「……すみません。感動して、つい。……そうですね。その方が――幸せ、だな」
――泣いたり、
「秀一。――Go!奴を捕まえて来い!」
「――Yes, master!」
――共に事件を解決したり、
「多頭飼いは反対だと、俺は常日頃から言っていたはずですよ。何やってるんですか?――あなたは例え死後の世界でも俺だけの飼い主でいてくれるんでしょう!?飼い犬候補を増やしてどうする!?」
「は?多頭飼い?だから違うって言ってるだろ!――俺の飼い犬は永遠にお前だけだって前に言ったじゃねぇか!!」
――痴話喧嘩(笑)をしたり。
――これが、忠犬と飼い主の非日常。
・三人称視点。
・忠犬と飼い主の非日常シリーズ、エピローグ。
・今回で連続投稿は終了&シリーズ完結です!番外編はpixivで投稿します。
その日。FBIのベテラン捜査官2名が、数人の新人捜査官を連れてとある事件の捜査を行っていた。
ベテラン捜査官達がある程度の捜査方針を決めた後、それ以降は基本的に新人達の判断に任せられた。これは、新人達に経験を積ませるためである。
その中の1人である若い男――スティーブの緊張はピークに達していた。
ベテラン捜査官のうちの1人――"FBIの英雄"、赤井秀一。……彼はスティーブの憧れだった。そんな彼の前で失態をおかすわけにはいかないと、必死になっていたのだ。
「――はい、肩に力が入り過ぎ!」
「うわっ!?」
そんなスティーブの肩を、後ろから叩いてきた者がいた。彼が文句を言ってやろうと振り向くと……そこにいたのはもう1人のベテラン捜査官――荒垣和哉だった。
「あ、荒垣捜査官!?」
「緊張する気持ちは分かるが、もう少し力を抜け。張り切り過ぎても視野が狭まるだけだ」
「…………すみません」
謝っているが、スティーブは不満だった。童顔で、女顔で、それも純日本人であるこの男が、何故自分達の上司なのか……
彼は赤井の師匠だという。あの普段はクールでカッコいい赤井が、荒垣に対してはまるで犬のように――本人は"自分は荒垣の犬である"とFBI内で公言している――接しているなんて……スティーブには信じられなかった。
こんな頼りない男のどこが良いのか、不思議で仕方なかった。それはスティーブだけではない。他にもそれを疑問に思っている新人達がたくさんいる。
「……秀一の事が気になるか?」
「えっ!?そ、それは、その……」
「はは、分かってるよ。……あいつは本当に有名になったからな。秀一に憧れている新人は多い。……でもな。秀一の事ばかり気にしていると、重要な事を見逃してしまうぞ」
「…………気をつけます」
ボソボソとそう呟いたスティーブに、荒垣は苦笑いを浮かべた。彼はドキッとする。……自分が荒垣を尊敬していない事に気づかれたかもしれない。そう思ったのだ。
「……まずは自分の足元やその周辺を見なさい。秀一は背が高いから、彼を見る時は必然的に上を見る事になるが……上だけでなく、下もよく観察して見るといい。
これは物理的な問題だけでなく、精神的な問題にも言える。最初に自分の足元という基盤を固めなければ、余所見をしているうちにそれが崩れてしまうかもしれない……俺も、若い時はそれで失敗した事があるんだ」
「っ、」
「今はまだ、この言葉の意味が分からないだろう。だが、俺が言った事を頭の片隅にでも置いといてくれると嬉しい。……では、引き続き頑張ってくれ」
「は、はい……」
真剣な顔で語った後、荒垣は去って行った。……スティーブは面を食らっている。今まであまり尊敬していなかった荒垣の言葉に重みを感じ、その空気に呑まれたのだ。
スティーブに自覚はなかったが……それは、荒垣が敏腕捜査官としての片鱗を見せた瞬間だった。
(――"上だけでなく、下もよく観察して見るといい"……だったか)
荒垣のその言葉通り、スティーブが自分の足元やその周りを観察してみると……
「あっ……!」
「お?どうした、スティーブ」
「これ見てくれ!」
「どれどれ――っ、これはまさか……!?」
「犯人が残した痕跡!?」
新人達が沸き上がる中、スティーブはちらりと荒垣を見た。……目が合った。
「っ!!」
荒垣はスティーブに向かって微笑み、口を動かす。――
スティーブは何故か恥ずかしくなり、彼から目を逸らした。
「……和哉さん?……何故新人とアイコンタクトを?」
「さっき、彼にちょっと助言したんだ。……さっそく活かしてくれたようで何より」
「浮気ですか?多頭飼いは許しませんよ」
「違う。いつも言ってるだろ、飼い犬は1頭で充分だ」
「分かってますよ。――和哉さんが生きている限り、あなたの飼い犬は俺だけだ。……いや、死後の世界でも飼い犬は俺だけですね!俺が老衰したら迎えに来てくれるんでしょう?」
「…………はいはい。俺の飼い犬は超大型犬1頭だけだよ。――永遠に」
―――
――――――
―――――――――
……捜査開始から数日後。スティーブ達新人捜査官は、犯人を追い詰めていた。
しかしそれは、荒垣と赤井から見れば深追いし過ぎている状態だった。
「待て、お前ら!無理をするな!追い詰められた犯人が何を仕出かすか分からないんだぞ!?」
荒垣がそう叫ぶも、彼らはそれに従わなかった。犯人を捕らえて、憧れている赤井の目に留まろうと欲をかいてしまったのだ。
その結果。さらに追い詰められて焦った犯人は、新人達が予想できなかった行動に出る。
「くそ……!くそ、くそぉっ!!捕まってたまるか!!」
路地裏の行き止まりに差し掛かり、新人達が捕らえようとした時――犯人はナイフを取り出した。
そのまま、新人達に襲い掛かる。……彼らは犯人に恐怖を抱き、満足に動く事ができない。
「邪魔だぁぁっ!!」
「っ――!?」
犯人のナイフが、スティーブに当たりそうになった瞬間――誰かが、その間に割って入った。
「あ――荒垣、捜査官……?」
「……馬鹿野郎が。――だから無理をするなと言ったんだ!」
荒垣は犯人からナイフを奪い、ついでに犯人を蹴り飛ばす。……腹に一撃を入れられた犯人は、ナイフを奪われても諦めず、新人達に背を向けて走り出した。
「っ、今だ……!」
「あっ、待て!!」
行き止まりは建物の壁ではなく、フェンスだった。犯人はそのフェンスを乗り越えて、さらに逃走する。
「逃がすか……!」
「いいや、お前らは動くな!もういい!!」
「はぁっ!?あいつを放って置けるわけないだろ!?あんたは馬鹿か!?これだから甘ったれた日本人は……!!」
新人の1人が、荒垣に暴言を吐いた。……荒垣はそれを無視して――自身の愛弟子兼愛犬に命令を下す。
「秀一。――
「――
赤井はパルクールを使ってフェンスを軽々と越えて行き、かなりのスピードで走り去って行く。……新人達は、それを呆然と見送った。
「……うわ、久々に酷いなこれは」
「え――っ、その左手は……!?」
「さっき、ナイフを止めるのに刃の部分をがっつり掴んでしまってな……この有り様だ」
スティーブと、他の新人達が愕然としている。――荒垣の左手が、血塗れになっていた。
スティーブの顔色が見る見るうちに青くなっていく。先ほど自分を庇った事が原因だと自覚したのだ。
「オレのせいで……!!」
「お前だけのせいじゃない。……連帯責任だ」
荒垣がゆっくりと新人1人ひとりの顔を睨むと、全員がそれに怯える。
「……俺は言ったはずだぞ。追い詰められた犯人が何を仕出かすか分からないと!」
「うっ……!」
「今回は運良く、俺1人が怪我をするだけで済んだ。だが次はどうなるか分からない。お前らが深追いしたせいで仲間達や一般人が怪我をするかもしれない。そして最悪の場合、誰かが命を落とすかもしれないんだぞ!?」
「…………」
「……犯人をとにかく追い詰めればいいわけじゃない。――FBIは、そんな甘い仕事じゃねぇんだよ!!分かったか!?」
「っ、はい!!」
真っ先に返事をしたスティーブに続いて、他の新人達も返事をした。
「次はねぇぞ。……しかし、だ――お前らの連携は悪くなかった」
「え?」
「深追いしていたものの、仲間同士でよく協力し合っていたと思う。……そこは及第点だ」
先ほどまで怒っていたはずが、左手の止血をしながら何故か新人達を褒め始める荒垣に、彼らは目を白黒させる。
「スティーブ」
「はい!?」
「お前は他の奴らの動きをよく見ていたな。時々鋭い指示を出していたし、よくやっていた。もっと自信を持っていい」
「は、……はい……」
「次にお前。……お前は反射神経が他の奴らよりも優れている。その長所を伸ばせ」
「うぇ!?……お、おう……」
「次は――」
……荒垣は順番に、新人達全員を褒めていった。新人達はまだ驚いていたり、照れていたりする。
さらにその間、荒垣は自分の応急処置まで終わらせていた。
そして、もっと詳しい助言が欲しい者には後に時間を作り、本人の長所や短所を教えてくれるという。――スティーブは、純粋に凄いと思っていた。
(叱る時は威厳たっぷり。褒める時は慈愛の眼差しで優しく声を掛ける……それに、オレ達1人ひとりの事をよく見ていた!!
しかも話しながら自分で応急処置もしてるし、後で個人に助言する時間を作るなんてアフターケア万全かよ!?
――この人、すげぇ……!!赤井さんが尊敬してる理由が今分かった!)
スティーブだけでなく、他の新人達も同じような事を考えていた。
そこへ、赤井が犯人と共に帰って来た。……何があったのかは不明だが、犯人は何故か青白い顔で気絶している。
「和哉さん!"取って来い"は成功させましたよ!褒めてください!!」
「ん。――
「はい!……っ、その手……!!」
「あぁ……ナイフを奪った時にミスった」
「――こいつ、半殺しにしてもいいですか?」
気絶している犯人を冷たい目で見下ろす赤井。……その、人を人として見ていないような恐ろしい目を見て、新人達の背筋が凍った。
「駄目だ。大人しくしてろ」
「…………はい」
しかし、荒垣がそう言っただけで赤井は大人しくなった。……ますます荒垣の事を尊敬する新人達。
「よし。犯人も秀一が捕まえたし……お前ら、本部に戻るぞ。気絶している犯人はお前らが運べ。……もしもそいつが目覚めて逃げようとしたら、絶対に取り押さえろ。もう失敗は許さねぇからな」
彼らが一斉に返事をすると、荒垣はきょとんとした表情を見せて……それから笑った。
「はははっ!良い返事だな!素晴らしい。――さぁ、帰ろう」
荒垣が先頭を歩き、その斜め後ろに赤井が続く。――スティーブは目をキラキラさせて、そんな2人の背中を追い掛けた。
さらに、他の新人達も犯人を抱えながらスティーブに続いて歩き出す。
忠犬と飼い主の非日常
――これは余談だが……
――後に、新人達の中から飼い主への弟子入りを志願する者が大量に現れ、忠犬は彼らを牽制するのに大変苦労したらしい。
――そして忠犬がその件について飼い主に"多頭飼い反対!"と猛抗議を行い、彼らの間ではしばらく
・非日常を過ごす飼い主
血塗れの悪魔を逮捕した後。忙しい毎日を送っていたが、ようやく落ち着いたので赤井と買い物に出掛けた。服装は赤井が選んだ服+自分で選んだ深緑の時計。
買い物の帰りに、ふと思い出した事を赤井に聞いてみると……自分の予想通り、冗談ではなく本気だった。
赤井(目のハイライト皆無)の告白を聞き、さすがに戦慄した。笑えない話だ……(((・・;)
それから逆に、自分が言葉を呑み込んだ事を見抜かれ、脅されて告白する羽目に。あの噂がまた広まったら死ぬ……!
赤井が死んだら自分も後を追うと言いそうになっていた。しかし、本気でやるつもりはない。俺が老衰で先に死んで、その後に老衰で死んだ秀一を迎えに行く。その方が平和だろ?……おい、何故泣く!?
新人教育、奮闘中。その結果、自分自身が弟子希望を量産させている事に気づいていない。弟子希望が増えたのも、赤井のようになりたいから、その師匠である自分の弟子になりたいのだろう……と、勘違いしている。
は?多頭飼い?だから違うって言ってるだろ!――俺の飼い犬は永遠にお前だけだって前に言ったじゃねぇか!!
・非日常を過ごす忠犬
オリ主に服を選んでもらい、ニコニコ。帰りはその服+オリ主にプレゼントされた赤と黒の時計を身に付けて帰った。
買い物帰りに以前言った冗談が本気であると見抜かれて、苦笑い(ハイライト無)俺が死んだ後に和哉さんの心の穴を埋めるのが俺以外の人間になるなんて――そんなの嫌だ。
空気を変えるために、今度は自分が聞いてみた。あなただって呑み込んだ言葉がありますよね?
脅して無理やり告白させたら、予想外の言葉が返ってきた。俺が死んだら和哉さんもついてくる?――最高の冥土の土産だ!!
その直後。後を追うつもりはないと言われてショックを受けたが、後に続いた言葉に思わず涙。俺が死んだ後、先に死んだ和哉さんが迎えに来る?……そうか。――そんな幸せな最期も、ありだな。
知らないうちにオリ主の弟子希望が量産されて胃がマッハ。和哉さんは俺だけの飼い主だぞ。寄るな!散れ!!
多頭飼いは反対だと、俺は常日頃から言っていたはずですよ。何やってるんですか?――あなたは例え死後の世界でも俺だけの飼い主でいてくれるんでしょう!?飼い犬候補を増やしてどうする!?
・弟子希望筆頭
スティーブという名前がついているモブ捜査官。
とある事件でオリ主に庇われ、その後に絶妙なアメと鞭を受けた結果、コロッと堕ちた。赤井に憧れているのも確かだが、それ以上にオリ主の飼い主力に惚れた。
オリ主にできる限り近づきたいと、弟子入りを志願したが……本人に断られ、さらに赤井の牽制(脅し)を受けて怯む。
しかし、それでも諦めきれずに他の新人達と共に弟子入り志願運動を実施。
オリ主と赤井の間にあるような信頼関係を結ぶ事は難しくても、せめて少しだけでもオリ主に信頼されるために奮闘中。
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これで忠犬と飼い主の非日常シリーズは完結です!pixivにて、このシリーズの番外編を投稿中。
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