仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

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第13話:君のだから

 ここ最近、仁は卒論と並行してラボに籠って何かをしているらしい。峰の話では、何でもデイナのパワーアップアイテムを作っているのだとか。

 

 事の発端は先日、スクイッドファッジ相手に余裕を持って相手されてからだ。あれで仁は、今のままでは戦力不足になると考え、ただのエヴォリューションフォーム以上の能力をデイナに持たせる為に教授の知識と峰の技術を用いてデイナのパワーアップアイテムの作成に取り掛かったのだ。

 

 正直最近の仁は少し無理をしているのではと言う気もしなくはないが、亜矢にもやらねばならない卒論があるので彼にばかりかまけてもいられない。

 亜矢は自分の卒論の研究を進めつつ、仁の事を気にかけるという毎日を送っていた。

 

 そんな時、彼女に声を掛けてくる者が居た。先日亜矢にアドバイスをして仁とのデートを考案した美香である。

 

 彼女は大学敷地内にある喫茶店で亜矢が1人コーヒーを飲んでいるのを見つけると、面白い物を見つけたとでも言わんばかりに声を掛けてきた。

 

「やっほー、亜矢! 辛気臭い顔してどうしたのよ?」

「篠崎さん? 私、そんな顔してました?」

「思いっきりしてたわよ。もしかしなくても気になる彼の事?」

「う……えぇ、まぁ……」

 

 彼女相手にはヘタな誤魔化しは効かないと考え、今度は亜矢は素直に認めた。思いの外あっさり認めた亜矢に美香は若干手応えの無さを感じつつ、2人の関係の進展などが気になるのでその事について訊ねた。

 

「ふ~ん……それで? 何も関係が進展しなくて気落ちしてるの?」

「いえ、そう言う訳では…………ただ最近、仁君少し頑張り過ぎてるような気がして……」

「ッ!? へぇ~……」

 

 美香は亜矢による仁の呼び方が、苗字ではなく名前になっている事に気付いた。それだけで2人の関係が以前に比べて進展している事を察する事が出来たが、今重要なのはそこではないので今は黙っておくことにした。

 

「なるほどなるほど。つまり亜矢は門守君が自分に構ってくれなくて、寂しい思いをしているって訳か」

「そこまでは言ってませんよ。ただ純粋に、彼が無理し過ぎていないか心配ってだけです」

 

 仁が結構タフだという事は知っている。だがタフだからと言って無茶をしても良いという理由はない。タフだろうが何だろうが人間は適度に休息を挟まなければ。

 

 しかし仁の事だからそれを普通に説いたところで聞いてはくれないだろう。

 

 いや、以前に比べて親密度が上がった亜矢が相手であれば、或いは縋りついて言い聞かせれば聞き入れてくれるかもしれないが、流石にそこまでやろうという気にはなれなかった。何だかそれは仁の自分に対する信頼とかを利用している気になる。

 

 どうすればいいかと亜矢が悩んでいると、美香が今度も案を授けてくれた。

 

「それじゃあさ、亜矢が門守君を労ってあげればいいんじゃないの?」

「労う?」

「そうそう。手作りのお弁当作るとか、お茶を淹れてあげるとか。些細な事でもいいから影ながら門守君を支えてあげれば彼も亜矢の気遣いを気にして少しは肩の力を抜いてくれるかもよ?」

「そんなものでしょうか?」

「さぁ? でも門守君って結構他人に優しい所もあるみたいだし、亜矢が優しく接してあげれば門守君もそれに応えてくれるんじゃない?」

 

 言われて亜矢は考えた。確かに仁であれば、邪魔をしたりするような事をしなければこちらからの思い遣りを持った対応に対して邪険に扱うような真似はしないだろう。

 

 それに――ちょっと打算的になるかもしれないが――影ながら支えてやれば、仁からの心象も更に良くなりいざ告白した時に受け入れてもらえる可能性が上がるかもしれない。いやそれどころか、彼に惚れさせて向こうから告白してくれるかも?

 

 想像して亜矢は思わず赤面してしまった。そしてそんな彼女の様子を、美香が心底楽しそうに眺めていた。

 

 自分にニヤニヤとした笑みを向けてくる彼女に気付いた亜矢は、慌てて姿勢を正し咳払いをして顔を引き締めた。が、顔はまだ赤いままなので全く意味がない。

 

「んん! とりあえず、アドバイスありがとうございます。ちょっとやってみます」

「ほ~い、頑張れ~!…………ところで亜矢?」

「何ですか?」

 

 亜矢が気を取り直したのを見て、美香は今までず~っと指摘したかった事を口にした。

 

「門守君との仲は進展したみたいね?」

「え!?」

「だってさ、彼と名前で呼び合う仲になったんでしょ? この間まで亜矢も彼の事を“門守君”って呼んでた筈だもんね?」

「――――あ!?」

 

 亜矢は己の迂闊さを呪った。そう言えば、自分は他人を基本的に名字で呼ぶ。この大学内で、彼女が名前の方で呼ぶのは現時点で仁だけだ。勘の良い人物であれば、これだけで2人が特別な関係になった事に気付いてしまう。

 美香はその勘の良い人物の1人であった。

 

 まだ恋人関係ではないが、仁とは特別な関係である事を第三者に悟られた亜矢は顔を真っ赤にして俯いた。その様子を美香はとても楽しそうに、そして微笑ましく見ていた。

 

「ま、頑張りなさいな。私が言うのもあれだけど、彼は良い男よ」

 

 美香はそう言って亜矢の肩を叩いた。叩かれた亜矢は、顔を上げる事無く美香の言葉に無言で頷く事で答えた。

 

 仁が良い男だなんて事は、言われるまでも無くきっとこの大学の誰よりも分かっている…………と。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その後、喫茶店を後にした亜矢は真っ直ぐ白上研究室に戻った。

 表の研究室内には仁の姿は見られない。どうやらまだラボに籠っているらしい。

 

 そのまま秘密のラボに入ると、そこでは案の定仁がここ最近全く変わらぬ様子でコンソールと向き合っていた。

 

「使うのはバッファローとヒューマンで…………ん~、やっぱりこうした方が…………いや――――」

 

 仁は何やらブツブツ呟きながらキーボードを叩いている。あれで自分の卒論研究はちゃんと進めていると言うのだから、一体彼の一日のスケジュールはどうなっているのかと気になって仕方がない。

 

 まぁそんな事は正直どうでもいい。気にはなるが、亜矢が気にしても仕方がない。

 今亜矢が気にするべきは、如何にして仁を労うか。これに尽きた。

 

 とは言え悩んでも仕方ないので、今出来る事からやろう。と言う訳で、とりあえず今仁に一番受け入れてもらえる労いとして茶の一杯でも淹れてリラックスさせる事にした。

 

 ラボにある給湯スペースに向かい、湯を沸かして茶葉を用意する。

 

(流石に教授には及ばないかもだけど……)

 

 自分でやってみて分かるが、白上教授は本当に紅茶の淹れ方が上手い。同じように淹れている筈なのに、明らかに教授が淹れた紅茶の方が美味しいのだ。一度コツがあるのかと聞いたことがあるが、教授自身何か特別な事はしていないと言う。

 果たして本当に特別な事はしていないのか、それとも何か秘訣があるが隠しているのか。

 

 等と考えていたら紅茶が出来た。カップに注ぎ盆に乗せて仁と、ついでに同じくラボで何やら作業している峰にも持っていってやる。

 

「お茶入りましたよ」

「お! ありがとう、双星さん!」

 

 峰は横からスッとカップを差し出すと、作業の手を止めてそれを受け取ってくれた。香りを楽しみ、一口流し込んでほっと一息つく。

 

 仁にも同じように横からカップを差し出した。

 

「仁君、お茶が入りましたよ?」

「ん~……」

「……ここに置いときますからね」

 

 まぁ分かってはいたが、仁はカップを差し出されても聞いているのかいないのか分からない反応しか返さなかった。かなり集中している様子なので、余程の事がない限りは大した反応は返ってこないだろう。

 亜矢はそんな彼に、小さく溜め息を吐きながら邪魔にならない位置にカップを置いた。仁は特に気付いた様子も無く、カップを無視してキーボードを叩き続けた。

 

 これは前途多難そうだ。己の恋路の先行きに不安を感じ、亜矢が盆を抱えて溜め息を吐き近くの椅子に腰かけた。

 

 その様子を峰が眺めている。視線は仁と亜矢を行ったり来たりしていた。

 

 と、仁が徐にノールックでカップを手に取り口に運んだ。何だかんだ言いつつ、喉は乾いたのだろう。視線はモニターに向けながら、カップを口に付けて紅茶を飲んだ。

 

 すると次の瞬間、仁の手が止まり視線がモニターからカップに移った。突然彼が動きを止めた事に、亜矢だけでなく峰も彼の次の動向に注目する。

 

(もしかして、口に合わなかったかな?)

 

 最近は彼も白上教授の淹れる紅茶で舌が肥えているので、もしかすると亜矢の淹れた紅茶がお気に召さなかったのかもしれない。

 

 亜矢が不安を感じていると、2人が注目する前で仁が再び動き出した。カップの中身の香りを堪能するように匂いを嗅ぐと、残った紅茶を一気に飲み干した。

 そして空になったカップを暫し眺めると、亜矢に声を掛けた。

 

「亜矢さん」

「は、はい?」

「お代わり貰ってもいい?」

「あ…………はい!」

 

 気付けば亜矢は花が咲いたような笑みを浮かべて、仁からカップを受け取るとウキウキした足取りで給湯スペースに向かった。

 そのまま鼻歌交じりに新しい紅茶を淹れる。

 

「♪~~♪~♪~~~」

 

 とにかく嬉しかった。明確に言葉に出した訳ではないが、仁は確かに亜矢が淹れた紅茶を『美味しい』と感じてくれたのだ。

 チラリと仁の方を見れば、キーボードから体を離し椅子の背凭れに体重を預けて体をリラックスさせている。当初の目的であった、仁を労い彼の負担を少しでも和らげる事にも成功した。

 その事に亜矢はますます笑みを深める。

 

 そんな彼女に、峰がそっと近付き話し掛けた。

 

「良かったわねぇ、双星さん?」

「み、宮野先輩!?」

「門守君、双星さんの淹れた紅茶美味しいって」

「……はい」

 

 頬を赤く染めながらも峰の言葉に答え、新しい紅茶を淹れ仁に持っていく。

 紅茶を受け取った仁は、今度は亜矢の目を見ながら受け取った。

 

「仁君、はい」

「ん、ありがと」

 

 受け取った紅茶を、仁は香りから楽しみ今度はゆっくり口に流し込んでじっくり味わう。

 

 亜矢の淹れた紅茶を堪能する仁の様子に、峰が興味本位で問い掛けた。

 

「ねぇねぇ、門守君?」

「ん? 何です先輩?」

「ぶっちゃけ、教授が淹れたのと双星さんが淹れたの、どっちの紅茶が美味しかったですか?」

「先輩ッ!?」

 

 いきなりなんて事を聞くんだと、亜矢が慌てて峰を取り押さえようと後ろから羽交い絞めにする。

 じゃれ合いを始めた2人を気にせず、仁は真剣な表情で考えながら紅茶を一口飲んだ。

 

「ん~……教授のも亜矢さんのも美味しいけど……」

「「美味しいけど?」」

 

 峰の事を羽交い絞めにしながらも、仁の答えは気になるのか峰と共に仁の言葉に耳を傾ける。単純な興味に関しては峰より強いのか、彼女を押し退けるようにして聞いていた。

 

「……何時でも飲みたいのは亜矢さんの淹れてくれた方かな?」

「あ――――」

「味はどっちもそんなに変わらないと思うんだけど、何て言うか……亜矢さんが淹れてくれた方が良い。……うん、亜矢さんの方が良い」

 

 そう言って頷きながら仁は紅茶を飲み干した。

 

 彼の答えに峰は物凄く楽しそうに笑みを浮かべ、自分を羽交い絞めにしている亜矢を見た。

 対する亜矢はと言うと――――――

 

「か、かかかかか、顔洗ってきます!?」

 

 放り捨てる勢いで峰の体を放すと、物凄い勢いでラボを出ていった。その顔は茹蛸かと言う程真っ赤に染まっており、嬉しさと恥ずかしさからか目は潤んでいた。

 

 慌ててラボを出ていく亜矢の後姿を目を丸くして見送った仁は、あの反応の理由がイマイチ分からず首を傾げていた。

 

「亜矢さん? どうしたんだろ……先輩分かります?」

 

 亜矢の行動の理由が分からず近くに居た峰に助言を請うが、彼女は笑いを堪えるので精一杯でそれどころではない様子だった。

 

 峰はおかしくておかしくて仕方なかった。この2人は本当に見ていて飽きない。特に事恋愛関係になると、恋愛を理解している亜矢に対して、色恋沙汰を理解していない仁の天然っぷりが刺さっていた。

 お陰で仁の反応や挙動に対する亜矢の反応が面白くて仕方ない。

 

「先輩?」

 

 笑ってばかりで何も答えてくれない峰に、仁が再び声を掛けると彼女は何とか笑いを引っ込める。

 

「ん、あぁ、いえ……。んん! 大丈夫ですよ。えぇっとそれで、双星さんの反応でしたっけ? 大丈夫ですよ。別に機嫌を損ねたとか言う訳じゃありませんから」

「あ~…………そうですか」

 

 峰の答えに仁は何処か釈然としないものを感じつつ、適度な休憩で気分もリフレッシュしたので作業を再開するのであった。

 

 因みに亜矢が戻ってきたのは、それから数分ほど後の事であった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 仁と亜矢が日常を謳歌している頃、アデニンは1人で明星大学近くの街中を当ても無く彷徨っていた。

 

 彼は求めていた。更なる実験サンプルを。

 あの2人……仁と亜矢は最高の実験対象だ。試作品のベクターブレスとは言え、その能力をまだまだ活かせる余地を見せてくれた。あの2人との戦闘データを収集すれば、更なる技術発展が望める。

 

 その為には、自分以外に実験のサンプルとなる奴が必要だった。また自分がベクターブレスを使用してもいいが、他の人間、他のベクターカートリッジを用いた場合の能力査定もやっておきたい。

 

 そんな事を考えながら歩いていると、ガラの悪い3人の男が目の前から歩いてきた。見た所3人共若い。恐らくは明星大学の学生だろう。明星大学は大学としてレベルは高いが、それでも何割かはああ言う学生も居る。学生全体から見ればごく僅かだろうが。

 

 その3人の1人と、アデニンの肩がぶつかった。アデニンは特に気にする事なくそのまま歩き去ろうとする。

 だが3人の学生は彼を見逃さなかった。肩をぶつけられた学生はアデニンの肩を掴み、残りの2人は彼を威圧するように取り囲んだ。

 

「おい待てよ!? テメェ、人にぶつかっておいて謝りも無しか、あ?」

「こんな街中でも白衣脱がねぇとは、相当なガリ勉野郎みたいだな? なんつったっけ、あの変な奴?」

「門守だろ、門守 仁。あいつ以外にも変な奴が居たとは初耳だぜ」

 

 3人はアデニンが見た目優男で白衣を着ているという事で、腕っぷしの弱いガリ勉学生か何かかと思っているのだろう。下品な笑みを浮かべ言いたい放題言っている。

 

 だが彼らの口から仁の名前が出た瞬間、アデニンの目の色が変わった。アデニンは素早く振り返ると、懐に手を突っ込みそこからベクターカートリッジを2つ取り出し起動状態にする。

 

〈JELLYFISH〉

〈STARFISH〉

 

 取り出して起動状態にした2つのベクターカートリッジを、アデニンは躊躇なく自分の肩を掴んでいる男とその隣に居る男に挿した。

 

「うぐっ!?」

「なん――――!?」

 

 アデニンが挿したベクターカートリッジから、超万能細胞が男達の体に流れ込みその体を変異させる。

 

 一方は全身が半透明で体の至る所に触手を持つ、クラゲの性質を持ったジェリーフィッシュファッジに。

 

 もう一方は全体のシルエットが五芒星の星形で、体の中心に口の様な部位があるヒトデの性質を持つスターフィッシュファッジに変異した。

 

「え!? な――――!?」

 

 ついさっきまで一緒に居た友人が化け物に変異した事に、残りの1人が動揺を露にする。

 そんな奴に構うことなく、アデニンは自分もベクターカートリッジを取り出し今回は直挿ししてファッジに変異した。

 

〈SQUID〉

「グルゥゥゥゥッ!」

「ガァァァァァッ!」

 

 アデニンがスクイッドファッジに変異すると同時に、2体のファッジは見境なくスクイッドファッジに襲い掛かる。

 スクイッドファッジはそれを触手で捉えると、2体を思いっきり地面に叩き付けて大人しくさせた。

 

「鎮まれ。言う事を聞け」

「シャァァァァ……」

「フゥゥゥゥ……」

 

 明確な格の違いを見せつけ、本能的に2体のファッジを黙らせた。そして2体が大人しくなったのを見ると触手を放し、1人恐怖にへたり込んでいる男を見るともう一つベクターカートリッジを取り出しベクターブレスと共に男に投げ渡した。

 

「は、え?」

「お前にやる。コックを捻って押し込んでから、ブレスレットのソケットに装填すれば使える。どう使うかはお前の自由だ。好きにしろ」

「な、何で…………?」

 

 その男からすれば訳が分からなかった。目の前の怪物は、一体何故自分の友人を怪物にした上、自分に同じものを渡して好きにしろ等と言うのか、と。

 

「お前が知る必要はない事だ。あぁ、安心しろ。そのブレスレットを使えばこいつらの様に理性を失う事は無い。ではな」

 

 スクイッドファッジはそれだけ告げて、その場から音も無く立ち去った。後に残されたのは怪物と化した2人と、未だ地面にへたり込んだままの男のみ。

 

 だが直ぐに男の目には欲望の光が灯った。良くも悪くも、ファッジとなった友人2人を大人しくさせたスクイッドファッジが良いデモンストレーションとなったのだ。理性が保てるなら、スクイッドファッジの様に理性無きファッジと化した友人2人を自分が従えて自由に使役する事も出来る筈だ。

 

 男は誘惑に負けると、左腕にベクターブレスを装着しベクターカートリッジを起動状態にした。

 

〈OCTOPUS〉

 

 コックを捻り押し込んで起動状態にしたそれを、言われた通りブレスレットのソケットに装填した。

 

〈OCTOPUS Contamination〉

 

 男はその姿をオクトパスファッジへと変異させると、友人だったファッジ2体と共にその場を移動していった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 日も大分傾き、サークル活動をしている一部の学生等を除いて人気の無くなった明星大学。

 

 仁は言うまでも無くまだ残っており、亜矢もそれに付き合って残っていた。他にこの研究室で残っているのは、白上教授と峰、拓郎だけである。

 

 ラボには窓がない為、太陽から時間を窺い知ることは出来ない。なのでデイナ用パワーアップアイテムの作製に熱中していた仁は今が夕方だという事に気付いていなかった。

 

 そんな彼に時間を報せるのも、亜矢の役目だ。彼女は後ろから彼に近付くと、徐に彼の両眼を手で覆い隠した。

 

「…………ん?」

 

 突然の事に少し理解が及ばなかったのか、間を置いてから仁は背後を振り返り自分の視界を隠す亜矢を見た。後ろを振り返ってきた彼の顔を見て、亜矢は少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「仁君。そろそろ日も暮れますし、今日はここら辺で切り上げて帰りましょう」

 

 言われて仁は時計に目をやり、確かにいい時間である事を確認して途中までしか出来ていないデータを保存して電源を切った。

 彼個人としてはまだ続けても良かったが、亜矢を付き合わせるのは心苦しい。

 

 なので彼は大人しく引き下がり、亜矢と共にラボを出ようとした。

 

 その時、峰のタブレットからアラームが鳴り響いた。

 荷物を纏めて帰り支度を整えていた2人はそのアラームに顔を見合わせ、肩を竦めながら溜め息を吐いた。

 

「は~い、ファッジ情報入りました~。仮面ライダーの2人は元気よく出動して下さ~い」

 

 2人の何処か疲れたような様子に、峰は敢えておどけるように告げた。彼女の気遣っているのか何なのか分からない言葉に、2人は揃って苦笑を浮かべると互いに頷き合って現場に急行すべく外に停めてある仁のバイクへと向かった。

 

 2人が辿り着いたのは、大学から遠くに離れた所にある公園。そこで数人の若者が、3体のファッジに襲われていた。

 

「オラァッ!」

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

 若者の1人が、オクトパスファッジに投げ飛ばされる。地面に叩き付けられた若者は、呻き声を上げてそのまま動かなくなる。身動ぎしているのでまだ生きてはいるようだ。

 

 その近くでは、ジェリーフィッシュファッジとスターフィッシュファッジにより他の若者達が痛めつけられている。

 まだファッジの攻撃に曝されていない若者は、何故こんな事をするのかとオクトパスファッジに問い掛けた。

 

「な、何だよお前ら!? 俺達が何したってんだよ!?」

「あぁ!? そんなの決まってんだろうが!」

 

 オクトパスファッジは触手の1つで疑問の声を上げた若者を締め付けながら引き寄せ、彼の問い掛けに答えた。

 

「この間の仕返しだよ。お前ら、高校生のガキのくせして俺らをコケにしやがったろ。その時の仕返しだよ!」

 

 この3人、以前講義をサボって公園をぶらついていた時にこの高校生の若者たちに絡まれ喧嘩の末に負けて財布の中身を取られたことがあるのだ。

 その時は今と同様8人近くの高校生に囲まれ、多勢に無勢で一方的にやられてしまったのだが今はその時の逆に3人で8人を圧倒している状態だった。

 

 以前自分達をコケにしたいけ好かない高校生達を、一方的に痛めつけている事にオクトパスファッジはこの上ない爽快感を感じていた。

 

「あ~、堪らねえぜ! 今なら何でも出来るぜ俺らは。なぁお前ら!」

 

 オクトパスファッジは締め付けていた若者を捨てるように放り投げ、仲間のファッジ2体に声を掛ける。だが当然答えは返ってこない。彼らはオクトパスファッジと違って理性が残っていないのだ。話し掛けてもまともな返答は望めない。

 

 何時もなら何かしらの返答がある相手から何の反応も返ってこない事に、若干物足りなさを感じずにはいられないオクトパスファッジ。しかし、そんな気持ちもすぐに薄れた。空しさよりも、強い力に与えられる快楽の方が上回ったのだ。

 

 オクトパスファッジが力に酔いしれていると、トランスポゾンに乗った仁と亜矢が現場に到着した。2人は3体のファッジが高校生達を蹂躙しているのを見ると、彼らを助けるべく動いた。

 

「亜矢さん、しっかり掴まってて」

「はい!」

 

 仁は巧みなハンドル操作でファッジ3体を弾き飛ばすと、意識のある者を最初に立たせて彼らに気絶した者達を逃がさせた。

 

「ほら、早く立って」

「他の方達を、早く!」

「は、はいぃぃぃっ!?」

 

 何が何だか分かっていない高校生達は、這う這うの体で意識のない者を引き摺ってその場を逃げていく。

 

 高校生達が逃げていく時間を稼ぐように、その場に留まり3体のファッジと対峙する仁と亜矢。

 対するオクトパスファッジは、見知った人物が2人立ち塞がっている事に思わず声を上げた。

 

「おいおいおいおいおい! 何だ何だ、どういうこった? まさかこんな所でウチの大学のマドンナと変人が同時に出てくるとは思ってもみなかったぜ!」

「ん? 俺達を知ってるって事は――――?」

「貴方、もしかして明星大学の学生ですか!?」

 

 亜矢がファッジの正体に驚く。まさか自分達と同じ学び舎からファッジになる者が出るとは思ってもみなかったのだ。

 

「ま、あり得ない話じゃないでしょ。この間の蝙蝠の奴も、無理矢理ファッジにさせられてたみたいだし?」

 

 言いながら仁はデイナドライバーを取り出して腰に装着した。それを見て亜矢もボケっとしている場合ではないと、デイナドライバーを取り出した。

 

 相手は同じ大学の学生だが、否だからこそ彼らが止めなくてはならない。このまま彼らに好き勝手をさせてはならないのだ。

 

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

〈CAT Adaptation〉

「「変身!」」

〈〈Open the door〉〉

 

 2人がデイナとルーナに変身すると、オクトパスファッジは面食らったように仰け反った。

 

「嘘だろッ!? まさか、噂の仮面ライダー!?」

「そう言う事。さ、検証の時間だ」

「これ以上、好き勝手にはさせません!」

 

 ハルバードモードのハイブリッドアームズを構えるデイナと、リプレッサーショットを向けるルーナ。2人を前にして、オクトパスファッジは明らかに狼狽した様子を見せた。

 

「冗談じゃねぇ、こんな所でやられてたまるかよ!? お前ら、行け!?」

 

 オクトパスファッジがジェリーフィッシュファッジとスターフィッシュファッジを嗾ける。迫る2体のファッジを、デイナは1人で相手にした。

 

「こいつらは俺が何とかするから、亜矢さんはあっちの蛸野郎を何とかして」

「分かりました!」

 

 デイナは斧槍を振るい2体のファッジと互角に戦い、ルーナは二丁拳銃でオクトパスファッジを追い詰める。

 

「よいしょっ、ほれ」

「グガァァッ?!」

 

 長物の利点を最大限に活かし、デイナは2体のファッジを寄せ付けず逃がさない。刃で相手を切り裂き、近付こうとした相手には石突の部分で突きや殴打を喰らわせた。巧みな戦い方に、2体のファッジは全く数の利点を活かせていない。

 

「逃がしません!」

「クソッ!?」

 

 一方のルーナも、オクトパスファッジを相手に優位に立ち回っていた。先日のスクイッドファッジとの戦闘もあってか、軟体動物で且つ無数の触手を持つ相手に接近戦は危険と判断し、リプレッサーショットによる銃撃で釘付けにする戦法を選択。弾幕を張って相手を決して近づけず、逃げようとすれば足元を撃って逃走を妨害し続けた。

 

 戦力的には2対3でファッジ側が優位の筈なのに、実際にはデイナとルーナが圧倒していた。この状況を離れてみていたスクイッドファッジは、オクトパスファッジ達の不甲斐無さに嘆息した。

 

「はぁ……あれでは良いデータが取れそうにないな。仕方がない」

 

 仕方なくスクイッドファッジは彼らの救援に向かう事にした。

 

 ver.2に比べると性能はやや劣るものの、それでも健在な空気圧によるジェット噴射で戦場に乱入した。

 まず真っ先に狙ったのはルーナの方だ。一気に接近した彼は彼女の背後に立つと、全身の触手を余すことなく使って彼女の手足を拘束した。

 

「え、なぁっ!?」

「お、お前――――!」

「ボサッとするな、早くやれ」

「へ、へへへ! お言葉に甘えて!」

 

 何とか拘束から逃れようと藻掻く亜矢に、それまで一方的にやられてばかりだったオクトパスファッジが牙を剥く。

 

 触手を全て伸ばして、それを鞭のように振るい何度もルーナを打ち据えるオクトパスファッジ。無数の触手により同時に複数個所を打たれて、ルーナの前進に激痛が走る。

 

「あうっ?! ぐぅっ?! あぁぁっ?!」

「ヒャッハハハハハッ!! まさかあのマドンナのこんな悲鳴が聞ける時が来るとはな! オラオラ、もっといい声で泣けってんだ!!」

「ぐ、うっ?! いっ?! づぁぁぁっ?!」

 

 ルーナの悲痛な叫びが辺りに響き渡る。それを耳にして、デイナの意識がそちらに逸れた。

 

「亜矢さん――――!?」

「グルアァァァァッ!」

「シャァァァァッ!」

 

 直ぐ様ルーナの救援に向かおうとしたデイナだったが、ジェリーフィッシュファッジとスターフィッシュファッジがそれを許さない。デイナの前に立ちはだかり、彼の邪魔をした。

 

「――――退けよ」

〈DOG + WHALE EVOLUTION!〉

 

 邪魔をする2体のファッジを前に、デイナはゲノムチェンジをして対抗した。襲い来る2体のファッジに、デイナはインパクトウェーブを最大出力で浴びせた。

 瞬間、2体のファッジは全身を痙攣させてその場に倒れた。強烈な振動が脳を直接揺さぶり、意識を刈り取ったのだ。意識を失った事でベクターカートリッジが排出され、2人は元の姿に戻る。

 

 その光景をルーナを拘束しながら見ていたスクイッドファッジは、まさかの事態に驚愕した。

 

「何だとッ!?」

 

 ドッグホエールフォームのインパクトウェーブは事前に知っていた。だが報告ではあそこまでの威力が出るとは聞かされていなかったのだ。

 恐らくはルーナの危機を前にして、デイナに変身している仁が感情を爆発させそれが能力にも影響したのだろう。早い話が火事場の馬鹿力だ。意図して出来る事ではないだろうが、その分加減を失った威力は馬鹿にできない。

 

 障害となる2体が倒れた事で、デイナが今度はホークレオンフォームにゲノムチェンジして一気に接近してくる。ルーナを痛めつける事に夢中になっているオクトパスファッジはその事に気付いていなかった。

 

「う……あ、あぁ……」

「へへへ――――!」

 

 ふと気付けば、オクトパスファッジはルーナの首に触手を巻き付けて彼女の首を絞めていた。ならばこれ幸いと、スクイッドファッジは彼女の拘束を解いてその場を離れる。

 スクイッドファッジが拘束を解くと、代わりにオクトパスファッジが他の触手を用いて彼女の全身を締め付け始めた。首だけでなく全身を締め付けられ、彼女の口から零れる苦悶の声が強くなる。

 

 それが彼の心に火をつける火種になるとも知らずに。

 

「うぐっ?! あ、あぁ…………あ――――!?」

「――――!!」

〈ATP Burst〉

 

 ルーナの口から更なる苦悶の声が上がるのと、デイナがレセプタースロットルを引くのはほぼ同時であった。

 放たれたノックアウトクラッシュは最初の一撃でルーナを拘束している触手を食い千切り、続いて放たれた二撃目がオクトパスファッジ自体を噛み砕いた。

 

「ぎぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 ノックアウトクラッシュを諸に喰らったオクトパスファッジは絶叫を上げた。デイナは両足で挟んだそいつを空中で振り回し、遠くに放ると着地し倒れたルーナを抱き起した。

 

「……戦いのレポートは纏まったな」

 

 彼がそう呟くのと、地面に落下したオクトパスファッジが爆散するのはほぼ同時であった。

 オクトパスファッジの爆発の衝撃からルーナを守るように彼女を抱きしめるデイナ。彼の腕の中でルーナの変身は解除され、亜矢は元の姿に戻った。

 

 彼女が元の姿に戻ったのを見て、デイナも変身を解き仁の姿に戻り彼女に優しく声を掛けた。

 

「亜矢さん、大丈夫?」

「じ、仁君……あはは……ごめんなさい。情けない所見せちゃいましたね」

「気にしないで。体はどう? 何処か酷く痛むところとかはない?」

「体中あちこち痛いですけど、大事は無いと思います」

「ゴメン。守るのが遅れた」

「助けてくれただけで十分ですよ」

 

 亜矢は仁の謝罪に笑顔で手を振りながら答え、痛む体に鞭打って自分の脚で立ち上がった。が、直ぐにバランスを崩してその場に倒れそうになる。

 

 仁は倒れそうになる亜矢の体を即座に支えた。

 

「亜矢さん!?」

「う、つぅ……」

「無理しないで。このまま家に送ってあげるから」

「すみません。お世話になります」

 

 仁は亜矢を横抱き――所謂お姫様抱っこしてトランスポゾンまで運ぶ。そのまま亜矢は仁によって自宅へと送られていった。

 

 2人が去って行ったのを見て、その場から一時的に離れていたスクイッドファッジは戻ってくると爆散したオクトパスファッジの所へ向かいベクターカートリッジとベクターブレスを回収。

 それとジェリーフィッシュとスターフィッシュのベクターカートリッジも回収して2人が去って行った方を見た。

 

「……この程度では碌なデータが取れそうにないな。やはりデータを取るなら…………」

 

 スクイッドファッジはそんな事を呟きながらその場を立ち去る。

 後には仁によって倒された、先程までファッジだった3人が取り残されるのであった。




と言うわけで第13話でした。

美香は割と動かしやすいキャラです。日常シーンで亜矢にグイグイ接触してくれるので、話がサクサク進められます。

仁は仁で、結構亜矢に拘ってます。何だかんだで、彼も亜矢の事を大事に思ってる証ですね。

執筆の糧となりますので、感想その他宜しくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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