仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

今回は遂に新たな仮面ライダーが登場です。


第34話:亀裂の入った関係

 あの後亜矢は、心此処に非ずと言った様子で帰宅した。自己嫌悪と仁への申し訳なさで、今日はもう何もする気になれない。

 自宅に帰ると必然的に隣の仁の部屋が目に留まる。一瞬彼の部屋のインターホンを押して彼に何かを言おうと思ったが、結局何を言えば良いかも分からずそのまま自宅へと入り、着替えもせずベッドに倒れ込んだ。

 

 重力に行かれるままにベッドに倒れ込むと、その瞬間亜矢を仁の匂いがふわりと包み込む。以前彼が泊っていった時、一緒にベッドに入った時の彼の匂いがまだ残っていたのだ。

 鼻腔を彼の匂いがついた瞬間、亜矢の目から再び涙が零れ落ちた。

 

「ぅぐ……ぐすっ! 仁君……ごめんなさい……」

【明日、仁君としっかり話さないとね】

「ん……うん……」

 

 こんな残り香では全然足りない。もっと直に仁と触れ合い、温もりを全身で感じたい。しかしこのままでは彼に合わせる顔がない。

 

 真矢からの言葉に泣きながら頷き、亜矢はそのまま眠りに落ちていった。微睡に落ちる最中、亜矢は仁との平和で穏やかな日常を夢見ながら意識を手放した。

 

 そして翌日…………

 

「おはようございます……」

 

 仁と顔を合わせる事に気まずさを感じずにはいられず、何時もに比べて圧倒的に覇気の足りない挨拶と共に研究室へと入った亜矢。

 すると彼女の姿を認めた峰が、何やら慌てた様子で近付いて来た。

 

「あぁ良かった、やっと来てくれた双星さん!」

「え? あの、何かあったんですか?」

 

 峰の様子に困惑を隠せない亜矢。何が何だか分からないと言った様子の彼女を、峰は強引に引っ張ってラボの方へと向かった。

 

「昨日何度も携帯にかけたのに、双星さん全然出ないんですもん。あなたの身にまで何かあったんじゃないかって凄く心配したんですよ?」

「昨日? 何度も?」

 

 まさかと思い携帯を見ると、昨日から何件も着信履歴があった。そう言えば、夢現に何度か携帯の着信を聞いた様な気がする。どうやら携帯の着信音も気にならないくらい、昨日から精神的に参っていたらしい。

 

 しかし峰は一体何を慌てているのだろうか?

 

「一体何が?」

「口で言うより、見てもらったほうが早いだろう」

 

 白上教授に言われ、峰によりラボに引き摺り込まれて…………目の前に広がる光景に亜矢は言葉を失った。

 

 ラボには何時も通り仁が居たのだが、明らかに様子がおかしい。鬼気迫る様子で只管キーボードを叩き、彼の前のディスプレイは目まぐるしく情報を出しては決してを繰り返している。早すぎて何が表示されたのかも認識できない程だ。

 

 仁が何かに熱中して周りが目に入らない様子を見せるのは今に始まった事ではない。だが今の彼の様子はそれとはまるで違う。

 

「こ、これは一体――――!?」

「昨日、戻ってきてからこれです。双星さんは戻って来ないしで何かあったんじゃないかって聞いても、門守君は何も言ってくれないしでこっちも訳が分からなくて……」

「…………ちょっと待ってください。昨日から?」

 

 つまり仁はあの後、亜矢と別れてからずっとああしてパソコンと向き合っていると言う訳だ。しかもあの様子、恐らく食事も碌にとっていないに違いない。

 

 流石に気まずいなどと言っても居られず、亜矢は仁に近付き彼を宥めようと声を掛けた。

 

「じ、仁君、落ち着いてください!?」

「ん……気にしないで」

「気にしないなんて、そんなことできる訳ないじゃないですか!?」

「大丈夫……」

「大丈夫って、何を――――」

 

「五月蠅いなッ!!??」

 

 仁の怒声がラボの中に響き渡る。初めて耳にする感情をむき出しにした仁の怒声。怒りと焦り、様々な感情が綯い交ぜになった声で怒鳴られ、亜矢の身が竦み体が震える。

 

 怯える亜矢の姿を見て、仁も頭が冷えたのか目を見開き目を泳がせた。

 

「あ――――」

 

 亜矢からの怯えた視線を向けられ、仁の脳裏に先日の光景が蘇る。周囲から向けられる畏怖の視線、自分の手で死に掛けた菅野、そして仁の所業に恐怖する亜矢。

 

「――――ゴメン」

 

 その視線から逃れるように、仁は亜矢から視線を外し再びパソコンと向き合った。キーボードを高速で叩く音が響く中、仁はパソコンのディスプレイを見ながら亜矢に話し掛けた。

 

「今ちょっと手が離せないんだ。この恐竜ベクターカートリッジ、何とかして制御できるようにしないといけないから。こいつが制御できるようにならないと、傘木社の連中に勝てないよ」

 

 理に適った事を早口で捲し立てる仁。言ってることは正しいだろう。事実傘木社が実戦に投入してきた恐竜ファッジは強い。何か対抗手段が無ければ、彼らの暴挙を止める事が出来なくなってしまう。

 

 しかし峰の耳には、それはどうしても言い訳に聞こえた。まるで何かから逃げるように自分の世界に逃げ込む口実として、恐竜ベクターカートリッジの改良に没頭している様にに見えて仕方なかった。

 

 そんな彼に、亜矢が手を伸ばそうとする。

 

「えと……あの……」

 

 本当は今すぐにでも彼を止めたい。戦闘と暴走で消耗している筈なのだ。加えて徹夜しての作業、今彼に必要なのは休息の筈である。

 

 しかし今の彼女にそれを彼に告げる勇気は無かった。無理に止めようとしてまた怒鳴られるのは怖かったし、何よりあの時彼を支える事が出来なかった自分に何かを言う権利があるとは思えなかった。

 

 大人しく引き下がる亜矢と、彼女に見向きもせず只管パソコン画面とだけ向かい合う仁の姿を、白上教授と峰が信じられないと言った様子で見ていた。つい昨日まであんなに仲良く――それこそ嫉妬とかを通り過ぎてしまう程――していたのに、この変わりようは何だと言った感じである。

 

 これは流石に見過ごせないと、峰は亜矢をラボの端に引っ張っていき何があったのかを訊ねた。

 

「ちょちょ、双星さん双星さん!? 何があったんですか? ただの喧嘩って感じじゃありませんよね?」

 

 近くの椅子に座らされた亜矢は、峰からの問い掛けに少しずつ答えていった。

 

「実は……」

 

 亜矢は先日の出来事を掻い摘んで話していく。その中で2人が食い付いたのは、やはりと言うか当然と言うかデイナが暴走したところだった。

 

「――――暴走?」

「門守君がですかッ!?」

「……はい。恐竜ベクターカートリッジの力が強すぎて、影響を抑える事が出来ないみたいなんです」

 

 亜矢の言葉に、白上教授は信じられないと言った顔で顎に手を当てた。元々ベクターカートリッジの悪影響を受けないようにする為のデイナドライバーで、影響を抑えきれないと言う事態に陥ったのが信じられないのだ。

 

「それで……仁君が暴走して、私や警察の人達を攻撃して……何とか仁君を変身解除させて暴走を止めることは出来たんですけど…………」

 

 問題はそこから先だった。亜矢にとって最も己が忌々しく、同時に情けなくなるシーン。

 

「……暴走した仁君を、警察の人達も怖がっちゃって。それで仁君、自分が何をして怖がられてるのかを理解しちゃったんです」

「…………それであんなに必死になってるって訳ですか」

 

 漸く峰は仁が鬼気迫る様子でパソコンに齧りついている理由を理解した。敵が強化された力を会得しているのに、自分がその力を使う度に暴走して周りを傷付けていたら本末転倒にも程がある。

 

「……仁君が怖がられた時、私、何も出来なかったんです」

「え?」

「本当は私が近くで仁君を支えなきゃいけないのに…………肝心な時に脚が動かなくて、何も言えなくて…………権藤さんが仁君を宥めようとしてくれたんですけど、結局仁君、心を傷付けて――――!」

 

 思い出して亜矢の目に再び涙が浮かんだ。

 

「肝心な時に何も出来なくて……私、何の為に――――!?」

 

 顔を手で覆って涙を流す亜矢を見て、峰は優しく背中を擦ってやった。今の峰が亜矢に対して出来る事はこれしかない。

 

「……今は、信じましょう。門守君ならきっと、この窮地を乗り越えてくれるって……」

 

 

 

 

 それから数日の間、仁はラボに籠りきりとなった。

 

 何かに憑りつかれたかの様にパソコンと向き合い鬼気迫る様子でキーボードを叩く仁は、文字通り寝食も投げ捨て恐竜ベクターカートリッジの制御方法を模索し続けた。

 

 流石にぶっ倒れるのではないかと、峰が仁を宥めようとしたが彼は一切の利く耳を持たない。白上教授なら或いはと言う気もしたが、彼は彼でデイナの暴走を抑える為、仁程ではないが恐竜カートリッジの解析と研究に集中している。

 

 結果、仁を止められる者は誰も居らず彼は身を削って暴走の解決方法を探し続けていた。

 

【亜矢、仁君を止めよう】

「…………うん」

 

 この事態に、遂に亜矢と真矢が覚悟を決めた。このまま恐れてばかりいてはいけない。行動を起こさなくては。例えそれで再び仁に怒鳴られたりしたとしても、その苛立ちも何もかもを受け止めるのだと言う覚悟を持って亜矢は仁を止める為彼に声を掛けた。

 

「仁君! いい加減にしてください! 一体何日無理してると思ってるんですか!?」

「放っといてよ。別に亜矢さんに迷惑かけてる訳じゃないんだ」

「心配だって言ってるの!? 私も亜矢も、仁君が何時壊れるんじゃないかって不安なのよ!」

「だとしても、大事な事なんだよ。何で分かってくれないんだ!」

「仁君こそ何で分かってくれないんですか!?」

 

 互いに一歩も譲らない。仁も亜矢に対して乱暴な態度を見せていくが、今度は亜矢も怯む事無く仁と対峙し続ける。

 

 しかし話は完全に平行線。仁は只管に恐竜ベクターカートリッジの制御を確立する事に執心し、亜矢は仁にこれ以上の無理をして欲しくないと説き続けた。

 

「五月蠅い! もう放っておいてくれ!!」

 

 平行線の議論に遂に我慢の限界が来たのか、仁は感情を爆発させ、感情に流されるままに腕を振るう。振り回された手が近くのパソコンに直撃すると、ディスプレイが粉砕され小さな爆発を起こした。

 

「「ッ!?」」

 

 その光景に2人は口論を中断し、仁はディスプレイを粉砕してしまった己の手を呆然と見つめ、亜矢はその手から流れる血を見てハンカチを取り出し彼の手を取った。

 

「仁君ッ!? 大丈夫ですか、見せてください!」

 

 仁の手を取り流れる血を拭う亜矢だが、彼はそれを振り払い逆に彼女を突き飛ばした。

 

「近付くなッ!?」

「きゃっ!?」

「双星さんッ!」

 

 仁に突き飛ばされた亜矢は床に尻餅をつく。流石にこれ以上は傍観していられなくなったのか、峰が亜矢に近付き彼女を助け起こしつつ仁に非難の目を向けた。

 

「門守君ッ!!」

 

 峰の声に我に返った仁は、床に座り込みながら自分の方を見る亜矢の目に、今度は仁の目に恐怖が浮かぶ。

 

 そして仁は彼女達に背を向けると、逃げるようにラボから出て行った。

 

「門守君何処に行くんですか!?」

「仁君ッ!」

「来るな、俺に近付くなッ!?」

 

 裏口を通ってラボから出て行く仁を、亜矢が立ち上がり追い掛ける。

 

「双星さん、待ってください!」

「仁君を放っておけません! 今度は、絶対に!」

 

 仁を追ってラボから出る亜矢。2人が出て行ったことで、ラボの中は一気に静かになる。

 

「あ…………はぁ~、もう。忙しい2人だなぁ」

 

 峰は1人溜め息を吐くと、とりあえず仁が粉砕したディスプレイの残骸の片付けに取り掛かるのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 ラボから逃げて我武者羅に走り続けた仁は、当ても無く街中を走り続けていた。今はとにかく亜矢から離れたい。離れなければならないと心が叫んでいた。

 

 あの日……ケツァルスピノフォームになって暴走してからと言うもの、仁は意識が自分の制御を離れつつあるという事に気付いていた。意図せずして本能が剥き出しになる。凶暴性が押さえられなくなり、感情が爆発しやすくなっていた。

 ケツァルスピノフォームの制御方法を探していたのは、半分は確かにそれの制御方法を見つけ出す為だがもう半分はとにかく何かに没頭して気を紛らわせる事だった。何かに没頭していれば、剥き出しとなった本能を抑える事も出来た。

 

 だがそれにも限界があるらしい。些細な事ですぐに心の均衡が乱れ、怒りとなって爆発してしまった。

 

 このままでは、亜矢にまで危害を加えてしまうかもしれない。そう思うと仁は居ても経っても居られず、あの場を逃げ出さずにはいられなかった。

 

 必死の形相で駆ける仁を、道行く人々が奇異の目で見ている。そんな視線も今の仁には刺激物となっていた。集中する視線は、否が応にもあの暴走した時にS.B.C.T.の隊員達から向けられた畏怖の視線を思い出させる。

 そしてそれに続く、亜矢の視線も――――

 

「う――――!?」

 

 いい加減走り続けるのに限界が来て、近くの電柱に手をつき立ち止まる。全身汗だくで、顔には連日の貫徹による疲労で目の下にハッキリと隈が浮かび上がった様子は、ともすれば薬物中毒患者を彷彿とさせた。実際、今仁の事を見ている人の中にはその疑いを持つ者も少なからずいるだろう。明らかに何か危険なものを見る目をしている。

 

 ここに居るのはあまり宜しくない。そう思って仁がその場を移動しようとしたその時、どっからか飛んできた銃撃が彼の周りにある物を手当たり次第に破壊した。

 

「くっ!?」

 

 銃撃は街灯を粉砕し、車を破壊し、ビルの壁を崩壊させる。その余波は彼の周りの人々にも及び、街は一気に阿鼻叫喚の地獄と化す。

 

「何だ、一体――?」

 

 突然の攻撃に仁が周囲を見渡していると、彼の視界に1人の白衣を着た男が姿を現した。傘木社の幹部の1人、シトシンだ。

 

「よぉ、仮面ライダー?」

「お前……傘木社の?」

「おぅ、シトシンだ。覚えてるか?」

「お前――――!!」

 

 忘れる訳がない。亜矢を甚振ったとかいう奴だ。以前倒すことが出来なかった事を仁は地味に悔やんでいた。

 

「この間は世話になったからな、その礼も兼ねて来たって訳よ」

「だからってこんな街の往来でやるとか、お前結構バカでしょ?」

「はん! 減らず口を叩けるのも今の内だぜ」

 

 精神的に平常ではないからか、仁の口からシトシンに対して毒が吐かれる。だがシトシンはそれを鼻で笑うと、フロッグベクターカートリッジと…………ベクターリーダーを取り出した。

 

「ッ! それは――!?」

「へへへっ、イイだろこれ? 俺の分も新しく用意してもらったんだぜ。こいつでこの間の礼をしてやるから覚悟しろよ」

〈FLOG〉

 

 シトシンは起動状態にしたベクターカートリッジを、ベクターリーダーのソケット部に装填する。

 

〈Leading〉

「行くぜ、進生!」

〈Transcription〉

 

 以前雄成がやってみせたように、ベクターカートリッジを装填したベクターリーダーの引き金を引くと銃口からスーパーコイルが放たれ仁の周りの地面を抉りシトシンに向かって戻ると彼の体を貫いた。すると彼の体が黒いアンダースーツで覆われ、その上から緑色のカエルを模した分厚い装甲が包んだ。

 

 そこに立っていたのは、やはりファッジではない。全体的に丸いシルエットの、仮面ライダーに酷似した戦士だった。

 

「こいつが……『グリーンリキッド』だ!」

 

 シトシン改めグリーンリキッドは、そう叫ぶとベクターリーダーを仁に向け引き金を引いた。放たれた銃弾が彼の足元を抉る。

 

 仁はその場を飛び退きながらデイナドライバーを取り出すと、腰に装着してベクターカートリッジを取り出す。

 

「今は苛立ってるんだ。悪いけど容赦はしないから」

〈HAWK + LEON Evolution〉

「変身!」

〈Open the door〉

 

 ホークレオンフォームのデイナに変身した仁は、インペリアルウィングを広げて飛翔し空中からグリーンリキッドに対し攻撃を仕掛ける。上昇しては急降下からの蹴りを何度も繰り返し、堅実にグリーンリキッドにダメージを与えていく。

 しかしグリーンリキッドは彼が思っている以上に頑丈だった。カエルの能力を反映しているクセして、見た目に違わず硬い。デイナの蹴りが大して効いていない。

 

「何だ何だ、こんなもんかよ!」

 

 デイナの攻撃が大して痛くない事に、グリーンリキッドは挑発するように声を上げる。普段のデイナならそんなもの何処吹く風と受け流せたのだが、精神が乱れている今は効果抜群だった。デイナは地上に降り立つと、BHエレキテルカートリッジでエレキテルにゲノムチェンジした。

 

「ならこいつで……」

〈BUFFALO + HUMAN Light up〉

「ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 バッファローヒューマンエレキテルにゲノムチェンジしたデイナは、エレキテル・ブーストを用いてグリーンリキッドに接近し電撃を伴う高速攻撃を繰り出した。プレインジーン相手には対抗されたエレキテル・ブーストも、生体発電などとは無縁のカエルの能力を持つグリーンリキッドには有効な筈だ。速度に対抗する事など出来る筈が無いし、装甲が分厚くても電撃が内側まで浸透しダメージを与えられる筈だった。

 

 しかし、デイナのエレキテル・ブーストが終わった時、そこには全く堪えた様子の無いグリーンリキッドが立っているではないか。これにはデイナも目を剥いた。

 

「ッ!? 何でッ?」

「自分の手、よ~く見てみな」

 

 余裕を感じさせる声で告げられた言葉に、デイナが警戒しながら自分の手を見る。そこには、何やら透明でやや粘性のある液体が付着していた。

 

「これは……?」

 

 色はなく臭いも殆どない。だが相手がカエルの能力を持っている存在であると言う結論に達した時、デイナはそれの正体に気付いた。

 

「…………毒の粘液か」

「ははっ! あったりぃ~!」

 

 カエルは皮膚呼吸を行う為、体を湿らせておく必要がある。その為体表に粘液を分泌して陸上で干乾びたりしないように保湿しているのだが、この粘液には毒が含まれている事が多い。有名なもので言えばジャングルに生息するヤドクガエルなんかがそうだし、日本に生息するアマガエルですら体表の粘液には毒を含んでいる。

 無論それらの毒は触れただけでどうにかなるものではなくキチンと洗い落とせば害は基本無いのだが、これは自然界のカエルのそれよりも強化された粘液である可能性が高い。今はまだ大丈夫だが、長時間放置していてはどんな悪影響があるか。

 

「……なるほどね。粘液の方を電気が走っていったから、内側にはダメージが届かなかった訳か」

「そう言う事だ。お前の電撃は俺には通じねぇ。それに下手に触らねえ方が良いぞ? 浸透すれば忽ちお前の体の自由を奪う」

 

 なかなかに厄介で、何より厭らしい戦い方だ。中身の性格が滲み出ている。

 

「仁君!」

 

 デイナが頭の中でグリーンリキッドの攻略法を模索していると、追い付いてきた亜矢がルーナに変身して攻撃に加わった。ルーナはグリーンリキッドに接近しながら、両手に持ったリプレッサーショットで銃撃する。

 

「はっ! 来たか!」

 

 ルーナに対してもリベンジの機会を欲していたグリーンリキッドは、歓喜の声を上げながら全身に粘液を分泌した。多量に分泌された粘液は彼の体から滴り落ち、足元に水溜まりを作るほどだ。

 

 そこにリプレッサーショットの銃弾が命中する。電撃は受け流せても、銃弾は奴の装甲を抉るだろうとデイナは予想していた。しかし結果は、彼にとっても予想外のものであった。

 

 なんとグリーンリキッドは無傷。ルーナの放った銃弾は、彼の体表を滑るようにして逸れていきあらぬ方向へと飛んで穴を穿った。

 

「えっ!?」

「あれは……」

 

 デイナはグリーンリキッドが何をやったのかすぐに分かった。要はボクサーが顔にワセリンを塗るのと同じだ。滑らかな粘液を全身に分泌する事で、摩擦を軽減し銃弾を滑らせたのだろう。銃弾を逸らせるほどの滑らかさは、ワセリンなどの比ではないだろうが。

 

 とにかく、あいつには打撃・銃撃は通用しない。奴に有効打を与えるには斬撃しかないだろう。

 

「とりあえずあいつにはこいつが効きそうだ」

〈SHARK + HEDGEHOG Evolution〉

「ゲノムチェンジ」

〈Open the door〉

 

 グリーンリキッドに対抗すべく、デイナはゲノムチェンジしてシャークヘッジホッグフォームになる。シャークベクターカートリッジによって得られる腕部のカッター『スケイルカッター』は、ただの刃と言うだけでなく攻撃の瞬間無数の鱗を飛ばして相手の体を切り裂くことが出来る。粘液による防御も削り取ってくれる筈だ。

 だがデイナが何よりもこの姿を選んだのは、ハリネズミの能力を欲したからである。ハリネズミの隠された能力は毒耐性。大抵の毒素を無害化してしまうこの能力があれば、グリーンリキッドの分泌する毒にも耐えられる。

 

「はっ」

 

 デイナはフォームチェンジするなり両腕のカッターで斬りかかる。攻撃の瞬間放たれる鱗がチェーンソーの様にグリーンリキッドの粘液の防御を削り本体の装甲を傷付けた。

 

「ぐぅっ!? こいつ――!?」

【……なるほどね。亜矢、選手交代!】

「分かった!」

 

 デイナの戦い方に攻略法を見つけたルーナは、人格を亜矢から真矢に切り替えて突撃した。

 

「アイ ハヴ コントロール!」

 

 ルーナはアームブレードを展開し、グリーンリキッドに斬りかかる。鋭い爪は彼女の読み通り、滑らされる事無く相手の装甲を切り裂いた。

 

「ぐぉぁっ!?」

「よし! 仁君、このまま一気に決めるわよ!」

「…………ん」

 

 ルーナの参戦に、デイナはやや不満げだ。先程の事をまだ引き摺っているのだろう。だが、この場でやるべき事は理解している様子。それに今は戦いに集中しているからか、何時もの状態に大分近い。それを自覚して、デイナは彼女を突き放す事無く肩を並べてグリーンリキッドに対抗した。

 

 デイナの両腕のカッターが、ルーナのアームブレードが、グリーンリキッドの粘液の防御幕を破って切り裂いていく。入れ代わり立ち代わり立ち位置を変える2人の呼吸は今の所合っており、ただでさえ2対1だと言うのに2人の息の合ったコンビネーションも合わさりグリーンリキッドは一気に劣勢に立たされた。

 

「こんの、がはぁっ!?」

 

 動きが鈍ったところで、2人が同時に放った蹴りがグリーンリキッドを蹴り飛ばす。大きく蹴り飛ばされたグリーンリキッドは電柱に激突し地面に落下した。

 

「くっ、チクショウ――!?」

 

 立て続けのダメージに、グリーンリキッドが動きを止める。そこにデイナに容赦ない攻撃が叩き込まれた。

 

〈ATP Burst〉

 

 ノックアウトクラッシュが回し蹴りとなってグリーンリキッドに放たれる。剣山の様な装甲の脚はグリーンリキッドの装甲を粘液ごと削り取り、大ダメージとなって彼を襲った。

 

「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 デイナの一撃を食らったグリーンリキッドは地面に叩き付けられると、自らの意志で変身を解除した。

 

「ぐっ!? あ、危ねぇ……危うく死ぬところだった……」

 

 どうやらあれを使っていても、強制変身解除などになると隠蔽装置が作動するらしい。デイナの攻撃のダメージが強制変身解除に繋がりそうだったから、自分から変身を解除したようだ。

 

 今、シトシンはダメージもあって完全に無防備であり、捕らえる絶好の機会であった。それを見て取ってか、デイナがシトシンにゆっくり近づいていく。

 あぁ、宗吾達が来るまで彼を確保しておくのだな……ルーナはそう思っていたのだが、次の瞬間それは間違いであると気付かされた。

 

 デイナはシトシンに近付くと、手を振り上げ拳を硬く握りしめたのだ。それを見た瞬間彼女は背後から彼を取り押さえた。

 

「仁君待って!?」

「――――ッ!?」

 

 背後からルーナに取り押さえられ、動きを止めるデイナ。ハッとした様子で周囲を見て、自分が何をしようとしていたのかを知り慌てて彼女を振り払い離れた。

 

「はぁっ!? はぁっ!? はぁっ!?……俺……俺は……」

「仁君、大丈夫? 最近本当に変よ?」

「ッ!? 来るな、来るなよ!?」

 

 彼を心配してルーナが近付くと、彼は慄いた様子で彼女を拒絶した。必死な様子に、ルーナも思わず足を止める。

 

「仁君?」

「分かるだろ、俺今普通じゃないんだ!? あんな事も、こんな事もしたくは無かったんだよ!? なのに――――」

 

 半ばパニックになって叫ぶデイナに、ルーナはどうすればいいか分からずその場で立ち往生してしまった。今彼に触れるべきか否か、亜矢と真矢で意見交換が行われていた。

 

 だがそれも長くは続かなかった。出し抜けにデイナの背後に姿を現した人物が彼の事を殴り飛ばしたのだ。

 

「がぁっ?!」

「仁君!?」

 

 殴られ倒れるデイナに、ルーナが近付き助け起こしながら彼を殴った人物に目を向ける。

 

 そこに居たのは、一言で言えば仮面ライダーとしか言い様の無い奴であった。

 

 デイナドライバーに酷似したベルト、鎧の様な仮面、鱗の様な表面の緑のアンダースーツと、滑らかな曲面が目立つ茶色い装甲。

 

 その人物を見て、シトシンが声を荒げる。

 

「て、テメェ何しに来た!?」

「…………はぁ~、あんたが無様に負けてるから助けに来てやったんじゃない。お礼の1つも言えない訳?」

 

 呆れたような声を上げる仮面ライダー。その声には覚えがあった。覇気が全く無いので感じが大分違うが、間違いなくチミンと呼ばれたスパイダーファッジに変異していた女の声だ。

 

「お前……蜘蛛女か?」

「いい加減その呼び方何とかならないの?…………ま、もう()()()の呼び方されるのもあれだし、名前知らないんじゃどうしようもないわよね」

 

 希美が変身した仮面ライダーは、溜め息と共にそう呟く。実は案外、蜘蛛女と呼ばれる事を前々から気にしていたようだ。

 

「志村 希美よ、宜しくね。尤も、あんた達は別に宜しくしたくは無いだろうけど……」

 

 自重するように呟く仮面ライダーに、ルーナがリプレッサーショットを向ける。名前が何であれ、希美が敵である事に変わりはない。現に今デイナの事を殴り飛ばした。何時襲ってくるかと考えたら、ゆったり構えてなどいられなかった。

 

「あんたの名前なんて興味ないわ。こいつを連れて帰ろうってつもりなんだろうけど、そうはさせないから」

「やれるもんならやってみなさいよ」

 

 希美がそう返すと、それを合図にルーナがリプレッサーショットの引き金を引いた。放たれた銃弾が希美の変身した仮面ライダーの装甲のに突き刺さる。

 

 しかし彼女は全く堪えた様子を見せない。まるで痛痒を感じていないかのように、銃弾を受けながらも悠然と前に進んだのだ。

 

「き、効いてないのッ!?」

【真矢、ここは私がッ!】

「わ、分かった!」

 

 火力不足なのか狙いが悪いのか分からないが、このままでは接近を許すだけだと亜矢は真矢と交代して表に出ると、リプレッサーショットをライフルモードにして撃った。狙うは装甲に覆われていないアンダースーツ部分。幾ら硬かろうが、装甲がない部分なら防御力も大した事はない筈。そこを貫通力に優れるライフルで撃たれれば――――

 

「…………はんっ」

「そ……そんな――――!?」

 

 だが希美はこれすら全く気にしなかった。精々衝撃で撃たれた箇所が後ろに押された程度で、命中箇所には傷一つ付いていない。

 

「ダメね……全然ダメ……こんなんじゃ私は満たされない……もっと私を満たしてみなさいよ。あの時みたいに、さ」

「あの時……?」

「そうよ? ついこの間…………私の事を容赦なくズタズタにしてくれたじゃない。あれくらいの事をやってみせてよ」

 

 希美の言葉に、デイナの朧気な記憶が鮮明さを取り戻す。

 以前デイノニクスファッジが仁の家に襲撃を掛けてきた時、デイナは初めてケツァルスピノフォームを使用した。

 そしてその時も暴走し、抑えられない凶暴性に任せてデイノニクスファッジを……倒されて変異が解けた希美の体を――――――

 

「――――!? う、五月蠅いッ!?」

 

 蘇った忌々しい記憶を振り払うようにデイナは希美に殴り掛かる。だが普通の攻撃は彼女には通用しない。全て受け止められ、そして彼女を落胆させた。

 

「はぁ~~…………もういいわ」

〈HORSESHOE Burst〉

 

 希美の変身した仮面ライダーが、ドライバー中央上部のスイッチを押した。すると彼女の右手にエネルギーが集まる。

 

「はぁっ!!」

 

 右手を手刀の形にし、希美はデイナに叩き付ける。貫手を喰らったデイナはその一撃の重さに吹き飛ばされ、壁に叩き付けられ変身を解除された。

 

「が、はぁっ!?」

「仁君ッ!?」

「よそ見してる場合?」

「はっ!?」

 

 変身解除された仁に意識を向けた瞬間、今度はルーナに攻撃が放たれた。デイナを殴り飛ばしたエネルギーをそのまま刃の様に放出し、回避する間もなく直撃を食らった彼女は仁の傍まで吹き飛ばされ彼同様変身が解除されてしまった。

 

「あぐぅっ!? う、あ……」

「亜矢、さん……」

 

 自分の隣に倒れた亜矢を、仁が痛む体に鞭打って手を伸ばす。が、彼女に触れそうになった瞬間ビクリと体を震わせ手を引っ込めた。

 

 そんな2人に対し、希美は興味を失ったのか変身を解除するとシトシンを俵の様に担ぎその場を後にした。

 物の様に担がれたシトシンは当然抗議する。

 

「おいっ!? 何だこの持ち方、下ろせッ!?」

「こっちは早く帰りたいのよ。怪我人の歩調に合わせるなんて真っ平だわ」

 

 勝手な物言いで歩みを進める希美に抵抗するシトシンだったが、彼女は構わず2人の前から姿を消した。

 

 離れていく希美とシトシンの姿に、仁はその場で顔を俯かせ静かに地面を拳で叩くのだった。




と言う訳で第34話でした。

仁は絶賛曇り中です。作中でもここまで仁が感情を露にするのはこの恐竜ベクターカートリッジを巡る話の部分だけかもしれませんね。

そして満を持して登場した希美の変身する仮面ライダー。今回は顔見せ程度ですが、名前などは次回になります。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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