仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は仁からの亜矢に対する想いが告げられます。亜矢からの告白に、仁は何を思ったのか?


第24話:輝きを増す瞬間

「…………はぁ~……」

 

 週明けの月曜日、仁はまだ午前中という内から大学敷地内の喫茶店のテラス席で冷めたコーヒーを前に溜め息を吐いていた。

 彼を知る者であればこんな彼は初めて見ると、半分信じられないと言った目を向けるだろう。

 

 彼がこんな悩んだ様子を見せる理由は、言うまでも無く亜矢から告白された事に起因する。

 

 亜矢から告白された。彼女が自分の事を愛してくれている事は純粋に嬉しい。言ってしまえば仁だって亜矢の事は好きだ。

 だがそれを恋愛と結び付けていいかと問われれば、仁は考え込まずにはいられなかった。

 

 果たして自分は、亜矢を愛しているのか……それともただ人として好いているだけなのか。

 

「あれ? 門守君? こんな時間にこんな所で時間潰してるなんて珍しいわね?」

 

 唐突に声を掛けてきたのは美香だ。図書室からの帰りなのか、手には専門書を何冊か抱えている。

 

 声を掛けられて、仁は胡乱な様子で片手を上げて挨拶した。その様子に違和感を感じたのか、美香は仁に近付くと彼の向かいの椅子に腰かけた。

 

「どうかしたの? 何だか何時もに比べて覇気が無い感じだけど?」

「そんなに、変かな?」

「多分、門守君を知ってる人は皆首傾げると思う」

「そっかぁ……」

 

 自分はそんなに分かり易いかと、仁は空を仰ぎ見た。どこか黄昏た様子に、美香の頭に浮かんだハテナマークが数を増した。

 

「ホントにどうしたの? もしかしてあの後、亜矢と喧嘩でもしちゃった?」

「いや……そう言うんじゃないんだけど……う~ん…………」

 

 仁は悩んだ。ここで美香に亜矢から告白された事を話してしまって良いものかと。亜矢の真剣な告白をおいそれと誰かに話す事は何となく憚られた。

 

 だが1人では結論が出そうにないのもまた事実。仁は少し悩んだが、美香に亜矢から告白された事を話し相談する事にした。

 

「実はさ……」

「うん?」

「あの後、亜矢さんを家に送っていったら…………その……亜矢さんから、告白されちゃって」

 

 仁の話を聞いて、美香は一瞬思考が停止した。だが再起動した時、その顔には友の快挙を称えると同時にこれ以上無い程楽しい話の気配に満面の笑みを浮かべていた。

 

「うっそ、マジでッ!? ホントにッ! 亜矢から門守君に告白したって!!」

「待って、声大きい」

「おっとと……」

 

 慌てて美香は心を落ち着けた。今は出歩く学生の方が少ないとは言え、ゼロではない。もしこの事が他の誰かに聞かれて、何かのネタにされたら事である。

 

 落ち着きを取り戻しつつ、逸る心が押さえられない美香は身を乗り出し仁に話の先を促した。

 

「それで? 門守君は何を悩んでるの?」

「ん~……その、さ「あっ! やっぱり来てた!」――ん?」

 

 美香に続きを話そうとしたところで、更なる来訪者が現れた。やって来たのは峰だ。白衣姿の彼女が、仁を指差し近付いて来た。

 

「今日は朝から全然研究室に顔を出さないものだから、教授も双星さんも心配してましたよ? こんな所でこんな時間から何油売ってるんですか?」

 

 実は仁、今日は一度も研究室に顔を出していないのだ。どうにも亜矢と顔を合わせ辛くて、朝からこうして喫茶店で1人時間を潰していたのである。

 

 峰からの問い掛けに対し、答えたのは仁ではなく美香であった。

 

「実は門守君、この間亜矢から告白されてたらしくて」

「何ですとッ!? どう言う事ですか、詳しく聞かせてくださいッ!!」

 

 美香の話に峰は目の色を変えて仁に詰め寄った。仁は峰を宥めつつ、勝手に話した美香に恨めしそうな目を向ける。

 

「いやさ、この件に関しては知恵多い方が良いと思うわよ? 少なくとも2人の関係をよく知る宮野先輩には居てもらった方が良いと思う」

 

 先日の邂逅を経て、美香と峰は親交を深めていた。今では先輩後輩でありまた友人同士とも言える間柄である。

 

 美香の言う事も一理あると、仁は溜め息を吐き峰を引き剥がすと彼女を別の椅子に座らせ話を続けた。

 

「ま、話続けるけど……何て言うか…………俺が亜矢さんからの告白を受けていいもんかなって、不安で……」

「どう言う事です?」

 

 

「俺、今までずっと勉強とか研究ばかりだったから、他人に対してそう言う感情向けた事も向けられた事も無くて……」

 

「亜矢さんの事は大事で、嫌な思いはして欲しくないって思うんだけど、それが愛してる事なのかって聞かれると…………どうなんだろうって…………」

 

「半端な気持ちで応えて、後で亜矢さんをがっかりさせたり失望させたりするくらいなら、受けないのも一つの手なんじゃないかなって…………そう思っちゃって……」

 

 ぽつりぽつりと自分の気持ちを口にする仁。粗方話し終わると、彼は最後に2人に対し「どうしたらいい?」と訊ねてきた。

 

 そんな彼を見て、2人は一旦席を離れ彼に聞こえない声で話し合った。

 

「どう思います?」

「正直、十分だと思いますけどねぇ」

「ですよね。あの門守君があそこまで誰かを想うなんて無いですもん」

「ね~」

 

 仁は自他共に認める程、他人に興味を抱かない。他者を見下している訳でも、自分の殻に閉じ籠っている訳でもなく、単純に関心が無いのだ。それは周りの人間のあるがままを受け入れ「そんなものか」と結論付けているだけであり、干渉の必要性を感じていないからである。

 

 そんな彼が、亜矢の事をここまで気遣っているのだ。彼の中で亜矢がどれほど大きな存在であるかを如実に物語っているし、何だったら愛しているだろう事も察する事が出来た。

 

 だが彼自身はその気持ちをイマイチ理解していない。他人との干渉をスルーしてきた弊害だろう。自分が他人に対してここまで愛情を抱くと思っていなかったから、心の中に沸いた『愛しい』と言う気持ちを分かっていないのだ。

 

 分かっていないなら、分からせてしまえばいい。峰は単純な結論に達し、仁に近付いた。

 

「門守君。君のその心のモヤモヤ、私達が晴らしてあげますよ」

「ん? 出来るんです?」

「まっかせてください! と言う訳で門守君、カモン!」

 

 峰はそう言って近くのベンチに座り自分の膝をポンポン叩いた。膝枕をしてやるという事だろう。

 

「…………は?」

 

 突然の峰の申し出に、仁は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 後ろから見ていた美香も、突然何を言い出すんだこの人はと言う目を向けている。

 

 2人から向けられる奇異の視線に、峰は慌てて自分の考えを話した。

 

「変な勘繰りしないでください!? 門守君、この間双星さんの膝枕を受け入れてたじゃないですか?」

「はい、まぁ……」

「それと同じ要領で、私の膝枕で何か感じるかを確かめて欲しいんです。もし私の膝枕で寝てその時に感じたものが双星さんと同じ物であれば、門守君にとって双星さんは他の女性と何も変わらない存在であるという事。逆に私の膝枕と双星さんの膝枕で感じるものが全く別の物であれば、門守君にとって双星さんは特別な存在と言う事です」

 

 つらつらと理論を並べる峰だが、要するに亜矢の膝枕と亜矢以外の膝枕の寝心地を比べろという事だった。何となく言いたい事は分かったので、仁は失礼して峰の膝枕に頭を乗せる。

 

「ん~…………」

「どうですか、門守君?」

 

 自分の膝枕の寝心地を仁に訊ねる。自惚れるつもりは無いが、肉付きはそんなに悪くないつもりだ。理系女子と思わせて、戦闘用に鍛えても居るので太腿は程好い筋肉によりそれなりの弾力を持っている。

 

 そんな膝枕に対し、仁は次第に不満そうな声を上げると起き上がった。

 

「門守君?」

「ん~……もういいです」

「どうだったの?」

「どう……って程の事も無かったよ」

「ふむ、なるほど……」

 

 峰は仁の答えに顎に手を当てた。

 

 仁が自分の膝枕に不満そうな様子を見せた事に、地味にショックを受けながらも峰は検証を次のステップに移した。

 

「では次……篠崎さん、ゴー」

「はいっ!? 私ッ!?」

「単純に門守君が私の膝枕をお気に召さなかっただけと言う可能性もあります。検体は複数必要ですよ」

「言いたい事は分かりますけど……篠崎さんは良いの?」

「いや別にそれ自体は構わないけど…………じゃぁ、どうぞ?」

 

 峰と入れ替わりベンチに座り、仁に膝枕をする。仁は美香の膝枕に頭を乗せ、暫しその感触を確かめると、峰と同じように早々に頭を上げた。

 

「あらら、もういいの?」

「うん、ごめん。なんかもう、いいや」

 

 美香に対しては少し申し訳なさそうにしつつ、不満そうな様子を見せる仁。

 

 峰とは違い、美香の太腿には必要以上に筋肉はついていない。柔らかさは峰の太腿以上だ。こちらの膝枕の方が寝心地は上かもしれない。

 その膝枕がお気に召さないと言う。たった2人の検体だけなので、探せば仁が満足する膝枕があるのかもしれない。

 

 だが仁の反応を見る限り、結論は一つと考える方が自然だった。

 

「うん、まだ2人だけですけどほぼ確定ですね。門守君は双星さんに対して特別な感情を抱いています」

「特別な、感情――――」

「亜矢を愛してるって事でしょ、門守君は」

 

 峰の言葉を美香が補足する。

 

 2人の導き出した結論に、仁は強い衝撃を受けた。

 

「愛してる……俺、亜矢さんを…………」

「門守君は、双星さんの事……嫌いですか?」

 

 峰からの問い掛けに、仁は首を激しく振った。亜矢を嫌うなどありえない。

 

 事ここに至り、仁は自分の気持ちを自覚した。彼は、亜矢に対して愛を抱いている。

 その気持ちを自覚した瞬間、仁は胸が温かくなるのを感じた。

 

「そっか…………俺、亜矢さんを……」

「……今、双星さんは研究室に居ます。行ってあげてください」

 

 峰に促され、仁は研究室に向け一目散に駆け出そうとした。

 その瞬間、仁の携帯に着信が入った。出鼻を挫かれ、転びそうになりつつ仁が携帯に出るとその相手は宗吾であった。

 

 連絡を寄越してきた相手に嫌な予感を感じつつ、仁は携帯に耳を当て応対した。

 

「もしもし?」

『門守君か? すまないが、手を貸してほしい』

「ファッジ?」

『そう言う事だ。同時に複数個所で出現した。こちらでも人員を派遣したいところだが、先日の襲撃で地味に人手が削られていてな』

「分かった、すぐ行くよ」

『助かる』

 

 その後宗吾は自分が向かう場所を伝えると急ぐように通話を切った。その直後、峰のタブレットがアラームを鳴らす。見ると地図上の複数個所にファッジの出現情報を報せる光点が表示されている。

 

「……はぁ~…………」

 

 大きく溜め息を吐く仁に、峰と美香は同情の目を向けた。

 

「あ~、その~……頑張って?」

「ふ、双星さんにも知らせておきますね。門守君何処に行きます?」

 

 ファッジが出たのは全部で3か所。その内警視庁に近い所には宗吾達S.B.C.T.が向かったと言う。

 残る2か所はオフィス街と住宅街。仁は胡乱な目でタブレットを眺め、オフィス街に出たファッジを指差した。

 

「ここ、オフィス街に出た奴の所行きます。ここが一番遠いし」

 

 独自の移動手段を持つ仁が向かうなら、遠い所の奴の方が良い。そう判断して選ぶと、彼は足早にその場から移動し始めた。

 これから亜矢に答えを返さなければならない。さっさと終わらせたいのだ。

 

 去って行く仁の背を見送り、峰と美香は顔を見合わせ肩を竦めると、美香は自分の研究室へ戻り峰は亜矢にファッジ出現を報せに向かうのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 仁はあの後、亜矢を住宅街へ送り届けると自分はオフィス街へと向かった。因みにその際、2人の間にあった会話は必要最低限なものであった。

 

 彼がオフィス街に辿り着くと、そこにはある意味彼にとって因縁深い相手が待ち受けていた。

 

「あん? 来たのか、仮面ライダー?」

「お前……」

 

 オフィス街に居たのはフロッグファッジ。先日亜矢を甚振ったファッジである。

 亜矢からその姿や能力を聞いていた仁は、そいつの姿を見た瞬間目を鋭くした。

 

「……この間は亜矢さんが世話になったみたいだね」

「ん~? あぁっ! あの女の仮面ライダーか! あいつはアデニンかグアニンの所に行ったのか……クソッ!? こっち来てくれればこの間のリベンジが出来たってのによ」

 

 心底残念そうにするフロッグファッジを、仁は冷めた目で見つめている。感情を酷く押し殺した目だ。

 亜矢が今の彼を見れば、今までにない位彼が怒っている事に気付いただろう。

 

 事実、今仁は怒りに燃えていた。こんな奴に亜矢は…………

 

「あぁ、本当に俺、亜矢さんの事が大好きなんだな……こんな奴に亜矢さんが好き放題されたかと思うと、腹が立って仕方がない」

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

「……変身」

〈Open the door〉

 

 仁はデイナに変身すると、ハイブリッドアームズをハルバードモードにして斬りかかる。

 

 フロッグファッジは振り下ろされた斧槍を最初受け止めようとしたが、凄まじいパワーに一撃で防御を崩され二撃目を喰らい思わず距離を取った。

 

「いっ!? つつつつ……へっ、お前も結構やるじゃねえか」

「今日は検証してる時間は無いんだ。さっさと終わらせる」

 

 デイナはそのままフロッグファッジへの攻撃を続行する。縦横無尽に振るわれる斧槍の、刃や柄、石突がフロッグファッジを襲い、斬撃や殴打がフロッグファッジの表皮を傷付けていく。

 

「ふっ」

 

 このまま一気に畳み掛けようと、柄を殴打の為に振るう。振るわれた先にあるのは、フロッグファッジの首筋――――

 

「おっと……」

 

 寸でのところでデイナは柄の殴打を止め、斧槍を引っ込めた。亜矢から事前に聞いていた、フロッグファッジの能力の1つを思い出していたのだ。

 

「蛙の中には耳周りのイボに毒液を溜め込んでる奴が居た筈だからな、危ない危ない」

「ちっ、引っ掛からなかったか」

「姑息な手は二度以上は通じないと思った方が良いよ」

「アドバイスどうも……ならこいつはどうだ!」

 

 言うが早いか、フロッグファッジは姿を消した。表皮の色を変えて周囲に擬態する能力。一般にカメレオンが周囲の景色の色に溶け込むことは良く知られているが、実はアマガエルなど一部の蛙にもこの能力は備わっている。

 

 こちらも姑息と言えば姑息だが、触れなければ害の無い毒のイボに対してこちらは知っていても厄介だ。見えなければ攻撃できないのだから。

 

「でも残念。お前の居場所はすぐに分かる」

 

〈BUFFALO + WHALE Mutation〉

「ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 バッファローホエールフォームにゲノムチェンジしたデイナは、エコーロケーションで姿を消したフロッグファッジの姿を探す。光学迷彩化と見紛う程の完璧な擬態を見せるフロッグファッジだが、存在している限りエコーロケーションから逃れることは出来ない。

 

 程なくしてフロッグファッジの姿を見つけたデイナは、ハイブリッドアームズをライフルモードに変形させフロッグファッジに向け引き金を引いた。

 

「そこ」

 

 隠れたフロッグファッジに突き刺さる銃弾。

 だがその直後、デイナは背後から攻撃を受けた。

 

「ッ!? えっ?」

「ハッハッハァッ!!」

 

 まさかの読み違えに、デイナは一瞬混乱して自分が攻撃した方と背後を交互に見る。自分は確かにエコーロケーションでフロッグファッジを追跡し狙い撃った筈。それなのに何故?

 

 その絡繰りはすぐに分かった。デイナが撃った所に居たのは別のファッジが居たのだ。

 

 特徴的なぎょろりと突き出た目は左右別々の方を向き、鼻先には申し訳程度の角を生やしている。そして腰の後ろからはカールした尻尾。

 そこに居たのはカメレオンファッジだ。何時の間にかカメレオンファッジがデイナの傍に接近していたのだ。

 

「残念だったな、そいつは囮だ!」

「……俺が来るって分かってた訳じゃないよね?」

「あぁ残念ながらな。別にお供なんて必要無かったんだが、世の中何がどう転ぶか分からねえもんだぜ」

 

 言いながらフロッグファッジはカメレオンファッジ共々姿を消した。

 それを見てデイナは即座に作戦を立て、フロッグファッジを捉える為にベクターカートリッジを取り換えた。

 

〈DOG + LEON Mutation〉

「ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 デイナがゲノムチェンジしたのは犬の能力とライオンの能力を持つミューテーションフォーム。その姿にフロッグファッジはデイナに関するデータから彼が何をしようとしているのかを見抜いた。

 

(今度は匂いでこっちの場所を見つけようって魂胆か……だがッ!)

 

 フロッグファッジは物陰に移動するとカメレオンファッジを呼び寄せ、己の体から分泌されている粘液をカメレオンファッジに塗りたくった。さらには分泌する粘液の質を変え、己の匂いそのものを変化させる。

 姿を消す能力を持っているからこそ、それを見破る可能性のある相手への対策は考案済みだった。

 

 フロッグファッジとカメレオンファッジは再び姿を消してデイナに別々の方向から近付いていく。

 

 一歩一歩、ゆっくりと近付いていった時、不意にデイナが何かに反応した。フロッグファッジが居るのとは別方向だ。カメレオンファッジに付けた先程の粘液の匂いに反応したらしい。

 

 その瞬間フロッグファッジは一気にデイナに飛び掛かった。蛙特有の跳躍力を活かし、デイナとの距離を一気に詰め両手の爪で斬りかかる。

 

〈ATP Burst〉

「ハッ!」

「なっ!? ガハァッ?!」

 

 だが次にデイナが攻撃したのは、飛び掛かろうとしていたフロッグファッジの方であった。為す術なくカウンターで喰らった回し蹴りに、フロッグファッジは大きく蹴り飛ばされる。

 幹部の危機に焦ったのかカメレオンファッジが急いでデイナに攻撃を仕掛けようとするがそれは悪手。動揺したままの攻撃はデイナに容易く見切られ、大剣モードにしたハイブリッドアームズのノックアウトブレイクを用いた一撃により倒されてしまった。

 

「な、何でだッ!? 何で、俺の居場所が分かったッ!? 匂いは誤魔化してた筈だッ!!」

 

 しかも事前情報でミューテーションフォームでは能力は十全に発揮できない筈。匂いに敏感になれるフォームであっても、誤魔化しは効く筈である。それなのに何故とフロッグファッジの頭の中は混乱の極みにあった。

 

「俺、一度でもお前を匂いで捜そうなんて考えてなかったけど?」

「何?」

「気付いてない? お前とカメレオン、足音が全然違うって事に」

 

 全身粘液で常に濡れているフロッグファッジは移動の際微小にだがペタペタと音がする。大してカメレオンファッジは、全身が鱗で覆われている為そんな粘着質な音はしない。デイナはその違いに着目し、音を聞き分ける為にドッグベクターカートリッジを選択したのだ。レオンベクターカートリッジは、反撃の際に大きな一撃が放てるベクターカートリッジが欲しかったからに過ぎない。

 

 先日、フロッグファッジはルーナに対し足音で居場所を悟られそれが原因で敗北した。彼はその時と全く同じ敗因で敗北したのだ。

 

「あぁ、クソッ!? 今日はここまでにしといてやる、覚えとけよッ!!」

 

 フロッグファッジは捨て台詞と共にその場を跳んで逃げ去って行く。デイナはそれを見送る。

 撃ち落としてやろうかとも思ったが、流石にこの姿では精密射撃は向かない。今からドッグホエールフォームになっても、姿が変わった時にはフロッグファッジは逃げてしまった後だろう。

 

 デイナはフロッグファッジにトドメを差す事を諦めると、トランスポゾンに跨り住宅街の方へ向かった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その頃、ルーナは住宅街に出現したシーアーチンファッジと一進一退の攻防を繰り広げていた。

 ルーナの銃撃は先程からシーアーチンファッジの棘をへし折り、投擲される棘を撃ち落としていたが本体にはなかなか有効打を与えられていない。

 

 一方のシーアーチンファッジも、隙の無いルーナを相手に攻めあぐねている状態だ。

 何しろルーナは実質2人分の意識で戦っている。例え今体を動かしている亜矢の意識の隙を突いた攻撃をしようと、その穴を警戒している真矢が即座に反応して危険な攻撃を防いでいるのだ。

 

 互いに相手に効果的な攻撃が出来ていない現状。これでシーアーチンファッジがルーナを相手に接近戦を挑んでいればまた状況は変化したであろうが、シーアーチンファッジはルーナの接近戦能力を警戒して必要以上に近付く事をしなかった。

 先日の戦いでフロッグファッジがルーナにトドメを差そうと接近して、返り討ちに合った事を知っているからだ。

 

 膠着状態となる住宅街での戦い。

 そこに参戦する者が居た。デイナである。フロッグファッジを退け、ルーナを手助けする為に馳せ参じたのだ。

 

「仁君ッ!」

「デイナッ!? あの方角は……シトシンか。あいつ、しくじったな……」

 

 デイナの到着に喜色の声を上げるルーナに対し、シーアーチンファッジはフロッグファッジがデイナに敗れた事を察し悪態を吐いた。

 同時にシーアーチンファッジは均衡が崩れた事に撤退を決意した。ルーナ相手に一進一退の攻防を余儀なくされたのだ。ここにさらにデイナまで加わっては、苦戦は免れないし下手をすれば敗北を喫してしまう。

 

「アデニン、シトシンがデイナに負けたらしい。私はそろそろ退かせてもらう」

『了解だ。こちらもそろそろ後退する』

 

 シーアーチンファッジは通信でアデニンに撤退を進言すると、意外とあっさり了承された。向こうも戦況が芳しくないか、必要なデータは手に入れたから後退を考えていたらしい。

 データに関しては、シーアーチンファッジもルーナとの新たな戦闘データが手に入った。その為に部下のファッジを1体失ったが、お陰でルーナの戦闘データが新たに獲得できた。成果は十分だ。

 

 デイナとルーナの足元に棘を投擲し、爆発で目くらましをするとシーアーチンファッジは素早く撤退した。

 煙が晴れた先にシーアーチンファッジの姿が無かったことに、デイナは溜め息を吐くと変身を解除した。

 

「どうやら逃げるみたいだね」

「そうなんですか?」

「通信で話してるのが聞こえた。権藤さんの所の奴も逃げるみたい」

 

 ルーナと話しながら仁はスコープの方に携帯を掛けた。

 

「もしもし、権藤さん? こっちの奴らは逃げたんだけど、そっちはどう?」

『こっちの奴にも逃げられた。嫌にあっさりと引き下がったな?』

「目的は仮面ライダーのデータ収集みたい」

『そう言う事か……兎に角今回は助かった。後はこっちで処理しておく』

「あ、それなら俺が戦ったオフィス街の方、ファッジ1体倒したよ。あいつの部下だったみたいだから口封じされちゃったけど……」

「こちらも……」

 

 そちらに関しても後は権藤達が処理してくれるとの事で、仁と亜矢は大学へと戻る事にした。

 亜矢を後ろに乗せ、仁がトランスポゾンを走らせる。

 

「…………」

 

 仁は真っ直ぐ大学へと向かう。だが大学が目の前に迫った瞬間、彼はハンドルを切り大学の駐車場とは違う方へと向かった。彼が向かったのは大学の裏手、裏山がある方だ。確かにそちらからもトランスポゾンならラボの格納スペースへと入る事が出来る。

 だが仁も普段は大学の駐車場に停めている筈。事実今日も、行く時は大学の駐車場に停めていたのだ。

 

 それが何故帰りには裏山なのか?

 

「あの、仁君? 何で裏山へ?」

「ん、ちょっとね」

「ちょっと、って……」

 

 困惑する亜矢を乗せたまま、仁は裏山の麓にトランスポゾンを停め降りた。とりあえず亜矢もそれに続き降りる。

 

「仁君、どうしたんです?」

「ん……」

 

 亜矢が事情を問うが、仁は頷くだけで何も答えない。こんな仁は初めてだったので、亜矢は訳が分からないと更に混乱した。

 

 そんな彼女と共に裏山を上った仁は、ラボへは向かわず山頂まで登り一本の木の下に立った。恐らくは桜だろうその気は、花はとっくに散って緑の葉を生い茂らせている。

 

 その気を見上げる仁を、亜矢が心配そうに見つめていると彼は徐に口を開いた。

 

「ずっと……」

「え?」

「ずっと、考えてた。俺、亜矢さんの事をどう思ってるんだろうって……」

 

 突然の事に亜矢は最初彼が何を言おうとしているのか分からなかったが、少ししてそれが先日の告白に対する答えに繋がる話だと気付き緊張に息を呑んだ。

 

「俺、今まで人に対して特別な想いとか持った事なくてさ。研究とか学説とかにしか興味が無くて……」

 

 仁の言葉に、次第に亜矢の表情が沈む。やはり彼は、色恋には興味などないのか、と。

 

 だが次に続いた言葉に、彼女は思わず頭を上げた。

 

「でも、亜矢さんに対しては違った」

「え――!」

「亜矢さんと一緒に居ると、何て言うか、心が温かくなるんだ。亜矢さんの笑顔を見ると、俺も何だか嬉しくなってきて……逆に、亜矢さんが辛かったり、亜矢さんに酷い事したやつ見ると、凄く嫌な気持ちになる」

 

 段々と仁の言葉に熱が籠ってくる。それに合わせて亜矢の顔にも熱が溜まり、頬が赤く染まってきた。

 更に欲見ると、仁の頬も何だか赤い。

 

「今日、峰先輩の手助けで色々検証してみたんだけど、俺……亜矢さんの事大好きみたいだ。…………うん、俺、亜矢さんが好きだ」

 

「この気持ちを愛だって言うんなら、俺、間違いなく亜矢さんを愛してる」

 

 仁の口から出た、亜矢に対する明確な好意。亜矢は言葉を失い目を見開き、両手で口を押えている。

 

 動揺する亜矢に気付く余裕も無いのか、仁はそのまま話を続けた。

 

「これからも、ずっと一緒に居たい。これが俺の答えなんだけど…………これで、良いかな?」

 

 言いたい事を言い終え、仁が亜矢の顔を伺うと思わずギョッとした。

 

 顔を赤くして口を手で押さえている亜矢の目からはポロポロと涙が零れていたのだ。何か答えに不満があったかと、何かを間違えたかと仁がらしくなく狼狽える。

 

「えっ!? ちょっ、何? 何かまずk――」

 

 この大学に入学してから見せたことがあるだろうかと言う狼狽えっぷりを披露する仁だったが、その彼の胸に亜矢が飛び込んだ。両手を彼の背に回し、渾身の力を込めて抱きしめる。

 

 突然の抱擁に最初困惑する仁だったが、直ぐにそれが彼を受け入れての事だという事に気付き彼も亜矢の事を抱きしめ返す。

 

「仁君……仁君――!」

「ゴメン……変に鈍くて。もっと早くに気付いてれば良かったのに……」

 

 他人の気持ちにも、自分の気持ちにも鈍かったことを仁は後悔していた。もっと早くにこの気持ちを亜矢に伝える事が出来ていれば…………

 

 そうすれば、世界はもっと輝いていたかもしれない。

 

 他人に対し必要以上に興味を抱かなかった自分を恥じ、そして自分よりも己の気持ちに正直だろう亜矢を待たせてしまった事を申し訳なく思った。

 

 しかし亜矢はそれでも構わなかった。彼はこうして自分を受け入れてくれた。彼も自分の事を愛してくれている。それだけで十分嬉しかった。

 

「いいんです……ぐすっ。仁君が愛してくれた、それだけで私には十分です」

「ううん。まだまだ……これからだよ。これからもっともっと、亜矢さんを愛したい。愛してみせる」

 

 そう言って仁は亜矢の顎に指を添え、そっと自分の顔に向せ顔を近付けた。それが何をしようとしているのか気付き、一瞬目を見開く亜矢だったがすぐに頬を赤く染めながらも目を閉じ彼がやろうとしている事を受け入れた。

 そのまま重なり合う2人の陰。仁は優しく亜矢にキスをし、彼の唇を感じた瞬間亜矢は彼の首に腕を回して離れまいと強く抱きしめた。仁もそれに応えるように、亜矢の背中と頭に手を回して彼女をしっかりと抱きしめる。

 

(良かった、亜矢……これで、私は――――)

 

 想いが繋がり合った2人を、亜矢の中の真矢が静かに祝福していた。




と言うわけで第24話でした。

仁はこれまでの人生で他人に対して殆んど関心を抱いてこなかったので、亜矢に対する自分の想いにも気付きませんでした。
その代わり、一度自覚すると結構グイグイいきますが。

次回からの二話は亜矢と付き合う上で避けては通れないある問題に向き合う話となります。あ、先に言っておきますと亜矢の両親への挨拶じゃありませんよ?それはまた別の機会にでも。

執筆の糧となりますので、感想その他宜しくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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