とあるオタク女の受難(魔法少女リリカルなのは編)。 作:SUN'S
また、気配を感じて後ろに振り返る。
その気配の正体は知っているようで知らない。そんな曖昧な存在だと思っていたのに、ふと気付けば私の知らないところで「わたし」に成り代わり、逃げ惑う犯罪者を雷撃で黒こげにしたと聞かされた。
私は部屋で休んでいたと言えばマンションの監視カメラにも一歩も部屋の外に出ていないことが分かったため、幻影もしくは姿を真似る稀少技能を持った犯罪者の事件として対策室を作ることになったけど、私は犯人と混同するという理由で自宅謹慎を言い渡された。
それでも私が居なかったら雷撃を跳ね返せないと訴えても「お前が居ると邪魔だ」と突き飛ばされ、スバルとティアナに連れられる形でマンションまで帰ってきた。あの子がミッドチルダを出ていってから何もかもが上手く進まない。
どうして、私を事件から外すの!?
私は事件に関わることを許されたスバル達を怒鳴りそうなり、何も言わずにドアを閉めて二人を追い返してしまったことを後悔する。
いつもの私なら冷静に対応できるはずだ。それなのに私の姿を真似て悪さを繰り返す犯人を捕まえることも出来ないなんて悔しくて仕方がない。
「私が可笑しくなるのは貴女のせい?」
そっと私は姿見に映る自分に問い掛ける。
こんなこと普段なら絶対に呟いたりしない。それどころか鏡に映った自分に話し掛けるなんて普通に考えれば可笑しなことだって気付くはずなのに、その日の私は誰とも会えなくて話せなくて可笑しくなってたんだと思う。
そう思わないと気が狂いそうになる…。
たぶん、そんな生活を続けていたせいで私は闇の化け物のに身体を乗っ取られたんだ。はのは、はやて、あの二人なら私みたいに乗っ取られずに闇の化け物を跳ね返せたのかな?
私の疑問に答えてくれる人はいない。
じーっと鏡を見詰めて滲み出てくる「わたし」と入れ替わるように鏡の中に入る。私にも分からないけど、そうしないと大変なことになると感じるからとしか言えない。
「メフィスト、あなたは離れない?」
「私が離れるのはお前が死ぬ時だ」
その言葉を聴いてホッとする反面、私が死んだらメフィストは私から離れる。あの子もいなくなった世界で、唯一頼れるのは彼だけだ。もし、もしもメフィストが消えてしまったら今度こそ私は壊れる。
最初の頃はメフィストが私の姿を真似て暴れる犯人だと思っていた。いや、この事件の犯人は彼なのかもしれないけど、今となっては調べることも捕まえたいとも思っていない。
むしろ私は彼が居てくれる限り、ずっと独りぼっちだった暗がりの中でも生きていける。たとえなのは達と別れることになってもメフィストだけは傍に居てくれて、どんな時でも励ましてくれる。
もう私にはあの子は必要ない。
そうだ、あの子は私とメフィストの出会うために用意された装置なんだ。ふふっ、そう考えたら二人と一緒になって彼女を追い掛ける頃の自分が馬鹿に思えてきた。
「ずっと、ずーっと、傍に居てね…」
大好きだよ、メフィスト───。