「…は、いかんいかん。アタイもはよ部屋戻って準備せんと」
「…お風呂沸かして、ご飯も…あーアカン大したもん用意出来んわ…こんなんなるなら色々買ってたんに~…!」
「…管理人がウチに来る…か」
「………ふふっ…♪…」
「…ふぅっ…一旦帰って来たはいいが…」
「…何が要る…?下着、寝間着、歯ブラシ…あ、布団は一人分しかないよな?…」
「…電車の中じゃまだ舞い上がってて頭回らなかったからな…大体こんなもんか」
「…よしっ、後は買い物だな。いくつか適当な食材…ジョゼの家の最寄で買うか…」
「……………」
「……薬局……」
「…………念のため、な……うん、…念のため…」
「…一旦家帰ってるから、送り狼にはならないだろう……ならないのか…?」
「待てガッつくな俺…!あくまで紳士的に…しかしそんな経験も無いし…慎重に慎重を重ねる必要はある……よな…」
「…………近くの薬局………」
ピンポーン…
「っ!……この音まだ慣れへんわ…いきなり部屋中に鳴り響くから……っんしょ」
「しかしホンマ便利やなぁ…家の中から来た人が誰か分かるって」
「……ふふ、間抜け面やなぁ管理人………せやっ」
「…うぅ、落ち着かない……」
『……どちら様でしょうか?』
「…あ?…え!?あれ?!…あの…じ、ジョゼ、さん…でしょうか?」
『……ウチは山村ですけど?』
「あっすみません!間違えました!失れ…い……?」
『………ッぷふ』
「…おい…」
『くっふふふッッ……』
「…山村ってジョゼじゃねぇか!?マジで間違えたかと思ったわ!」
『…ハァ~、さすが管理人や!完璧な反応やったわ』
「…管理人って名の道化になりつつあるな…」
『あはっ、すまんすまんっすぐ開けるわ。上がって来てや』
「お、おうっ」
「…この部屋か。…やばいまた緊張してきた……何も忘れ物とか無いよな…?…てかここでもインターホン押すのか…?」
ガチャン
「…っうわおった!何やっとんねん突っ立ったまま!」
「うおっ!?わ、悪い!なんか緊張しちゃって、すぐ開けられなかった!」
「…なにガチガチになっとんねん。はよ入りや、寒いやろ?」
「お、おう…」
「…アタイもちょっと緊張してたけど、管理人のがもっと緊張してるから逆に冷静なったわ…。前はズカズカ上がって来てたやん?」
「ズカズカって…前はおばあさんも居たし、家も結構広かったから。前に比べるとここは少し手狭だけど、その分なんかこう…直接前の家のジョゼの部屋に入ってるような、肩身の狭さを感じるんだよな…」
「そうカタくならんと、リラックスしや。…あーもう、こんなに手ぇ冷たいし……」
「っ………ジョゼの手、暖かいな…。」
「…ふふん、おかげ様で。先に暖まらせて貰いました。…こんな玄関で話さんでもええやろ、ほら靴脱いで」
「…だな。んじゃ、お邪魔しますっと」
「おお…ここがジョゼの新しい部屋…。…何て言うか………」
「何もないやろ?」
「…ああ。こう言うのもアレだが…殺風景だな」
「ホンマに最低限やから、まだ色々と不自由やねん。ほら、管理人に作ってもらったキッチンの台とかまだ向こうやしな。何とか椅子で代用してるんやけど、こっちのキッチンのが少し位置が高くてな…」
「前造ったのをそのまま使う、とはいかないか…また新しいの、造ってやるよ」
「……前のやつはどないする?」
「んー、解体して処分するしかないかな…こっちで使えないかもしれないし」
「…そ………そう、やな…。」
「…嫌か?」
「…出来るなら、捨てたないけど…これ以上、管理人の手を煩わせたないねん。」
「何言ってんだよ、今更だろ?」
「…これ以上ワガママは言えんのや…!」
「…ジョゼ…?」
「……そ、そういえば、食材はなんか買うてきてくれたか?」
「……俺は自炊しないからな…適当に野菜、肉とか買ってきた。これらで何か作れそうなものあるか?」
「…ふむ…えらい鍋向きの食材ばかりやな………よっしゃ決まりや。」
「早いな!…さて、その料理は?」
「ふふん、すき焼きや。」
「いいなっ!……あまりクリスマスっぽくはないが」
「…材料買うてきた管理人が言うかそれ?」
「…いや悪い、正直ジョゼの手料理って思うと舞い上がっちゃって、よく分からないまま勢いで食材買ったもんだから…」
「そう言われると悪い気せぇへんな…ただすき焼きが手料理かと言われると微妙なとこや…」
「ジョゼが作る事に意味があるんだよ。しかしすき焼きのスープ?的なもの無いが、また買ってくるか?」
「割り下な、要らへん要らへん。肉もあるし、調味料だけは充分にあるんや。鍋も念のため持ってきてて正解やったわ」
「へー、そんな簡単に作れるものなんだな。まさかジョゼ、料理は出来るほう?」
「まさか、は余計や!こう見えても料理は結構得意やで。少し時間は掛かってまうけど、おばあちゃんにも褒められたくらいや。基本的におばあちゃんの手伝いしかしとらんかったけど、管理人がキッチン台造ってくれてから本格的に教えて貰てな」
「じゃあちゃんと料理始めたのはその頃って事か?それにしては手慣れてるな…手伝える事あったら言えよ?」
「ありがとな。けど管理人は客人や、ゆっくりしとき。今用意したるからちょっと待っとってや」
「おう、よろしく頼む」
「…ん。これは…位牌?」
「あーそれ、おばあちゃんのや。ミニ仏壇みたいなの作ってん。それは向こうに置いてったらアカンと思てな。」
「…手、合わせても良いか?」
「…もちろんや」
「……チズさん………」
「…さて、あとはじっくり火通してと……管理人、起きとるか?」
「………」
「…管理人…泣いてるんか?」
「…あ、いや悪いっ…その…」
「…謝ることないよ。意外と泣き虫やなぁ、管理人は」
「……チヅさんのお蔭でジョゼと出逢えて、こうやって一緒になれて…けどそれをこういう形でしか伝えられない…もう会えないんだって事が、今更実感されて…。ジョゼの事も、俺がもっとしっかりしていれば、何か出来たんじゃないかって……」
「………」
「…ジョゼに「もう時給は払えない」って言われた時、俺はもうお金の為に動いてたんじゃなかったと思う…。相談があれば乗るって言ったけど…俺自身どうしたらいいのか分からなかった…。あの時、直ぐにでも「お金は要らないから」って、ジョゼの傍に居ることも出来た筈だったんだ…でも………っ…?」
「……管理人の背中、大きいなぁ。ずっとこうしておぶされてたいわ…。」
「…ジョゼ…?笑ってるのか?」
「泣いてる様に見えるか?」
「…いや」
「ん。…アタイは幸せ者や。」
「…?」
「…おばあちゃん、見てるか?この管理人な、めっちゃお人好しやねん。アタイこんな性格やから、帰れとか来ていらんとか滅茶苦茶言ったんに、それでもそっと見守ってくれてんねん。アタイやおばあちゃんの事想て、泣いてくれよんねん。こんなアタイの事、好きって言ってくれんねん。なぁ、おばあちゃん…信じられるか?」
「ジョゼ…」
「…おばあちゃんに言ったな…「もう来るな言うとって」って。 …あれな、ただの嫉妬やねん。 普段仕事で、二ノ宮サンとか、他の若い女の子相手にしてる思たら、なんかもうムカムカして、悲しくて、寂しくて…でも自信も無くて。 …今思えば、あの頃からずっとアタイは、管理人の事が好きやったんやな…。おばあちゃんも分かっとったんやろ? …前はあんなに外出るの止めてたんに、管理人と出逢ってから、殆んど咎めんかったもんな……」
「………」
「…おばあちゃんな、」
「…え?」
「正直、めっちゃ無理してたんやと思う。…けど、アタイこんなんやし、あの頃は夢見て待ってるだけやった…。おばあちゃん、死ぬに死ねんかったんや」
「………」
「おばあちゃんが亡くなる直前…ほんの少しだけ、意識戻ってん。……ホンマに苦しそうで……けど、アタイの顔見て…笑顔見せてくれて……そのまま………」
「っ……」
「……ホンマに穏やかな顔やった……憑き物が落ちたような……」
「………」
「…アタイは、憑き物や。誰かが傍に居ると、支えられてまう。アタイは幸せもんやから。傍に居る人が支えてくれんねん」
「…そんなことは…!」
「管理人の事は好きや。それは絶対や。この想いは誰にも負けん!……けどな………せやからな……管理人の憑き物にだけは、絶対になりたくないねん…!」
「………」
「…せやから、一人で立って生きていけるように、それを証明する為に、管理人には何も言わずここに住み始めたんや。」
「…それで、何も言わずに…」
「うん…。アタイなりの、ケジメやったんや。」
「ケジメ、か…」
「…けど……」
「…?」
「同情でも、管理人が好きって言ってくれて。アタイにキスしてくれて…。ホンマに夢かと思った。アタイの憧れやったから。」
「…………ん…?」
「憧れが叶ってまうと、アタイのケジメは途端にブレブレや……。憑き物にはならん!って決めたハズなんに、もう管理人の傍から離れたないんや…。」
「………」
「やからせめて、憑き物なりにワガママ言わずにアタイだけの力で生きて、管理人の世話にならんように…!」
「ジョゼちょっとストップ。」
「……なんや?」
「ちょっとな……あの、同情って言ったか?」
「…うん、言った。……だって、そうやろ…?」
「…俺…違う意味でまた泣きそうだよ…」
「……どういうことや?」
「…ジョゼと出逢って今迄、同情なんて一度きりだぞ、俺」
「…一度きり?」
「海を見に行きたい、って。」
「……………そんだけ?」
「同情って言うならな。」
「…アタイの事色々世話焼いてくれたのも、好きって言ってくれたのも………同情…やないの…?」
「…ジョゼ……俺が同情で女の子にキスする程、節操無い男に見えるか?」
「…だって!…管理人、モテそうやし…。顔も良くて気配り出来て…。アタイ、正直自分の顔に少し自信あったけど…それ以外は華奢で、チビで地味やし…二ノ宮サンみたいに肉付き良くないし…花菜ちゃんみたいに大人の魅力もあらへん…。同情以外で、管理人が良くしてくれる理由が…見付からんねん…。」
「…言っとくけどな」
「……?」
「俺、誰かと付き合った経験なんて無いぞ…?」
「………へ?」
「……だから女性経験も無ぇよ…」
「…管理人、まさか…童貞さんなんか!?」
「さん付けは哀愁を誘うから止めてくれ……そうだよ」
「管理人が童貞やったら、世の男は皆童貞さんやろ…」
「…高評価が過ぎる…そんな良い男じゃないっての」
「でも!…じゃあ今までのは全て同情やなくて…好意でやってくれてたんか…?」
「当たり前だろ?」
「……ウソや……」
「…ちょっと、離れて貰ってもいいか?」
「あ、うん…すまん…」
「ちゃんと伝わってなかったみたいだから。…こういうのはちゃんと、正面から顔を見て伝えたいから。」
「…?」
「俺はジョゼの事が、誰よりも好きだ。」
「っ………でもアタイ…脚こんなんやし……」
「いつでもお姫様だっこし放題だな。」
「…性格やってひねくれてるし…」
「甘えん坊の裏返しだろ。」
「っ……地味でチビで女の子の魅力も無いし……」
「小柄で可愛くて、深窓の令嬢みたいだと思ってるよ。服装もフワフワしてて良く似合ってる。」
「……口も悪いし…」
「ジョゼの声、可愛いけど芯があって好きだな。勿論顔も好みだ。」
「………んもう!どんだけアタイの事好きやねん!!」
「だから言ってるだろ、誰よりも好きだって。」
「……もうっ!アタイも好きや管理人の事っ!他の誰よりも、アタイが一番、管理人の事が好きや!…これからもずっと、傍におっても…ええか……?」
「…願ってもないよ。」
「あっ………ふふ……もっと強ぅハグせぇ…」
「…はいはい」
「…ふふふっ……」
「……ジョゼは、憑き物なんかじゃないよ。」
「…?」
「チズさんの話。チズさんはジョゼの事、憑き物だなんて思ってないよ。」
「…でも…」
「…きっとチズさんは俺の事、認めてくれたんだな。」
「認めて…?」
「…チズさんが笑顔で逝ったのは、俺とならきっとジョゼが幸せになれると思ってくれたんじゃないかな。…自意識過剰かもしれないけど…。」
「………」
「あんなにも過保護に育てられてきたんだ。チズさんは誰よりも、ジョゼの幸せを願ってた筈だよ。」
「……おばあちゃん…」
「俺だって、チズさんに負けないくらい、ジョゼには幸せになって欲しい。」
「…グスッ……うん…」
「ジョゼの思う幸せって、どんなものだ?」
「…管理人と、支え合いながら、一緒に生きていきたい…。支えられるだけじゃなく、アタイも管理人の事、支えてあげたい…!!」
「なんだ。じゃあ今、幸せの真っ最中だな。」
「…ふぇ?」
「ジョゼは気付いてないかもしれないけど…俺はもう充分、ジョゼに支えられているよ。」
「……そうなんか…?」
「ああ。」
「……アタイ、ちゃんと、管理人を支えられとるんか?」
「じゃなきゃ今頃、まだ入院中だ。不貞腐れて横になってただろうな。」
「……アタイは、管理人に…必要とされとるんか?」
「これからジョゼと関わらないなんて、絶対に御免だ。」
「……アタイ、ちゃんと、出来てるか……?」
「…ああ。」
「…そうか…ちゃんと出来てるんか…アタイ……」
「……よしよし…。」
「っう"ぅ……ぅう"わあ"あ"ぁぁぁぁん…」
「…なんだよ……ジョゼだって、泣き虫じゃないか……」
「…う"ぅっ…ヒグッ……ぅあ"あぁぁぁぁん……」