仮面ライダーデイナ   作:黒井福

20 / 73
どうも、黒井です。

今回は峰のキャラクターを掘り下げる意味合いを持つストーリーとなっております。


第17話:眠り続ける兄

 物が散らかった部屋の中で、峰が身支度を整えていた。

 珍しい事に、この日は軽くだが化粧をしている。普段は化粧っ気も無く、拓郎などに女っ気が無いと辛辣な評価を下される彼女が、たまにしか使わない化粧道具を取り出して自分を磨いているのだ。

 

 仁と亜矢が見れば信じられないと言った顔をするだろう。

 

 だがこれも彼女にとっては必要な事であった。今日は彼女にとって大事な予定がある日、こう言う時くらいは彼女だって着飾っていた。

 

「ふむ…………こんなもんかな?」

 

 最後に鏡で出来栄えを確認し、問題がない事を確認するとバッグを持って家を出る。

 

 眼鏡を掛け直しながら歩く彼女が目指すのは、都内にある大手病院。そこに居るある人物に会いに、彼女は足を進めていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 明星大学の白上ゼミの研究室では、峰が居ない事に仁が疑問の声を上げていた。

 

「あれ? そう言えば今日宮野先輩は?」

 

 仁の疑問の声に、亜矢は周りを見渡し首を傾げる。何だか今日は随分と静かな気がしていたのだが、その原因が峰の不在である事に気付いた。

 

「そう言えば今日はラボの方でも見かけませんでしたね? お休みですか?」

「あぁ……あいつなら今日は私用で休みだ」

 

 2人の疑問の答えたのは拓郎だった。彼は自分の研究を行いながら素っ気なく答えた。ドライな彼の答えに、亜矢は違和感を抱き、仁は特に興味も無さそうに適当な相槌をした。

 

 そのまま峰が居ない事への疑問が流れていきそうになった時、亜矢の中で真矢が呟いた。

 

【ずっと気になってたんだけど……】

「ん? 何、真矢?」

 

 突然疑問の声を上げた真矢に、亜矢は応対を口に出してしまう。その声に仁が反応し彼女の方を見る。

 

「どうかしたの、亜矢さん?」

「あ、真矢が気になる事があるって……」

【あの峰って人、一体何者? 只の学生じゃないわよね?】

 

 以前亜矢がデイナドライバーを手に入れようとした時、峰は付け焼刃ではない戦闘技術を見せた。あの時は真矢の助力もあって勝つ事が出来たが、あの時の動きは明らかにただ教授の研究や活動に興味を持ってファッジに関わった者のそれではない。どう考えても実戦を考えて身に付けた戦う為の動きだ。

 

 仁や亜矢の様に、必要に駆られ磨かれたのとは違う峰の戦闘技術に、亜矢は改めて疑問を抱いた。

 

「……そう言えば宮野先輩って、何で白上教授の裏の活動に参加したんですか? 瀬高先輩も?」

 

 問い掛けられて、拓郎は何と答えたものかと言った感じに唸り声を上げた。自分1人の事なら答えるのも吝かではないが、流石に峰の事まで勝手に話すのは気が引けると言ったところだろうか。

 

 拓郎が言い辛そうにしていると、それまで黙っていた白上教授が口を開いた。

 

「これに関しては、ちょっとデリケートな問題でね。他人の口からおいそれと話す訳にはいかないんだ」

「…………つまり、普通とは違う事情が宮野先輩にはあるって事ですね?」

 

 教授の口ぶりから峰には複雑な事情――それも戦わねばならないような何か――がある事を仁と亜矢は察した。

 皆の言いたい事は分かるし、そう言う事なら第三者である自分達があれこれ訊ねる事はあまりにも失礼過ぎるかと理解を示し口を紡ぐ2人だったが、それでも気になる事は気になった。特に仁は、あの峰に一体何があったのかと眉間に皺を寄せた。

 

 そんな彼の様子に小さく溜め息を吐くと、白上教授はメモ用紙にペンを走らせ彼に渡した。

 

「これは?」

「どうしても気になると言うのなら、そこに行ってみると良い。今から行けば宮野君とも会えるだろう」

 

 それだけ言って教授は研究室の方の自分のパソコンと向き合った。それ以上は自分の口から言う事は無いという事らしい。

 

 仁は渡されたメモ用紙に視線を落とす。そこに書かれていたのは「四つ葉総合病院」と言う都内の病院と、「宮野 (けん)」と言う名前だった。

 メモ用紙に書かれている二つの名前を覚え、仁は亜矢を見た。彼女も横から彼が渡されたメモ用紙の内容を見ていた。

 

 自分に視線が向けられた事に気付き亜矢の方も仁を見る。視線が合うと、2人は同時に頷き合った。

 

 そして2人は手早く片付けると、メモに書かれた病院に向かうべく研究室を出て行った。それを見もせず見送る白上教授。

 拓郎はそんな彼にこれで良かったのかと訊ねた。

 

「良いんですかね? 勝手にあの2人行かせちゃって?」

「宮野君からは、駄目とは言われていないよ」

「そうかもしれませんが……」

 

 拓郎はどこか納得できていない様子だ。勝手に2人に、峰のプライベートに関わる事を一端でも教えた事に不満があるらしい。

 

「あの2人は俺らと違って、教授の裏事情に深く関わってる。そんな2人に、関係ありそうな事を黙っておく理由はないんじゃないか?」

 

 不満そうな拓郎にそう告げたのは史郎だった。実験機材の向こうから顔を出し、首から上だけを拓郎に向けている。

 

「俺と康介はよく知らないけど、宮野の奴は殊更に教授の裏事情に関係してるんだろ? なら、同じように裏事情に深く関わってるあの2人を私情で除け者にするのは少し違うんじゃないか?」

「除け者…………んー……」

 

 史郎の口にした除け者と言う言葉に何かを言い返したそうにした拓郎だったが、良い反論が思いつかず、また彼の言う通り私情が入っている事も事実だったので何も言い返せなかった。

 

 拓郎はそのまま何も言い返せず、口をへの仁に曲げて視線を史郎から外しパソコンの画面に向けた。体はその場に留まっているが、これも一種の逃避である。

 

 その彼の近くに、一杯の紅茶が置かれた。

 

「ま、難しく考える事は無いだろう。宮野君の性格とあの2人の事を考えれば、そう悪い結果にはならない筈だよ」

 

 そう言って白上教授は彼の元を離れ、史郎と康介にも紅茶の入ったカップを渡した。

 彼の後姿を見送り、拓郎はそっと紅茶のカップを口に付ける。程好い温度に調整された紅茶の温かさと、エグみの無い爽やかな苦味が心を落ち着かせてくれた。

 

「ふぅ……」

 

 自然と零れる溜め息。拓郎は一息つき、自分が必要以上に肩肘張り過ぎていた事に気付いた。

 

(全く……らしくない)

 

 拓郎は思わず苦笑し、気分を入れ替えて研究に戻った。仁と亜矢なら、峰の抱える問題と上手く付き合ってくれると信じて…………。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「四つ葉総合病院……ここか」

 

 大学を出た仁と亜矢の2人は、彼の運転するトランスポゾンで教授に教えられた病院へと到着していた。

 教授に渡されたメモ用紙によると、ここに居るという宮野 健を訊ねれば何か分かるという事だったが……。

 

「この病院で働いてらっしゃるという事でしょうか?」

「ん~、そんな感じじゃないと思うけど……取り合えず受付で聞いてみよう」

 

 仁は早速駐車場にバイクを停め、正面から入ると受付に向かい健と言う人物について訊ねた。

 

「すみません。こちらに居る宮野 健と言う方に会いたいんですけど?」

「宮野 健……少々お待ちください」

 

 仁が訊ねると、受付の女性が席を外した。戻ってくるまでの間仁は受付カウンターに寄り掛かり、病院にやって来る患者達の様子を観察していた。

 

 受付の女性は程なくして戻ってきた。

 

「お待たせしました。面会を希望されているのは、宮野 健さんで宜しかったでしょうか?」

「はい」

「そちらの方でしたら、303号室の病室にてお会い出来ます」

 

 病室に居るという事は、健と言う人物は患者と言う事だ。

 仁と亜矢は互いに顔を見合わせると一度頷き合い、そして受付に病室を教えてもらい向かって行く。

 

 やがて辿り着いた病室に、宮野 健と言う文字を見つける2人。仁が代表して病室のドアをノックすると、中から峰の声が聞こえてきた。

 

『はい、どうぞ!』

 

 呼び声が掛かったので、2人は病室へと入った。

 病室に入ると、ベッドサイドの椅子に腰かけていた峰が少し驚いた表情で2人の事を見た。

 

「えっ!? 2人とも、何で?」

「どうも、先輩」

「すみません先輩。真矢が先輩の事に色々と疑問を抱きまして……」

「そしたら教授が、ここに来れば先輩がラボに協力してる理由が分かるって」

 

 2人が素直にここに来た理由を告げると、峰は少し苦笑してベッドに寝ている人物に目を向けた。

 

「まぁ……何時かは2人にも話した方が良いかなって思ってたんで、別に良いんですけどね」

「……その人は?」

「ご家族ですか?」

 

 まぁ苗字が同じなのだから、血縁者である事に違いは無いだろう。ベッドの上で眠っているのは、峰ともそう年が離れていないように見える男性だ。

 峰は男性の、中途半端に伸びて目に掛かっている前髪をかき分けながら答えた。

 

「兄さんです。もう2年はここで眠っています」

「2年も……」

「事故ですか?」

 

 仁がそう訊ねる。だが彼が訊ねると、峰は首を横に振り顔を憤りに歪め拳を握り締めてそれを否定した。

 

「いいえ、事故なんかではありません。兄は奴らに……傘木社の連中にやられたんです――!?」

 

 今まで見た事のない顔を見せる峰に、仁が目を細める。だが彼女から放たれる雰囲気に、亜矢は身に覚えがあった。

 そう、以前自分の前に立ち塞がった、あの時に感じた雰囲気に似ているのだ。

 

「傘木社に?」

「…………兄は、元々傘木社の研究員だったんです」

 

 峰の告白に亜矢は驚き、仁は興味深そうに彼女を見る。峰は2人からの視線を受け、気持ちを落ち着けるように大きく深呼吸して話を続けた。

 

「最初はただ普通の研究員として働いていました。当時は私も、兄が大企業の研究員になれたと思って喜んでいました。だけど――――」

 

 健は研究者として優秀だったが、同時に人格者でもあった。優秀であるが故に傘木社での裏の研究を知らされ、そしてそれに対して異を唱えたのだ。

 その事を当時の峰は知らなかった。傘木社が裏で人体実験をしていた事を、彼女が知る事になったのは傘木社の魔の手が健に伸びた時であった。

 

「……表向きは、兄は事故により昏睡状態になったとされています。でも、後になって兄の部屋を整理してる時、偶然にも兄が纏めていた傘木社の非人道的な人体実験などに関する資料を見つけたんです」

 

 推測でしかないが、健は恐らくこれを警察などに知らせるつもりだったのだろう。そしてその前にこの事がバレて、行動を起こす前に傘木社からの刺客の手に掛かった。

 

「この事、警察には?」

「勿論、資料の事を知ってから私は警察に駆け込んで全部の資料を基に傘木社を告発しようとしました…………だけど!?」

 

 警察は峰の告発を相手にしなかった。最初こそ真面目に取り合ってくれたのだが、突然手の平を返したように彼女が提示した資料を全て虚偽と断じて傘木社への捜査を打ち切ったのだ。

 恐らくは傘木社からの裏取引があったのだろう。仁と亜矢はそれを察し、そしてそれにより涙を呑むしかなかった峰の無念を思い胸を痛めた。

 

 気付けば峰は拳を握り締め、涙を流していた。

 

「相手にしてくれない警察と、眠り続ける兄に色々とやる気を無くして半ば廃人になってた私に声を掛けてくれたのが白上教授でした。あの人は傘木社と戦う為に少しずつでも力を付けているって。だから私も、それに協力しようって思たんです」

「……戦闘技術はそこから学んだんですか?」

「えぇ。実を言うと、デイナドライバーは本当は私が使う予定だったんですよ」

 

 まさかの発言に2人は思わず目を剥いた。

 

 デイナドライバーは元々峰が使う為に調整されていたのだが、最初のデイナドライバーは仁を助ける為に使われ彼専用に。そして予備として作られたドライバーは、亜矢との勝負に負けた事で彼女専用となってしまった。

 

 その時の彼女の無念は如何ばかりだったか。特に横から掻っ攫う形となった亜矢は、申し訳無さを感じて峰に頭を下げた。

 

「その、ごめんなさい。私、何も知らないからって……」

「ん……良いんですよ。あの時負けたのは私の方です。傘木社と戦う為には、より優れた方がそれを使う方が理に適ってます。だから気にしないでください」

 

 そうは言うが、峰の顔にはやはり何処か口惜しさが見え隠れしていた。やはり兄の無念を晴らす為には自分の手で、と言う気持ちが強いのだろう。それを押し隠して、彼女は2人に戦いを託した。

 

 強い女性だ…………仁は峰をそう評価した。今までは偶に変な方向にスイッチが入る女を捨てた先輩と言う印象でしかなかったが、その評価を改めたのだ。

 

「何時か…………」

「ん?」

「何時かきっと、起きてくれる日が来ますよ」

 

 気付けば仁の口からは、そんな励ましの言葉が出ていた。彼の口からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったので、峰は一瞬驚き目を瞬かせ、次の瞬間には目尻に薄く涙を浮かべて笑みを浮かべていた。

 

「うん…………ありがとう」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 それから3人は少しの雑談を挟み、ちょうど時間が昼になったという事で病院内の食堂へと向かって行った。

 

 病室から離れて行く3人の背中。それを見送る人物が1人居た。

 

「……宮野 健、ねぇ?」

 

 3人の背を見送り、彼らが見えなくなってから病室の前に立ったのはチミンだった。仁と亜矢に仕返しをしようとコッソリ2人の後をつけていた彼女は、2人の後をつけて病院にまでやって来ていたのだ。

 彼女は3人が角を曲がり姿が見えなくなったのを見計らって病室の前に移動し、部屋番号の下に掛けられた患者の名前を見てそれが誰であったかを思い出した。

 

「……あぁ、昔私達の事をバラそうとしてたあの馬鹿か。仕留めたと思ってたのにまだ生きてたとはね」

 

 その昔、健が傘木社の悪事を告発しようとしていた時、彼を襲ってそれを妨害したのは他ならぬ彼女であった。スパイダーファッジとなり健を襲い、彼を意識不明の昏睡状態にさせたのだ。

 尤もその時彼女自身は健の命を奪うつもりであった為、こうして彼が生きている事は彼女にとって誤算であった。

 

 あの2人よりも先に、こちらを仕上げてしまおうと病室に入るチミン。確実に抵抗してくるあの2人に比べれば、死に損ないにトドメを差す事など赤子の手を捻るよりも容易い。

 

「やり残した仕事は、きっちり片付けないとね――!」

 

 病室に入り、スパイダーファッジver.2に変異して健の心臓を抉ろうと手を上げる。が――――――

 

「――――いや、そうね……」

 

 何を思ったのか彼女はその手をゆっくりと下ろし代わりにベクターカートリッジを取り出した。それも1個ではなく複数個。

 顔も変異しているので表情に変化はないが、それでもこの場に第三者が居れば彼女が悪い笑みを浮かべているのが手に取るように分かっただろう。

 

「フフ――!」

 

 スパイダーファッジは複数のベクターカートリッジを手に、眠り続ける健を見下ろした。

 

 そして――――――

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方病院の食堂で軽く昼食を済ませた仁達。食後のコーヒーで一服し、さてそろそろ出ようかと言う時突然峰の持つタブレットがアラームを鳴らした。

 

 けたたましいアラームに他に居る客からの視線が突き刺さる。亜矢は向けられる視線に申し訳なさそうに頭を下げ、仁と峰はファッジの出現にタブレットを覗き込んだ。

 

「場所はどこです?」

「ちょっと待ってください。場所は…………え?」

 

 タブレットに表示されている地図は、正しく今3人が居る辺りを示していた。そしてファッジの存在を示す光点は、明らかに3人が居る病院内にあった。

 つまり、ファッジは今正に3人が居るこの病院内に出たという事。

 

 驚愕に顔を見合わせる3人。その時、食堂の外がにわかに騒がしくなる。どうやら院内のファッジが暴れ出したらしい。騒動によるパニックが伝染し、動ける人々が我先にと逃げ出し始めたのだ。

 

「行こう。このままだと先輩のお兄さんも危ない」

「ッ!? はい!」

 

 2人は即座に気を取り直し、食堂を出て病院内を駆けていく。先程のタブレットではファッジが現れたのは病院内の何処かと言う事しか分からなかったが、何処に出たかの検討は大体つく。要は人の流れに逆らえばいいのだ。その流れの上流に騒動の原因はある。

 途中すれ違った職員などに引き留められるが、2人はそれを振り払い人の流れに逆らって行った。

 

 一階の食堂を出て、病院ロビーを通り、階段を上がった。

 二階に上がると、近くから何かが壊れる音がした。どうやらファッジは二階に居るらしい。

 

 2人は互いに頷き合うと、息を潜めて慎重に二階を進んで行く。二階の診療病棟内は既に人々が逃げ出した後なのか、物が散乱しているだけで人の姿がない。

 極力足音を立てないようにしつつ、リノリウムの廊下を歩く。

 

 と、その時、目の前に病院の医師だろう白衣を着た男性が血塗れになりながら床を這って診察室から出てきた。

 

「う、うぅ……た、助けて……」

 

 医師は2人の姿を見つけると、手を伸ばして助けを求めてくる。仁は周囲に警戒しつつ、亜矢と共に医師に駆け寄りその手を取った。

 

 次の瞬間――――――

 

「グルァァァァァァッ!?」

「ヒィッ!?」

 

 突然、2人が何もしていないのに医師の体が持ち上がった。まだ診察室の中にある足が、ファッジに掴まれ持ち上げられたのだ。

 医師はそのまま診察室の中に引き摺り込まれそうになる。2人は物凄い力で引き摺り込まれそうになる医師の手を掴み、彼を助けるべく診察室から引っ張り出そうとした。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!? 助けて、助けて、助けてぇッ!?」

「くぅ……」

「駄目です! 手を、離さないで…………あぁっ!?」

 

 必死に医師の手を引く2人だったが、医師自身の血で濡れた手は滑りやすい上にファッジの力に生身では対抗しきれず、医師は診察室に引き摺り込まれてしまった。

 

「ひっ!? やめ、ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 引き摺り込まれた直後、診察室から飛び出る血飛沫と断末魔の叫び。目の前で1人の命が奪われた事に拳を握り締める仁と目を背ける亜矢。

 

 だが2人に彼を助ける事が出来なかった事を悔やむ時間は与えられなかった。血飛沫が止むと、壁を突き破って騒動の原因となるファッジが飛び出してきた。

 

「こいつが……?」

 

 飛び出してきたそのファッジの姿に、仁は眉間に皺を寄せた。

 

 そいつは奇妙なファッジだった。鋭い牙が生えた口に犬か何かの様な耳があり、腕には鰭、体の各所からは吸盤のついた触手が生え、背中には虫の羽まである。

 今までのファッジは何だかんだで遺伝子元の生物が外見で大体特定できるものばかりだったが、コイツは何が元になっているのか全く分からない。まるでいろいろな生物をごちゃ混ぜにしたような奇妙な姿だった。

 

「亜矢さん、気を付けて。こいつ今までのファッジとは違う」

「そうみたいですね。真矢もさっきから気を付けろって言ってます」

 

 唸り声を上げるファッジを前に、2人は警戒しつつデイナドライバーを取り出し腰に装着した。

 

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

〈CAT Adaptation〉

 

 それぞれベクターカートリッジをドライバーに装填する仁と亜矢。2人の様子に本能的に脅威を感じ取ったのか、目の前のファッジは牙を剥き唸り声を強くした。

 

「さぁ、検証の時間だ」

「私はもう、失わない!」

 

「「変身!」」

〈〈Open the door〉〉

 

 2人はデイナとルーナに変身し、構えを取りファッジと対峙する。戦闘体勢に入った2人を前に、ファッジは一切の躊躇も無く2人に飛び掛かった。

 

 

 

 

 その頃、峰は健を心配して危険を承知で彼の病室へと向かっていた。途中病室内で無残に殺されている入院患者の姿などを見る度、峰は最悪の事態を予想し病院内を駆け抜ける。

 

「兄さんッ!?」

 

 漸く健の病室に到着した時、彼が居る筈の部屋のドアは“内側から”無残に破壊されていた。その光景に彼女はまさかと思い、縋る思いで病室の中に飛び込んだ。

 

「兄さんッ!?…………え?」

 

 峰が病室内に入った時、そこには誰も居なかった。ベッドから何まで病室内はあらゆる物が破壊されていたが、肝心の健の姿は影も形も無い。

 

「兄さん……一体何処に――――!?」

 

 峰が呆然と室内を見渡す中、割られた窓から風が吹き込み引き裂かれたカーテンの切れ端が風に舞い上がった。




と言う訳で第17話でした。

当初峰は単なるサブキャラクター程度のつもりだったんですが、気付けば大分キャラが立ってきた感じです。何気に彼女の事を好んでくれている読者の方も居るからか、段々と自分の中でも峰のキャラクターが大きくなっていったんですよね。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。