何故「敵」であるはずの少年を自分の弟であるように感じたのか。
先ずチョウソウが疑ったのは精神攻撃だ。少年の術式は「相手に自らを『大事な存在』だと誤認させる」ものかもしれない、と。しかしチョウソウ自らその説を否定した。
一つ目、あまりにもイメージが鮮やかであったこと。あれほど明確な世界観を構築するには呪力と想像力のゴリ押しだけでは足りない。術式の開示が必要だ。
二つ目、イメージがほのぼのした情景であったこと。あれほど鮮明なイメージを送りつけられるなら「殺すな」「味方になれ」というメッセージを相手の脳に刻むほうが手っ取り早い。あれだけのことができるなら一時的な洗脳も不可能ではない――というのに、チョウソウが受信したのは「少年含む面々での兄弟団欒」のイメージだ。場違いにもほどがある。
三つ目、チョウソウには弟たちの危機が分かること。血に関する術式だからだろう、チョウソウは血の繋がった相手の強い感情――命の危険に晒された際の恐怖や絶望など――を受信できる。チョウソウより精度は落ちるがエソウやケチズも受信できるという。
つまり、そういうことなのだ。相手の攻撃ではなく、チョウソウら兄弟固有の能力……否、深く! 強い! 繋がりが原因だったのだ。
あの少年は――。
「無事か、無事だな! 大丈夫だ安心しろ――お兄ちゃんたちが来たからな!」
不調の原因が分かって復活したチョウソウはケチズにスクエアの警護を任せ、エソウと二人、今まさに戦いの最中という場に駆け込む。その場にいたのは死体を除いて人間が三人と呪霊が一体――真人だ。
人間のうちの一人、チョウソウとエソウを見た半裸の筋肉達磨が「何ッ俺にビッグブラザーが!? それも二人も……まさかッ!」と訳の分からないことを言って騒ぎだしたが、チョウソウたちはそれを無視して拳を構え、真人に対峙する。
「あ? 誰だよあんたら」
「俺はあいつのお兄ちゃんだ」
「答えになってねーじゃん」
「それはまあそうですね。ですが……まあ、あなたとは何度か会っていますのでね。もう一度名乗って差し上げようとは思えませんよ」
「はあ!?」
丸く蹲る「弟」とその側にいる少年をちらりと横目に確認し、「弟」が五体満足で生きていることに安堵する。怪我をしているようだが命に別状はなさそうだ。
「しっかり見ていろ、強くて格好良くて頼り甲斐があるお兄ちゃんたちの背中をッ!」
「応! 見るとも!」
チョウソウの言葉へ元気良く返事した筋肉達磨に疑問を覚えないではないが、まあそんなことは些事だろう。
この場で結成されたばかりのツーマンセルでの戦闘とはいえ、なんせこの二人、陣野邸のテニスコートでキャッキャと血遊びして雑草も芝生も関係なく死滅させた経験者だ。ペア行動になんら問題はない。
姉にはバチ怒られたが。
チョウソウの術式は物理的攻撃力と手数の多さを誇る
チョウソウが斬り、エソウが抉る。阿吽の兄弟二人だからこそ叶う縫い目なき攻撃に血が滾ったのだろう、筋肉達磨も戦いに加わって「素晴らしい、素晴らしいぞブラザー! すまないな、こんなのを見せられては俺もじっとしておれん!」などと大声ではしゃぎだす。
筋肉達磨はついさっきまで「弟」へ何やら慰めなのか鼓舞なのか判断しかねるセリフをゴチャゴチャ言っていたようだし、今この場においては二人の敵ではないようだ。
――通常、二対一が三対一になればよりいっそう優位に立てるはず。だが真人は分裂ができるうえ改造人間を体内に大量にストックしている。結果として筋肉達磨の参戦後も戦況はさほど変わらず、ただしストックの――人の命の――消費スピードは上がった。
真人の術式「無為転変」は魂を知覚し、魂に手を加えることで肉体を操作することを可能とするもの……だと本人が以前話していた。「魂に手を加える」という段階を踏むとは言えその手続きは一瞬で、触れればいいだけという手軽さだ。
また、自分に対して使うのはノータイムと言おうか、段階を踏まずとも即座に肉体操作することが可能と見える。
これが、赤血操術とも蝕爛腐術とも相性が悪い。チョウソウとエソウの血液は腐食性の毒を含んでおり、相手が一般的な呪霊や呪術師であればこの毒性を用いて弱体化――殺害すら狙うことが出来る。
しかし真人は「
つまり真人との戦いで有効なのは肉弾戦。物理的なパワーが物を言う。
「弟」の立ち上がる気配がした。
「ごめん、ありがとう、東堂……」
チョウソウらが稼いだのはたった数分――しかしその五分に満たない時間で、「弟」の目は戦う者のそれに変わっていた。
これで四対一。
したかったが、できなかったこと
赤レンジャーチョウソウ、青レンジャーエソウ、黄レンジャーケチズの兄レンジャー決めポーズ