仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

絶賛夏休み中という事でいつもより早い時間に更新しました。


第33話:畏怖の視線

「アァァァァァァァッ!!」

 

 デイナが変異を解いた傘木社の3人に向って突撃する。その声には明らかに狂気が宿っており、彼が3人に襲い掛かろうとしている事が手に取るように分かった。

 

「止めろ門守君ッ!!」

 

 そのデイナの突撃を防いだのは、他ならぬスコープだった。彼は寸でのところでデイナと3人の間に割って入ると、デイナに抱き着いてそれ以上の移動を阻止した。

 

「今の内だ! 早くその3人を連れて行け!」

「は、はい!」

 

「ウォァァア、アァァァァァァッ!!」

 

 銀色のスコープ1号は、デイナを押さえながら部下に指示を出す。このままあの3人を殺させてはいけない。彼らは重要な参考人だし、何よりデイナに……仁に不要な殺生をさせる訳にはいかなかった。

 

 スコープ1号はスコープ2号と共にデイナを押さえつけ、必死に彼に声を掛けた。

 

「落ち着け、門守君ッ! 正気に戻れッ!!」

「グルルルッ! ガルァァァァァァッ!?」

 

 スコープ1号の声もデイナには全く届いていない。今の彼は正に飢えた獣の様に、目の前の敵を仕留めるまで止まる気は無いようだった。

 

 そんな彼の異常に、亜矢と真矢も黙ってはいなかった。

 

【亜矢、しっかり!】

「分かってる――! 仁君を、止めなきゃ!!」

 

〈CAT Adaptation〉

「変身!」

〈Open the door〉

 

 再びルーナに変身した彼女は、暴れるデイナに後ろから近付き羽交い絞めにした。

 

「仁君、落ち着いてください! これ以上はもう戦う必要はありません!!」

「ガァァァァァァァッ!!」

 

 背後から抱き着き声を掛けるが、止まる気配を見せない。それどころか、拘束が強くなったからか逆に激しく暴れ出した。

 

「オォォォァァァアアアアッ!」

 

「うわっ!?」

「ぐっ!?」

「きゃぁっ!?」

 

 自分を押さえつけてきた3人の仮面ライダーを、デイナは腕の力だけでいとも容易く振り払ってしまった。何と言うパワーか。今までのデイナのどのフォームと比べても比較にならないパワー。ルーナは改めて恐竜ベクターカートリッジが持つ力の凄まじさを思い知った。

 

「一体どうなってる? 何で彼があんな事に?」

「あのベクターカートリッジの所為です。強力過ぎてドライバーを通しても影響を抑えきれないんです」

「どうすれば止められる?」

 

 ルーナは言葉を詰まらせた。止め方は、分かる。だが彼に対しそれをする事に、躊躇を覚えずにはいられなかった。だがこのまま彼を放置すれば、彼は取り返しのつかない事をしてしまう。それを許すくらいなら――――

 

「――――倒すしかないでしょうね。一応ドライバーからカートリッジを抜いて変身解除させるのも手ではありますが、今の仁君相手に下手に近付く事は…………悪手以外の何物でもありません」

 

 正直、デイナを相手にこんな提案をしたくはない。だがやらねばならないのだ。その事にルーナは心が上げる悲鳴を抑え込み、スコープ1号・2号と共にデイナの前に立ち塞がった。

 

「グルルルルルル――――!」

 

 デイナは目の前に立ち塞がる3人を明確に敵と判断し、腰を落とすと背中の翼を広げ文字通り飛び掛かってきた。低空飛行で突撃してくるデイナを、3人の仮面ライダーが弾幕を張って迎え撃つ。

 

「仁君、止まってください!!」

 

 ルーナのリプレッサーショットとスコープ1号のガンマライフル、そして2号のボルテックスガンの銃弾がデイナに殺到する。迫る弾丸を、デイナは避けようともしない。

 

 それも当然、避ける必要などないのだ。3人の仮面ライダーの銃弾は全てデイナの装甲で弾かれ、全くダメージになっていない。いやそもそも、回避という発想がないだけなのか。

 とにかく接近してくるデイナを、3人の仮面ライダーは全力で避けた。あの防御力はそのまま攻撃力に還元される。

 

「避けろッ!?」

 

 3人はバラバラに回避し、デイナの突撃を喰らう事は何とか避けれた。

 

 ギリギリのところでデイナの突撃を回避したルーナは、彼が着地する瞬間を狙って連結させたリプレッサーショットの引き金を引いた。分割した拳銃モードの時より貫通力のある強力な銃弾がデイナに迫る。

 しかしその一発はデイナの翼により弾かれてしまった。その動きにやはりあれは仁なのだという事を実感し、ルーナの心が苦しくなる。翼を盾代わりに使うのは、仁が変身するデイナの常套手段だ。

 

「仁君――――!?」

【亜矢! ボサッとしないで!】

 

 束の間、仁を感じさせるデイナの動きにルーナの動きが鈍ったのを真矢が叱咤する。

 次の瞬間には、驚異的な脚力で一足跳びにデイナがルーナに飛び掛かっていた。

 

「あ――――」

 

 咄嗟の事でルーナは判断が遅れてしまった。デイナは動きを止めたルーナに飛び掛かり――――

 

「くぅっ!?」

 

 デイナの拳が振り下ろされた瞬間、真矢が亜矢と人格を入れ替わりデイナの一撃をアームブレードで防いだ。しかしルーナは元々パワーには自信の無い性能をしている。対して今のデイナは、速度もパワーも優れていた。案の定ルーナはデイナのパワーに徐々に押し込まれ、防御をこじ開けられそうになる。

 

「ぐ――!? じ、仁君……お願い、正気に戻って――――!?」

 

 力尽くで押し込まれる辛さに苦しみながら、ルーナはデイナに声を掛ける。例え届かなかったとしても、届く事を信じて声を掛け続けるつもりだ。

 

「ウ、ア…………」

「ッ!!」

 

 その時、デイナの様子に変化が生じた。僅かながら、ルーナを押さえつける力が弱まったのだ。

 これはもしや声が届いたのでは……そう思った瞬間、アッパーカットがルーナを殴り飛ばした。

 

「きゃぁぁぁぁっ!?」

 

 一瞬油断を突かれ、下から殴り飛ばされたルーナは地面に叩き付けられ変身を解除されてしまう。そして倒れた彼女に、デイナはトドメを差そうと言うのか拳を握り締めて近付いていった。

 

「オォォォォッ!!」

「あぁ、あ――――!?」

 

 地面に叩き付けられたダメージで体が満足に動けない真矢に、デイナの拳が振り下ろされそうになる。

 

 そこへスコープの1号と2号が、ボルテックスブレードを展開し背後からデイナに振り下ろした。

 

「止めるんだ門守君ッ!!」

 

 叫びながら1号が振り下ろしたボルテックスブレードを、デイナは素早く振り返り片手で受け止めた。もう片方の手で2号の振り下ろしたブレードも受けとめる。

 

 正直、スコープ1号はこれでデイナにダメージが与えられるとは思っていなかった。装甲で弾かれるか、受け止められるだろうという事は予想していた。

 だが次の彼の行動は予想外だった。何と片手でそれぞれのスコープを押し返し始めたのだ。

 

「なっ!?」

「スコープがパワー負けしている!?」

 

 デイナなどの様に能力の多様性がない代わりに、スコープはパワーと装甲に優れている。並大抵のファッジであれば押し合いで負けない自信があった。

 しかしこのデイナ相手にはスコープもパワー面で後れを取っている事が明らかとなった。その事実に2人は驚愕せずにはいられない。

 

「ゥゥゥウウウアァァァァァォォォォォッ!!」

 

 2人の刃を押し返し、振り払って隙を作らせた。そしてデイナは、隙が出来た2人に対し容赦なく必殺技を叩き込んだ。

 

〈ATP Burst〉

「アアアァァァァァッ!!」

「ぐあっ?!」

「がふっ!?」

 

 スコープ2人は回し蹴りの要領で放たれたノックアウトクラッシュを喰らい吹き飛ばされる。地面に叩き付けられた2人の内、2号はギリギリで防御できたのか倒れた状態からボルテックスガンで反撃した。

 

「くそっ!?」

 

 放たれる銃撃がデイナの装甲で弾かれる。ダメージにはなり得ないが、それでも攻撃された事は注意を引いたのかデイナの目がスコープ2号を捉えると、彼は銃撃を物ともせず接近して2号に馬乗りになってその拳を2号の装甲に何度も叩き付けた。

 

「ウァァァァァァァッ!!」

「うわっ!? ぐっ!? くそ、やめ、ぐあっ!?」

 

 何度も振り下ろされたデイナの拳が2号の装甲をひしゃげさせ、仮面を破損させていく。あっと言う間に2号はボロボロになり、次第に2号の抵抗が薄くなってきた。

 

 これ以上は2号に変身している菅野が死ぬと、1号がデイナを止めようとした時、それよりも先に亜矢がデイナに抱き着き後ろからデイナのドライバーに手を伸ばした。

 

「仁君、もう止めてください!!」

 

 2号を攻撃する事に意識を集中させていたからか、それとも変身が解除された彼女に脅威を感じていないのか、デイナは亜矢が抱き着いても全く振り払う様子を見せない。

 その隙に亜矢はデイナドライバーから恐竜ベクターカートリッジ二つを抜き取りレセプタースロットルを引いて変身を解除させる。

 

「ぅ…………え?」

「仁君――――!」

 

 元に戻った仁は正気に戻ったらしく、声や顔からは狂気が感じられない。その事に亜矢は安堵するが、殺されかけた2号の方はそうではなかったらしく、仁が元の姿に戻った瞬間残った力を振り絞り彼を押し退けた。

 その際彼に抱き着いていた亜矢も一緒に押し出され、仁から離れた所に倒れる。

 

「うわっ!?」

「あぅっ!?」

 

 何が何だか分からないままに突き飛ばされ、混乱する仁は周囲を見渡した。

 

「え、何?……何がどうしたの?」

 

 訳が分からないながら、仁は全身ボロボロで倒れているスコープ2号を見つけると彼を助け起こそうと言うのかそちらに近付こうとする。

 だが彼が一歩足を前に踏み出した瞬間、2号はまだ原形を留めているボルテックスガンを向けた。

 

「――え?」

「はぁ、はぁ、はぁ――――!?」

 

 向けられた銃口と恐怖を感じさせる目に、仁が困惑して周囲を見ると他のS.B.C.T.の隊員達も似たり寄ったりの目を向けている事に気付いた。そして思い出すのは、意識を取り戻した瞬間の状況。亜矢に抱き着かれながら、スコープ2号に跨っていた自分の様子を客観的に意識して、直前まで何が起こっていたのかを朧気ながら理解した。

 

 理解してしまった。

 

「え……は……俺? これ、俺が…………?」

「止めろ菅野ッ!?」

 

 困惑の中に恐慌を滲ませ始めた仁の前で、1号が2号のボルテックスガンを下げさせた。1号はそのまま2号の変身を解除させ他の隊員に任せると仁に近付き彼を宥めるように両肩に手を置いた。

 

「大丈夫だ門守君、気をしっかり持て!」

「権藤さん、教えてくれ。俺……俺今まで何してた?」

「待て、まずは落ち着くんだ。いいか、君は――――」

 

 スコープ1号が必死に仁に声を掛け彼を宥めようとする。仁の方も、頭では冷静になろうと努めているが周囲から向けられる畏怖の視線が心をかき乱していた。自分が意図していない所で誰かを自分の手で傷付け、そしてその事で他者から恐れられる。それがこれほど恐ろしい事だとは知らなかった。

 

 不意に仁は気になる視線を感じた。先程仁を変身解除させる為に抱き着き、スコープ2号により仁共々突き飛ばされていた亜矢だ。

 

 既に半ば恐慌状態の仁の視線と亜矢の視線がぶつかり合った。

 

「う、あ――――」

「ッ!? じ、仁くん――」

 

 その瞬間仁は言い知れぬ恐怖を感じた。命の危険に類する恐怖ではない。それは言うなれば拒絶される恐怖だ。

 目が合った瞬間、亜矢の眼の奥に自分に対する恐れとかそう言う類の感情を仁は確かに感じ取ったのだ。そしてそれを感じた瞬間、仁の体は彼の意志を振り切りその場から逃げる事を選択した。

 

「あ、あぁ……あぁぁ――――!?」

「あっ! 門守君、待つんだッ!?」

 

 スコープ1号を振り払い、脇目も降らず仁はその場から逃げ出した。トランスポゾンも忘れ、とにかく周囲の目から逃れる様に我武者羅に逃げていく。

 

 彼の後姿を見送るしかできなかった亜矢は、彼が見えなくなるとその場にぺたんと座り込んでしまった。

 

「私……なんて事を…………」

【亜矢……】

 

 仁が逃げていった方を見ながら亜矢が呆然としていた。彼女は後悔していた。先程仁が亜矢に対して恐怖の視線を向けた瞬間、彼に何も声を掛けず引き留めることが出来なかった事をだ。

 

「支えようって決めたのに……仁君を助けたくて、傍に居るのに……」

 

 あの時、仁が自分に視線を向けてきた時、亜矢は一瞬だけだが仁に近付く事を躊躇してしまった。直前に殺されかけた光景が脳裏を過り、体が強張って動かなくなってしまったのだ。

 彼を助ける為に、支える為に仮面ライダーになって戦うと決めたのに、本当に仁が助けを必要とする時に手を差し伸べる事が出来なかった。

 

 その事は暗雲となって亜矢の心に立ち込め、顔を両手で覆い涙を流した。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい、仁君――――!?」

 

 この場に居ない仁に向けての亜矢の懺悔の言葉。流れる涙と共に紡がれたその言葉を聞いたのは、状況が一応落ち着いた事で変身を解除した宗吾だけであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 希美は溶液の満たされたカプセルの中で目を覚ました。薄く緑がかった溶液越しに見える外の世界では、研究員が動き回り警備の者が銃を持って佇んでいる。

 その緑がかった外の世界から、雄成が彼女の事を覗き込んだ。

 

「目が覚めたようだね……自分の事は分かるかい?」

 

 溶液越しでくぐもった雄成からの質問に、希美は少し間を置いてから頷いて答えた。口は呼吸器に繋がれているので喋れないし、呼吸器が無かったとしても溶液の所為で言葉は外に届かない。

 

「何があってこんな事になったかは、覚えているかい?」

 

 続けて放たれた雄成の質問。言われて希美の脳裏に、デイノニクスベクターカートリッジを使われてからの出来事が蘇った。

 仁の家に突撃し、デイナと戦闘し、そして…………完膚なきまでに敗北した挙句、体をズタズタにされた。

 

 本来であれば思い出しただけで発狂してもおかしくない程の苦痛の記憶を、しかし希美は顔色を一切変化させず頷いて答えた。

 

「よろしい……」

 

 彼女の反応に満足したのか、雄成は薄く笑みを浮かべながら頷くと彼女を出す様に指示を出した。

 

「彼女を出してやれ」

 

 雄成の指示に研究員がコンソールを操作すると、カプセルの中の溶液が抜かれていく。どんどん水位が下がり、頭が溶液の外に出ると緑がかっていた視界がクリアーになる。

 

 物の数分もかからず溶液が全て排出されたが、溶液が無くなると希美はカプセルの中で陸に投げ出された蛸の様に崩れ落ちていた。体が全く言う事を聞かないのだ。手足に満足に力が入らず、呼吸器を自力で外す事も出来ない。

 

 満足に動かない体に希美が悪戦苦闘していると、カプセルが開き雄成が彼女に手を貸した。呼吸器を顔から外してやり、肩を抱き上げて立たせ、研究員から渡されたタオルを羽織らせる。

 

「おはよう。気分はどうだい?」

「……お腹、すいた」

 

 カプセルから出た途端、彼女を猛烈な空腹感が襲った。腹の中が見事にすっからかんな感覚。空き過ぎて何もする気が起きない。

 

「直ぐに食事を用意させよう。さぁ、立ちたまえ。もう君の体は動けるようになっている筈だ」

 

 先程は満足に立ち上がる事も出来なかった希美だが、雄成の言う通り既に体は言う事を聞く様になっていた。早くも自力で歩く事が出来る程度には回復したらしい。

 そのまま2人は研究区画の廊下を歩く。

 

 カプセルから出たばかりの、裸にタオルを羽織っただけと言う恰好で廊下を歩く希美に研究員の何人かがギョッとした顔で彼女を見るが、隣を歩く雄成と2人の後ろにいる保安警察の隊員の姿に誰もが道を譲った。

 

 会話もなく廊下を歩く2人だったが、唐突に雄成が希美に問い掛ける。

 

「随分と落ち着いているね。てっきりもっと取り乱すなりヒステリックに叫ぶなりするかと思ったんだが?」

 

 実際保安警察を待機させていたのも、彼女が感情的になって暴れ出した時の為の保険であった。もし彼女がデイナに敗北した事でヒステリーを起こしたら、またテーザーライフルで強制的に黙らせるつもりであった。

 

 尤も、今の希美にはテーザーライフルも大した効果は無いだろうと雄成は見ていたが……。

 

「…………ど~でもいいですよ。もう……」

「ほぉ?」

 

 雄成の問い掛けに対する、希美の返答は彼をしても少し意外な物であった。以前の彼女では考えられないあまりにも投げやりな態度。ジトっとした目は雄成とは反対方向に向けられ、胡乱な視線が廊下の壁を眺めている。

 

 どうやらデイナに徹底的に敗北した事で、彼女の中に残っていた最後のプライドが木っ端微塵に砕け散ったらしい。今の彼女には向上心も野心も、対抗心も無い。一言で言ってしまえば、覇気が無かった。

 文字通り、今の希美は空っぽだった。

 

 あるのはただ一つ、空虚からくる飢えを満たすと言う欲望のみ。

 

 2人が歩いていった先は、最近まで希美が入れられていた独房ではなかった。決して上等ではないし質素だが、人が暮らす空間としては必要な物が揃った部屋だ。そこには彼女に誂えた衣服もある。

 

 1人部屋に入れられた希美は、久しぶりにまともな服装を手に入れた。ここ最近は囚人服ばかり着せられ、ついさっきまでは裸にタオルだけという痴女同然の恰好だったのだ。

 しかし彼女の中に、裸にタオルだけで廊下を歩いたことに対する羞恥心はなかった。彼女自身にとっても意外なほど、心が騒がなかった。

 

 彼女が着替え終わると、そのタイミングを見計らったかのように扉がノックされる。実際見計らっていたのだろう。一見普通の部屋に見えても、ここは研究区画の一室。室内に監視カメラの一つや二つあっても不思議ではない。

 

「お食事をお持ちしました」

 

 着替えが終わると今度は食事の時間だった。部屋の前には大型のカートが来ており、様々な料理が乗っている。

 係の者が次々と部屋のテーブルに運ばれた料理を、希美は並べられた先から次々と平らげていく。久方振りのまともな料理。カロリー摂取の為だけの、味も見た目も度外視したものではない本物の食事。

 しかしそれを食す彼女の表情は淡々としていた。やっとまともな食事にありつけたと言うのに、彼女の顔には何の感情も浮かんでいないのだ。

 

 しかし感情はなくとも、その食べる速度は尋常ではなかった。次から次へと料理が彼女の胃袋へと消えていき、大型のカートはあっと言う間に空の食器で埋め尽くされた。

 

 食事を終え、係の者は大型のカートを引っ張って部屋から去っていった。

 残された希美は、特に何も言われていないので部屋の椅子に座ってぼんやりとしていた。

 

「…………足りない……」

 

 どれ程そうしていたか、彼女の口から零れた言葉がそれだった。あれだけの量を平らげておきながら、彼女はまだ飢えを抱えていた。

 

 腹が減った、喉が渇く。もっと欲しい。

 

 もっと…………もっと……………もっともっともっともっともっともっともっと――――――――

 

「希美……」

 

 不意に声を掛けられた。希美がゆらりとそちらを見ると、何時の間にそこに居たのかアデニンが扉を開けて彼女の事を見ていた。

 

「女の部屋開けるのにノックもしないなんてどういう神経してるのよ?」

「何回もした。ただお前が全然反応しなかっただけだ」

「あ、そ……それよりお腹空いたんだけど……」

「さっきあれだけ食べただろうが…………いいから来い」

 

 呆れたアデニンに連れられ、希美は研究区画内の廊下を歩く。

 彼女が連れて行かれたのは研究区画内にある訓練ブースだった。だだっ広く何もない部屋は、主に新型ベクターカートリッジの性能テストなどに使われる。

 

 2人がそこに辿り着くと、部屋の中央に雄成が立っていた。希美たちが部屋に入ると、彼が軽く手を上げて手招きする。よく見ると、その手には何かを持っている。

 

「やぁ、ご苦労アデニン」

「いえ」

「ふむ……食事は満足してくれたかね?」

「足りない」

 

 雄成を前にしても、気怠そうな様子を崩さず更なる食事を所望する希美。彼女の態度にアデニンが咎めるような目を向けるが、雄成はそれを手で制した。

 

「働かざるもの食うべからず、だよ。さぁこれを」

 

 そう言って雄成が手渡してきたのは、デイナドライバーによく似たベルトのバックルだった。あれと違うのは、セントラルドグマ部分が装甲で覆われてレセプタースロットルが存在しない点だろうか。

 

 渡されたベルトを希美は胡乱な目でジロジロと眺めた。

 

「…………何です、これ?」

「君用に作った新型ドライバーだ。これを使って変身するといい」

 

 追加で渡される二つのベクターカートリッジ。一つのドライバーに二つのベクターカートリッジ、それはまるで因縁の相手である仮面ライダーデイナのようだ。

 思わず希美の口元に笑みが浮かぶ。

 

「ふ……ふふ……」

 

 手の中のドライバーとカートリッジを見て笑う希美の傍から、気付けば雄成とアデニンは姿を消していた。

 

 代わりに室内に数人のアントファッジが入ってくる。嘗ては彼女の部下だった連中、その彼らは部屋に入ると彼女に銃口を向けた。

 

 自分に向けられた銃口を前に、希美は胡乱な目で彼らを眺めつつ口の端を吊り上げて気の抜けた笑みを浮かべる。

 

「足りない……あぁ、足りない…………あんた達、私を満たしなさい」

〈Base HORSESHOE〉

 

 新たなドライバー……『ブレイドライバー』を腰に装着し、二つのベクターカートリッジ『クロコダイルベクターカートリッジ』と『タートルベクターカートリッジ』を構える希美。

 これから始まるのは、戦闘に非ず。生まれ変わった希美の新たな食事の時間である。

 

 彼女の食事風景を、モニタールームから雄成とアデニンの2人が眺めていた。




と言う訳で第33話でした。

暴走が原因でデイナがビビられました。おかげで仁が色々と曇る結果に。普段マイペースなキャラが、ペース乱れて曇る展開は個人的に見応えあると思ってます。ビルドの戦兎もハザードで青羽殺した時大分曇りましたし。

そして希美が腹ペコキャラにクラスチェンジしました。前まではただの憎たらしい敵幹部でしたが、今後は徐々にコミカルな面も見せていく事になるかと思います。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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