今回の話は本作を書くに当たって描きたかった話の1つです。
デイナ・ホークヒューマンフォームとプレインジーンは、激しい戦闘を行っていた。
「ふっ、はっ、しっ」
「おっと、フンッ! ハハッ!」
放たれるデイナの攻撃を、プレインジーンは巧みに受け流し格闘や銃撃で反撃を繰り出す。
プレインジーンの格闘スキルはとてもただの一企業の社長とは思えないほど優れたものであった。先程から何度もデイナの攻撃が飛ぶが、プレインジーンには一発もまともに命中していない。ただ能力に頼っているのではない、洗練された技術を持っていることが伺えた。
「社長って、普段椅子に座ってふんぞり返ったり会議ばっかりやってる印象あった……」
「驚いたかね? これでも腕に覚えはあるんだよ。それより君の力はこんな程度かね?」
デイナからの言葉に答えながら、プレインジーンは至近距離からの銃撃を浴びせる。これは流石に躱しきれず、デイナは胸に何発も銃弾を浴び後方に吹き飛ばされた。
「ぐぅっ!?」
吹き飛ばされ地面に叩き付けられるデイナ。そんな彼に、プレインジーンはつまらないと言いたげに溜め息を吐いた。
「はぁ……どうしたのかね? こんなものか? 君の研究成果を見せてくれたまえよ?」
挑発するようなプレインジーンの言葉に、デイナは立ち上がりながらベクターカートリッジを取り出す。
「いいよ、見せてあげるよ。俺の研究成果――」
〈BUFFALO + LEON Mutation〉
デイナがゲノムチェンジしたのは、出力の高いエヴォリューションフォームではなくミューテーションフォーム。この強敵相手には一見力不足の様に見えるが――――
「おりゃっ」
接近するデイナの正拳突きがプレインジーンに放たれる。突き出された拳をプレインジーンは片手で受け止めようとするが、デイナの一撃はプレインジーンの腕を押し込み殴り飛ばした。
「何ッ!?」
「まだまだ……」
二発目、三発目と拳をプレインジーンに叩き付ける。予想外の威力に、プレインジーンは防御は困難と受け流しに切り替えたがデイナは相手の動きからどう受け流そうとしているかを予測。受け流される事を前提で殴り、拳を受け流されるとその力の流れを利用して体を回転させ二撃目を喰らわせた。
「むっ!?」
受け流しを逆に利用された事に、プレインジーンはたたらを踏み後退する。デイナは後退ったプレインジーンを追撃する事なく、構えを取り次の攻撃に備えた。
「……なるほど、陸上における強力なパワーを持つバッファローとライオンの組み合わせ。自然界では食うモノ食われるモノと言う関係の二つが手を取り合う事で、ここまでのパワーを発揮できるのか」
攻撃を受けながら、プレインジーンはデイナの能力を分析していた。その様子には発想に対する関心と、何処か楽しんでいる様子が見て取れる。
そして能力の分析が終わればそれに対処するのは当然の事。プレインジーンは下手に接近戦で打ち合う事はせず、距離を離してベクターリーダーによる銃撃に切り替えた。今デイナは手元にハイブリッドアームズを持っていない。今のままでは一方的に撃たれるだけだ。
〈HAWK + WHALE Mutation〉
今のフォームでは対処が出来ないと察したデイナは即座にゲノムチェンジ。またしてもミューテーションフォームで今度はホークホエールになった。しかしこのフォームも決して遠距離に強い訳ではない。ホエールベクターカートリッジで使用出来るインパクトウェーブも、ミューテーションフォームでは全力が出せない。
なのになぜ彼はこれをチョイスしたのか?
その答えは直ぐに明らかになった。デイナはインペリアルウィングを広げるとそれを飛行の為では無く銃撃を防ぐ盾として使用。銃撃は防げたがこれでは視界が塞がれ反撃に移る事が出来ない。
それを補ったのがホエールベクターカートリッジの能力だ。エコーロケーションでプレインジーンの位置を正確に把握すると、視界が塞がれていながらもそちらへと突貫し攻撃可能範囲に近付くと翼を広げ攻撃を繰り出した。
「ほほぉっ!」
思わぬデイナの戦法にプレインジーンの口から感心した声が上がる。しかし口では感心していながらも、デイナへの対処は怠らない。
「鷹の翼を盾にすると言う発想には少し驚かされたがね、しかしそれでは翼が宝の持ち腐れだぞ!」
デイナの攻撃を掻い潜り、至近距離から銃撃を浴びせる。幾ら翼を盾にして接近する事が出来ても、攻撃の瞬間には防御を解かなければならない。プレインジーンからすればデイナのチョイスはその場しのぎ程度のものでしかなかった。
しかし彼がこの二つを選択した事の真骨頂が発揮されるのはここからであった。
プレインジーンの銃撃を喰らい、一旦距離を置く為に翼を羽搏かせ飛翔しながら距離を取るデイナ。その際に発生した風がプレインジーンに触れた瞬間、プレインジーンは全身を何かによって切り裂かれた。
「ッ!? これは――!?」
謎の攻撃の正体は羽搏きの風と共に放たれた超音波だ。デイナは風を巻き起こし舞い上がった微粒子を超音波で振動させる事により、超振動でプレインジーンの体を切り裂いたのである。
完全に想定外、しかも二つの遺伝子から得られる能力を巧みに活かしたデイナの発想に、プレインジーンは今度こそ歓喜の声を上げた。
「はっはっはっ! 良い! 良いぞ!! 二つの遺伝子から得られる能力をよく理解し活用している! 出力に劣るミューテーションフォームでも、戦えているじゃないか!」
歓喜の声を上げながらも、プレインジーンの攻撃の手は緩まない。徐に左腰に装着していた剣の様なホルスターにベクターリーダーを突っ込むと、拳銃とホルスターが一体化し銃剣となる。
今度は接近戦にシフトし、銃剣で斬りかかってくるプレインジーンに対しデイナは新たなベクターカートリッジを装填した。
「この間出来たばかりの新作だ」
〈SHARK + HEDGEHOG Evolution〉
鮫の遺伝子とハリネズミの遺伝子、二つの遺伝子からなる新たなエヴォリューションフォームがここにお披露目となった。シャープな仮面に両腕には鰭の様なカッターが付き、装甲の色は灰色。下半身を見れば脚には無数の棘が下向きに伸びており、アンダースーツは黒い。
鮫とハリネズミの能力を組み合わせた、デイナ・シャークヘッジホッグフォームの誕生である。
デイナはゲノムチェンジを果たすと、プレインジーンの斬撃を両腕のカッターで受け止め反撃を放つ。手刀の様な一撃がプレインジーンに迫るが、彼はそれを紙一重で回避する。
しかしその瞬間、デイナの体を離れた鱗が僅かに距離を取ったプレインジーンの体を斬り付けた。
デイナの攻撃はそれだけで終わらない。今度は蹴りだと言わんばかりに脚に力を込めると、脚の棘が逆立ち針山の様になる。その状態でデイナが蹴りを放つ。
プレインジーンは放たれた蹴りを銃剣で受け流す。これは見た目的に絶対喰らいたくないだろう。喰らえば穴だらけにされてしまう。
「おっとと……これはもしや、君が自分の力で作ったのか? 白上の手を借りずに?」
「そうだよ。教授に教わって、俺が自力で1から作ったんだ」
「素晴らしい!」
プレインジーンは感心しながらも、引き金を引きつつ銃剣を振るった。斬撃の瞬間引き金が引かれると、峰の部分から火が噴き瞬間的に斬撃の速度が上がる。目測を見誤ったデイナは、その斬撃を回避しきる事が出来ず体を切り裂かれてしまった。
「ぐっ、つぅ……」
〈SHARK + HUMAN Mutation〉
攻撃を受けながらもデイナは次のベクターカートリッジを使用する。シャークベクターカートリッジにより得られる高い感知能力とヒューマンベクターカートリッジによる柔軟な動きを組み合わせ、プレインジーンの攻撃を流れる水のような動きで躱し両腕のカッターによる攻撃で迎え撃った。
「お次は鮫と人間か! 何だ何だ、君はまるで発想のデパートだな! 次から次へと既存から外れた組み合わせを見せてくれる! 見ていて飽きないぞ!」
「どうも」
「どうだね、卒業後は我が社に来ないか? 君になら研究主任の椅子を用意するぞ?」
「経営方針が合わないから遠慮しとく」
唐突にプレインジーンはデイナを傘木社にスカウトした。デイナはそれを即座に拒否するが、プレインジーンはそれに対し気分を害した様子を見せない。
「そうかね、残念だ。だが気が変わったら何時でも来てくれたまえ。君ほどの男であれば何時でも大歓迎だ」
「期待はしないでね」
〈BUFFALO + HUMAN Light up〉
「ゲノムチェンジ」
〈Open the door〉
戦いながらデイナは隙を見てBHエレキテルカートリッジを使用し、現時点で最大の戦力であるバッファローヒューマンエレキテルとなった。
「こいつは俺の自信作。じっくり味わいなよ」
〈Charge up〉
ゲノムチェンジ後即座に充電し、超高速移動でプレインジーンを翻弄する。目にも留まらぬ速度で動き回るデイナに、プレインジーンも手も足も出ない。
…………と思っていたのだが――――
「フフフッ、帯電による能力の向上……
プレインジーンの呟きは超高速で行動しているデイナには届かない。だが彼の声は直ぐデイナにも届くようになった。
次の瞬間、プレインジーンの全身に電気が走ったかと思うと彼はデイナの速度に追従してみせたのだ。
「ッ!?」
「はははっ!」
デイナとプレインジーンは同等の速度で動き、激しい戦闘を繰り広げる。時に互いに電撃を放ち合い、拳をぶつけ合い、蹴りを相殺し合った。
正に一進一退の攻防戦。だが充電して能力を発動しているデイナには超高速でいられる時間に限りがある。
充電が切れた瞬間、デイナの周囲の動きが元に戻った。それと同時に、プレインジーンの超高速攻撃がデイナに襲い掛かる。
「ぐ、あっ?!」
目にも留まらぬ攻撃を受け、地面に叩き付けられる。倒れたデイナの前に、プレインジーンが悠然と姿を現した。
「いやいや、堪能させてもらったよ。大したものだ君は。とても面白い」
「何の……まだまだ、これから――」
〈Charge up ATP Burst〉
ここで勝負をかけるべく、デイナは充電しATPバーストを発動。全身の電撃を一点に集中しプレインジーンに向けてエレキテルクラッシュを放つ。
それに対し、プレインジーンもベクターリーダーにベクターカートリッジを装填した。
〈Genome set Full blast〉
プレインジーンがベクターカートリッジを装填すると、刀身にエネルギーが集束していき光の刃が形成される。彼はそれでデイナのエレキテルクラッシュを迎え撃つ。
「ハァァァァッ!」
「オォォォッ!」
ぶつかり合う電撃を纏う飛び蹴りと光の斬撃。2人の攻撃が拮抗し合い、激しい火花を散らす。
「く、う――――!」
「ぬぅ――――!」
長く続いたかと思われた拮抗だが、時間にして僅か数秒。行き場を失ったエネルギーは2人の間で爆発を起こし、彼らを互いに遠くへと吹き飛ばした。
「ぐぁっ!?」
「うぐぉっ!?」
勝負は互いに痛み分け。どちらも大きなダメージを負い、地面に倒れ伏す。
どれほど時間が経ったか、立ち上がったのはほぼ同時だった。互いにまだ変身は解除されておらず、しかし足取りは覚束ない。
「はぁ……ふぅ……」
「ふ、ふふふ……はははは……」
立ち上がりながらも疲労した様子を見せるデイナに対し、プレインジーンの口から零れるのは笑い声だった。心の底から楽しんでいる純粋な笑いだ。
「あぁ……君は本当に最高だ。今日は来て良かったよ。出来ればもっと君と研究成果を見せ合いたかったが……生憎と私は忙しいのでね」
そう言いながらプレインジーンは、直ぐ近くに落ちていたトランクを持って立ち上がった。
「あっ――――!?」
「ふっふっふっ、私の方が一枚上手だったようだね」
デイナは気付かなかったが、戦いの最中でプレインジーンは恐竜のDNAが入ったトランクが背後に来るように立ち位置を調整していたのだ。プレインジーンとの戦いにデイナが集中していたのに対し、プレインジーンの方は二手三手先を読んで備えていた。
完全にしてやられた事に、デイナは仮面の奥で苦虫を噛み潰したような顔になる。
悔しがる彼を前に、プレインジーンは突然トランクを開けると中からシリンダーを二本取り出した。
「だがまぁ、今日は思っていた以上に楽しませてもらった。その礼と言っては何だが、これだけは君に返してやろう」
指で挟んだ二本のシリンダーを器用にデイナの所まで届く様にプレインジーンが放り投げる。ガラス製のシリンダーが壊れたりしないよう、デイナは放物線を描いて飛んでくるシリンダーを慌ててキャッチした。
「っと!? 何で二本だけ? 全部返してよ」
「私を倒せていれば、全部返してあげても良かったんだがねぇ。ま、世の中そう甘くは無いという事で」
踵を返すプレインジーンは、しかし立ち止ま手振り返るとデイナの手の中のシリンダーを指差した。
「まぁ元の場所に返すのは君の自由だが、私としては君が有効活用してくれることを願っているよ。それでは、これにて失礼」
プレインジーンは驚異的な跳躍力で今度こそデイナの前から姿を消した。
まんまとトランクを持って逃げられた事に、デイナは歯噛みすると手の中にある二本のシリンダーを見て小さく溜め息を吐き、そしてせめてルーナがある程度取り返してくれている事を願ってシリンダーを仕舞いながら彼女が戦っているだろう方へ向けて移動し始めた。
***
一方ルーナの方はと言うと、こちらは幹部であるシーアーチンファッジを相手に良い戦いを見せていた。元より射撃型のルーナは、棘の投擲しか遠距離攻撃手段が無いシーアーチンファッジにとって相性の悪い相手であった。それでもただの銃撃であれば、棘を折られても甲殻で防ぐことは出来ただろう。
しかしルーナは、デイナからシーアーチンファッジの甲殻自体の硬さを聞いていたので、それならばと彼女は銃撃を一点に集中させてシーアーチンファッジの防御を撃ち抜くと言う攻撃に出た。これにはシーアーチンファッジもお手上げだった。
そもそもの話、今の彼は持ち帰るべき荷物を抱えている。この所為で片手は常に塞がれている上に、これを危険に晒さない為出来る事には限りがあった。
トランクを無傷で取り返したいのはルーナも同様だったが、彼女の場合は言ってしまえばトランクさえ無事なら後はどうとでも出来た。この差は大きい。
だがこの2人の勝負には、相性の差もあるだろうが何よりもルーナの方が以前に比べてレベルアップしたと言う部分が大きく作用しているだろう。何度も戦い続けてきた事で、積んできた経験が亜矢自身の隠されていた能力を引き出し、そこに真矢の能力が加わって今まで以上に強くなったのだ。
「えぇい、全く振り切れない!?」
「逃がしはしません!」
ルーナのリプレッサーショットから放たれる銃弾が、とうとうシーアーチンファッジの脚を撃ち抜き転倒させる。
「ぐぁっ?!」
足を撃ち抜かれ、転倒したシーアーチンファッジ。辛うじてトランクを手放す事は無かったが、体を起こした時には目前でルーナがリプレッサーショットを突き付けていた。
「これで勝負ありです。降参して、トランクを返してください」
銃口を突き付け、降伏を促してくるルーナをシーアーチンファッジは睨み付けるが今の彼に出来る事はそれしかなかった。
せめてトランクさえなければ、彼女を相手にここまで後れを取る事は無かったのにと思わずにはいられない。
どうすべきかと悩むシーアーチンファッジ。降伏などありえない。敵を前に無様に逃げだすような事をすれば、最悪チミンの二の舞となってしまう。それだけは避けたい。
次の行動の決断に悩むシーアーチンファッジに対し、ルーナの中の真矢は焦れて一発くらいは撃ってやろうと提案し亜矢がそれに不承不承ながら頷いた。
だがルーナが引き金を引く前に、銃声が響き銃弾が彼女の胸の装甲で弾けた。
「あぁっ?!」
予想外の攻撃にルーナが後ろに転がり倒れる。その瞬間シーアーチンファッジは立ち上がり、棘を数本引き抜きルーナに向けて投擲した。
「う、くっ!?」
向かってくる無数の棘を、ルーナは転がって回避しつつ起き上がって迎撃する。迎撃しながら、ルーナは今の銃撃の主を探した。
今の威力は絶対にアントファッジではない。
【あっ! 亜矢あそこっ!?】
果たして、下手人は直ぐに見つかった。シーアーチンファッジの向こう側、ルーナからは死角になっていた所に、イカを思わせる白い装甲と黒いアンダースーツの人物が大型の拳銃を構えていたのだ。
その人物……アデニンがベクターリーダーにスクイッドベクターカートリッジを使用して変身した『ホワイトカラーズ』は、ルーナに銃口を向けながらシーアーチンファッジを守るように立ち塞がった。
「まだ無事なようだな、グアニン?」
「アデニン!? それはまさか――!?」
「プロフェッサーが使用しているのと同じ、ベクターリーダーだ。ただこちらは急場凌ぎで用意したものだから、性能は安定していないがな」
アデニンことホワイトカラーズは、シーアーチンファッジに言いながらルーナの前に立ち塞がる。
「行け。プロフェッサーは既に目的の物を持って撤退した」
「プロフェッサーが? じゃあ――」
「お前が連れて行った奴はデイナに敗れた。お前も、早く行け」
「行かせると思ってるのかしら!」
相手が同じく銃撃で対抗してくると見るや、ルーナは人格を真矢と交代し接近戦主体の戦闘にシフトした。銃撃しながら接近し、ホワイトカラーズをボレーキックで退かそうとする。
しかしホワイトカラーズはルーナのボレーキックを片腕で受け止めると、もう片方の腕の手首から烏賊の触腕の様な鞭を伸ばしそれでルーナを絡め捕り地面に叩き付けた。
「あぐっ?!」
「グアニン、行け」
「……分かった」
ホワイトカラーズに促され撤退するシーアーチンファッジ。させじとルーナが逃げるシーアーチンファッジの背に銃口を向けた。
「待って!?」
「させん」
引き金を引く寸前、ホワイトカラーズがシーアーチンファッジに向けられていた銃を蹴り飛ばす。
「あっ!?」
【真矢避けてッ!?】
片方の銃を蹴り飛ばされ、一瞬そちらに意識を向けるルーナだったが、亜矢の警告にその場で転がると先程まで彼女が居た場所に銃弾が突き刺さる。
追撃を回避したルーナに、ホワイトカラーズはベクターリーダーをホルスターと合体させてブレードモードにして斬りかかってきた。ルーナはそれを何とか蹴りで弾いて対抗するが、次々と繰り出される斬撃に徐々に追い詰められていく。
「くっ!? こいつ、強いッ!?」
【真矢、そこから右に転がって避けて! そこにさっき蹴飛ばされたリプレッサーショットがある!】
「ッ! 了解!」
亜矢の指示に、ルーナは右に転がるとそこにあったリプレッサーショットを回収。二丁拳銃でホワイトカラーズを攻撃した。
「フン……」
放たれる銃弾を、ホワイトカラーズは触腕型の鞭を回転させる事で防ぎルーナに接近。十分に近づいたところでブレードモードのベクターリーダーを振り下ろし、斬撃の瞬間引き金を引く事で威力を増し強烈な一撃を見舞った。
「あぁぁっ?!」
さらに二撃、三撃と立て続けに攻撃を喰らい、衝撃で壁に叩き付けられたルーナはダメージから変身を解除されてしまった。
「うぐっ!? く、つぅ……」
体のあちこちに痣や傷を付けながら、真矢はホワイトカラーズを睨み付ける。変身は解除されたが、その闘志はまだ衰えてはいなかった。衝撃で外れたデイナドライバーに、もう一度変身する為手を伸ばす。
そんな彼女の闘志を踏み躙るように、ホワイトカラーズは伸ばされた彼女の腕を踏みつけた。
「あぁっ!? ぐ、ぅあ――?!」
【うあ、あぁぁぁっ?!】
腕の骨を砕かれるのではと言う程の力で踏みつけられ、真矢と亜矢が悲鳴を上げる。
もう彼女が抵抗できないと見て、ホワイトカラーズは腕から足を退けると彼女の腹を蹴り飛ばした。
「ぐふっ!? うげ、ぇぇ――?!」
腹を蹴り飛ばされて襲ってきた痛みと吐き気に、彼女はその場で腹を抱え体を丸めた。
もうシーアーチンファッジは十分逃げただろう。ホワイトカラーズはこの場での戦闘はもう必要なしと、彼女に背を向けて撤退しようとした。
瞬間、充電して『エレキテル・ブースト』を発動したデイナが目にも留まらぬ速さでホワイトカラーズを殴り飛ばした。
「がっ!?」
「お前……亜矢さんと真矢さんに何した?」
腹を抱えて苦しそうに倒れる真矢の姿に、デイナは静かな怒りを燃やしてホワイトカラーズを睨み付けた。殴り飛ばされたホワイトカラーズは、立ち上がりながらブレードを外したベクターリーダーをデイナに向ける。
「仮面ライダーデイナ……プロフェッサーの相手をしたにしては元気だったな」
「答えろよ。お前、亜矢さん達に何してんの?」
「何かおかしなことがあるか? 傷付く事を承知の上で戦っているのだろう? 死んだり女としての辱めを受けていないだけマシじゃないか?」
ホワイトカラーズの言葉にデイナは何も答えない。何も答えはしなかったが、デイナから向けられる背筋が凍りそうなほどの冷たい視線が全てを物語っていた。
(本気で怒らせたか……)
デイナから感じる視線に、危険なものを感じベクターリーダーだけでなくブレードモード時に装着するホルスターから収納されていた柄を伸ばして剣として構える。
一触即発の雰囲気に亜矢は苦しさに顔を歪めながらデイナの様子を見守っていた。
だが突如として、デイナから放たれる絶対零度の視線が霧散し彼の口から大きな溜め息が零れた。
「はぁ~~~~…………」
「……?」
突然の変化にホワイトカラーズが思わず銃口を下ろすと、デイナは変身を解除して彼を無視し真っすぐ亜矢へと向けて歩いていく。
今の今まで殺意すら感じる程の視線を向けていた仁の変わりように、ホワイトカラーズは流石に困惑した声を上げた。
「どういうつもりだ?」
「もういい……疲れた。お前の相手なんかしたくない。どうせお前もう帰るつもりだったんでしょ。とっとと行っちゃえよ」
仁はそう言いながら亜矢のデイナドライバーを拾い、倒れている彼女の傍で膝をつくと優しく抱き起した。
断っておくと、仁は別にホワイトカラーズを許した訳ではない。現状で仁にとっての最優先事項は亜矢の介抱であり、ホワイトカラーズの順位は冷蔵庫に入っている食材の賞味期限までの日数すら下回る。
もっと分かり易く行ってしまえば、爆発する前に怒りが一周して何故亜矢を後回しにしてまでこんな奴に対して怒らねばならないのかと言う結論に達したのだ。
「亜矢さん、大丈夫?」
「仁君……ごめんなさい。逃げられちゃいました」
「気にしなくていいよ。俺の方も二つしか取り返せなかったし」
「でも……」
「大丈夫。だから今は休んで……」
「……はい」
仁の腕の中でゆっくりと意識を失う亜矢。自分の体の身を委ねて安らかな顔で眠る亜矢の頬を、仁が優しく撫でた。
2人の様子を離れた所から見ていたホワイトカラーズは、無言で踵を返しその場を立ち去るのだった。
***
「ごめん。頑張ったけど、これしか取り返せなかった」
「本当にごめんなさい。私の力が足りないばかりに……」
あの後、仁と亜矢は大学に戻り未だ慌ただしい研究棟で山根研究室の薫達に取り返したDNAのシリンダー二本を返しながら頭を下げた。あれだけでかい口叩いて取り返すと言ったのに、二本しか奪還出来なかった事に少なからず責任を感じずにはいられなかったのだ。
そんな2人に対し、山根教授は優しく肩に手を置き2人の頭を上げさせた。
「頭を上げなさい。君達の所為じゃない」
「そうだぜ、門守、双星さん。頑張って二個は取り返してくれたお前らを責める奴なんてここには居ねえよ」
見れば山根研究室の全員が2人に温かな視線を向けている。彼らの研究成果を殆ど持っていかれた事を気にしている2人にとって、彼らの優しさは困惑せずにはいられないものであった。
「それに、研究室がこの状態ではどの道今以上の研究は進められそうにない。データは無事だが、研究再開までは時間が掛かるだろう。そこで、だ――――」
山根教授は仁が取り返した二つのDNAのシリンダーを、あろう事か仁に手渡した。渡された二つのシリンダーに、仁は目を白黒させる。
「え? あの――?」
「この二つのDNAは、君らに預けるよ。何もせずに保管しておくより、君らの研究室で研究に役立てるなりしてくれ」
「そんな、悪いですよ!?」
「それに俺達、別にこれを使った研究は――――」
渡されたDNAを返そうとする仁と亜矢だったが、山根教授はそれを片手で制した。
「いや、受け取ってくれ。例え君達に必要無かったとしても……“仮面ライダー”には必要だろう?」
「「ッ!!」」
思わず顔を見合わせる仁と亜矢に、山根教授を始めとした研究室の面々は優しい笑みを向ける。
「これで何もかも終わりって訳じゃねえんだ。次がある。だから今回の俺達の頑張りは、お前らが役立ててくれよ。仮面ライダー?」
研究室を代表して激励の言葉をかけてくれる薫。彼らのエールと心の広さ、優しさに胸を打たれ、亜矢は目尻に涙を浮かべる。
仁の方もまた、彼らからの信頼を確かに受け取り、胸に温かいものを感じ渡されたシリンダーを優しく握りしめた。
「…………分かった。ありがとう」
「へへっ、おうよ!」
薫達の笑顔に、仁は彼らの研究成果と共に彼らの想いを託された事を感じた。
それと同時に、仮面ライダーと言う言葉に掛かった重みも感じるのであった。
と言う訳で第28話でした。
今回の連続フォームチェンジは一度は書きたかったシーンの1つです。劇場版Wもそうですけど、複数の組み合わせがある仮面ライダーが連続でフォームチェンジするのってカッコいいですよね。
腹蹴られて悶える真矢の姿に仁がブチ切れかけましたが、ここで怒り散らして八つ当たりのように相手をボコさないのが仁クオリティ。相手ボコす時間があるなら亜矢と触れ合う事に時間を割きます。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。