「ふわぁぁ、今年はかなり積もったなぁ!一面真っ白や!」
「だなぁ。寒くないか、ジョゼ?」
「大丈夫や。アタイ寒さには結構強いねんで。つねおこそ、松葉杖なんやから足元には注意してな?」
「…正直、滑ってコケそうで怖い……あ、そうだ」
「コケて骨折とかほんまやめてや…やっぱ家で……ってなんや?」
「ジョゼの車椅子を支えにすれば大丈夫だ!」
「いやそんな閃いたっみたいに言われても…ほんま大丈夫か?無理してへんか?」
「何言ってんだよ。ずっと入院してたし、ましてやジョゼとクリスマスデート…多少無茶しても行くっての」
「っ……もぉ、なに急に子供みたいな事言っとんねん…」
「色々と行きたい所もあるしな。ジョゼは何処か行きたいとこあるか?」
「ん~そうやな…図書館と………あと、つねおのバイト先とか…」
「っ……いいのか?」
「…前行った時は、アタイが勝手に妬いてただけやし、そっちばっか気になってお店の中全然見られへんかったから……つねおさえ良ければ…」
「…歓迎するよ。とは言えしばらくは復帰できないんだけどな」
「…店長さんにも、迷惑かけてもうたな……」
「いやいや迷惑なんて。店長、なんか喜んでたぞ?」
「喜ぶ?……つねお、嫌われてたんか…?」
「いやそうじゃなくてだな!?女の子庇って轢かれるなんて名誉の負傷だ!ってな。…まぁもしかしたら歩けなくなるかもって話までは伝わってなかったから、楽観的だったってのもあるだろうけどな」
「……アタイはどんな顔すればえぇねん…!」
「まだ会ったこと無いよな?いいんだよ普通で。ジョゼ可愛いから、店長もテンションあがるだろうし」
「うぅ……それならええんやけど……てか、今の時期お店やってるんか?今日なんて雪積もっとるくらいやし、こんな寒いとダイビングにも人来いひんのやないか?」
「あー、確かに夏とかに比べれば人は減るけど、冬でも結構来るんだぞ?場所にも依るが、海水って季節関係無く水温があまり変動しないし、ウェットスーツの防寒機能はかなり優秀だからな。寧ろ冬場は空いてるから、それ狙いで来る人もいるぞ」
「はぁ~~、そうなんや。………」
「…?」
「……えぇなぁ……海の中……。」
「……見てみたいか?」
「…出来るなら、見てみたいな…。」
「いつか、見られるかもしれないぞ?」
「…せやな。海の中走る車とか、開発されるかもしれんしな」
「そうだぞ、諦める事なんて無いんだからな。」
「ん。首長~~~くして待ってるわ。」
「ああ。…んじゃ、とりあえず図書館行こうか。」
「せやね。行こっか。」
「電車も慣れたもんだなジョゼ」
「ふふーん♪当たり前や。つねおのお見舞いに何回行ったと思てんねん。図書館にもちょいちょい通っとるしな」
「しっかりICOCAなんて作っちまって…」
「いやー、便利やな!簡単にチャージ出来るし、場所に依ってはこれで買物もできるとか!」
「……深窓の令嬢が俗に染まっていく……」
「言い方な!?言い方良くないで?…ってか令嬢って、貴族とか身分の高い人に使われんやで?アタイは超の付く一般庶民や、そんな柄やない」
「そうなのか?んじゃあ……箱入り娘かな?」
「それも令嬢とほぼ同じ意味やな……まぁ後者の方がより一般向けなイメージやけど。………」
「……どうかしたか?」
「……箱入り娘も深窓の令嬢も、どちらも世間から娘を大切に守る為に、外に出さへん事やんか?」
「…そうだな?」
「………アタイの場合、守る為やなくて、隠す為って意味が強かったと思うから、やっぱ違うなって…。」
「…っ……」
「いや決して虐待されてたとかそういう訳じゃないでっ?なんだかんだ言って、おばあちゃんも夜散歩連れてってくれたしな?」
「………」
「…すまん、なんか辛気臭い感じになってもうたな、忘れてやっ。気にせんでええから!」
「……入院中から考えてた事があってな」
「へっ?なんや急に?」
「入院中はまだジョゼと今みたいな仲じゃなかったし、考えるのも早過ぎかなって思ってたんだけどさ」
「…うん?」
「年明け、俺の実家に来ないか?」
「……ぅえ?」
「母さんにさ…ジョゼの事、紹介したいんだよ」
「……いや、でも…」
「事故った時に、まぁ母さんにも心配掛けたし、退院したら顔見せろって言われてたしな。年明けには一度帰ろうとは思ってたんだ」
「………」
「…無理強いはしない。今でも、正直早過ぎると思ってるしさ。…ジョゼは嫌か?」
「嫌なワケ無いっ!……無いけど………怖い」
「怖い?」
「……うん」
「…なにが怖い?」
「………」
「……悪い、言いたくない事くらい…」
「すまん、ちゃんと言う」
「…ああ、聞くよ」
「…あんな………大好きなつねおの、すごく身近な存在のお母さんに、嫌な想い持たれたくないねん…。」
「………」
「まだ会うた事も無いつねおのお母さんに、アタイが勝手な偏見持ってるみたいで言いたくないねんけど……普通の母親なら、健康なつねおがアタイみたいな障害持ちの娘連れてきたら、やっぱ嫌な想いするやろ?」
「………」
「アタイ、そういう悪意…というか、ネガティブな気持ちに敏感で、何となく分かってまうねん…。被害妄想や言われたらそれまでやけど、やっは結構キツイねん」
「そういう意味やとつねおは、初めて会うた時からネガティブな気持ちは殆ど感じんかった。ネガティブ言うても、障害者に対する憐れみや鬱陶しく思う気持ちとかや全然のうて、せいぜい生意気なガキ~くらいの気持ちやったと思う」
「…っ……」
「そんなんやから、つねおのお母さんに会うのが怖い。そんなこと思われへんって思いたいけど、やっぱ怖いねん。赤の他人にどう思われようが、ある程度慣れてもうたけど……他ならぬつねおのお母さんとなると、やっぱ悲しいよ…。」
「……そうか、母さんに嫌われるのが嫌か…」
「…うん…」
「……因みに、他に気が進まない理由とかあるか?」
「他に?………無いな。それさえ無ければ、寧ろ積極的に行きたいくらいや」
「…そうか」
「………」
「もし俺がここで、俺の母さんはそんな事思わないぞって言ったところで、信じられないよな」
「っ…」
「厳しい言い方かもしれないけど、これはジョゼの気持ちの問題だと思う」
「………」
「怖いって気持ちも、なんとなく想像は出来るよ。例えば、もし仮におばあさん……チズさんが今も元気だったとして、そのチズさんに何かの理由で嫌われるってなったら、俺だって絶対嫌だもんな」
「……おばあちゃんはそんなこと思わへんよ。つねおの事、信頼してたもん」
「…な?ジョゼもそう思っちゃうだろ?」
「………あ」
「確かに母さんにジョゼの話はしてないし、会ってみないと何て思われるか分からない。…だけど、母さんはまぁ、大丈夫な人だ」
「………」
「最初に言った様に、無理強いはしないよ。時間もまだ一週間近くあるし、考えてみてくれ」
「…分かった。」
「おう。」
「ここもすっかり見馴れたなぁ」
「アタイも。完全に行きつけになっとるで」
「図書館が行きつけって、知的で洒落てる感じがしていいな」
「その実ただのインドア派の引き篭りやけどな」
「はは、そうかもな。花菜さんは居るかな?」
「年末年始は休館やけど、29日までは開いてるとかで、花菜ちゃんその日まで出る言うてたから…多分居る筈………」
「受付には居ないな……棚の整理でもしてるのかな?」
「あっ、居ったでつねおっ」
「……?……っあ、ジョゼ~!つねおくんも~!」
「こんにちは花菜ちゃん、早速遊び来たでっ」
「花菜さんお疲れさま。昨日の今日だけどな」
「こんにちは~。なになにどしたの?なんか急ぎの用でもあった?」
「俺の方はまぁ大した事じゃないんだけど…ジョゼは?」
「アタイは…まだ働き始めるまで時間あるし、今の内に本読んどこ思て…昨日のお礼も、ちゃんと言えてないしな」
「お礼とかそんなんええよ~!友達の為やし、当然の事よ」
「…いや、それでもや」
「…ジョゼ?」
「………」
「…謝らないかん事が、二つあんねん」
「二つ?」
「一つは昨日の事…。ほんま心配掛けてごめんなさい。」
「それはもうえぇよっ、無事やった事やし!……けど、なんで前の家から出てってまったん…?」
「それは……謝らないかん事のもう一つと繋がってんねん」
「もう一つ…?」
「…今までアタイ…なんなら今も未だ、常に誰かに支えられてないと、生きていけへんから。僅かでも、自分だけで生きていけるいう事を証明できんと、いつまで経っても変われへんと思たから……一人で、住むとこ決めて、そこで生活始めようとしてん。」
「…それで、前の家出てったんか?」
「せや。アタイは自分一人で、自立して生きていきたいんやって、そう思ってた。」
「…そんなん…淋しいよ…」
「……そうや。ほんまは淋しかった。自分で決めた事とは言え…けどそこで負けてまったら、また同じ事の繰り返しやと思ったから…」
「………」
「けどな、昨日つねおと話して分かったんや。アタイは、一人で生きていきたいんとちゃう。お互い支え合って、生きていきたいんやって。」
「…支え合う…」
「そうや。アタイは支えられてるだけで、誰かを支えるなんて到底出来ひんと思とった。そもそも頭から、アタイなんかが誰かを支えるとか、想像すらしてなかった。」
「………」
「けど、つねおが言うてくれたんや。俺はジョゼに支えられてるって。同情なんかやなく、つねおは本気で言ってくれた。」
「……つねおくん…」
「…まぁな」
「それで分かったんや。アタイは、支えたいねん。もう誰かに寄っ掛かってばかりは嫌や。アタイかて、寄っ掛かって貰いたいねん…!」
「………」
「……それで、その、謝らないかんことやけど…」
「……うん」
「…勝手に、一人で生きようとして、ごめんなさい。アタイの勝手な都合で、花菜ちゃんに何も言わず離れようとして……ごめんなひゃいッ!?」
「ジョ~~~ゼ~~~?」
「いひゃいッッ!ほっれひぎれる!!」
「ウチ、怒ってるで?激おこや。」
「へ、へきおこ……?」
「か、花菜さん……?」
「ジョゼの気持ちはよう分かった。ウチかて、ジョゼと離ればなれなんて絶対嫌や。それに…」
「…?」
「ウチだって、ジョゼにちゃんと支えられてるんやで」
「……ほ、ほうなん…?あぅっ…」
「そうよ!…ジョゼ、ようここ来てくれるやん?」
「頬っぺ千切れるかと思た……けど、ふらっと来て適当に本借りてるだけやで?」
「他にも、前に子供達の読み聞かせとか引き受けてくれたやん」
「…散々な結果やったけどな…」
「それでも、ウチは嬉しかったし、助けられた。ジョゼが来て本選ぶ時にお喋りしてる事も、ウチにとっては大切な時間や。ジョゼにとってはただのお喋りかもしれんけど、ウチにとってはよし、もっと仕事頑張ろうって思えるんや。」
「……そうやったんか…。」
「もちろんや!ウチやって、そうやってジョゼに助けられてるんやから……やから勝手に離れようとせんといて!」
「………はい……ごめんなさい……。」
「分かればええんやっ。」
「……それで、な…?」
「なんやっ、まだなにかあるんかっ?」
「う……その……一度離れようとしといて、厚かましいかもしれへんけど…」
「………」
「その……また友達に、なってくれるか……?」
「……またも何も」
「っ!……花菜ちゃん?」
「ウチは一度も、友達、やめたつもりないで?」
「……うん…っ……ありがとうな、花菜ちゃん…っ」
「…ちょっと…苦しいで、花菜ちゃん。…花菜ちゃん?」
「大好きのハグや。ギュゥ~~~」
「グェェ……苦し……つねお……たすけ……」
「ちょっと俺参考書探してくるわ」
「つ、つねお……?……つねおぉ~~っっ!!」
「……仲直り…とは違うな。この場合、雨降って地固まる、かな?」
「……良かったな、ジョゼ。」
「花菜ちゃんんん~……仕事戻らんでえぇの~…?」
「ギュゥ~~~っ!」