仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

評価と励ましのお言葉ありがとうございます!


第21話:悪魔の発明

「今日と言う今日は話を聞かせてもらうぞ、仮面ライダー!!」

 

 ライフルを構えて告げるスコープを前に、ルーナが牽制の為にリプレッサーショットを向けている。必要とあれば引き金を引く事も覚悟していた。

 

 が、それはデイナによって阻まれた。デイナが彼女の持つリプレッサーショットに手を添え、そっと下に降ろさせたのだ。

 何をするのかとルーナが視線で問い掛けると、デイナは彼女を手で制しスコープの言葉に答えた。

 

「いいよ」

「えっ!?」

「例えお前が拒もうと今度h……って、何?」

「いいよ」

 

 あまりにもあっさりと承諾したデイナに、スコープだけでなくルーナも驚き彼の事を見る。

 

「じ、んんッ! デイナ、良いんですか?」

 

 ルーナは一瞬仁の名前を口に出しそうになったが、何となくこの場で実名がバレるのは不味い気がしたので慌ててライダー名に言い直した。そのデイナはと言うと、特に気にした様子も無く然も当然と言いたげに答えた。

 

「うん。前よりはこっちの話も聞いてもらえそうだし」

「は、はぁ……」

「…………少しでも変な真似したらすぐ撃つからな?」

「警察なのに随分と血の気が多いね?」

「ファッジを相手にしていればこうもなる」

「そうかな? あ、話すのは良いけど移動はさせてね?」

「分かっている」

 

 スコープは銃で歩く様に指示を出し、デイナはトランスポゾンを押して歩きだす。ルーナはトランスポゾンを挟んでデイナの反対側を歩いた。。

 

 暫し無言で歩く3人だったが、唐突にデイナがある事に気付いた。

 

「あ、そうだ。あの倉庫街暫く立ち入り禁止にしてね? 揮発性の生物毒だからそんなに長く残留はしないだろうけど、無毒化するのにどれくらい時間掛かるかまだ分からないから」

「言われなくても分かっている」

「って言うかそれ、もしかしなくても小型の酸素ボンベとか防毒機能付いてる?」

「ファッジの中には毒を使う奴も居るんだ。対策を講じるのは当然の事だろう」

「ふ~ん……」

 

 やはりと言うか、スコープには防毒装備が施されていたらしい。この事からも、このスコープはデイナとは別の技術で作られていることが伺えた。

 

 ざっと見た限りだが、スコープにはベクターカートリッジが使われた様子がない。警察が独自に作り上げたライダーシステムなのだろう。

 正直な話、警察組織で良くここまでの物が出来たと感心せずにはいられなかった。

 

「それより、そろそろ話しても良いんじゃないか?」

「ん? 何を?」

「お前たち自身の事だ。何故お前達がベクターカートリッジを使っているのか。その力は何処で手に入れたものなのか。お前達に聞きたい事は山程ある」

 

 倉庫街からは大分離れた。もう毒の影響は無いだろう。それを見越してか、スコープはライフルを再び2人に向けた。

 向けられた銃口に、ルーナが体を強張らせる。咄嗟に手が太腿のリプレッサーショットに伸びるが、デイナがそれを押さえた。

 

 飽く迄もスコープとは敵対しない姿勢を見せるデイナに、流石のルーナも心配そうな視線を向ける。

 だが次の彼の行動は更に信じられないものであった。

 

 なんとデイナは変身を解き、その素顔を晒したのだ。まさかの彼の行動にルーナは慌てて彼を引き寄せる。

 

「なっ!?」

「ちょ、何してるんですかッ!?」

「多分こうするのが一番手っ取り早いよ」

「いや、手っ取り早いって……」

「先帰ってて。俺だけで話をするから」

 

 予想外の展開に、慌てふためくルーナと思考停止しているスコープ。そんな中で仁は飽く迄もマイペースに話を進めていた。

 

 ルーナだけを先に帰らせようとしていた仁だったが、衝撃が大きかったのかスコープは何も言わない。

 何の反応も返さないスコープに、仁は首を傾げて彼の肩を揺する。

 

「もしもし? 大丈夫?」

「はっ!? いや、お前、そんな勝手な……ん? 待て、お前何処かで会った事が…………」

「ほら、前に赤い色したこのバイクに乗ってた時に会ったじゃん」

「あっ!? お前あの時のッ!?」

 

 微かにだが仁と出会った時の事を覚えていたスコープは、彼に指摘されその時の事を完全に思い出した。あの時は仁の適当な嘘で誤魔化されてしまったが、彼の見立ては間違っていなかったのだ。

 

「んで、話を戻すけど俺がついて行くから亜矢さんは戻ってもらっても良いでしょ?」

「いい訳あるか!? 2人揃って連行だ!!」

「でもその間にファッジ出てきたら対応できないよ」

 

 飽く迄仁と亜矢、2人を連れて行きそれぞれから話を聞こうとするスコープだが、仁は亜矢に負担を掛けたくはなかった。

 それに警察に拘束されている間、仁は恐らく戦う事が出来ない。その間は亜矢にファッジへの対応をしてもらわなければならないのだ。なので、彼女には残ってもらう必要があった。

 

 この時点で仁は警察と敵対しているつもりはさらさらなかった。ここで警察に行くのは飽く迄事情を知る者として任意の事情聴取に付き合うだけであり、言ってしまえば警察とハッカーが協力する様な感覚であった。

 

 なので、仁としてはここで亜矢にまで警察に付いて来させる訳にはいかない。

 

「お前スコープがさっきファッジを倒したのを忘れたのか? お前達が居なくても俺が居ればファッジなど問題ない!」

「連中を甘く見ない方が良いよ。もしもって時の為に仮面ライダーは2人、自由に動ける状態にしておいた方が良いと思う」

「駄目だ! だとしても信用できない者を自由にさせるなど出来る訳がない!」

「仰ることは御尤も。でも敵はこっちの事情なんて知ったこっちゃないだろうから、備えは絶対必要だよ。もし同時に別々の場所でファッジが出た時、あんたが対応できない方の被害は放置すんの?」

「それは…………」

 

 痛い所をついてくる仁の言葉に、スコープの銃口がブレる。

 

 相手が迷っている事を見抜いた仁は、ここぞとばかりに自分のペースで話を進めた。

 

「そう言う訳だから亜矢さん先帰っててくれる? これ使っていいからさ」

「は、はぁ…………あの、良いんですか?」

「大丈夫大丈夫。ほらお巡りさん、早く行こう。取り合えず近場の交番にでも行けば良いの?」

 

 スコープの返答を待たず、ルーナにトランスポゾンを預け仁はその場を歩き出す。

 反論する間もなく行動を開始した仁に、スコープは慌ててついて行った。

 

「ちょっ!? おい待て、勝手に行くなッ!?」

「お巡りさん、早く早く。情報交換は手早く済ませちゃお」

 

 サクサク進む仁について行くスコープを見送り、ルーナは2人の姿が見えなくなると変身を解除した。仮面の下にあった亜矢の顔は、呆れを滲ませた苦笑を張り付けていた。

 

「全く、仁君は……」

【亜矢、取り合えず今は大学に戻ろ。教授達にこの事を話さなきゃ】

「分かってるって」

 

 亜矢は戦いで緊張した筋肉を解す意味で体を伸ばすと、大きく息を吐いてトランスポゾンに跨り大学へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方シーアーチンファッジことグアニンは、あの戦いの後1人撤退して事の次第を雄成に報告していた。

 

「プロフェッサー、緊急事態です。3人目の仮面ライダーが現れました」

「3人目?」

「警察、S.B.C.T.です。S.B.C.T.が独自のライダーシステムを開発して実戦投入してきたのです」

「そうかね」

 

 かなり急を要する内容の筈なのに、雄成の反応は淡白なものであった。予想外の反応にグアニンは一瞬呆けてしまう。

 

「は? あ、あの、それだけですか?」

「それだけとは?」

「他に何かないのですか? S.B.C.T.への襲撃や、新たなライダーが量産されないように手を打つなど……」

「別に必要ない。好きにさせておけ」

 

 S.B.C.T.がライダーシステムを実戦投入してきたと言う事実にも拘らず、雄成は全く興味が無さそうである。

 今彼の興味を引いているのは、2人の前にある大きなカプセルの中に全裸で浮いているチミンだけであるようだ。口に呼吸器をつけられ、眠るようにカプセル内の薬液の中に浮いているチミンを雄成は熱心に見ている。

 

 グアニンには何故雄成がS.B.C.T.のライダーシステムを気にしていないのかの理由が分からなかった。

 今までS.B.C.T.に積極的に攻撃を仕掛けなかったのは分かる。幾ら警察組織と言えども、ファッジ相手では彼らは何も出来ない。証拠が残らなければ、警察は何も出来なかった。

 だが今後は違う。警察はファッジと対等に戦う手段を手に入れてしまった。今後何かあれば、ボロが出てしまう危険性がある。

 

 それを放置するとは一体どう言う事なのか。

 

「流石にこれは無視できません。仮面ライダーが増えたのです。会社の為、もっと積極的な行動を起こすべきでは?」

「そこは君が心配すべき事ではないよ。いいから落ち着きたまえ」

 

 まだまだ言いたい事はあったが、しかしこれ以上は何を言っても無駄だろう。経験上、今の雄成には何を言っても聞き入れてもらえない。

 それどころか、これ以上食い下がると不興を買い切り捨てられるかもしれなかった。

 

 グアニンは止む無くこれ以上は何か言うのを止める事にした。

 

「分かりました。では警察に対しては暫く静観するとして、以前からの仮面ライダー達に対してはどうしますか? 再び仕掛けますか?」

「そうだなぁ…………」

 

 雄成は研究員の1人から資料を受け取り、それに視線を走らせる。資料の内容は今チミンに施されている処置に関するものであった。

 端的に言ってしまえば、チミンの処置には今しばらく時間が掛かる。カプセルからはまだ出すことは出来ないし、出せても様々な検査やら何やらがあった。

 

 一通り資料を流し見て、内容を頭に叩き込んだ雄成は資料を研究員に返しながら口を開いた。

 

「君が行きたまえ」

「私が、ですか?」

「うむ。今あるベクターカートリッジでは仮面ライダー達に良い刺激を与えることは難しそうだし、君らが行った方が良いだろう。何だったらシトシンも連れて行くと良い。最近暇だろうから」

「分かりました。シトシンにもそのように伝えてきます」

 

 グアニンはそう言って雄成に頭を下げ、その場を離れて行く。

 雄成は彼を見送る事無くカプセルの中のチミンを眺めていた。

 

 と、ここで彼はチミンの眼が薄く開かれているのに気付いた。薄らと開いている眼は、しかし何を見ているのか分からない。

 

 そんな彼女を見て、雄成は薄く笑みを浮かべカプセルを軽く小突くのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 大学に戻ってから、亜矢は事の次第を白上教授に報告していた。

 

 仁が警察に連れて(ついて)いかれた事には、流石の教授も色々と思わずにはいられなかったのか焦りを顔に浮かべた。

 

「そうか……門守君が警察に……」

「不味くないですか? 下手に全部話されたら、最悪教授が連行されたり……」

「門守君にも思うところがあったのだろう。警察と接点を持つ必要性を感じたのかもしれない」

「しかし……」

 

 白上教授は仁の判断に理解を示そうとしていたが、峰と拓郎はかなり難色を示している。以前警察を相手に苦い思いをしている峰などは、警察経由で傘木社の手が仁や教授に伸びる事を心配しているようだ。

 

 3人が仁の判断について議論しているのを尻目に、亜矢は異様に落ち着いていた。教授の淹れた紅茶を飲み、リラックスした溜め息を吐き茶請けのスコーンに舌鼓を打つほどだ。

 あまりのリラックスっぷりに逆に不安になった峰が、思わず議論を中断して亜矢に話し掛けた。

 

「双星さん、随分と落ち着いてるみたいですけど門守君の事心配じゃないんですか?」

 

 峰が問い掛けた時、亜矢は真矢と紅茶に入れる砂糖の量で揉めている真っ最中だった。真矢が何とか主導権を手に入れた左手が角砂糖を一気に7粒も入れようとするのを、亜矢が主導権を握っている右手が押さえている。

 

「駄目! 真矢これは流石に入れ過ぎ!」

【これ位が良い甘さになるのよ! 良いじゃない、半分は亜矢好みの味で飲んだんだから!】

「そう言う問題じゃないの! こんなに一遍に砂糖飲んだら体に悪いでしょ!」

【その分動けばいいんでしょ!】

「動く予定が無いでしょ!」

 

 傍から見ていると1人芝居をしているようにしか見えない亜矢の様子に、峰は何とも言えない顔になりつつもう一度声を掛けた。今度は先程よりも大きな声で、だ。

 

「双星さん!!」

「ん!? あ、はい? すみません、気付くのが遅れました」

「いえ、それは仕方ないんで良いんですけど……」

 

 大きな声で呼ばれ、亜矢は慌てて峰の方を見た。意識が峰の方に向き右手の力が緩んだ瞬間、しめたとばかりに左手が角砂糖を紅茶にぶち込んだ。

 

「あっ!?」

【隙有りよ、亜矢?】

「もぉ~……」

「何と言うか、思っていたよりも落ち着いているね? 門守君が関わる事だから、もっと動揺するかと思っていたが?」

 

 まんまと砂糖を大量に入れられ、悔しそうにする亜矢に白上教授がそっと話し掛けた。仁が敵か味方かもわからぬ警察へ行ってしまった事に、亜矢ならもっと動揺するかと思っていたのだ。

 それは教授だけでなく、拓郎と峰も抱いていた疑問であった。

 

 言われて亜矢も自分が驚くほど落ち着いている事に気付いたが、その理由は直ぐに思い至った。

 

「ん~、まぁ……仁君って、私と真矢を一目で見抜く位には人を見る目が良いですから。その仁君が自分からついて行くなら、あの警察の人は大丈夫だって事だと思います。だからですかね?」

「流石に門守の事を信頼してるんだな」

「ふふっ、はい。あ、でも……」

「でも……何かな?」

 

 拓郎の言葉に少し気恥ずかしそうにしながらも笑顔で頷いた亜矢だったが、その直後何かに思い至ったのか心配そうな顔になった。

 突然表情を変えた彼女に不安を煽られ問い詰める白上教授。その彼に、亜矢はティースプーンで紅茶をかき混ぜながら答えた。

 

「仁君のペースに、警察の人達が引っ掻き回されて迷惑を掛けないかが心配と言えば心配ですね」

 

 そう呟くと亜矢は甘々な紅茶を口に流し込んだ。その甘さに亜矢は思わず顔を顰めるが、彼女の内面に居る真矢は口に広がる甘さに満足そうな声を上げていた。

 

 亜矢に言われて、3人は仁のマイペースさを思い出す。そして彼女の言葉に同意せずにはいられず、仁が警察に迷惑を掛けた挙句に怒らせたりしないかと新たな心配をせずにはいられないのであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その話題の仁が今どうしているかと言うと――――――

 

「ズズッ…………はぁ――」

 

 S.B.C.T.本部の一室で、湯呑に入った緑茶を飲みリラックスした息を吐いていた。そのリラックスっぷりたるや、食後の一杯を飲んでいるかの如くである。

 

 あまりの落ち着き様に、机を挟んで彼の対面に座っている宗吾も声を掛けるのを躊躇するほどだ。

 

「お前こんな状況でよく落ち着いていられるな?」

「ん? そうかな?」

「正直幾ら何でも落ち着き過ぎだ」

 

 勿論、話を聞く事が最大の目的なのだから慌てふためかれて支離滅裂な事を言われたり、保身に走るあまり出鱈目な事を言われるよりは落ち着いてコミュニケーションが取れる方がずっと楽ではある。

 

 楽ではあるが、自宅かと言いたくなる程リラックスされていると逆に不安を感じずにはいられなかった。

 

「まぁいいじゃん。それで、え~っと……どこまで話したんだっけ?」

 

 急須からお代りの緑茶を湯呑に注ぐ仁に、宗吾は何とも言えない顔をしながら部下に取らせた仁からの情報を読み上げた。

 と言っても、彼が話したのは彼自身の名前と仮面ライダーに変身するようになった経緯位のものであったが。

 

「お前の名前は門守 仁。1月23日生まれの22歳。明星大学の4年生。去年の10月に起こったファッジによる明星大学襲撃事件の際に仮面ライダーに変身し、それ以降ファッジとの戦い続けている……と言う所までは聞いた」

「あぁそこまでね」

「……それで? お前にベクターカートリッジとライダーシステムを与えたのは一体誰なんだ?」

「教授だよ。白上教授」

 

 仁から出た教授の名前に、宗吾が部下に目配せをすると即座に部下であるオペレーターの女性・北村 茜(きたむら あかね)が素早くノートパソコンのキーボードを叩く。

 白上教授のデータは直ぐにノートパソコンのディスプレイに表示された。

 

「ヒットしました。白上 源五郎、明星大学の教授です。経歴には特に不審な所は見られません。傘木社との繋がりは無いようです」

「その傘木社と繋がりの無い教授が、何故ベクターカートリッジとそれを扱うドライバーを開発できたんだ?」

「それは簡単だよ。教授がベクターカートリッジの開発者の1人だからさ」

 

 思わぬ言葉に宗吾だけでなく茜も弾かれるように仁を見た。注目された仁はと言うと、残った茶を出し切るように急須を上下に振っている。もう一滴も出なくなったのを見て急須を近くに置くと、湯呑を手に持ち口に近付けた。

 

 宗吾は彼が茶を飲んでいる途中で、机の上に身を乗り出し彼の胸倉を掴んで引き寄せた。

 

「おい待て、それは一体どう言う事だッ!?」

「ん、んん……ちょっと待って零れた。何か拭くもの――」

「そんなのどうでもいいッ!? 一体どう言う事かと聞いている!?」

 

 ベクターカートリッジの開発者が大学で教授をしているという情報に冷静さを欠いたのか、宗吾は仁を揺さぶりながら捲し立てた。

 揺さぶられる度に彼の手の中の湯呑から茶が零れるので、見兼ねた茜が宗吾を宥めつつ布巾を取り出し机を拭いた。

 

「隊長、落ち着いてください。それでは話を聞く事すら出来ません」

「~~~ッ、しかしだな北村――」

「そこまでです! これ以上感情任せになるようでしたら、隊長の頭が冷えるまで私が聴取を引き継ぎますが?」

 

 遠回しに出ていけと言われ、宗吾は仁の顔を睨み奥歯を噛み締める。当の仁はと言うと、茜から受け取った布巾で手を拭いていた。

 

 あくまでマイペースな仁を忌々し気に睨み付けると、宗吾は立ち上がり壁際に向かうと壁に手をつき俯いた。出ていきたくはないが、心は落ち着けようという彼なりの考えだろう。

 

 彼の様子に茜が軽く肩を竦めながら、宗吾の代わりに椅子に腰かけ仁への聴取を再開する。

 

「それで続きですけど、その白上教授は何故大学で教鞭を?」

「何で大学の教授やってるのかは知らないけど、ベクターカートリッジとデイナドライバーを作った理由は聞いてるよ」

「その理由とは?」

「一緒にベクターカートリッジ……それに使われてる超万能細胞の研究をやった、傘木 雄成を止めたいんだって」

「傘木 雄成? それって――!?」

 

 茜と宗吾も察しがついたようだ。傘木社の社長である雄成が、嘗て白上教授と共に超万能細胞の研究をしていた事を。

 そして、その研究成果を悪用して巨大企業で人体実験を行っている事を知ったのだ。

 

「ならば傘木社はやはり人体実験を行っているという事だな!? よし、ではすぐに強制捜査を――」

「物的証拠が何も無いのにそんなこと出来るの? 令状下りないでしょ?」

 

 一瞬勢いを取り戻した宗吾だったが、仁の正論に勢いを削がれ再び壁を向いて俯いた。テンションのアップダウンの激しい宗吾に、茜は呆れた目を向けつつ話を続けた。

 

「つまりその教授は元々ベクターカートリッジに関する研究を行っていて、傘木社社長の凶行を止める為に独自にライダーシステムなどを作り上げたという事ですね?」

「纏めればそう言う事」

「なるほど…………では君は?」

「俺?」

「そう。君は何故仮面ライダーになって戦うんですか? 君も教授と共に超万能細胞とやらの研究をしていたのですか?」

 

 この話には興味があるのか、宗吾も顔だけ振り返って仁の言葉に耳を傾けた。仁は茜からの問い掛けに、椅子の背凭れに体重を預け息を深く吐いてから口を開いた。

 

「俺が超万能細胞の事を知ったのは去年初めて変身した時だよ。その前は存在そのものを知らなかった」

「ならなんで戦うんだ? ただの学生だろう?」

「ん~……そんなに崇高な理由がある訳じゃなくて恐縮なんだけど、強いて言うならベクターカートリッジ……超万能細胞の可能性を信じたいからかな?」

「可能性?」

「そう。超万能細胞だって、使い方次第ではきっと人を助けたりすることに使える筈なんだ。だから――」

 

「そんな訳あるかッ!?!?」

 

 突然宗吾が仁の言葉を遮るように叫ぶ。彼の怒声に驚く仁に対し、宗吾は茜に宥められながらベクターカートリッジ……ファッジに対する憎悪を吐き出した。

 

「俺の……俺の妻子はファッジに殺されたんだぞッ!? ベクターカートリッジが、超万能細胞なんてものがあるから俺の妻と娘は――!?」

「そっか……それが権藤さんが最初から俺を強く敵視してた理由か」

「あぁそうさ、悪かったな。俺はベクターカートリッジを認めない。あれは悪魔の発明だ!」

 

 鬼の形相でベクターカートリッジと超万能細胞を全否定する宗吾。仁はその言葉を聞いて、しかし微塵も気を悪くした様子を見せない。だからと言って興味が無さそうと言う訳でもなく、ただ宗吾の怒りと憎しみをそのまま受け入れているような感じだ。

 

「言いたい事は分かるよ。でもさ、それは違うと俺思うんだ」

「何?」

「もしもの話だけど、仮に権藤さんの奥さんと娘さんを殺したのに使われたのが包丁だったらどうするの? 権藤さんは世界中のコックや包丁職人を憎んで全員逮捕するの?」

「それは――――!?」

 

 宗吾は思わず言葉を詰まらせた。

 

 確かにベクターカートリッジとその産物であるファッジは危険だ。しかし、それは結局扱い方を誤っているからに過ぎない。

 

「権藤さんの気持ちは分かるけど、それって結局ベクターカートリッジと超万能細胞の一面しか見てない訳じゃん? 今はまだ机上の空論かもしれないけど、超万能細胞だって使い方を間違えなければ世界中の病気や怪我で苦しむ人達を救う事だってできる可能性があるんだよ」

「お前は、それを証明する為に戦うって言うのか?」

「そんな感じ。このまま超万能細胞が危険ってだけのイメージが広がったら、未来で助けられる筈の人も助けられなくなっちゃうし」

 

 普段であれば、仁の言葉はただの夢物語として一蹴されていたかもしれない。しかし宗吾達は、仁が今までベクターカートリッジの力で戦い何人も救っているのを知っている。なんだったら彼らS.B.C.T.も何度か助けられているのだ。

 仁の言葉がただのカッコつけなんか出ない事は、宗吾達が身をもって知っていた。

 

「俺思うんだ。俺達と権藤さん達、戦う目的はそれぞれ違うかもしれないけど、先にあるものはきっと同じ物だって」

「…………」

「だからさ、これからはお互い仲良くやっていきたいって思ってるんだけど、どうかな?」

 

 仁は正面から宗吾を見て、右手を差し出した。

 

 差し出されたその手を、宗吾は――――――




と言うわけで第21話でした。

今回は仁の変人っぷりが炸裂したかもしれません。
例え相手が自分に銃口を向けてきていても、手を取り合える相手なら絶対に敵対的な行動は取らないのが仁と言う男です。
前々から逃げ回っていたのは、宗吾が話を聞いてくれそうになかったからってだけの話です。

執筆の糧となりますので、感想その他宜しくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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