仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

普通に更新するのを忘れて何時もに比べて一日遅れの更新となってしまいました。申し訳ありません。


第11話:避けられぬ敵

 街中で、亜矢の変身する仮面ライダーと仁の変身するデイナ・バッファローヒューマンフォームが対峙していた。

 

 デイナはハルバードモードのハイブリッドアームズを、亜矢は両太腿にマウントされているハンドガン――リプレッサーショットを構えている。

 

 2人は互いに暫し見合っていたが――――――

 

「「ッ!!」」

 

 示し合わせたかのように互いに攻撃を開始した。

 

 デイナが斧槍を手に接近するのを、亜矢が二丁拳銃で迎え撃つ。素早い銃撃がデイナを襲い、それを彼は手にした斧槍を振るって銃弾を叩き落しつつ接近する。

 

「くっ!」

 

 接近された事で、これ以上の足止めは無理と考え亜矢は銃撃を止め接近戦に切り替えた。デイナの武器が長物であるなら、接近してしまえば逆に自分の方が有利になると考えたのだ。

 横薙ぎに振るわれた斧槍を飛んで回避し、至近距離に接近して蹴りを放つ。デイナはそれを斧槍の柄で防ぎつつ、柄頭なども使って対抗した。

 

「よ、ほっと」

「やっ! はっ!」

 

 デイナが斧槍を振り回し、亜矢が蹴りと拳銃のグリップ、そして至近距離からの射撃で攻防を行う。

 

 両者のスペックを単純に比べると、デイナがパワーに優れ亜矢はスピードに優れていた。

 故に、接近戦ではデイナの方が若干有利と言えた。加えて戦闘経験でもデイナの方が勝っている為、状況はデイナの方が若干押しているように見えた。

 

 亜矢が至近距離からの銃撃でデイナにダメージを与えようとするが、デイナは斧槍の柄を利用して亜矢の二丁の拳銃を弾き銃口を逸らした。

 この距離で長物を使っているにも拘らず、デイナは亜矢を相手に優位に立ち回っている。ここら辺は彼の戦闘経験が物を言っているのだろう。つい最近初陣を果たしたばかりの亜矢では、相手が悪いとしか言いようがなかった。

 

 しかしそれでも亜矢はしつこく食らい付いた。ワスプファッジとの戦い以降、空いた時間を見つけては練習してきたキックボクシングを駆使してデイナに対抗してみせる。

 

 激しい連続キックに、デイナは思わず距離を取る。それを好機と見て、亜矢は両手の拳銃で銃撃した。

 二丁の拳銃から放たれる銃撃に、流石のデイナも攻めあぐねる。

 

「だったら……」

〈HAWK + LEON Evolution〉

「ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 地上での銃撃戦では亜矢の方に分があると見て、デイナはホークレオンフォームになり空中へ逃れた。逃がすものかと亜矢が狙うが、上空のデイナには射程が足りず銃弾が届かない。

 

 亜矢の銃撃が届かないのを見て、デイナはハイブリッドアームズをライフルモードに変形させて上空から撃ち返した。

 

「わっ!? とっ?!」

 

 ギリギリで銃撃を回避する亜矢。彼女はデイナからの銃撃を回避しながら、二丁の拳銃を合体させてライフルにした。リプレッサーショットは右の拳銃に左の拳銃を合体させることで、遠距離に対応したライフルになるのだ。

 右の拳銃の銃口に左の拳銃を変形合体させ、右の拳銃にのみ存在する折りたたまれたストックを伸ばし、左の拳銃にのみ存在するスコープを付け替えて上空のデイナを狙う。

 

 対空対地で行われる銃撃戦。しかしそれも長くは続かず、デイナが亜矢に銃撃しながらレセプタースロットルを引いたことで状況が動いた。

 

〈ATP Burst〉

「ハァッ!」

 

 ハイブリッドアームズを捨てて放ったノックアウトクラッシュ。上空から亜矢を食らうかの如く放たれた挟み蹴りを、亜矢は地上から迎え撃つ。

 

〈Genome set ATP Burst〉

 

 右手側の銃のグリップ下に当たる部分にベクターカートリッジを装填し、強化した弾丸を放つ『バーストブレイク』を亜矢が使用した。

 

 デイナの挟み蹴りと亜矢の強化弾がぶつかり合い、上空で爆発が起こる。発生した炎と光に亜矢が思わず目を塞いだ。

 

「うっ!?」

 

 亜矢が眩い光に目を眩ませている間に、デイナはノックアウトクラッシュの勢いを利用し急降下すると亜矢の背後を取る。

 そこでデイナはハイブリッドアームズを大剣モードにし彼女の首筋に添えて降参を促そうとし――――――

 

〈ATP Burst〉

「ッ!?」

 

 彼がそうするのを分かっていたかのように亜矢が背後に向けてノックアウトクラッシュを放つ。

 

 それを察したデイナは、武器を捨てると回避しようと逃げる…………のではなく、逆に彼女に抱き着いた。必殺の威力を持つ蹴りも、抱き着いてしまえばダメージなど殆どない。

 

「は、えっ!?」

 

 予想外の彼の行動に亜矢が呆気に取られていると、一本背負いを極められ背中から地面に叩き付けられる。

 

「あぐっ?!」

 

 背中を強かに叩き付けられ、一瞬呼吸困難になる亜矢。その隙にデイナは、投げられた瞬間放り出された亜矢のライフルをキャッチして彼女に付き付ける。

 

「げほっ!? げほっ!?…………あ――」

 

 呼吸が落ち着いてきたと同時に、目の前に銃口を突き付けられている事に気付いた亜矢は自身の敗北を悟り全身を脱力させ大人しく両手を上げた。

 

「はぁ……参りました。降参です」

 

 亜矢が観念してそう言うと、デイナは銃口を彼女から外すと米神の部分を弄った。するとその瞬間、彼の視界が砂の様に崩れ視界が真っ暗になる。

 だが仁は特に焦る事無く、“視界を覆う物”を上にズラすと彼の目に見える景色が変化した。

 

 そこに映っていたのは馴染みの秘密のラボの光景。仁は亜矢と隣り合わせでリクライニングシートに深く腰掛けており、その手には今まで顔にかけていた分厚いゴーグルの様な物が握られていた。隣に座る亜矢の顔にも今は同じものが掛けられている。

 

 これは峰が開発したVRで戦闘訓練が行える特殊ツールである。これを掛ければ、実戦さながらの戦闘訓練を一歩も動かず行う事が出来るのだ。

 亜矢はまだ仮面ライダーになって日が浅い。彼女がこれからのファッジとの戦いを生き抜く為には、戦闘訓練は必要不可欠。しかもこれを使えば、新しい装備やベクターカートリッジの能力の確認まで出来るのだ。これを活用しない手はない。

 

 仁は専用のVRゴーグルを外し、額の汗を拭った。現実で体は一切動かしていないが、それでも汗は出る。隣では亜矢もゴーグルを外して額を拭っている。

 

「お疲れ様、亜矢さん。大丈夫だった?」

「はい。付き合ってもらってありがとうございます」

「いいよいいよ。それにしても最後のあれは驚いたよ。良く反応で来たね?」

「実は私も驚いてるんです。気が付いたら体が動いてて」

「ふ~ん……」

 

 不思議な話である。聞けばワスプファッジとの戦いでも、決め手は意識せず行った回避からのカウンターでのノックアウトクラッシュという話だ。

 つい最近まで戦いとは無縁で、武道も習っていなかった亜矢が無意識でああまで動けるとは。実は本人も自覚していなかっただけで、彼女には戦いの才能があったのだろうか?

 

 仮にそうだとして、彼女はそれを喜ばないだろうなと仁は思いつつ椅子から立ち上がり体を伸ばした。その隣で亜矢も椅子から立ち、両手を組んで前から上に上げながら体を弓なりに伸ばす。

 そうすると服に隠れて普段は分かり辛い、彼女の豊満な胸が嫌でも強調された。服が内側から押し上げられ、その大きさを主張しだす。

 

 仁はそれに気付くも、特に気にした様子も無くゴーグルを椅子の上に放るように置き、近くに置かれているペットボトルを開け中の水を飲んだ。

 

「ん……ふぅ。それはそれとして亜矢さん、『ルーナ』にも慣れてきた?」

「えぇ。最初は二丁拳銃とか少し慣れませんでしたけど、今ではすっかり」

 

 ルーナと言うのは、亜矢が変身する仮面ライダーの名前である。使用するツールは仁と同じくデイナドライバーであるが、同じ名前ではややこしいという事で仁が名付けたのだ。デイナがDNAから取っているので、DNAと対になる『RNA』からルーナと名付けた。

 

 ルーナの最大の特徴は、ベクターカートリッジ一本で変身できる点の他はデフォルトで専用の武装を持っている事だろう。

 両太腿にマウントされているリプレッサーショット。右の銃には根元から銃の右側面に折り畳まれたストックが、左の銃には大型のスコープが搭載されている。

 この二つの銃を合体させることで、長射程にも対応したライフルにする事も出来、当然ながらベクターカートリッジを装填する事でATPバーストを発動し、銃弾を強化する事が出来るのだ。

 

 閑話休題。

 

 仁と亜矢が訓練後の反省会的な話し合いをしていると、白上教授がやってきた。

 

「順調かね、2人とも?」

「はい」

「えぇ。私も大分慣れてきました」

 

 教授からの問い掛けを、亜矢は仮面ライダーとしての力への慣熟の類だと思っていた。事実それは間違っていない。確かに今後の事を考え、仮面ライダーの力に慣れる事は大切だ。

 

 しかし、この時亜矢は大事な事を忘れていた。

 そう、今の彼女達の本業に関する事である。

 

「うむ、それも確かに大事だが卒論のテーマのまとめの事も忘れてはいないだろうね? そろそろテーマを決めてそれを纏めてもらう予定なのだが?」

「もう出来てます」

「…………」

 

 なんて事は無いように答える仁に対し、亜矢は顔を強張らせて先程とは別の汗を流した。彼女は卒論のテーマの事をすっかり忘れていたのだ。

 ぶっちゃけ、まだ何にも決まっていない。

 

「前々から言っていたようにとりあえず明日、軽い中間報告的なのをやってもらうよ。それまでに纏めておくようにね」

 

 それだけ言うと教授はその場を立ち去った。後に残された仁と亜矢。

 

 仁は特に気にした様子を見せない。だって彼はとっくの昔に卒論のテーマを決めてしまっているし、なんならもう研究を始められるくらいにまで纏め終わっている。

 

 問題は亜矢だ。彼女は最近色々とあったせいで、卒論のテーマもロクに決まっていない。これは色々とまずかった。

 

「ど、どうしよう……」

 

 先日までとは別の意味で頭を抱えてしまった。一応ある程度何をテーマにするかの候補は幾つか挙がっているが、それらを纏めて何をテーマとするかは全く決まっていない。

 

 困窮する亜矢を見かねて、仁が助け舟を出した。

 

「手伝うよ」

「え?」

「テーマの纏め。全く何にも決まってない訳じゃないんでしょ?」

「は、はい。一応……」

「んじゃ、この後やっちゃおう。時間足りないようだったら、あれだ。家においでよ。科学誌だったら沢山あるから」

 

 実際仁の部屋の本棚は科学誌や図書室には置いていない専門書で埋め尽くされていた。なので、実は資料に関しては事欠かない。

 

 自分の不始末を仁に尻拭いさせるのは気が引けた亜矢だがさりとて背に腹は代えられない。ここは彼の厚意に甘える事を選択し、とにかく明日の中間報告を乗り切る事を念頭に置くことにした。

 

「すみません。よろしくお願いします」

「ん、任された」

 

 こうして亜矢は仁と共に卒論テーマの纏めに取り掛かった。2人で図書室に赴き、現時点で亜矢が考えているテーマに関係する資料を読み漁り、何を研究するかを纏めていく。

 

 が、案の定時間が足りなかった。

 

 なのでここからは、仁の家で作業を行う事となる。

 

 正直亜矢は別の意味で緊張していた。現状と時間を考えると、今夜は彼の家に泊りとなる可能性が非常に高い。

 仁に対する恋心を自覚した今、果たして彼の家で平常を保てるだろうか?

 

「ちょっと散らかってるかもだけど、そこは勘弁してね…………亜矢さん?」

「は、はい!?」

「どうかした?」

「い、いえ! 大丈夫です!」

 

 亜矢は努めて平常を装い、彼の運転するバイクで彼の家へと到着した。

 

 目の前に聳えるのは、年季の入ったアパート。見た目は古いが、これでも明星大学が学生の住居用にと契約している物件なので見た目以上には快適に過ごせる。

 因みに亜矢が住んでいるマンションも同様に大学が契約を結んでいた。なのでどちらも家賃は普通に入居するのに比べて格段に安い。

 

「ただいま~っと」

「お、お邪魔します」

 

 亜矢はおずおずと言った様子で仁の借りている部屋に入った。

 実を言うと、彼女が仁の家を訪れるのはこれが初めてではない。彼の私生活や健康管理に不安を覚えた彼女は、何度か彼の家に上がり込んだことがあったのだ。なので、実は案外勝手知ったる所も多い。

 

 その筈なのだが、今は異様に緊張していた。

 どこか変な所はないだろうか? 等と服装を弄ってみたりととにかく落ち着かない。

 

 そんな彼女の様子に気付かず、仁は部屋に入ると荷物を適当において台所に向かって行った。

 

「ちょっと待ってて。夕飯何かあるか見るから」

 

 日も沈み良い時間だ。夕飯にはちょうどいい。

 亜矢は促されるままにリビングに腰掛け、まじまじと室内を観察した。彼女が今まで仁の家を訪れるのは、不摂生な生活を送る彼の為に食事を作ったりする為。なのであまり室内をじっくり見る事を今までしてこなかった。

 

 が、今は彼女は一応客として招かれた。あくせくする必要がない今、彼女には仁の家の室内を見て回る余裕があったのだ。

 

 まず目に入るのは、やはり本棚をぎっしり埋め尽くしている科学誌や専門書だろう。よくもまぁこれだけ集めたものだと感心する。

 そしてある意味目に入るのは、他に何もない殺風景さであった。パソコンなんかもあるにはあるが、必要最低限の家具以外は趣味に繋がりそうなものなどが一切見当たらない。

 この場合趣味がないのではなく、科学誌や専門書が彼の趣味に繋がるのであろう。

 

(本当に好きなんだなぁ……)

 

 仁は本当に知る事・学ぶ事・探求する事が好きなのだと実感した。欲望の全てがその事に集約されていると言っていい。

 

 それ自体は構わないのだが、亜矢として気になるのはそれ以外にどれだけ興味のリソースを割いてくれるのかという事。

 ストレートに言って、仁は自分の事を何処まで好いてくれるのか?

 亜矢はそれがどうしても気になってしまう。

 

 もしここで告白した場合、彼はそれを受け入れてくれるのかどうか…………。

 

「お待たせ」

 

 亜矢が1人悶々としていると、仁が手にチャーハンの乗った皿を持って戻ってきた。

 

「ごめんね、こんなもので」

「いえいえ、十分ですよ。いただきます」

 

 亜矢は出されたチャーハンを前に、両手を合わせていただきますをするとスプーンで掬って口に運んだ。熱々のチャーハンは程よい味付けが為され、彼女の舌を満足させた。

 

「あふ、ん……うん。美味しいです!」

「そう? 良かった。誰かに料理出すなんて初めてだから、ちょっと不安だったけど」

「仁君、普段は料理なんてしませんものね」

「全然しない訳じゃないよ?」

「適当に食材鍋に放り込んで煮込むだけの物を料理とは普通言いません」

 

 適度に会話を挟みながら、和やかに食事が進む。2人とも普段は1人で食事を済ませる事が多いので、亜矢は勿論仁も何処か楽しげだ。

 

 食事を済ませ、軽い食休みを挟んだら目的の亜矢の卒論テーマのまとめの時間だ。

 部屋にあるパソコンをネットに繋ぎ、海外の論文や仁の部屋にある科学誌・専門書を参考に、亜矢のやりたい・興味のあるテーマを絞り纏めていく。

 

 飽く迄も亜矢の卒論のテーマである為、仁に出来るのは資料を調べたりアドバイスをする程度だったが、それでも亜矢にはありがたく思いの外どんどん進んだ。

 

 そして時計の針が長針短針揃って天辺を差すかどうかと言う時、亜矢の卒論のテーマは纏まり明日の中間報告で発表出来るまでになった。

 大学で教授に中間発表の事を聞かされた時は死刑判決をされたに等しい衝撃を受けたものだったが、何とかなってくれた事に心の底から安堵した。

 

「はぁ~、終わった~……」

「お疲れ様」

「ありがとうございます。仁君のお陰で何とかなりました」

「別に大丈夫だよ。それよりこれからどうする? もう大分遅いけど、帰るんなら送るよ?」

「い、いえ!? そんな悪いですよ。ここからならそんなに遠くもありませんし、1人で帰れます」

「駄目。危ないよ。変な奴に絡まれたらどうするの」

「でも……」

 

 仁は頑なに亜矢が1人で帰る事に首を縦に振らなかった。先日の貞助の一件もあって、亜矢が不埒な輩に襲われないとは限らないと警戒しているのだ。

 彼の心配を嬉しく思う反面、しかし今から彼にバイクで送ってもらうのは心苦しい。

 

 互いに送るか1人で帰るかで一歩も譲らない2人だったが、業を煮やした仁が遂にこの提案を口にした。

 

「んじゃぁ、今夜はウチに泊っていきなよ。どうせ明日も一緒に大学行くんだし」

「えっ!? いや、でも、ご迷惑じゃ……?」

「別に平気だよ。と言っても寝間着とかは俺の予備になっちゃうから、そこは我慢してもらいたいけど」

「我慢だなんてそんな…………えと、それじゃ……そもそも私の不手際が原因なんですし、文句なんてありませんよ」

「ん、そう? じゃあ取り合えず先にシャワー浴びてきちゃいなよ。その間に俺寝間着とか用意しとくから」

 

 亜矢はお言葉に甘え、先にシャワーを使わせてもらうった。

 

 脱衣所で衣服を脱ぎ、畳んで床の上に置く。暫くすれば仁が寝間着を持ってきてくれるだろうことを考えると、下着を見られる可能性があるので下着は畳んだ服の下だ。

 

 浴室に入ると、亜矢は暑いシャワーを頭から浴びた。

 普段は露出の少ない服を着ているので分かり辛いが、亜矢はこう見えてスタイル抜群だ。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。夏場になると流石に隠し切れない、豊満な胸も今は露わとなっている。

 

 傷一つない陶器の様な美しい肌の上を、シャワーの湯が洗い流していく。激しい運動をした訳ではないが、それでも集中すると自然と汗が出たのか湯が全身を洗い流していく感覚は心地が良い。

 最初はその心地良さに身を委ねていたが、次第に緊張が再発してきた。自分はこれから仁と一夜を共に過ごすのだ。いや、決して厭らしい意味ではなく純粋に泊めてもらうだけだし、彼が2人っきりになったからと言って手を出してくる様な輩ではない事は百も承知である。

 しかしそれはそれとして、やはり緊張はするというものであった。何しろ異性と同じ部屋で一晩明かすなど人生初なのだから。

 

「仁君……」

 

 頭からシャワーを浴びながら、亜矢は仁の名を口にする。

 そして徐に鏡に映る自分の姿を見た。

 

 今までは特に気にしていなかったが、改めて自分の姿を確認して亜矢はある事が気になった。仁に自分の体はどう映っているのだろう?

 自画自賛かもしれないが、それなりに魅力的だとは思う。節度ある生活を送っている為無駄な肉は付いていないし、美香にも指摘されたが胸だって大きい。夏場に薄着になると男性の視線を集めているのにだって気付いている。あまり無暗に注目されたくないから、夏場でも極力露出の少ない服を着ているがそれでも異性からの視線は気になった。

 

 自分の体が異性から魅力的に映る事は亜矢自身嫌と言うほど分かっている。が、仁はどうなのだろうか?

 

 彼と三年間大学生活を共にしてきた中で、彼からそう言う目を向けられた記憶がない。彼だって人間だ、ならば生物の三大欲求は持っているだろう。性欲だってある筈だ。

 

 果たして彼は、亜矢と2人きりになった時彼女に対し欲情するのだろうか?

 そしてもし、彼が欲情して迫ってきたら――――――

 

(――――って!? 止め止め止めッ!? 何てこと考えてるのッ!?)

 

 慌てて亜矢は変な想像を頭を振る事でかき消した。彼がそんな単純な人間ではない事は良く分かっている筈だ。少なくとも、誰かを傷付けるような事は絶対にしない。

 

 だから大丈夫だと自分に言い聞かせ、亜矢は頭と体を洗い終えると浴室から出てタオルで体を拭いた。その際足元を見ると、畳んだ亜矢の服の隣に仁の寝間着が置かれている。これに着替えろという事か。

 何か一言位言ってくれてもいいのにと、少し苦笑しつつ亜矢は畳んだ服の下着を身に付けると寝間着に袖を通した。仕方のない事だが、寝間着は亜矢にはやはり少し大きく袖や裾が余ってしまった。代わりに胸元は大きく押し上げられている。

 亜矢はそっと自分の体を仁の寝間着毎抱きしめた。そうすると彼に包まれている気がして、自然と口元には笑みが浮かび、熱い吐息が口から零れる。

 

「寝間着大丈夫? 大きすぎたりしない?」

 

 出し抜けに仁の声がリビングから響く。音で彼女が浴室から出たのには気付いていたのだろう。時間的に着替え終わってもおかしくないのにリビングにやってこないので、違和感を与えてしまったようだ。

 亜矢は慌てて彼に返事を返した。

 

「ひゃいっ!? だ、大丈夫ですッ!?」

「あ、そう? 俺も軽くシャワー浴びたいからそろそろこっち来てもらってもいい?」

「は、はい。今行きます」

 

 勝手に自分の世界に入り込んでしまい、亜矢は何だか申し訳ない気になり服を抱えてそそくさとリビングへと戻った。

 

 仁は自分の寝間着を着ている亜矢を、ざっと上から下まで眺めた。

 

「へ、変ですか?」

「ん? あ、いや。やっぱりちょっと袖余るなぁって」

「仕方ありませんよ。仁君の方が背が高いんですし。あ、シャワーありがとうございました」

「ん」

 

 入れ替わるようにして脱衣所へと入る仁を見送り、亜矢はとりあえず荷物の所に衣服を置きドライヤーで髪を乾かすと取り合えず床に腰掛けた。

 そのまま亜矢は、特に何もすることが無かったので仁がシャワーを浴びている音を聞きながらぼんやりと部屋の中を見て過ごしていた。

 

 と、不意に机の上の写真立てが目に入った。恐らくは子供の頃の仁と、彼の家族が写った写真だ。写真の中の子供の仁は、年相応の笑顔を浮かべている。彼にもこんな素直な顔をする頃があったのだと、亜矢は写真を微笑ましく見ていた。

 

亜矢が子供の頃の仁の家族写真を眺めていると、仁がシャワーを浴び終えたのか寝間着に着替えて戻ってきた。

 戻ってきた彼は、亜矢が写真立ての写真を見ている事に気付く。

 

「ん? あぁ、それ? 俺が子供の頃の奴」

「それ位は見れば分かりますよ。そう言えば仁君、ご両親はどちらに?」

 

 亜矢は仁の両親にちょっと興味があった。変わり者の彼の両親だ、彼同様変わっているのかそれとも彼とは正反対に真面なのかちょっと気になったのである。

 

 だが彼の口から出てきたのは、思わぬ言葉であった。

 

「あ~、親父は俺が子供の頃に死んじゃったからなぁ」

「……え?」

「親父、アメリカのマサチューセッツで教鞭取ってたんだけどさ。向こうで暴漢に襲われて死んじゃったんだよね」

 

 仁はあっけらかんとした様子で口にするが、亜矢が受けた衝撃は尋常ではなかった。今でこそ平然としているが、当時の彼が受けた悲しみや喪失感は相当なものだった筈だ。身内を失う悲しさや苦しみは、亜矢にも理解できた。

 

「ご、ごめんなさい!? 知らなかった事とは言え、私……」

「気にしなくていいよ。俺はもう平気だから」

「でも……」

「はいはいお終い。そろそろ寝よう。明日は中間発表だし」

 

 強引に話を区切ると、仁は大きめのタオルを二つ持ってきた。そして一つを丸めて枕にし、机を退けたリビングの床に寝転ぶともう一つのタオルを被った。

 

「――――って、仁君何自然に床で寝てるんですか!?」

「え? だって亜矢さんベッドで寝るんだし、俺床で寝るのが普通でしょ?」

「いやいや!? 仁君の部屋なんだから仁君がベッド使ってくださいよ!?」

「そう言う訳にはいかないでしょ。俺にだって男としてのプライドあるし。俺がベッドで快適に寝て、亜矢さんを硬い床で寝かすなんて出来ないよ」

「じゃ、じゃあせめて……い、一緒にベッドで…………」

「俺のベッド、シングルだから2人で寝たら狭くて逆に寝づらいよ。遠慮せずに亜矢さん1人で使いなって。俺床でも平気だから」

 

 そう言うと仁は灯りを消し、タオルを被って横になってしまった。亜矢はまだ何か言いたげだったが、言うべき言葉が頭に思い浮かばず何も言えなくなってしまったので結局彼の厚意に甘えてベッドで寝る事にした。

 

 ベッドに横になり、枕に頭を乗せて布団を被る。そうすると彼の匂いに全身を包まれ、心地の良い安心感が彼女の眠気を誘った。

 

 瞼が重くなるのを感じつつ、亜矢が仁の方に意識を向けると彼の方からは早くも寝息が聞こえてきた。本当に床でも大丈夫だったらしい。

 その事に亜矢は苦笑を浮かべると同時に、感謝と申し訳なさを感じつつ眠りへと落ちていった。

 

 暫し部屋には仁と亜矢、2人の寝息が規則正しく響く。

 

 と、その時。徐に亜矢が体を起き上がらせた。起きた彼女はゆっくりと仁の方を見て――――――

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「…………ん、んん?」

 

 翌朝、亜矢は窓から差し込む朝日に意識を覚醒させた。まだ瞼は重く目も開けられないが、それでも意識だけはぼんやりとだが起きていた。

 

(朝……そうだ、今日は卒論のテーマの中間発表があるんだ。仁君に手伝ってもらった…………あぁ、そうだった。昨日は仁君の部屋に泊めてもらったんだ。それじゃあ、早めに起きて、せめて朝ご飯くらいは……)

 

 せめてもの恩返しにと、早めに起きて朝ご飯を用意しようと考える亜矢であったが、心地良い温かさにどうにも起きるのが億劫になってしまう。

 はて自分はこんなに寝起きが悪かっただろうかと、起きた頭の一部がそんな事を考えたが心はこの心地良さをもう少し堪能したくて起きる事を拒否した。どの道中間発表は朝一と言う訳では無いのだし、少しくらい遅くなっても問題はない。

 

 そこまで考えた時、亜矢は寝ているベッドに違和感を覚えた。妙に硬いのだ。まるで床に寝転んでいるかの様で、何かがおかしいと感じ瞼をゆっくりと開く。

 

 すると彼女の目に、眠っている仁の顔のドアップが映し出された。

 

「………………へ?」

 

 思わず間の抜けた声を上げてしまった亜矢だが、直後に頭の中はパニック状態となる。気付けば彼女は床で、仁の隣に寝ていたのだ。しかもご丁寧に枕と掛け布団を一緒に持ってきている始末。

 

 辛うじて大声を上げる事だけは避けれたが、あまりのパニックに彼女の頭の中は洗濯機もかくやと言うくらい様々な疑問などがぐるぐると駆け巡る状態となってしまった。

 

(ななななななな、何で何がどうなてってるの!? 私、何で仁君の隣で!? 確かに昨日ベッドの上で寝た筈なのに!? 寝ぼけて仁君の隣に寝ちゃった? いや無い無い無い!? どんな寝ぼけ方をすればこうなるの!? 枕に掛け布団まで持ってきて!?)

 

 どうすればいいか分からず困惑する亜矢だったが、仁の寝顔を見ているとその内気持ちも落ち着いてきた。

 普段拝むことの出来ない、仁の安らかな寝顔。大学で出る必要のない講義をサボったりして昼寝をしている彼を見た事はあるが、今の彼はその時の寝顔とは違う安らかなものであった。

 その寝顔を見ていると何だか色々な疑問がどうでも良くなってきた。

 

(フフッ、子供みたいな寝顔。いい年した大人なのに)

 

 仁は決して童顔と言う訳では無いが、こうして寝ている彼の顔は少年の様にあどけない。普段気怠そうに眼の下に薄く隈を作っている顔とは大違いだ。今は寧ろ可愛らしさすら感じてしまう。

 

 亜矢はそっと、仁の頬に手を伸ばした。決して起こさないよう慎重に、優しく彼の頬に触れ、撫でる。

 そうすると仁も寝ながら心地良いのか、撫でられる手に身を委ねる様に頬を少し彼女の方に寄せた。それがまた堪らなく可愛くて、亜矢の顔に優しい笑みが浮かび上がる。

 

「…………フフッ」

 

 亜矢が思わず笑みを溢した、その時。

 

「ん~~……」

 

 仁が手を伸ばしてきたかと思うと、そっと彼女の体を引き寄せ抱きしめた。

 

(ふぇっ!?)

 

 突然の事で声が出なかったが、今度は意外とパニックになる事が無かった。皮肉な事に濃厚な仁の匂いに包まれた事で、逆に心が安心感を感じてパニックにならなかったのだ。パニックが一周して冷静になったとも言える。

 

(ど、どうしよう?)

 

 流石に何時までもこの状態では居られない。出来るだけ彼を起こさないように抜け出し、夜の間に隣に潜り込んでいた事がバレないようにしなければ――――――

 

ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ

 

「ん……」

 

 その時、目覚まし代わりに仁がセットしていた携帯のアラームが鳴り響く。

 

 けたたましい音に仁が目を開き――――――

 

「…………あれ?」

 

 自分が亜矢を抱きしめている事に気付き、仁は寝ながら首を傾げる。

 

「あれ? 俺いつの間に亜矢さんの隣に…………んん? あれ、逆か?」

 

 仁は徐々に状況を理解してきた。自分が床に寝ている状況は変わらないが。亜矢が枕と掛け布団を持って自分の隣に寝ている。自分はそれを寝ぼけて抱きしめていたのだと、仁は寝起きながら回転の速い頭で状況を的確に理解していた。

 

 そして…………。

 

「~~~~~~~~!?!?」

 

 朝早く。

 仁の部屋に、声にならない亜矢の悲鳴が響き渡るのだった。




と言う訳で第11話でした。

亜矢の変身するライダーの名前はルーナとなりました。デイナがDNAから取ったのに対して、ルーナはRNAから取った感じです。

仮面ライダーやってますが、仁も亜矢も大学生なので卒論からは逃れられません。仁はそれでもサクサク出来ちゃいますが、亜矢は彼ほどではないので危機感を抱いています。

そして今回の目玉の仁の家へのお泊り。ここの亜矢の初々しさは書いてて本当に楽しかった。恋する女性は美しく、そして可愛い。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに。それでは。
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