仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回より新章突入となります。


第19話:動き出す司法

 日も沈み、出歩く者も居なくなった街の一画にて――――――

 

「撃て、撃てぇッ!?」

 

 S.B.C.T.の隊員達が、2体のファッジを相手に必死に攻撃していた。突如街に出現したそのファッジ達は、不運にもその場に居合わせた一般市民を殺害。ギリギリで難を逃れた者からの通報で、S.B.C.T.がファッジ討伐の為にこうして出動したのである。

 

 しかし戦況は芳しくない。1体でも手を焼かされたファッジが今回は2体、しかもこのファッジ達は簡易生産されたベクターブレスにより理性を保ったまま変異している。

 本能のままに暴れる以前のファッジとは違い、時に狡猾な戦いも見せる2体のファッジにS.B.C.T.の隊員は次々と倒れていった。

 

 手塩にかけて育てた部下が命を落としていく光景に、宗吾は奥歯が砕ける程歯を食いしばった。

 

「くそぉ、化け物共めッ!?」

 

 思わずファッジに対して呪詛を吐く宗吾。

 その彼の耳に、何処からか近付いてくるバイクのエンジン音が響いた。

 

 まさかと思い宗吾がそちらを見ると、そこにはトランスポゾンに乗ってやって来たデイナとルーナの姿があった。

 

「仮面、ライダーッ!?」

 

 デイナとルーナと言う2人の仮面ライダーの登場に、宗吾は声を上げずにはいられない。

 敵ではないのかもしれないが、得体の知れない連中に自分達の仕事を任せるのが気に入らないのだ。

 

 しかし気に入ろうが入らなかろうが、最早この場はS.B.C.T.でどうにかなるレベルを超えていた。彼らでファッジへの対処がどうにもならない以上、あの2人に任せる以外に道はない。

 宗吾は職務に対するプライドは持っていたが、プライドに拘り最悪の事態を招くほど愚か者では無いのである。

 

 デイナは生き残ったS.B.C.T.隊員と2体のファッジの間を遮るようにトランスポゾンを停めると、宗吾達に撤退を促した。

 

「ここは俺達に任せて」

「皆さんは後退を! 怪我をしている人達の事はお任せします!」

 

 2人は怪我人の事を生き残りの隊員に任せ、2体のファッジを相手に戦い始める。

 

 数の上では勝っていたにもかかわらず碌に対抗できなかった自分達と違い、仮面ライダー達はそれぞれ1人で1体のファッジを相手に互角に立ち回っている。その光景に宗吾は自分達の無力さが情けなくて悔しくて、気付けば拳を硬く握りしめていた。

 

「くっ!? ぬぅ……くくく――――!?」

「隊長!? この場は彼らに任せて、後退しましょう!?」

「~~~~!? 分かっている!? 総員、撤退だッ!! 負傷者は優先して運べッ!」

 

 宗吾が指示を出し、S.B.C.T.隊員は次々と後退していく。その間にもデイナとルーナは2体のファッジを相手に優位に立ち回り、徐々にだが追い詰めていった。

 

 最後に宗吾が移動車両に乗り込む直前、背後を振り返るとそこでは今正に決着が着く寸前と言う所であった。

 

〈〈ATP Burst〉〉

「ハァァッ!」

「ヤァァッ!」

 

 デイナとルーナがそれぞれ放ったノックアウトクラッシュが、2体のファッジを倒した。ファッジ達は爆散し、後には変異が解けた人間が残される。

 

 ファッジの脅威が無くなったのを見ると、宗吾は撤退を取り消しファッジだった2人の人間の確保。そして仮面ライダー2人の拘束へと行動を移した。

 

「ファッジだった2人を確保しろ! 残りは俺と一緒に、仮面ライダーをッ!?」

 

 そう言いながら宗吾はファッジを倒してこの場から離れようとしているデイナとルーナに近付き、2人に銃口を向けた。

 

「待てッ!? お前達には色々と聞きたいことがある! このまま我々と同行しろ! 拒否するのであれば力尽くで連行する!?」

 

 数少ない生き残りの隊員と共にデイナとルーナを拘束しようとする宗吾。彼はかなり息巻いているようだが、他の隊員達はあまり気乗りしている様子がない。曲がりなりにも命の恩人である仮面ライダー達に銃を向ける事に気が進まないし、ファッジと対等に戦える仮面ライダーを力尽くでどうにかできるとは彼ら自身思っていないからだろう。

 宗吾自身、現状の戦力で仮面ライダーをどうにかできるとは思っていない。しかしやらずにはいられなかったのだ。仮面ライダーをこのまま見逃すのは、彼のプライドが納得してくれなかった。

 

 一方仮面ライダー2人の内、ルーナは折角助けたと言うのに恩を仇で返すかの様な宗吾の行動に憤りを覚えたのか何かを言おうと一歩前に踏み出した。

 しかしデイナがそれに待ったを掛けた。片手で彼女を制すと、そのままトランスポゾンに乗りエンジンを噴かせた。

 

 またしても何も言わずこの場を去ろうとする仮面ライダーに、宗吾はなりふり構わず彼の肩を掴んで引き留めた。

 

「待てッ!? 貴様何故何時も何も言わずに立ち去るッ!? 何とか言ったらどうなんだッ!?」

 

 そこが宗吾には納得できなかった。毎度毎度、デイナは宗吾達に対して何も語らずに去って行く。その姿はまるで自分達など相手するにも値しないと言われているようで、宗吾はプライドが傷付けられていた。

 

 デイナはそんな彼の内心を知ってか知らずか、自分の肩を掴む宗吾の手を優しく外すと静かに語り掛けた。

 

「多分、今はまともに話にならないだろうから」

「何ッ!?」

「もうちょっと落ち着いて話せるようになったらその時はゆっくり話そうよ。それじゃ」

 

 デイナはそう告げ、ルーナを後ろに乗せてトランスポゾンを走らせた。

 走り去っていく彼らの後姿に宗吾は手を伸ばすが、当然届く筈も無く2人を見送るしか出来なかった。

 

「くッ!? あぁぁぁぁ、クソォッ!?」

 

 去って行く仮面ライダー達の姿を見送り、宗吾はその場で怒りに身を任せ叫ぶしか出来なかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 翌日、仁が大学で卒論研究を進めていると、同様に研究を進めている亜矢が昨日の事で声を掛けてきた。

 

「仁君。昨日のあの人達の事なんですけど……」

「昨日のあの人達? 警察の人達の事?」

「はい。そろそろ何とかした方が良いんじゃないでしょうか?」

 

 これまで仁達は警察――と言うよりはその特殊部隊S.B.C.T.――と、何度か衝突してきた。衝突と言うよりは、向こうがかなり敵対心剥き出しで接してきたと言った方が正確か。

 どうしてかは知らないが、彼らは矢鱈とデイナを敵視している。まぁ大方、自分達が苦戦するファッジに独力で対抗できるデイナの力を脅威に感じての事だろう。今はまだ敵対していないが、何時敵対する事になるか分からないから警戒していると言った感じか。

 

 しかし何とかと言われても、現状どうする事も出来ないのはと言うのが仁の見解だった。ヘタに接触すれば仁だけでなく、亜矢や白上教授にも何かしらの手が伸びるかもしれない。

 そう思うとどうにも迂闊に接触しようと言う気にはなれなかった。

 

「私は反対です。警察なんて信用できないししちゃいけません」

 

 亜矢の提案に異を唱えたのは峰だ。彼女には実際、健が傘木社の被害者になった際警察に駆け込んだが徒労に終わったと言う苦い経験がある。それもあって彼女は警察組織を信用していないのだった。

 

 そんな峰の意見に、今度は仁が否と答えた。

 

「いや、それは警察の一部の話だと思いますよ。あの人達はそう言う思惑とは別だと思います」

「何を根拠に?」

「繋がってる連中は死なないでしょ?」

 

 言われてみれば確かに、先日の戦闘でもS.B.C.T.には多数の死傷者が出た。もし彼らが傘木社と繋がっているのであれば、被害はもっと少ない筈…………と言うよりそもそも被害など出ないだろう。自分達と繋がりのある連中を、自分で何度も痛めつける理由がない。

 

 それに何より、兵隊が欲しいなら傘木社にはアントファッジがいる。忠実な駒として機能する彼らが居るのならば、警察組織内に特殊部隊を用意する必要がない。

 

「つまり、S.B.C.T.は傘木社とは無関係であると?」

「無関係どころか警察内における傘木社の暴挙に対する抵抗組織でしょ。装備が警察の特殊部隊で済むレベル超えてますよ、あれ」

 

 S.B.C.T.の装備は自衛隊のそれにも引けを取らない。恐らく警察組織の高官の誰かが、警察内に蔓延る傘木社の手の者に対抗する為にかなりの無茶を通したのだろう。そうでもしなければ、警察であるにも拘らずあれだけの重装備が許可される筈がない。

 

「じゃあやっぱり、彼らとは話し合って協力関係を結ぶべきなんでしょうか?」

「協力、したいのは山々だけど、あの隊長さんがこっちの話を冷静に聞いてくれなさそうなのがな~……」

 

 結局はそれである。宗吾の仁達に対する態度がどうにも一歩踏み出すのを躊躇させているのだ。

 

【何より私は、仁君に何度も助けられた上に尻拭いまでしてもらってるのにお礼の1つも言わないのが納得できないわ】

 

 仁に続き、亜矢の中で真矢が苦言を呈す。彼女は純粋に恩をまるで感じた様子を見せない彼らに対して不信感を抱いている様だ。

 

「(真矢、仁君は別にお礼が言って欲しくて戦ってる訳じゃないんだよ)」

【それは知ってるわ。でも、だからと言ってお礼を言わないどころか敵視する理由にはならないと思わない?】

「(それは……思うけど……)」

 

 真矢の言いたい事は分かる。仁が望んでいるいないに関わらず、助けられたのであれば感謝こそしても敵視するのはお門違いにも程がある。

 口には出さなかった(と言うか仁に止められてしまった)が、亜矢だって宗吾の物言いには文句の1つも言ってやりたかった。

 

 そんな事を考えていると、気付けば時刻は昼を過ぎていた。何時の間にか卒論研究に熱中している仁は空腹を感じていないのかそれとも気付いていないのか、昼食の時間が過ぎている事を気にした様子がない。

 なので亜矢が研究の手を止め、仁に声を掛けてやった。

 

「仁君、もうお昼過ぎてます。一旦休憩にしましょう」

「ん? あ、ホントだ」

 

 亜矢に言われて昼食の時間を過ぎている事に気付き、仁も研究を中断し白衣を脱いでハンガーに掛けた。亜矢がそれに続いて白衣を脱ぐと、仁が自然な動作で彼女から白衣を受け取りそれもハンガーに掛けた。

 

「あ、ありがとうございます」

「ん、気にしないで。今日はどうする?」

「そうですね――――」

 

 当たり前の様に2人揃って研究室を出て、昼食を共にする仁と亜矢。

 

 その姿を見送った峰は、チラリと拓郎に視線を送った。彼はそれに気付いた様子も無く、自分の荷物から弁当のオニギリを出して多目的スペースでペットボトルの茶を片手に静かに昼食にしている。

 

 彼の様子に峰は肩を竦めながら溜め息を吐くと、大学敷地内のコンビニに向かうべく自分も研究室を後にするのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方警視庁のS.B.C.T.の本部では――――――

 

「くそ、仮面ライダー……」

 

 宛がわれたオフィスのデスクにて、宗吾は書類を片付けつつ仮面ライダーに対する悪態を吐いていた。

 

 先日の戦闘も酷いもので、部隊の半数が殉職と言う目を覆いたくなるような有様であった。折角対ファッジ用に組織され様々な銃火器も融通されていると言うのに、被害ばかり出して成果が全く無い。

 これでは何時解散を言い渡されても不思議では無かった。と言うより、未だ部隊が存続している状況自体が奇跡と言えた。

 それほど彼らは今、何の成果も挙げられていないのだ。

 

 彼らの存続を危ぶめている要因はそれだけではない。先程宗吾が口にした仮面ライダーも、彼らの必要性に影を落としていた。言うまでも無く現状ファッジの討伐が出来ているのは仮面ライダーであり、仮面ライダーが居れば、何の成果も挙げられない――言ってしまえば金食い虫の――S.B.C.T.等必要無いのである。

 

 つい先程もこの事でS.B.C.T.の存在を疑問視する高官から嫌味を言われたばかりであり、宗吾は自分達の不甲斐無さとファッジに対する憎しみ。そして自分達に出来ない事をいとも容易く為してしまう仮面ライダーに対する嫉妬で、彼の機嫌は最悪と言っていい状態だった。

 

 取り合えず先日の被害に関する詳細を纏めた報告書をまとめる事に集中していた。しかしそれは嫌でも自分達の無力さと向き合う仕事。彼の中で苛立ちは収まるどころか更に増していった。

 

 しかしそれでも何とか書類との格闘を終え、一息つく為にコーヒーを淹れ喉を潤す。

 

 そこに彼の部下が書類を手に近付いて来た。

 

「隊長、休憩中の所失礼します」

「何だ?」

「先日の戦闘でファッジだった2人が身に付けていたと思しき装備についてですが……」

 

 先日の戦闘でファッジだった2人は、簡易生産されたベクターブレスを装備していた。傘木社はこれを回収することなく放置していたので、彼らの技術の一端などが分かるのではとS.B.C.T.に回収されていたのだ。

 

 しかし書類に目を通す部下の表情は芳しくない。宗吾はそれだけで結果が予想出来、溜め息を吐かずにはいられなかった。

 

「結論から言いますと、得られた情報は何もありませんでした。どうやら倒されると自動で内部構造が破壊されるように細工されていたようで、仕組みは勿論傘木社との繋がりも分からない状況でした」

「あの2人は?」

「事情聴取しましたが、傘木社との関連はありませんね。ほぼ無作為に選ばれてベクターカートリッジを手に入れたようです」

 

 当然だが2人にベクターカートリッジを融通したのが何者かに関しての情報は一切ない。薄々予想出来ていた結果だっただけに、宗吾は特に機嫌を損ねる事無く部下の報告を聞いていた。

 

「……そもそもあの2人は何であんな所で暴れてたんだ? 一般人に犠牲者まで出して?」

「あの2人、麻薬の売人と客と言う関係みたいです。犠牲者を出したのは目撃者の始末が目的だったみたいで」

「ファッジ関係なく屑か」

「現在はそっち方面での取り調べが行われている最中です」

 

 宗吾は溜め息を吐き、カップに残ったコーヒーを飲み干した。気付けば冷めていたコーヒーは、酸味を増している。

 

 全く良い報告がない。部隊は半壊、成果は挙げられず高官からは煙たがられ、半ば漁夫の利を得る形で手に入れた証拠品も全く役に立たなかった。これで苛立つなと言うのは無理があるだろう。

 

 しかし部下が持ってきた報告はこれだけでは無かった。彼はもう一つ、ある事に関する報告書を持ってきていた。

 そしてその報告は、宗吾にそれまでの苛立ちを忘れさせるほどに良い報告であった。

 

「それと隊長御所望の対ファッジ用装備の完成形……スコープシステムに関する報告です」

「ッ!? どうだった!?」

「……こちらは良い知らせです。遂に完成したとの事です」

 

 その報告を部下から聞いた宗吾は、最初時間が止まったかのように全く動かなかった。だが次第に爪先から全身を振るわせていき、抑えきれなくなった歓喜を爆発させるように手を叩き声を上げた。

 

「ッッッッシャァッ!!」

「装着者に選ばれたのは勿論隊長、貴方です。つきましては慣熟訓練を行いたいとの事ですので、この後開発部へ向かって欲しいとの事ですが……」

「よし、分かった! 今すぐ行くぞ!」

 

 年甲斐も無く喜びを全身から滲ませ足早にオフィスを出る宗吾の後ろを、報告した部下が苦笑しながらついて行った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 やや遅めの昼食を摂りに研究室を出た仁と亜矢は、気分的に食堂ではなく喫茶店の方に向っていた。気分はカフェのランチだった。

 

 仁は暫くメニューを眺め、目についたBLTサンドが気になったのでそれのランチセットを注文した。

 一方の亜矢はしばらく悩んでいたが、最終的にミートソーススパゲティを選択。注文しようと店員を呼んだのだが――――――

 

「すみませ~ん!」

「はい!」

「この、ミートソーススパゲティを…………それと食後にパフェ一つ」

 

 スパゲティを頼んだ直後、亜矢の雰囲気が変わった事に気付いた仁はパフェを頼んだのが亜矢ではなく真矢である事に気付いた。

 

 注文を受けた店員が離れて行く。その間、まだ表に出たままの真矢の中では亜矢が抗議していた。

 

【ちょっと真矢ッ!? 何でパフェまで頼むのッ!?】

「だって食べたかったし」

【も~ッ!? この喫茶店のパフェ結構大きいんだよ!? ただでさえ最近は真矢が甘い物たくさん食べるからカロリーの計算大変なのに!?】

 

 人目も憚らず亜矢との会話を口に出す真矢。傍から見ると一体誰と話しているんだと言う様子に、仁はさり気無く周囲を見渡し変に注目を浴びていないかを心配した。

 幸い時間が少しズレていた事もあってか、店内にはまばらにしか客がおらず、また真矢があまり大きな声で話していないからか変に注目を浴びるような事にはなっていなかった。

 

「まぁまぁ、甘い物は別腹って言うし」

【入るのは私のお腹なんだけど!?】

 

 内面に引っ込んでいる方の声は周りには聞こえないので、仁には亜矢が真矢に何と返しているのかは分からない。分からないが、真矢の態度から大体何を話しているのかは察する事が出来た。

 

「まぁまぁ落ち着いて亜矢さん。食べきれそうになかったら俺も手伝うから」

「だってさ。良かったね、亜矢? 仁君にあ~んしてあげれるよ?…………そう言う問題じゃ――って、真矢?」

「交代したみたいだね」

 

 唐突に真矢の雰囲気が変わった。どうやら真矢が自発的に引っ込んで亜矢が表に出てきたらしい。

 

 因みにここまでの様子を見てもらえば察することは出来るかもしれないが、仁は亜矢と真矢の違いが分かっている。明確に何が違うかが分かっている訳では無いのだが、何となく雰囲気で2人の違いを理解しているらしい。瞬時に2人が入れ替わっても、仁はそれに素早く気付く為2人を呼び間違える事が無い。

 

「うぅ……仁君、助けてください」

「ん、いいよ。流石に2人で食べればそんな大した量にはならないでしょ」

「いえ、そっちではなくて」

「ん?…………あ~、真矢さんに対する仕返しと言うかお仕置き?」

 

 亜矢と真矢は一つの体を共有している。故に、相手に何かしら不満があっても言葉で言い負かす以外に出来ることが無いのだ。

 一応感覚も共有している為、自分の体を殴れば内面の人格も同様に痛覚を感じはするが、結果は痛み分けにしかならない。何より自分で自分を殴るなど、傍から見れば馬鹿か精神異常者である。

 

 それでも何かできる事は無いかと、亜矢は藁にも縋る思いで仁に知恵を借りた。

 

 頼られて仁も悪い気はしないが、しかし流石の彼も同じ体を共有している二つの人格の片方を懲らしめる方法などそう簡単に思いつくものではない。それこそ精神を分離させたり、相手が嫌う言葉を並べ立てたり――――

 

「――――あ、そう言えば真矢さんって甘党なんだよね?」

「はい」

「じゃあもしかして、辛いのとか苦手だったりするんじゃないの?」

 

 徐に仁が口にした言葉に、亜矢は暫し動きを止めていた。だがそれも数秒の事で、亜矢は何かに気付いたかのように視線をテーブルに置かれた調味料に向ける。

 その中にはランチメニュー用に置かれた塩や粉チーズ、そしてタバスコなどの調味料が置かれていた。

 

 仁には分からないが、真矢が先程からずっと黙っている。顔は見えないが、しかし亜矢には分かった。今真矢が、盛大に冷や汗を流しているだろう事を。

 

「お待たせしました。こちら、ミートソーススパゲティとBLTサンドのセットになります。それではごゆっくり」

 

 まるでタイミグを計っていたかのように運ばれてきたサンドイッチとスパゲティ。亜矢は自分の前にスパゲティが置かれると、何よりもまずタバスコを手に取りそれをミートソースに振り掛けた。

 

 まるで親の仇か何かの様にこれでもかとタバスコを振り掛ける亜矢に、見かねて仁が制止の声を掛けた。

 

「亜矢さん、少し落ち着こう? 食べるのは自分なんだからそんなに掛けたら亜矢さんも大変だよ?」

「ご心配なく。私これでも結構辛いの好きな方なんです」

「そうなの?」

「えぇ。カレーも辛口の方が好きですし」

 

 これまで何度か亜矢にはカレーを作ってもらった事はあったが、それらは全て中辛だった記憶がある。恐らくだがこれまで亜矢は仁の事を考え、辛さを抑えたカレーを作ってくれていたのだろう。

 その事に気付いた仁は内心で彼女に感謝した。

 

 しかし黙っていられないのが亜矢の内面に押し込められた真矢だ。体の優先権が亜矢にある以上、彼女が本気を出したら真矢にはどうしようもない。

 

【あ、亜矢? ちょっと落ち着こう、ね? こう言うの良くないって!?】

「大丈夫。人間ちょっと辛いの食べた程度じゃどうにかなったりしないから」

【あ、相手が食べたくない物を無理矢理食べさせるのは良くないと思うな~】

「私別にパフェ食べたくなかったんだけど?」

 

 自業自得、調子に乗り過ぎた罰が当たったと仁はもう亜矢を止める事無くBLTサンドを口に運んだ。真矢の助けを求める声が聞こえた気がしたが、仁は気の所為と断じ亜矢のやりたいようにやらせた。

 

【待って待って!? ゴメン亜矢私が悪かったからちょっと待ってッ!?】

「いただきま~す」

 

 真矢の懇願も聞かず亜矢はタバスコをたっぷり掛けたミートソーススパゲティをフォークで巻いて口に運んだ。口に入ると、亜矢の口の中に辛味と酸味が増したミートソースの味が広がる。

 

 瞬間、亜矢の中で真矢が激しく悶絶した。

 

【ちょっ!? 待って、辛い辛い辛いッ!?】

「ん~! 考えてみたら辛いモノ食べるの久しぶり!」

「真矢さん、自分が辛いモノ食べたくないからってこっそり亜矢さんの行動に干渉してたんだね」

「でもこれからはそうはいきませんよ」

 

 内側から響く真矢の悲鳴をBGMに、亜矢はスパゲティを次々と平らげていく。久方ぶりの辛味と勝手をした真矢を懲らしめられた事に、二重の意味で笑みを浮かべる亜矢の様子を仁は眺めながらサンドイッチを口に放り込んだ。

 

 それから程なくして仁と亜矢はサンドイッチとスパゲティを平らげ、食後のコーヒーを飲んで一息ついていた。

 その亜矢の中では、真矢が苦手な辛味に半ばべそをかいていた。

 

【うぅ……亜矢酷い】

「(自業自得でしょ)」

 

 涼しい顔でコーヒーを飲みながら内心で真矢に返答する亜矢。

 そんな彼女の前に真矢が注文したパフェがやってきた。なかなかのボリュームに、見ただけで少し胸焼けがしてくる。

 

 パフェが来た瞬間、亜矢は主導権を手放し真矢に譲った。

 

「……え?」

【パフェの始末は任せるから。責任とってちゃんと食べてよね】

 

 キョトンとしていた真矢だったが、目の前に鎮座する甘味に歓喜の笑みを浮かべた。

 

「(ありがとう亜矢! 愛してる!)」

【はいはい】

 

 口直しの意味も含んでパフェを心の底から楽しむ真矢。本当に幸せそうな笑みを浮かべてパフェを口に含む様子は、傍から見ているだけの仁も和んでしまう程であった。

 

 そうして見た目以上にボリュームのあるパフェを半分ほど平らげた所で、真矢は徐にスプーンで掬ったパフェの一部を仁に差し出した。

 

「ん?」

「仁君。はい、あ~ん」

【ちょちょ、真矢何してるの!?】

 

 突然の真矢の行動に内面の亜矢が慌てる。だが主導権を真矢から奪い返さないのは、亜矢自身これを嫌とは思っていない証拠であった。

 

「(だって、流石にお腹いっぱいになってきちゃったし? 私1人がデザート食べてるのに、仁君に何も無いのは何か可哀想だな~って)」

【だからって――って、仁君ッ!?】

 

 ふと気付くと、仁は既に口を開けてスタンバイしていた。バッチコイな彼の様子に、亜矢は狼狽え真矢は笑みを深め仁の口に運んだ。

 仁は真矢に食べさせられたパフェの甘さをじっくり堪能している。その様子を楽しそうに眺めつつ、真矢はパフェを掬い今度は自分の口に運ぶ。

 

 その時亜矢は気付いた。これは彼との間接キスになると。

 

【真矢! ちょっとタンマ――!?】

 

 亜矢の制止も聞かず、真矢はパフェを掬ったスプーンを口に入れる。味は先程と然して変わらない筈なのに、パフェを食べた真矢の浮かべる笑みは先程よりも幸せそうに見えた。

 

 そして真矢は再びスプーンにパフェを掬うと、またしても仁に差し出した。今度は仁も言われる前に口を開けスタンバイした。

 ここまでくると亜矢はもう何も言わない。ただただ真矢のやりたいようにやらせるだけだ。結局体を動かしているのは真矢なのだし、意識しなければ恥ずかしさはそこまででもない。

 

 しかし――――――

 

「(はい亜矢、バトンタッチ)」

 

 徐に真矢は主導権を手放し亜矢に譲った。突然表に押し出され、仁にパフェを食べさせようとした体勢をしている事に亜矢は理解が追いつかず固まった。

 突然動かなくなった彼女に、仁が口を開けたまま首を傾げた。

 

「? 亜矢さん?」

「えっ!? あ、え、え、え……あ、っと……」

 

 真矢に文句を言う事も忘れパニックを起こす亜矢だったが、仁はまだ口を開けて待っている。

 そんな彼の姿に亜矢はもうどうにでもなれと、彼の口にスプーンを運び入れた。仁が口を閉じパフェを食べたのを見ると亜矢はスプーンを引き抜く。

 

 亜矢は仁にパフェを食べさせたスプーンを暫し見つめていた。これを再び使うのは、ある意味で勇気が要る。今度は自分の意志で間接キスをする事になるのだ。

 しかし何時までも残りのパフェを食べずにスプーンを見つめるのは流石に仁にも変に思われる。亜矢は意を決すると、パフェの器を掴み残りのパフェをかき込むようにして平らげた。

 

 あっという間にパフェを食べきった亜矢は、何処かやり遂げたような表情をしている。

 だが彼女は気付いていないが、その頬にはかき込んだ時に付いたクリームがある。

 

 仁はそれに気付き、紙ナプキンを取り亜矢を手招きした。どうしたのかと亜矢が顔を近付けると、仁は彼女の頬に付いたクリームを紙ナプキンで優しく拭き取った。

 

「ん……出来上がり」

「あぅ……ありがとうございます」

 

 彼に世話を焼かれた事が何だかこっ恥ずかしくて、頬を赤くして縮こまる亜矢。

 仁はそんな彼女を優しく見つめていた。

 

 そして、数少ない客の中で、そんな2人のやり取りを眺めながらブラックコーヒーを飲んでいる者が居た。

 峰だ。何だかんだで彼女もカフェ飯を選び、先に来ていた仁と亜矢のやり取りを離れた席から眺めていたのだ。

 

 2人の様子を見ながらブラックコーヒーを飲み、そして徐に呟いた。

 

「いやぁ、あの2人が居れば砂糖いらないですね。便利便利」

 

 ブラックの筈のコーヒーが甘く感じる仁と亜矢の様子に、峰は関心と呆れを滲ませながら再びブラックコーヒーに口を付けるのだった。




と言うわけで第19話でした。

今まで影が薄かった警察組織が本格的に動き出します。

それに伴って仁と亜矢の関係も更に進展する予定です。
とりあえず、今回亜矢(真矢)が仁にあ~んするシーンは書いてて楽しかったです。
この調子で二度目のデート回なんかも書きたいものです。

執筆の糧となりますので、感想その他宜しくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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