほど喧しい存在はいない。それに見事な勘違いをしているようだが、俺だってノーマルだぞ。和哉さんを尊敬し、崇拝しているが性的な対象として見た事は一度もない。

 そしてこの女、和哉さんの上に乗るつもりなのか。あの男前を相手によくそんな事が言えるな。……というかこれは確かに痴女ですね、和哉さん!あなたの気持ちがよく分かりました!!

 

 

「早く――早く、早く、早く、シンジを殺して私の物にしないと。次にあんたみたいな男や他の女が寄って来る前に……殺して、綺麗な死体を持ち帰って、そうしたら彼の服を全部脱がせて上に乗って……!

 ――死体から喘ぎ声が出るわけないし子供も作れないけど、きっと充分満足できると思うの!!それでようやく、シンジは……いえ、荒垣和哉の全ては私のモノになるわ!!」

 

 

 ――死体愛好家(ネクロフィリア)、だと……!?

 

 待て。待ってくれ。和哉さんからそんな話は聞いていない!!まさか、たった数年でここまで歪んだのかこの女!

 

 

(確か、こういうのを日本では"ヤンデレ"というのではなかったか?)

 

 

 ストーカーで、ヒステリックで、勘違い女で、痴女で、変態で、死体愛好家(ネクロフィリア)で、ヤンデレ。そして変態。……あ、変態って2回言った。俺もかなり混乱しているようだ。とにかく――

 

 

(――率直に言って、ド変態)

 

 

 鳥肌が立った。気持ち悪い。夢に出そうだ。……もしも万が一夢に出たら、申し訳ないが和哉さんのベッドにまた忍び込むとしよう。

 

 

 追って来る女に少し恐怖を抱きながら誘導し……ようやく、仲間達が待つ目的地へ到着した。

 

 

「――伏せろ!!」

 

「っ!!」

 

 

 和哉さんの声に従い、素早く屈む。銃声が聞こえた。……発砲したのは和哉さんだった。彼は悪態をつく。

 

 

「……ちっ。上手く避けやがったな、クソ女」

 

「赤井君!こっちへ!」

 

 

 和哉さんの後ろからジェイムズが声を掛けて来た。彼の部下達が銃を構えている。後ろを警戒しながらそちらへ向かい、和哉さんの隣に並んだ。

 女の背後ではジョディとキャメルを含め、他の仲間達が逃げ道を塞いでいた。上を見れば、パルクールを使える者達が女の様子を窺っている。……包囲網が完成した。

 

 

「赤井?……っ、まさか……!?」

 

「その、まさかだ」

 

 

 変声機のスイッチを切り、沖矢昴の仮面を取っ払った。俺の素顔を見た血塗れの悪魔が、目を見開く。

 

 

「…………ふふ……なるほど。あなたが一般人に変装して囮になって、この私をここまで誘導したのね。もしかして、シンジが考えた?」

 

「あぁ。そうだよ。……お前なら、引っ掛かってくれると思ってさ」

 

 

 和哉さんがそう答えた。……いつもと口調が少し違う。"シンジ"の口調か?まさか、またそっちへ引きずられている……?

 

 

「……その男と特別親しいわけじゃない?あなたはノーマルのまま?」

 

「ノーマルだけど?」

 

「……あははっ!そう、ならいいわ!私のシンジが他の誰かの毒牙に掛かっていないならそれで!」

 

「……相変わらずうんざりする程の色ボケ女だね。頭がどうかしてる」

 

「つれないわねー……あの屋敷で、楽しい楽しい殺し()をした仲なのに」

 

 

 ……和哉さんの肩が揺れた。俺も、周りにいる捜査官達も、異様な空気に呑まれて口を開けない。

 

 

「覚えてる?私が、あなたの大事な居場所をぶち壊した時の事を」

 

「…………覚えているよ。当然だろ?忘れるはずがない……!」

 

「ふふふ……私もちゃんと覚えてるわ――あなたの大事なお嬢が、私の手でバラバラにされていく、その過程を!」

 

「――――」

 

「まず切り刻んだのは、あの憎たらしい顔よ!それから体!あの顔と体でシンジを誘惑していたなんて許せなかったから!あとは指を切り落として、次に手首。その次に足首、膝、太もも……そうやって順番に切り落としていったら、うるさい悲鳴が急に途切れて――死んじゃった♪

 あとは死体の胸を切り刻んだり腕を切り落としたり上半身と下半身をお別れさせたり……そして最後に首を切り落としたのよ!!あの女の汚くなった顔がもう、傑作で――」

 

「――あ"ぁぁぁぁっ!!」

 

 

 血塗れの悪魔に飛び掛かりそうになった和哉さんを、羽交い締めで必死に取り押さえた。その間に我に返った仲間達が俺達の代わりに前に出る。

 

 

「和哉さん!和哉さん、駄目です!今あの女の下へ行ったら奴の思う壺だ!!」

 

「離せよ!あの女は俺が殺す!!」

 

「ふふ、あはははっ!!そうよ、それでいいの!私を憎んで!私を見てよシンジ!!私はあなたの居場所をぶち壊した女よ!あなたのボスの首を切り落とし、お嬢の体をバラバラにした女!!」

 

「っ、殺してやる!この―――――がぁ!!」

 

 

 普段滅多に言わないスラング英語まで出てきた。……駄目だ。この人は今、シンジ(偽りの自分)に呑まれている。……どうすれば、この人を荒垣和哉(本当の自分)に戻せる?

 

 ……そうだ。簡単な事じゃないか。――まずは、和哉さんの意識をあの女から俺に向けさせればいい。

 

 俺は彼の体を無理やり振り向かせて、その顔を両手で掴んだ。彼の目と、俺の目が合う。

 

 

「――あなたは、荒垣和哉。俺が心から尊敬する師匠。俺が心から崇拝する飼い主。そして、俺だけの唯一無二だ」

 

「――――」

 

 

 俺に過去を明かしてくれた、あの日。……和哉さんに求められた言葉を、そのまま口にした。

 

 

「自分を見失うな。あなたはもう"シンジ"ではなく、"荒垣和哉"に戻った。……そうだろう?」

 

「…………」

 

「いつか2人であの女を逮捕すると……約束したはずだぞ!」

 

 

 ……いつの間にか、仲間達があの女を捕らえようとして戦闘に入っていたが、そんな事よりも和哉さんの方が大事だ。

 

 

 その時――和哉さんが、微笑む。

 

 

「――俺は荒垣和哉だ。頼れる愛弟子兼愛犬の師匠で、飼い主。……赤井秀一の、唯一無二」

 

「……和哉さん」

 

「もう、大丈夫だ。……迷惑を掛けたな。すまない」

 

「……ようやく、帰って来ましたか」

 

「あぁ。二度目はない。あの女を捕まえて、過去に決着をつける。――力を貸してくれ、秀一」

 

「っ――はい!」

 

 

 俺達の様子が変わった事に、血塗れの悪魔は気づいていない。今なら不意を突けるだろう。

 

 

 互いにパルクールを利用して人垣を乗り越える。……先に、和哉さんがあの女に殴り掛かった。彼の拳を間一髪で止めた女が、僅かに怯む。

 

 

「なっ、シンジ……!?」

 

「――秀一!」

 

「はい!」

 

 

 その隙を狙い、俺が足払いを仕掛けた。奴の体勢が崩れた瞬間、和哉さんが女の右腕を取り、手からナイフを叩き落とす。

 そして俺が奴の左腕を取った後、2人で奴を地面に押さえ付けた。

 

 

「和哉さん!」

 

「おう!」

 

 

 和哉さんが取り出した手錠の片方を受け取り、左手首に嵌めた。

 

 

「うっ……!離して!!」

 

「そう言われて手を離す馬鹿がどこにいる!?秀一、こいつをちゃんと押さえておけよ!」

 

「えぇ。分かってます!」

 

「離しなさいよっ!シンジ――」

 

 

 

 

 

 

「――俺はシンジじゃねぇ。……荒垣、和哉だ」

 

 

 血塗れの悪魔の右手首に、手錠が嵌められた。

 

 

 

 

 

 






 後編は20時過ぎに投稿します!
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