読んでいただきありがとうございます!
現在とある企画にて、他の作家さん方とのコラボを考えています。
詳しい事は正式に決まってからのお楽しみで。
バットファッジとの戦闘を終え大学の秘密ラボへと戻った仁は、帰還の報告もそこそこに手元にあるベクターカートリッジを抱えてパソコンと向き合ってしまった。
まるで憑りつかれたかのようにキーボードを叩きモニターに目を走らせる彼の様子に、白上教授も峰も拓郎も圧倒され何も言えなくなってしまう。
そんな中でただ1人、亜矢だけは一切物おじせず仁に近付き話し掛けた。
「どうしたんですか?」
横からモニターを覗き込みながら亜矢が口にした質問に、仁はモニターから目を離さずに答えた。
「エヴォリューションするカートリッジの組み合わせに何か法則性は無いかと思ってさ。折角の能力も、全力を発揮できないんじゃただの宝の持ち腐れだ。どうせ新しい力を手に入れるなら、全力でぶん回す方が良い」
「でも調べて分かるものなんですか? 教授もどれとどれがエヴォリューションの組み合わせかは分からないって言ってましたけど?」
「何も無いなんてことは絶対ない筈なんだよ。組み合わせに相性の良し悪しがあるなら、何処かに違いが絶対ある。それが分かれば、次からはもっとスムーズにエヴォリューションフォームになれると思うんだけど……」
亜矢と会話しながらも、仁の指は片時も止まる事は無い。手元を全く見ず、一切のミスも無くキーボードを叩くその姿は機械の様ですらある。
仁の指が高速でキーボードを叩き、それに合わせてモニターの表示が目まぐるしく変わる。次から次へと数字の羅列が現れては消えていき、表が数字で埋め尽くされるとグラフが表示された。無数の線が上に行ったり下に行ったりしているそのグラフは、傍から見れば何を表しているのか全く分からない。
いやグラフだけではない。亜矢には数字の羅列ですらどれが何を表しているのか理解できず、首を捻るしかできる事は無かった。
只管キーボードを叩き、様々な角度からエヴォリューションする組み合わせとミューテーションする組み合わせを比較していく。
が、結局分かる事は何もなかった。どれだけ数字を比較してどれだけグラフを見比べても、それらしい法則性の類は発見出来なかったのである。
何の成果も得られなかった事に、仁は疲れたように椅子の背もたれに体重を預け全身を脱力させた。
「ん~~~……そう上手くはいかないか」
疲れたようにしてはいるが、あまり残念そうには見えない。科学を目指す上で、こんな事は日常茶飯事だからだ。本腰入れて検証したからと言って、それで確実に何かが分かるという事は無い。時には空振りに終わる事だってある。
それを分かっているから、ここで何も分からなくても落胆するような事は無い。
一つの検証が空振りに終わったのなら、次の検証に移るまでの話だ。
仁は椅子に座ったまま場所を移動し、今度はベクターカートリッジの調整をしている区画へ向かう。次の策は言ってしまえば総当たり、つまり今作れるベクターカートリッジを片っ端から作って組み合わせを検証するのだ。
力技ではあるが、一つ一つ検証すると言う点で見れば理に適っている。それにどの道戦いの手札を増やすのだから、新しくベクターカートリッジを作り出すのは無駄ではない。
そう思いパソコンに向かい、肩と首を回して筋肉を解しキーボードに指を走らせようとした。
次の瞬間、仁の頭にバインダーが叩き付けられる。何事だと背後を振り返ると、そこには今し方仁の頭に叩き付けたのだろうバインダーを手に持った亜矢の姿があった。
「……何すんの?」
作業を遮られた事に仁が不満を口にすると、亜矢が黙ってある一点を指差す。それに釣られて仁が彼女が指差す先を見ると、そこには壁に架けられた時計があった。その時計の針は、ピッタリ9時を差している。
「今何時ですか?」
「……9時だね」
「何時間作業したと思ってます?」
「……5時間位?」
「途中で私が何度か声を掛けたのには気付いてました?」
「…………全然」
「では、私が言いたい事は分かりますね?」
「…………うん」
反論を許さぬ圧に負け、仁は帰り支度を始めた。
ラボを片付け表の研究室に出ると、2人以外誰も居ない。検証作業に熱中するあまり、時間の経過を忘れ教授を含め亜矢以外全員が帰ってしまった事に気付かなかったのだ。
これで亜矢がいなければそれでも無視して検証作業を続行しただろうが、亜矢がいる現状仁は大人しく帰る事を選択した。
それはこれ以上亜矢を怒らせて喧嘩になるのが嫌だからではなく、こんな時間になって他の者が帰ってしまったのに未だに残ってくれている彼女に悪いと思ったからだ。
室内の電気を消し、亜矢が預かっていた鍵で扉を閉める。2人は揃って管理室に研究室の鍵を返すと、そのまま2人で夜の研究棟内を歩いた。
「何かゴメンね? こんな時間まで付き合わせちゃって」
「別に構いませんよ。門守君を1人残す方が不安です」
「お詫びって訳じゃないけど、家まで送るよ」
仁は携帯でトランスポゾンを遠隔操作――彼の物となる上で必要な機能なので峰がアプリとして追加した――し校門近くに移動させる。この時間なら誰かに見られる可能性は低いだろう。
遠隔操作し携帯をポケットに戻す仁を見て、亜矢はある事が気になり彼に問い掛ける。
「……門守君、昼間警察の特殊部隊に出会ったんですよね?」
「え? あぁ、うん。S.B.C.T.だっけ? その人達に会ったよ」
「その時、銃を向けられたって聞きましたけど?」
「ん~? 言ったっけ? ゴメン、よく覚えてないけど……まぁ向けられたのは確かだよ」
先程仁が検証作業に夢中になっている時、ラボでトランスポゾンの整備をしていた峰が弾痕を発見し仁に問い掛け、仁はそれに無心で答えていたのだ。条件反射も同然に答えていたので、仁の記憶にはなかったのである。
亜矢は仁が警察関係者から銃を向けられ、あまつさえ引き金を引かれたと言う事に心を痛めた。ファッジの脅威に立ち向かっているとは言え、ただの学生でしかない彼が何故そんな目に遭わなければならないのかと。
「不満とか、嫌になったりはしないんですか?」
「何で? だって向こうからしてみれば俺怪しい奴だし、警戒するのは当然じゃん? それに俺面倒だからって話するの拒否って逃げてきちゃったし」
正体不明のデイナを、彼らが警戒するのは至極当然の事と仁は彼らの行動を受け入れていた。
しかし亜矢には納得できなかった。
仁がベクターカートリッジの力で戦っているのは、行く行くはその力を平和利用する為だ。決して私欲の為に使おうとしているのではない。ましてや、誰かを傷付ける為に使おうなどとは微塵も思っていないのだ。
仁は戦う時、何時だって誰かの為に戦ってきた。彼が戦った事で、助けられた人だっている。きっと今後も、彼が戦えば助けられる人達が出るだろう。
………………では、肝心の仁自身は? 誰かを助ける為に戦い傷付く彼を、一体誰が助けてくれるのだ?
仁の事だから、誰かに助けを求める様なことはしないだろう。彼はそういう男だ。
だが亜矢は、そんな彼の在り方をとても悲しいと感じていた。誰かを助ける為に戦う者が、助けられてはいけないと誰が決めた?
亜矢のすぐ隣を歩く仁。手を伸ばせばすぐ届く距離に居る筈の彼が、今の亜矢にはとても遠くに居るように思えて仕方なかった。
心にモヤモヤとしたものを抱えながら、亜矢は仁と共に校門を出てそこに停まっているトランスポゾンに跨った。仁の背中にしがみ付き、腰に手を回して体を固定する。
それから亜矢の家には、そう時間を掛けずに到着した。自宅のマンションの前にトランスポゾンが停まると、亜矢は彼から離れバイクを降り、予備ヘルメットを彼に返す。
「んじゃ、おやすみ」
そう言って仁が去ろうとした。その背に向けて、気付けば亜矢は声を掛けていた。
「あのッ!」
「ん?」
突然呼び止められ、仁はブレーキを引いてその場に止まる。振り返ってきた彼に、亜矢は何か言葉を掛けようとし、しかし何も頭に思い浮かばず暫し口をパクパクさせると――――――
「あ、あの、あ…………お、お休みなさい」
結局、ありきたりな別れの挨拶だけを告げる事しか出来なかった。ここぞと言う時の意気地の無さに嫌気がさしつつ、亜矢は踵を返して自宅へと帰ろうとした。
その彼女に対し、今度は仁の方が声を掛けた。
「あのさ……」
「え?」
「…………ありがとう。助けられてるよ。俺も」
それだけ告げて、仁はその場を走り去っていった。
助けられている、それは気遣いではなく事実だろう。
亜矢の存在が、精神的な彼の支えとなっている。先程の感謝はきっとそう言う意味だ。ただ居てくれるだけで、何時も通りに接してくれるだけで彼は助けられている。戦いで傷付こうとも、警察から銃口を向けられようとも、へこたれる事無く戦う事が出来た。
彼の伝えたい事は何となくだが亜矢にも伝わった。これ自体は嬉しい。こんな自分でも、戦う彼の支えとなれている事が。
しかしそれは所詮、彼の後ろに立つ者に出来る事だ。結局彼が傷付く事から守る事が出来ていない。
戦いに傷付く彼を見ているしかできない自分に不甲斐なさを感じながら、亜矢は去って行く仁の背を見送り自分も自宅へと向かうのだった。
***
ここは傘木社本社ビルの地下にある秘密研究エリア。そこの一室、取調室のように壁の一部が広く強化ガラスで覆われた部屋の中では、1人の男が胸を押さえて悶え苦しんでいた。
「うぐぅぅぅぅ、あぁぁぁぁぁっ?!」
入院患者が着るような服を着て、床をのたうち回る男性を強化ガラスの向こうから雄成を始めとした研究員が観察している。
「……前回の結果から、薬物で強制的に精神を強い興奮状態にさせれば理性を保てると思ったが、これではな……」
「理性自体はある程度保てていましたが、薬効が切れると副作用の中毒症状でこうなるようです。定期的に薬物を摂取させればある程度問題はクリアできるでしょうが」
その場合被験者は確実に回数を重ねるごとに体がボロボロになっていく。戦える回数に限りのある消耗品だ。根本的な解決にはならない。
「……やはり直挿しが問題か」
「そう言わざるを得ないでしょう。メリットに対してデメリットが大きすぎます。今後は何らかの器具を用いて力を制御できるようにする方向で考えた方が良いでしょう」
「白上のやり方が正しかったと言う訳だ」
雄成が研究員と話し合っている間に、強化ガラスの向こうでは別の研究員が被験者の男性に薬の入ったアンプルを持っていった。薬が来た事に気付くと、男性は奪い取るように薬を受け取り中身を喉に流し込んだ。
薬を飲んでから数秒ほどで男性の顔色は良くなっていった。そして正気を取り戻した男性は、顔色が良くなったにもかかわらず研究員に掴み掛り懇願した。
「た、頼む!? もう止めてくれッ!? こんな薬使われたら、体が持たない!?」
この男性は、傘木社暗部の武装組織である傘木保安警察と言う組織により拉致された一般人である。
『警察』と名乗ってはいるが、その実態は傭兵や刑務所の囚人で構成された私設武装組織だ。
そして彼らはいざと言う時はアントファッジとなって戦う、正に消耗品の兵士でもある。
閑話休題。
男性に掴み掛られた研究員は、その手を乱暴に振り解き代わりにバットベクターカートリッジを挿した。忽ちバットファッジに変異する被験者の男性。
変異してしまった自分の姿に震えるバットファッジに向け、研究員は冷たく言い放つ。
「もう後戻りはできない。お前が助かる方法はただ一つ。我々の実験に協力する事だけだ」
そう告げられ、バットファッジはその場に膝をついて項垂れた。彼らに掴まったのが彼の運の尽きであった。
絶望するバットファッジに興味を失ったのか、雄成は強化ガラスから視線を外し先程のベクターカートリッジ専用ツールに関する話を再開した。
「先ほど言っていたツールだが、まずは出来るだけ利便性を追求しろ」
「と、言いますと?」
「奴を真似てベルト型にするのはデータが集まってからだ。最初は持ち運び等に優れる形状にするんだ。例えば腕輪だったり、拳銃なんかにして武器としても使える物が良いだろうな」
「なるほど……分かりました。その方向で開発を進めてみます」
人々が寝静まった後も、この地下研究室では災厄の種が育ちつつあった。その芽吹いた災厄が仁達に牙を剥くのは、そう遠い事ではなさそうである。
***
翌朝、仁は朝から大学へ向かうべくトランスポゾンを走らせていた。昨日の検証の続きを行う為だ。
今日は土曜日なので本来は大学も休みなのだが、居ても立ってもいられず自主的に動いていた。
その道中、彼は亜矢の姿を見かけた。方角的に大学へ向かっている彼女が気になり、仁はバイクを近くに寄せて話し掛けた。
「おはよ~」
「門守君、おはようございます」
「こんな朝からどうしたの? 今日土曜日じゃん」
「大学ですよ。門守君、今日も昨日の続きやるつもりだったんでしょう? 1人では大変かと思って、私もお手伝いしに行こうと」
仁は目をパチクリさせた。行動が読まれている事にもだが、何よりも態々付き合ってくれると言う彼女にだ。
「別に付き合わなくてもいいのに」
「せめてこれ位はやらせてください」
「ん~……分かった。なら後ろに乗りなよ。乗せてくから」
小さく溜め息を吐きながら、仁は予備のヘルメットを取り出して亜矢に手渡し後ろに乗せようとした。
その時、彼に話し掛ける者が居た。
「失礼」
「ん?」
声を掛けられて仁がそちらを見ると、そこにはスーツを着た1人の男性が居た。
初めて見る筈の顔だが、仁はその男性に何処か見覚えがあるような気がした。
「(何だろ? 何処かで見た事があるような?)……何です?」
若干警戒しながら訊ねると、男性は懐から警察手帳を取り出して仁に見せた。
「私、警察の者なんですがね。このバイクについて少し話を聞かせてもらっても?」
トランスポゾンについて訊ねてくる警察と言う男性。そこで仁は気付いた。この男性を何処で見たのかを。
(あぁ、昨日の警察の特殊部隊の……)
その男性はS.B.C.T.の隊長である宗吾だった。あの時、一瞬だけ見た顔だったが仁は辛うじて彼の顔だけは覚えていたのだ。
トランスポゾンに興味を持ってきた宗吾に亜矢が顔を強張らせる前で、仁は至って平然とした様子で答えた。
「何でもどうぞ」
「このバイク、普通の物とは大分異なるようですが何処で買われましたか?」
出だしから話辛い事を聞かれたと、亜矢が仁の後ろで冷や汗をかいた。何処で買ったも何も、白上教授が独力で作ったバイクを貰った状態なのだから答えようがない。だからと言って馬鹿正直に答えては、仁がデイナである事がバレてしまう。
「カッコいいでしょ? 自作なんですよ」
「自作?」
「そそ。知ってます? 今噂になってる仮面ライダーって奴」
「知ってます。実は今それについて情報を集めていまして」
「そいつが乗ってるバイクがカッコ良かったんで、見た目真似てみたんですよ。よく出来てるでしょ?」
いけしゃあしゃあとホラを吹く仁に、亜矢は何とも言えない顔になってしまった。真実を話す訳にはいかないとは言え、よくもまぁこんな嘘が言えたものだ。
大体にして、自作したとは言えこれは改造の域を逸脱していないだろうか? どんなバイクをベースにすればここまでの形に出来ると言うのか。
「それにしたって、随分と独特過ぎるスタイルをしてるように見えますけど?」
ほれ見ろ、案の定突っ込まれた。ハーレーと比べたって形状が独特過ぎる。今ある物を改造したと言うよりも一から全部作ったと言った方が自然だ。
「ジャンク品集めて作ったんですよ。苦労しましたよ、ここまで形似せるのは」
「ふぅむ……」
宗吾は仁とトランスポゾンに疑惑の目を向ける。その後ろで亜矢が冷や汗を流していると、仁が口を開いた。
「もしかして、俺がその仮面ライダーじゃないかって疑ってたりします?」
仁が問い掛けると、宗吾は目線を鋭くした。疑っているのとは違うが、仁の言葉にどこか挑発的な何かを感じたのだろう。若造に小馬鹿にされたとでも思ったのだ。
それを敏感に感じ取った亜矢が、慌てて仁の後頭部を叩く。
「門守君!? お巡りさんに失礼ですよ!」
「別に馬鹿にした訳じゃ……」
「言い方の問題です!?」
「そんなに?」
目の前で痴話喧嘩を始める2人に、宗吾は面倒くさそうに溜め息を吐く。亜矢は狙った訳ではないが、この喧嘩で宗吾は一気に2人から興味を無くしたらしい。
「あ~、そう言う訳じゃないですから。ただあまりにも似すぎてるんで。まぁ無関係だって言うならそれで構いません。突然声を掛けて失礼しました」
宗吾はそう言って足早にその場から立ち去っていった。
彼の後姿に、仁は無言で後ろの亜矢にサムズアップを送る。狙った訳でもないのに宗吾を追い払う手助けをすることになった、亜矢の心境は複雑だった。
とは言えこれで問題は過ぎ去った。さてそれでは改めて大学のラボへ向かおうと仁がアクセルを吹かした。
その時、そう遠くない所から破壊音と無数の悲鳴が聞こえてきた。それを耳にした瞬間、2人は一瞬顔を見合わせると亜矢がトランスポゾンから降りた。
「ゴメンね」
「いえ。気を付けてください!」
「ん、ありがと」
仁は悲鳴が聞こえてきた方にトランスポゾンを走らせる。
現場に到着すると、そこでは案の定ファッジが暴れて周囲に被害を与えていた。それも先日取り逃がしたバットファッジだ。
昨日の不手際がこの事態を招いたかと思うと、仁は苦虫を噛み潰した顔をせずにはいられない。
「さて……っと?」
いざ変身しようとして、仁は現場に宗吾を始めとした警官が多数居る事に気付いた。彼らは逃げ遅れた人々を必死にその場から逃がそうとしている。
「急いでッ! 早く避難をッ!?」
宗吾が陣頭指揮を執り避難誘導しつつ、拳銃でバットファッジに応戦しているのを見て仁はそっと下がって物陰に隠れた。流石に彼らに見られながらの変身は面倒な事になる。
「大変だな、お互い」
〈HAWK〉
〈LEON〉
宗吾達を労いながら、仁はベクターカートリッジを装填する。選んだのは先日全力を発揮できなかったホークベクターカートリッジと、まだエヴォリューションが見つかっていないレオンベクターカートリッジ。まだペアとなる組み合わせが見つかっていないもの同士なら、或いは――――――
〈HAWK + LEON Evolution〉
「ビンゴ。変身!」
〈Open the door〉
仁はデイナに変身しながら、トランスポゾンの車体を白に変更し走らせた。目指すはまだ空を飛ばずに地上で破壊活動をしているバットファッジ。ホークレオンフォームにエヴォリューションしたデイナはそのまま猛スピードでバットファッジに体当たりをぶちかました。
迫るトランスポゾンに気付いたバットファッジは、慌てて翼を広げて空を飛びトランスポゾンを回避した。
「来タカ、仮面ライダーッ!」
まるでデイナが来るのを待っていたかのような物言いと、理性を保ちながら目的も無く暴れるような行動をするバットファッジにデイナは疑問を抱きバイクを降りながら問い掛けた。
「お前、何でこんな事してんの? 無暗矢鱈に街ぶっ壊して、何が気に入らないのさ?」
問い掛けながらデイナは大剣モードのハイブリッドアームズを構えた。
「俺ノ目的ハ、オマエ自身ダ!」
「俺?」
「オマエヲ始末スレバ、俺ハコノ苦シミカラ解放サレル! ダカラ覚悟シロ、仮面ライダー!!」
そう叫び上空から強襲を掛けてくるバットファッジに、デイナも空を飛び応戦する。広がるインペリアルウィングが力強く羽搏き、デイナの体を重力から解き放った。
飛び立ったデイナを前に、バットファッジは最初彼を侮っていた。先日の戦闘で飛行能力に関しては自分の方に分があるのは確認済み。ならば勝機は自分にある、と。
だがその考えは、次の瞬間目前に迫ったデイナが大剣を振り下ろす姿を見て一瞬で崩れ去った。
「ナッ!?」
突然の事にバットファッジは反応できず、諸に体を切り裂かれてしまう。そのまま地面に落下したバットファッジの前に、デイナは悠々と着地した。
「ド、ドウイウ事ダ!? 昨日ハ確カニ俺ノ方ガ……」
「悪いね、昨日は全力じゃなかったんだ。今回は全力全開で行くぞ」
言うが早いか、デイナは低空飛行で一気にバットファッジへ接近した。すれ違い様の斬撃を、バットファッジは何とかやり過ごす。デイナはそのまま上空に飛翔し、ライフルモードに変形させたハイブリッドアームズで銃撃する。
「ナメルナッ!!」
しかしバットファッジも負けてはいない。翼を広げ飛び立つと、空中でデイナの銃撃を回避しつつ反撃に集束超音波を放つ。
余裕を持ってそれを回避しお返しに引き金を引くデイナ。
互いに優れた飛翔能力を活かして、相手の攻撃を回避しつつ反撃するデイナとバットファッジだったが、ふとデイナは気付いた。このままでは周辺への被害が広がってしまう。
このままでは不味いと、デイナはハイブリッドアームズを大剣モードに変形させ接近戦を挑んだ。今の飛翔能力なら、バットファッジに接近する事も容易だ。
デイナが大剣を構えて接近する。それを見てバットファッジはほくそ笑むと、それまで集束させてはなっていた超音波を拡散させてはなった。
「うっ」
広範囲に広がる超音波は、先程までの破壊力は無いが回避困難な音の壁となってデイナに襲い掛かる。不協和音が脳を揺らし、安定した飛行を遮った。
不安定に飛ぶデイナの飛行速度は先程とは比べ物にならない。バットファッジは今が好機と、デイナに接近し蹴り落とそうとした。
〈WHALE〉
〈HAWK + WHALE Mutation〉
バットファッジの蹴りが放たれる直前、デイナはレオンベクターカートリッジをホエールベクターカートリッジに交換してゲノムチェンジした。それと同時にエコーロケーション用の超音波をバットファッジに向けて放つ。それは相手を吹き飛ばす威力のある『インパクトウェーブ』ではない、ただ超音波を一方向に集中させただけのもの。本来であれば相手にダメージを与えられる筈も無いそれを放たれたバットファッジは――――――
「ウグォッ!? ナ、何ダッ!?」
突然平衡感覚を失い、蹴りがデイナを外れた。大きく空振りをして隙を晒したバットファッジ。そこにデイナが大剣を振るった。
「グアァァァァァァッ?!」
胴体を大きく切り裂かれ、悲鳴を上げて落下するバットファッジ。何とか空中で持ち直し地面に激突する事は避けたが、今のダメージはバットファッジから体力を大きく削ぎ落とした。
「ふぅ……ふぅ……おぇ」
返り討ちでバットファッジを叩き落したデイナだが、こちらも無傷とは言い難かった。何しろ脳を直接揺らされたのだ。視界は歪んでいるし、吐き気も酷い。それでもデイナは気力で持ち堪え、バットファッジを相手に優位に立っていた。
「ナ、何ガ起コッタ!? 何デ急ニッ!?」
「超音波を使えるのはお前だけじゃないって事」
デイナがやったのはとても単純で、バットファッジに対し超音波を照射し返して相手の平衡感覚を狂わせただけである。
蝙蝠とは周囲の状況を捉えるのに、鯨以上に超音波の反射に頼っている。バットファッジの場合全ての蝙蝠の特徴を持っていると考えられるので視力も決して悪くはないだろうが、それでも超音波による索敵能力は健在な筈。ならばそれをデイナの放つ超音波で狂わせてしまえと言う事だ。
結果は大当たり。バットファッジはデイナの超音波を喰らい正確な彼の位置を見失い、攻撃を空振りした。
〈HALK + LEON Evolution〉
「ゲノム、チェンジ」
〈Open the door〉
ボロボロのバットファッジを前に、デイナは再びゲノムチェンジしてホークレオンフォームになる。
自身の目前で力強く立つデイナを前に、バットファッジは思わず恨み言を口にした。
「オ前ガ、オ前サエ居ナケレバッ!? 俺ハコンナ苦シミヲ味ワウ事ハ無カッタンダッ!?」
「俺の所為?」
「オ前ニ……オ前ニ対抗デキルヨウニト、奴ラハ俺ニ薬ヲ無理矢理――!? 俺ガ何ヲシタッテ言ウンダッ!? 何デ俺ガコンナ目ニッ!?」
デイナにバットファッジの恨み言が突き刺さる。彼に言わせれば、この事態はデイナの存在が招いた以外の何物でもないからだ。デイナに対抗する為に更なる戦力増強を見込まれ、劇薬を無理矢理投与され戦わされ、そして苦しんだ。
バットファッジにとっては災難と言う他はない。
そんなバットファッジの境遇を、デイナも哀れに思わないでもなかった。彼がデイナを恨む気持ちも分からなくはない。
だが、デイナはそれでも止まる訳にはいかなかった。ここで足を止めては、未来ある新技術が悪事にばかり利用され多くの人が傷付き、助けられる人が助けられなくなる。
まだ磨かれ始めたばかりの技術と知識。それが間違った方向にのみ輝く事を許す訳にはいかなかった。
だから、彼は同情に蓋をして心を鬼にした。
「災難だとは思うよ。あんたが俺を恨みたくなる気持ちも分かる。でもあんたがやった事を許す訳には……行かないからさ」
〈ATP Burst〉
デイナはドライバー右側面のレセプタースロットルを引く。ドライバーに装填されている二つのベクターカートリッジ内の超万能細胞がATPを産生し、両足に集束したのを見てデイナはインペリアルウィングで飛翔。上空から急降下して両足がバットファッジを噛み砕くように上下から挟んだ。
「ハァァァァッ!」
「クソ、チクショォォォォッ!?」
ライオンが獲物を食い殺すが如く、バットファッジを蹴り上げと踵落としで挟む。バットファッジは最後までデイナへの恨みを抱きながらそれを喰らい、そして爆散した。
後にはベクターカートリッジが排出され、元の姿に戻った男性と破損したバットベクターカートリッジだけが残された。
デイナは倒れた男性に近付くと、近くに落ちていたバットベクターカートリッジを拾い上げ握り潰す。そして意識が朦朧としている様子の男性に語り掛けた。
「あんたの恨み、確かに受け取ったよ。それで少しでも気が晴れて楽になるなら、いくらでも恨みな」
それが相手に聞こえていたかは分からない。それを受けて本当に彼がデイナの事を、恨んでいるかも分からない。
だが少なくとも、これで彼がこれ以上悲惨な目に遭う事は避けられるだろう。この場には警察も居る。ファッジに変異していたという事で暫くは不自由するだろうが、話を聞く限り彼は完全に被害者だ。薬漬けにされた挙句戦わされたのならば、情状酌量の余地はあるし適切な治療も受けられる。
全てが元通りになるまでは時間が掛かるだろう。治療の過程で辛い思いをするかもしれない。だが立ち止まりそうになった時は、自分への恨みを糧にしてくれれば良い。デイナはそう考えつつ、トランスポゾンに跨りその場を去ろうとした。
「待てッ!?」
その時、昨日に引き続きまたしても宗吾が銃口を向けてきた。要請を受けてきていたのか、何時の間にか彼の周りにはS.B.C.T.の装備に身を包んだ隊員もいる。その一部がファッジだった男性を担架に乗せて運んで行くのを視界の端で見て、小さく安堵の溜め息を吐きつつデイナは宗吾からの呼び掛けに応えた。
「今度は何?」
「お前は……お前は一体何なんだッ!? 何故ファッジと戦うッ!? お前もベクターカートリッジを使っているクセに、何故――――!?」
やや困惑した様子の宗吾に、デイナは考える素振りを見せた後…………こう答えた。
「……ベクターカートリッジも、そんなに悪いモンじゃないよ。きっと、ね」
「何ぃ?」
「ま、俺以外に戦える人が居ないから戦ってるって事で、一つ。それじゃ」
デイナは一瞬の隙を突き、トランスポゾンを飛行形態に変形させてその場を飛び立った。背後からまたしても宗吾達が銃撃してくるが、デイナはビルの影を利用して一気にその場から逃れた。
昨日に引き続き逃げられた事に、宗吾は悔しそうに歯噛みする。機嫌を悪くした彼を部下が宥めつつ、周囲の後処理を開始し始めた。
その様子を亜矢が遠くから眺めていた。彼女は暫く宗吾達を見つめ、次いでデイナが去って行った方を見ると一度顔を伏せ、そのまま静かにその場を立ち去るのだった。
と言う訳で第8話でした。
仁か基本的に何が起こっても気にしません。物事を全てそう言うものと考え受け入れるので、身に起こった不幸を嘆いたり悲しんだりしません。
さて、今回新たにデイナのエヴォリューションフォームが登場しましたが、ここらで組み合わせの法則に気付いた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。
次回の更新もお楽しみに!それでは。