忠犬と飼い主の非日常   作:herz

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 ――赤井秀一には、恋人がいる。

 ――その恋人は、情熱的で独占欲が強い。

 ――その恋人は、一服の時間さえも一緒にいたがる。

 ――その恋人は、珍しく離れたかと思えば、その次は絡み付くようにくっついて来て赤井を手放そうとしない。

 ――さて、その恋人の名前は何でしょう?

赤井「大ヒント。その恋人に悩まされているのは、俺だけではない」




「――楽しみにしておけ」

 FBIアカデミーでの特別講義を行う当日。秀一が運転する車でアカデミーに向かった俺達は目的地に到着した後、教員達と顔合わせした。

 やはりと言うべきか。教員達は大げさと言える程に喜んで、秀一の事を歓迎していた。

 

 その教員達の中には、秀一がまだアカデミーの研修生だった時にも在籍していた者が数人いた。我が弟子は当時から優秀な研修生だったらしい。……ただし、その態度には難があったようだが。

 

 

「……ちなみに、彼の態度に難があったとは具体的にどのような…」

 

「あーっと、そんな事より我々はまずどこに行けば?」

 

 

 俺が教員達に秀一の研修生時代の事を聞こうとすると、当の本人にわざとらしく話を逸らされた。……仕方ない。今は誤魔化されてやろう。今は。

 そんなこいつの様子を見た教員達がクスクスと笑う。それから、1人の教員の案内で研修生達が待っている講義室へ向かう事になった。

 

 

「……和哉さんはどうします?実戦をやる時まで暇でしょう?」

 

「研修生達の後ろにでも座って、お前の講義を見学させてもらおうかな」

 

「…………師匠の目の前で下手な講義はできませんね……緊張します」

 

「……お前、講義の内容は研修生に好きに質問させてそれに回答するっていう簡単な内容にしたんだろ?それだけでどうして緊張するんだ?」

 

「あなたに格好悪いところを見せたくないので」

 

 

 今回。秀一は特にテーマを決めずに講義を行う事にした。テーマを決めてただ話すだけだと、研修生達も飽きるだろうと考えたのだ。……うん。その判断は正しいと思う。

 きっと研修生達は一躍有名人となった秀一に聞きたい事が山ほどあるだろう。真面目な講義よりも質問形式にして彼らも楽しめるようにした方が、秀一の話に集中してくれるはず。

 

 ……あ、そうだ。

 

 

「秀一。お前に1つ助言しておこう」

 

「何でしょう?」

 

「質問してもらう前に、"プライベートに関する質問は最初に3つだけ受け付ける"と断っておけ。そうしないと、余計な質問が増えるだろう」

 

「……そういうものですか?」

 

「そういうものだ。まず間違いなく増えると思っていい。特に、女性の研修生からの質問が」

 

「……確かに、制限なしにすると女からの質問が増えそうですね……助言、感謝します」

 

「おう。……っと、悪い。もう1つだけ」

 

「はい?」

 

「そのプライベートな質問3つを使って、研修生達の心を掴め」

 

「……なるほど。そうする事で、俺の話により強く集中させるんですね?」

 

「その通り」

 

 

 理解するのが早いな。よしよし。

 

 

 ……やがて、講義室に到着した。まず、秀一が案内役の教員と共に講義室の前にある扉から入室。……研修生達の歓声が上がった。大人気だな、秀一。

 その後。俺は講義室の後ろにある扉からこっそりと入室し、研修生達の真後ろ……最後列の席に座った。

 

 秀一は軽く自己紹介した後、さっそく質問に移った。俺が助言した通り最初に"プライベートな質問は3つまで"と伝えると、不満そうな声が上がる。特に女性の研修生達から。……やっぱりな。

 

 

「では、最初にプライベートに関する質問からいこう。質問したい者は挙手を……早いな。そんなに俺のプライベートが気になるのか?」

 

 

 そして、適当に2人を指名して2つの質問に答えた後の3つ目の質問が――

 

 

「――恋人はいますか!?いるとすればどんな人ですか!?」

 

 

 という質問だった。……女性達の雰囲気が変わった事が、最後列にいる俺からも見て取れた。

 

 

「ふむ――恋人はいるぞ」

 

 

 おっと……?

 

 

「俺の恋人はとても情熱的、かつ独占欲が強くてね。一度俺を捕まえるとなかなか離してくれないんだ。そんな恋人に、俺は様々な意味で悩まされている。

 俺をどうしても離したくないのか、一服の時間さえも一緒にいたがる。それから珍しく離れたと思えば、次は絡み付くようにくっついて来てやはり俺を手放そうとさない。

 そして、そんな恋人に悩まされている者は俺だけではない。俺の同僚や上司、部下達もそうなんだ。

 

 その恋人の名は――デスクワーク」

 

 

 咄嗟に口を手で塞いで笑い声を出さないようにした。……なるほどな!確かにその"恋人"には俺達も悩まされている。

 秀一なんて特にそうだろうな。デスクワークよりも現場の方が好きな質だし。

 

 俺は耐えたが、研修生達は遠慮なく爆笑していた。

 

 

「……笑い事ではないぞ?そのうち君達もその"恋人"に執着される事になるんだからな?今のうちに覚悟しておけ」

 

 

 口調は大真面目だが、口元は皮肉げに笑っている。……それがまた、笑いを誘ったようだ。

 しかし。それから一転して真剣な表情に変わった。研修生達の笑いが止まり、静かになる。

 

 

「……さぁ、プライベートの質問はここまでだ。次からは真面目に質問するようにな。最初に言っておくが、研修生時代に現役の捜査官の話を聞く機会が与えられる事は非常に稀だ。

 だが、君達にはその機会が与えられた。……そんな貴重な機会を無駄にしないようにしてくれ。いいな?」

 

 

 彼らは皆、強く頷いた。……よし、うまく彼らの心を掴んだな。

 

 

 その後も研修生達からの質問が続いた。秀一は淀みなくそれに答えていく。……なんだ、全然緊張してないじゃないか。ちゃんとした講義になっている。

 その時。ある質問を聞いたあいつは、一瞬だけ固まった。

 

 

「――例の組織の壊滅作戦中に、赤井さんが一番焦りを感じた出来事は何ですか?」

 

 

 研修生が何を考えてそんな質問をしたのかは分からないが……秀一はその理由を聞かなかった。そしてしばらく考えた後、口を開く。

 

 

「……俺が一番焦った出来事は――FBIの仲間の1人を、敵の幹部によって人質に取られた時だった」

 

 

 あー……やっぱり、それか。あの時の秀一は、今までで一番と言っていいほどに焦っていた。

 

 

「詳しい事は話せないが……その仲間の1人を人質に取ったのは敵組織の幹部だった。

 奴は人質に致死性のある神経毒を盛っていた。……その毒のせいで、人質は声を出せないほどの麻痺を起こしていた。当時、人質は見るからにぐったりとしていて……その首にナイフを押し付けられていた」

 

 

 淡々と話しているように見えるが……その瞳は不安そうに揺れている。

 

 あの出来事は秀一のトラウマだ。故に、あまり無理はして欲しくないのだが……もう話し出してしまったからな……

 

 

「要求内容は……壊滅作戦の指揮を執っていた司令塔の身柄を引き渡す事だった。人質は司令塔の身柄と引き換えに解放すると言う。

 さらに、奴はその要求に応じるか否かを俺に決めるようにと要求してきた。……俺以外の人間が口出しすれば、人質の首を切るとまで言い出した。

 

 そして俺に、2分という時間を与えた。その間にどうするか決めろと言われた」

 

 

 ……誰もが息を呑み、秀一の次の言葉を待つ。

 

 

「……俺にとっては、どちらも大切な存在だった。司令塔である人物は俺の命の恩人で、人質になってしまった仲間は――俺がこの世で最も尊敬している人物だった。

 どちらか一方なんて選べるはずがない。だから絶対に、どちらも渡さないと心に決めた。……そのために、俺は――」

 

 

 そこで言葉を切り――真っ直ぐに、俺を見つめた。

 

 

「――拳銃を構えて、人質の足を撃った」

 

 

 一斉にざわざわと話し出し、研修生達が動揺を露にする。

 

 

「足を撃たれた事で人質は奴の腕の中から崩れ落ちた。その瞬間、俺は動揺した奴に向かって間髪を入れずに発砲し、援護射撃してくれた者や他の仲間達の手を借りて奴の身柄を確保した。

 ……その時の俺にとっては、その手段しか思い付かなかったからそうしたのだが……やってしまった後は罪悪感が残った。俺が最も尊敬している人を、この手で傷つけてしまったのだから」

 

 

 そう言って、自身の胸を強く握る仕草が……痛々しく見えた。

 

 

「……しかし。俺が人質を助けるためにわざと足を撃ったのだという事を、本人は理解していた。

 彼は俺を責めなかった。自身の命運を預ける事になってしまった事、そんな責任を押し付けてしまった事に謝罪はするが、その行動を責める事はしないと言っていた。

 

 それから――俺があの状況を打開してくれるはずだと、信じていた……と。そう言ってくれたんだ。……彼の言葉は、罪悪感に苛まれていた俺の事を救ってくれた」

 

 

 ……秀一は一瞬だけ微笑み、そしてすぐにそれを引っ込めた。

 

 

「おっと、すまない。話が少し脱線してしまったが……これで回答になったかな?」

 

「あっ、は、はい!ありがとうございます。……あの、ちなみにその人質になってしまった人は今……?」

 

「……あぁ、それなら――ちょうど、君達の真後ろに座っているよ」

 

 

 ニヤリと笑い、あいつは片手でこちらを差し示した。研修生達が一斉に振り返り、俺にその視線が集まる。

 

 

(――俺を巻き込むな!)

 

(ただ座っているだけでは退屈でしょう?)

 

 

 秀一を相手に目でそんな会話をしていると、"誰だ?"とか"いつの間に!?"なんて声が聞こえてくる。

 

 

「和哉さん。さぁ、どうぞ前へ。彼らに自己紹介をしてあげてください」

 

 

 目だけが笑っている秀一は、そう言って俺を呼んだ。……仕方なく前に出て、秀一の隣に並ぶ。

 

 

「……あー、ただ今半ば強引に紹介された現役の捜査官で、荒垣和哉という者だ。赤井とは上司と部下という関係だな」

 

「強引なんて人聞きの悪い。それにただの上司と部下ではなく、師匠と弟子という関係でしょう?ちゃんとそこまで自己紹介してください」

 

 

 研修生達から驚きの声が上がった。さらに視線が集まる。……こうなるのが嫌だったから意図的に黙ってたんだ!

 

 

「そして講義の最後では、彼と俺が君達に実戦を見せる事になっているから――」

 

 

 

 

 

 

「――楽しみにしておけ」

 

 

 

 

 

 

(――勝手にハードルを上げるんじゃねぇよ!この馬鹿弟子!!)

 

 

 

 

 

 




・途中で巻き込まれた飼い主

 アカデミー時代の忠犬の態度の悪さが気になる飼い主。うちの犬は一体どんな迷惑を掛けたんだ?

 講義が始まる前に気配を消して室内に侵入。研修生達には全く気づかれなかった。そして赤井のジョークに思わず笑った。
 えっ、お前恋人いるのか?……と思っていたら、おいこらwww

 2年前に黒の組織の人間に人質に取られた経験あり。やったのは某ポエマー幹部。ちなみに、この出来事はオリ主が鍛練時間を増やしたきっかけ……の、一部。
 そして最後に巻き込まれた。おい止めろ!ハードルを上げるな!!


・研修生の心を掴んだ忠犬

 アカデミー時代の態度の悪さを飼い主に知られたくない忠犬。教員に向かって生意気な口を利いてたとか同期と喧嘩して反省文書かされたとかその他諸々やっていた事は隠さなければ……!

 オリ主の助言に従って講義を行い、研修生達の心を掴んだ。恋人?いるぞ。デスクワークという名の"恋人"がな(ドヤ顔)
 最後列にいたオリ主が笑った瞬間をしっかりと目撃していた。和哉さんが笑った!やったぜ!

 2年前の人質事件はトラウマ。あの銀髪似非ポエマーめ……!!あいつのせいで俺の唯一無二を自分の手で傷つける羽目になった……
 見学していたオリ主を巻き込んだ。座っているだけでは退屈でしょう?どうぞ前に!そして研修生達よ――楽しみにしておけ。


 次は和哉さんと久々に本気の実戦!ワクワクする!キタ━(゚∀゚)━!





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