ドラコ・マルフォイと初代校長は時を遡る   作:天荒

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謀略の飛行術訓練

 飛行訓練場に並んだホグワーツ生。

 向かい合ったグリフィンドールとスリザリンの生徒達は、互いを意識し合うように睨み合った。

 

「良いですか。手を箒へ向けて意識を集中させ、強い意志で上がれと言うのですよ。始め!」

 

上がれ、上がれと叫ぶ声で訓練場はいっぱいに満たされた。ザビニは2回目で箒が上がった。ロンは5回程度、ハリーは1回で成功した。ネビルは何度呼んでも箒が上がらず、教官のマダム・フーチが介助をしてようやく上げる事が出来た。ドラコは1人静動していた。箒を握った全員の視線が一点に集まる。マダム・フーチが心配そうに歩み寄ると、ドラコは空を見上げて無言で箒を呼んだ。

 

「先生、何かありましたか?」

「結構。お上手な事は結構。しかし基礎を疎かにするのは褒められません。次は減点対象です」

 

ドラコは聞こえないように舌打ちをした。余りにも程度が低く、退屈だったのでドラコはこの授業全体を馬鹿にしていた。それと同時に、つまらない説明を聞きながらある考えに辿り着いていた。

 

《アステリア、これは可能性だが》

《意味が無いと思うけど》

《やってみなければ分からないだろう》

 

アステリアの反論はネビルの叫び声に消えた。

 箒の制御が効かなくなったネビルはぐんぐんと上昇し、突然その体を地面に叩きつけた。骨が折れる鈍い音が柔らかく鳴ると全員が顔をしかめ、心配そうに呻くネビルの顔を覗き込んだ。

 マダム・フーチは溜め息と共にネビルを連れて城の中へと消えていった。箒に乗れば退学という言葉と、ネビルの落とした思い出し玉を残して。

 

 というのが、ドラコが1度経験した出来事だ。しかし今日は2度目。いつまでも英雄気取りにはさせられないと、ドラコは人混みの背後から杖を振り静かに魔法を放った。マダム・フーチに肩を預けていたネビルが立ち止まる。骨が元通りになり痛みも消えたからだ。そのまま何事も無かったように、訓練場へ戻り箒にまたがった。

 

《癒やしの呪文も知っているのは偉いわよ》

《別に、ただ勉強していて覚えただけだ》

《それで、貴方なりの思いつきによる考えなのでしょうけど。勝算はあるのかしら》

《問題無い“アイツ”よりも“ノロマ”の方が楽だ》

 

 ドラコは自分が楽だと思う道を選んだ。選んだ気になっている。その道がいかに歩きやすく整備されているかも知らずにだ。

 授業は再開された。各々はマダム・フーチが目を光らせる中、地面から数メートルの所を浮く練習に取り掛かった。ドラコは地上10メートルまで飛び上がると手放しで宙返りをしてみせ、注目を集めた。当然、大人に見つかる前に元の位置へ戻り何食わぬ顔で風を感じていた。ネビルはもたつきながらも1メートルの高さへ数秒浮かぶ事に成功した。そして、いくらドラコと言えどもハリーの才能を消す事は出来ない。完璧に空中で箒を制御してみせ、グリフィンドールに5点をもたらした。その一方、『中級飛行術』を片手に箒へまたがるも、思うように浮かばないハーマイオニーをロンは、ふらつきながら少し上から見下ろした。

 

「チャーリー兄さんが言っていたよ。箒はセンスと感覚と才能だって。君にあるといいけれど」

「あら、それ全部同じ意味の言葉だけど」

「なるほど、君が飛べないのはそうやっていつも辞書を持ち歩いているからさ。頭を空っぽにしてみたら? お空へ飛んでいけるんじゃない」

 

ハーマイオニーは集中するのではなく、深呼吸をしてリラックスした。するとどうだろうか、体は羽が生えたかのように軽くなりゆっくりと上昇していった。数分もすれば完全とはいかずとも空中で箒を制御できるまでになっていた。

 

「………ホントだわ! 私考えすぎていたのね! 凄いわ! 飛ぶってこんなに楽しいのね!」

──チェッ、面白くないや。

 

見下されたロンはつまらなそうに舌打ちをした。

 

 ドラコは、今時分が歴史の分岐点に立っていると考えていた。もしも、このままハリーが活躍する機会を奪う事が出来れば、グリフィンドールのシーカーを永遠に葬れるのではないかと。

 しかし、ドラコはアステリアの反論を聞くべきであった。決められた運命による歴史を覆すのは容易では無いという事を知るべきであった。突発的に修整を加えられた歴史は、その反動で思いもよらぬ方向へ動き出すという事を今、知るのだ。

 

「そこまで! 授業は終わりです」

 

 マダム・フーチの号令で、生徒は一斉に地面に降りて箒を縦に持った。しかし、ハリーが降りようとした時、なぜかその体が大きくぐらつき、箒から落ちてしまった。先程のネビルと同じく膝を抱えて呻きこんでしまう。周囲が驚き慌てる中、ドラコはザビニを睨んだ。ザビニがハリーの肩に呪文を当てるのをドラコは見逃さなかったのだ。

 

「最後まで気を抜いてはいけませんよ。皆さん、授業は終わりですが私はポッターを医務室まで連れていきます。それまでここに残るように、勿論箒に乗ったら退学ですからね」

 

 ドラコはハリーを治そうとはしなかった。寧ろ多少の痛みを味わえば良いとすら思っていた。

 

《全くもって酷いわね》

《ザビニのやり方は酷いが、これは素晴らしい》

《酷いのは貴方の方よ》

《一体、君は誰の味方なんだ》

《全てのホグワーツ生の味方よ。多少、貴方の事を優先しているだけで、私は教師なんだから》

《全ての味方なら、僕にも味方してほしいね》

《注意で済ませるだけで充分味方でしょ》

《だから教師は嫌いだ》

《ハリーの名誉の負傷が無駄にならないためにも、上手く事が進めばいいのだけれど》

《ザビニなら必ずやる。アイツはそういう奴だ》

 

ドラコは、ハリーの落とした眼鏡をザビニが拾ったのを見て、静かに歓喜した。しかし、ネビルがそのザビニの手首を掴み、歓喜の時は終わった。

 

「返すんだ。それはハリーの物だ」

 

 ネビルは悠然と友のために立ちはだかった。

 

「ああ、返すさ。バラバラだけどね」

 

そう言うか言わないか、ザビニはネビルに眼鏡をかけるとケラケラと嘲笑った。細いハリーの顔に合わせられたフレームが歪む。

 

 ドラコはその言葉に半ば疑問を抱いていた。

 バラバラという言葉の意味を一瞬でも考えた。  

 それが、ザビニとドラコの違いでもあるのだ。自分はそこまでしない、その意識が思考にブレーキをかける。アステリアが叫びそのブレーキが外れ、ドラコは武装解除呪文によってザビニの手から杖を引き剥がした。その驚いた口はtの発音を言うか言わないかで止まっていた。

 

《………ブレーズ、あの子1年生なのにレダクト(砕けよ)が使えるなんて。親はどんな教育をしたのかしら。彼、本気でネビルに大怪我を負わせようとしていたわ。そんな生徒初めて見たわよ》

《ここまでやる奴だとは、思ってもいなかった》

 

もしも、あのままネビルにかけられた眼鏡が呪文によって砕け散っていたらどうなったか。ドラコはブレーズ・ザビニという、以前からの敵に恐怖を抱いた。初めて、ザビニを恐れていた。

 

「ザビニ、退学になりたいなら勝手に出ていけ」

「本気で下等魔法族と仲良くするつもりなのか」

「下等か上等かは僕が決める事だ。だから、君は下等だ。その年でアズカバンに行くつもりか?」

「なんだと?」

「聞こえなかったかのか。アズカバンへ送られるような奴は下等だと言ったんだ」

 

ドラコの口撃を受けてもザビニは強気だ。ネビル目がけて鋭く指を伸ばすと、眼鏡を掴み取り箒で空高く登り始めた。上空から落とす気なのだ。

 

──狙い通りだ。

 

ドラコは挑発に乗ったザビニを嘲笑い箒にまたがり、強く地面を蹴った。1年生のザビニと、6年間スリザリンのシーカーを努めたドラコでは技量が違う。箒は天高く加速する。その時、ドラコの耳元を別の飛行音が(かす)めた。ネビルだ。

 ネビルは無我夢中で空を飛んでいた。何か思惑があったのでは無い。ただハリーの眼鏡を取り返したいというのと、自分に危ない事をしたザビニに対して腹が立っていただけだ。正直飛んでいる理由も分からない。ひたすらに、箒で加速する。  

 そしてそれはドラコにとっては最悪だった。

 

──ネビルが眼鏡を取れば、シーカーの座もネビルに奪われるかもしれない。

 

 ザビニはある程度の高さで眼鏡から手を離し、そのまま体を反転させて地面へ急降下していく。

ドラコは即座に反応し、落下する眼鏡へ手を伸ばした。ネビルもやや遅れて下降した。

 

──何かおかしい。

 

その思考がアステリアに伝わるよりも先に、紅の閃光は青空を貫き天へ伸びた。眼鏡をその手に掴んだが回避は間に合わない。ネビルが視界の端に映ると同時に、紅の光が放射状に広がった。

 

《………ありがとうミネルバ。助かったわ》

 

盾の呪文はドラコとザビニの麻痺呪文の間を遮り透明な壁を作った。箒は失速し、ドラコは叩きつけられるように着地する。マクゴナガルの厳格な顔が荒く息をするドラコを見下ろした。その奥、校舎にはダンブルドアの姿も見える。

 

「ドラコ・マルフォイ、ネビル・ロングボトム、怪我は無いですね。両名は私についてきなさい。ブレーズ・ザビニは………」

「私が地下牢で話を聞こう。なぜならスリザリンの寮監は私だからだ。異論はありますかな?」

「………いいえ、“よく話を聴いて”くれれば結構です」

 

 ネビルは城の廊下を50メートル歩く間に、24回もマクゴナガルへ話しかけた。しかしその全ても返答は無く、ついにその相手はドラコとなった。

 

「マルフォイ、僕退学なのかな。おばあちゃんになんて怒られるんだろう。うーん、どうしよう」

「退学にはならないだろ」

「なんで? マクゴナガル先生、あんなに怒っているんだよ。やっぱり退学だよ」

 

ドラコは自分達が退学にならない事も、マクゴナガルの怒りがザビニへ向いている事もアステリアから聞いたがそれを言わなかった。言おうとするよりも前に部屋についたからだ。なのでドラコは一言だけネビルに耳打ちした。その指示にネビルは非常に驚いた顔をしたが、渋々(うな)ずいた。 

 

 部屋に入ると中にはダンブルドアがニコニコと座っていた。アステリアは露骨に嫌悪した。昔からアルバスは苦手な生徒なのよ、と愚痴をする。

 

「………それで、ロングボトム。貴方はブレーズ・ザビニにどんな事をされたのですか」

「えっと、ハリーの眼鏡を顔にかけられて………」

「かけられて? それからどうなったのですか」

「馬鹿にして笑われました。“それだけ”です」

「それだけ? 複数人の生徒から、ザビニは何か呪文を貴方へかけるつもりだったと聞きましたが? グレンジャー曰く、あれはレダクトだと」

「いいえ、ただ笑われただけです」 

「そう………ですか。ではマルフォイ、貴方はなぜポッターの眼鏡を取り返しに、言いつけを破り箒で飛んだのですか? なぜ貴方が?」

「マクゴナガル教授、なぜ僕がハリーのために箒で飛んだらおかしいのですか?」

「私の貴方達への評価に基づくものです」

 

《マクゴナガルは何を聞こうとしているんだ》

《この子、凄く強い心を持っているから時間がかかるのよ。だから言葉には気をつけなさい》

 

この子という表現に若干の吐き気を覚えながら、ドラコはマクゴナガルからの質問に丁寧に答えた。気を抜き口を滑らせれば、取り返しのつかない結果を招く。薄氷を踏む思いで言葉を紡ぐ。

 

「ロングボトム、貴方はもう行ってよろしいです。スプラウト先生には貴方が遅れると伝えてあります。マルフォイも遅れると伝えてください」 

 

ネビルが部屋をあとにし、その空気が更に重くなった。ダンブルドアが軽く息を吸ったからだろうか、ドラコは神経を尖らせた。

 

「ワシからは2つ。1つ目は質問じゃ。ドラコ、君は今困っている事は無いかのう? 何か大きな秘密を持っているが、それに困っていないかの?」

「いいえ、何も困っていません」

 

深い青に光るガラス玉の瞳。ドラコの嫌いな瞳。その奥にある深い黒がドラコを飲み込もうと怪し

く揺れていた。ダンブルドアは満足した素振りを見せ、黒も青も静かに内へ収めた。

 

「では2つ目じゃ。2つ目は提案、いや意見、いや勧誘とも言える。君は賢い子じゃからワシが何を言わんとしているか分かるじゃろう?」

 

ドラコはあえて何も答えなかった。その口から確証を持てる言葉を聞くまでは何も言えなかった。

 

「マクゴナガル教授、彼は問題ないじゃろう」

「では、よろしいのですか?」

「グリフィンドールのキャプテンも大いに喜ぶ事じゃろ。さあさあ、早くせねば。善は急げじゃ」

 

 ドラコを連れ立って廊下を歩くマクゴナガルはどこか嬉しそうで、どこか不安気に見える。

 

「いいですかマルフォイ。私は貴方を推薦する事について、まだ迷いがあります。それは貴方自身の問題では無いのですが、仕方の無い事です」 

「仰っしゃりたいことは良く分かります」

「これが良い結果をもたらすか、それとも最悪の結果となるか、それこそ貴方次第です」

 

上機嫌のドラコはほとんど適当に返答した。自分の望みと策略が1つ上手く行った。それは何よりもの喜びだ。アステリアの小言も耳に入らない。

 

「すみません、フリットウィック先生。ウッドをお借りできますか」

 

ウッドはマルフォイ家の長男を、奇妙な生物に目を留めるがの如く見つめた。それも非常に上機嫌なドラコには気にならない。

 

「なんでしょう、マクゴナガル先生。なぜ、彼がここにいるのですか? いや、まさか?」

「そう、その………まさかです」

 

マクゴナガルは躊躇いながら言葉を絞り出した。

 

「彼が、そう………グリフィンドールのシーカー。新しいシーカー、ドラコ・マルフォイです」

 

ウッドは啞然と呆然する事しか出来なかった。

 

 

 

 

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