呪霊の子   作:充椎十四

7 / 11
pixiv投稿済み分18話(加筆済み)
短くて申し訳ね……。




 片腕の男はあまりにも強すぎた。禪院直毘人ですら倒せず膠着していた陀艮をほんの短時間で倒してしまったばかりか、領域の外にいたもう一体の特級呪霊も瞬く間にボコボコにのした。――呪霊にとどめを刺したのは真希の刀だったが、その刀を振り下ろしたのは男だ。

 

 男の容姿は美男の枠に入る。つんつんと四方八方に伸びた硬い黒髪、三白眼気味の鋭い目元、皮肉げにつり上がった大きな口の片端には菱形の傷跡が残る。筋肉で温かいからだろう薄着で、厚手のシャツ越しに盛り上がった胸板はたっぷりとして張りつめている。すっと立つ姿勢は力強く美しい。

 ロングパンツは柔道衣なのか刺子の生地のもの、足元は安全靴だ。ゴツゴツという硬い足音からして鉄板入りのものに違いない。

 

「んだ、こりゃ。ドロップ品か?」

 

 男は呪霊が立っていた場所に落ちている布の塊――書道の筆巻きに似ている――を拾い上げ、気のない動作で紐をほどいた。

 筆巻きの中に並んでいるのは、指。両面宿儺の指だ。十本ある。恵はごくりと唾を飲み込んだ。筆巻きは呪力を遮る効果があるもののようで、開けたとたんぶわりと広がった呪力、殺意に似たそれが肌を刺してくる。

 

「うわキッショ! なんで一つ目火山頭のドロップ品が指のミイラなんだよ」

 

 しかしそんな圧迫感など知らぬとばかりに男は雑に筆巻きを巻き、禪院直毘人にぽいと放り投げる。

 

「いらね。言い値で売ってやるよジジイ」

「そうか――十本で百億出す。後で口座を連絡しろ」

 

 文字通り()違いの取引が目の前で成立したのを恵は唖然として見た。現在「処分方法」があることを考えればきっと百億でも安いのだろうが、だからといって気楽に出せる額ではない。

 気楽といえば二人の関係も謎だ。気心のしれた仲のように見える。

 

「にしても甚爾、お前まさか生きていたとはなァ……死んだものと思っとったが」

「まーな。知り合いの婆さんがちょちょいのちょいとやってくれたんだよ。……ああ、そうだ。おい、さっき言った金いらねぇからよ、代わりに欲しいもんがある」

 

 呪胎九相図、四人目からの六人。俺にくれよ。

 

 ニヤリと笑んだ男、甚爾と呼ばれた彼の言葉にその場の空気が凍る。なんせ一番から三番が盗まれたのはまだ記憶に新しい。高専の襲撃にこの男も関わっていたということか……?

 そこに強い視線を感じて顔を上げれば、()が合った。

 

 井の頭線、渋谷駅中央改札。四角柱の柱にはデジタルサイネージが取り付けられており、普段はそこに進学塾やら東京土産やらの広告が表示されているのだが――今そのサイネージには「目」が並んでいる。「目」のほとんどは甚爾に向けられているが、一つ、恵のことをじっと見つめていた。

 ひゅっと息を呑む。他の面々も「目」に気づいたらしく「やば」だの「こいつぁ……」だのと呻き声を漏らす。見られている。――数多の目に、見られている。害意を感じないことが逆に不気味だ。

 

 甚爾の発言と怪しげな目、何かが起きそうな予兆に誰もが生唾を飲み込み沈黙が満ちる中、着信を知らせる電子音が甚爾の尻ポケットから鳴り響く。

 

「ハーイあっこです」

 

 気の抜けるような挨拶――挨拶か? 距離もあり通話内容など聞き取れないのだが、やはり何を話しているのやら気になるもの、耳をそばだてる。

 途切れ途切れに女の声が聞こえる。

 

『申し…………で……病……バスに……』

「それの護衛だな? わーった。あ? んだよ、気にすんな日頃の礼ってやつだ――俺はガキの顔見れただけで十分。あ、骨、へいへいそっちも回収しますよ。オイやめろババアこっち見んな、(あち)ィんだよ物理的に」

 

 骨というのは陀艮が吐き出した骨の山のことだろうか? 口を挟むのは憚られ真希に目配せで骨の山を示してみるも、真希は別の意見らしく頭を軽く横に振った。次いで目を向けた先、七海や猪野は――そろそろ限界だろう。あれだけの大怪我というのに意識を保ち、自分の足で立って身構え続けているのはさすがの一言。一級術士の面目躍如だ。

 甚爾は通話を切ると直毘人に顔を向ける。

 

「おいジジイ、追加だ。もう一つ要る。呪胎九相図を産んだ女の遺骨。あれもくれ」

 

 直毘人を見れば、彼も不思議そうな表情を浮かべている。恵自身も同じような表情に違いない。

 

「四番以下は言っちまえば一級から二級程度の呪物で、女の骨は普通に骨だ。俺としてはあれらをお前にやるのは構わんのだが……呪胎九相図は東京高専の忌庫で取り出しに手続きが要り、九相図の母親の骨は加茂の合同墓地かそこらにあるはずって程度のザル管理。つまりどっちもすぐには持ってこれんわけだ。それで良いか?」

「問題ねえよ」

「そうか。……だが、甚爾、骨なんぞ引き取って何に使う。これまで何人かあれこれ調べたらしいが、何の変哲もないただの骨だというぞ」

「あ? そりゃ供養すんだろうが、遺骨なんだから」

 

 「ずっと遺族が言ってたろ、返せってな」という言葉から導き出せる答えは――まさか、と恵は目を見開く。

 

「陣野一族は……呪胎九相図の母親の身内、というわけですか……」

 

 焼けてかすれた七海の声が、反響もせず空間に拡散して、きえた。




遺族「遺骨返せー!」
呪術師「薬液かけたり割って中身見たり色々調査したけど、こりゃーただの骨だな。適当にしまっておこ」
遺族「ブチギレちまったよ……」

これで出禁にならないわけもなく――
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。