エンカク
ポデンコ
パフューマー
あらすじ
任務終わりに、いつもと違う道で帰路についていたエンカク。彼はふと花を見つける。その花がなんとなく気になり、止まって見ていたエンカクに声をかける者がいた。それはポデンコだった。彼女は色々とエンカクに話しかけ……。
エンカクは任務終わりで帰路に付いていた。しかし、この日は別の用事があった為いつもとは違うロドスの廊下を通っていた。彼にとっては初めて通るルートだが、彼には何の感慨も湧かない。彼にとって戦い以外のことは有象無象に過ぎないのだ。彼にとって、死闘こそが生きる意味であり、戦う意義。それ以外のことは無駄。しかし、そんな彼にも趣味のようなモノがあった。
よって、ソレはエンカクの興味を惹く物であった。ガラスの向こうに見える不思議なピンクの色合いの花にエンカクは惹かれたのだ。
「……。」
いつもなら、一瞬横目で見ただけですぐに部屋に帰るだろうエンカク。しかし、今日の彼はその花を少し見ることにした。
「見たことない花だ……。」
ガラス越しに見えるそのピンクの花は、1本の茎に対して細かな花弁がいくつもついた見た目をしている。さながらピンクのモフモフである。すると、観察している彼に清涼な声色で話しかけてくる者がいた。
「この花、綺麗ですよね。」
エンカクは声を掛けてきた者を一瞥する。
「あの花は、ハナズオウって言うんです。」
「ほう……初めて聞く名だな。」
「この時期になると咲き始める花で、今日咲いたばかりなんですよ。」
「その花について聞く前に……お前は誰だ?」
「ええ〜!この前、一緒に戦ったポデンコですよ〜!エンカクさん!」
「いつのことだ?」
「あの、制圧任務ですよ!」
「あ〜……。」
エンカクは基本的に他人に無関心であり、一緒に任務をした仲間のことは余程のことがない限りは覚えようともしない。ポデンコはその内の一人だった。エンカクはその制圧任務で戦ったという時の記憶を呼び起こした。そしてその結果、彼女のことを思い出すことができた。
「あの後ろに居たヤツか。何か瓶を投げて敵を拘束していたな。」
「ヤツって……まあいいです。この小瓶のことですよね?」
ポデンコはそう言うと、自身のコートをめくり瓶を見せる。紫、黄色、ピンク色と言った色の小瓶が入っている。ポデンコはその内、紫の小瓶を見せた。
「これのことですよね?」
「ああ、それだ。少し、見せてみろ。」
エンカクは渡すようにポデンコに促す。ポデンコは少し迷った素振りを見せたあと、エンカクに渡した。エンカクはそれを少々乱暴に取った。そして、右目に近づけ振ったり離したりして瓶の中身を見る。
「こいつは……毒の類だな。だが、人を殺す量ではない。せいぜい少し鬱陶しい程度の脆弱な毒だな。」
エンカクはそう言うと、瓶の蓋を開け匂いを嗅ぐ。
「え!?ちょっとエンカクさん!?大丈夫ですか!?」
ポデンコはビックリし、エンカクを止めようとするが、エンカクの顔色は一切変わっていないのを見てどうしかと戸惑ってしまった。
「騒ぐな。ふん……やっぱりそうか。弱いな。」
エンカクはそう言うと興味を失ったのか、瓶の蓋を戻しぶっきらぼうに戸惑うポデンコに瓶を返した。ポデンコは目をパチクリとさせて、慌ててそれを受け取る。
「な、何とも無いんですか……?ドクターがこれを吸ってしまった時は動けなくなったのに……エンカクさんは強いですね。」
「あんな死に損ないと同じにするな。俺は戦士だ。」
「戦士……ですか。ちょっと意外です。そんな戦士さんが、ハナズオウを見て止まるなんて。私、サルカズの傭兵さんてこういうのに興味ないと思ってましたが……そうじゃないんですね、エンカクさんは。」
「勘違いするな。お前のように植物を愛でる趣味はない。」
「そうなんですか?では何故、ハナズオウを見て止まったのですか?」
「コイツがどう枯れるのかが気になっただけだ。」
「枯れる……?」
「ああ。中に入ってもいいか?」
「あ、は、はい!いいですよ!」
エンカクはそう言うと温室に不遜な態度で入る。ポデンコはその背を追いかけるように温室に入った。温室には様々な機械や植物が置いてあり、その中でもハナズオウは目立つ位置に置いてあった。エンカクはそのハナズオウを見ながら、ポデンコに質問をする。
「こいつは今日咲いたばかりだと言うが……どれ位持つものなんだ?」
「うーん、大体一、二週間程度持ちますね。」
「意外に持つんだな。こいつは春に咲く花にしては随分遅いんだな。」
「ええ、まあ。桜等が枯れて、その後ようやく咲き始める花ですから……遅い子ではありますね。」
「ほう……。」
遅く咲くと言う話を聞き、エンカクは顎に手を当て、目を細めた。ポデンコにはそれが、なにかを懐かしむような仕草に見えた。ポデンコはそれが気になり、エンカクに質問した。
「エンカクさん……何か、気になることでも?」
「いや、いつも戦場に最後に残るのは俺だと思っただけだ。」
「そ、そうなんですか……?」
「ああ、珍しい事でもない。慣れたものだ。ただ……。」
「ただ……?」
エンカクは上を見上げる。
「ここに来てからは、少なくなった。」
「……フフ。そうなんですね。」
ポデンコはそれを聞いて少し安堵した。
「何がおかしいか?」
エンカクはポデンコを見る。ポデンコは大きく否定の身振りをして、そういうつもりで笑った訳ではないことをアピールした。
「い、いえ!そういう訳じゃ無くてですね……。最後に残ることが少なくなって良かったなと思って……。」
「ああ、そういうことか。そういえば、お前達ならそう思うだろうな。そうだったな、今のは忘れろ。」
「は、ハイ。」
「……そういえば、この花の花言葉は何だ?」
「ハナズオウのですか?うーん、そうですね……。」
ポデンコは少し、気難しい顔をしてうんうんと唸る。そして、しばらくしてから口を開く。
「目覚めや……喜び、豊かな生涯といういい意味があります。」
「……それだけか?」
「……はい。」
エンカクはため息をついた。そして、不敵な笑みを浮かべる。
「構わん。どうせ、いい言葉じゃないんだろう?」
「……まあ、裏切りや不信仰、疑惑……そして。」
ポデンコは一呼吸間を置いて、口を開ける。
「裏切りによってもたらされる死……。」
それを聞いたエンカクは鼻で笑った。
「フン……。ピッタリだ。気に入った!悪いが、コイツの種を少し分けてくれないか?」
「ええ!?今から育てるのですか!?難しいですけど……。」
「ああ、そうだ。枯れてすぐに散るのも一興だ。元より育てるのは興味がない。」
「うーん、少し待ってくださいね……。」
ポデンコはそう言うと、温室の奥へと素早く姿を消していった。エンカクはその背を見送り、ハナズオウに視線を落とす。すると、温室の扉が開いた。
「ただいま〜。あら……珍しい人がいるわね。」
「邪魔だったか?」
声の主人はこの温室の主、パフューマーだった。
「いえ、そうじゃないけど、あなたがこんな所に来るなんてビックリしただけよ。」
「ポデンコに少し話を聞いてな……種を分けて貰うため、待っていただけだ。貰ったらすぐに消える。」
「そう。分かったわ。しかし、あなたに植物を育てる趣味があるとは聞いていたけど、まさかここに来るなんて思ってもなかったわ。大抵、植物好きな人は、ロドスに来たらここにすぐ来るものだから。」
「存在を知らなかっただけだ。それと知っていても、興味もなかっただろう。だが、そこにある花が気になって立ち寄った。」
エンカクはハナズオウを見る。パフューマーはそれを見て、納得したように頷く。
「なるほど〜。ハナズオウね。確かにあなたにピッタリかも。」
「そうか。」
「エンカクさーん!持ってきましたよ〜、ってパフューマーさん、お帰りなさい!」
「ただいま〜ポデンコ。」
「あ、そう言えばこの前の……。」
「ああ、どうなったの?……。」
二人は話し込んだ。エンカクはそのやりとりを黙って見つめる。
「ああ、ごめんなさい!エンカクさん、これ!」
「ああ、悪いな。」
エンカクはそれを受け取ると、出口に向かって踵を返す。
「もう行かれるんですか?もう少しゆっくりしていっても……。」
「いや、いい。興味がない。」
「そうですか……。」
ポデンコは少し寂しそうな声を漏らした。エンカクはその言葉に答えることなく温室の出口まで歩き、そこで止まった。そして、背中越しにポデンコに声をかける。
「ああ……そうだ。また種をもらいにきてもいいか?」
「……もちろん!いいですよ!また!」
ポデンコは明るく返事をした。エンカクはそれに対して、
「ああ。」
一言だけ、ぶっきらぼうに返した。
「はぁ〜ちょっと緊張した。ポデンコは疲れてない?何もされてない?」
パフューマーが愚痴を溢し、ポデンコを心配した。しかし、ポデンコはその質問の意図が伝わっていないのか、ハテナマークを浮かべている。
「いえ、別に仲間だから差別するわけじゃないけど、彼は……ちょっとね。」
「ああ!そうですね!確かに、最初は少し怖かったですけど……。」
ポデンコは胸に手を当てて、ハナズオウを見る。
「そんなに、悪い人じゃないと思いますよ。」
ポデンコって瓶幾つ持てるんだろ。