「つねおめ、ほんまに本探しに行きよったで…後で文句言ったるぞ…」
「ウチらの事、何も心配しとらんって事よ。優しく見守ってくれててええやん~?」
「……ふん、まぁなっ。けど相変わらずアタイの事子供扱いするねんでっ?珈琲用意してくれるんやけど、一緒にミルクとか砂糖とかエラい用意しはって!アタイはブラック派や!なんならアタイの方が歳上やっちゅうねん!」
「……くくっ…相変わらず分かり易いなぁ、ジョゼは」
「へっ?なにがよ?…てか何笑ってんねん!?」
「顔、全然怒ってへんよ?」
「…ぇあ?……そ、そんな事ない…で?」
「めっちゃ自信無さげやん!もぉ~ほんまそういうところ可愛いんやから~!」
「っやめて抱き付かんといて!…ほら小ちゃい子供も見てるからっ」
「見せつけてやろうやっ!……ほらみんな~、人魚のお姉ちゃん捕まえたで~?」
「やめぇやー!」
「……てか、さっきからちょっと気になっててん……」
「ぁんっ?……なんやのん、急に小声で……」
「……つねおくんの事、なんて呼んでた……?」
「っ!」
「……昨日の夜別れる時にはまだ、管理人て呼んでたよな?」
「……あぁ~………あれなぁぁ~…?」
「めっちゃ声震えてるやん……まさかジョゼ、大人の階段昇ったんか……?」
「っ!?」
「………なぁ~んて、ま~さかおぼこっちゃんなジョゼに限って、いくら…いくら聖夜やからって早々そんな事にはならへんやろなぁっ!なぁ、ジョゼ?」
「そっ、………そうやで?」
「今目反らした?ウチの顔見て言ってジョゼ?」
「~~っ……そうやで?」
「めっちゃ顔赤いし………可愛い………やなくて…ま、まさか……!?」
「ゃめてっ!詮索せんといてっ!」
「………ジョゼに先越されるなんて……ッッ!」
「アタイまだ何も言うてっ……て、は?」
「同い年やけども、少なからずウチのがジョゼよりかは大人のつもりでおったけど……まさかそのジョゼが、先に大人になってまうなんて………うぅ…グスン……」
「ええっ?花菜ちゃん、その、経験あらへんの…?」
「っ!」
「あ、ビクッてなった」
「………」
「花菜ちゃん?」
「…語るに落ちたね、ジョゼ」
「…なんやてっ?」
「ウチは大人の階段昇る、としか言ってへん。せやけどジョゼは今ウチに、経験あらへんのって聞いたな?…あたかも自分はあるかの様に…!」
「んなっ!?」
「………後でつねおくんにも根掘り葉掘り聞いたろ」
「やめぇやっ!」
「残念やけど痛み分けや、ジョゼ………さて仕事戻りますか。ほなまた後でな」
「花菜ちゃん…?……花菜ちゃーん!!」
「花菜ちゃんまでほんまに仕事に戻りよった……しかしあの様子やと、花菜ちゃんはそういう経験は無い……?めっちゃモテそうなんに……」
「…おっ、花菜さんとの話はついたか?」
「おお、助けを求めるアタイを置き去りにしたつねおやないか」
「根に持ってる……あんな楽しそうにはしゃいでるの邪魔する程、野暮じゃないっての」
「……楽しそうにみえた?」
「それはもう」
「…花菜ちゃんも?」
「他の司書さんも見守るくらいにはな」
「……そっか。」
「…良かったな。」
「…うんっ!……後半はあまり綺麗な話やなかったけどな……」
「どうかしたか?」
「なんでもないっ!…けど、これからどうする?」
「そうだな……俺も花菜さんと少し話したいんだが、仕事中だもんな」
「まだ花菜ちゃん休憩時間まで結構あるな。それまでここで待つか?つねおの用事は大丈夫か?」
「俺は午後に大学で用事があるくらいだし、それまではまだ余裕あるぞ。…折角参考書も見付けた事だし、少しここで本読んで過ごすか」
「うんっ!なら本探してくるわ!」
「一緒に行くぞ、届かないかもしれないしな」
「ありがとう、頼むわ」
「…つねおは何の本読んでんのん?」
「…ん?これは俺の研究関係の論文だな。まずこれを日本語に訳すところから始まるのだ」
「うへぇ、難しそうやな……面白いんか?」
「欲しい情報が書かれてたら、そこそこな。必死に訳したけど思ってたものと違う内容でも、まぁ翻訳の練習にはなるからな」
「……つねお、やっぱ勉強熱心やな」
「そうか?要領良くないだけだって。ジョゼは何読んでるんだ?いつものより小さい本だな」
「ああ、これな。少し前に花菜ちゃんに勧められてん。結構古い文庫本やけど、意外と面白くてな」
「へぇ…どんな内容なんだ?」
「短編集やねん。1ストーリーは30頁くらいやけど、書いてる人が関西の女の人らしくて、基本的に関西弁で書かれててな、親しみやすいんや。舞台も関西中心っぽいしな」
「短編集か…長編ものとやっぱ違うのか?」
「違うなぁ。長編ものって、止め時が難しいねん。長編と言っても構成は章区切りみたいになってるから、場面場面で区切られてはいるけど、それでもな……その分短編集ならサクッと切れるからな」
「成る程……普段から本読まない俺みたいな奴でも、読み易いかもな?」
「そういう人にオススメかもしれんな」
「けどそんなに短いと、ストーリーとして成り立つのか?説明不足になったりするんじゃないか?」
「そこが面白い本か否かのとこやねん。おっしゃる通り、全文が短いから説明出来るところがかなり限られてくる。せやけど、敢えて説明を省く事で、読み手の想像力に任せるんや。短い文章で、混乱させずに、読み手に想像の幅を持たせる……これが上手い人とそうでない人の違いやないかなと、アタイは思ってるわ」
「はぁ~…、さすが文学少女。て事は、その本はそういう意味で上手い人だと」
「せやな。なんていうか、一文に込められてる意味を考えさせられるんよなぁ。なんでここでこの描写入れたんやろか?ってな。…けどこの本そこそこ昔の本でな、1987年の本やねん」
「結構古いなっ。ってことは30年以上前か……現代とは価値観が若干変わってそうだな」
「そうやな、そういう部分もあると思うわ。でもそこも含めて、想像が広がるんや。男女の関係とか、社会の在り方とか……昔はもう少し難儀やったんやろうなぁとか思ったりするねん」
「ふ~~むなるほど……想像の幅が出てくると、ハッピーエンドかバッドエンドかも別れてきそうだな」
「そうやねんっ。ハッピーかバッドか、読み手に依って別れてくる作品……その代表作とも言えるのがロミオとジュリエットや。家柄違いの叶わぬ恋…お互いに自害して終わるこの話をどう捉えるか、400年以上経っても未だ平行線らしいねん」
「400年も経ってるのか!?…それでもこうやって今話題に挙がるって事は、やっぱり人の心を掴んでるからなんだろうなぁ………んで、今読んでる本は何てタイトルなんだ?」
「それが、カバーも無いし表紙も摩れてタイトルが分からんねん……ページも頭と末が一部破れてて、タイトルだけが分からんのや。」
「ほんとだ………ん?…薄らと表紙の文字見えるな……これは……嘘…?…いや虎か……?」
「お待たせ二人ともっ、ごめんな待たせて~」
「おお花菜ちゃん!お疲れ様やっ」
「お疲れ、もうそんな時間か…花菜さんも休憩時間?」
「せやで。先輩に無理言って少し長めに休憩貰たから、近くの喫茶店でお昼食べへんか?」
「つねお、時間はまだ大丈夫か?」
「ああ、俺は大丈夫だ。その喫茶店、車椅子でも行けそう?」
「大丈夫!抜かりはないよ?そのお店ランチ美味しゅうて、いつかジョゼ達も連れて行きたかったんや♪二人は外食ってあまりせえへんの?」
「…そうだな、テイクアウトならするけど、中で食べるってのはしてないな」
「…そうやな……。」
「……何かあったん…?」
「いや、俺とジョゼの二人でってのは無いんだけど……店に依っては車椅子って結構場所取っちゃうだろ?それが気になって、食事に集中出来ないってな」
「…せやから、つねおと出掛けてた時はテイクアウトして公園だったりベンチとかで食べててん。ほら、他の人に迷惑かけたらあかんやんか?」
「迷惑とかそんなんっ…!」
「まぁまぁ花菜さん、とりあえずそのお店行こう!ジョゼも、そこならあまり気にしないで良さそうだからさっ」
「…せやね……ジョゼ、行こ?」
「……うん、アタイ行きたい。」
「!……そうと決まれば、さっさと本借りて行こうぜ」
「せやねっ、ほら本貸し、ぱっぱ処理するから!」
「……あ、この本のこと花菜ちゃんに聞けばよかった」
「…確かに。後で聞いてみるか」
「よし、終わったで!はいこれ本なっ、ほなれっつごー♪」