仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回の話では仁のちょっとマッドな一面が描かれます。


第30話:鍵の完成

 深夜……学生や教授が帰宅した明星大学の研究棟の一室。

 白上研究室にて、仁が1人秘密のラボの中でキーボードを叩いていた。恐竜のDNAを使ったベクターカートリッジの生成の為だ。

 

 この作業は急務である。傘木社は仁とは比べ物にならない数の古生物のDNAを手に入れているし、今後新たに手に入れるかもしれない。

 正直に言って、古生物のDNAがどの程度強力なベクターカートリッジになるのかは想像もつかない。だが仁は、通常のベクターカートリッジに比べて遥かに強力な物が出来るだろうと見立てていた。何しろ何十億年もの長い時間を生き抜いた強靭なDNAだ。現代の生物のDNAとは比較にならない力を秘めているに違いない。

 

 その力を傘木社だけに独占される訳にはいかなかった。意地でも仁の方でも恐竜のDNAを戦力に加えなければ。

 

「う――――はぁ……」

 

 とは言え長時間ぶっ続けの作業は彼を以てしても流石に疲れる。もうすぐ作業完了と言う事で今日だけはと亜矢にも見逃してもらえることになり、こうして深夜まで作業していたのだが想像以上にこのベクターカートリッジの生成は疲れる。普通のベクターカートリッジはそこまででも無いのだが、恐竜のDNAを用いたベクターカートリッジは生成に集中力を使う。解析出来ているとは言え、所々穴が空いたDNAを補いながら生成しているのだ。入力するDNAに不備があればベクターカートリッジは機能しないので、一切のミスがない様にと半端ではない集中力を要する。

 

 だがそれももうすぐ終わる。もうあと一歩で恐竜のDNAを使ったベクターカートリッジが完成しそうだった。

 

 だからだろうか。気が緩んで、余計な事を考えてしまった。

 

「ふぅ……ん~?」

 

 徐に仁が手に取るのは、デイナの基本フォームの片割れとなるヒューマンベクターカートリッジ。最初こそ特に何とも思っていなかったが、こうして自分でベクターカートリッジを作っているとどうしても拭いきれない疑問が浮かんでしまう。

 

 それは、このヒューマンベクターカートリッジは一体何なのか? という事だ。他のベクターカートリッジは分かる。特定の生物の遺伝子をインプットした超万能細胞。デイナが使えばその生物の特性を力として使う事が出来るし、直挿しすればその生物と人間を組み合わせたファッジになる。

 

 ではヒューマンベクターカートリッジを直挿ししたら? 最近はそれがずっと気になっていたのだ。人間の特性を持ったファッジとは一体何なのだろうか?

 

〈HUMAN〉

 

 コックを捻って押し込み、ヒューマンベクターカートリッジを起動状態にする。普段だったら絶対考え付かないだろうが、ベクターカートリッジの生成にかなりの集中力を使ったからだろうか。頭のブレーキが壊れたのか、普段ならやろうとしないだろう事を実行に移した。

 

 即ち、起動状態のベクターカートリッジを自分の腕に当てた。直挿しだ。起動状態のヒューマンベクターカートリッジを自分に直挿ししたのである。

 

 果たしてその結果は――――

 

「…………ふむ」

 

 ――――何も起こらない。何かが流れ込んでくる感覚も無いし、体に異変が起こった感じもしない。そもそも直挿しが成功したのであれば、ベクターカートリッジは体内に潜り込んでくる筈だ。それすらないという事は、ヒューマンベクターカートリッジは人間に対して効果が無いという事になる。

 

「――って事は……」

 

 考えられる可能性は現時点で二つ。一つはベクターカートリッジはインプットしている遺伝子情報と同じ生物に対しては効果がない。もう一つは、ヒューマンベクターカートリッジ自体が特別だという事。

 

 次の瞬間、仁の左手が素早く動いた。電光石火の速さで動いた彼の左手に握られていたのは、大多数の人間が苦手としている黒光りする昆虫……ゴキブリだ。まだ元気にわしゃわしゃ足を動かしているゴキブリを、仁は繁々と眺め右手のベクターカートリッジを押し付けた。

 

 もし一つ目の方の仮説が正しいのであれば、これで人間の特性を持つゴキブリが出来上がる筈だが、結果はやはり無反応だった。

 

「やっぱり……」

 

 これでハッキリした。このヒューマンベクターカートリッジは、デイナドライバーで使用する事が前提のベクターカートリッジなのだ。

 デイナドライバーは最初に装着した人間の遺伝子情報を入力し、その人物以外は使用できないようになっている。このヒューマンベクターカートリッジは、そのインプットされた遺伝子情報をリーディングし、それと他の遺伝子情報を組み合わせ様々な力を得ているのだろう。

 

 これが現時点でのデイナとヒューマンベクターカートリッジに関する仁の考察であった。仁は検証に付き合わせたゴキブリを離し、ベクターカートリッジも待機状態に戻した。

 

「ふぅ……ん~~、はぁ」

 

 待機状態に戻したヒューマンベクターカートリッジを仕舞い、体を伸ばして筋肉を解す。そして溜め息を吐いて時計に目を向けると、深夜1時を過ぎていた。

 恐竜ベクターカートリッジの完成まであと一歩。ここであまり無理をしてミスをするのもアホらしい。仁はここで作業を中断し、今日はもう帰る事にした。データを保存し、パソコンの電源を落とし、荷物を纏めてラボの照明を落として表の研究室へと出た。

 

 そう言えば、作業に夢中になり過ぎてて夕飯を食べていなかった。帰り際にコンビニにでも寄って何か買って帰るか? いや何だかそれも面倒臭い。それに家に帰り着く頃にはさらに時間も遅くなっているだろうし、もうエネルギーゼリーでも腹に入れてさっさと寝てしまおうか――――

 

「あ、仁君!」

「ん?」

 

 仁が白上研究室に戻ると、そこには何と亜矢が居た。もうとっくの昔に帰った筈の彼女が居る事に、仁は目を丸くして彼女を見ていた。

 

「亜矢さん、何で居るの? もう帰ったんじゃ?」

「仁君の事ですから、ご飯も食べずにこの位の時間まで頑張ってるんじゃないかと思ってお弁当持ってきたんです」

 

 そう言って亜矢はバッグから弁当箱を取り出した。多目的スペースのテーブルの上にそれを置いた亜矢は、仁を引っ張ってソファーに座らせた。

 

「さ、今お茶淹れますから座っててください。あ、それとももしかして、ご飯食べちゃってました?」

「いや、まだだけど……亜矢さん、こんな時間に態々弁当作って持ってきてくれたの?」

 

 健康に人一倍気を遣う亜矢の事だから、もうとっくに夕飯も済ませて夢の中だと思っていたからかなり意外だった。

 

「別に無理してくれなくても良かったのに……」

 

「私や真矢が無理するなって言っても、仁君する時は普通に無理するじゃないですか」

「私と亜矢はそんな仁君を支えたかっただけよ」

 

 亜矢と真矢が交互に出てきて、仁の言葉に答える。そこにあったのは、言葉通り仁を支えたいと言う亜矢と真矢、2人の愛情のみ。

 

 それを受け、仁は申し訳なさ以上に嬉しさを愛しさを感じ、自然と顔を綻ばせた。

 

「……ありがと」

「気にしないでください。さ、どうぞ」

「ん……いただきます」

 

 湯呑に入った茶を渡され、仁は亜矢の手作り弁当を開け箸を手に取った。玉子焼きを箸で摘み、口に運ぶ。

 

「うん……美味しい」

 

 仁は疲れた体に、亜矢の手作り弁当の上手さが沁み込むのを感じた。次々と弁当の中身を心底美味そうに食べていく仁の様子を、亜矢が隣で優しく見守っていた。

 

「……あ、この肉巻き真矢さんが作ったやつでしょ」

「えっ!? 何で分かったの?」

「亜矢さんと味付けが微妙に違う。ちょっと甘めだから」

「ふふっ、流石仁君ですね。ね、真矢?」

「う~、ちょっと悔しいかも」

「でもこっちも美味しいよ。ありがと、2人とも」

 

 たった2人しか居ない深夜の研究室で、和やかな時間が過ぎていくのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 傘木社の本社ビル研究区画の一室で、アデニンは1人パソコンにデータを入力していた。

 ディスプレイに映っているのは、彼も良く知るチミンに関するデータだ。

 

 チミン――――本名を志村 希美(しむら のぞみ)と言う彼女は、元々傘木社の研究員の1人だった。グアニン、シトシンもそうだったが、最初はベクターカートリッジに関係のない普通の研究に従事する研究者だった彼女は、研究者としてはどちらかと言えば平凡であった。だが健康診断に偽装した遺伝子検査でベクターカートリッジに対する適正を見出され、裏の研究の実験台となりそこから彼女は変貌した。

 実験台にされる以前は大人しい何処にでもいる女性だった希美は、投薬による肉体改造・遺伝子改造を受け性格が豹変。チミンとしての性格が形成された。

 

 その後はチミンと言う幹部としての名を与えられ活躍する彼女だったが、仁と仮面ライダーデイナの登場から彼女の転落は始まった。度重なる敗北と失敗。幹部とは言え、組織の暗部を秘匿する為の処置を施されていた彼女はあの病院での戦いで敗北しベクターブレスを破損した時点でこの世から去っている筈だった。

 しかし彼女は未だ生かされている。その生への強い執着が雄成の目に留まり、再強化手術を受ける事となったのだ。

 

 尤もそれが幸運だったかと言われたら、必ずしもそうとは言い難いだろう。何しろ扱いは完全に実験動物のそれ。特に先日シトシンに襲い掛かって以降、彼女が独房から出る時は必ずアデニンがホワイトカラーズに変身して見張る中で拘束具を着させられてから出ることが許されているのだ。

 

 もうこの会社で彼女の事を人間として扱っているものは誰も居ない。誰も彼もが、彼女の事を狂暴な実験動物として認識している。

 しかし得られるものもあった。彼女は先日の再強化手術を受け、肉体が大幅に強化。今は生身でベクターカートリッジを同時に複数本直挿ししても耐えられる事が実証されていた。

 

 今は彼女に合わせた新たなドライバーの開発が行われている。まだ骨組みも出来ていないが、完成すれば相当強力なドライバーになるとの事だ。ホワイトカラーズでもどこまで対抗できるかどうか。

 

 そこまで考え、アデニンはデータを保存した。現時点で彼女に関して纏められるのはここまで。続きは今後の実験次第となる。

 

「…………哀れだな」

 

 不意にアデニンの口からそんな言葉が零れる。言葉を向ける相手はチミンもとい、希美であった。雄成の駒として忠実に、冷徹に動く彼だが同僚として共に働いていた彼女の転落に色々と思わないではない。別にあの境遇から助け出そうと言う気はさらさらなかったが、哀れに思ってやる程度には情も残っていた。

 

 そこで彼の携帯に着信が入る。相手は彼の部下である保安警察の者だ。

 

「私だ」

『失礼します。トラブルが発生したので、至急アデニン様の助力を得たいと』

「分かった、すぐ行く」

 

 通話を切り、パソコンの電源を落とすと椅子から立ち上がり部屋から出ていくアデニン。

 

 廊下を歩いていると、途中で何人かの研究員とすれ違う。彼らは誰もがアデニンの姿を見ると足を止め、深く頭を下げる。

 少し前までは希美も同じようにすれ違う度に下の者達に頭を下げられていたものだが、人間堕ちれば堕ちるものである。

 

 しかし希美の今の姿は、未来のアデニンの姿かもしれない。彼も肉体改造を施されている身。ただの人間である研究員達は心の奥底で彼の事も実験動物と思っている事だろう。

 

「…………くくっ」

 

 想像してアデニンは笑いを堪え切れなかった。全く滑稽な話だ。

 

 歩きながら小さく笑うアデニンの姿に、途中すれ違う研究員達は誰もが奇異の目を向けるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 その夜、都内にあるビルの一棟の前に複数の特殊車両が集まっていた。警察の特殊部隊S.B.C.T.の移動用車両である。

 この日この時間に彼らがここに来たのは、秘密裏の調査の結果このビルが傘木社の裏の事業に関係する何かを行っている事が判明したからだ。

 

 特殊車両から次々と隊員が降車し、ガンマカービンを手にビルの入り口を包囲する。その彼らの後ろには、既にスコープに変身した宗吾が居た。

 

「隊長、準備完了です」

「よし…………突入!」

 

 スコープの号令が響くと、隊員達が一斉に動き出し正面入り口は勿論裏口からもビルに突入していく。

 

 隊員達は次々とビルの中に雪崩れ込むと、部屋を片っ端から開けていく。その殆どは時間が時間と言う事もあり、人は殆ど居なかった。時折残業の為残っていたのか、デスクのパソコン画面に齧りついているサラリーマンらしき人物の姿を見かけたがその程度だ。念の為残っていた者達の事も調べたが結果は白。どの部屋もオフィスとして使われているだけで、怪しい所は何もない。

 

 情報が間違っていたのか? 念の為各部屋のパソコンも調べてみたが、データに怪しい所も見られなかったし、今回は外れかもしれない。

 

 しかしスコープは諦めなかった。彼は調査をした者達の事を信じていたし、彼自身何か違和感を感じずにはいられなかったのだ。

 

 試しに彼はスコープの左目のカメラを切り替え、電磁波で物を見るモードに切り替え床を注意深く観察した。上に異常が見られなかったのなら、考えられるのは下しかない。

 

 果たして彼の判断は間違っていなかった。一階の床の一画に、明らかにおかしな電磁波を発している部分があったのだ。

 スコープは見つけたその部分を迷わず踏み抜く。

 

 そこにあったのは地下へと通じる階段だった。床の一画に階段が隠されていたのだ。

 

「俺が先行する。付いて来い!」

 

 灯りの無い階段を、スコープはカメラを暗視モードに切り替え、暗闇を物ともせずに降りていく。その後ろに、他の隊員達が銃のライトで照らしながらついて行った。

 

 階段を降り、廊下を進んで行くとそこにあったのは無数の機材だった。地上部分にあったオフィス用機材ではない。

 地下にあったのは無数のシリンダー。その中にはベクターカートリッジが浮いている。

 

「こいつは……当たりだな。ここは傘木社の秘密研究室……」

「ですが、何故人が居ないのでしょう?」

 

「既に全員退避したからだ」

 

 慎司の疑問に答えたのは、スコープでは無く何時の間にか地下施設に入ってきていたホワイトカラーズだった。スコープ達が彼の存在に気付くと、それを合図にしたかのように奥からアントファッジ達が姿を現す。

 

「待ち伏せか――!?」

「いや、研究員とデータを逃がすだけで精一杯だったよ。随分とフットワークが軽いんだな、驚いた」

 

 ホワイトカラーズの言葉にスコープは仮面の奥で苦い顔をする。今回の強制捜査は秘密裏に進めていたのだが、何処かで情報が洩れるか感付かれたらしい。

 情報戦においては向こうが一枚上手だった。その事実は素直に悔しい。

 

 しかし、S.B.C.Tの行動が全くの無駄骨だった訳ではない。

 

「だがお前らがここに居るという事は、ここにはまだ持ち出せ切れていない何かがあるという事だ。それを回収させてもらう」

「やれるものならな」

「…………撃てッ!!」

 

 命令と共にスコープが発砲し、それを合図に地下施設で銃撃戦が始まった。地下施設の機材などを盾代わりにして、互いに相手の銃撃を凌ぎながら応戦する。

 

 その激しい銃撃戦の中で、スコープとホワイトカラーズだけは相手に接近して戦闘していた。

 

「はっ!」

 

 スコープが銃撃しつつホワイトカラーズに接近して飛び蹴りを放つ。ホワイトカラーズはそれを銃剣で防ぎ距離を取ると、ブレードを外してベクタートリガーの引き金を引いた。

 

「くっ!?」

 

 放たれた銃弾をスコープは左腕のボルテックスシールドで防ぎつつ、円を描く様に移動。その最中にもスコープは片手に持ったガンマライフルでホワイトカラーズを撃った。片手で撃っているので射線が安定せず割と見当違いの方にも銃弾が飛んで行くが、それが逆にホワイトカラーズに射線を読ませず動きを牽制する役に立っていた。

 

 射撃戦ではスコープの方に分がある。それを理解したホワイトカラーズはベクターリーダーを銃剣モードにして、ルーナに対してやったのと同じように片手から触腕の鞭を伸ばし回転させて銃弾を弾きながらスコープに接近した。

 

「ッ!?」

「もらった!」

 

 十分に接近すると鞭を防御では無く攻撃に転用。ガンマライフルに巻き付けるとスコープの手から奪い取り遠くに放り投げた。

 

 メインの武装を奪われ一気に戦闘力が下がるかに見えたスコープ。しかしスコープは武器が奪われたと見るや即座に右腰のホルダーから一枚のプレートを取り出し盾の後部に装填した。

 

〈Vortex・Gun Starting〉

 

 プレートを装填した盾から、二門の銃口が伸びる。スコープはそれを迷わずホワイトカラーズに向け、盾の持ち手についたトリガーを引いた。

 放たれる銃撃の連射速度は、ガンマライフルの比ではない。激しい銃撃がホワイトカラーズから反撃の隙を奪い取る。

 

「ぐぁぁぁっ?!」

 

 スコープの盾、ボルテックスシールドには二つの武装が内蔵されている。一つが近接戦闘用の剣・ボルテックスブレード。そしてもう一つが、盾に内蔵されているマシンガン・ボルテックスガンだ。

 ボルテックスガンはガンマライフルに比べ射程距離に難があるが、その分連射速度はガンマライフルを大きく上回り近距離の相手に対し弾幕を張り制圧射撃をするのに優れていた。

 

 高速連射される弾丸に、ホワイトカラーズは後退を余儀なくされる。

 

「くっ!? S.B.C.Tのライダーシステム、これほどとは――――!?」

「今までとは違うって事だ。一気に決めさせてもらう!」

〈Vortex・Blade Starting〉

 

 盾に装填したプレートを一度抜き、裏表をひっくり返して再び装填して今度はブレードを展開しホワイトカラーズに接近する。近距離からの弾幕で大きくダメージを受けたホワイトカラーズは、スコープからの斬撃を銃剣で何とか受け止めた。

 

「ぐっ!?」

「門守君達からお前の事も聞いていたが、案外大した事なかったな!」

 

 パワーの上ではスコープの方に分があるのか、スコープの攻撃は必ずホワイトカラーズの銃剣を弾いていた。鍔迫り合いになるとホワイトカラーズは踏ん張ってもじりじりと押されている。

 

 スコープは早くも勝利を確信していた。

 

「だが、お前とデイナでは決定的に違う事がある……」

「あん?」

「お前には……知識が足らない」

「何だと?」

「こう言う事だ」

 

 ホワイトカラーズは徐に防御の軸をズラして、スコープの攻撃を自分から逸らさせる。勢い余ってホワイトカラーズの横を通り抜けてしまったスコープだが、直ぐに体勢を立て直し追撃に移ろうとした。

 

 だがスコープが振り返った時、彼は思わぬものを目にした。

 

 なんとホワイトカラーズの姿が背景に溶け込んだのだ。

 

「ふっ……」

「何ッ!?」

 

 あっという間に姿が見えなくなったホワイトカラーズに、スコープが周囲を見渡すがホワイトカラーズの姿は何処にもない。

 辺りを警戒するスコープだったが、その彼の警戒を嘲笑うかのように背後からホワイトカラーズが彼を斬り付けた。

 

「ぐぁっ!? くっ!?」

 

 背中に受けたダメージに体勢を崩すスコープ。即座に反撃するが攻撃は空を切り、続いてホワイトカラーズの第二撃が再びスコープの背を襲った。

 

「ぐぁぁぁぁっ?!」

「隊長ッ!?」

 

 強烈な攻撃を二度も背中に喰らい、倒れるスコープに部下が心配の声を上げるが彼らは彼らでアントファッジの相手に忙しく彼を援護している余裕がない。そもそも姿が見えない相手なので、援護も何もない。

 

 この状況、恐らく仁であれば即座に対応してみせただろうし、何だったらイカの迷彩能力の高さからこの展開を警戒していてもおかしくはない。

 先程のホワイトカラーズの言葉の意味が漸く分かった。確かにスコープは生物学の知識は人並み程度にしかない。

 

 しかし何も手がない訳では無かった。

 

「スコープを甘く見るなよ――――!」

 

 スコープは視界モードを赤外線モードに変更した。熱で周囲を見る事が出来るこのモード、幾ら姿を消していると言っても熱までは隠せまい。

 

 果たしてホワイトカラーズと思しき姿は直ぐに見付ける事が出来た。今正に振りかぶった銃剣を振り下ろそうとしているホワイトカラーズのシルエット。イカが変温動物だからか、その体温は非常に低いがそれでも姿を捉えることは出来た。

 

 振り下ろされる銃剣を盾で防ぐ。自らの存在が見つかった事に、ホワイトカラーズは動揺せずにはいられなかった。

 

「何ッ! 見つかった!?」

「オラァッ!」

 

 見つかるとは思っていなかったのか、ホワイトカラーズは僅かに動きを止める。その隙をスコープは見逃さず、銃剣を弾きボルテックスブレードをホワイトカラーズの腹に叩き付けた。

 大きな隙ではあったが、それでも幹部の名は伊達では無くギリギリのところで回避し剣先が腹を掠める程度で済んだ。

 

 仕損じた事にスコープは舌打ちし、窮地を脱したホワイトカラーズは安堵の溜め息を吐く。

 

 これで状況は仕切り直し。その時、アントファッジの1体がホワイトカラーズに近付き何かを耳打ちした。

 

「…………そうか、ご苦労」

〈Genome set Full blast〉

 

 部下にハンドサインで後退を指示し、同時に銃剣を外したベクターリーダーにベクターカートリッジを装填する。銃口にエネルギーが集まる様子に、スコープは盛大に嫌な予感を感じた。

 

「おい、何するつもりだ!?」

「それが想像できないほど馬鹿では無いだろう」

「させると思うのか!!」

「こっちが行動する方が早い」

 

 ホワイトカラーズは問答無用でベクターリーダーを大きく振るいながら何度も引き金を引いた。強化された銃弾が何発も放たれ、機材だけでなくビルそのものを倒壊させるほどの破壊を齎す。

 地下施設が崩れ始める頃には、アントファッジ達は皆逃げ出した後だった。

 

「貴様ッ!?」

「また会おう、スコープ。お前が生きていたらな」

「くそ、総員退避だッ! 急げッ!」

 

 崩壊する地下施設の向こうに消えるホワイトカラーズ。このままでは自分達も生き埋めになると、スコープは全員に後退命令を出す。S.B.C.Tの隊員達は負傷した仲間に手を貸しながら這う這うの体でビルから脱出した。

 因みに地上部分で残業していた数名の社員に関しては、事情聴取も含めて既に退避済みだ。

 

 最後にスコープがビルから飛び出し、車に乗り込んでビルから離れる。タッチの差でビルが倒壊を始め、轟音と共にビルが崩れ去った。

 

 離れた所でその様子を見たスコープは、変身を解除して大きく溜め息を吐く。その顔は言うまでも無く苦虫を噛み潰したような顔になっていた。

 

「クソッ!? 奴らの尻尾を少しでも掴めると思ったのに……」

「残念です。しかしまさか幹部が直々に出てくるとは思いませんでした」

「それだけの物があそこにあったのか、それともスコープを警戒しているのかは分からんがな」

「とにかく、今後も捜査は続けます。あそこ以外にも同じような所がある筈です」

 

 車を運転する慎司の言葉に、宗吾は「当たり前だ」と返しつつ窓の外を流れる景色を見やるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「――――出来た」

 

 額の汗を拭いながら呟く仁の手には、二つのベクターカートリッジが握られている。スピノサウルスベクターカートリッジと、ケツァルコアトルスベクターカートリッジだ。

 

 満足そうに呟く仁に、亜矢が労いの言葉と共に紅茶の入ったカップを渡す。

 

「お疲れ様です、仁君」

「ん、ありがと亜矢さん」

 

 ベクターカートリッジをデスクに置き、亜矢からカップを受け取り口を付け大きく溜め息を吐く。疲れが吐息と共に吐き出されるような感覚に、仁がリラックスした顔になった。

 その横から、峰が二つのベクターカートリッジを手に取る。

 

「ふ~ん? これが古生物のDNAで作ったベクターカートリッジですか。どんな効果が得られるんですかね?」

「ふぅ……それは使ってみないと何とも。ただ俺の見立てだと、他のベクターカートリッジよりずっと強力だとは思ってますけど」

「へぇ~。…………恐竜時代の生物の遺伝子か、何かロマンあるわね」

 

 真矢が自分の分の紅茶を飲みながら呟く。彼女の感想は仁にも分かる気がした。太古の生物のDNAは、それだけで人の心――取り分け科学者の――を刺激してくる。実際仁も最初に薫から恐竜のDNAを手に入れたと聞いた時は、柄にもなく内心で興奮していた。

 

 しかし――と仁は、今峰が持っている二つのベクターカートリッジを見て思う。作っておいてなんだが、これで良かったのかと言う気がしなくも無いのだ。

 言葉では言い表し辛いが、強いて言うのであれば眠れる獣を起こしてしまったような、そんな感じである。

 

(…………流石に気にし過ぎか)

 

 仁は自身の中に湧いた不安を杞憂と流した。幾ら何でも考え過ぎだ、と。

 

 それが杞憂でも何でもないという事を彼が知る事になるのは、そう遠くない事であった。




と言う訳で第30話でした。

自分とゴキを実験台にしてベクターカートリッジの実験をする仁でした。ちょいと頑張り過ぎて頭のブレーキが壊れてしまった感じですね。仁のちょっと危ない一面が描かれた感じです。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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