仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回はある映画を元ネタとした展開があります。誰もが知っているあの映画ですよ。


第27話:太古からの贈り物

 恋人同士になってからは、前以上に一緒に居る事が多くなった仁と亜矢だがそれでも四六時中一緒に居る訳ではない。

 朝晩は互いに自宅へ帰っているし、大学に居ても予定が合わなかったりする時は別々に行動する事もあった。

 

 現在、仁は大学敷地内の喫茶店のテラス席で1人コーヒーを啜りながらノートパソコンを叩いていた。ノートパソコンの中身はベクターカートリッジや超万能細胞に関する知識。これまでの戦いで仁が独自に学び、考えた知識を纏めているのだ。

 亜矢はと言うと、図書室にて卒論に関する資料を集めている。最初は仁も手伝おうとしたのだが、流石にそこまで頼るのは悪いと亜矢がそれをやんわり拒否。喫茶店で待ち合せようという事で一度分かれたのである。

 

 手持無沙汰になった仁は暇な時間を利用して、これまで得た知識を今こうして纏めていたのだ。

 

 そこに近付く人物が居た。少し伸ばし目の黒髪はあまり手入れがされておらず、服装も何処かだらしない。だがその割には活気に満ちた男子学生だ。

 その男子学生は、鼻歌を歌いながら喫茶店に入ってくると仁が座っているテラス席のテーブルの対面に座った。

 

「あ、ジンジャエール一つ」

「かしこまりました」

 

 男性は無遠慮に仁の対面の席に座ると平然と店員に注文した。その後も鼻歌を歌い続ける学生に、仁は一度視線を向けるとキーボードを打ちながら話し掛けた。

 

「随分と御機嫌だね。何か良い事あった?」

 

 この男子学生の名は五十嵐 薫(いがらし かおる)、仁の住むアパートで彼の上の階に住んでいる男である。

 

 薫は仁に問い掛けられると、待ってましたと言わんばかりに身を乗り出し答えた。

 

「おっ! 気付いた? 気付いちゃった?」

「気付いてほしそうな感じだったけどね」

「いや~、分かっちゃったか~。え、気になる? 気になっちゃう感じ?」

「まぁ、興味はあるよ」

 

 あんなあからさまに『私御機嫌です』と言う雰囲気をバラ蒔いておきながら、気付いたも気になるも何もない。小学生が自分の誕生日を周りに気付いてほしくて態と機嫌良さそうにしている様なものだ。正直鬱陶しい。

 

 しかし気になるのは事実だった。この男がこんな風に機嫌良さそうにしているのは初めて見るし、仁の勘が彼の話は聞くべきだと囁いていたのだ。

 

 好奇心に突き動かされるまま、キーボードを打つ手を止め薫の話に耳を傾ける。

 仁が興味あると言う姿勢を見せると、薫は楽しそうに笑いながら身を乗り出し小声で話してきた。

 

「あのな? これまだ外部には秘密の事なんだけどな……」

「うん……」

「実はうちの研究室で、遂に見付けちまったんだよ!」

「何? 新種の化石?」

 

 薫の所属する研究室は古生物学を扱っている。なので彼がテンション高く見つけたと言うのなら、それは新種の古生物の化石だろうと思ったのだ。

 だが彼の口から出てきた答えはその斜め上を行っていた。

 

「違うよ、DNAだよ! 恐竜の生DNA!」

 

 小声で声を張り上げると言う器用な事をやってみせる薫だったが、仁はそれどころでは無かった。

 

 薫の答えに好奇心を強く刺激された仁は、一瞬思考停止すると素早く辺りを見渡しノートパソコンを閉じ自分も身を乗り出した。

 

「マジ? 恐竜のDNA?」

「ははぁ、興味あるだろう? ま、実際恐竜かどうかは分からねえけど、古生物のDNAである事は間違いねえよ」

「どう言う事?」

 

 薫の話ではこうだ。前々から彼の所属する研究室では琥珀に閉じ込められた蚊から古生物のDNAを採取する事が出来ないかと研究が続けられてきたのだが、先日彼の研究室の教授の手により幾つか蚊を閉じ込めた琥珀が研究室に持ち込まれ、そこから生きたDNAを複数採取する事に成功したのだと言う。

 

 やってきたジンジャエールで喉を潤しながらそこまで話した薫。仁は彼の研究室が為した事に素直に感心していた。

 

「凄いじゃん」

「まぁな!……ただ一個問題があってさ……」

 

 それまでウキウキしていた顔を少し曇らせる薫に、仁は何が問題なのかに気付きそれを口にした。

 

「流石に何億年も経てばDNAは劣化してるだろうね」

「そこなんだよぉ~、折角見つけたDNAもこれじゃ宝の持ち腐れ。しかもうちの研究室の設備じゃ解析も時間が掛かっちまう」

「…………でも、ウチの研究室ならそこらの研究室に負けない設備でDNAの解析が出来る」

 

 仁は薫が自分に自慢するように近付いて来た理由が分かった。これが彼の目的だったのだ。

 

 仁が自分の真意に気付いたと分かり、薫が会心の笑みを浮かべる。

 

「気付いたか?」

「それが目的だったんでしょ。白上教授とウチの研究室の設備があれば、劣化しててもDNAの解析は出来る。その話を円滑に進める為に俺に話を持ってきた。違う?」

 

 仁に言い当てられ、薫は楽しそうに指を鳴らした。

 

「いいねぇ~、流石門守! 話が早くて助かる! 見込んだ通りの反応だよ! 勿論タダとは言わねぇ。このDNAに関するデータはそっちの研究室と共有させてもらうからよ、どうだ?」

「いいよ。教授には話を通しておく」

「サンキュー! 恩に着るぜぇ!」

 

 仁からの色よい返事に、薫が歓喜し彼の手を取り大きく上下に振った。

 

 そこに資料を集め終えた亜矢が何冊か本を抱えてやって来た。

 

「お待たせしました、仁君……あれ? そちらの方は?」

「おっと! そろそろお邪魔みたいだな。んじゃ、失礼するぜ!」

 

 薫はジンジャエールを飲み干すと、代金をテーブルの上に置いて去って行った。

 何が何だか分からず薫の後姿を見送ると、目を丸くしながら仁の方を見た。

 

「あの、一体何がどうしたんですか?」

「ん~、ウチの研究室とアイツの研究室で共同研究しましょうって話」

「はぁ……?」

 

 その後、仁の口添えもあって白上研究室と五十嵐の所属する山根研究室による共同研究で複数の恐竜のDNAの採取に成功。

 この事は新聞などでも大々的に取り上げられる事となった。

 

 

 

 それは当然、この男の目にも止まる事になる。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 傘木社の社長室で、椅子に深く座りながら新聞を広げる雄成。その見出しは、明星大学で恐竜の生きたDNAが採取されたと言う事で埋め尽くされていた。

 

 新聞を真剣に眺める雄成の様子を、アデニンとグアニンが静かに見ている。

 

 その2人に向けてか、それとも無意識の内になのかは分からないが雄成がポツリと呟いた。

 

「恐竜のDNAか…………欲しいな」

 

 明確に命令した訳ではないのだろうが、彼の呟きに対するレスポンスは早かった。

 

「直ちに蚊の混じった琥珀を片っ端から取り寄せます」

「それとも、明星大学に部下を送って現物を手に入れますか?」

 

 アデニンが薫たちを真似て琥珀から恐竜のDNAを得ようとする一方、グアニンは今既にある恐竜のDNAを奪い取る事を提案する。それを聞いた雄成は新聞を畳むと、机に肘をつき組んだ手の上に顎を乗せ考え込んだ。

 

「ふむ……そうだね。どちらも進めてもらおうか」

 

 雄成から許可が出た事に、アデニンとグアニンは深く頭を下げ社長室を退室しようとする。

 だがその際、雄成はグアニンにだけ声を掛けた。

 

「あぁ、そうだ。折角だ、私も行くよ」

「は?」

 

 予想外の言葉に、思わず変な声を上げてしまった。たかがこの程度の事に、社長が直接出張るなど……

 

「いえ、お言葉ですがこの程度の事であれば私だけで熟して見せます」

「いやいや、私も偶には体を動かさんとね。それに明星大学には会いたい人が居る。君の仕事の邪魔はしないよ」

「グアニン……」

「…………分かりました」

 

 アデニンの口添えもあり、グアニンは折れ雄成の同行に頷いた。

 

 雄成は満足そうに笑みを浮かべると、椅子を回して2人に背を向けた。

 窓の方を向いた彼の顔には、その時を楽しみにしているかのように満面の笑みが浮かんでいる。

 

「あぁ、そうだ。“例の物”は出来ているかね?」

「それに関しては技術部から完成の報告がありました。今はテストを行っている最中だとの事です」

「では折角だ。それも持っていって実戦テストといこうじゃないか」

「分かりました。では技術部にその様に伝えておきます」

 

 思い出したように言う雄成に、アデニンが即座に答える。その答えに満足したのか、雄成は2人に軽く手を振った。今度こそ用は無くなったらしい。

 

 2人が出ていき、1人部屋に残される雄成。その口からは抑えきれない笑い声が零れていたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 山根研究室との共同研究により、付随する形で一躍有名になった白上研究室。

 

 亜矢が仁に紅茶を淹れながら、未だ興奮冷めやらぬと言った様子で話し掛けた。

 

「私、取材なんて初めて受けちゃいましたよ。はい、仁君」

「ん、ありがと。……亜矢さん美人で花があるから、取材の人達も亜矢さんの写真撮りたがってたよね」

「止めてくださいよ、教授や教授を手伝った仁君を差し置いて写真撮られるのを断るの大変だったんですから。…………もしかして妬いちゃった?」

「…………ちょっとね」

 

 仁の答えに真矢が嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 先日快挙を成し遂げた山根研究室と白上研究室は新聞やテレビからの取材を受けたのだが、その際取材陣は亜矢をやたらとメディアに取り上げようとしたのだ。特に写真の催促が凄かったのだが、それは流石に教授達に悪いと最後まで断り続けた。

 それでも尚もしつこかった取材の人に対し、仁は遂に最終手段に出た。

 常に亜矢と取材陣の間に陣取るように立ち、彼女に取材陣が近付けないようにしたのだ。

 

 真矢の指摘通り、自分以外が亜矢に必要以上に近付こうとしている事に対しヤキモチを焼いたである。思い出せば随分と子供っぽいと思わなくもない行動だったが、亜矢からすれば彼に守ってもらえて純粋に嬉しかった。

 

 そんな2人に対し、ちょっぴり不満そうにしているのが峰である。彼女には取材陣は全く近寄ってこなかったので、少し面白くないらしい。

 

「良いんですよ良いんですよ。私には研究と言うパートナーが居るんですから」

「とうとう女を捨てたか。いや、今更だな」

「ぐっ!?」

 

 やけくそになって呟いた言葉に、拓郎の言葉が重なり峰は胸を押さえる。

 

 仁はそんな2人を視界の端に捉えつつ、亜矢が淹れてくれた紅茶を一頻り堪能した後何かを憂いるような溜め息を吐いた。

 それに気付いた亜矢が真矢に代わって表に出て彼に問い掛ける。

 

「どうしたんですか?」

「ん? うん……今回の事、メディアに取り上げられたのはもしかして不味かったんじゃないかなって」

「何でです?」

「メディアに取り上げられたって事は、傘木社にも知られたって事でしょ。もしかして、傘木社の連中が恐竜のDNAを欲しがって奪いに来るんじゃないかって……」

 

 仁の何気ない言葉に、研究室に居た者全員に電流が走ったかのような衝撃を受けた。快挙に浮かれるあまり、その可能性をすっかり見落としていた。

 仁の言う通り、傘木社であれば恐竜のDNAを新たなベクターカートリッジなどの研究の為に奪いに来てもおかしくはない。

 

「…………一応山根研究室に行ってみようか」

 

 念には念を入れて、山根研究室に様子を見に行こうと仁が立ち上がり亜矢もそれに続こうとした。

 

 その瞬間、研究棟の何処かから派手な破壊音が聞こえてきた。非常ベルが鳴り、研究室の外が騒がしくなる。

 

「まさか、もう――!?」

「先越されたね。急ごう」

 

 デイナドライバーを手に研究室を出て、山根研究室へ急ぐ2人。

 

 慌てふためく学生の流れに逆らって山根研究室へと向かうと、研究室の扉が破壊されているのが見えた。急いで破壊された扉に向かい、中を覗き込むとそこにはシーアーチンファッジとバッタの遺伝子を用いたファッジ・ホッパーファッジが室内の学生を薙ぎ倒し何かをトランクに入れていた。

 半透明の液体の入った小さなシリンダー、あれは件の恐竜のDNAだ。

 

「返せッ!?」

 

 そのシリンダーを奪い返そうと、薫が無謀にもホッパーファッジに掴みかかる。だがただの人間の力で押え付けられる訳も無く、薫はホッパーファッジに簡単に振り払われてしまった。

 

「うわっ!?」

「こいつは我々が頂く。ご苦労だったな」

「ち、くしょう――――!?」

 

 シーアーチンファッジの言葉に、薫が唇を噛み締め床を殴る。自分達が苦労して手に入れた研究成果を、みすみす目の前で横取りされるのだ。悔しくない訳がない。

 

 自らの無力さに拳を握り締める薫に、シーアーチンファッジは棘を何本か抜き投げつけようとした。

 

「亜矢さん」

「はい!」

 

 その直前、部屋に飛び込んだ仁と亜矢がシーアーチンファッジに飛び蹴りを放つ。まだ変身していない状態での蹴りだったのでダメージにはならないが、それでも体勢を崩させホッパーファッジにブチ当てて倒し、薫を救うことは出来た。

 

「ぐぉっ!?」

「ふぅ……危ない危ない」

「大丈夫でしたか?」

「か、門守ッ!? それに双星さんまでッ!?」

 

 薫の無事を確かめ安堵の溜め息を吐く仁と、薫を気遣う亜矢。対する薫は、2人が果敢にシーアーチンファッジに挑んで助けてくれた事に驚きの声を上げた。

 

「来るだろうとは思っていたが……仮面ライダーめ」

「えっ!? 仮面ライダー? 誰が?」

 

 突然乱入してきた仁と亜矢の事もあって混乱している薫は、シーアーチンファッジの言葉の意味が理解出来ず2人が仮面ライダーである事に気付いていない。

 

 仁と亜矢は薫に気付かせる為……ではないが、恐竜のDNAを取り返す為に仮面ライダーに変身する。

 

「人の頑張りを横から掻っ攫うなんて、恥ずかしくないの?」

〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉

「そのトランクの中身、返してもらいます!」

〈CAT Adaptation〉

 

 仁と亜矢は薫や他の山根研究室の学生が見ているのも構わず、デイナドライバーを装着しベクターカートリッジを装填してレセプタースロットルを引いた。

 

「「変身ッ!」」

〈〈Open the door〉〉

 

 仁と亜矢が目の前で仮面ライダーに変身するのを目の当たりにして、薫は悲鳴のような声を上げずにはいられなかった。

 

「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 門守と双星さんが、仮面ライダーッ!?」

 

 状況も忘れて絶叫する薫を振り返り、デイナは口元に人差し指を当てた。

 

「内緒ね」

 

 一応秘密にしている事を告げていると、シーアーチンファッジ達が体勢を立て直した。

 2体のファッジと対峙するデイナとルーナは、拳と拳銃をそれぞれ構えトランクを奪い返そうと飛び掛かる。

 

「それ返せ」

「冗談じゃない。フッ!」

 

 それに対し、シーアーチンファッジは壁に向け棘を投擲し破壊するとそこからホッパーファッジと共に外へと逃げ出した。

 考えてみれば奴らの狙いは恐竜のDNAを手に入れる事なので、ここで仮面ライダー達と戦闘をする事のメリットは無い。寧ろ戦えば折角の目的の物を奪い返されたり失う可能性があるのだから、戦闘を避けるのは理に適っていた。

 

「さらばだ、仮面ライダー」

「逃がすか」

 

 壁の穴から逃げていく2体のファッジを、デイナとルーナが追い掛ける。ルーナは走りながらリプレッサーショットで2体のファッジの足元を狙い撃つと、ホッパーファッジの足を撃ち抜き転倒させることに成功した。更にそれに巻き込み、シーアーチンファッジも転倒する。

 

「ッ!?」

「うぉっ!?」

 

「お見事亜矢さん」

「真矢のサポートのおかげですよ」

【え? 今私何もしてないけど?】

「え?」

【え?】

 

 どうやら亜矢には銃の才能の様な物があったらしい。本人も気付かぬ才能だったが、ルーナとして戦う内にそれが開花したのだ。

 

 一方、転倒させられたファッジ2体はこのままでは捕まる事を予感し二手に分かれて逃げる事にした。荷物はそれぞれ別にしているので、最悪どちらかが運んでいるDNAが手に入る。

 

「お前は向こうへ行け。私はこちらから逃げる」

「了解」

 

 シーアーチンファッジとホッパーファッジは二手に分かれ、別々の方向へと逃げていく。

 デイナとルーナも二手に分かれるべきと考え、ルーナは即座にシーアーチンファッジの方に名乗りを上げた。

 

「仁君、私はあのウニのファッジの方に行きます!」

「待って亜矢さん、あいつ幹部だよ?」

「大丈夫よ仁君。私と亜矢が揃えば、あれくらい何とかなるって」

「真矢さん……分かった、気を付けて」

 

 亜矢と真矢、2人に説得されデイナはホッパーファッジの後を追う。

 

 流石と言うか、脚力に優れるバッタの遺伝子を用いたファッジは逃げに徹すると速い。一飛びでビルの屋上に辿り着き、ビルからビルへと飛び移る。

 

 そんな奴を追い掛けるのなら、これが最適だ。

 

〈HAWK + LEON Evolution〉

「ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 ホークレオンフォームにゲノムチェンジすると、デイナはインペリアルウィングを広げ飛翔。ビルの合間を飛び、あっという間にホッパーファッジに追い付いた。

 

「よっ」

「ッ!?」

 

 あまりにも早くに追い付かれ、ホッパーファッジは驚愕の余りデイナの方に気を取られてしまった。

 

「前方注意」

「え? がっ!?」

 

 その次の瞬間、ホッパーファッジはビルの壁に激突した。デイナに気を取られ、力加減をミスってしまったのだ。

 

 ビルの壁に激突した衝撃でトランクを落としてしまい、そのまま落下するホッパーファッジ。デイナは自由落下していたトランクを空中でキャッチすると、落下して地面に激突したホッパーファッジの傍に悠々と降り立った。

 

「盗んだもの、返してもらったよ」

「させるか――!」

 

 デイナが見せびらかす様にトランクを掲げると、ホッパーファッジはそれを取り返そうと飛び掛かる。

 自慢の脚力を活かして高速でジャンプしてきたホッパーファッジを、デイナはインペリアルウィングを盾代わりに防ぎその間にベクターカートリッジを交換した。

 

〈HAWK + HUMAN Mutation〉

「ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 今度はホークヒューマンフォームにゲノムチェンジすると、同時にインペリアルウィングを開いてホッパーファッジを吹き飛ばす。

 吹き飛ばされながらも体勢を立て直したホッパーファッジはすかさず次の攻撃を行うが、今度は受け止める事無くひらりと身を躱した。まるで風に舞う木の葉の様に、自慢の跳躍からの飛び蹴りなどを回避するデイナに次第にホッパーファッジは焦りを感じ始めた。

 

 ミューテーションフォームは一見エヴォリューションフォームの下位互換に見えるが必ずしもそうではない。能力の出力は確かにエヴォリューションフォームに劣るが、その代わりエヴォリューションフォームにはない柔軟な組み合わせが大きな武器となっていた。

 今デイナが選んでいるホークヒューマンフォームも、ホークベクターカートリッジで得られる飛翔能力を体を浮かす事に使いヒューマンベクターカートリッジで得られる柔軟な動きにより他のフォームでは得られない舞うような動きを獲得させるに至ったのだ。

 

「よっ、ほっ」

 

 ホッパーファッジの攻撃を巧みに回避し、反撃の蹴りで追いつめていく。やられてばかりではいられないとホッパーファッジも激しく攻撃するが、まるで柳に風と言わんばかりにデイナはそれらをするりと回避した。

 当たらない攻撃に、ホッパーファッジは段々と疲労が重なり動きが鈍くなっていく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 遂に動きを止めてしまったホッパーファッジに、デイナはトドメの一撃を放つ。

 

「戦いのレポートは纏まった」

〈ATP Burst〉

 

 レセプタースロットルを引き、ホッパーファッジに向けて滑空するように飛び蹴りを放つデイナ。疲労困憊しているホッパーファッジは回避が間に合わず、デイナのノックアウトクラッシュを喰らい爆発。ベクターブレスからカートリッジが排出され元に戻ると同時に隠蔽処置で消し炭となった。

 

 ホッパーファッジだった人間の燃えカスを見て、デイナは溜め息を吐くと手に持ったトランクを見た。

 

「……こんな事の為に……」

 

 デイナは溜め息交じりに呟くと、踵を返してルーナの居る方へ向かった。トランクの片方を取り返す事には成功したし、何だかんだで彼女の事は心配だった。

 遠くからはルーナが戦っているからだろうリプレッサーショットの発砲音が聞こえる。デイナはそこに向けて一目散に駆けた。

 

 その時何処からか銃声が響き、一発の銃弾がデイナが持つトランクの手元に命中した。

 

「あっ!?」

 

 銃弾が手元に命中した衝撃でデイナはトランクを放ってしまい、トランクは放物線を描いて遠くに落下した。

 急いでトランクを回収しようとするデイナだったが、彼の足元に次々と銃弾が突き刺さり彼がトランクに近付くのを阻んだ。

 

「くっ……。誰?」

 

 今のはアントファッジが使う銃弾ではない。それに気付いたデイナが銃声の聞こえてきた方を見ると、そこには意外な人物が居た。

 

「すまないね、門守 仁君」

「お前……傘木 雄成?」

 

 そこに居たのは傘木社の社長である、傘木 雄成その人であった。彼の手には一丁の大型の拳銃が握られている。

 

 デイナはトランクの回収を諦め、雄成に対し半円を描く様に動いた。

 

「社長自らが来るなんて、余程暇なんだね」

「いやぁ、今日はちょっとどうしても自分の足でここに来たくてね。頑張って予定を開けて足を運んだんだよ」

 

 言いながら雄成は懐からベクターカートリッジを取り出した。

 デイナはそれに対し警戒しながら、彼の真意を見抜こうと会話を続ける。

 

「何で態々? 部下に任せればいいのに……」

「会いたかったんだよ、君にね。前に再び会おうと言ったじゃないか」

〈SAMPLE1〉

 

 雄成は話しながらベクターカートリッジを起動し、それを拳銃上部から斜めに装填した。

 

〈Leading〉

 

 拳銃――ベクターリーダーから音声が響くと、雄成は銃口をデイナに向ける。身構えるデイナを前に、雄成は笑みを浮かべた。

 

「さぁ、これが私の今の研究成果だ。――――進生(しんせい)

〈Transcription〉

 

 雄成が引き金を引くと、銃口からデイナが変身する際にセントラルドグマから放たれるスーパーコイルと同様の二重らせんが発射される。それはデイナの目前で軌道を変えUターンすると、真っ直ぐ雄成自身に戻っていきその身を貫いた。

 すると見る見る内に雄成の肉体が変異していき、アンダースーツと装甲が白く防護マスクの様なバイザーを身に付けた姿になった。青いバイザーの奥では、黄色い双眼がキラリと光っている。

 

 それは最早ファッジでは無かった。変身プロセスなど、細部は異なるがそれでも外見はファッジより仮面ライダーのそれに近い。

 

 仮面ライダーに限りなく近い、ファッジとは異なる存在。

 

 その名も――――

 

「これがプレインジーン。門守 仁君……見せてくれ、君の研究成果を――――!」

 

 ベクターリーダーの銃口を向けてくる雄成の変身したプレインジーンに対し、デイナは何も言わず佇んでいた。

 

 もしこの時、彼が仮面をしていなかったら……恐らくプレインジーンは見る事になっていただろう。

 

「――――――――へへっ」

 

 何処か楽し気に、そして何処か怪しげに笑みを浮かべる、仁の表情を見る事になっていた筈だ。




と言う訳で第27話でした。

以前名前だけちょろっと出た五十嵐が正式に登場です。亜矢サイドの日常の友人が美香なら、仁サイドの日常の友人は彼になりますね。こちらは所謂類友です。

琥珀に閉じ込められた蚊から遺伝子の採取、と言うのは言うまでもありませんが映画『ジュラシック・パーク』が元ネタです。やっぱり遺伝子工学を取り扱うなら、恐竜の遺伝子についても触れておきたかったので。

今回傘木社が新たに開発して実戦投入したベクターリーダー、ベースはウルトラマンティガのGUTSハイパーガンです。あれのプレバンの玩具持ってますけどかなりカッコいい。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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