今宵は月が綺麗ですね   作:とりゃあああ

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光月情景 後

 

 

 

 

 

 

「おでん様が悪とは如何なる了見か」

「イヌの言う通りじゃき。おでん様はワノ国を圧政から解放した『英雄』ぜよ。オロチやカイドウなんかと同じ扱いなどあり得ん!」

 

 イヌアラシは眉間に皺を寄せながら、ネコマムシは激しい剣幕で吠えたてる。両者に共通しているのは、光月おでんを貶したイゾウに対する強烈な不快感であった。

 気の弱い者なら卒倒してしまいそうな獰猛な唸り声を前にしても、イゾウは正座を崩さずに涼しげな顔で相対する。

 

「わからないか。それとも、わからない振りでもしているのか?」

「お兄様、あまり挑発するような言い方はーー」

「甘やかすな、菊。イヌとネコはもちろん、我ら全員が理解しなければ。心苦しいですが、おでん様本人もご理解しなくてはなりませぬ」

 

 家臣の一人から己は『悪』だと断じられる。

 光月おでんはオロチやカイドウと同じ穴の狢であると。これが身勝手にもワノ国から外海へと飛び出し、己に与えられた責務を放棄した代償ならば甘んじて受け入れよう。受け入れなければならない。

 イヌアラシとネコマムシ、錦えもんはイゾウの発言に反発する。

 それを有難い事だと思いながらも、光月おでんは片手を挙げて制止した。

 

「よせ。俺がアイツらと同じだっていうのはわかってる」

 

 周囲から家宰とまで称される忠義者、錦えもんが苦虫を噛み潰したような表情で俯く。奥歯を噛み締める音が大広間に響いた。

 彼とて理解しているのだろう。

 光月おでんが国法を破り外海へ出なければ、黒炭オロチは将軍になれなかった。光月スキヤキが逝去して発生した権力の空白期間、それに付け込まれる隙など何一つ与えなかった。

 しかし。

 おでんは外海へ飛び出し、ワノ国から離れた事を欠片も後悔していない。

 海賊として縦横無尽に暴れた。世界政府から懸賞金を懸けられた。それでも楽しかった。面白かった。常に心が踊った。

 ロジャーたちと過ごした煌びやかな日々は、ワノ国で燻っていた苦い思い出を一蹴してくれた。

 渋面の家臣を眺めながら心の中で苦笑する。

 黒炭オロチよりはマシかもしれないが、自分も将軍の器ではないのだろうなと。

 それこそ犬神の方が統治者に相応しいんじゃないかなと。

 

「されど、主君を悪と断ずるは家臣にあらず」

 

 傳ジローのか細い反論を聞いたイゾウは鼻で笑う。

 

「違うな、傳ジロー。主君だからこそ諌めねばならない。家臣である私たちが間違いを正さなければならない。主君の行いに唯々諾々と従うなど忠義にあらず。それは動物の群れに他ならない」

 

 イゾウは長年連れ添った仲間を睥睨した。

 

 

「全員わかっているのか? ここで我々が判断を間違えてしまえば、犬神様によってワノ国は滅びるんだぞ!」

 

 

 滅びるだろうか。

 脇息に身体を預けて自問自答する。

 解答は直ぐに出た。

 滅びるだろう、間違いなく。一日と持たない。

 金獅子海賊団の誇る大艦隊は、一騎当千揃いのロジャー海賊団ですら地の利を活かして戦わなければ太刀打ちできない一大勢力だ。

 しかし、犬神はそれを単騎で追い払った。

 挙句、金獅子の片腕を斬り落とす始末。怪物という表現すら生温いだろう。ロジャーや白ひげと互角、もしくはそれ以上の実力を秘めているに違いなかった。

 ワノ国の侍が束になって戦ったとしても、果たして傷一つ付けられるかどうか。流血にまで至れば御の字といえよう。

 犬神は人間に測れるような存在ではない。

 ポーネグリフ曰く。遥か昔、ワノ国を管理下に置こうとした世界政府へ刀神リューマと共に宣戦布告した。世界各地の猛獣を指揮して、天竜人の住む聖地マリージョアを荒地に変えたという馬鹿げた経歴を持つ。

 この真実を知るのはおでん、ロジャー、レイリーのみ。

 しかし、錦えもんたちも本能にて理解しているらしい。

 犬神に逆らったらどうなるか。

 犬神をワノ国から追放しようと試みたら、一体どうなってしまうのかを。

 

「わしは腑に落ちん!」

 

 そんな重苦しい空気に気分を害したのか、ネコマムシは不愉快そうに吐き捨てた。

 

「おでん様に悪いところはあったかもしれんが、犬神にも非はあるぜよ。奴は傳ジローの頼みを断ったきに。奴が動けば問題なかった。イゾウ、違うかや!?」

「犬神様の立場からすれば断るしかあるまい。そうだろう、傳ジロー」

 

 イゾウは横目で傳ジローを見遣った。

 代わりにお前が答えろ。そう言うことだろう。

 己の間違いを目前に突き付ける過酷な要求だろうが、傳ジローは眼鏡の位置を調節しながら苦々しくも頷いた。

 

「イゾウの言う通りだ、ネコ。犬神は動かなかったんじゃない。動けなかったんだ」

「どう言う事ぜよ?」

「もし犬神が動いたと仮定しよう。カイドウを打倒して、オロチを権力から引き摺り下ろしたとする。その後に待っているのはなんだ?」

「おでん様が将軍の位に就けばいい。光月家の跡取りなのだから当然だ」

 

 イヌアラシが無愛想に答えた。

 眉間に皺を寄せて、鼻を鳴らす。

 当然のことを訊くなと顔に書いていた。

 

「イヌ、そんな事を民衆が望むと思うのか?」

 

 傳ジローが不愉快そうに問い掛ける。

 何かに勘付いたイヌアラシではなく、直情的なネコマムシが横から噛み付いた。

 

「違うがや?」

「当然だ。何も知らない民衆からしたら、おでん様は大事な時にワノ国を離れた人間だ。事実、光月家の責務を放棄した存在としか認識されていなかっただろうに」

 

 故に。

 

 

「もしもカイドウを倒したのが犬神なら、オロチから解放してくれたのが犬神なら、ワノ国の民衆が望むのは解放者である犬神が将軍となることだろうな」

 

 

 鈴後だけではない。

 どうかワノ国全土を治めてほしい。

 窮地を助けられたワノ国の民はそれを切望するだろう。

 

「それだけで済めば御の字であろう」

 

 雷ぞうが補足する。

 

「黒炭オロチという暴君を生み出す原因となったおでん様や我々こそが、追放の憂き目に遭っていたに違いあるまい」

 

 ネコマムシが膝を叩いて立ち上がった。

 

「そんな訳あるがか。わしらは悪くないぜよ!」

「もうやめろ、ネコ。傳ジローや雷ぞうの言う通りだ。おでん様を止められなかった我々に非は有る。オロチの台頭を許した我々が悪いのだ。犬神様を責めるのはお門違い。鈴後だけでもオロチの手から護って下さった事を感謝するべきだ」

「イゾウ、ゆガラはあんな奴の肩を持つがか!」

 

 ゆっくりと首を横に振るイゾウ。

 

「事実を受け止めているだけだ」

「わしらはともかく、どうしておでん様まで追放されんといかん。おでん様は光月家の人間ぜよ」

「光月家の人間だからこそだ。おでん様は責務を果たさず、ワノ国の法律を破ってまで、単身で外海へ飛び出した。その隙を、オロチが利用した。民衆がおでん様を英雄と持て囃すのはカイドウを倒したからに過ぎん」

「お兄様、その辺で……」

 

 イゾウの隣で口論を見守っていた菊の丞が悲しそうに口を挟む。仲間割れに近い舌戦に居ても立ってもいられなくなったのだろう。

 そして――。

 

「おいどんからしたら不思議でも何でもない。民衆ってのはそんなもんだど」

 

 アシュラ童子が忌々しそうに言い切った。

 喧々轟々な大広間は一転して静寂に包まれる。

 ネコマムシは不満気に腰を下ろす。イヌアラシは握り拳を作っていた。菊の丞はオロオロと狼狽えて、雷ぞうは瞑目して頭を振った。

 

 

「おでん様、如何いたしますか?」

 

 

 上座へ身体を向けたイゾウが静かに問う。

 おでんは脇息を叩きながら考えを纏めていく。

 黒炭オロチとカイドウによるワノ国の私物化は各郷の民を大いに苦しめた。それを赦すことはできない。

 ならば、光月おでんに罪は無いのか。それは違う。外海へ飛び出さなければ、家臣の忠言に耳を傾けていれば、オロチによる政権奪取はなく、ワノ国の騒乱も起こり得なかっただろう。

 犬神を追放してほしいという民の懇願。鈴後をのぞく各郷の願い。ワノ国の迅速な復興を、永遠の存続を第一に考えるならば却下するしかない。

 だが――良いのか。

 民の怒りを無視するのは、オロチと同類ではないのか。

 民の願いを撥ね除けるのは、暗君であり暴君なのではないのか。

 

 

「将軍、大変です!」

 

 

 思考が堂々巡りする中、大広間に緊迫感の有る大声が飛び込んできた。閑静は破られ、おでんと家臣たちは声の主へ視線を向けた。

 お庭番集に属する忍者『猿飛』が片膝を突き、恭しく頭を下げた。

 

「鈴後に派遣していた部下から報告がありました」

「何があった?」

 

 猿飛へ続きを促すように尋ねるも、おでんは耳を塞ぎたくて堪らなかった。

 鈴後からの報告だ。ひどい胸騒ぎを覚える。

 最悪の未来を想像してしまう。これ以上の面倒事は勘弁してくれ。

 そんなおでんの細やかな願いは聞き入れられる訳もなく、猿飛は顔を畳へ向けたまま早口で言い放った。

 

 

 

「希美と白舞の民が暴徒化。隣郷である鈴後へと攻め込み、現地の民から略奪を始めました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を一周する『赤い土の大陸』に存在する、天竜人とその関係者の住まう『聖地マリージョア』。其処は世界政府の中心地であり、世界を動かすに充分な威容を誇る巨大な城『パンゲア城』が聳え立っている。

 その一室、権力の間。

 世界政府最高権力として名高い『五老星』の内、二人の男が難しい顔をして『とある議題』について協議していた。

 

 

「本当なのか、禁忌の牙が解放されたのは」

「間違いない。確認も取れた」

「どれだ? 場合によっては大事になる」

「鉄砕牙だ」

「爆砕牙でないだけまだマシか。それも誤差の範囲だろうが」

「鉄砕牙も厄介極まりないことに変わりないぞ。悪魔の実の能力を吸収して、己の物にできるなどふざけた力だ」

「しかし鉄砕牙が何故目覚めるのだ? アレはとある女性にしか心を開かないだろうに」

「わからんよ。詳しい事情を知る為にはCP0を派遣するしかあるまい」

「ワノ国を開国できれば話は早いのだが」

「やめておけ、大妖怪がキレる」

「そもそもまだアレは生きているのか?」

「死ぬ訳がないだろ。百鬼夜行を忘れたのか?」

「知っているとも。だが、所詮は猛獣。海軍を勢揃いさせれば返り討ちにできそうなものだがな」

「アレには爆砕牙がある。無理だ。たとえ海軍大将を三人集めたとしても」

「ふむ。やはり静観するしかないか」

「下手に手を出せば、大妖怪が世界に解き放たれるだけだ。アレはワノ国に留めておけばいい」

「もどかしいな」

「兎に角だ。CP0の派遣には賛成してくれるか?」

「誰を送る?」

「大妖怪とて男だ。女の方がよかろう」

「なら歓楽街の女王を送るとするか。それで靡けばよいがな」

「期待はしないさ。大妖怪は幼子を好むと聞くからな」

「それはまた、良い趣味をしてるな」

「全くだ」

 

 

 

 

 

 

 

 








今回は描写も拙く、量も少なくて申し訳ありません。後日、加筆修正すると思います。





五老星「大妖怪はロリコン」


ステューシー「嫌な予感がするわね」







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