忠犬と飼い主の非日常   作:herz

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「――オーバーキル」【前編】

 ある日の夕方、とある事件が起きた。被害者は幼い兄弟2名とその母親。兄弟のうち、兄の方は体を刃物で切りつけられて負傷したが命に別状は無く、弟の方は無傷だった。

 

 しかし。母親は少年2名を庇って犯人に胸を刺され、病院に搬送された。そして――その後に、死亡が確認された。

 

 現場の第一発見者である女性によると、女性が目撃したのはちょうど母親が刺された瞬間だったという。

 それを行った犯人は母親を刺した刃物を抜いた後。それをそのまま子供達に向けたため、女性は悲鳴を上げて助けを呼んだ。

 それに驚いた犯人は、その場から逃亡したそうだ。

 

 そして女性は病院と警察に通報し……母親と兄が病院に搬送され、弟もそれについて行ったとのこと。

 それから、女性が目撃した犯人の特徴が……例の少年少女連続殺人事件の犯人の特徴と一致したという。

 

 よって、この事件に関してもヘンリー・ベネットのチームが担当する事になった。

 

 

 ……事務室にて。その話を同僚から聞いた俺は、死亡した女性の名前を聞いた。

 

 

「名前は確か――クレア・マーティンだったはず…って、おいカズヤどうした!?真っ青だぞ!?」

 

「和哉さん?…………まさか被害者が知り合いだなんて事は、」

 

「その、まさかだ」

 

 

 俺はゆっくりと、秀一を見る。……その深緑の瞳に似ている瞳を持つ少年を思い出し、胸が痛くなった。

 

 

「この前さ……お前に、よくジョギングしに行く公園で出会った兄弟とその母親の話をしただろ……?」

 

「……はい。聞きましたが…っ、ではその兄弟と母親が……!?」

 

「あぁ……母親がクレア・マーティン。兄の方がウィル・マーティン、弟の方がリアン・マーティンだ……!」

 

 

 側にあった椅子に座り込み、両手で顔を覆ってうつ向く。

 

 

「何故……何故、彼女が……!!」

 

「っ……和哉、さん……」

 

「……カズヤ……」

 

「…………」

 

 

 ……短い付き合いだったが、彼女は素晴らしい母親だった。リアン君とウィル君を深く愛し、とても大切にしていた。

 シングル・マザーには様々な苦労があるはずなのに、彼女はいつも明るくてその辛さを表に出さないように努めていた。……気丈な女性だった。子供達も、明るくて優しい母親を強く慕っていた。

 

 そんなクレアさんを殺した人間が……未だに捕まっていない。

 あれ程素晴らしい母親をリアン君とウィル君から奪った人間が……未だに逃げ続けている。

 

 

「――この事件が俺達の担当だったら良かったのに……」

 

「……カズヤ。お前まさかあいつらのところに直談判しに行くつもりじゃ、」

 

「行かねぇよ。……相手が誰であっても、私情のために捜査の邪魔をするつもりはない」

 

 

 そうだ。FBI捜査官として、私情を持ち込むわけにはいかない。私情のために別のチームの捜査の邪魔をするなど、もっての外。

 

 

「……見舞いだけでも、とは思うが……犯人がまだ逃げている今の状況じゃ、無理か」

 

「……そうですね。……その兄弟達は間違いなく犯人を目撃している。もしも彼らがいる病院の情報が外に漏れた場合、口封じのために再び狙われる可能性が高い……」

 

 

 秀一の言う通りだった。……おそらくヘンリー・ベネットのチームもそれを考えて、兄弟の居場所をひた隠しにしようとするはず。そもそも、面会謝絶になっているかもしれない。

 

 ……その時。席を外していたボスが事務室に戻ってきた。

 

 

「全員、聞いてくれ。例のベネット君のチームが担当している連続殺人事件について、問題が発生した」

 

「何だって?」

 

 

 思わず立ち上がってボスを見る。目が合うと、彼は目を見開いた。

 

 

「……顔色が悪いぞ、荒垣君。どうしたんだ?」

 

「……その殺人事件の4件目の被害者家族が、和哉さんの知り合いだったそうだ」

 

「何……!?」

 

 

 さらに驚いた様子で俺を見るボスに、頷いて肯定した。

 

 

「……亡くなったクレアさんとも、その子供達とも、会えば立ち話したり遊び相手になったりするぐらいの仲でな」

 

「そう、か…………ふむ……」

 

「……ジェイムズ?」

 

「あぁ、すまない。……まずは問題の内容から説明しよう」

 

 

 その内容を聞いた俺は……必死に、怒りを抑える事になった。

 

 

 リアン君とウィル君がいる病院から、FBIへクレームがあったそうだ。

 

 "複数の捜査官が、母親を失ってまだ間もない子供達に無理やり事情聴取を行った"。"子供達が犯人へ恐怖を抱いているにも関わらず、頻りに犯人の特徴を教えろと問い詰めていた"。

 "看護婦達が止めようとしたが、捜査の邪魔をするなと言われて兄弟がいる病室から追い出された"。"子供達の気持ちを考えて欲しいと言っても、聞く耳を持ってくれなかった"。

 

 ……以上が、そのクレーム内容だ。……"これ以上同じ状況が続くようであれば、その捜査官達には然るべき裁きを下してもらいたい"とまで言われたらしい。

 

 

(子供相手にそんな真似をしただと!?何やってんだ!!)

 

 

 FBI捜査官として、いや大人として最低だ!あり得ない!!

 

 ……あの子達は無事だろうか?母親を亡くした上にそんな扱いを受けて……心配だ。ますます顔を見たくなってしまった。

 

 

「そこでベネット君と、ちょうど担当していた事件を解決させて手が空いていた私が上の人間に呼び出された。ベネット君のチームはこの連続殺人事件の捜査から外れて、代わりに私のチームがそれを引き継ぐように――

 

 ――と言われたのだが、そう簡単にはいかなかった」

 

「ちっ……」

 

「カズヤ、顔が怖いわよ?」

 

「おっと、悪い」

 

 

 ジョディにそう言われ、"怖い顔"を引っ込めた。

 

 

「……ベネット君がどうしても自分のチームに捜査を続けさせて欲しいと言って、納得してくれなかった。

 しかし既にクレームを受けてしまった以上。ベネット君のチームに捜査を続けさせると病院側から反発を買うだろうし、それでは体裁が悪い。上の人間も譲らなかった」

 

「……それで、結局どうなったんですか?」

 

「……ベネット君が1つ条件を出した。――被害者である兄弟の心を開く事ができたら我々のチームに捜査を引き継がせてやる、と。上の人間もそれで納得した。

 後に、上の人間が私個人に"絶対に兄弟の心を開け"と命令してきたがね。間違いなく世間の目を気にしているのだろう」

 

 

 それを聞いた俺は、つい力を込めて近場にあったデスクの上に拳を叩きつけた。仲間達の視線が、俺に集まる。

 

 

「どいつもこいつも偉そうに……!功績や体裁ばかり気にして――あの子達の事を何も考えてねぇ……!!」

 

「荒垣君……」

 

「警官なら守るべき人達の事を第一に考えろよ!あのクズ共が……!!」

 

 

 完全に頭に血が上っていた時、肩を掴まれた。振り向くと……秀一と目が合った。

 

 

「……そのクズ共に振り回されている兄弟達のためにも、できる事から始めましょう。……それに、被害者はその兄弟達だけではありません。

 これまでに起きた3件の事件で殺された子供達も、その家族も被害者です」

 

「っ!!」

 

「そんな彼らのためにも一刻も早く犯人を逮捕しなくては。……だから今は――怒っている暇も、怒鳴っている暇もないぞ。そんな事をしている暇があったらまずは頭を冷やせ。

 

 ――と、いつもの冷静な和哉さんなら、そう言うと思います」

 

「――――」

 

 

 ――嗚呼(あぁ)……そうだな。……お前の言う通りだ。

 

 すると、急に頭が冷えた。それと同時に次にすべき事も頭に浮かんでくる。……そうだ。まずはお礼を言わないと。

 

 

「秀一」

 

「はい」

 

「――ありがとう。……おかげで頭が冷えたぜ。もう大丈夫だ」

 

「どういたしまして。……良い顔になりましたね。やはり、俺の唯一無二はそうでなくては」

 

「ふん。生意気な馬鹿弟子め……」

 

 

 憎まれ口を言いながらも、俺の口角は上がっていた。

 

 

「……悪い、ジェイムズ。話を止めてしまったな。皆もすまなかった」

 

「いや、構わんよ。……君達のポジションが逆になるのは久々だな。最近は普段通りだったが」

 

「そう何度も逆にしてたまるかよ。手綱を握ってるのは俺の方だぞ?」

 

「その通り。なんせ、俺は和哉さんにリードと首輪を付けられ、」

 

Quiet (静かに)

 

Yes, master (はい、ご主人様)

 

「えっ?リードと首輪って、お前らそういうプレイを、」

 

「んなわけあるか!!」

 

 

 止めろ!!俺はそういうのは嫌いなんだよ!!

 

 

「ふむ……場合によってはそれをやるのもアリ――」

 

「…………」

 

「――あっ、すみませんすみません!冗談です!そんな冷たい目で見ないでください、すみません!!」

 

 

 悪ノリした秀一に冷たい視線を送ると平謝りされた。そんな俺達を見て、全員が笑う。

 

 

「……さて。茶番はこれぐらいにしておいて……ボス。もうあの子達との面会は可能なのか?」

 

「あぁ。こちらからベネット君に言えば面会できるそうだが……病院側の許可はあるのかと聞いたら言葉を濁していたから、向こうの許可は取っていないのかもしれん」

 

「……ほう?それは好都合だ」

 

「好都合?」

 

「あぁ。……まずは上の人間から許可をもらおう。ヘンリー・ベネットを通さずに病院側にアポを取ってもいいか、と」

 

 

 それを皮切りに、俺は皆に今後の行動について提案した。

 

 

 上の人間に許可をもらったら、俺達のリーダーであるボスが病院側にアポを取る。その時、ヘンリー・ベネットとその部下達の所業について懇切丁寧に謝罪した後に、面会の許可をもらう。

 もちろん最初は渋るだろう。だが、ボスには病院側の信頼を得るためにも終始丁寧に接してもらい、どうにかして許可を取ってもらう。

 そして許可をもらったら、向こうから言われる可能性も高いが……こちらから医師か看護師に立ち会ってもらいたいと申し出る。

 

 そうする事で、ヘンリー・ベネットのチームとの差を作る。

 

 こちらのチームの方が信頼できると、彼らにそう思わせる。……俺達が動きやすいように地盤を整えるのだ。

 ……そこまで来たら、あとは俺があの子達の信頼を得るために動く。

 

 

 この提案に、全員が賛成してくれた。

 

 

「……本来ならボスではなく、奴らが頭を下げるべきなのだが……すまない。あんたには迷惑を…」

 

「いやいや。迷惑だとは思っていないよ、荒垣君。病院側の信頼を得る事は確かに必要だからね。

 それに、謝らなければいけないのは私の方だ。初対面の、それも母親を亡くした上に酷い扱いを受けた子供の心を開くなどそう簡単な事ではない。

 

 それを分かっていながら、私はその役目を元から君に丸投げするつもりでいたのだ。君に提案される前からね」

 

「……そうか。それなら、ますます頑張らないとな……ボスの信頼を裏切らないためにも」

 

「……それに対して不満を言わず、むしろ私からの信頼だと考えるあたり……君らしいな」

 

「ん?――むしろ、ジェイムズからの信頼だとしか思えなかったぞ?それ以外の理由は無いと断言できる」

 

「――――」

 

 

 何を言ってんだか、と思ってそう返すと……彼は片手で両目を覆って天を仰ぎ、呻く。

 

 

「…………久々に天然たらしの恐ろしさを知ったよ……」

 

「……カイル、覚えとけ。カズヤはいつもああやって誰彼構わずたらし込んでいるんだ。油断しているとそのうちお前もたらし込まれるぞ!」

 

「えぇ……?」

 

「おい、そこ!新人に変な事を吹き込むな!」

 

 

 俺は別に誰もたらし込んでない!

 

 

「天然たらしは皆そう思うんですよ、和哉さん」

 

「心を読むな秀一!!」

 

 

 

 

 

 

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