仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回遂に第三のライダーが登場です。


第20話:見通す者、その名はスコープ

「いや~、相変わらずお熱いわねぇ」

 

 仁に顔を拭いてもらい、恥ずかしさに顔を赤くし俯く亜矢に美香が話し掛けてきた。突然現れた彼女に、亜矢は勿論仁も視線を向ける。

 

「わっ!?」

「あ、篠崎さん? どうしたの、こんな時間に?」

「遅めの昼食よ。そしたら偶然2人を見つけてね」

「ふ~ん」

 

 彼女も残りは卒論を残すのみなので、研究の進み具合によってはそう言う事もあるのだろう。別に興味もない仁は、適当に相槌を打った。

 亜矢の時とは違う淡白な反応に、美香は面白そうに笑みを浮かべると亜矢を手招きして店の外へと連れだした。仁もついて行こうとするが、それは美香により止められる。

 

「ゴメン、亜矢と2人だけで話がしたいんだ。門守君はちょ~っとだけ待っててくれる?」

「え…………あ、そう」

 

 立ち上がりかけていた仁はすごすごと座り直した。その様子はどこか置いてきぼりを喰らった犬の様で、そこはかとなく罪悪感を感じずにはいられなかったがそこはグッと堪え美香は亜矢と共に店の外にでた。

 

「で? どう? 彼との仲は進展した?」

 

 ド直球に訊ねてくる美香に、亜矢は赤面しつつも肩を落とした。恥ずかしがりながらも気落ちすると言う器用な真似をする亜矢に、美香は軽く目を剥き問い詰めた。

 

「え、嘘? まだお友達止まりなの? あそこまでやっておいて?」

「は、はい…………って、篠崎さん見てたんですか!?」

 

 実は峰にも見られていたのだが、色々と一杯一杯だった亜矢はその事に気付いていない。

 

「そんな事はどうでも良いの! それより亜矢、余計なお世話かもしれないけどそろそろ関係進展させないと。このままだと仲の良いお友達ってだけで終わって卒業して別れちゃうわよ?」

「そんな、事……は――」

 

 口では否定しようとしたが、あり得ない話ではないと思ってしまい亜矢の顔に影が差す。

 

 恐らく仁は博士課程に進むだろう。これは確実だ。彼と共に居たいなら亜矢もそちらに進むだけで良いのだが、問題なのは仁にはマサチューセッツ工科大学への留学の話がある事だ。幾ら博士課程に進もうとも、海外留学となると簡単にはいかない。ただの海外留学であれば何とかなるだろうが、仁が予定されているのはマサチューセッツ。留学の為には英語力や高成績、学業を続ける為の資金が求められる。

 

 仁の場合は大学が推薦のような形で留学するので資金に関しては大学が持ってくれるし、英語力を始めとした学力も問題ない。

 

 対して亜矢はどうかと言うと、成績は決して悪くはない。大学全体で見れば中の上から上の下、若しくはそれより若干上と言ったところだろう。

 だが仁程の英語力があると言う自信はなかった。彼はネイティブの英語で外人と普通に日常会話できる程の英語力があったが、亜矢はそこまでの事は出来ない。

 更に問題となるのが資金だ。亜矢の家は特に裕福ではない一般家庭。海外で長期に渡って学業を行えるほどの余裕はない。頼めば出してくれるだろうが、それは両親に多大な負担を掛ける事になる。亜矢の目的が留学先での学業にあるのであればそれも致し方ないかもしれないが、色恋の為について行きたいから家族に苦労を掛けると言うのは気が引けた。

 

 結論を言えば、例え仁と共に博士課程に進んでも2人は長期に渡って離れ離れにならざるを得なくなってしまう。仁との関係を宙ぶらりんのまま、離れ離れになる事は想像しただけで辛かった。

 

【まぁ仁君、亜矢の事好きだろうから他の女に目移りする事は無いかもだけどねぇ】

「(でも、もし離れてる間に仁君を好きになる人が居て、先に告白したりしちゃったら――!?)」

 

 仁が他の女性に靡くかは分からない。告白して立場を確立したならばともかく、そうでない場合仁がどういう選択をするか。

 それを思うと、亜矢は圧し潰されそうな苦しさを感じた。心が悲鳴を上げ、切なくなってくる。

 

【何だったら私が代わりに告白してあげようか?】

「それは駄目ッ!!」

 

 告白する勇気が出ないのならと、真矢が亜矢に代わり告白する事を提案するがそれはすかさず却下された。

 突然声を上げた亜矢に、美香は訳が分からず驚愕し怪訝な顔になる。

 

「わっ!? え、ちょ、どうしたの?」

 

 美香は真矢の事を知らないので、彼女からは亜矢が突然訳の分からない事を口にしたようにしか見えない。

 その事に気付いた亜矢は慌てて心を鎮め、努めて平常を装った。

 

「い、いえ……何でもありません」

「そう? それならいいんだけど……。まぁ何が言いたいかと言うと、好きって気持ちに間違いがないならさっさと告白しちゃいなさいって話よ。私ら学生は一緒に居られる時間が有限なんだから」

 

 それだけ告げると美香は手を振って店の中に戻っていった。亜矢はそれを見送る事もせず、1人俯いて悩み続けていた。

 

(告白……告白、かぁ……)

 

 確かに、そろそろ決断するべき時かもしれない。自分と仁はただの学生と言うだけではない。命をかけた戦いに身を置いているのだ。考えたくはないがもしもと言う可能性もある。

 そうなってほしくはないが、少しでも悔いを残さないようにするならば告白しておいた方が良いのかもしれない。

 

 しかしそんなせっつかれるような感じで告白して良いのだろうか? もっと彼の気持ちとかを考えた方が良いのでは?

 そう思うとどうにも告白にまで踏み切る事が出来なかったのだ。

 

 煮え切らない亜矢に真矢は彼女の中で溜め息を吐かずにはいられなかった。

 

【篠崎さんの言う通り。亜矢はもっと積極的になるべきよ】

「(そ、そうかな)」

【そうよ】

 

 真矢からの言葉に亜矢は悩む。友人と双子の姉妹にこうまで言われては、確かにもっと積極的になるべきなのかもしれない。

 

「…………よし!」

 

 亜矢は自分の頬を叩いて、気合を入れると仁への告白を決意する。仁を想う気持ちは本物なのだ。この気持ちを正面から彼にぶつけて――――――

 

「亜矢さん、そろそろ戻ろう?」

「ひゃいっ!?」

 

 出し抜けに背後から仁に声を掛けられ、亜矢は飛び上がるほど驚いた。あまりにも見事な驚きっぷりに、仁も逆に驚いた程だ。

 

「うぉっ、え? 何?」

「じ、仁君ッ!? あ、いえ、えっと、な、何でもありません!?」

「そ、そう? じゃぁ、そろそろ戻ろうか」

「は、はいぃ……」

 

 突然声を掛けられて驚いたからと言うのもあったが、結局亜矢は告白に踏み切る事が出来ず仁の後に続いて研究室へと戻っていく。

 

【亜矢……】

「(お願い……今は何も言わないで……)」

【はいはい……】

 

 真矢がジト目で自分を見ているのを察し、亜矢は居た堪れない気持ちで小さく溜め息を吐くのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 傘木社の特別研究区画にて、雄成は窓から見える階下の手術室を眺めていた。

 そこでは今、先日回収されたチミンの再強化手術が行われている真っ最中であった。

 

 傷の治療と並行して、防護服を着た研究員達が手術台に拘束されたチミンに様々な薬を打っている。

 

 そこにグアニンが近付いて来た。

 

「プロフェッサー。本当に宜しいんですか?」

「何がかね?」

「チミンにあんな処置をしてです。あれ、ハッキリ言って死にますよ?」

 

「ぐぅっ!? ぐぅぅぅぅぅぅっ!? あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 薬を打たれると、チミンが拘束具を引き千切らんばかりにベッドの上で暴れた。開かれた目は血走り、口の端からは泡が出ている。

 しかし研究員達はそれを気にした様子も無く、機械的に次々と薬をチミンの体に打った。中には毒々しい色をした薬剤もあったが、それらも容赦なくだ。

 

「うぅっ!? うぅぅ、うぅぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 チミンの口から出る苦悶の悲鳴が、窓越しに手術室の外に居る雄成達にまで聞こえてくる。その光景にグアニンは顔を顰め、雄成はと言うと顎に手を当て興味深そうに事の経緯を見守っていた。

 

 暫し手術室にはチミンの絶叫が響き、手術台に彼女を拘束している拘束具がギシギシと軋みを上げる。

 

 と、ここで異変が起こった。拘束具が暴れるチミンの力に耐え切れなくなり外れ始めたのだ。最初は右腕、次に左腕。両脚と続き、最後に胴体を拘束している拘束具が千切れ飛び彼女は手術台から解き放たれた。

 

 途端に鳴り響くサイレンに、慌てて彼女から離れ手術室から逃げ出そうとする研究員達。しかしこの手術室は内部でトラブルが起こると、外部からしか扉が開けられない造りになっている。コンソールを幾ら操作しても扉は開かない。

 

「開けてッ!? 開けてくれぇッ!?」

 

 中の研究員が扉を叩き、上階の窓から見ている雄成達に助けを求めている。だが雄成は見ているだけで動く様子を見せない。グアニンがその様子を不安そうに見て、研究員と雄成を交互に見る。

 

「がぁぁぁぁっ!?」

「ひっ!?」

 

 そうこうしていると、正気を失ったチミンが研究員達に狙いを定めた。その目は完全に捕食者のそれだ。

 

 逃げ場のない手術室の中で、チミンは躊躇いなく研究員の1人に襲い掛かり防護服の上からその首筋に喰らい付いた。防護服を切り裂き、頸動脈を噛み千切り血が噴き出す。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁあっ?!」

「ひぃぃぃっ!?」

「誰かッ!? 助けてぇッ!?」

「社長ッ!? 開けてくださいッ!?」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図となる手術室。次々と研究員を襲いその肉を喰らっていくチミンを、雄成はまるで実験動物を観察するように眺めていた。

 

「プロフェッサー、あれは?」

「肉体の急激な変化に、体がエネルギーを欲しているんだろう。何、腹が膨れれば落ち着くさ」

 

 雄成は然も当然とそう告げた。こうなる事が分かっていたのだ。

 

 グアニンは理解した。あの研究員達はチミンの処置の為に居るのではなく、肉体が変異した彼女の最初の餌となる為に放り込まれたのだ。そう、まるでトックリバチなどが幼虫の餌とする為に巣の中に生きた虫の幼虫を入れておくように。

 

 雄成が他人を実験動物としてしか見ていない事に、グアニンは何とも言えない顔になった。あの研究員達や、最早人間と呼んでいいか疑問なチミンにすら憐れみの目を向けずにはいられない。

 

 同時にグアニンは恐れた。何時、自分がただの実験動物として扱われるか。例え幹部と言えど、失態が重なり幹部としての価値が無くなればあの様だ。

 

 ああならない為には――――――

 

「ところで、そろそろまた仮面ライダーとの戦闘データが欲しいな」

「…………分かりました。手頃なベクターカートリッジを選びます。素体は如何いたしますか?」

「君の部下から選びたまえ。歯応えの無い相手では仮面ライダーも退屈だろう」

「分かりました。直ちに」

 

 雄成に頭を下げ、グアニンはその場を離れて行く。

 その際、チラリともう一度窓から見える階下の手術室の様子を見た。

 

「は……え? 嘘? わ、たし…………うぶッ――――!?」

 

 どうやら正気に戻ったらしいチミンが、手術室の惨状と自分の状態から何が起こったのかを理解してしまったようだ。血塗れの自分の姿と肉体の欠損した研究員達の様子に慄き、そして激しく嘔吐している。

 

 チミン――いや、最早この名で呼ばれる事も無いだろう――を憐れに思いつつ、グアニンは決意した。自分は決してああはならない。

 たとえ今ですら実験動物であったとしても、使い潰されるモルモットには絶対落ちないと心に誓った。

 

 その為には失敗は許されない。雄成が望む結果、彼が喜ぶ結果を出し続けるのだ。

 グアニンは決意しながら、使用するベクターカートリッジを選び部下を招集して仁達の元へと向かうのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 あれから研究室に戻り卒論研究を進める仁と亜矢。

 

 仁は己の研究である、『小麦にサボテンの遺伝子を組み入れて砂漠でも育つ小麦の作製』を行っている。今は単純に裸にした小麦の細胞とサボテンの細胞を融合させたものと、並行して小麦の遺伝子にサボテンの持つ暑さと乾燥に強い細胞を作る遺伝子を組み込んだものを生育させている最中らしい。

 経過は今の所順調の様で、今後しばらく観察を続け段階的に砂漠と同じ環境に置き正常に育つか、普通の小麦と同じように実をつけるかを検証するようだ。

 

 亜矢も亜矢で、卒論研究である『人の細胞の拒絶反応を取り除く方法の模索』の研究を進めている。拒絶反応のメカニズムに関しては分かっているので、その原因となる遺伝子の特定とそれの抑制を今は模索している所であった。…………のだが、戻って来てからと言うもの彼女は溜め息を吐いてばかりである。原因は言うまでもない。結局仁に告白する事が出来なかったからだ。

 

 彼女的に言い訳をするのであれば、告白するにはシチュエーションが整っていなかったと言うのが挙げられる。あの後研究室に向かう道中で告白するなど、ムードも何もあったもんじゃない。そんな状況での告白など、流石に彼女としても願い下げだった。

 

 しかしこうして研究室にまで戻ってしまうと、今度は仁に対してどう思いを告げたものかという事ばかり考えてしまい卒論研究にどうにも身が入らない。幸いな事に真矢が手伝ってくれていたので作業ミスは無かったのだが。

 

【亜矢? 亜~矢~?】

「(え? あ、何?)」

【何じゃないわよ。少しは気持ち切り替えたら? 今ここで悩んだって仕方ないじゃない】

「(そ、そうだけど……)」

 

 ここら辺、亜矢と真矢の性格の違いが大きく表れていた。真矢は基本きっぱりと決断する方だし、その時に決まり切らなければその問題は後回しにし今すべき事に集中出来る。

 対する亜矢はご覧の通り、一度悩み始めると何時までもズルズルと引き摺ってしまう。己の煮え切らなさ、決断力の無さに、亜矢は自分が情けなくて自己嫌悪に陥ってしまっていた。

 

 そんな亜矢の体の、右腕の主導権だけを一時的に自分のものにして真矢は自分の頬――即ち亜矢の頬をペチリと叩いた。

 

「ッ!? 真矢?」

【亜矢の気持ちは良く分かるわ。心から好きな相手だもの。告白に緊張して悩んじゃうのは仕方ない事よ。でも悩むだけ悩んだら問題は解決するの?】

「(それは……違う、けど…………でも――)」

【でもじゃない! 悩むなとは言わないけど、頭の中でウジウジグルグルするだけの悩みなんて生産性ゼロよ。相談ならいくらでも乗るから、今は気持ちを切り替えよ。ね?】

 

 真矢の説得に、亜矢は今度は自分の意志で自分の頭をコツンと叩いた。彼女の言う通り、さっきから自分は同じところでグルグル回ってただけで解決に向かっていなかった。こんな事では仁への告白など覚束ない。

 

 とにかく今はやるべきことに集中しようと心機一転し、さぁ研究を進めようとした。

 

 その時、峰のタブレットからアラームが鳴った。弾かれるようにそちらを見る仁と亜矢。

 

「ファッジ出現です!」

「亜矢さん、行こう」

「はい!」

 

 峰のタブレットに表示されたのは大学から北に2㎞の地点。2人はトランスポゾンで即座に現場へと急行した。

 

 その場所は所謂倉庫街で、周囲には倉庫や積み重ねられたコンテナがある。

 普段であればコンテナや倉庫に荷物を出し入れするフォークリフトや作業員が行き交っているのだろうが、今彼らはアントファッジ達に追われ逃げ惑っていた。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

 逃げ遅れた作業員の1人が、アントファッジの銃撃に倒れた。彼だけでなく、逃げ遅れた作業員が倉庫街には無数に倒れていた。

 

 死屍累々となった倉庫街を闊歩するアントファッジ達と、その後ろからついて行くシーアーチンファッジ。シーアーチンファッジは凶弾に倒れた作業員たちには目もくれず、仮面ライダー達が現れるのを待っていた。

 

(しかし、プロフェッサーも回りくどい事を言う。何故あの2人が確実に居るだろう大学への攻撃を禁じたのか。大学へ直接攻撃を仕掛ければ、仮面ライダーを倒せずとも白上教授を始末する事も可能だったろうに……)

 

 シーアーチンファッジは雄成から言い渡された奇妙な条件に首を傾げつつ、周囲を絶えず警戒していた。もう生き残った作業員達は粗方逃げ終え、ファッジ達以外に動くものは誰も居ない。

 

 そこへ一台のバイクのエンジン音が近付いてくる。エンジン音のする方へファッジ達が目を向けると、トランスポゾンに乗った仁と亜矢がやって来た。

 

 仁は倉庫街に入りファッジの姿が見えるとそこでバイクを停車させ、亜矢と共に下りてヘルメットを取った。

 

 バイクから下りた亜矢は、倉庫街のそこかしこに倒れている作業員達の姿に悔しそうに顔を顰めた。間に合わず助ける事が出来なかった彼らに、申し訳ない気持ちになる。

 

【亜矢、後悔は後! 今はあいつらを何とかしないと!】

「真矢……うん!」

「行くよ、亜矢さん真矢さん」

「はい!」

【えぇ!】

 

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

〈CAT Adaptation〉

 

「「変身!」」

 

〈〈Open the door〉〉

 

 2人がデイナとルーナに変身すると、それを待ていたかの様にアントファッジ達が攻撃を開始した。2人から距離を取り銃撃しながら徐々に距離を詰める。

 そんな中で、シーアーチンファッジの傍に居たアントファッジは1人変異を解いて元の姿に戻った。その部下に、シーアーチンファッジはベクターカートリッジを渡した。受け取った部下はコックを捻って押し込み、カートリッジを起動状態にする。

 

〈CORAL〉

 

 シーアーチンファッジの部下はカートリッジを起動させると、右腕に装着した簡易ベクターブレスにカートリッジを装填した。

 

〈CORAL Contamination〉

 

 ベクターブレスにカートリッジを装填した部下は、その体を赤い宝石の様な輝きを放ち体の各部に枝分かれの様な突起を持つ怪人・コーラルファッジへと変異させた。

 

 コーラルファッジはアントファッジ達と戦闘を繰り広げているデイナとルーナに襲い掛かる。

 

「ハッ!」

「おっと?」

 

 最初にコーラルファッジの攻撃の標的にされたのはデイナの方だった。硬く硬質的な外殻を持つコーラルファッジの一撃は、デイナが攻撃を回避した先にある地面を砕くほどの威力だ。そしてそれを成したコーラルファッジの拳は傷一つ付いていない。

 パワーだけでなく硬さも優れている証拠である。単純だがそれだけに厄介な敵だろう。

 

(あの硬さに体……何だあれ? 虫とかじゃない。鱗が見えないから魚類や爬虫類とも違う。哺乳類や鳥類も論外……一体何の遺伝子情報なんだ?)

 

 戦いながらデイナはコーラルファッジの元となっている生物の遺伝子を見極めようとしている。何の遺伝子を使っているかが分かれば、自ずと弱点も見えてくるからだ。

 だがコーラルファッジに関してはイマイチ何の生物かがピンとこない。

 

 デイナはハルバードモードのハイブリッドアームズを構えつつ、慎重に立ち回っていた。彼が一気に攻撃を仕掛けないのは、相手の弱点が分からないからだけでなく相手がどんな隠し玉を持っているか分からないからである。生物の中には思わぬ武器を持っているものも居る。このファッジが恐るべき隠し玉を持っていないとは限らない。

 

 しかしコーラルファッジはデイナの分析などお構いなしに、積極的に攻撃を仕掛けてきた。流石にそれを甘んじて受ける訳にはいかないので、デイナはコーラルファッジの攻撃を斧槍で弾いた。

 

「流石に手強いな、仮面ライダー。ならばこれで!」

 

 徐にコーラルファッジは右手を刃の様に鋭くさせた。ビキビキと音を立てながら形状を変化させる。どうやらある程度であれば体の形を自由に変化させる事が出来るらしい。

 

 デイナはますます以てこの敵が分からなくなった。幾ら超万能細胞の力とは言え、木が急速に成長するように体の部位を変化させるなどどんな生物の遺伝子を使えばできると言うのか。

 

(動物じゃなくて植物なのか? いや、でもな……)

「敵を前に考え事か? 随分と余裕だな!」

 

 剣の様になった右手を振るい、デイナに斬りかかるコーラルファッジ。デイナはそれを斧槍で迎撃し、両者の刃が激しくぶつかり合う。

 

 激しい剣戟を繰り広げるデイナとコーラルファッジの戦いはルーナにも見えていた。ルーナは未だ残る無数のアントファッジを相手にしつつ、真矢のサポートを受けてデイナへの援護射撃を行った。

 

【亜矢、左腕貸して!】

「分かった!」

 

 ルーナが左腕の主導権を真矢に譲渡すると、ルーナが全く見ていない方向に向きその方向に居るアントファッジ達を次々と撃ち抜いた。全く予想できなかった動きに、アントファッジ達が驚き動きを止める。

 

【チャンスよ亜矢!】

「うん!」

〈Genome set ATP Burst〉

 

 アントファッジ達が動きを止めた瞬間、ルーナはリプレッサーショットを連結しライフルモードにするとベクターカートリッジを装填。エネルギーを収束させた銃弾をアントファッジ達の間を縫ってコーラルファッジに命中させた。

 

「ぐぉっ!?」

「隙あり」

「ぐふっ?!」

 

 ルーナに肩を撃ち抜かれ隙を晒したコーラスファッジを、デイナが振り回した斧槍が薙ぎ払う。コーラルファッジはロクに防御する事も出来ず攻撃を喰らい、突起の幾つかを砕かれ体液をまき散らしながら吹き飛ばされた。その近くにはルーナも居る。

 

 デイナはコーラルファッジを追う様にルーナと合流すると、彼女の周りに居たアントファッジを彼女と共に次々と打倒していく。

 

 あっという間にアントファッジ達は倒され、残るは遠くから戦いを眺めているシーアーチンファッジと傷だらけのコーラルファッジのみ。

 そろそろ戦いを終わらせようと2人の仮面ライダーが身構えた…………その時である。

 

 突然ルーナの手からリプレッサーショットが滑り落ちた。

 

「……え?」

「亜矢さん?」

 

 ルーナ自身何故自分が武器を落としたのか理解できず呆けていると、続いてデイナもハイブリッドアームズを落とした。突然手から力が抜けた事に、デイナは危険を察知してこの場を離れようとするがその判断は遅かった。

 

 次の瞬間、2人の仮面ライダーは全身に筋肉痛の様な痛みを感じその場に崩れ落ちた。全身が痛むだけではない、妙に息苦しい。まるで酸素が薄い山の頂上に来たかのようだ。

 

「じ、仁君……一体、何が――?」

「毒? でも何で? 何かが揮発した?…………ッ!? そうか、あいつ――」

 

 そこでデイナは気付いた。これはコーラルファッジの仕業だ。

 

 コーラル……即ち珊瑚。一般に珊瑚は宝石の一種としても扱われるが、その正体は刺胞動物門に属する立派な生物である。

 その大多数は一言で言ってしまえば成長する岩の様な、ただ海中に存在して時期が来れば産卵すると言う特に害のない生物であるが、一種類だけ非常に危険な種類が存在する。

 その名もマウイイワスナギンチャク。他の珊瑚と同じ美しい見た目だが、こいつは衝撃を受けて体が欠けたりすると猛毒を分泌するのだ。

 

 その毒の名はパリトキシン。フグの約60倍、青酸カリの約8000倍と言う非常に強力な毒である。

 

 コーラルファッジは先程ルーナとデイナに攻撃を受けて、体の各部を欠けさせ体液をまき散らした。その時の体液こそがパリトキシンであり、それが揮発しデイナとルーナを蝕んだのだ。

 

「そうか、珊瑚も生物だ。見た目が今までのファッジと違い過ぎたから分からなかった」

「今更気付いてももう遅い。その命、貰うぞ!」

「ぐっ……」

「仁君ッ!?」

 

 体勢を立て直したコーラルファッジはデイナを踏みつけ、右手の刃を振り上げる。ルーナが彼を助けようとするが、彼女も全身に回った毒で満足に動けない。

 

 勝った……遠くからその様子を見ているシーアーチンファッジは自分達の勝利を確信した。これで自分はモルモットに落ちずに済むと安堵の溜め息を吐いた。

 

 その時、何処からか放たれた銃弾がコーラルファッジを撃ち抜いた。銃弾は一発ではなく、次々とコーラルファッジの体を穿ちデイナの上から退かした。

 

「ぐあぁっ!? くっ、誰だッ!」

 

 まさかの奇襲に、コーラルファッジが怒りを露に銃弾が飛んできた方を見る。するとそこには、思わぬ存在が居た。

 

「あ、あれは……」

「仮面、ライダー?」

 

 その姿は一言で言えば正しく仮面ライダーであった。デイナともルーナとも違う、かなりメカメカしい見た目だが、ファッジとは明らかに違う。

 

 右目の赤い複眼に対し左目は大きさの違う三つのレンズを持つカメラとなっており、時折回転している。

 

 全身は銀色の装甲で覆われ、左腕には小型の盾の様な物を、右手には一丁のライフルを持っている。腹部には一つのレンズを持つバックルのベルトが巻かれていて、それがますます仮面ライダーらしさを醸し出していた。

 

 その仮面ライダーらしき存在は、右手に持ったライフルを構え引き金を引いた。フルオートで放たれた銃弾がコーラルファッジを近付かせず、コーラルファッジは毒の体液を周囲にまき散らした。

 

「ヤバい、亜矢さん!」

 

 デイナはこれ以上ここに居ると更に濃厚になった揮発毒にやられると、まだ体が何とか動く内にルーナを引き摺ってその場を離れた。

 何とかトランスポゾンの停めてあるところまで下がると、毒の濃度が下がったからか体が大分楽になってきた。変身したお陰で肉体が強化されているからこの程度で済んでいるのだろう。生身であの場に居たら一巻の終わりだ。

 

「大丈夫、亜矢さん?」

「はい、まだ少しくらくらしますけど……」

「そう……。それにしても、アイツは何で平気なんだ?」

 

 デイナはコーラルファッジと戦う仮面ライダーに疑問を抱いた。新たなライダーは既に大分コーラルファッジに近付いており、揮発した毒の圏内に入っている筈である。にも拘らず、あのライダーは全く苦しそうな様子を見せない。

 

「何だ、あの仮面ライダーは――――!?」

 

 デイナとルーナ、そしてシーアーチンファッジが見ている前で、銀色の仮面ライダーはライフルを置くと右腰のホルダーから顕微鏡で試料を見る時に使うプレパラートの様なプレートを取り出し左腕の盾に後ろから装填した。

 

〈Vortex・Blade Starting〉

 

 仮面ライダーがプレートを盾に装填すると、電子音声が響き盾の先端から盾の三分の二ほどの長さの両刃剣が伸びた。仮面ライダーはそれでコーラルファッジに斬りかかる。

 

「フンッ!」

「くっ、舐めるな!?」

 

 コーラルファッジも負けじと右手の刃を振るうが、パワーが違うのか圧し負けている。攻撃しては弾かれ、防いでは押さえられてしまう。

 しかも何度か刃をぶつけ合っていると、右手の刃が折れてしまった。硬さが自慢の体が、相手の剣の切れ味とパワーに負けてしまったのだ。

 

「そんな、バカな――!?」

 

 まさかの事態に慄くコーラルファッジを、銀色のライダーは回し蹴りで蹴り飛ばした。

 

「ハァッ!」

「ガハッ?!」

 

 蹴り飛ばされ地面に倒れるコーラルファッジ。それを見て銀色の仮面ライダーは盾からプレートを引き抜き剣を収納すると、右腰のホルダーに戻し更にベルトのバックルからも同じプレートを引き抜きホルダーに戻す。

 そして代わりに別のプレートを取り出すと、それをバックルに右側から装填しバックル左に付いた円形のハンドルを回した。

 

〈Recognition〉

 

 バックルから電子音声が響くと、右足の装甲が開き開いた部分から熱気が放出され陽炎が立ち上る。

 

 仮面ライダーはその状態でコーラルファッジに駆け寄り、装甲が開いた右足で飛び蹴りを放った。

 

「ハァァァッ!!」

 

 仮面ライダーの放った飛び蹴りはコーラルファッジの甲殻を粉砕し、大きく蹴り飛ばした。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁッ?!」

 

 蹴り飛ばされたコーラルファッジはコンテナの1つに激突。そのままコンテナを貫通し、突き抜けた先で爆散した。

 それと同時に変異が解除されたコーラルファッジは、体内に仕込まれた発火装置が起動。隠蔽処置が施され消し炭となってしまった。あそこまで炭になってしまっては、DNA鑑定も望めない。

 

 消し炭となった傘木保安警察の隊員に溜め息を吐くと、周囲を見渡しシーアーチンファッジの方を見た。シーアーチンファッジを見た仮面ライダーは左目のレンズを回転させると、先程置いたライフルを拾いシーアーチンファッジに向けた。

 

「ッ!? くっ!?」

 

 引き金が引かれる直前、シーアーチンファッジはその場を離れ難を逃れた。銃弾が虚空を貫く様を見て、仮面ライダーは再び溜め息を吐く。

 

 と、仮面ライダーは今度はデイナとルーナの方を見た。奴さんの視線が自分達に向いたのを見て、デイナとルーナは思わず身構えた。ファッジを倒したという事は敵では無いのだろうが、味方であると言う保証もない。

 

 ライフルを持ったまま近付いてくる仮面ライダー。そこで漸く相手を真正面から見たデイナは、仮面ライダーの右胸に見た事のある紋章を見つけた。

 

「その紋章……S.B.C.T.?」

「その通りだ」

「ッ、その声――?」

 

 デイナの呟きに仮面ライダーが答える。その声をデイナは覚えていた。

 

 そう、以前彼に話し掛けてきた警察の制服姿だったS.B.C.T.隊長、権藤 宗吾の声だ。

 

「やっとだ……やっとお前達に追いついた。これでお前達と対等に戦える」

 

 仮面ライダーはそう告げると、ライフルを2人に向けた。

 向けられた銃口に、ルーナがまだ万全ではないながらリプレッサーショットを構え牽制する。

 

 一方のデイナはと言うと、一瞬向けられる銃口に目をやるがすぐに視線を上げ宗吾が変身した仮面ライダーを見た。

 

「俺の名は権藤 宗吾……お前らに合わせて言うなら、仮面ライダースコープだ! 今日と言う今日は話を聞かせてもらうぞ、仮面ライダー!!」




と言うわけで第20話でした。

今回登場した仮面ライダースコープは顕微鏡をモデルにしたライダーです。左目のレンズや必殺技使う時とかに使うプレートなんかがそれですね。
因みにスコープのメイン武装のライフルは、スターシップ・トゥルーパーズに登場するモリタ式ライフルがモデルです。

執筆の糧となりますので、感想その他宜しくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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