仮面ライダーデイナ   作:黒井福

10 / 73
どうも、黒井です。

今回は第1話以降フェードアウトしていた警察サイドが描かれます。


第7話:出会う者達

 時は流れて、季節は春先。ほんのり気温も暖かくなり、桜が花開いた頃。

 

 仁と亜矢の2人は正式に白上研究室の一員となる事が決まり、この日は2人の歓迎会も兼ねての花見が行われていた。

 場所は明星大学から少し離れた所にある自然公園。桜の木が多く植えてあるそこは絶好の花見スポットであり、彼ら以外にも多くの花見客がビニールシートを広げて酒や料理に舌鼓を打ち、談笑を楽しんでいた。

 

 基本こう言った集まりには興味の無い仁も、今回ばかりは先輩方との顔合わせもあって参加していた。

 

「よ~ぅ、飲んでるかい仮面ライダー?」

 

 そう言って仁の肩に腕を回すのは、4年生の蓮見(はすみ) 史郎(しろう)である。同じ白上研究室の一員である彼は当然仮面ライダーの事も知っていたが、彼自身はそれに深く関わるようなことは無く白上教授の裏事情を秘匿するだけの立場の人間の1人であった。

 彼と同じく仮面ライダーやベクターカートリッジの研究には携わらず、ただ秘密を共有しているだけの学生はこの場にもう1人居た。

 

 それは今仁の対面で黙々と料理を口に運んでいる小太りの男、(みなもと) 康太(こうた)も同様である。

 

 彼らの他にも4年生は居るが、この2人以外は皆卒業の道を選び各々の道を歩むことが決まっているので、仁と亜矢が4年生になっても付き合いが続くのは峰の他にはこの2人ともう1人くらいのものだろう。

 

 この2人は白上研究室内で秘密を共有しているだけで、それ以上の事はしていない。ラボに入る事は無いし、戦闘に首を突っ込む事など以ての外だ。

 

 その事を仁も亜矢もとやかく言うつもりは無い。寧ろそれが当たり前だ。彼らが仮面ライダー関連の事を知らされているのは、危険に触れるべからずと言う事と秘密を守ってもらう為だけである。

 

…………とは言え、酔って絡まれるのはそれとはまた別問題だが。

 

「飲んでる、飲んでますよ。だからそんなに引っ付かないで。後こんなところでそれ言うの不味くないですか?」

「気にすんなって。だって、ほら」

 

 仁の指摘に、史郎はある方向を指差す。そこでは、仁と同じように酔った峰に絡まれている亜矢の姿があった。

 

「見て見て~、亜矢ちゃ~ん! これ、遂に完成したんだよ~!」

 

 酔った峰の手には、猫型のロボットの様な物が握られている。以前から作っていた自律型サポートガジェットのアダプトキャットだ。仮面ライダーのサポートガジェットと言う本来であればあまり大っぴらに見せびらかすべきではないものを、何のカモフラージュも無しに持ってきているのである。

 

 当然だが絡まれている亜矢は、必死に峰を宥めながらアダプトキャットを隠そうとしている。

 

「分かりました! 分かりましたから先輩、落ち着いてください!?」

「可愛いでしょ、凄いでしょ、最高でしょ! この子ね、動きも本物の猫を追及して作ったんだよぉ! 見ててね!」

 

 酔ったからか、峰の雰囲気が大分変っている。若しくはあれが素で、普段は少し気取っているのか。

 

 亜矢が宥めようとするのも気にせず、峰はアダプトキャットを起動させた。すると起動したアダプトキャットは、彼女の言う通り本物の猫のような動きで体を伸ばしブルブルと体を震わせた。

 確かに本物の猫と寸分違わぬ動きだ。絡まれて仕方なく見ていた亜矢だけでなく、傍から見ていた仁も思わず注目していた。

 

「へぇ~、本当に猫みたいだ」

「でしょでしょ!」

 

 峰はそのまま何処からか猫じゃらしを取り出し、アダプトキャットをじゃれつかせて遊び始めた。興味が自分からそれて、亜矢はとりあえずホッと一息つきカクテルの缶に口を付けた。

 

 一方の仁も、隙を見て史郎の絡みから逃れると少し距離を置いて1人手酌で日本酒を呷っている白上教授の隣へと移動した。

 教授は隣に座った仁を一瞥するが、彼が何も言わずに缶ビールを呷るのを見て自分も何も言わずにそのまま日本酒を飲んだ。

 

 どれだけそうしていたか、アダプトキャットとじゃれるのに飽きた峰が再び亜矢にちょっかいを掛け始めた頃、仁は漸く口を開いた。

 

「教授……」

「ん?」

「研究室に配属されたら、ベクターカートリッジの事とか色々と、全部教えてもらっても良いですか? って言うか教えてください」

 

 唐突にそんな事を言う仁だが、教授は彼が遅かれ早かれこう言うだろうことを読んでいた為驚く事は無かった。寧ろよく持った方であるとすら思っていた。

 知識欲の塊の様な仁なら、全ての講義の出席日数が達した段階で研究室に入り浸ってベクターカートリッジや超万能細胞の知識の吸収に全力を注いでもおかしくないとすら思っていたので、研究室に配属されるまで待つ事が出来たという事に白上教授は少し驚いていた。

 

「……卒業研究は別にやってもらうぞ」

「上等です」

「私の本当の専門分野だ。普通の講義と違って、厳しいものになる」

「覚悟の上です」

 

 言外に知識の習得が険しい道である事を告げるが、仁は教授からの言葉に全て即答で答えしかも教授から目を逸らさなかった。

 仁の決意は固い。

 

 その決意の固さを目の当たりにして、白上教授はフッと笑みを浮かべた。

 

「良いだろう。私が持つ知識、全て君に叩き込むつもりで教えよう。ついてこれなかったら置いて行くからそのつもりでいたまえよ」

「望むところです」

 

 仁の答えに白上教授はもう一つコップを取り出すと、それに日本酒を注いで仁に手渡す。仁がそれを受け取ると、教授は自分のコップに酒を注ぎ軽く掲げた。それが何を意味しているかを察した仁は、自分もコップを同じ高さに掲げるとどちらからともなくコップを軽くぶつけ合わせ小さく乾杯をした。

 今ここに、師弟が誕生した瞬間であった。

 

 コップに注がれた日本酒を仁が一気に飲み干し、酒精の混じった息を吐き出す。

 と、そこで彼は亜矢の姿が無くなっている事に気付いた。先程まで亜矢に絡んでいた峰は、酔い潰れたのかノッポの先輩こと瀬高(せだか) 拓郎(たくろう)――彼は峰と同じく教授の裏の顔に深く関わっている――に膝枕をされて寝息を立てている。

 

 はて、亜矢は一体いつの間に消えたのか?

 単純にトイレに行っただけかもしれないが、何となく気になった仁はコップを置いて立ち上がると亜矢を探して周囲を歩き回った。

 

 数分程歩き回り、公園の端に近いところまで来たところで彼は亜矢を見つけた。一本の桜の木に寄りかかり、どこか遠くを見つめながらカクテルの缶に口を付けている。

 

「双星……さん?」

 

 見つけた瞬間声を掛けようとした仁だが、彼は目の前の亜矢に違和感を感じた。何と言うか、雰囲気が何時もの亜矢と違うのだ。酔ったからとかそう言うのではなく、もっと根本的に何かが違う。

 

「双星さん、こんな所でどうしたの?」

 

 とは言え目の前に居る亜矢は見た目だけなら先程まで一緒に居た彼女と全く一緒。なので違和感を脇に置いて声を掛けた。

 

「ん?」

「ん?」

 

 呼ばれて仁の方を見た亜矢だが、どうにも様子がおかしい。まるで何故自分に声が掛けられたのかを分かっていないかのようだ。

 

 首を傾げられ、逆に仁も首を傾げ返す。互いに首を傾げ合って見つめ合っていると、不意に亜矢が何かに気付いたような顔になった。

 

「あ、そっか……そうよね。うん……何? 仁君?」

「……いや、いきなり居なくなってどうしたのかと思っただけ」

「あぁ、その事ね。別に大した理由じゃないの。ただ折角飲むお酒だもの。少しは1人で静かに飲みたくなっただけよ」

 

 仁の中で違和感が大きくなる。しかしその違和感の正体に彼は気付けない。酒が回っている所為だろうか。

 

「…………ありがとう」

「え?」

 

 徐に亜矢が感謝の言葉を口にした。脈絡のない感謝に、仁は訳が分からず間の抜けた声を上げてしまう。

 

「えっと、何が?」

「守ってくれた事、助けてくれた事……色々よ。本当に、感謝してるわ」

 

 そう言うと亜矢は缶を片手にゆっくりと仁に近付いた。

 

「でもね、だからこそ仁君にはもっと自分を大事にしてもらいたいわ。戦う以上怪我とかは避けられないかもだけど、それでも自分の体を傷付けて引き換えに勝ちを取るような無茶は止めてほしいの」

 

 それはきっとピラニアファッジとの戦いの事を言っているのだろう。だがあの時の事は既に説教もされたし、もう終わった事の筈だ。何故今更になってまたその話をするのか。

 

「またこの間の話?」

「フフ、ゴメンね? でもこう言う時でないと、言う事が出来ないから」

 

 微笑みながら亜矢は猫の様にするりと仁に近付き、彼の胸板にこつんと額を当てた。

 

「仁君が思ってる以上に、仁君の事を大事に思ってるの。もしこれからの戦いで仁君の身に取り返しのつかない何かが起っちゃったら…………きっと悲しくて泣いちゃうわ」

 

 そう言って亜矢は顔を上げた。酔いが顔に出ているのか、頬が赤みを帯びている。赤くなった顔で微笑む亜矢は、清楚さを感じさせる普段とは打って変わって艶やかだった。

 思わず仁も見惚れる程である。

 

「だから、ね。少しでいいの。これからはもう少し、自分の体を大切にして……ね?」

「ん、まぁ……頑張る」

 

 何とも信用のならない答えに、亜矢は堪らずクスリと笑みを溢した。

 

「フフフ! うん、今はそれだけで十分よ。約束だからね?」

 

 亜矢はそのまま仁に顔を近付けると、彼の頬にそっと口付けをした。頬に一瞬感じた温かさと柔らかさに、仁は思わず目を丸くする。

 

 その顔が面白いのか、亜矢はまるで悪戯が成功したのを喜ぶようにクスクスと笑った。

 

「それじゃ、私は先に戻るわね。さっきの約束、忘れないでよ」

 

 離れていく亜矢の背中を、仁はジッと見つめていた。

 その手は気付けば亜矢に口付けされた頬に伸びていたが、彼がその事を自覚するのには少しの時間を要するのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 仁達が花見を楽しむ一方、ここ警視庁内のS.B.C.T.本部では最近のファッジに対する対策会議が連日行われていた。

 先日の戦いで多くの隊員が殉職し、戦力を大きく消耗した権藤らは隊員の補充を待つ傍らファッジ、延いてはそれを生み出していると言われる傘木社への対策を日夜練り続けていた。

 

「――――え~、続きまして最近ファッジに対抗しているとみられる謎の仮面の人物についてです」

 

 最近の彼らの関心は、専らファッジと戦っている姿が目撃された仮面の人物……仮面ライダーデイナに関する事である。

 

 彼らが徒党を組んで必死になっても傷付けたり撤退させるのが精一杯なファッジを、たった1人で対抗しあまつさえ倒して見せた。デイナの存在は彼らにとって色々な意味で興味を引かれる存在であった。

 

「まず身元ですが、今の所一切分かっていません。目撃者自体がとても少なく、有益な情報が殆どない状況です」

「確か現場近くで幼い子供が保護されたと聞いたが、その子供は何も見ていなかったのか?」

「それが……何かを知っているようではあったのですが、何も語ってはくれず……」

 

 あの時、ピラニアファッジに襲われそうになり仁に救われた子供は、仁との約束を守ってくれていたのだ。

 

「ネット上ではこの人物の事を仮面ライダーと呼称する者も居るようですが……」

「一体何者なんでしょう? 行動だけを見れば、ファッジから人々を守っているようにも見えますが……」

 

 この場に居るS.B.C.T.幹部陣の意見は、概ねデイナ=仁は人々の味方であると言うものであった。

 

 だが……ただ1人、前回の戦闘でAチームを率いていた権藤 宗吾隊長だけは、数少ないデイナの写真に写っている一点を見て味方と言う意見に異を唱えていた。

 

「いや……味方と見るのは時期尚早かもしれないぞ」

「と、言いますと?」

「ここを見ろ」

 

 宗吾が指差したのはデイナの腰にあるデイナドライバー。もっと正確に言えばそれに装填されているベクターカートリッジだ。偶然撮影された画像だからかかなり粗いが、それでも何とかそれだけは確認できる。

 

「これは……」

「見れば分かるだろう、ベクターカートリッジだ。つまりこいつは、ファッジと同じ力を使っている。もしかすると、この仮面ライダーは暴走したファッジを始末する為に傘木社が送り込んだ生態兵器の一種かもしれない」

 

 宗吾の一言に、会議室の雰囲気がガラリと変わった。言われてみれば確かに、そもそもベクターカートリッジは(彼らの認識では)傘木社しか所持していないのだ。それを使って戦っているなど、傘木社に関係している者であると公言している様なものだった。

 

「権藤隊長の言う通りだな。今後、この仮面ライダーなる者に遭遇した場合は最大限に警戒して対応しろ。相手はファッジを倒す程の戦闘力を持っている。十分以上に警戒するように」

 

 S.B.C.T.の総指揮官である氷室(ひむろ) 昭俊(あきとし)の言葉にその場の全員が頷いた。

 

 そのまま会議もお開きになろうかという時、徐に宗吾が口を開く。

 

「それと……例の対ファッジ用装備、『スコープシステム』に関してはどうなっている? 開発状況は?」

 

 そう問い掛けられて、パソコンと向かい合っている女性隊員がキーボードを操作しながら答えた。

 

「現在の完成度は80%です。実戦に出せるようになるまでは今しばらくの時間が必要ですね」

「急がせてくれ。今の装備ではどの道仮面ライダーどころかファッジにも後れを取る」

「分かりました。技研に少しでも急ぐよう通達します」

「頼む」

 

 そのやり取りを最後に、この日の会議は終了となった。

 

 仁と宗吾、共に人知れずファッジの脅威に立ち向かう2人の邂逅は、恐らく遠くはないだろう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 歓迎会の花見も終え、日常に戻った仁は研究室に配属されると早速白上教授に超万能細胞・ベクターカートリッジに関する知識を学び始めた。

 

 超万能細胞の基礎理論、ベクターカートリッジの構造、そしてこれらの技術の更なる応用。今現在白上教授が持っている知識を仁は片っ端から吸収していた。

 その学習速度は尋常ではなく、白上教授も舌を巻くほどである。事学習に関しては目を見張るものがある学生だと言う印象だったが、そんなレベルでは済まない早さで知識を物にしていった。まるで乾いた砂に水が沁み込む様な早さだ。

 

 現に今も、仁は新たなベクターカートリッジを自分で調整している。まだ十数日しか経っていないと言うのに、驚くべき成長速度だ。

 

「――――――出来た」

 

 白上教授が見ている前で、仁が新たに完成したベクターカートリッジを試験管から取り出した。自分の手で作り上げたそれを、仁は何処か誇らしげに見ている。

 

「教授、どうです?」

「ふむ、どれ?」

 

 仁の手からベクターカートリッジを受け取った白上教授は、コックを捻り押し込んだ。

 

〈HAWK〉

 

 ベクターカートリッジから鳴る電子音声。告げられるのは鷹。デイナは新たに鷹の能力を得る事が出来るようになったのである。

 

「うむ……完璧だな。正直上達が早すぎて逆に教え甲斐が無かったよ」

「教授の教え方が上手いからですよ」

「いや門守君の学習速度が異常すぎるんですよ。私だって1人でガジェット作れるようになるまで半年以上掛かったのに」

 

 謙遜する仁に、峰のツッコミが入る。

 

 先日の酒の席では大分張っちゃけていた彼女だが、それが過ぎればいつも通りであった。

 因みにその時の事を話題に上げると、峰は物凄く恥ずかしそうにする。どうもあの酒の席での姿が彼女の素ではあるようだが、それを晒すのは抵抗があるらしい。

 

(素の姿と言えば……)

 

 仁はチラリと資料とにらめっこをしている亜矢に目を向ける。

 

 あの日、桜の木の下で相対した亜矢は本当に彼女だったのだろうか?

 実は後日、あの時の事を亜矢に訊ねたのだが彼女からの返答は覚えていないとの事だった。どうも峰に再び絡まれた時、強めの酒を飲まされそこから意識が無かったのだと言う。だからあの時、桜の木の下で仁と交わしたやり取りの事を彼女は全く覚えていなかった。

 

 それだけならば、単に酒の所為で性格が豹変した挙句記憶が飛んだと解釈できるのだが、果たして本当にそれだけだろうか?

 あの時の亜矢はハッキリ言って彼女らしくなかった。それこそよく似た別人と言われた方が納得できるくらいだ。

 

 言い様の無い不可解さに、仁が亜矢の事を見ながら首を捻る。

 と、彼女がその視線に気付き彼の方を見た。

 

「? 門守君、どうかしましたか?」

「ん? ん~……いや、何でも無い」

「そうですか?」

 

 何と答えるべきか迷った末に、何でも無いと答えると亜矢は首を傾げつつ再び資料に視線を戻した。彼女は彼女で少しでも仁の手助けが出来るようにと、彼女なりに知識を吸収していた。生憎と彼女は仁程学習能力が化け物染みていなかったので、ベクターカートリッジの制作に手が出せるようになるには今しばらくの時間が必要そうだったが。

 

 そんなこんなで思い思いに過ごしていると、気付けば時間は午後の3時。

 それを報せるベルが鳴ると、白上教授は休憩と称して仁達に作業の手を止めさせティータイムの用意を始めた。

 

「噂には聞いてましたけど、教授って本当に英国紳士みたいにティータイム設けるんですね」

「決して悪い文化ではないよ。一旦小休止を挟むことで脳をリフレッシュさせ、最大効率で行動できるようにするんだ。理に適っている」

 

 教授は人数分のカップを用意し、湯を沸かして紅茶を淹れる。それを渡され、仁は軽く冷まして流し込んだ。隣では亜矢が同じようにストレートの紅茶で喉を潤している。

 

「ところで教授、最近気になってることがあるんですけど?」

「ん? 何かね?」

「ファッジの事って、警察とかは知らないんですか? この間とかは別にしても、噂になる程度にはあいつら暴れてるんですよね?」

 

 仁がデイナに変身する以前から、彼もファッジの……怪物の存在は噂で聞いてはいた。当時はあまり信じてはいなかったが、今ならそれらの噂が真実であったと分かる。そしてそれが分かると、その噂の元となったファッジによる犠牲者も出ているのではと言う考えに至った。

 

 被害者が出ているのであれば、警察も何らかの動きを見せるのではないか? 仁はそう考えたのだ。

 

「あ、そうですよ。最近は流してましたけど、こう言うのは本来警察が積極的に動く案件なんじゃないですか?」

 

 亜矢が減った紅茶に角砂糖を入れながら仁の発言に同意した。最初仁が戦う事になった時、彼女は真っ先に反対したのだ。

 

「その事だがな……私も一応気になって調べはしたんだ。するとどうやら警察の方も全く動いていない訳では無いようでな」

「と言うと?」

 

 訊ねた仁に答えたのは峰だった。

 

「警察内部に、対ファッジを目的とした部隊が発足されているみたいなんですよ。ですよね、瀬高君?」

「ん? あぁ、S.B.C.T.な。内容が内容だけにあまり大っぴらにされてはいないし、活動も秘匿されてるみたいだが」

 

 教授から峰、更に拓郎を経由して警察の現状を教えられた。ここで初めて仁と亜矢は警察の特殊部隊S.B.C.T.の事を知った。

 

「へぇ、警察にそんな部隊が居るんですね?」

「……秘匿されてるのに先輩は何でその部隊の事を知ってるんです?」

 

 素直に感心する亜矢の隣で、仁が疑問を抱く。秘密を知っていると一口に言うのは容易いが、秘密は本来知る事が出来ない筈だ。それを知っている、拓郎は一体何なのか。

 疑惑の目で仁が見つめると、拓郎はそっと視線を逸らした。それが全てを物語っていた。

 

「瀬高君はね、ハッキングの技術が達者なんですよ」

「言わんでいい事言うな」

 

 つまりはそう言う事だ。結構危ない橋を渡って情報収集したらしい。もしバレたらかなり大事である。

 

 何とも微妙な空気になったその時、峰のタブレットが派手にアラームを鳴らした。突然のけたたましいアラームに、峰が飲みかけていた紅茶を驚きのあまり噴き出した。

 

「ブッ!? げほっ!? げほっ!?」

「わわっ!?」

 

 咽る峰に亜矢が急いで布巾を持って近寄る。峰が噴いた紅茶を拭きとりつつ彼女の背を擦る亜矢を視界の端に収めつつ、仁は峰のタブレットを見てファッジの出現地点を確認した。

 

「ここか……教授、俺行ってきます」

〈BUFFALO〉

〈HUMAN〉

「うむ。頼んだぞ!」

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

「変身!」

〈Open the door〉

 

 仁はデイナに変身し、トランスポゾンに跨るとラボ上部のハッチから飛び立っていく。

 空を飛び、ビルの間を通り抜けて騒動の渦中へと飛び込むデイナの姿は流石に目立ち、ビルの中から驚きの表情で飛び去る彼の姿を見る者が続出した。

 

 注目を浴びている事を気にせず、デイナはファッジが出現した場所に到着する。

 

 彼が到着すると、そこには先客がいた。

 

「撃てぇッ!!」

 

 自衛隊のものとは異なる装備に身を包んだ、アサルトライフルを構えた集団が空を舞うファッジを相手に応戦している。しかし彼らの攻撃はロクに当たらず、当たっても強固な表皮に弾かれていた。

 

「おっと?」

 

 彼らの姿を見て、デイナは飛び込むのを一瞬躊躇した。今出ていくと場を混乱させそうだったのだ。

 

 しかし彼らに興味はあったので、デイナは物陰に隠れながら彼らの事を観察した。

 

「あれって自衛隊じゃないよな? って事は警察? あ、さっき先輩が言ってた特殊部隊ってアイツらの事か」

 

 デイナが彼らの正体に気付くのと同時に、上空のファッジ――バットファッジが口から収束させた超音波を放った。集束させたことで威力を増した超音波は、空気中の分子を可視化できるレベルで振動させS.B.C.T.隊員に襲い掛かる。

 

「伏せろぉっ!?」

 

 隊長の宗吾が叫ぶと同時に自分もその場に伏せる。直後、隊員達を狙って放たれた集束超音波は地面を抉り、その衝撃が一部の隊員達を吹き飛ばした。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ?!」

「た、隊長っ!? これ以上はっ!?」

「諦めるなッ!! せめて避難が完了するまでは持ち堪えろ!?」

 

 彼らが戦っている向こう側では、逃げ遅れた市民が警察官の手により避難誘導されている。彼らS.B.C.T.は己が身を盾として、例え倒せずとも人々をファッジの脅威から守ろうとしているのだ。

 

 その姿はデイナに気合を入れさせるのに十分だった。怪しまれる? 場が混乱する? そんなの知った事か。このまま彼らが居なくなるまで傍観して被害が広がるのを黙って見ている方がどうかしている。

 

 トランスポゾンを再び飛行モードにして飛翔すると、デイナは一気にバットファッジに肉薄し体当たりした。

 

「グアァッ?!」

 

 重量のあるバイクであるトランスポゾンに体当たりされるのは堪ったものではなかったのか、バットファッジは飛行を維持する事が出来なくなりそのまま落下する。バットファッジが落ちると、デイナもトランスポゾンを着陸させ下りるとハイブリッドアームズをハルバードモードにして構えた。

 

 その登場に勿論S.B.C.T.は目を剥いた。

 

「な、何だっ!?」

「あれは、まさか――――!?」

「仮面ライダーッ!?」

 

 口々に驚きの言葉を口にするS.B.C.T.の隊員達。その中に『仮面ライダー』の単語があった事をデイナは聞き逃さなかった。

 

(俺もちょっと有名になってきちゃったかな?)

 

 今まではあまり気にする必要も無かったが、そろそろ動き辛くなってくるかもしれない。そんな事を考えながら、デイナはバットファッジと対峙した。

 

「キ、貴様ガ仮面ライダーカ!?」

「ま、そんなとこ。そう言うお前さんは、何処の何方?」

「答エル必要ハ無イッ!!」

 

 このファッジは以前の貞助のウルフファッジ同様、少し言葉がおかしいがそれでもコミュニケーションが取れるタイプの様だ。それはつまり、マンティスファッジやピラニアファッジの様に遺伝子元となった生物の特性を突いた作戦が効き辛いという事。

 

 やり辛い戦いになる。そんな事を考えながら、デイナはハルバードを振り下ろした。

 

「ほっ」

 

 地面を抉るほどの威力の一撃を、バットファッジは軽やかに避けた。続けて振るうも、見た目以上に軽快な動きをするバットファッジにはなかなか当たらない。

 それどころか、至近距離から集束超音波を放って反撃してきた。

 

「カァッ!!」

「うおっ」

 

 体を逸らせて回避するデイナだったが、その所為で体勢が崩れてしまった。そこにバットファッジの低空飛行からの飛び蹴りが突き刺さる。

 

「ぐっ」

 

 軽快な動きをする割にパワーも強く、大きく蹴り飛ばされるデイナはそのまま壁に叩き付けられそうになった。だが彼はそれを寸でのところで、大剣モードにしたハイブリッドアームズを地面に突き刺す事で阻止する。

 

 デイナはそのまま大剣モードのハイブリッドアームズで斬りかかるが、彼が近付く前にバットファッジが再び空中に飛び上がってしまった。大剣は空を切り、デイナは空へと飛び立ったバットファッジを見上げる。

 

 空中に飛び立ったバットファッジは、そのまま空から集束超音波でデイナを攻撃し始める。最初はハイブリッドアームズで防いだデイナだが、思っていたよりも遥かに威力が高く何度も防いでいては武器の方が持たないと防御ではなく回避に切り替えた。

 

「あ~、ったくこれだから空飛ぶ奴は。撃ち落として…………いや待てよ?」

 

 このままではじり貧だと、デイナはハイブリッドアームズをライフルモードにして撃ち落とそうとするが直前で思い留まった。そう言えば自分も、空を飛ぶ能力を手に入れたばかりではないか。

 

 デイナはバッファローベクターカートリッジを抜き取り、先程自分で作ったばかりの新たなベクターカートリッジを取り出した。

 

〈HAWK〉

「これで俺も飛べる筈」

〈HAWK + HUMAN Mutation〉

「ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 ホークベクターカートリッジでゲノムチェンジすると、鷹の頭部を模したバイザー付きの仮面に変化した。更に背中には一対の翼が付き、如何にも空が飛べそうな姿だ。

 ただ残念なのは、これが能力を全力で使えないミューテーションフォームであるという事か。こうなると自慢の飛行能力も何処まで発揮できるか不安がある。

 

 とは言え、今になって別のベクターカートリッジと交換してエヴォリューションフォームを探すのも難しい。敵は待ってはくれないのだから、今はこれで頑張るしかないだろう。

 

「さって、今からそこ行くぞ」

 

 感覚でジャンプしながら背中に力を入れると、背中の白い翼『インペリアルウィング』が肥大化しデイナを重力から解き放つ。

 トランスポゾンを用いての空中散歩を既に何度も経験したデイナではあるが、何かに乗って飛ぶのとその身一つで飛ぶのは感覚が違った。何よりも爽快感がある。

 

 だが飛び立って早々にデイナはこの形態ではバットファッジに追随する事は難しい事を悟った。飛行能力がまるで違うのだ。ミューテーションフォームではやはり全力が出せない。本気で空を飛ぶ相手と対峙する為には、どうしてもエヴォリューションフォームである必要があった。

 

 だがそんな事情などバットファッジには関係ない。寧ろ、デイナも空に飛んできた事で彼を更なる脅威と捉え速度で翻弄してきた。

 

「落チロォォォッ!」

「チッ、野郎……」

 

 高速で飛行し、すれ違い様に攻撃を仕掛けてくるバットファッジにデイナは苦戦を強いられる。辛うじて対抗できてはいるが、それでも状況は彼に不利と言わざるを得なかった。

 

 そして遂に、バットファッジの集束超音波が空を飛ぶデイナを捉えた。

 

「ぐあっ!?」

 

 空中で撃ち落とされ、地面に落下していくデイナ。だが彼もただでやられたりはせず、落下しながらも適当なベクターカートリッジをライフルモードのハイブリッドアームズに装填して一撃を放った。

 

「くっ」

〈Genome set ATP burst〉

 

 ハイブリッドアームズにベクターカートリッジを装填する事で発動するノックアウトブレイクがバットファッジに向けて放たれる。強化された銃弾が閃光となり、バットファッジの翼の片方を撃ち抜いた。

 

「ガァァッ?!」

 

 デイナに遅れて地面に落下するバットファッジ。直接飛行能力が奪われた訳ではないデイナは落下直前に再び飛行する事で難を逃れたが、飛行能力に関わる翼にダメージを受けたバットファッジは体勢を立て直す前に地面に激突してしまった。

 

「グゥ、アァァァ……クッ!?」

 

 それでもまだ倒れる程のダメージではなかったのか、バットファッジは立ち上がるとデイナを睨み付ける。デイナもバットファッジが再び攻撃を仕掛けてくるだろうと踏んで空中でハイブリッドアームズを構えるのだが――――――

 

「ハァ、ハァ……ウグッ!? アガ、ア――――!?」

「ん?」

 

 突然バットファッジが苦しみ出した。まだデイナは何もしていないのに、胸の辺りを押さえて悶えるバットファッジにデイナは訝し気な視線を送る。

 

「グゥゥゥゥ、ガァァァァァァッ!?」

「あ、ちょ……」

 

 暫く悶えていたバットファッジは、突然叫ぶと傷付いた翼を広げてどこかへと飛んで行ってしまった。慌てて後を追うデイナだが飛行能力の違いからあっという間に引き離される。せめて追撃だけはとハイブリッドアームズの引き金を引くが、フラフラと不規則に飛ぶバットファッジにはなかなか命中せずそのまま逃がしてしまった。

 

「あちゃぁ……しかしあいつ、いきなりどうしたんだ?」

 

 今までにない事態にデイナも頭を捻るが、今ここで考えても仕方がないと気持ちを切り替え地上に降り立ちトランスポゾンに跨りその場を去ろうとした。

 

 その時、周囲に居たS.B.C.T.隊員が彼に銃を向けた。

 

「待て、動くなッ!?」

「ん?」

 

 デイナが声をした方を見れば、残っていた隊員達が全員彼に銃口を向けている。ある程度予想出来ていた展開だけに、デイナはこの光景を前にしてもあまり驚きはしなかったが。

 

 しかしこれは困った。何と言うか、向こうから感じる雰囲気が思っている以上に殺伐としている。まるで親の仇でも見ているような目だ。今ここで穏便に済ませるのは難しいとすら思える。

 

「貴様、一体何者だ! 何故ベクターカートリッジを使用している! 答えろ!?」

 

 デイナは悩んだ。ここで全て正直に答えるのも一つの手だろうが、雰囲気的に間違いなく逮捕される。そりゃそうだ。デイナの中身である仁は武器の使用免許など持ってはいないのだから、立派な銃刀法違反である。

 詳しく事情を話せば或いは情状酌量の余地もあるかもしれないが、さっきも述べたように今の彼らは話が簡単に通じる気がしない。それに迂闊に全てを話して、亜矢や白上教授が芋づる式に逮捕されるのは避けたかった。

 

 何よりも、今逮捕されてはあのファッジに対抗できる人間が居なくなる。

 

「ん~……ごめん、ノーコメントで」

「何ッ!?」

 

 悩んだ末にデイナは、逃げる事を選んだ。説明とか面倒くさかったし、無用な争いはもっと面倒だった。

 

 トランスポゾンのコンソールを操作し、飛行モードにして飛翔するデイナ。下からはS.B.C.T.による銃撃音が響き、何発かが命中するがその程度では痛くも痒くもない。

 

 そのままデイナは彼らの目が届かないところまで飛び去った後、地上に降り立つと変身を解除すると同時に車体カラーも変更して逃げ切り大学まで戻るのだった。




と言う訳で第7話でした。

前半は亜矢をミステリアスな感じで描いてみました。彼女にはちょっとした秘密があるのですが、それはもう少し後で明かされるので少々お待ちを。

今回久々に登場したS.B.C.T.の権藤 宗吾。今後は彼らもちょくちょく登場します。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。

次回の更新もお楽しみに!それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。