・赤井さんがプチヤンデレ。
・非日常シリーズ最終話の前半です。
血塗れの悪魔を逮捕した日から、その後始末を終えるまで……長かった。
あの女を逮捕して事情聴取してブタ箱にぶち込むだけで終われたら良かったのだが、そういうわけにもいかない。
あの女がヨーロッパで起こした数々の事件についても確認しないといけなかったし、その身柄に関して向こうの警察と少し揉めてしまった。
そのせいで向こうの警察関係者に顔が利く俺が奔走する事になり、忙しい毎日を送っていた。全てはあの女のせいだ!!
……それらが落ち着いた頃。ようやく以前屋上で秀一と約束した、休日の買い物に行く事ができた。
秀一にはあまり無理して行かなくてもいい、と言われたが……それでは俺の気がすまない。
屋上で最後の煙草を吸い、コンカート・ファミリーを改めて弔った時……俺1人だったら泣けなかったと思う。1人で泣いても空しいだけだ。あいつがいたから、安心して泣けた。
それに秀一は、あの作戦中に俺を正気に戻してくれた。秀一がいたから奴を逮捕する事ができたのだ。
そのお礼に、あいつの願いを素直に聞き入れる事にした。……秀一が着る服を俺に選んで欲しいというのは、予想外だったが。
それに加え、当日は囮捜査の時に秀一が選んだ服を身に付けて来て欲しいと言っていた事を思い出し、実際にそうしたら……俺が軽く引く程に喜ばれた。何がそんなに嬉しかったんだ?
その理由を考えて……あぁ、いつもの執着心やら独占欲やらが原因だな、と内心で納得した。
━━━
━━━━━━
━━━━━━━━━
……買い物に行った帰り。秀一が運転する車の助手席に乗っていた俺は、ふと思った事を秀一に聞いてみた。
「秀一。お前、血塗れの悪魔を誘き寄せる囮捜査をやった時に、喫茶店で俺に言った言葉を覚えてるか?」
「えっと……どれの事ですか?」
「もし秀一が死んだら、お前の墓の前で死ぬまで毎日泣いて欲しい、ってやつ」
「……あぁ。確かに冗談で言いましたね。それが何か?」
「――冗談じゃなくて、本気で言っただろ」
「…………バレましたか」
苦笑を浮かべた秀一は、横目で俺を見た。……目からハイライトが消えている。
「もしも俺が死んだら、あなたの心に間違いなく穴が開きますよね」
「……そうだな。そうなるだろう」
「その穴を埋めようとして、新たに大切な人を作ろうとするかもしれない。……例えば、恋人とか」
「…………さぁな。そこまでは分からん」
「俺の死があなたの心に穴を開けて、その穴を埋める存在が俺以外の誰かになる――それが、どうしても嫌なんですよ」
「っ!!」
秀一の表情が突然、抜け落ちた。……こいつのこんな顔、今までに見た事がない。
「……だから。和哉さんには俺が死んだ後、俺の墓の前で1日に1回は泣いて欲しいです。――そんなあなたの姿を見たら、誰だってあなたの心に付け入る隙は無いと思って、去って行くでしょう?」
「――――」
「……そうだ、和哉さん。俺も聞きたい事があるんです」
「え?」
次の瞬間、抜け落ちた表情は微笑みに変わる。……いつもの秀一に戻ってくれて、安心した。
「和哉さんも喫茶店で、俺に言いかけた言葉がありましたよね?」
「ん……?」
「ほら、もしも俺が命令を守れずに死んだら……と言った後に黙り込んで、その後に泣くぞって言った話です」
「…………」
「本当は他に言いたい事があったのでは?」
「…………目ざとい奴め」
俺は深くため息をついた。……確かに、秀一の言う通りだ。あの時の俺には口をついて出そうになったが、慌てて呑み込んだ言葉があった。
「気になります。何を言おうとしたんですか?」
「…………」
「…………俺には言えない事ですか」
「……言った後にお前がどんな反応をするのかが怖くて言えないんだよ!」
昔ならまだしも、今の俺はこいつの心の闇に気づいている状態。だからこそ恐ろしい。こんな事を言ったら秀一が何を言い出すか……!
あの時の俺はどうかしていたんだ。仲間達が盗聴している中でヤバイ事を言いそうになった。きっと、秀一に感化されたのだろう。
「それは――ますます、聞きたくなった」
ヤバい。このにんまりとした顔!俺に何がなんでも吐かせるつもりだ!こうなったら最後、俺が黙れば黙り続けるほど、後の仕返しが恐ろしい事になる!!
「……その顔は、話さないと後々酷い目に遭うと悟りましたね?」
「うぐ……っ!」
「そうですね……話してくれないのであれば、以前本部で広がった噂を再燃させてみますか」
「な、何をする気だ?」
「当然事実ではありませんが、俺と和哉さんがSMプレイをしているという――」
「あーーっ!!分かった!分かったよ!言うから!!」
その噂か!!俺がSM大嫌いだから、それを聞いた時に激怒した事をよく覚えている!
それをまた広めるわけにはいかない。仕方なく、打ち明ける事にした。……こいつ、何て言うかな?怖いなぁ……
「…………あの時、な。秀一が死んだら――俺が死んだ時にお前がやろうとしている事と、同じ事をやってやるって……言おうとしたんだ」
「同じ事って――っ!?」
限界まで目を見開いた秀一が、俺を凝視する。待て、運転中だろお前!
「秀一、前見ろ!」
「!!……すみません。でも和哉さん、それは――俺が死んだらあなたも俺の後を追うという事ですよね?」
「……そうなる。……多分お前に感化されたせいだろう。どうかしていたんだ、俺は」
「…………」
「……秀一?」
「……いいですね、それ。俺が死んだら和哉さんもついて来る――最高の冥土の土産じゃないですか」
そう言って、鬱蒼とした笑みを浮かべた。目のハイライトも無い。ほら、やっぱり!こういう反応を見たくなかったから黙ってたんだよ!
怖いよ、こいつ。本気で言ってやがる。でもな、
「――言っておくが、俺はお前の後を追うつもりはねぇぞ」
「えっ……?」
「そんな世界の破滅を見たかのような表情やめろ」
とりあえず、滅茶苦茶ショックを受けている事はよく分かったから。
「あのな……最初から死ぬつもりで生きるな。どうせなら――お前も老衰を目指せ。きっと俺の方が先に老衰で死ぬだろうから、俺がお前の後を追う事はない。
お前は俺が死んだ後にしばらく生きて……それから、眠るように死んでくれ。それができたらご褒美に――俺が、お前を迎えに行ってやるよ」
「――――」
…………反応がない。それが心配になって、秀一の顔を盗み見る。
「……お前――何で泣くんだよ」
「……すみません。感動して、つい。……そうですね。その方が――幸せ、だな」
そう言って泣き笑いする秀一を見ていたら、こっちまで涙腺が緩みそうになった。
やめろよ、お前。何で迎えに行くって言っただけで泣いてるんだ。俺はそんな特別な事を言ったつもりはない。ただ、その方が互いが死んだ後に自殺するよりも平和だと思っただけだぞ。
でも、お前がそんなに嬉しそうに泣くものだから――意地でも実現させたくなった。
本気で老衰目指そうか。秀一も巻き込んで健康的な生活をしよう。最初は秀一のヘビースモーカーを改善するところから始めようかね?
「……今、和哉さんの事を抱き締めたくて仕方ないんですが」
「…………運転を優先しろ」
「つまり、家に到着したら抱き締めてもいいんですね!分かりました。超特急で帰りましょう」
「法定速度を守れ!絶対だ」
「でも、和哉さん――」
「――
「…………
後編(最終話)は20時過ぎに投稿します!