仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

そろそろ仁と亜矢の関係が少しは進展してきます。


第9話:亜矢の気持ち

 仮面ライダーとして戦う仁ではあるが、その本業は大学生である。しかも彼は大学4年生。卒業の為には卒業研究をして、卒論発表で合格しなければならない。

 

 それは亜矢も同様であり、彼女もまた卒業研究のテーマを決め、研究を進めそれを発表できるように纏めなければならない。

 なので彼女は今、大学の図書室で卒論のテーマを決めるべく様々な本に目を通していたのだが――――――

 

「…………はぁ」

 

 亜矢の口からは大きな溜め息が零れる。視線は専門書に向いているが、ページは表紙を捲ったところから一枚も動いていない。

 

 彼女が今気にしているのは、1人で全てを背負い込んでいる仁の事だった。先日のバットファッジとの戦いで、仁はファッジと警察、双方から敵視された。

 

 彼自身はその事を気にした様子を見せない。本当に気にしていないのか、それとも実は気にしているが表に出していないだけなのかは分からないが、とにかく彼は弱った様子を見せなかった。

 

 亜矢にはそれが逆に辛かった。これで仁が少しでも滅入った様子を見せてくれれば動きようもあるのだが、彼自身はあっけらかんとしているのでヘタに動きようが無かった。流石に堪えた様子を見せない相手にお節介が焼ける程、亜矢は自惚れていないし無遠慮でもない。

 

「門守君……」

 

 亜矢は再び溜め息を吐きながら仁の名前を口に出す。肝心の彼は今、既にテーマを決め研究室で資料集めから始めている所だ。思い出すだけでも、彼がいつもと変わらぬ様子であると思える。

 

 しかし、亜矢の中の何かが囁いていた。仁は無理をしている。いや無理と言うのとは少し違うが、それでも何も感じていない訳ではない。ファッジと警察、双方から敵意を向けられた事は少ないながらも拭えない負担となって彼の心に蓄積している。今は大丈夫でも、これが続けばきっと何か支障が出る筈だ。

 

 出来る事なら何とかしたいところだが、その方法が思い当たらなかった。亜矢は再び溜め息を吐く。

 

「はぁ…………駄目だな、私……」

 

 思わずネガティブな言葉が亜矢の口から転がり出た。

 

 その直後、背後から亜矢に声を掛ける者が居た。

 

「あ~や!」

「ひゃっ!?」

 

 突然両肩を叩かれながら声を掛けられたので、亜矢は驚愕のあまり思わずその場で跳びあがり悲鳴を上げてしまった。静かな図書室の中だ。彼女の悲鳴は大きく響き、周囲の学生達の視線を集めてしまった。

 彼らに迷惑を掛けてしまったと、亜矢は周りの学生達に申し訳なさそうに頭を下げ、そして背後を振り返り下手人を見た。

 

「へへ、やほっ!」

 

 そこに居たのは、亜矢と同年代の女性だった。亜矢に比べると大分肌の露出が多く、長い黒髪を肩より少し下の所で一纏めにし左肩から体の前の方に流している。

 見知った顔が居た事に、亜矢は呆れと非難が半々になった溜め息を吐いた。

 

「何だ、篠崎さんですか。驚かさないでくださいよ。ここ図書室ですよ?」

 

 この女性の名前は篠崎(しのざき) 美香(みか)、亜矢の女友達の1人だ。

 

「いやぁ、何だか亜矢が珍しく1人で居る上に辛気臭い顔してるから、一体どうしたのかなぁって思って」

 

 美香に言われて亜矢は言葉に詰まる。辛気臭い顔と言われて、反論できなかったのだ。今の自分がそう言われるだけの顔をしていただろうと言う自覚はあった。だからそう言われると何も言えなくなってしまう。

 

「……私だって、そう言う時くらいありますよ」

 

 言いながらも、亜矢は今まで気付かないようにしていた寂しさを再認識して再び表情に影を落としていた。

 

 そうだ、ここ最近は仁と共に居る事が多かった。それは仮面ライダーである仁を支えるには彼の傍に居る方が都合がいいから……と言うのは理由の半分でしかない。

 もう半分は、純粋に彼の傍に居るのが心地良いからだ。彼の傍に居ると、心の底から安心できる。それは以前貞助が変異したウルフファッジに言い放った、仁が亜矢の事を特別扱いしないからと言うのが主な理由だ。仁の傍では、亜矢は肩肘張らず素のままで居る事が許される。

 

 しかし、今は――――――

 

「な~んで亜矢がそんな辛気臭い顔してるか当ててあげようか?」

「え?」

「ズバリ! 恋の悩みだね?」

「んなっ!?」

 

 突拍子もない事を言われて、亜矢の顔が一気に上気した。

 

「ち、違います!?」

「ちょっ!? 亜矢、ここ図書室……」

「あ……」

 

 思わず大声を出してしまったが、美香に言われてまた注目を集めてしまった事に今度は別の理由で顔を赤くして頭を下げる。

 

 ちょっとここでは満足に話も出来ないと考え、亜矢は本を片付け美香と共に図書室を出た。そして大学敷地内にある自販機で適当に飲み物を買って話を再開した。

 

「それで? 実際の所どうしたのさ?」

「どうって…………」

 

 問い掛けられて、亜矢は言葉に詰まってしまった。まさか正直に話す訳にもいくまい。仁が仮面ライダーとして戦っていて、怪人と警察双方から敵視されているのを甘んじて受け入れている負担を少しでも軽減したいなどと。

 

 しかしこのままだんまりを決め込んで、美香からの気遣いを無碍にするのも気が引けた。なので亜矢は、当たり障りのない言い方でお茶を濁す事にした。

 

「ただ……友達が少し悩んでるみたいだから元気付けてあげたいけど、どう元気付けてあげればいいかで悩んでただけです」

 

 あながち間違いではないだろう。仁は紛う事なき友達……そう友達だ。その彼が、1人で何でも溜め込んでいるのを黙っていられないから何とかしたいと思っていたのだから。

 

 そんな気持ちでありきたりな感じに答えると、美香の口から思いもよらない言葉が返ってきた。

 

「それって門守君の事?」

「ブッ!?」

 

 美香からの答えが返ってくる直前、コーヒーを口に運んでいた亜矢は美香の口から仁の名前が出た事に動揺して気管に入ったコーヒーを噴き出してしまった。

 

「げほっ!? げほっ!? ごほっごほっ!?」

「あ~あ~、ちょっと亜矢大丈夫?」

「ちょ、ま、なん!? 私、門守君、一言も――――!?」

 

 ただ友達としか言っていなかったにもかかわらず、ピンポイントで仁であると言い当てられ亜矢は焦った。

 

「だって亜矢がそこまで親身になるのなんて、門守君以外考えられないんだもん」

「だから何で!?」

「何でもなにも、門守君と居る時の亜矢って他の人と居る時より楽しそうじゃない。これで亜矢が門守君に親身にならないなんて考えないのは無理でしょ」

 

 亜矢は顔を真っ赤にして俯き、片手で両目を覆った。

 

 そんな亜矢に、美香は楽しそうな笑みを浮かべて話し掛ける。

 

「それでそれで? 2人って付き合ってるの?」

「そ、そんなんじゃありませんよ。ただの友達……そう友達です」

 

 飽く迄も仁とは友達であると言うスタンスを崩さない、頑固な亜矢に美香は仕方がないとでも言いたげに溜め息を吐いた。これ以上この事を突いても進展は無さそうだという事で、彼女は話しを進める。

 

「ま、そう言う事にしといてあげるわ。それで? 門守君が悩んでるから元気付けてあげたいんだって?」

「そ…………はぁ。はい、そうです」

 

 もうこれ以上仁が無関係であると否定する事にも疲れたので、とりあえず亜矢が意識している相手が仁であるという事は認める事にした。こうでもしないと話が進まない。

 

「ふ~ん、あの門守君がねぇ……彼でも悩む事ってあるんだ」

「多分、ですけどね。何分表に殆ど何も出さない人ですから」

「でも門守君が無理をしてるのは分かるんだよね? よく見てるじゃん。あの門守君の事を理解してる人なんて、亜矢くらいだと思うよ?」

 

 そう言われると亜矢としても悪い気はしない。彼の両親を除いて彼の事を誰よりも理解しているのが自分であると言う評価に、亜矢は何故だか胸に誇らしさを感じずにはいられなかった。

 

 自分でも気付かぬ内に笑みを浮かべる亜矢に、美香は苦笑しつつ続けた。

 

「まぁ、何かに悩んでるのを元気付けたいって言うんなら簡単な方法あるわよ」

「え? 本当ですか!?」

 

 美香の言葉に、亜矢は藁にも縋る思いで教えを請いた。亜矢自身社交的な性格なので、他人を元気付ける方法もある程度は分かっているが、仁の様に悩みや苦しみを胸の内にしまい込んで表に出さないタイプに関してはどうすればいいか分からなかった。

 

 必死になって教えを請おうとする亜矢を前に、美香は思わず胸を張った。

 

「ふふ~ん! 当然! こうすれば、男なんて簡単に元気になるわ!」

「で、その方法とは?」

「それはね…………」

「それは?」

 

 

 

 

「………………デートよ!」

 

 

 

 

「………………はい?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その頃傘木社の特別研究区画では、雄成が研究員から腕輪の様な物を見せられていた。

 

「お待たせしました、社長。これがベクターカートリッジの能力をより効率的に引き出す新ツール。その名もベクターブレスです」

 

 雄成は受け取ったベクターブレスを色々な角度から眺めた。

 

 印象はゴツイ腕時計と言った感じだろうか。黒くてバンドも幅が広い。時計盤がある部分にはベクターカートリッジを装填する為のソケットが付いている。

 

 繁々とベクターブレスを眺める雄成に、研究員は性能の説明をし始めた。

 

「これを介してベクターカートリッジを使用する事で、超万能細胞の悪影響を大幅に軽減する事が可能となり、薬物投与や肉体改造をせずとも理性を保ってファッジへと変異する事が可能です」

 

 研究員の説明に雄成は満足そうに頷いた。

 

「うむ、よくやった」

「ありがとうございます」

「さて……早速これの性能を見たいな。アデニン?」

 

 雄成が後ろに居るアデニンに声を掛けると、彼は前に出て雄成の傍に立った。自分の傍に来た彼に、雄成はベクターブレスとベクターカートリッジを一つ渡す。

 

「適当な部下にこれを渡し、仮面ライダーと戦わせろ。性能を見るんだ」

「はっ」

 

 アデニンは受け取ったベクターブレスとベクターカートリッジを手に、恭しく頭を下げると静かに研究区画から去って行った。

 

 アデニンを見送る雄成と研究員。研究員は先程雄成がアデニンに渡したベクターカートリッジを見て、恐る恐る訊ねた。

 

「あの、社長?」

「ん?」

「あのベクターカートリッジはまだ試作品ですが、宜しかったのですか? まだ性能が安定しているとは言い切れませんが?」

「だがテストで得られたデータはかなりのものだ。仮面ライダーに挑むのなら、これ位の方が良いだろう」

 

 そう言って雄成は何処か楽し気に微笑む。研究員はその微笑みに空恐ろしいものを感じた。

 まるで世界の全てをモルモットとしか思っていないかのようなその目。

 

 あの目が自分に向けられる事が無いよう、その研究員は優秀な研究員であり続ける事を心に誓うのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その週の土曜日。亜矢は何時もより着飾って自宅のマンションの前で仁が来るのを待っていた。

 

(まさか、あんなにあっさりOKが出るとは……)

 

 あの後、亜矢は美香に言われるままに仁を買い物と言う名のデートに誘った。美香曰く、気難しい男子でも女子と一緒に出掛けてデートを楽しめば簡単にリフレッシュさせる事が出来るとの事。

 

 半信半疑になりながらも、ダメ元で亜矢は仁を買い物に誘ってみた。

 

 すると――――――

 

『あ、あの、門守君!』

『ん? 何、双星さん?』

『その……次の土曜日って、予定空いてます?』

『別に何もないけど?』

『な、なら……私と、その……か、かかか、買い物に……付き合って、もらえませんか?』

 

 ただ買い物に誘うだけなのに、何でこんなに緊張するんだと自分が情けなくなりながらも何とか言葉を紡いだ亜矢。

 それに対して仁は、少しだけ悩んだ素振りを見せた。

 

『ん~~…………』

『だ、駄目ですか?』

『ん? ううん、いいよ。次の土曜日だね? 迎えに行くから待っててよ』

『は、はい!』

 

 結果、仁は快く亜矢の提案を受け入れてくれ、こうして今日を迎える事が出来たと言う訳である。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 今日の亜矢は気合の入り方が違った。土曜日だと言うのに何時もより早くに起き、手短に朝食を済ませると身支度を整えるのに普段の倍以上の時間を掛けていた。

 

 仁があまり服装とか見た目を気にしない性質だと言うのは分かっているつもりだが、だからと言って適当に済ませるなど亜矢には出来なかったのである。

 

 マンションの前で待ちながら、亜矢は腕時計に目をやる。今の時間は9時ちょうど。待ち合わせは9時半なので、まだ30分時間が余っている事になる。

 幾ら何でも流石に早すぎたか…………と思っていると、聞き覚えのある特徴的なエンジン音が聞こえてきた。

 

 まさかと思って音の聞こえる方を見ると、そこには今正に彼女に近付いてくる車体色を赤に変えたトランスポゾンが仁を乗せて走って来ていた。

 

「ゴメン、遅くなった」

「い、いえ!? まだ約束の時間30分前ですし、私も今来たところですから!」

 

 寧ろ互いに早すぎる位だ。亜矢が早めに家を出ていなかったら、仁が待ちぼうけを喰らっていた。その可能性を考えると、亜矢は自分が早めにここに来ていて良かったと思った。ちょっとでも遅かったら逆に彼を待たせていた。

 

 それと同時に、亜矢は嬉しくも思っていた。こうして仁も待ち合わせ時間よりも早くに来てくれた。それはつまり、彼も今日のデートにそれなりに気合を入れてくれたという事だからだ。

 

 デート……そう、デートだ。美香からのアドバイスで、今日は仁をデートに誘ったのである。それを思うと亜矢の顔に熱が溜まり赤くなるのを抑えられない。

 

 亜矢にとって異性を買い物に誘うのはこれが初めての事だったので、今までにない位緊張していた。明星大学の入試の合格発表の時以上に緊張しているかもしれない。

 

「それで、買い物って話だけど何処に行くの? 双星さんが買いたい物って?」

「あ、えと、そろそろ気温も高くなってきたので、新しい服を買っておこうかと」

「んじゃ、ショッピングモールで良い?」

「はい。お願いします」

 

 仁に予備ヘルメットを渡され、トランスポゾンの後ろのシートに座り仁に抱き着く亜矢。仁にしがみつきバイクに揺られている状況に、亜矢の顔が思わず綻びそうになる。

 

(――って!? 今日は私が楽しむ為じゃなく、門守君を元気付ける為に息抜きに連れて行くんだってば!?)

 

 危うく本来の目的を見失いそうになった。今日仁を買い物に連れ出したのは、彼を元気付ける為だ。ただでさえストレスが溜まるだろう戦闘をしているのに、この上更に本来は味方と言っても良い筈の警察にまで敵意を向けられた彼を少しでも労う為に連れ出したのである。

 それを忘れてはいけない。

 

 とは言え、それでもやる事はデートだ。仁とのデート……その言葉を思い浮かべるだけでまた頬が緩んでしまう。

 

(ま、ちょっとくらいは良いですよね?)

 

 暫し悶々としていたが、変に気張ると仁に気を遣われたりしてしまうと考え、思い切って開き直り亜矢は自身も楽しむことにした。こう言うのは自分も楽しんだ方が相手にも楽しんでもらえるというもの。

 

 そう自身に言い聞かせ、亜矢は仁の腰に回した腕に力を込めるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 明星大学周辺は、学園都市と言う程ではないがそれでも学生向けに様々な施設が充実していた。

 

 成人した学生向けの飲み屋街は勿論、ゲームセンターや近隣のマンションやアパートに暮らす学生の為にスーパーなどもあり、実家を離れて学業に勤しむ学生が少しでも快適に過ごせるようになっていた。

 

 その中でも学生に人気なのはこのショッピングモールだ。明星大学に通う学生達の間では、『休日の過ごし方に迷ったらここに来ておけ』と言われるほどの規模を誇っていた。

 内部には日用品は勿論、衣服やゲームなどの娯楽用品、果ては飲食店やボーリング場などもある。

 

 休日になれば内部は多くの学生で賑わうそのショッピングモールに、仁と亜矢の2人はやって来ていた。

 

 2人はとりあえず、亜矢が服を買いたいという事で真っ直ぐ衣類を取り扱う階に向かった。

 

 最初の目的の場所に辿り着き、一応服を買いたいと言うのも本当ではあったので亜矢は割と真剣に衣服を選んでいた。

 

「ん~~……」

「双星さん、どんな服を買おうと思ってるの?」

 

 どれを買おうかと悩む亜矢に、仁が後ろから声を掛ける。彼自身は特に新しい服を必要としていなかったので暇していたので、折角だからという事で亜矢の服選びを手伝おうというのだ。

 

 問い掛けられ、亜矢は両手にそれぞれ別の服を持ちながら答えた。

 

「私、あまり露出のある服は好きじゃないので、出来るだけ素肌が隠れる服を買おうと思ってるんですけど、どれがいいかなって」

「これから先暑くなるのに?」

「通気性が良ければその点は問題ありません。砂漠に住む人達が肌を出さない恰好で暮らしているのを、知らない門守君ではないでしょう?」

「あそこは湿気が低いからあんな恰好が出来るんだよ」

「知ってます。だから言ったじゃないですか、通気性が良ければって」

 

 普段知識を補足するのは仁の方なのに、ここぞとばかりに仁の考えの至らなかったところを突く亜矢。指摘された仁は、一本取られたとでも言いたげに肩を竦めてみせた。その表情は、気の所為でなければ先程よりも柔らかさを増しているように見える。

 

 どうやら彼なりに少しは楽しんでくれているようだ。その事に亜矢は少しうれしくなる。

 

 そう言えば、と亜矢は仁の恰好をまじまじと見た。

 

 仁は基本的に服装には無頓着だ。いや、拘りが無いと言った方が良いか?

 彼の服装は基本的にパーカーとジーンズであり、どの季節でもこの格好をしている。何故パーカーとジーンズばかりなのかと訊ねたら、これが一番楽だし今更他の服を選ぶのは面倒臭いとの事。

 勿論、一年中同じ服を着続けている訳では無く、日毎週毎に服は違っている。だがそれも、色や柄が違う程度で結局はパーカーとジーンズである点に変わりはない。

 種類もそんなに多くは無いので、彼の着る服は大体どれも繰り返された洗濯の影響でどうしてもくたびれたものが多い。

 

 ところが今よく見て見ると、彼が着ているのはやっぱりいつもと同じパーカーにジーンズなのだが何時もに比べて小綺麗な気がした。

 

 亜矢がまじまじと見ていると、彼女の視線が気になり仁が首を傾げた。

 

「どうかした? なんか変なところある?」

「あ、いえ。ただなんか何時もに比べて、綺麗な服着てるなぁって……」

「そりゃ双星さんと一緒に買い物に行くってんだから、それなりにしっかりした服を選ぶのは当然じゃん?」

 

 真顔で紡がれた仁の答えが、亜矢は嬉しくて仕方なかった。仁の言葉をそのまま意訳すればそれはつまり、彼も亜矢との買い物をそれなりに特別なものとして捉えてくれているという事に他ならない。そうでなければ彼は何時ものくたびれたパーカーとジーンズで来ていた。

 

 今回のデートの目的は仁の苦労を労う為だと言うのに、何だかそんな事がどうでも良くなってきてしまった。

 

「~~~~ッ! あ! か、門守君はこっちとこっち、どっちが私に似合うと思いますか!?」

 

 これではいかんと、亜矢は強制的に話題を変えた。話題の変え方が強引だという事には仁も気付いていたが、彼は特に気にすることなく亜矢が見せてきた二つのロングスカートを見比べた。赤と青、どちらも彼女に似合いそうな色だ。

 仁はロングスカートをそれぞれ手に取り、亜矢と重ねてどちらが似合うかを見比べる。どちらの色のスカートも彼女によく似合ってはいるが――――――

 

「……双星さんならこっちかな?」

 

 仁が選んだのは赤い方のロングスカートだった。明るい赤ではなく、どこかシックな赤。確かに亜矢に似合っている。

 

 だが、仁は赤を選んだ上でもう一つ別のスカートを亜矢に渡した。

 

「でも、俺はどっちかって言うとこっちも捨てがたいと思う」

「白、ですか?」

 

 仁が亜矢に渡したのは白のロングスカート。それを渡されて亜矢はキョトンとした顔になる。

 

「うん。多分だけど、双星さんには白がよく似合うと思う」

「そ、そうですか? それじゃあ、これ……」

「でも赤も似合うと思うから、両方買っちゃったら?」

「でもお金……」

 

 まだ学生の身分で、しかも一人暮らしをしている身だ。生活費は実家からの仕送りに頼っている現状、無駄遣いは出来ない。スカートだけでなく上着なんかも買わなければならないのだから、買うスカートはどちらか一つにしなければならない。

 

 そう思っていると、仁が自分が選んだ白い方のスカートを亜矢から受け取り、そのままレジに持っていき彼の金で会計を済ませてしまった。

 

 その光景に亜矢は慌てて自分の財布を引っ張り出した。

 

「ちょ、門守君!? そんな悪いですって、私の買い物なのに!?」

「いいからいいから。お礼だとでも思ってよ」

「お礼?」

 

 何の事だと首を傾げていると、仁は薄く笑みを浮かべて亜矢を見た。

 

「俺を元気付けようとしてくれたんでしょ?」

「ッ!? 気付いてたんですか?」

「何とな~くね。この間から何か気にしてくれてたみたいだし、もしかしたらって思って」

 

 仁の言葉に亜矢は、あちゃぁと額に手を当てた。まさか気付かれていたとは。彼の洞察力を甘く見ていた。

 それとなく気付かれないように仁にガス抜きさせようとしていたのに、気付かれていては本末転倒だ。

 

 そう思っていると、仁が白いロングスカートの入った紙袋を亜矢に差し出しながら言った。

 

「ありがとう。自分で思ってた以上に疲れてたみたい。何となくだけど、心が軽くなった気がする」

「あ……」

 

 失敗かと思ったが、どっこい成功だった。亜矢とのこの時間は、仁の気を少しだろうが晴らして見せたのだ。彼の負担を少しでも和らげる事が出来て、亜矢の気持ちも楽になった。

 

「その、これ、もう履いてみて良いですか?」

「どうぞ」

 

 折角だからと、亜矢は試着室に入りスカートを取り換えた。上はそのままだが、水色のシャツに群青色の上着を羽織っていたので色のバランスは悪くなかった。

 

 着替え終わると、早速仁に見せた。

 

「に、似合います?」

 

 少し照れながら訊ねると、仁はどこか満足そうに頷いた。

 

「うん。やっぱり似合ってた」

「あ、ありがとうございます!」

 

 仁に褒められ、彼の満足そうな顔に亜矢は胸の内が温かくなるのを感じずにはいられない。

 

(これって……私、やっぱり…………)

 

 亜矢が仁に対する気持ちに気付きそうになった。

 

 その時、2人にあまりにも場違いな恰好をした男が近付いてきた。独特なボディーアーマーに身を包んだ、髪を刈り上げた厳つい男性だ。

 男性は亜矢と仁を交互に見て、仁を睨み付ける。

 

 男性の無遠慮な振る舞いに、亜矢は嫌なものを感じて仁の傍に避難した。

 

「な、何ですか、貴方?」

 

 亜矢が恐る恐る訊ねると、仁が彼女を自分の後ろに引っ張った。彼は気付いたのだ。この男の服装が、以前戦ったアントファッジだった男達の物と同じである事を。

 

「双星さん。合図したらここから離れて」

「え?」

 

 突然の指示に困惑する亜矢だったが、彼女の疑問に答えている暇はなかった。

 

 男性――傘木社から派遣された傘木保安警察の一員である、梅田(うめだ) 敏則(としのり)は、左腕にベクターブレスを装着しそこにベクターカートリッジを装填した。

 

〈WASP〉

「さて、相手をしてもらうぞ。仮面ライダー!」

〈CONTAMINATION〉

 

 敏則がベクターブレスにベクターカートリッジを装填すると、彼の体がファッジに変異する。

 

 だがそのファッジは、今までの奴に比べると姿が少し異なっていた。今までのファッジはベクターカートリッジ内の超万能細胞のDNAにインプットされた生物がそのまま人型になったような姿だったのに対し、目の前に居るファッジはどこか仮面ライダーに似通った部位をいくつか持っていた。少なくとも人間と生物のキメラらしさは以前に比べると大分薄れた。

 それでもまだ異形としか言いようのない見た目だが。

 

「え、何あれ?」

「ちょっと!? まさか噂の怪物じゃない?」

 

 当然だがショッピングモール内には仁と亜矢の他にも買い物をしている客が多数居る。そんな中でファッジに変異すれば、多くの一般人に見られるのは当然の事だ。

 

 次第に周囲に騒ぎが広がりつつある中、目の前のファッジ――ワスプファッジは、右手首の孔から隠し武器のように鋭い針を伸ばした。

 それを見た瞬間、亜矢は周囲に逃げるよう叫んだ。

 

「いけない! 皆さん早く逃げてッ!?」

 

 亜矢が周囲に警告するのと、ワスプファッジが右手首から何本も針を飛ばし周囲を破壊し始めるのは同時であった。突然の破壊行動に、周囲は一気にパニックになる。

 

 慌てて逃げる買い物客や店員たちを尻目に、仁はデイナドライバーを装着してベクターカートリッジを装填した。

 

〈BUFFALO〉

〈HUMAN〉

「あんたらせめてもうちょっとTPOを弁えてくれない?」

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

「変身!」

〈Open the door〉

 

 仁はデイナ・バッファローヒューマンフォームになると、拳を握りワスプファッジに殴り掛かった。

 

「はっ」

 

 屋内での戦闘で、しかもトランスポゾンは外なので殴る蹴るしか戦闘方法がない。だが場所を考えれば、この方が良かったと言える。こんな色んな物がある場所で、大型武器であるハイブリッドアームズは使い辛い。

 

 デイナの正拳突きがワスプファッジに襲い掛かる。放たれた拳を、ワスプファッジは巧みに防ぎ捌いてみせた。

 これだけで分かる。今度の奴は今までの奴とは違う。今までデイナが戦ってきたのは、スパイダーファッジと能力に劣るアントファッジを除いて全て戦いのイロハも知らないド素人ばかりだった。だがこいつはしっかりとした訓練を受けている。そんな奴がアントファッジとは違う、能力の高いワスプベクターカートリッジを使ったのだからそりゃ強くて当たり前だ。

 

 しかしデイナとて負けてはいない。ワスプファッジが反撃にと放ってきた拳や手刀を、彼も巧みな技で以って防ぎ切った。

 格闘の技術においてはほぼ互角。となると後は、互いにどれだけ使っている能力を活かせるかだ。

 

 ワスプファッジと戦うデイナの様子を、亜矢が少し離れた所からジッと見ている前でデイナはベクターカートリッジを取り換えた。

 

〈HAWK + LEON Evolution〉

「ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 デイナはベクターカートリッジを取り換えてホークレオンフォームにゲノムチェンジした。飛び道具を持ってる敵に対して、このフォームならインペリアルウィングを盾代わりに防御することが出来る。

 

 ゲノムチェンジが完了する僅かな間に、ワスプファッジは低空飛行でデイナの傍を離れると、その道すがら右腕から無数の針を発射した。

 それを読んでいたデイナは、特に慌てる事なく広げたインペリアルウィングで自身を包んで防御した。

 

 するとそれを見たワスプファッジから、予想だにしていなかった攻撃が飛んできた。

 

 何と背中から四匹の大きなスズメバチを飛ばしてきたのだ。一匹一匹が成人男性の握り拳も軽く超える程の大きさ。持っている針も針と言うより最早釘だ。あんなもので刺されたりしたらと思うとゾッとする。持っている毒も強力だろう。一発でも喰らってはいけないタイプの攻撃だ。

 

「行けッ!」

「くっ」

 

 スズメバチ達はワスプファッジが自在に操れるのか、デイナの隙を突くように動いて終始動き回る大型スズメバチ達。

 四方八方から飛んでくるそれをデイナは拳と手刀、そしてインペリアルウィングを用いて何とか全て捌いていく。ワスプファッジには攻撃できなくなるが、デイナの方も致命的な一撃は今のところ回避に成功している。

 

 このまま上手い事ワスプファッジの攻撃を捌き続け、隙を突いて反撃に出ようと画策するデイナだったがワスプファッジは予想外の行動に出た。

 

 なんとワスプファッジは、4匹のスズメバチを離れた所から戦いを見ていた亜矢に差し向けたのだ。

 

 自分に向かってくる何処か無機的なスズメバチの姿に、亜矢は思わず固まってしまう。

 

「双星さん!?」

 

 デイナの声が響く中、スズメバチ達は腹部の針を伸ばし一斉に亜矢に向けて急降下していき――――――

 

「うぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁっ?!」

「門守君ッ!?」

 

 亜矢に針が突き立てられる寸前で、間に割り込めたデイナがその針を一身に受けた。彼の体の合計4か所に、ファッジにより生み出されたスズメバチの毒針が突き刺さり猛毒を注入される。

 

 その毒の威力は凄まじいようで、デイナは絶叫を上げると変身が維持できなくなり元の姿に戻ってしまった。

 

「フン、他愛ないな」

 

 それを見届けると、ワスプファッジは鼻を鳴らしその場を立ち去っていった。

 

 後に残されたのは、戦闘の余波により破壊されたショッピングモールの店内。

 

 そして、倒れて気を失っている仁に必死に声を掛ける亜矢だけであった。

 

「門守君ッ!? 門守君しっかりしてくださいッ!?」

 

 

 

 

「仁君ッ!!?」

 

 

 

 

 亜矢の悲痛さすら感じさせる声が響く中、仁は全身から脂汗を流して自身を苛む毒素に苦しんでいた。




と言う訳で第9話でした。

亜矢が仁の事を大分意識してきました。今後は今まで以上に甘々な2人を描いていければと思ってます。

早くも敵組織の変身ツールが登場しました。ただしこれはまだ試作品。今後これの改良型や発展型が登場予定です。

そして次回、遂に彼女が……

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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