めちゃくちゃ濃い時間だった二日目に対し、三日目は特に何も起きず家へと帰ることができた。
旅館から帰ってきた次の日、俺はベットに座りながら由香さんが撮ってくれた写真を眺めていた。
「ん?なんだこれ……?」
写真を見ていると、旅館へ持って行っていたバッグから一つのチラシが落ちてくる。その内容は、ジムの案内パンフレットと書いてある。
「由香さん、いつの間に……。」
俺がいない間に入れたのだろうか……?何はともあれ後の休みは基本暇だし、一ヶ月無料なら行ってみるか。行きたいって約束もしたしな。そう思い着替えを済ませ、日照りの激しい外に出てジムへと向かった。
……………………
「いらっしゃいませ〜!」
「あの、このパンフレットを見て来たんですけど……。」
「おぉー!君が由香が言ってた子だね!ちょっと待ってて、おーい!由香〜!」
「え、ちょっと……。」
俺が何かを言おうとする前に、その女性は由香さんの名前を呼びながら裏の方へ入っていく。……俺、どうすれば良いんだ?
数分後……
「オー!和也くん!来てくれたんだ!」
しばらく待っていると私服姿の由香さんが同じところから出てきた。
「はい、一応約束でしたし、運動したいのは本心なので。」
「そっか!じゃああそこの更衣室で着替えておいで!私も着替えて準備するからさ。」
そう言うと更衣室のある方を指差し、そこに入り俺は着替えを始めた。
……………………
「お待たせしました……って!!」
「ん?あぁ大丈夫大丈夫!私もさっき終わったとこだし!」
俺が着替え終わった時には、由香さんはアップをしていたのか背中をグイーッと伸ばしていた。てか、動きやすい服を着るべきなんだろうけど流石に露出が激しすぎるんじゃないですか……?へそ出しのノースリーブにめっちゃ短い短パン……。思春期男子には破壊力が高すぎる……。
「どうしたの?」
「い、いや!なんでもないです!」
「そう?じゃあ早速だけど始めようか!っとその前に……。」
「その前に?」
「和也くん、腹筋見せてくれないかな?」
「え?まぁ、良いですけど。」
突然の発言に疑問を抱きながらも、俺は素直に服をたくし上げた。
「……。」
「えっと、由香さん……?」
俺が腹筋を見せると、由香さんはしばらくジーッと俺のお腹を見つめる。割と腹筋には自信あったんだけど、なんか変なのかな……。
「おぉ〜……!育て甲斐のありそうな腹筋ちゃんだ……!!」
「ふ、腹筋ちゃん……?」
黙りこくったのを心配に思い、由香さんの顔を見るといつの間にか目を輝かせて見入っていた。
「っあぁ!ごめんごめん!意外と筋肉あったからトレーナー魂が疼いちゃって。」
「なんですかそれ?」
「感覚的なものだから気にしないで!それにしても、運動してないって言う割に結構筋肉あるじゃん!」
「まぁ、中学の頃までは運動してましたし、多少はありますよ。」
「へぇ〜、どんなスポーツ?」
「バドミントンです。一応、部長もやってました。」
「ワーオ!和也くんが部長やってたって意外だね。」
「あ、あはは……。」
絶対言えない……上級生の男子が俺しかいないから強制的に部長やらされてたなんて、由香さんの前で言えるわけない……。
「お、俺の話なんかより!早くやりませんか?」
「たしかに長話しすぎちゃったね。とりあえずベンチプレスからやってみようか。和也くん、ベンチプレスって知ってる?」
「名前は知ってますけど、やったことはないです。」
「そっか!じゃあ私がサポートするから、一緒にやってみようか!」
由香さんに場所を案内され、うわー……見たことあるこれなどと思いながら俺はベンチプレスに寝転がる。
数十分後……
「はい、三セット目ラスト〜!9……10!おつかれ和也くん、ナイスバルク!」
「はぁ……はぁ……つら……!!」
自分の体力の衰え方に半ば恐ろしささえ感じる。ベンチプレスってこんなキツいのか……?ボディビルダーの人ってすごいな。
「一応、初心者用の重さでやったけど、しばらく運動してないとやっぱりキツそうだね?」
「こ、これで初心者用……!?」
「無理するのも良くないし、一旦休憩しようか。」
「ほんとすみません。やるって言ったのにすぐ休憩になっちゃって……。」
「全然平気だよ!初心者ってみんなこうなるものだし、無理するのは怪我の元よ?」
「た、たしかに。」
「それに、筋肉は嘘をつかないわ。継続して続ければ、絶対にこの重さも嘘のように簡単になるよ!」
しのぶがいつも「由香は筋肉バカだから。」とか言っていたが、実際に筋トレ会話になると、思っている以上に言ってることがボディビルダーのそれみたいだ。
しばらく休憩を兼ねて由香さんと話していると、見知らぬ女性がこちらに向かってきた。
「やっほー由香!今日はサポーターの仕事?」
「衣舞紀!ううん、私が連れてきた子を特別にサポートしてあげてるだけだよ。」
「そう言うことなんだ。」
「そう言えば、今日はPhoton Maidenのレッスンの日じゃないの?」
「えぇ、そうだったんだけどトレーナーの人が急に休まなきゃいけなくなったらしくて、時間も余っちゃったからレッスンの代わりに鍛えようかなって。」
「へぇ〜それは残念だったね……。」
「うん、っとその子、由香が誘ったって言ってたわよね?てことはもしかして和也って子?」
「正解!ほんと和也くん有名人だね!」
「いや、広め始めたの由香さんたちじゃないですか……。まぁいいや、藤原和也です。Photon Maidenのリーダーの……あなたが衣舞紀さん、でしたっけ?」
「私のこと、知ってるんだ!」
「文化祭のライブ見てましたから。」
ほんとは乙和さん、咲姫さん辺りに聞いたけど、引き合いに出すと長引きそうだからそう言っておく。
「へ〜見ててくれたんだ!ありがとう!」
衣舞紀さんはそう言ってニカッと笑った。由香さんたちと違い、大人びた微笑み方で少しドキドキしてしまう。
パン!
「はい!もっと話したいけど、とりあえずここまで!これ以上の休憩は筋肉に逆効果よ?」
止めどころがない会話だと思った由香さんは、手を叩き一時的に会話を中止させる。
「ご、ごめんね。急に割って入って邪魔しちゃって。」
「そんなことないよ!なんなら和也くんと私と一緒にやる?」
「良いの?じゃあ私も参加しちゃおうかしら!」
心強い仲間ができたと思っていたこの時の俺を殴ってやりたい。更なる地獄はここからだった……。
…………………………
「やるわね、由香!」
「衣舞紀こそ!」
あれから数分後、俺らはランニングマシンをやろうと場所を移し、走り出してはや一時間、未だに二人は止まることなく、なんならどんどんスピードを上げて走り続けていた。ちなみに俺はと言うと、四十分くらいで息を上げ少し休憩、また走って少し休憩を何回か繰り返していた。
「よ、よくそんなに走り続けてられますね……。」
「日頃から鍛えてるからね!和也くんも慣れればこのくらい余裕だよ!」
「えぇ、意欲があることだけでもすごい進歩よ。そう言う子は早く上達するわ。」
「そうだと良いんですけど……。」
到底あなたたちみたいになるのは難しいと思うんですが。
「聞き慣れた声がすると思ったら、やっぱりね。」
俺がボソッと呟くと、後ろから大人びた声が聞こえて来た。
これ以上は分量がえげつなくなるので一旦次回に回します。