仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

モンハンライズでタマミツネの逆鱗が出なくて苦労していますが、今週も元気に更新です。


第15話:亜矢の知らない亜矢

「…………最近静かだな」

 

 その日、仁はラボの椅子に腰掛けながらそんな事を口にした。

 

 彼の手には、ちょっと変わった物が握られている。一見すると手回し充電式の懐中電灯の様にも見えるそれは、彼の手で開発された新たなベクターカートリッジだ。名を『BHエレキテルカートリッジ』。デイナのパワーアップアイテムだ。

 

 ここ最近手強くなってきた傘木社のファッジに対抗する為に仁が開発したのである。

 

 チミンの襲撃の後、急ピッチで開発を行い後は最終調整を残すのみであった。

 

 問題はその間にチミンやアデニンとの戦闘になる事だったのだが、ここの所全くファッジが出現していないのだ。チミンやアデニンだけではない。普通のファッジすら鳴りを潜めていた。

 お陰でじっくり準備する事も出来たのだが、この静けさが逆に不安だった。

 

 仁が椅子の背もたれに体重を預けて天井を仰いでいると、彼の視界を覗き込む者が居た。亜矢だ。仁から見て上下逆さまに覗き込んできた。

 

「……どうしたんですか?」

 

 不思議そうに訊ねる亜矢を、仁がぼんやりと見上げていた。決して視界の半分を埋め尽くす、亜矢の豊満な胸に視線を奪われていた訳ではない。

 

「仁君?」

「ん?」

「何ボーっとしてるんです?」

「ん、あぁいや。最近ファッジが出なくて静かだなって思っただけ」

 

 言われて亜矢も、確かにと頷いた。特にあのチミンの性格は、かなり執念深い様に思える。あの場から逃げただけなのであれば、また襲撃を仕掛けてきてもおかしくない筈だ。

 それが全くなく、静かに日常を遅れている事に今更ながら亜矢も違和感を感じずにはいられなかった。

 

「そう言えば、最近はただのファッジも出ませんね?」

「うん。あのチミンって奴だったら何時再戦してきてもおかしくないのにさ」

「思いの外傷が深かったんじゃないですか?」

「それだけだったら良いんだけどさぁ。何か、嫌~な予感がするんだよねぇ」

 

 そう言いながら仁は手の中にあるBHエレキテルカートリッジを見た。その彼の眉間には、彼にしては珍しく険しい皺が寄っているのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 遡る事数日前。

 

 仁と亜矢に敗れたスパイダーファッジver.2ことチミンは、傷付いた身体を引き摺って街の裏路地を彷徨っていた。

 

「はぁ……はぁ……あいつら、くそ――!?」

 

 チミンは悪態を吐きながら壁伝いに歩いていたが、とうとう力尽きたのかその場に腰を下ろした。

 

 彼女の腸は煮えくり返っていた。仁と亜矢……デイナとルーナに敗北を喫してしまった。それも新型のベクターブレスを使用していながら、だ。この事は彼女の存在意義を揺るがす危険がある。

 今まではこの体になるまでに掛けられた金と時間があったからということで、雄成に見逃してもらってきた。だが今回の失態は見過ごすことは出来ないだろう。

 今回はベクターカートリッジが排出されるほどの事にならなかったから生き残れただけで、次に敗北してベクターカートリッジを失うような事になってしまえばその時、彼女は機密保持の意味を込めて隠蔽処分されてしまう。

 

 それだけは絶対に避けたかった。

 

「次は……次こそは勝って……いや、せめて何か成果を残さないと――!?」

 

 苛立ちと痛みに顔を歪めていると、裏路地の奥から何者かが近付いてくる気配を感じた。億劫に思いながらも顔をそちらに向けると、そこには3人の男の姿がある。以前アデニンによりファッジにさせられた2人と、ベクターブレスを渡されたあの3人である。

 亜矢を痛めつけて仁に倒された後、意識を取り戻してあの場から逃げていたのだ。

 

 この3人は傘木社の関係者ではないので、倒されても隠蔽処分されなかったのである。

 

 3人は傷付き座り込んだチミンの姿を見て、下卑た笑みを浮かべながら近づいていった。

 

「よぉよぉ、姉ちゃん? 何だか気分悪そうだな?」

「何だったら、俺らが看病してやろうか?」

「嫌な気分忘れさせてやるぜ?」

 

 数日前にアデニンに痛い目に遭わされていると言うにも拘らず、改心しない3人である。オクトパスファッジになった男は大事には至らなかったし、残りの2人に至ってはそもそもほとんど覚えていなかった事が災いした。

 

 近付いてくる3人の男を前に、チミンは獰猛な笑みを浮かべるとベクターブレスにスパイダーベクターカートリッジを装填した。

 

〈SPIDER〉

「ッ!?!? そ、それは――!?」

「フフ――!」

〈SPIDER Contamination〉

 

 3人の中で唯一ベクターカートリッジの事を覚えていた男──葛西 秀樹(かさい ひでき)が、当時の事を思い出し戦慄する。残りの2人は彼女が何をするのか予想出来ず見ているしかできない。

 

 彼らが見ている前でチミンがスパイダーファッジver.2へと変異し立ち上がる。

 

 その姿に、当時の事を覚えていなかった男達も危険を感じ思わず後退った。

 

「お、おい!? 何なんだあれッ!?」

「ば、化け物――!?」

「逃げろッ!?」

 

 慌ててその場から逃げようとする3人だったが、その判断は遅すぎた。彼らが背を向けたのと、スパイダーファッジが糸を放ち3人を拘束したのは全く同時の事であった。

 

「うわっ!?」

「ひぃっ!?」

「た、助けてッ!?」

 

 糸に巻かれ、その場に倒れる男達。スパイダーファッジは彼らに近付くと、まず以前アデニンにファッジにされた2人にベクターカートリッジを挿した。

 

〈BEAR〉

〈JACKAL〉

「うがっ?!」

「いぎぃっ?!」

 

 スパイダーファッジによって2人はまたしてもファッジへと変異させられる。1人は熊の遺伝子からなるベア―ファッジ、もう1人はジャッカルの遺伝子を持つジャッカルファッジだ。

 

「ウゥゥ、アァァァァァァッ!?」

「ウガァァァァァァ!? ガァァァァァァァァッ!?」

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

 先日の焼き直しのような光景を前に残った秀樹は以前の恐怖が蘇り、目に涙を浮かべていた。股間を見ればズボンの股が濡れている。恐怖のあまり失禁したようだ。

 

「フフフフフ――――!」

 

 スパイダーファッジは変異した2人を前に、ほくそ笑みながら手の中にある無数のベクターカートリッジを弄ぶ。彼女が持っているベクターカートリッジはまだまだあるのだ。これを使って、ファッジによる部隊を作りその力を以てして仮面ライダーを倒す。

 それこそが今彼女に出来る、己の評価を守る為の策であった。

 

「とは言えまずは……」

「ひっ!?」

 

 スパイダーファッジは徐に秀樹に目を向ける。コッソリ逃げようとしていた彼は、スパイダーファッジに見つかった事に自身の終わりを悟り観念したように動かなくなる。

 そんな彼にスパイダーファッジは近付き、変異を解くと彼に顔を近付けて言った。

 

「ねぇ、あんた」

「ひっ!?」

「あいつ等みたいになりたくない?」

 

 チミンからの問い掛けに、彼は首が取れるのではと言う程ブンブン首を上下に振る。

 

「そう……なら今から私の言う事を聞きなさい。差し当たってまずは何か食べ物を持って来てもらおうかしら? それとあちこち傷だらけだから、包帯とかも。それと何処か寝床に出来そうな場所を用意しなさい。いいわね?」

「は、はいぃぃぃぃぃっ!?」

 

 チミンの命令に、秀樹は悲鳴を上げながらその場を後にする。彼の後姿を眺め、残されたチミンは悠々とその場に腰掛け壁に背を預ける。

 彼女の傍にはファッジと化した2人が、唸りながらも大人しく佇んでいた。

 

「さて、今に見てなさいよ。仮面ライダー……」

 

 人の来ない裏路地で、チミンは1人妖しい笑みを浮かべているのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 大学が終わった後、仁は亜矢と共にスーパーを訪れていた。尤もこれは仁が亜矢と訪れたと言うよりは、仁が亜矢に連れてこられたと言った方が正しいか。

 

 籠を乗せたカートを押し、亜矢について行く仁は色々な食材が入った顔に視線を落としながら問い掛けた。

 

「ねぇ、亜矢さん?」

「はい?」

「今更だけど、何で俺亜矢さんに引っ張られてスーパーに来てるの?」

「そろそろ仁君、冷蔵庫の中空になる頃じゃないですか。自発的に食材買っておかないと仁君何を食べるか分かった物じゃないからですよ」

 

 その言葉に仁はちょっぴりムッとした顔になる。そんなまるで人を口に入るものなら何でも食べようとする動物みたいな言い方しなくても…………。

 

「……俺だって、食べる物くらいちゃんと選ぶよ」

「つい最近、研究とパワーアップアイテムの開発が忙しいからってカロリーバーとゼリー飲料で朝昼晩済ませるのを3日連続でやった人が何言ってるんですか」

 

 それを言われると仁としてはぐうの音も出ない。確かにあれは思い返して自分でも酷い食生活だったとは思う。

 

 と言うかあの時の事はあんまり思い出したくなかった。あれが発覚した時、亜矢から雷が落ちたのだ。流石に栄養が偏り過ぎだなんだと、それはもう物凄い勢いで怒られた。普段そこまで怒る事がない彼女が雷を落とした事に、仁は珍しく小さく縮こまり、その場に居た白上教授や峰は顔を引き攣らせていた。

 当時の彼らの心境は完全に一致していた。亜矢は絶対に怒らせないようにしよう、と。

 

 そんな事があったので、仁はこの場では亜矢に大人しく従う事を選んだ。

 

 亜矢の後に続き、彼女が籠に食材を入れるのをぼんやりと眺める仁。

 その時、籠の中におかしな物を発見した。

 

「ん? 亜矢さん、タンマ」

「何ですか?」

 

 仁が声を掛けた事で、亜矢が食材を選ぶ手を止める。丁度人参を選んでいたところだった彼女は、どちらがいいかを吟味する為に両手に人参を持ったまま振り返った。

 

 その彼女に見えるように、仁は籠から“それ”を取り出した。

 

「亜矢さん、これも買うの?」

 

 仁が取り出したのは鼈甲飴(べっこうあめ)の袋だった。子供の頃によく舐めた、黄色っぽい色をしたあれである。

 食材の山の中から出てきたそれを見て、亜矢も目を丸くした。

 

「あ……れ? 私、そんなの入れた覚え……」

「さっき近道って言ってお菓子コーナー通った時、何かの拍子に入ったのかな?」

「かもしれませんね。すみません、戻してきます」

 

 そう言って仁の手から鼈甲飴の袋を受け取ろうとする亜矢だったが、仁はその瞬間彼女が一瞬寂しそうな顔をした事に気付いた。それを見て仁は鼈甲飴の袋を籠の中に押し込んだ。

 彼の行動に亜矢が目を丸くして顔を上げた。

 

「仁君?」

「……どうせ俺の金から出すんだし、これ位別にいいよ。食べたいんでしょ?」

「あ、や、食べたい……と言うか……えと…………あ!? お金なら全部私が出しますよ! 言い出しっぺは私なんですし!」

「これが入るの、ウチの冷蔵庫でしょ? 消費すんのも殆ど俺なんだし、なら俺が金出すのが筋だよ」

「で、でも……」

 

 こう言う所で変に頑固な亜矢はなかなか引き下がる様子を見せない。何時までもこうしていては埒が明かないと、仁は妥協点となる案を口にした。

 

「んじゃあさ、今日買った食材使って今夜の夕飯作ってよ。それならいいでしょ?」

「それ、は…………分かりました」

 

 亜矢自身、何処かで妥協しなければ話が進まないと分かってはいたので、仁の提案に乗りこの場を収めることにした。

 まぁ、見方を変えれば仁に手料理を振舞う口実が出来たのだから、亜矢にしてみればこちらの方が結果としては望ましい。

 

 再び人参に視線を戻し、良い物を選び籠に入れ歩き出す亜矢。彼女の脳内では今買った食材で今夜仁に何を作るかを考えていた。

 

(無難にカレー? それとも肉じゃが? ちょっと前に煮物を作ったし……う~ん…………)

 

 献立を考えながら歩く亜矢の後姿を眺めて、仁は何気なく呟いた。

 

「亜矢さんってさ、良いお嫁さんになりそうだよね」

「………………はい!?」

 

 突然の言葉に、亜矢は頭に浮かんでいた献立が吹き飛んだ。今のは不意打ちにも程がある。

 

「な、何ですか急に!?」

「いや、そのままの意味だよ。優しくて、面倒見が良くて、時々ちょっぴり怖くて……何よりしっかりしてる。よく分かんないけど、良いお嫁さんって亜矢さんみたいな人なんだろうなって思うよ」

「あの……すみません、勘弁してください……ホント、その辺で……」

 

 褒められて嬉しい事は嬉しいのだが、べた褒めされ過ぎて逆に困ってしまう。顔から火が出るとは正にこの事だ。亜矢は真っ赤に染まった顔を周りに見られないように、顔を隠すように俯きながら歩みを進める。心なしか、その歩みは先程よりも速い。カートを押している仁との距離が段々と開いてしまった。

 

 置いて行かれないようにと、仁はちょっと歩走りでカートを押し亜矢の隣に並んだ。横から彼女の顔を覗き込み、耳まで真っ赤に染まった彼女の顔を見てちょっぴり罪悪感を感じた。

 

「……何かゴメン」

「いえ、気にしないでください」

「でも……」

「いいんです。別に、嫌じゃありませんでしたから」

 

 2人の会話はそこで途切れた。仁は亜矢に対して、やらかしてしまったと言う思いを抱えながら彼女について行きそのまま会計を済ませた。

 2人して買った食材なんかをビニール袋に詰めるのだが、これがなかなかに大変だった。流石に数日分の食材を一気に買い込むと重さも大きさも嵩張る。

 

 元々大荷物になるだろうことは予想していたので、トランスポゾンは持ってきていない。あれの荷物スペースにこれは入りきらないので、帰りは2人仲良く歩きだ。

 

 荷物を2人で分けて持ち、スーパーを出て暫く歩く。

 その道中で、彼は一軒の喫茶店を見た。そして喫茶店から視線を亜矢に移す。

 

「……亜矢さん、ちょっと喫茶店にでも寄って行こ」

「え?」

「ちょっと疲れたでしょ? 一休みしよ」

 

 言われて亜矢も、スーパーでの買い物からこっち少し疲れてきている事を思い出した。自覚すると途端に、足が重くなってくる。

 

 仁の提案に乗り、2人揃って喫茶店へと入っていった。

 程よく落ち着いた雰囲気の店内は2人の突かれた気分を癒し、空いてるテーブル席に向かい合わせで座ると2人同時に一息ついた。

 

「「ふぅ~……あ」」

 

 全く同じタイミングで息を吐いたのに気付いた2人は、互いに顔を見合わせると同時に笑みを浮かべた。時に意見を対立させることはあるけれど、こういう時等は息ピッタリなのが互いに面白いのだ。

 

 互いに一頻り笑い合い、メニューを見て注文する物を選ぶ。と言っても軽い休憩の為に寄っただけであり、頼む物などコーヒーや紅茶など位のものなのであるが。

 

「ん~……俺コーヒー。亜矢さんは?」

「私は、カフェオレにしておきます」

「ん。すみませ~ん」

「は~い!」

 

 仁は店員を呼び、コーヒーとカフェオレを注文する。亜矢はと言うと、物は仁の為とは言え久々にガッツリ買い物をして疲れたのか首と肩を回して解している。

 疲れを見せる彼女の姿に、仁はお冷で唇を湿らせてから口を開いた。

 

「今日は、ありがと」

「え? あ、いえ、気にしないでください。私がやりたくてやった事です」

「ゴメンね、世話掛けちゃって」

「そう思うのなら、今後はもう少し食生活とかを気にしてください」

「ん、頑張る」

 

 仁の返答に、これは改善までの道は遠そうだなと亜矢は苦笑した。まぁ改善しないならしないで、こうして仁に構う口実が出来るのだから良いじゃないかと思い直した。心の何処かが、寧ろ仁にはこのままでいてもらい、彼のだらしなさを理由に彼にもっと接近してしまえと囁いた。

 それに気付き、果て自分はこんなに腹黒かったかと亜矢は自分で自分に首を傾げる。

 

 そうこうしていると、コーヒーとカフェオレが運ばれてきた。2人は早速カップを手に取り、淹れたてのコーヒーとカフェオレを口に流し込んだ。最近は研究室やラボで白上教授の紅茶を飲んでばかりだったので、コーヒーの苦みが久し振りだ。

 と言うか、教授の淹れる紅茶が美味すぎて他所の紅茶を飲む気にならないと言うのが正しかった。どうにも他所の紅茶は信用できず、コーヒーに走ってしまった。仁にとっての例外は、亜矢が淹れた紅茶だけだ。

 

 コーヒーの香りと苦みを堪能しつつ、仁は明日の予定なんかを考える。明日はとりあえず卒論研究を進めようか。パワーアップアイテムも完成した事だし、卒論の為に時間を割くのがいいかもしれない。

 などと考えながらコーヒーを半分ほど飲んだところで、ふと仁が亜矢の方を見ると彼女は半分ほどになったカフェオレのカップに砂糖を加えているところだった。

 

 それを見て思わず仁は呟いた。

 

「亜矢さんってさ、お茶の飲み方変わってるよね?」

「え?」

「だって最近よく見るけど、毎回途中で砂糖追加してるじゃん?」

 

 言われて亜矢は、ポカンと自分の手元のカフェオレの入ったカップを見つめた。

 その様子に違和感を感じ、仁は首を傾げた。

 

「? どうかしたの?」

「あ、いえ……」

 

 仁の問い掛けに、亜矢は心此処に在らずと言った様子で答えながらカフェオレを混ぜ、口に流し込んだ。砂糖が加わり、甘さと苦さが混ざり合った味が舌の上に広がる。

 そのまま一気にカフェオレを飲み干し、空になったカップを暫し見つめる亜矢。

 何だか悩ましい顔をする彼女を少し心配しつつ、仁は自分も残りのコーヒーを飲み干した。

 

「ふぅ…………どうかしたの?」

「……分からないんです」

「ん?」

「私、本当に砂糖を入れるつもりなんて無かったんです。なのに、気付いたら砂糖を入れてる……私、何で――?」

 

 亜矢の表情には自分に対する恐怖が見て取れた。不可解な行動をする自分自身に、亜矢は自分が分からなくなり恐れているのだ。

 

 自分に対し恐怖を抱く亜矢に、何か声を掛けようとする仁。

 

 その時、俄かに外が騒がしくなってきた。一体何事かと喫茶店の窓から外を見ると、そこでは驚くべき光景が広がっていた。

 

 視界に映るだけでもファッジが4体、街中で暴れて人々に襲い掛かっているのだ。目に映るものを破壊し、動くものは何であれ襲い掛かっている。人だろうが何だろうが御構い無しだ。

 

 その光景に2人は表情を険しくさせた。

 

「おいおい、最近静かだと思ったら。幾ら何でも極端すぎだろ」

「文句を言ってる場合じゃありませんよ! とにかく行きましょう!」

「ん、だね」

 

 2人はとにもかくにも、襲われている人々を助ける為に荷物放っておいて店の外に飛び出した。勿論代金を置いて行くのを忘れない。

 

 店の外に2人が出ると、ちょうど1人の女性が自分の子供だろう赤ん坊をファッジの攻撃から守ろうと地面に蹲って赤ん坊に覆い被さっているところだった。1体のファッジがその女性毎赤ん坊を叩き潰そうと、拳を振り上げている。

 

 仁と亜矢はそのファッジの前に躍り出ると、二人掛りでファッジの攻撃を受け止め蹴りで女性から引き離した。たたらを踏んで後ろに転倒するファッジを見て、亜矢は女性に手を貸して立ち上がらせた。

 

「さ、今の内です。逃げてください!」

「は、はい!?」

 

 亜矢に促され女性が逃げる。その間にファッジ――ベア―ファッジは体勢を立て直し、己の前に立ち塞がる2人を敵と定め敵意をむき出しにした。

 更に他の3体のファッジも、他の人間と違い自分達に楯突く2人に狙いを変更し四方から取り囲んだ。

 

 自分達の周りに集まってきたファッジを前に、仁と亜矢は互いに背中合わせになって身構える。

 

「こいつは少し骨が折れる……かな?」

「でもこのファッジ達、見た所幹部じゃなさそうですね」

「そだね。なら、油断しなけりゃ何とかなりそうだ」

 

 話しながら2人はデイナドライバーを取り出し、ベクターカートリッジを手に取った。

 

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

〈CAT Adaputation〉

「「変身!」」

〈〈Open the door〉〉

 

 それぞれデイナとルーナに変身すると、ファッジ達との戦闘に突入する。

 

 デイナはベア―ファッジとジャガーファッジ、ルーナはマンティスファッジとピラニアファッジ――どちらも以前デイナが戦ったファッジだ――と戦い始める。

 

 ベア―ファッジの丸太の様な腕から放たれる一撃を、デイナは交差させた腕で受け止める。流石熊の遺伝子と言うべきか、受け止めたデイナの腕が軋みを上げ、足元には蜘蛛の巣の様な罅割れが広がった。

 

「う、くぅ」

 

 何とか堪えるデイナだったが、そこにジャガーファッジの横槍が入る。素早く動き回るジャガーファッジは、ベア―ファッジのパワーに押え付けられているデイナの周りを素早く動き回り攻撃を仕掛ける。

 

「うぁっ!? くっ!?」

 

 パワー型とスピード型の組み合わせに翻弄されるデイナの様子を、チラリと伺うルーナだったが彼女は彼女でマンティスファッジとピラニアファッジを相手にするので手一杯だった。

 

「くっ!」

 

 迫る2体のファッジにルーナはリプレッサーショットを向け引き金を引くが、彼女の相手はどちらもスピード型。動きが素早く狙いを定めるのが難しい。

 あっという間に肉薄され、鎌や鰭で体のあちこちを切り裂かれる。

 

「うあぁぁっ?! くっ!?」

 

 切り裂かれる痛みに悲鳴を上げながら、ルーナは懸命に反撃を繰り出すが放たれた銃弾は何もない空間を通り過ぎるだけだった。

 

 現状、スピード特化のファッジ3体の所為で2人の仮面ライダーは劣勢を強いられていた。

 

 BHエレキテルカートリッジがあればこの状況を打破する事も容易だったろうが、完成していない事が悔やまれる。

 

 とは言え、無い物強請りをしても始まらない。現状で出来る事をしなければ。

 

「とりあえずお前らには、これなんかが効くんじゃないかな?」

〈HAWK + LEON EVOLUTION!〉

 

 デイナは一瞬の隙を突き、ベアーファッジとジャガーファッジの攻撃から抜け出しベクターカートリッジを交換した。

 

「ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 デイナが選択したのはホークベクターカートリッジとレオンベクターカートリッジ。空中を自在に飛行するだけでなく、陸棲生物の肉食動物を相手に威圧効果を発揮できるベクターカートリッジだ。

 

 デイナがゲノムチェンジをすると、彼と対峙しているベアーファッジとジャガーファッジはその威圧感に気圧されて動きが鈍くなる。

 

 その隙をデイナは見逃さない。一気に肉薄すると先程までのお返しと言わんばかりに2体のファッジを攻撃した。鋭い正拳突きがベアーファッジの胸板を穿つように突き、キレのある手刀がジャガーファッジの表皮を文字通り切り裂いた。

 

 一気に形勢逆転したデイナに対し、ルーナは未だに苦戦を強いられていた。

 

「くぅ……はぁ……はぁ……」

 

 全身傷だらけで、地面に膝をつくルーナ。窮地に陥った彼女を見て、デイナが2体のファッジを始末して彼女の救援に向かおうとする。

 が、それよりも早くにピラニアファッジとマンティスファッジが動いた。

 

「「キシャァァァァァッ!」」

「ッ!? 亜矢さん!?」

 

 一気に襲い掛かり、彼女に止めを刺そうとする2体のファッジ。デイナはそれを見てなりふり構わず彼女の救援に向かおうとした。

 瞬間、突然右足が動かなくなる。何事かと足元を見れば、右足が粘着性の糸で地面に貼り付けられていた。

 

「あいつ……」

 

 それがスパイダーファッジによるものである事に直ぐに気付いた。咄嗟に奇襲を警戒し、周囲に目を走らせるが見える範囲でスパイダーファッジの姿は見られない。

 

 その隙に2体のファッジがルーナの目前に迫った。

 

「あ――――」

 

 振り下ろされる鎌と爪に、ルーナはまるで他人事のような呆けた声を上げ――――――

 

 直後、まるでブレイクダンスの様な動きで2体のファッジの攻撃を弾き、その勢いを利用して一気に立ち上がる。まさかの反撃に2体のファッジは理性がないにもかかわらず困惑した様子を見せた。

 

 その困惑はルーナに反撃の隙を与える事になる。彼女は後ろに飛び退きながらリプレッサーショットを構え、2体のファッジに何発も銃弾を浴びせた。

 

 ここで漸く気を取り直した2体のファッジは、銃弾を喰らいながらも彼女に襲い掛かろうと前に飛び出す。

 が、2体のファッジが目前まで迫ったところでルーナは片方を足場にその場で跳躍し、ファッジ達の頭上を取るとそこからまた何発も銃弾をお見舞いした。

 

 立て続けに銃撃を受け、2体のファッジの動きが鈍った。その隙にルーナはリプレッサーショットを両腿のホルスターに収めると、レセプタースロットルを引いた。

 

〈ATP Burst〉

「ハァッ!」

 

 ルーナのノックアウトクラッシュが、ハイキックとなって2体のファッジに叩き込まれる。頭を蹴り飛ばされた2体のファッジは大きく吹き飛ばされ、落下したところで爆散し元の姿に戻った。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……、今のは――?」

 

 2体のファッジをあっという間に倒した事に、自分が一番驚いているのか呆然とした様子で自分の手を見ている。

 

 呆ける彼女を横目で見つつ、デイナは自分も2体のファッジにトドメをさす。

 

〈ATP Burst〉

「ふっ、ハッ!」

 

 デイナはインペリアルウィングで飛翔し、ジャガーファッジを挟み蹴りで掴むとベア―ファッジに叩き付け、2体が纏まったところで今度は2体に同時に挟み蹴りを叩き込んだ。獅子の顎で噛み砕かれるが如く、2体のファッジが挟まれ爆散する。

 

 倒された事で変異が解けるベア―ファッジとジャガーファッジ。その正体を見て、デイナは既視感を感じた。

 

「ん? こいつ等――?」

 

 その2人が、以前ジェリーフィッシュファッジとスターフィッシュファッジとして襲い掛かってきた時の事を思い出したのだ。まさか見覚えのある奴が、別のファッジとなって再び戦う事になるとは思ってもみなかった。しかも様子から考えて、ほぼ強引に変異させられた筈だ。

 二度も強制的に変異させられ、そして戦う事になるなどどんな偶然だとデイナは哀れに思うやら呆れるやらであった。

 

 とりま、見た所ファッジの脅威は去ったようだという事でデイナは変身を解除した。

 だがルーナは未だ呆然とした様子で、変身も解除せず自分の手を見つめている。

 

「亜矢さん、もう終わったよ?」

「ッ!? あ、仁君…………はい」

 

 仁に言われて慌てて変身を解除する。元の姿に戻り素顔が露になった事で、何処か不安を抱えた亜矢の顔が露となる。

 

 内心で自身に対する不安で震えている様子の亜矢をジッと見つめる仁。彼は彼女から視線を外し、何かを考えると彼女の手を取り喫茶店に戻りながら口を開いた。

 

「亜矢さん。今夜はウチに泊って行きなよ」

「は、え?」

「どうせ今夜は亜矢さんに晩御飯作ってもらうんだし、その後帰るとなると夜も遅くなるだろうから」

「いや、でも迷惑になりますって!?」

 

 口ではこんな事を言っているが、亜矢としては渡りに船であった。それは彼の家に泊れることが出は無く、心細いからである。

 自分の中で明らかに普通ではない事が起きている。それが何であれ、訳が分からぬまま1人で過ごす事は彼女の不安を掻き立てた。それを癒す為、不安を紛らわす為に彼女の心は人肌を欲していた。

 

 しかしここで仁に頼るのは、彼に重荷を背負わせている様な気になりどうしても一歩引いてしまう。

 そんな彼女の想いを、彼はお見通しだった。

 

「不安なんでしょ? 顔に全部書いてあるよ」

「あ……」

「遠慮せず、頼りたい時は頼ってよ。これ位の事で迷惑に感じる程、俺人間小さくないつもりだよ?」

 

 そう言って仁は亜矢の不安を受け止める姿勢を見せた。それは誰かに縋りたいと願う彼女にとって、これ以上無い程甘美な誘惑であった。

 

 彼女の中で彼に甘えたいと言う想いと、彼に頼り過ぎてはいけないと言う戒めが対立する。が、軍配を上げたのは想いの方だった。何かに促されるように、亜矢は仁の提案に頷いて答えた。

 

 それを見て仁は安堵したように息を吐き、彼女の手を引きながら喫茶店へと目を向ける。

 

「さぁ…………検証の時間だ」

 

 喫茶店に戻る道すがら、仁が小さく呟いたその言葉は亜矢の耳に届くことなく虚空に消えるのだった。




と言う訳で第15話でした。

以前亜矢を痛め付けたオクトパスファッジの男に名前が付きました。最初はあの時だけの名無しのモブ程度のキャラだったはずなんですが、まさかの名前を引っ提げての再登場と相成りました。

もう薄々気付いている方も多いでしょう亜矢の異変については、次回決着と言うか明らかになる予定ですのでお楽しみに!

執筆の糧となりますので、感想その他宜しくお願いします!

次回も宜しくお願いします!それでは。
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