仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は坂本監督リスペクト回となります。

*2021/05/24:こちらのミスでシトシンが使用するベクターカートリッジを間違えていたので修正しました。


第10話:決意の選択

 ワスプファッジの操るスズメバチに刺された仁は、騒動を聞きつけて駆けつけた救急隊員により病院に運ばれた。

 

 救急搬送された仁は治療を施されるが、物はファッジによる毒だ。通常の医学では治療することが出来ず、手の施しようがなかった。

 現在はせめてもの対処として、ベッドに寝かされ呼吸器に繋がれていた。

 

 その仁が寝ているベッドの傍の椅子に、亜矢が沈んだ様子で座っていた。

 

(私の…………私の所為だ)

 

 亜矢は自分を責めていた。あの時、心配だからと少し離れた程度の所で見守ったりせず、仁に任せてあの場を離れていれば彼が隙を晒す事は無かったかもしれない。こんな事にはならず、仮に苦戦したとしてもワスプファッジに勝てていた筈だ。

 

 結果的に無力な自分が仁の足を引っ張り、彼を危険に晒してしまった。しかもこれで二度目だ。一度目は最初にスパイダーファッジが襲い掛かってきた時。あの時も仁は、亜矢を庇って死に掛けた。

 

 椅子に座りながら、亜矢は顔を両手で覆って涙を流した。自分の無力さを悔いていた。何が仁の負担を少しでも和らげたいだ。和らげるどころか彼を窮地に追いやっているではないか。一体自分は何をやっているんだ。

 

 亜矢の心は己を責める言葉で埋め尽くされていた。

 

「双星君!」

「……教授?」

 

 罪悪感に亜矢が苛まれていると、連絡を受けた白上教授が病室に飛び込んできた。相当急いでいたのか、教授は少し息を切らせている。

 

「門守君がファッジの毒で倒れたと聞いた。何があったのか聞いてもいいかね?」

「はい…………」

 

 亜矢は重い口を開いて、先程のショッピングモールでの戦いの顛末を白上教授に話した。

 

 全てを聞き終え、仁の身に何があったのかを知った白上教授は事の重大さに口に手を当てて深刻そうな顔をした。

 

「そうか……いやしかしこれはマズい事になったな。恐らくだがこのままでは門守君の身が持たない」

「そんな――――!?」

 

 教授の口から出た残酷な言葉。悲鳴に近い声を上げる亜矢に、教授は努めて冷静に続けた。

 

「この毒は通常のスズメバチの毒など比べ物にならない程複雑な構成をしている。恐らくこのまま放っておけば今以上に症状が悪化して、そのまま死に至るだろう。何とかして解毒剤を作りたいところだが……」

「何とかならないんですか?」

「今すぐは無理だ。解毒剤作製には毒のサンプルか、若しくはこの毒を使用するファッジのベクターカートリッジが必要になる」

 

 どちらも絶望的な要求だ。仁の体から毒を抜き取る訳にもいかないし、仁がこの有様ではファッジを倒してベクターカートリッジを回収することも出来ない。

 

「何とか……何とかならないんですか?」

「…………厳しいと言わざるを得ない。が、彼を巻き込んだのは私だ。何もせずにいるのは義理に反する。出来るだけの事はやってみよう」

 

 そう言うと白上教授は病室を出て何処かへと行ってしまった。後には再び、仁と亜矢だけが残される。

 

 ふと亜矢が仁を見ると、彼が酷く汗をかいているのが目に入った。亜矢は急いで洗面器に水を張り、タオルを濡らして絞るとそれで彼の額や首筋の汗を拭った。

 その際に彼の肌に触れたが、信じられないくらい熱い。呼吸は荒く、彼が苦しんでいるのが嫌でも分かる。

 

 堪らず亜矢は仁の手を握った。意味などないと分かってはいるが、それで少しでも彼の苦しみが自分に流れてくれればと願って。

 

「門守君……ごめんなさい――――!?」

 

 2人だけの病室で、亜矢は仁の手を握り彼の回復を願いながら、もう一つある事を願っていた。

 

 力が欲しい…………と。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方傘木社では、見事にデイナを倒してみせた敏則がアデニンからの称賛を受けていた。

 

「よくやった。新型のツールとベクターカートリッジを用いての仮面ライダー討伐、見事だったぞ」

「お褒めに預かり光栄です」

 

 雄成直属の幹部であるアデニンからの称賛を受け、敏則は誇らしげに頭を下げた。

 実際、これは彼ら傘木保安警察にとってとても大きな快挙であった。これまで傘木社が誇るファッジをたった1人で倒してきた仮面ライダーを、見事に打ち倒してみせたのだ。それも、スパイダーファッジの時のようにまだ再起が可能な状態ではない。猛毒を撃ち込んでどう足掻いても再起できないだろう状態にしてみせた。解毒が不可能な以上、仁はこのままじわじわと毒に侵され静かに死んでいくだろう。

 

 今まで煮え湯を飲まされてきた相手が消えるかと思うと、爽快感を感じずにはいられない。

 

 もっとも現状をあまり面白く思っていない者も居る。チミンだ。彼女はこれまでに数度仮面ライダーと相対する機会に恵まれたが、彼女では仮面ライダーを完全に戦闘不能にすることは叶わなかった。精々が一度一時的に倒した程度である。

 

 幹部である自分が、部下の敏則に後れを取ったと面白く思わないのはある意味当然であった。

 

 そこに、雄成が手を叩きながらやって来た。

 

「良い働きだった。私も雇い主としてとても嬉しい」

「ありがとうございます」

「今回の戦闘でベクターブレスも良いデータが集まった。他の研究員たちも喜んでいる」

 

 現在特別研究区画では、今回の戦闘で得られたデータを基に更なる改良型の開発が行われている。新型が完成するのも時間の問題だろう。

 

 しかし現状で彼らにはもう一つ懸念事項があった。白上教授だ。彼らの認識では仮面ライダーは白上教授の尖兵に過ぎず、仮に仁を始末したとしても教授が健在である限り第二、第三の仮面ライダーが生まれるのではと言う懸念があった。

 

「さて、見事に仮面ライダーを打ち倒してみせたはいいが、しかし白上の奴はまだ元気だ。この状況、奴も手を拱いているなどと言う事は無いだろう」

「確かに、何らかの対策を練る可能性が高いですね。もしかすると、既に次の仮面ライダーを用意しているかも?」

「プロフェッサー! それならば私にお任せください! 仮面ライダーが死に掛けている今、白上 源五郎を始末する絶好の好機!」

 

 雄成の口から教授が健在である事が話題に上がると、チミンが飛びつく様に教授討伐に名乗りを上げた。ここで見事な働きをして見せ、幹部としての地位を盤石にしようと言うのだ。

 ただでさえ最近はあまり活躍がパッとしておらず、彼女の中で己の幹部としての地位が揺らぎつつある。そろそろポイントを稼いでおかなければと、焦っているのだ。

 

 チミンからの進言に、雄成は考え込む素振りを見せると一つ頷き彼女の進言を受け入れた。

 

「ふむ、そうだな。この機に白上を始末しておくか」

「では「だが……」ッ!?」

 

 喜び勇んで出撃しようとするチミンだったが、雄成はそれに待ったを掛けた。

 

「出撃するのは敏則、君だ。もう一度ベクターブレスとワスプベクターカートリッジを用いて白上の所へ赴き、そして奴を始末しろ」

「はっ。しかしベクターブレスは現在データ収集に回しており、整備の事も考えると行動に移れるのは明日になってしまいますが?」

「構わん。たった一日で何が出来ると言うのかね。獲物は逃げやしないんだ。明日までじっくり待てばいい」

「分かりました。では、これにて」

 

 敏則はそう言って静かにその場を立ち去っていった。

 

 後に残されたのは雄成と幹部4人。

 

 チミンは早速優勢に抗議した。

 

「何故ですかプロフェッサー!? 私にお任せ下されば、あんな老いぼれ直ぐに始末してみせます!」

「折角だからもう少し詳しくデータを取ろうと思ったのだよ。今後はベクターブレスも基本装備になりそうだからな」

「ですがデータ取り程度なら、別に白上討伐でなくともS.B.C.T.を相手にするだけで十分な筈です!」

「おいおいチミン。捨てられるかもしれないからって焦るなよ」

 

 必死に抗議するチミンに、シトシンの煽りが炸裂する。気にしていた事を小馬鹿にされる感じで指摘され、チミンの堪忍袋の緒が切れた。

 

「シトシン、ちょっと表に出なさい。流石に我慢の限界よ」

〈SPIDER〉

「お、やるか?」

〈FROG〉

 

 互いにベクターカートリッジを起動して睨み合うチミンとシトシン。一触即発の雰囲気に、アデニンとグアニンが2人を止めるべきかどうか迷っていると――――――

 

〈SAMPLE1〉

「「「「ッ!?!?」」」」

 

 雄成が懐から取り出したベクターカートリッジを取り出し、見せびらかすようにしながら起動させた。それを見て今正にファッジに変異しようとしていた2人のみならず、アデニンとグアニンの2人も驚愕し顔を青くする。

 

「何度も言っているだろうに。お前達には金と時間を掛けているんだ。下らぬ事で互いに争い合ったりするんじゃない」

「「も、申し訳ありません!?」」

 

 チミンとシトシンはベクターカートリッジを仕舞い、土下座する勢いで頭を下げた。アデニンとグアニンの2人は冷や汗を流して直立不動を貫いている。

 

 彼らの様子に満足したのか、雄成はベクターカートリッジを起動状態から待機状態に戻し懐に仕舞った。そこで4人は漸く重圧から解放されたように一息ついた。

 

「安心しろチミン。何度も言うがお前にも金と時間を掛けている。多少失敗が続いたり活躍がパッとしない程度で捨てる程私も短慮ではないよ」

「ハッ……」

「それとシトシン。あんまり他人を揶揄うものじゃない。お前たち4人は苦楽を共にした仲間じゃないか。もっと仲良くするんだ」

「善処します……」

 

 先程までの荒々しさが嘘のように静まり返る2人。

 

 それを見て雄成は、満足そうに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日、亜矢は仁が入院する病室で目を覚ました。

 本来であれば消灯時間を過ぎれば帰らされるのだが、亜矢が無理を言ってこの日は泊めさせてもらった。病院の方も本来は規則で駄目な所を、正体不明の毒で侵され回復の見込みがない仁が相手という事で、せめてもの情け的な感じで特別に許可を出したのだ。

 

 夜通し仁のかいた汗を拭い続けた亜矢だが、流石に限界が来たのか途中で眠気に負け仁が寝ているベッドに突っ伏する形で眠りに落ちていた。

 

「ん……? 朝……あっ!?」

 

 寝ぼけ眼で病室を見渡し、何故自分が病室に居るのかを思い出した亜矢は弾かれるようにベッドの上で寝ている仁を見た。

 そこでは相変わらず苦しそうに汗をかき荒く呼吸しながら眠っている仁の姿があった。

 

 起きて早々、仁の汗を拭く亜矢。だがこれでは何の解決にもならない。汗を拭ったから仁が回復する訳ではないのだ。

 

 そこで亜矢は先日の白上教授の言葉を思い出した。

 

『この毒を使用するファッジのベクターカートリッジが必要になる』

 

 現状最も現実的なのは、やはり誰かがあのファッジを倒してベクターカートリッジを回収する事だろう。

 

 しかし、誰が?

 

 仁はこんな状態だから絶対無理だし、事情を警察に話して助けてもらおうにも彼らではファッジを倒せない。

 

 どうするべきか…………そこまで考えた所で、亜矢は思い出した。

 デイナドライバーはもう一つある。

 

「ッ!…………うん。よし」

 

 亜矢は決意した。自分が仁を救うのだと。自分も仮面ライダーに変身し、ワスプファッジを倒してベクターカートリッジを回収して仁を助けるのだ。

 

 病院を後にした亜矢は、そのまま真っ直ぐ大学のラボへと向かっていった。昨日の今日で日曜日なので、大学構内には基本誰も居ない。居るとすれば研究中の院生位だろう。

 

 白上研究室もその例に漏れず、表の研究室には誰も居ない。それを見越して亜矢は裏口である自販機の入り口からラボへと入った。長い通路を抜け、扉を開けてラボへと入る。

 

「やっぱり来ちゃいましたか」

 

 扉を開けるなり、室内に居た人物から声を掛けられる。まさか入って早々に話し掛けられるとは思ってもみなかったので、亜矢はびっくりして声のした方を見る。

 するとそこには、デイナドライバーを繋いだ機械の傍の椅子に座っている峰の姿があった。

 

「み、宮野先輩?」

「双星さんって、変に頑固と言うか行動力ありそうな感じだったんでまさかと思ってましたけど、本当に来ちゃうとは思ってなかったですよ。目的はこの予備のデイナドライバーですね?」

 

 何処か試すように問い掛けられ、一瞬躊躇する亜矢だったがすぐに気を取り直して答えを口にした。

 

「はい。門守君を助ける為に、どうしてもそれが必要なんです。もしまだ持ち主が決まっていないなら、私にやらせてください!」

「…………はぁ」

 

 亜矢の言葉に峰は大きく溜め息を吐く。そして彼女は亜矢の言葉に答える事無く椅子から立ち上がると――――――

 

 白衣の袖から警棒を取り出して先端を亜矢に向けた。

 

「――――え?」

「特に教授に言われた訳ではありませんけどね。欲しければ力尽くで手に入れてください。私も全力でそれを阻止しますので」

「な、何で!?」

「当たり前でしょう? 半端な人に渡しても、門守君の二の舞にしかなりません。私程度も乗り越えられないようじゃ、仮面ライダーになったとしても無駄にしかなりませんよ?」

 

 言いながら峰はじりじりと亜矢に近付いてきた。向けられる気迫は本物だ。冷や汗が出てくる。

 

 だがここで引く訳にはいかない。何が何でも仮面ライダーになって、ワスプファッジを倒さなければ。

 

 誰もやらないのならば、自分がそれをやってみせる。

 

「分かりました……行きますッ!」

 

 亜矢は覚悟を決めると、よく見ている仁の動きを真似て拳を握り峰に殴り掛かる。見様見真似の攻撃だったが、思っていたほどヘロヘロではない。少なくともハッタリが利く程度には動けていた。

 

「遅……」

 

 しかし亜矢の渾身の攻撃は、峰にあっさりと破られた。警棒を持っていない方の手であっさり掴まれると、振り回された挙句デイナドライバーからは離れた何も無い所に向けて放り投げられる。

 

「あうっ?!」

「駄目ですね。駄目駄目です。動きが完全にド素人の付け焼刃丸出しです。こんなんじゃ変身しても高が知れてるってもんです」

「くっ!?」

 

 言いたい放題にされ、流石の亜矢もカチンときたのか直ぐに立ち上がると再び峰に接近した。

 

 峰に亜矢の手が伸びる。それを峰は警棒で叩き落し、更にそこから怒涛の連続攻撃が亜矢に襲い掛かった。

 

「シッ!」

「う゛っ!?」

 

 警棒の柄頭で近くに寄ってきた亜矢の右のこめかみを打ち据え、彼女がたたらを踏んだと同時に警棒を振るった。胸元、下腹部、脇腹に素早く連続で警棒だ叩き込まれ、走る激痛に亜矢が動きを止めた。

 

「あ!? ぐっ、うっ!?」

「そこで動き止めない」

 

 そこに追い打ちで反対の脇腹にも警棒が振るわれ、駄目押しに蹴り飛ばされる。タイトスカートから伸びる峰の脚が、亜矢を押し出すように蹴り飛ばし彼女の体がデスクに叩き付けられた。

 

「あぁ、…!ぐ!…!……げ…!ほっ!……!? げほ…っ!っ…!!?… …う…っぐう…っ!?!…」

 

 立て続けに警棒を叩き込まれた挙句腹を蹴り飛ばされ、亜矢は喉にせり上がってくる不快感を抑え込むのに必死だった。

 蹲り口を押えて堪える亜矢を、峰が警棒で肩を叩きながら冷たく見下ろす。

 

「分かりましたか、双星さん? これがあなたの実力です。私程度も乗り越えられないあなたでは、ファッジを倒すなど夢のまた夢。門守君には可哀想ですが、教授が――――――」

 

 峰が亜矢に語り掛けるが、彼女の耳には入っていなかった。

 

 警棒で何度も打ち据えられ、蹴り飛ばされる痛みなど人生初だ。その痛みは想像を絶し、先程の決意が鈍りそうになる。

 

(痛い……あ~、痛いなぁ。凄く痛い……けど!)

 

 だがそれも仁の苦しむ姿を思い浮かべれば、すぐに気合が戻った。今も仁は地獄の苦痛を味わっている筈だ。こんなところでもたついている場合ではない。

 

「負け、ない。私は、絶対に……門守君を、助けるんだ――――!」

 

 吐き気を飲み込み、立ち上がって呼吸を整える。警棒で殴られた箇所がまだ痛むが、動くことは出来た。

 

 そして立ち上がった亜矢は、何を思ったかロングスカートの裾に手を掛けた。

 仁が似合うと言って、感謝の印と言ってプレゼントしてくれた白いロングスカート。

 

「(ごめんなさい!)……あぁぁぁぁぁっ!?」

 

 一呼吸おいて覚悟を決めると、亜矢はロングスカートを自分で引き裂き縦に大きくスリットを入れた。それによって今まで隠されていた亜矢の生の脚が露わとなった。

 

「はぁ、はぁ……、すぅ……はぁ……」

「…………ん?」

 

 何度か大きく息をして呼吸を整え、亜矢は再び構えを取る。

 だがそれは、先程までの仁の猿真似が如き空手の構えではなかった。

 

 握った両拳を顔と同じくらいの高さに掲げ、両脇は締め、右足を引いた明らかに空手とは異なる構え。

 

 峰はその構えに見覚えがあった。

 

(キックボクシング?)

 

 軽くステップを踏むその姿は間違いなくキックボクシングのそれだ。構えには見様見真似からくる素人臭さが感じられず、実に堂に入った構えとなっていた。

 

 峰の頭に幾つもの疑問が浮かんだ。この構えは明らかに先程の空手と違って彼女の体に馴染んでいる。なのに何故先程はこれを使わなかったのか?

 そもそも、亜矢に武術の心得があるなど聞いた事が無かった。学園のマドンナとして有名な彼女だ。ジムでキックボクシングを習っているとなれば、直ぐにそれは多くの学生に知れ渡る筈。

 

 疑問を抱きつつ、峰は先程よりも少しだけ本気の構えを取って亜矢と対峙した。今の亜矢は先程とは全く違う。油断してかかると痛い目に遭うと本能が訴えていたのだ。

 

 そしてその訴えは正しかった。

 

「フッ!」

「ッ!?」

 

 合図も無しに始まった第二ラウンド。先手を取ったのは亜矢だがその動きを峰は一瞬見逃した。対峙した時は2m位離れていた筈なのに、瞬きした次の瞬間にはもう目の前に亜矢が居た。

 

 視界の端でスリットから覗く亜矢の右足が動くのが見える。それを目にした峰は、直感で顔面と右側頭部を全力で防御した。

 

「ハッ!」

「ぐっ!?」

 

 鋭いハイキックが峰の防御とぶつかる。腰を入れて防いでいる筈なのに、踏ん張りが僅かに利かず後退りを余儀なくされた。

 

 亜矢の攻撃はそれだけでは終わらない。ハイキックが防がれたと見るや、追撃で回し蹴りをお見舞いした。

 峰はそれをしゃがむことで回避し、お返しに足払いを掛けようとする。だが亜矢は、普段の様子からは信じられない程の身軽さを以ってその足払いを跳躍で回避し、空中で一回転してからの踵落としを叩き込んできた。割いた事で動きの自由度の上がったスカートが、羽の様に広がり靡く。

 そこから伸びる脚が、峰の目にはギロチンの様に見えた。

 

 辛うじて転がる事で回避した峰は、改めて亜矢の姿を見た。割いたスカートの隙間から生足を覗かせながら構えるその姿は、間違いなく亜矢の姿をしているが佇まいはまるで別人だ。

 一瞬誰を相手にしているのか分からなくなる。

 

 互いに仕切り直しとばかりに攻撃を止める2人。睨み合いタイミングを見計らった、2人が動いたのはほぼ同時だった。

 

「セイッ!」

「ハァッ!」

 

 亜矢と峰の放った蹴りがぶつかり合う。

 

 亜矢はそこから連続で回し蹴りを放ち、峰はそれを紙一重で回避。僅かな隙を見て反撃に警棒を振るうと、亜矢は峰の腕を押さえる事で防御した。

 

 刹那に睨み合う2人だが、直ぐに距離を離し峰の攻撃が亜矢に放たれる。

 

 縦横無尽に振るわれる峰の警棒。亜矢はそれを軽快なステップで躱し、体を逸らして胸元ギリギリを掠める様に避け、回避が間に合わない場合は腕で防御する。

 その防御の直後、峰はローリングソバットで亜矢を蹴り飛ばした。最初に亜矢を叩き伏せたあの蹴りだ。

 

 さっきは大ダメージとなって亜矢を一時行動不能にした技。しかし今度はそうはならなかった。

 

「クッ!」

 

 亜矢は蹴り飛ばされた力を逆に利用して、自分から後方に大きく飛んだ。それこそ壁にまで届くほどに。

 その途中で体を捻り壁に両足を着くと、重力が作用して体が床に落ちるよりも前に両足で壁を蹴り、峰に飛び蹴りを食らわせた。

 

「嘘っ!?」

「はぁぁぁっ!!」

「ぐぅッ?!」

 

 まさかの亜矢の動きに一瞬思考が停止した峰に、亜矢の前転を交えた飛び蹴りが炸裂する。何とか防御はする峰だったがその威力は生身であると言うにもかかわらず凄まじく、後ろにあった機械に叩き付けられるほどであった。

 

「がっは?!」

 

 機械に叩き付けられ肺から空気が飛び出し、峰の意識が一瞬飛ぶ。衝撃で眼鏡が床に落ち、彼女自身も足に力が入らなくなり立てなくなる。

 

 立てない峰に向け、亜矢が驚異的な跳躍力で一気に接近し峰の体を跨ぐように着地した。

 その際、落ちた峰の眼鏡が踏み潰された。

 

「ふっ!」

 

 着地と同時に亜矢の手刀が峰の首筋に添えられる。寸止めだ。もしこれが実戦なら、手刀は容赦無く峰の首を捉え意識を刈り取っていただろう。

 

「はぁ……はぁ……」

「ふぅ……ふぅ……」

 

 その状態で峰と暫し見つめ合う亜矢。気付けば互いに汗だくになり、亜矢の額から流れた汗が首筋を通って胸元へ消えていく。むき出しになった右足にも汗が浮かんでいる。

 彼女の脳裏は、峰に勝利出来た嬉しさ以上にここまで戦えた事への驚愕の方が大きかった。何故自分がここまで戦えたのか、彼女自身理解できていなかった。

 

「……はぁ、負けちゃいましたねぇ」

「あ……」

 

 亜矢が自分の為した事に内心で驚いていると、峰の纏っていた戦いの雰囲気が霧散した。彼女に戦う意思が無いのを見て、亜矢も手刀を下げ彼女の上から退く。

 立ち上がろうとする峰に、亜矢が手を貸す。

 

「すみません。大丈夫ですか?」

「ん? あぁ大丈夫ですよ。大して怪我もありませんし」

「でも、眼鏡が……」

「いえいえ、心配ご無用」

 

 立ち上がりながら峰は、懐から眼鏡ケースを取り出し新しい眼鏡を掛けた。

 視界がクリアになり、峰は改めてドライバーを繋いでいる機械に近付きドライバーを外せるようにした。

 

「しかし、意外でしたよ。双星さんがここまで戦えたなんて」

「正直私もです。自分でも信じられません」

「キックボクシングを習ってたんですか?」

「いえ、私は武道は何も……」

 

 話しながら峰はデイナドライバーを機械から取り出し、亜矢に差し出した。

 

「さ、これは今から双星さんの物です」

 

 デイナドライバーを受け取り、亜矢は言葉で言い表せない感覚を覚えた。喜び、とはまた違う。恐怖とか、そう言う負の感情でもない。

 

 だが少なくとも気合は入った。これで、何とかしてワスプファッジを倒しベクターカートリッジを回収するのだ。

 

 そう決意を新たにした時、亜矢は自分で使う文のベクターカートリッジが無い事に気付いた。仁が使っていた奴は彼の病室だ。

 今ここに使える奴があるだろうか?

 

「あの、先輩。調整の終わっているベクターカートリッジはありませんか? と言うかずっと気になっていたんですけど、白上教授はどちらに?」

「教授だったら、門守君の治療法を探して知り合いの生化学者や薬学者を片っ端から当たってますよ。多分もうすぐ一度帰ってくる頃だと――――」

 

 その時、突如として机の上に置かれていた峰のタブレットがアラームを鳴らした。急いで2人がタブレットに近付き峰が操作するのを亜矢が横から見ていると、峰の顔色が青くなる。

 

「嘘、マジで!?」

「先輩、どうしたんですか!?」

 

 明らかに悪いニュースが舞い込んできた事に、亜矢が何事かと訊ねると峰は顔を青くして答えた。

 

「昨日のスズメバチのファッジが出ました。場所は大学の直ぐ近く…………ここに来る途中の教授が襲われました」

 

 峰の言葉に亜矢は目を見開き、次の瞬間にはラボを飛び出そうとしていた。だがそれを峰が引き留める。

 

「待ってください!?」

「でも先輩! 急がないと教授がッ!?」

「ベクターカートリッジも無いのに行ってどうするんですか!?」

 

 言われて亜矢は言葉に詰まり動きも止まってしまう。峰の言う通り、ベクターカートリッジの無い状態では変身できても弾除けにしかならない。

 

 しかしこのままでは教授の命が危なかった。どうすれば――――――

 

《にゃ~ん》

 

 悩む2人の足元に、峰の自信作であるアダプトキャットが寄ってきた。

 このアダプトキャット、完成したは良いのだが峰が猫らしさの再現に力を入れ過ぎたのか、本当に猫の様に気まぐれで今まで何の役にも立っていなかった。なので2人は、今の今まで存在を忘れていた。

 

 だが今は違った。このアダプトキャットの能力は、現状においてとても重宝する。

 

「アダプトキャット……そうだ! これがあればカートリッジ一個でも変身できる!」

「ッ!? 使えるカートリッジはどれですか!?」

「ちょっと待って! 確か最近調整終わったばかりの奴で、えっと……」

 

 峰が部屋中の机をひっくり返す勢いでベクターカートリッジを探していた。しかし目的の物はなかなか見つからなかった。

 

 それもその筈で、峰が探している物は既にアダプトキャットが持ってきていたのだ。アダプトキャットは机の上に飛び乗ると、口に咥えていた物を机の上に置いた。

 

「あ、これって……」

 

 アダプトキャットが持ってきたのは、一つのベクターカートリッジ――キャットベクターカートリッジだった。それこそ正に峰が探しているベクターカートリッジ。元々アダプトキャットとセットで使う事を前提に調整を進めていた物であった。

 それを自分の足元に置き、一鳴きするアダプトキャット。その様子は正に、亜矢に使えと言っている様なものであった。

 

 何となくだがそれを察し、亜矢はアダプトキャットに手を伸ばした。

 

「お願い……力を貸して!」

 

 亜矢が手を伸ばすと、アダプトキャットはそれに応えるように彼女の手から乗り肩に移動する。頬擦りしてくるアダプトキャットに、可愛らしさを感じつつ亜矢はキャットベクターカートリッジを掴むとラボの中に停めてあるトランスポゾンに跨った。

 

「先輩! 私行ってきます!」

「えぇっ!? ベクターカートリッジ……あ、あったの!? うん、気を付けて!」

 

 峰に慌ただしく見送られながら、亜矢は飛行モードにしたトランスポゾンで飛び立っていった。

 

 上部ハッチから飛び立ち、大学のすぐ近くで地上モードに移行し現場へと向かっていく。亜矢には少々扱い辛いが、それでも運転できない程ではない。

 

 場所が近い事もあって、現場にはすぐに到着した。そこでは既にワスプファッジの襲撃により白上教授の愛車が炎上していて、肝心の教授は少し離れた所で倒れている。

 幸い、教授は炎上する前に脱出していたのか軽い怪我で済んでいるようだ。

 

「教授ッ!?」

「ふ、双星君か! すまない!」

 

 亜矢がトランスポゾンから降り、白上教授を助け起こす。

 

 最悪の事態は回避できたが、状況は好転したとは言い難かった。

 

 白上教授を助け起こした亜矢の前に、ワスプファッジが降り立つ。

 

「ッ!? 貴方はッ!!」

「仮面ライダーの連れだった女か。どけ、お前に用はない」

「貴方に無くても、私にはあります!」

 

 亜矢はそう言うと、先程渡されたばかりのデイナドライバーを腰に装着した。

 

 それを見て白上教授が驚愕に目を見開く。

 

「ふ、双星君それはッ!?」

「すみません教授。説教などは後でお願いします。だけど私はもう…………」

 

 亜矢の手の上にアダプトキャットが乗る。するとアダプトキャットは、亜矢が何も言わなくても自分がすべきことを分かっているのか体を変形させてドライバーに装填できるようになった。前後両足は折りたたまれソケットに入るようになり、尻尾と頭は背中に畳まれ真上を向いた口はそのままベクターカートリッジのソケットとなる。

 

 亜矢は迷わずそのソケット部分に、ベクターカートリッジを装填した。

 

〈CAT〉

「もう私は……何も出来ないなんて嫌なんです!」

 

 カートリッジを装填したアダプトキャットを、デイナドライバーに装着する。そして亜矢は、右手をレセプタースロットルにかける。

 そして開いた左掌を前に掲げ、普段は後ろで聞いているだけだったその言葉を口にした。

 

〈CAT Adaptation〉

「変身!」

〈Open the door〉

 

 開いた左手を捻りながら握り、同時にスロットルを引く。すると仁の時同様セントラルドグマから白いスーパーコイルが飛び出し、ワスプファッジを弾き飛ばして亜矢に向かってくる。亜矢はそれを両手を広げて受け止め、その姿を変えた。

 

 黒いアンダースーツに白い装甲。装甲は亜矢に合わせてか重厚さは薄く全体的に女性らしいフォルムとなっている。仮面はネイキッドフォームのデイナをベースに、額から後頭部へ引っ張られる様に三角のアンテナが二本伸び、両太腿には一丁ずつ大型のハンドガンがマウントされていた。ハンドガンは右のハンドガンには折り畳まれたストックが、左のハンドガンにはスコープが付いている。

 

 亜矢は変身した自らの姿をまじまじと見て、そしてワスプファッジに対し構えを取った。これで自分も戦える、と。

 

「チッ、まさか本当に新たな仮面ライダーが出るとはな」

 

 対するワスプファッジは、本当に出現した新たな仮面ライダーを即行で始末すべく攻撃を開始した。

 

 翅を広げ、低空飛行で一気に接近するワスプファッジを亜矢が迎え撃つ。峰を相手にした時と同じくキックボクシングでワスプファッジに対抗してみせた。

 しかし相手は戦闘のプロ。ある程度戦いに慣れてきた仁が何とか対抗出来た相手に、今回が初陣の亜矢では少々分が悪かった。

 

 ワスプファッジの拳が亜矢の胸板に突き刺さる。

 

「ぐぅッ?! あ――――!?」

「ふん、貴様素人だな? 戦い方がなっちゃいない!」

 

 数回の攻防でワスプファッジは亜矢が戦いの素人である事を見抜き、早々に勝負をかけるべく攻勢を強めた。

 対する亜矢は、先程峰相手にやってみせたように猫の様な柔軟な動きでワスプファッジの攻撃を凌ぎ、一瞬の隙を見つけると渾身の蹴りを叩き込み僅かながら後ずらせてみせた。

 

「くっ、貴様ッ!?」

「今の内に!」

 

 亜矢はワスプファッジが隙を晒している間に、トランスポゾンからハイブリッドアームズを取り出しライフルモードにして構える。素手では分が悪いと察し、ライフルにも大剣にもなるハイブリッドアームズをチョイスしたのだ。太腿にハンドガンがある事には気付いているが、そちらはどの程度の性能か未知数だった。

 

 対するワスプファッジは、亜矢がハイブリッドアームズを取り出し構える間に空中へと飛翔していた。

 

「武器を手にした程度で勝てると自惚れたか!」

 

 ワスプファッジが放つのは、仁を戦闘不能にした4匹のスズメバチ。奴の背中から飛び立った4匹に、亜矢は息を呑み仮面の奥で表情を険しくする。

 

(あれにやられる訳にはいかない!)

 

 その威力を良く知っている亜矢は、先にあれから始末しようと狙いを定め引き金を引く。何発か撃ち、一匹は何とか始末できた。が、残りの3匹の接近を許してしまう。

 3匹のスズメバチが毒針を亜矢に突き立てるべく突撃してくる。亜矢は攻撃を中断し回避に専念するが、四方八方から迫るスズメバチ相手に反応が追い付かない。

 

「くっ!?」

「双星君、上だ!?」

「え!?」

 

 白上教授の声に、亜矢が上を見るとそこには最早目前にまで迫っているスズメバチが1匹居た。他の2匹に気を取られ過ぎたのだ。

 

「あ――――」

 

 迫るスズメバチの動きがスローモーションで見える。回避しようにもこれではどう足掻いても間に合わない。危機的状況に、亜矢の脳裏に万事休すと言う言葉が浮かんだ。

 

 だがそのスズメバチの針が亜矢を捉える事は無かった。いつの間にか、亜矢とスズメバチの針の間にハイブリッドアームズが割り込んでいたのだ。

 

「え?」

 

 そのハイブリッドアームズは、言うまでも無く亜矢が持っていた物。スズメバチの針が突き立てられる直前、彼女は手にしていた武器を盾代わりに防いだのである。

 

 スズメバチの針が突き刺さったハイブリッドアームズの機関部がバチバチと火花を放つ。直感でマズいと感じた亜矢が武器を手放すと、内部機関に誘爆したのか木っ端微塵に吹き飛んだ。勿論スズメバチの1匹も道連れであった。

 

 全く自分で考えたつもりの無い防御に、一瞬呆然となる亜矢だったが近付く羽音に直ぐに思考を戦闘に引き戻される。

 

 残りのスズメバチは2匹。亜矢はそれを見て迷わず両太腿のハンドガンを手に取ると、2丁拳銃でスズメバチを迎え撃った。スズメバチは縦横無尽に動き回って亜矢の死角から迫ろうとするが、亜矢は驚くほど正確な射撃で残り2匹のスズメバチを撃ち落としてしまった。

 

 その光景を前に、ワスプファッジは思わず歯噛みした。

 

「何たること。ならば…………これはどうだ!」

 

 亜矢に向けて右腕を向けるワスプファッジ。その動作に彼女は針を飛ばしてくるのかと警戒していたが、飛ばしてきたのは針ではなかった。

 

 放たれたのは高濃度の毒液。最初針の様に見えたが、空気抵抗によりばらけるとまるで散弾の様に亜矢に襲い掛かる。

 咄嗟に亜矢は顔を庇った。

 

「あぐっ!?」

 

 何とか顔だけは守ることが出来た亜矢だが、細かい毒液の飛沫が掛かった部位は白い煙を上げて熱を帯びる。

 

 これはマズいと亜矢が跳躍して追撃を回避しようとすると、空中では既にワスプファッジが彼女を待ち受けていた。

 

「そこッ!!」

「くぁっ?!」

 

 跳び上がった直後に地面に蹴り落され、一瞬体がバラバラになったような錯覚に陥る。

 

「うぅ……はっ!?」

 

 それでも何とか立ち上がる亜矢だったが、ふと顔を上げるとワスプファッジがもうすぐそこまで迫っていた。トドメを刺すつもりなのか、右腕には既に針を展開し今にも彼女に突き立てようとしている。

 

「貰ったぁッ!!」

 

 ワスプファッジはこの時点で己の勝利を確信していた。亜矢は地面に叩き付けられたダメージで満足に動くことが出来ない。このまま亜矢を始末し、そのまま白上教授を仕留めてみせる、と。

 

 だが次の瞬間、ワスプファッジの攻撃は空を切った。外したのだ。より正確に言えば、亜矢が紙一重でワスプファッジの攻撃を回避していた。

 

「なっ!?」

 

 半身を逸らせて攻撃を回避した亜矢に、ワスプファッジは一瞬気を取られる。

 それが彼の命取りであった。

 

〈ATP Burst〉

「ハァッ!!」

 

 回避と同時に亜矢はレセプタースロットルを引いており、右足にエネルギーを集束させていた。

 ワスプファッジが何とか攻撃して中断させようとするが全ては手遅れ。彼が次の攻撃に移ろうとした時点で、放たれた亜矢のノックアウトクラッシュがハイキックとなってワスプファッジに突き刺さった。

 

「そん、な……馬鹿な――――!?」

 

 ワスプファッジは信じられないといった声を上げながら、爆散し元の姿に戻った。その際に排出されたワスプベクターカートリッジを、亜矢は手を伸ばしてキャッチする。

 

「やった、これで「ぐぉぉぉぉぉぉっ?!」、ッ!?」

 

 目的のカートリッジを手に入れた事に喜ぶ亜矢だったが、直後に敏則の悲鳴が耳に入り驚いてそちらを見た。するとそこでは、敏則が証拠隠滅処理として体の中に仕込まれた発火装置で燃やされていた。

 

「う――――!?」

 

 生きながら焼かれる人間の姿に、亜矢の口の中に嫌な苦味が広がる。直接ではなくとも、自分がこの結果を招いたことに罪悪感と嫌悪感が沸き上がる。

 

 その彼女の肩に、白上教授が手を掛ける。

 

「気にする事は無い。全ては自業自得だ」

「教授……でも……」

「仕方がなかった事だ。こうしなければ門守君の命が危なかったんだ。忘れろとは言わんが、気にし過ぎない方が良い」

「…………はい」

 

 こうして後味の悪さを感じながらも、亜矢はワスプベクターカートリッジを手に入れ白上教授の手により仁の命を脅かす毒に対する解毒剤が作製された。

 

 作られた解毒剤は即座に入院中の仁に、教授の手で投与された。解毒剤を投与された仁の手を、亜矢が心配そうに握り締める。

 

「ん……んん……」

「ッ!? 門守君!!」

 

 仁は程なくして目を覚ました。ぼんやりと周囲を見渡す彼を、亜矢が安堵と歓喜で迎える。

 

「双星さん? あ……そうか、俺アイツに……。あ、あいつどうなった?」

「あのファッジなら双星君が倒したよ。初陣で大したものだ」

「双星さんが?」

 

 白上教授の言葉に仁が亜矢の腰を見ると、そこには未だ装着されたままのデイナドライバーがあった。それを見て全てを察した彼は、彼女もまた戦いに身を置く選択をしてしまった事に申し訳なさを感じた。

 

「なんか、ゴメン。双星さんにまで戦わせるようなことになっちゃって」

「気にしないでください。多分、遅かれ早かれだったと思います」

「遅かれ早かれ?」

 

「あ~……ゴホン。私は医者の先生に回復した事を話してくるよ。理由は適当に話しておくから安心しなさい」

 

 何やら空気を読んで退室する白上教授を他所に、亜矢は仁に話した。

 

「門守君が誰かの為に戦うなら、私は門守君を守る為に戦います。一人ぼっちで戦わせるなんて、絶対にしません」

「双星さんが思ってるよりずっと大変だけど、いいの?」

「はい!」

 

 屈託のない笑みを浮かべて答える亜矢に、仁は彼女の本気度を察しこれ以上は何を言っても無駄であると悟った。

 と同時に、心が軽くなったような気になり自然と口元に笑みが浮かんだ。頼もしいとかそう言うのではなく、彼女が本当の意味で常に傍に立っていてくれると言う状況に心が安心を感じているのである。

 

「……ありがとう、双星さん」

 

 仁から笑みと共に紡がれた感謝の言葉に、亜矢は顔に血が集まるのを感じた。

 

「そ、それと……」

「ん?」

 

 ここで亜矢にちょっとした欲が生まれた。これからはただの友ではなく、共に戦う仲間となるのだ。

 

 ならば――――――

 

「これからは、一緒に戦う仲間になる訳ですし……私達、もうちょっと距離が近くても良いと思うんです」

「って言うと?」

「な、名前……これからは名前で呼び合いませんか? 何時までも苗字で呼び合うなんて他人行儀じゃなくて」

 

 言われて仁は目をパチクリとさせた。だが直ぐに小さく笑みを浮かべると、お言葉に甘えて彼女を新しい呼び方で呼んだ。

 

「えっと、じゃあ……亜矢さん。これで良い?」

「はい! 仁君!」

 

 仁に名前の方で呼ばれ、亜矢は心が温かくなるのを感じた。昨日ショッピングモールで感じたのと同じ、いやそれ以上の温かさ。

 

 それはいやが追うにも亜矢に、仁に対するある感情を認識させるのに十分だった。

 

(やっぱり私……仁君の事……)

「どうかした、亜矢さん?」

「い、いえ!? 何でもありません!?」

 

 仁への感情……恋心を亜矢は自覚し、亜矢は暫く顔を赤くしそれが逆に仁を心配させる要因となってしまっていた。

 

 そんな初々しい2人の若人の様子を、扉の外で白上教授が微笑ましく見守り、そして静かにその場から立ち去っていく。

 教授の頭の中では、どう話を長引かせて医者を2人の下へ向かうのを遅らせようとするかの算段が立てられるのだった。




と言う訳で第10話でした。

今回の亜矢VS峰の戦いは、かなり坂本監督の演出を意識してみました。出来ればもっと艶やかな表現がしたかったのですが、自分ではこれが限界。

それと今回亜矢が新たな仮面ライダーに変身しました。このライダーの名前については次回までのお楽しみという事で。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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