今回は遂に新たなデイナの強化フォームのお披露目です。
怪我自体は大した事の無かった仁は、様子見を兼ねて翌日まで待ってから退院した。
だが退院してからも問題は山積みだった。目下最大の問題は、彼の今後の住居だ。彼の家はデイノニクスファッジの襲撃により最早住める状態ではなくなってしまった。なので、新しい家を探さなくてはならないのだが…………
「ん~……どうしよ?」
物が少ない部屋だったので引っ越しの手間自体は少ないのだが、問題は次の住居が決まるまでの寝床だ。そんなに早く住居は決まらない。
最悪研究室か、ネットカフェにでも転がり込もうかと考える仁。
そんな彼に、亜矢が声を掛けた。
「仁君、お家の事ですけど……」
「ん? ん~、暫くは研究室かネットカフェで寝泊まりしようかなって」
「その件ですけど……実は私の隣の部屋、今空いてるみたいで……」
ほんのり頬を赤く染めながら亜矢が言葉を紡ぐ。
「それは……」
「嫌でなければ、ですけど……仁君、ウチの近所に越してきませんか?」
亜矢の住んでいるマンションは決して安くは無いが、高級と言う訳でもない。亜矢くらいの学生でも1人暮らし出来る位の家賃だ。仁も余裕で住めるだろう。
「どうでしょう?」
「ん……そうだね。別に決まってはいなかったし、亜矢さんの隣の部屋に越そうかな」
仁の答えに亜矢は顔に喜色を浮かべた。
そうと決まれば早速とばかりに、仁の入居手続きを行った。亜矢の隣の部屋は確かに空いていたので、仁の引っ越し手続きは問題なく終わった。
そして部屋が決まったとなれば次は家具だ。デイノニクスファッジの襲撃で仁の部屋の家具は全滅してしまった。
とりあえず家具に関しては中古を取り揃える事で何とかするとしても、直ぐに住めるようにはならない。何分持ち込むのはデカい家具が殆どだ。部屋に運ばれるまでは僅かばかりの時間が掛かる。
そんな訳で、家具が揃うまで仁は亜矢の家に厄介になる事になった。
「――――でも亜矢さんは良かったの? 俺は別に研究室やネットカフェでも大丈夫だったのに」
亜矢の家に上がった仁は、無事だった着替えなどを置きながら口にした。前にも亜矢の家に泊らせてもらった事があるとは言え、やはり男が1人暮らしの女性の家に転がり込むのは少し問題があるのではと思ったのだ。
しかしその亜矢は、あっけらかんとした様子でそれに答えた。
「私がそうしたいから良いんです。それに研究室で寝泊まりなんて不健康ですし、これから入用になるのにネットカフェで寝泊まりなんて無駄な出費ですよ」
「ん~、まぁ……ね」
仁とて何時も学んでばかりいた訳ではない。日々の生活費や家賃の為にバイトだってしていた。加えて仁は浪費するタイプではないので、食費や家賃など最低限必要な分以上に金は使わなかったのでそれなりに貯蓄はある。
だがそれは無駄な出費をしては良い理由にならない。そう言う意味では、亜矢の家に厄介になるのは合理的ではある。
とは言え仁とてただで厄介になるつもりはない。新居に住めるようになるまでの僅かな間は、亜矢の家の家事を手伝うつもりだ。彼だって1人暮らしをしてきた身、最低限の家事は出来る。
「だからって洗濯はしなくていいですからね?」
「大丈夫、それくらいは弁えてるよ」
洗濯ともなれば普通の衣服だけでなく、下着まで世話しなくてはならない。仁に洗濯をさせるという事は、彼に使用後の下着を触らせるという事。それはなんぼ何でも恥ずかしいとか言うレベルの話ではない。
その日、仁は部屋や浴室の掃除を手伝い1日を過ごした。夕食も2人で肩を並べて作り、順番に浴室で汗を流して気付けば就寝の時間。
恒例のどちらがベッドで寝るかと言う問題も、真矢の『もう3回も一緒に寝てるんだから今更気にする必要は無い』と言う鶴の一声により一緒にベッドに入る事になった。
灯りを消した室内で、仁と同じ布団にくるまり横になる亜矢。
これまで3回仁と同じ布団の中で朝を迎えた事はあったが、それらはいずれもまだ存在を知らなかった真矢が亜矢の知らぬところでやった事。こうして亜矢の意識がある内から同じベッドに入る事はなかった。
だからだろうか。ベッドに入ってから、亜矢は全く寝付く事が出来なかった。恥ずかしいので仁には背中を向けて横になっているのだが、背後に感じる仁の体温に心臓が高鳴りっぱなしだ。
(う~、緊張して眠れないよ……)
【も~、亜矢ってば神経質になりすぎ。眠れないなら代わって】
心は2つでも体は1つ。仁を意識する事で心臓が高鳴って眠れないのなら、仁が傍に居ても平常を保てる真矢が表に出れば体は嫌でも睡眠に向かう。
尤もそれは建前で、真矢としては愛しい仁と同じベッドで寝ている感覚を表に出て堪能したいと言う下心もあるのだが。
亜矢と交代し表に出た真矢は、体を反転させ仁の方を見ながら寝ようとした。だが寝返りを打とうとした直前、仁が口を開いた。
「亜矢さん、寝ちゃった?」
「ッ!? 仁君まだ起きてたの?」
「あ、真矢さんの方か」
仁は声だけで答えたのが真矢である事に気付いた。一声で自分と亜矢の違いを見抜いた仁に、真矢はそう言えばどこで2人の違いを見分けているのかを聞いていない事に気付き問い掛けた。
「ねぇ仁君? 仁君はどうやって私と亜矢を見分けてるの? 体は1つな訳だし、見た目で見分けるなんて殆ど出来ないでしょ?」
真矢に問い掛けられ、仁は少し考え込むと答えを口にした。
「ん~、どこでって聞かれると難しいんだけど……うん、ゴメン。はっきりとは言えないや。でも分かるんだよね。亜矢さんと真矢さんの違い。理屈じゃないんだ。強いて言うなら心で分かるって感じ」
「心で……」
「あ、今は亜矢さんだね」
さらりと入れ替わったのだが、仁はそれすらも見抜いてみせた。それは何よりも雄弁に仁の言う「心で分かる」を表していた。
それが何だか嬉しくて顔を綻ばせていると、徐に仁が彼女の方を見て抱きしめた。
「ッ! じ、仁君?」
「亜矢さん……あったかい……こうしてると、凄く安心する」
「仁君……私もです。仁君の腕の中……凄く……安、心……」
優しく仁に抱きしめられ、亜矢は最初心臓が高鳴ったがそれもすぐに収まり心が落ち着いてきた。息を深く吸うと仁の匂いが肺を満たし、愛しさで心が満たされる。
すると一気に眠気がやってきて、亜矢はそのまま仁の腕の中で眠りについた。亜矢の意識が眠りに落ちると、真矢が代わって表に出てくる。
「亜矢、寝ちゃった」
「そっか」
「ねぇ仁君。一つ聞かせて」
「何?」
「私と亜矢……どっちが好き?」
意地の悪い質問だ。どちらを選んでも体は1つなのだから、どちらとも顔を合わせなけばならない。そんな相手のどちらかを選べ等……
普通ここは悩んでみせるところなのだろうが、仁は違った。彼は真矢の質問に対し、間を置かずに答えた。
「どっちも。亜矢さんも真矢さんもどっちも大好きだよ。どっちかなんて選べない」
「どっちかしか選べないってなったら?」
「どっちも選べるところに行くし、どっちも選べるようにする。片方を蔑ろになんて絶対にしないよ」
これ以上ない欲張りな答えに、しかし真矢は満足そうに笑みを浮かべ体を仁に密着させた。豊満な胸が薄い寝間着越しに仁に押し当てられる。
「仁君、だ~い好き」
「俺も…………」
「私と亜矢の事、抱きたくなったらいつでも…………あれ?」
女としてちょっと仁を誘惑してみた真矢だが、気付けば仁も眠ってしまっていた。折角胸まで押し付けて女としての自分をアピールしてみたのに、眠ってしまった事にちょっぴり不満を感じずにはいられないのか真矢は頬を膨らませる。
「むぅ~……ふぅ」
とは言え仁がこうして無防備に寝顔を晒してくれているという事は、全面的に彼女の事を信じてくれているという事の証左である。彼が心を開いてくれていると言う事実に、真矢は不満も忘れて仁に擦り寄り頬擦りした。
「ん~! 仁く~ん!」
一頻り仁に頬擦りした真矢は、顔を上げると仁の寝顔に顔を近付けると躊躇いなく彼の唇を奪った。
「ん、ちゅ! えへへ……仁君、愛してるわ。私も、亜矢も」
真矢は仁の首に腕を回した。もしこのまま朝を迎えれば、起きた時仁と亜矢は互いの顔をドアップで見る事になるだろう。
「何時か、私と亜矢の全部……仁君が貰ってね」
眠った仁にそう告げると、真矢も目を瞑り眠りへと落ちていくのだった。
***
一方傘木社では、こんな時間だと言うのに雄成が研究区画でアデニンの仕事を後ろから眺めていた。雄成の前で、アデニンはモニターを見ながらキーボードを叩いている。
そのモニターは1つのカプセルに繋がっており、カプセルの中には満たされた液体の中に人影が浮かんでいた。
「順調だな」
「そのようです。後は勝手に再生していきますよ」
そう言って2人はカプセルの中に目を向けた。そのカプセルの中に浮かんでいるのは希美だった。
だがその状態は明らかに普通ではない。彼女の体はあちこちが欠損していた。
パーツの欠けた希美を見ているのは2人だけではない。グアニンとシトシンも雄成の傍で同様に希美の事を観察していた。
グアニンはカプセルに近付き傷口をまじまじと見た。すると剥き出しの筋組織などが徐々に再生しているのが分かり、思わず息を呑む。
「流石に驚きました。ここから再生を始めるとは」
畏怖を感じながらそう呟き、彼は腕や足が欠けている状態で口に呼吸器を繋いだ希美の姿を何とも言えぬ顔で見つめていた。
「ノウダラケ遺伝子は知っているだろ? あれと似たようなものだ」
「プラナリアが持ってる、切断されたところが問答無用で再生する遺伝子でしたっけ。でもそれだとこいつが増えちまいませんか?」
シトシンがカプセルに近付き小突きながら呟く。確かにプラナリアは、二つに切断するとそれぞれの切断面から再生して分裂増殖してしまう事で有名だ。同じ事が希美で起こってしまうのであれば、引き千切られた分彼女が増える事になってしまう。
しかしその可能性は雄成により否定された。
「そこまで万能ではないよ。飽く迄も似たようなものだ。脳からの信号が届かない細胞は再生する事は無いから安心して良い」
「とは言え、回収した時は正直もう駄目かと思いましたけどね」
希美を回収したのはアデニンだったが、現場は壮絶であった。腕や足が引き千切られ、腹も引き裂かれてとてもではないが生きているとは言い難い有様であったのだ。寧ろこれは死んでいた方が幸せだと思えるほどだった。
それでも希美は生き残った。今はカプセルの中で再生を待つ身だが、再生速度から計算すればそう時間を掛けずに元通りになるだろう。
こうなると別の疑問が浮かぶ。彼女は果たして死ぬ事が出来るのだろうか?
「こいつ死ねるんですか?」
その疑問を代表して口にしたのはシトシンだ。彼はカプセルに寄り掛かりながら雄成に訊ねる。
「死ねるかどうかで言うなら、死ねるだろう。だが最早普通のやり方では無理だろうな。再生力が高すぎて、もう隠蔽装置でも死ぬ事は無い」
「…………それ不味くありませんか? 彼女が反乱を企てたら、止める手立てがありません」
「別に痛みを感じない訳じゃないんだ。制御用の首輪をつけておけば大丈夫だろう」
殺す事を目的としたものではなく、苦痛を与える事を目的とした装置を体内に埋め込むことを告げる雄成。
その言葉に対し、アデニンは無表情を貫きグアニンは顔を顰め、そしてシトシンは愉快そうに笑いカプセルに顔を付けた。
「良かったな、お前今度から負け犬じゃなくて飼い犬になるんだってよ。実験動物よりずっとマシじゃねえか?」
勿論希美から返答がある訳がない。だがカプセルの中の希美は、薄らと目を開けるとシトシンの事を見て再び目を閉じた。
何の反応も無い事にシトシンはつまらなそうにカプセルから離れた。
その瞬間、雄成の携帯が着信音を鳴らした。
「私だ……ふむ、そうかね…………分かった、すぐに行く」
雄成は携帯を切ると、踵を返して研究区画から出て行こうとする。その背にグアニンが声を掛けた。
「どちらへ?」
「社長室だよ。アメリカ支社から出向してきた者達が挨拶に来たのでね」
そう言って雄成は研究区画を後にした。
立ち去った彼の後姿を見送りながら、アデニンは訪日してきたアメリカ支社からの2人とやらの事を考えていた。
(アメリカ支社からの出向…………! あの双子か?)
アデニンは出向してきたアメリカ支社からの者に見当がついた。だがそれが分かったところで素直に喜ぶことは出来なかった。
「…………騒がしくなりそうだな」
「何だって?」
「いや……何でも無い」
思わず口から出たボヤキをシトシンに聞かれてしまったが、詳しい事は伏せておいた。どうせ嫌でも後で顔を合わせる事になる。
アデニンは席を立つと2人を伴ってその場を後にするのだった。
***
あれから数日後、仁の引っ越しも無事に終わってからのある日。
仁と亜矢の2人が大学の研究室に向っていると、その道中で峰から連絡があった。
曰く、ファッジが出現したとの事だ。場所は変電所。既にS.B.C.T.が現場に到着しているらしいが、戦況は芳しくないらしい。
仁は亜矢を後ろに乗せたトランスポゾンを走らせる。
暫く走らせ、2人の視線の先に変電所が見えてきた。情報通り既に戦闘が行われているのか、火の手が上がり黒煙が立ち込め、無数の銃声が辺りに響いている。
「亜矢さん、しっかり掴まってて」
「はい!」
仁はアクセルを噴かし加速すると変電所へと突入した。フェンスを突き破り、トランスポゾンが変電所へと飛び込む。
そこに広がっていたのは、合計4体のファッジがS.B.C.T.の隊員達を圧倒している様子だった。隊員達は必死に銃撃しているが、ファッジ達はそれを物ともせず次々とS.B.C.T.の隊員を屠っている。
そんな中で善戦しているのはやはりスコープだった。それもよく見ると2人確認できる。
仁は変電所に突入すると、適当な隊員を捕まえて状況を聞き出した。
「お待たせ。今どんな感じです?」
「君達か! 助かった……現状は見ての通り、隊長と
「その菅野さんと言うのは……あの銅色のスコープですか?」
「そうだ。君達が共に戦ってくれれば数の上で互角になる。頼む!」
「ん、分かった」
仁と亜矢はトランスポゾンから降りると、デイナドライバーを装着しベクターカートリッジを取り出した。
その際、仁はスコープ2人が戦っているファッジをよく見た。その姿は一見どれもトカゲか何かの様に見えるが、頭部の形状や三本の角などよく見れば何処かで見た事のある姿をしている。
仁にはすぐに分かった。あれは恐竜ベクターカートリッジを用いて生まれた、恐竜ファッジだ。
早くも恐竜ファッジを複数体投入してきた事に、仁と亜矢に緊張が走る。
「あいつら、もうあんなに……」
「確か、普通のファッジよりも強いんですよね」
「そ。とにかく気を付けて。俺も出来るだけ手早く片付けて合流するから」
「ま、私が居るから大丈夫よ。……私も、でしょ」
亜矢と真矢のやりとりに緊張を解されつつ、仁はデイナに変身し亜矢はルーナに変身した。
〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉
〈CAT Adaptation〉
「「変身!」」
〈〈Open the door〉〉
2人はデイナとルーナに変身すると、恐竜ファッジ4体と実質2対1の戦いを繰り広げていたスコープ2人と合流した。
とりあえず挨拶代わりにと、2人は恐竜ファッジに対し飛び蹴りを放ちスコープ達から強引に引き剥がした。
「そぅら、っと」
「ヤァァッ!」
スコープの相手に夢中だったファッジ達は、デイナとルーナの乱入に反応が遅れ蹴り飛ばされてしまった。
「ふぅ、お待たせ」
「大丈夫ですか?」
「助かった。気を付けろ、アイツら強いぞ」
「知ってる。あいつら恐竜の遺伝子使ってるから」
デイナとルーナに蹴り飛ばされたファッジ達は、即座に体勢を立て直すとそれぞれ対象を決めて襲い掛かってきた。
デイナに襲い掛かってきたのは、両目の上に突起のあるティラノサウルスの様な恐竜・カルノタウルスのDNAから生まれたカルノタウルスファッジだ。カルノタウルスファッジは強靭な顎と足でデイナに攻撃を仕掛けてくる。
放たれた噛み付きと蹴りを防ぐデイナだったが、単純にパワーが強くて防御を崩されてしまう。
「ぐっ!? くそ……」
思わず悪態を吐くデイナだったが、カルノタウルスファッジの攻撃は止まらない。拳を振り上げて殴り付けてくる。
それを受け止めるのではなく受け流す方向で凌いだデイナは、反撃の正拳突きを放つ。ファッジの胸板に拳を叩き付けるとそのまま連続で殴る。
だがカルノタウルスファッジは全く堪えた様子を見せない。デイナの連続正拳突きを胸板で受け止め、平然としている。
「くぅ……硬いな」
「ガァァァァッ!」
まるで巨大な壁でも殴っているかのような感覚に、デイナは思わず攻撃を止め逆に痛みを訴えた手を引っ込めた。
すると今度は自分の番だと言わんばかりに、カルノタウルスファッジが顎を大きく開いて噛み付いてきた。全く通用していない攻撃に集中力を切らしていたデイナは、、回避が遅れ右腕に喰らい付かれてしまった。
「ぐぁぁっ!?」
「仁君ッ!?」
硬いボールのような頭を持つ恐竜・パキケファロサウルスの遺伝子を持つパキケファロサウルスファッジの頭突きや突進を軽やかな身のこなしで対応していたルーナは、耳に入ったデイナの悲鳴にそちらに意識を持っていかれてしまう。
その瞬間、パキケファロサウルスファッジがルーナから少し距離を取り突進の構えを取った。するとファッジの頭部にエネルギーが収束していき、丸いパキケファロサウルスファッジの頭部が光を放つ。
「く……あ! 亜矢さん危ないッ!?」
「えっ!?」
デイナの警告にパキケファロサウルスファッジの方を見るルーナだったが、一歩遅く彼女が振り返った時にはエネルギーを収束した頭部による頭突きの突進が目前まで迫っていた。
「しま、きゃぁぁぁぁぁっ!?」
突進は彼女の腹部に直撃し、喰らったルーナは壁に叩き付けられると地面に落下しそのまま変身が解除されてしまった。
「あ、ぐ――!? げほっ!? う、うぅ……」
「亜矢さんッ!?」
「くそっ!? 援護しろ菅野!」
「了解!」
倒れた亜矢はそのまま意識を失ったのか動かなくなってしまう。パキケファロサウルスファッジはそのまま亜矢にトドメを差そうと言うのか彼女に近付き、デイナはさせるものかとその前に立ち塞がる。2人のスコープも相手をしているアンキロサウルスファッジとパラサウロロフスファッジの相手をしながら、ガンマライフルで援護射撃をした。
しかしやはり恐竜ファッジは強かった。途中でエレキテルを使用したが、電撃も恐竜ファッジ相手にはあまり効果がない。しかもデイナが相手をしていたカルノタウルスファッジまでもが加わってきて、デイナは窮地に立たされる。
「こうなったら――――!」
この事態に、デイナは自分も恐竜ベクターカートリッジの力を借りる事を選択。自作の2つのベクターカートリッジを取り出し起動状態にした。
〈QUETZALCOATLUS〉
〈SPINOSAURUS〉
「――ッ!?」
2つのベクターカートリッジを起動状態にした瞬間、デイナは恐怖を感じた。ベクターカートリッジをドライバーに装填しようとすると、訳も分からず体がそれを躊躇している。
何故こんな反応を体がするのか分からなかったが、この状況を打開する為にはこれを使わなくてはならない。デイナは恐怖を振り払い、ベクターカートリッジをドライバーに装填した。
〈QUETZALCOATLUS + SPINOSAURUS Reborn〉
「…………あれ?」
気付けば仁は変身前の姿に戻って、何も無い空間に佇んでいた。辺りは暗く、人も建物も見当たらない。
「ここは……亜矢さんは?…………ん?」
ふと仁は足元に何かの気配を感じて下を見た。するとそこに、一匹の犬が居て仁の事を見て嬉しそうに尻尾を振っている。
何が何だか分からない仁だったが、気持ちを落ち着ける意味でとりあえずしゃがみ犬と視線を合わせ頭を撫でてやる。犬は嬉しそうに目を細め、仁も釣られて薄らと笑みを浮かべた。
「よしよし……にしても、ここに居るのは俺とお前だけか? 何処だ、此処?」
犬を撫でながら周囲を見渡していると、背中を何かが小突いた。何だと彼が背後を振り返ると、そこには背に鷲を乗せたライオンが居るではないか。百獣の王が至近距離に居る事に、仁も思わず固まった。
「――――は? えっと……」
よく見ると自分の周囲には他にも動物がいる。肩にはハリネズミが乗っているし、足元をよく見れば鮫と鯨が居て足元を泳ぎ回っていた。
そして隣には、何時の間にか大きなバッファローが立ち荒い鼻息を吹きかけてきた。
不可解な状況に、しかし仁は奇妙な安心感を感じていた。
「お前ら……」
何となくだが、仁には彼らの正体が分かってきたような気がする。その答えを彼が口にしようとしたその時、突然動物達が同時に一点を見て怯えるようにその場から逃げて行った。
「え? え、何?」
一体何事かと逃げて行った動物達の後姿を見送り、彼らが見た方に何があったのかと仁がそちらを見ると――――
「――――え?」
そこには恐竜と翼竜が一頭ずつ居た。ワニの様な四足歩行の恐竜と、見上げる程巨大な翼竜。
スピノサウルスとケツァルコアトルスだ。
その2頭と仁の目が合った。
瞬間、スピノサウルスが大きく口を開き仁に喰らい付いた。
「ッ!?!?」
仁は悲鳴を上げる間もなくスピノサウルスに一口で食われた。
〈Open the door〉
デイナが恐竜ベクターカートリッジをドライバーに装填しレセプタースロットルを引くと、何時もとは違う現象が起こった。セントラルドグマを中心に光が広がったかと思うと、デイナの全身を光が包み込み見えなくなったのだ。その姿はまるで大きな卵の様である。
その光の卵に、カルノタウルスファッジとパキケファロサウルスファッジが攻撃を仕掛ける。だがファッジの攻撃は光の卵を壊すには至らず、逆に弾き飛ばされてしまった。見た目は何時もと違うが、能力は通常のスーパーコイルと同じらしい。
と、その時、光の卵に罅が入った。罅はどんどん広がり、半分ほどまで来ると天辺から殻が崩れて中のデイナの姿が露とった。
嘴の様なバイザーに頭頂部には角の様なトサカが一つ。背には翼があり、両手足は装甲に覆われて頑丈そうだ。
遂に姿を現したデイナの新たな姿……その名もケツァルスピノフォーム。今ここに、太古の時代より現代に蘇った遺伝子の力が顕現した瞬間であった。
「あれが、恐竜のDNAのベクターカートリッジ……」
呆然と呟く銀のスコープだったが、直ぐに異変に気付いた。デイナが全く動かないのだ。ゲノムチェンジ後、俯いたまま動く気配がない。
このままでは良い的だと、スコープが警告するよりも前にパキケファロサウルスファッジがデイナに攻撃を仕掛けた。ルーナを一撃で変身解除にまで追い込んだ頭突きによる一撃だ。喰らえばデイナとてただでは済まない。
誰もがそう思っていたのだが、次の瞬間広がる光景に誰もが思考を停止させた。
なんとデイナはパキケファロサウルスファッジの頭突きを、片手で軽々と止めてしまったのだ。パキケファロサウルスファッジは踏ん張りデイナを押すが、デイナはその場から1㎝も動かない。
「う、いたた……え?」
その時、亜矢が目を覚ました。彼女は目の前でデイナがパキケファロサウルスファッジの攻撃を片手で受け止めている光景に目を白黒させる。
「じ、仁君?」
亜矢が恐る恐るデイナに声を掛ける。彼女は気付いたのだ。デイナの様子が普段と違う事に。
僅かながら膠着した戦況は、亜矢の声を合図にしたかのように動き出す。
徐にデイナの空いた方の手がパキケファロサウルスファッジを一撃で地面に叩き伏せた。今までどんな攻撃を受けても堪えた様子を見せなかった恐竜ファッジが、今この瞬間初めてダメージに苦しんでいる。
だがその様子を見て、喜べるものは誰も居ない。ファッジにダメージを与えられたこと以上に、デイナの身に起きた異常の得体の知れなさが不気味で恐ろしかった。
デイナが倒れたパキケファロサウルスファッジを見下ろしていると、目にも留まらぬ速さで襟首掴み上げ無理矢理立たせて腹に拳を叩き込んだ。それも一発だけでなく何発も。
それを他のファッジが黙って見ている訳も無く、寧ろパキケファロサウルスファッジに掛かり切りになっている隙にデイナを集中攻撃しようと飛び掛かる。
だが3体の恐竜ファッジの攻撃を喰らっても、デイナは全く堪えた様子を見せなかった。パキケファロサウルスファッジへの攻撃を中断しゆっくりと自分を攻撃したファッジ達に目を向けるデイナ。
そこから先は最早戦闘ではなくただの蹂躙だった。デイナの攻撃は一撃で恐竜ファッジ達の体を凹ませ傷付け、4対1と言う状況にもかかわらず圧倒していた。
拳が一発でアンキロサウルスファッジの装甲を砕き、パラサウロロフスファッジの振り下ろしてきた腕を受け止めると握り潰した。カルノタウルスファッジを蹴り一発で吹っ飛ばし、パキケファロサウルスファッジの自慢の頭を粉砕した。
「なんだ、あれは? あれが本当に、門守君なのか?」
「仁君――――!?」
あまりにも仁らしくない戦い方に、スコープも亜矢も彼に畏怖の目を向ける。
気付けば恐竜ファッジ達はボロボロになり、満足に動ける奴は居なくなっていた。それでもまだ変異が解けないのは、それだけ奴らが頑丈と言う事だろうか。
しかしデイナは動かないファッジに対しても容赦なく攻撃した。
最初の標的になったのはパキケファロサウルスファッジだ。デイナはパキケファロサウルスファッジの首を掴んで持ち上げると、レセプタースロットルを引いた。
〈ATP Burst〉
デイナはノックアウトクラッシュを発動させると、パキケファロサウルスファッジの首を放した。僅かな間、体が直立するパキケファロサウルスファッジ。
そこにデイナのノックアウトクラッシュを発動した拳が叩き込まれた。右の拳で一発殴り、衝撃で離れるとそれに合わせて前に出て次々と強化された拳を突き刺した。
「ウォォォォォァァァァァァッ!!」
何発も強化された拳で殴られたパキケファロサウルスファッジは限界を超過し、爆発して変異が解除された。中身は傘木社の人間だったのか、変異が解けると同時に燃え上がった。
これで恐竜ファッジは残り3体。その3体に、デイナの視線が向いた。
「ウゥゥゥゥ…………」
「「「ッ!?」」」
3体の恐竜ファッジは身の危険を感じたのか、自分から変異を解いた。
「ま、待ってくれ!?」
「降参、降参する!」
人間の姿に戻り降伏の意思を見せる3人。今のデイナの容赦の無い攻撃に、抵抗する意思を失ったらしい。
何時もの仁であればこれで彼らは見逃される筈であった。
しかし――――
「アァァァァァァァッ!!」
狂気はまだ終わらない。
と言う訳で第32話でした。
仁は亜矢のお隣さんになりました。美香の反対側の隣の部屋です。
希美は前回のデイナとの戦闘で揶揄ではなくズタズタにされましたが、生きてます。滅多な事では死ねない体になってます。
スコープは量産化計画も進行しているので、今回2号機として銅色のスコープが登場しました。ここからは簡易量産型の開発が急がれます。
デイナ、遂に暴走です。こうなったらもう動くものに対して容赦しません。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。