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デイナとルーナ、2人の仮面ライダーを容易く退けシトシンを回収した希美を出迎えたのは雄成とアデニンだった。相変わらずシトシンを俵担ぎした希美を、雄成はにこやかに出迎えた。
「やぁ、お疲れ様。どうだったかね、ブレイドライバーで変身した仮面ライダー……『ヘテロ』の使い心地は?」
雄成からの問い掛けに対し、希美はすぐ答えることはせずシトシンを乱暴にその場に落とした。落とされたシトシンは潰された蛙の様な声を上げた。
「て、てんめぇ……もうちょっと優しく下ろせねぇのかよ!?」
「…………ふん」
「何か言えッ!?」
「まぁまぁ。それでどうだったかね?」
希美に食って掛かるシトシンを宥めつつ、答えを催促する雄成。一瞬無言で雄成の問い掛けを無視するように彼の隣を通り過ぎる希美だったが、何かを思い出したかのように足を止めると雄成の方を見ずに口を開いた。
「……別に不自由はしないです」
「ふむ、そうかね。使った後体に何か異変はあるかね?」
「別に……そうならないようにしたのはそっちでしょう」
雄成と視線を合わせず素っ気なく答える希美に、傍に控えていたアデニンが何かを言おうと一歩踏み出す。だが雄成はそれを宥め、にこやかな笑みを崩さないでいた。
「それより、お腹が空きました」
「分かった。直ぐ食事を用意させよう。今回はご苦労だったね」
その労いの言葉を話の終わりと判断したのか、希美は無言でその場を後にした。自室に戻っていく希美の後姿を見送り、シトシンは雄成に詰め寄った。
「あいつ何なんですか!? 俺だけじゃなく、プロフェッサーにまで舐め腐った態度取りやがって!?」
「少し、灸を据えた方が良いような気もしますが?」
雄成に対し忠誠を誓っている2人にとって、希美の態度は無礼極まりないものだった。曲がりなりにも相手はこの会社の社長であり、彼女はこの会社の一員なのだ。ならば最低限の礼儀は払ってしかるべきである。
しかし当の雄成本人は全く気にした様子が無く、それどころかアデニンとシトシンの2人を宥めすらした。
「まぁまぁ、落ち着きたまえ。そうカッカするものじゃないよ」
「良いんですか? このままだとアイツ、更に調子に乗りますよ?」
雄成が許すならそれで良いと引き下がったアデニンに対し、シトシンは納得がいかない様子だった。許すと言っている雄成に対し、尚も食い下がる。
「その心配は無いよ。彼女はただ全てを諦め、流れに身を任せているだけに過ぎない」
「え~っと……つまり?」
「餌を与えている限りは大人しいという事さ。こう言えば納得するかね?」
つまり希美は傘木社の飼い犬であると、そう言いたい訳だ。こういう言い方ならシトシンにも納得できた。寧ろ人間としての尊厳が奪われている辺りに、シトシンの中の歪んだ優越感が刺激され上機嫌になる。
「なるほど、それなら納得です。飼い犬……飼い犬ねぇ……くくっ!」
そう言う事なら精々寛容に接してやろう。どれだけ粋がっても彼女は鎖に繋がれた犬に過ぎないのだから。
この場に居ない希美に対し優越感に浸るシトシンを、アデニンがそれとなく眺めていた。1人ニヤニヤと笑う彼の姿に、アデニンはアデニンで笑いが込み上げるのを抑えきれず声を出さずに薄く笑った。
シトシンは気付いていないのだ。自分が特別であるように思っている様だが、彼もまた雄成の飼い犬であるという事に。彼自身鎖に繋がれているという事に気付かず他人の首輪を見て悦に浸るシトシンの姿に、そしてアデニン自身もまた雄成によって鎖に繋がれているのだという事実に、アデニンは笑いを堪える事が出来ずにいたのだった。
***
希美の変身した仮面ライダーヘテロに敗北した仁は、まだ体力が回復していない亜矢を抱えて大学のラボへと戻っていた。
傷だらけで戻ってきた2人に、峰は驚愕し濡らしたタオルを持ってくる。
「ちょっ!? 2人ともどうしたんですか!?」
峰の驚愕を他所に、仁は亜矢をソファーに寝かせ自分は傍の床に座り込む。流石に体力が限界だった。
「……派手に負けただけです」
「負けたって、恐竜のファッジに?」
「いや……傘木社が遂にライダーシステムを作ったんです。それも滅茶苦茶強い。デイナとは比べ物にもならない」
亜矢の顔を拭いていた峰は絶句した。まさかデイナとルーナが揃って歯が立たないようなライダーシステムを、よりにもよって傘木社が作り出してしまうなど。
今までは組織力では劣っていても、デイナとルーナでファッジ相手に対処出来ていたからある種の均衡が保てていた。それがここに来て恐竜ファッジに加えて敵のライダーと言う二つのファクターにより崩れてしまった。
由々しき事態である。
峰が状況の悪化に危機感を抱いていると、仁が傷付いた身体で立ち上がり自分のデスクに座る。そして再び、恐竜ベクターカートリッジ制御の為の方法を模索し始めた。
「そ、そんな身体で無茶です!? 今は休んだ方が良いですって!?」
無理矢理デスクから引き剥がそうとする峰を振り払い、仁はノートパソコンのキーボードを叩く。傷付いているからか速度は落ちているが、それでも彼は痛む体に鞭打ってキーボードを叩き、歪む視界を気合で補正してディスプレイの文字を凝視している。
何を言っても聞きそうにない仁に、峰も流石にどうしたら良いかと迷った。
その時、ソファーに寝かされていた亜矢が立ち上がった。ふら付きながら仁の背後に立った亜矢は、呼吸を整えると仁が座っている椅子を無理矢理回して自分の方に向かせ、それでもパソコン画面を見続ける仁の頬を思いっきり叩いた。
「い――――!?」
いきなり頬を引っ叩かれて、流石に顔を上げた仁。文句を言おうとしたのかそれとも単純に何をするのかと問おうとしたのかは分からないが、その瞬間彼は口を開けていた。
が、その開かれた口が言葉を紡ぐ事は無かった。何故なら彼が顔を上げた時、そこにあったのは両目からポロポロと涙を流す亜矢の顔があったのだから。
「~~~~~~ッ!?」
亜矢は涙を流しながら何も言わなかった。唇を噛んで嗚咽を堪え、涙だけを流しながら仁を見つめていた。
「あ――――」
「双星、さん……」
まさかの行動に仁と峰が呆然としていると、亜矢はそのまま仁に抱き着いた。ノートパソコンを押し退け、仁の胸の中に飛び込み泣いた。
「もう……止めてください――――! そんな仁君、見たくありません――――!!」
自身の胸の中で涙を流す亜矢に、仁は苦しそうな顔をした。無論それは肉体的苦しさではなく、精神的な苦しさだ。最愛の亜矢にこんな思いをさせてしまった事が、その原因が全て自分にある事が堪らなく辛かった。
暫しラボには亜矢のすすり泣く声が響いた。どれだけそうしていたか、仁は未だ涙を流す亜矢の肩に手を掛けゆっくりと……本当にゆっくりと引き剥がした。
「仁君……?」
「…………ごめん」
本当はもっと言うべきことがあった筈だ。言うべき事もそうだし、言いたい事もあった。だが今の仁には自分のどんな言葉も醜い言い訳にしか思えず、それを亜矢に聞かせたくなくて結局一言謝るしかできなかった。
そして仁がこの場に居られたのはそれが限界だった。これ以上、こんな自分を亜矢達に見て欲しくない。
「今日は……帰る。それじゃ……」
「待ってください門守君、そんな体で――――」
1人で帰ろうとする仁を引き留めようとする峰だったが、彼は峰の言葉を無視してラボから出て行ってしまった。残された峰は、同じく残された亜矢に目を向ける。亜矢は未だに涙を流していた。
正直、泣いてる人と2人きりになるのはかなり気まずい。が、さりとて放っておく訳にはいかず、探る様に声を掛けた。
「あ~……まぁ、何ですか。門守君も別に双星さんの事を嫌いになった訳じゃないんですし、その~……」
仁に代わって亜矢を泣き止ませようとする峰だったが、良いセリフが思い浮かばず言葉に詰まる。かと言ってこんな事を、拓郎を始めとした野郎共に任せる訳にはいかない。あんなデリカシーの無い連中に任せる位なら、自分が面倒を見ると峰は自分を奮い立たせた。
「……分かってるわよ、仁君が私達を嫌いになったんじゃないって事くらい」
突然亜矢が顔を上げた。目からはまだ涙を流しているが、雰囲気が先程と違っている。
「を? あぁ、真矢さんの方ですか」
泣き崩れる亜矢に代わって、真矢が表に出てきた。尤も彼女も悲しんでいる事に変わりは無いのか、拭った傍から涙が流れ落ちているが。
「分かってる、仁君が私達に気を遣ってるって事は。私達が悲しいのは、仁君に気を遣わせてばかりで何もしてあげる事が出来てないって事よ」
今一番苦しんでいるのは、他ならぬ仁自身だ。強敵に対抗できる筈の力は暴走を伴う諸刃の剣。敵はそれを自由に扱うだけでなく、それとは別の強力な力までをも手にした。対抗するには力を使うしかなく、しかしその力を使えば使うだけ彼は自分を見失い望まぬ暴力を振るってしまう。
本当は仁も、もっと亜矢……そして真矢と触れ合いたい筈だ。それは先程亜矢を引き剥がした時の動きで分かった。本当は離れたくなくて、でも何時自分がおかしくなるか分からないから彼女と触れ合いたい気持ちを押し殺して彼女から離れたのだろう。
全ては亜矢を守る為に…………。
「情けないわよね…………肝心な時に、何も出来ないだなんて」
流石に涙は枯れたのか、もう泣いてはいないが表情は沈んだままだ。だが彼女達の本音と、悩み苦しむ姿に逆に峰の心が落ち着きを取り戻した。気合が入ったとも言えるだろう。
普段一番辛い戦闘を仁と亜矢・真矢に任せきりなのだ。こう言う所で自分が彼らを支えなければ、先輩としても示しがつかない。
「…………そうですね。確かに情けないです。それで? 嘆くだけ嘆いて何もしないんですか?」
「え――――?」
突然の峰の物言いに、真矢が呆けて顔を上げる。真矢が顔を上げると、峰が彼女の頬を両手で包んで顔を近付けた。
「そうじゃない……そうじゃないでしょう? 彼が一番辛いのを分かってるなら、こんな所で嘆いてる場合じゃない筈です」
「でも……私も亜矢も、どうすればいいか……」
「そんな簡単に崩れる程、門守君と双星さんは脆い関係なんですか? 一緒に戦ってきたのに、絆の1つも生まれなかったんですか? 双星さんの好きな、信じる門守君はそんなに簡単に壊れる程弱い男なんですか?」
「【ッ!!??】」
峰の言葉は亜矢と真矢に衝撃となって届いた。
脆い関係? 絆が無い? 否。仁とは恋仲になってまだ1年も経っていないが、それまでの大学に入ってから築き上げてきた友情の上に成り立つ愛情とそれによって出来た繋がりはそんなに弱くは無いと断言できる。
仁が弱い男? それこそ否。彼は亜矢と真矢が知る中で誰よりも強い男だ。ただ今は迷い、苦しんでいるだけ。
「それともそんな覚悟で門守君の隣に立とうと思ってたんですか?」
「ち……違う……」
「何です? 聞こえません」
「【違うッ!!】」
亜矢と真矢は同時に叫んだ。仁との関係は脆くない。仁との間には絆がある。仁は弱くない。仁の隣に立つ為の覚悟は出来ている。
亜矢と真矢はそう信じていた。
亜矢の……その内面に居る真矢の心に火が灯った。情熱の火だ。たとえ小さくとも、簡単には消えずとても熱い火が彼女の心に灯ったのを峰は感じ取った。
それを見て峰は満足そうに頷いた。
「なら……どうすればいいかは分かりますね?」
「はい……。ありがとうございます、先輩。お陰で目が覚めました」
「私に出来る事なんてこんな事くらいですから。頑張ってください。相手はなかなかの強敵ですよ?」
「承知の上です」
先程よりずっと覇気のある顔になった亜矢は、仁の後を追ってラボを出て行った。亜矢の後姿を見送り、峰は大きく体を伸ばした。
「ま~ったく、本当に世話の焼ける2人なんですから」
愚痴りつつも満足そうな峰。その彼女の頬に、良く冷えた缶ビールの缶が当てられた。
「うひゃおうっ!?」
何だと背後を振り返ると、そこには両手にそれぞれ缶ビールを一本ずつ持った拓郎の姿があった。
「お疲れ」
「瀬高君? いきなり何ですか?」
「何だ、折角労ってやろうって言うのに」
「……って言うか、結構いい時間なのにもう飲酒する気なんですか?」
「別にこの程度どうって事ないだろ。それとも要らないのか?」
「誰が要らないと言いましたか」
峰は拓郎から缶ビールを受け取ると、躊躇なくプルタブを引いて蓋を開けた。良く冷えているので、泡は殆ど噴き出さない。
彼女が蓋を開けたのを見て、拓郎も蓋を開け口を付ける。冷えたビールを飲みながらチラリと峰の事を見ると、彼女は満足そうにアルコールを含んだ息を吐いた。見た所彼女も肩から力が抜けたようだ。
その様子に拓郎は、改めて心の中で彼女を労い残りのビールを喉に流し込んだ。
それはビールを味わうというよりは、必要の無くなったビールを胃で処分する様な飲み方だった。
***
ラボを後にした亜矢は、仁の家を訪ねていた。彼が向かいそうなところなど、現状ここ以外に思いつかない。
インターホンを押すが、反応はない。念の為仁から渡された合鍵を使って部屋に入ってみたが、彼の自宅はもぬけの殻であった。どうやら帰宅してはいないらしい。
こうなると亜矢にはお手上げだった。仁の行きそうなところなど見当もつかない。そもそも彼は基本的に自宅か大学のどちらかにしかいないのだ。これが当ても無くあちこちを彷徨っているとなると、探しようがない。
それでも仁を探して日が沈むまであちこち奔走したが、その日は結局仁を見つける事は叶わなかった。
帰宅の際、念の為仁の家をもう一度訪れたが彼はやはり帰宅してはいなかった。
落胆しつつその日は諦め、翌日再び仁を探す事に時間を費やした。今の彼を1人にするのは良くない。
大学に行っていない事は峰に電話で訊ねて確認しているので、彼は昨日から何処かを彷徨っているらしい。
ショッピングモールなど、仁と一度は訪れた場所を片っ端から当たるが彼の姿は見当たらなかった。
「仁君……何処に行ったの?」
流石にここまで見当たらないと色々と不安になる。
その時、亜矢の携帯から着信音が鳴った。急いでディスプレイを見ると、どうやら峰からの着信であるらしい。
「はい、双星です」
『双星さん、門守君は見つかりましたか?』
「いえ、まだ……でもどうして?」
『ファッジが出ました。街で暴れているようです』
亜矢は唸り、真矢は舌打ちをした。この忙しい時に…………。
「分かりました。とりあえず私が行きます。仁君に連絡は?」
『一応こっちでも連絡を取ろうとはしましたが、出てはくれませんでした』
「じゃあこっちの方でもう一度連絡を取ってみます」
『すみません、お願いします』
峰との通話を切ると、亜矢は仁の携帯に電話を掛けた。
コール音を鳴らす事数回。一向に出る様子の無い彼に、寂しさを感じ諦めようかと考えたその時、仁が電話に出た。
『…………』
「仁君ですか? 今どこに?」
問い掛けるが仁からの返答はない。亜矢からの着信と言う事で、とりあえず出てはくれたと言った感じか。
それならそれでも構わない。今の仁に、無理に戦えとは亜矢には言えなかった。
だから亜矢は、必要な事だけを彼に伝えた。
「仁君。今、宮野先輩からの連絡で、街にファッジが出たみたいです。私はこれからそちらに向かいます。仁君は……無理に来てくれとは言いません。今、大変ですもんね。仁君は今は自分を大事にしてください。それじゃ……行ってきます」
言いたい事を言い終え、亜矢は通話を切った。通話の切れた携帯を、亜矢は複雑そうな表情で見つめていた。
「……これで、良かったんだよね?」
【うん……さ、行こう】
「うん!」
顔を上げ、亜矢は現場となっている場所へと向かって行く。
現場に到着すると、そこでは既にS.B.C.T.が戦闘を行っていた。彼らが戦っている相手は普通のファッジの様で、多少手古摺っている様だが苦戦しているようには見えない。
「変身!」
〈Open the door〉
亜矢は彼らを支援すべく、ルーナに変身してファッジに攻撃を仕掛ける。二丁拳銃がスコープ1号と戦っているファッジの表皮を穿つ。
「ッ! 双星さんか!」
「すみません、遅れました!」
「気にするな、来てくれただけありがたい」
「……あれ? そう言えば、菅野さん? は――?」
見た所この場に居るスコープは宗吾の変身する1号のみ。菅野が変身する2号の姿は見当たらない。
「菅野は、先日の戦いで負傷してな。まだ病院だ。それに2号自体修理が必要でな」
先日デイナが暴走した際、スコープ2号はケツァルスピノフォームに徹底的にボコボコにされた。その威力は変身している菅野本人にまで及び、スコープ2号自体も修理が必要なほど損傷していたようだ。
改めて恐竜ベクターカートリッジの持つ力を前に、ルーナは恐ろしさと頼もしさを同時に感じた。仁が何らかの方法で制御する術を身に付けてくれたら、これほど頼りになる存在は無いだろう。
「……っとと、いけないいけない。仁君に頼りきりじゃ……」
「そう言えば、今日は1人なのか? 門守君は?」
ルーナがスコープ2号の不在が気になる様に、スコープ1号もデイナの不在が気になったようだ。問い掛けられてルーナは一瞬言葉を詰まらせたが、気を取り直してファッジを見据えながら答えた。
「……仁君は、少し休ませてあげてください。今、色々と大変ですから……」
「そうか……そうだったな」
言葉を濁したルーナに、スコープ1号も事情を察しそれ以上深く問う事はしなかった。
何より今は、あのファッジを何とかしなければ。
「私が行きます。援護、お願いします!」
「分かった!」
ルーナがリプレッサーショットを撃ちながらファッジに接近し、スコープ1号を始めとしたS.B.C.T.がそれを援護する。ファッジの方も銃撃の中接近してくるルーナに気付き、その剛腕で反撃しようとした。
瞬間、ルーナの腕からアームブレードが伸びてファッジの腕を切り裂きながら華麗な身のこなしで回避した。
「アイ ハヴ コントロール!」
瞬時に人格を入れ替えた彼女は、接近戦主体の戦闘にシフトし両腕のアームブレードを使ってファッジの体を切り裂いた。
素早く動き回るルーナの動きをファッジは捉える事が出来ず、一方的に体を切り刻まれていた。先日の傘木社のライダーやホワイトカラーズ相手では碌な戦果を挙げられなかったが、流石にただのファッジ相手に苦戦するほど弱くはない。
寧ろ、ここ最近碌に活躍できていない憂さを晴らすかのようにファッジを追い詰めていった。
〈ATP Burst〉
「ハァッ!!」
動きの鈍ったファッジに、ルーナのノックアウトクラッシュが突き刺さる。蹴り飛ばされたファッジは落下地点で爆発し、後には変異が解けた人と強制排出されたベクターカートリッジが残されていた。
「ふぅ……」
とにもかくにも、これにて一件落着――――――と思っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
「……なっさけな…………」
「ん? あっ!?」
ゆらりと姿を現したのは希美だった。彼女は戦闘がルーナたちの勝利で終わったのを見て、大きく溜め息を吐かずにはいられなかった。
「ってか、今日はデイナはどうしたのよ?」
「……さぁね」
希美もまたデイナが不在な事に首を傾げたが、ルーナはそれに答えることをしない。今の仁にこの女の相手は危険すぎる。ここで何とか退けなければ。
気合を新たにするルーナの前で、希美はブレイドライバーを取り出した。
「…………ま、いいわ。いないならいないで、あんたに相手をしてもらうだけだから」
〈Base HORSESHOE〉
希美がブレイドライバーを装着したのを見て、ルーナとスコープ1号達に緊張が走る。
警戒する彼女らの前で、希美はベクターカートリッジを二つ取り出した。
〈CROCODILE〉
〈TURTLE〉
起動状態のベクターカートリッジを、デイナ同様ドライバー上部にある二つのソケットに装填した。
〈HORSESHOE × CROCODILE × TURTLE Mixing Genetic information〉
ここまではデイナとほぼ同様。そして最後に彼女は、ドライバー中央上部にあるスイッチを押した。
合言葉と共に。
「……変身」
〈Create〉
それは新たな生命の創造……希美がスイッチを押した瞬間、ドライバー中央の装甲が開き溢れ出た光が彼女を包み込み――――
〈Capture〉
その光から伸びた閃光が鎖の様に地面に突き刺さり彼女の動きを拘束し――――
〈Out of Control〉
しかしその程度で彼女を制御する事など叶わない。
光の鎖は徐々に罅割れ、砕け散ると同時に彼女を包んでいた光も弾けた。
〈Brake the chain〉
束縛から解き放たれた、作り上げられた実験動物が動き出す。
「仮面ライダーヘテロ……さぁ、私を満たしなさい」
「撃てぇっ!!」
悠然と歩み寄ってくる仮面ライダーヘテロに、スコープ1号の号令を合図に一斉に銃撃が行われる。ルーナもそれに加わり、ヘテロは四方八方からの銃撃の嵐の中に晒された。
並大抵の相手であればこれだけでただでは済まないだろう状況。ルーナがヘテロの立場に置かれたら、何も出来ず蜂の巣にされて終わりの筈だった。
しかしなんと、ヘテロはその銃撃の中を無人の野を往くが如く歩いたのだ。銃撃の嵐をそよ風の様にしか感じていないとでも言いたげな様子だ。
「ば、馬鹿な――!?」
「嘘――――!?」
「こんなんじゃ、全然足りないわね」
落胆の声と共に、ヘテロは背中に背負っていた片刃の長剣『テイルバスター』を抜いた。ハンドガード部分に内蔵されたグリップを掴み引き金に指を掛け、切先をS.B.C.T.隊員達の方に向けた。
まるでワニの尻尾の様なその長剣は、よく見ると先端上部に銃口の様な物が見える。
「ッ!? 伏せろッ!?」
危険を察知して指示を出しつつ身を屈めるスコープ1号だったが、判断が僅かに遅れた。彼が指示を出すと同時に引き金が引かれ、放たれた銃弾が地面に着弾し爆発。隊員達を次々と吹き飛ばした。
「ぐあぁぁぁっ!?」
「くそっ!?」
次から次へと放たれる銃弾に吹き飛ばされ、射貫かれる隊員達の姿にスコープ1号は激昂しボルテックスシールドで身を守りながら突撃する。これ以上部下をやらせる訳にはいかない。
炸裂弾を何とか防ぎながらも接近に成功したスコープ1号が、ボルテックスブレードを展開してヘテロに斬りかかる。その瞬間銃撃は止み、物陰に隠れてやり過ごしていたルーナも彼の援護をすべく飛び出した。
ヘテロに振り下ろされるスコープ1号の刃。それをヘテロは、銃身に当たる刃の部分で受け止めるとストックでもある柄を掴んで振り抜いた。
「ぐっ!?」
「……はぁ」
スコープ1号を振り払ったヘテロは、物足りないと言いたげな溜め息と共に構えを解いた。脱力すらしたその様子に、スコープ1号は舐められたものだと構わず刃を振り下ろす。
しかし彼の攻撃はヘテロの装甲を傷付ける事は無かった。
「何だとッ!?」
「…………もう終わり? なら次はこっちの番よ」
〈TURTLE Burst〉
ヘテロはテイルバスターを左手に持ち替えると、タートルベクターカートリッジを押し込みエネルギーの甲羅を生成する『シェルブレイカー』を発動。生成されたエネルギーの甲羅でスコープ1号を殴り飛ばした。
「ガハァァァァッ?!」
「権藤さんッ!?」
殴り飛ばされたスコープ1号は大きなダメージを負ったのか、変身こそ解除されなかったが動くこともままならない様子だった。
倒れた彼を心配しつつ、ルーナは果敢にも1人ヘテロに挑みかかった。
「この間私1人にデイナ共々やられたのに、大した根性ね。それとも馬鹿なの?」
「何とでも言ってください! それでも私は……私達は、退く訳にはいかないのよッ!?」
銃撃を交えつつ、アームブレードでヘテロを攻撃する。ルーナは人格を瞬時に入れ替え、相手に攻撃を読ませないようにして接近戦と銃撃戦を交互に仕掛けた。
だがどれほど相手に攻撃を読ませない努力をしようと、攻撃がそもそも相手に通用していないのであれば意味はなかった。
何度目になるか分からないアームブレードでの攻撃。いい加減それを受けるのにも飽きたのか、ヘテロはルーナの腕を掴んでその攻撃を受け止めた。
「なっ!? くっ、離してよッ!?」
「……もういいわ。あんたも期待外れだった」
言うなりヘテロはルーナを地面に叩き付け放り投げる。いきなり掴まれた腕を振り回され放り投げられたことで、彼女は腕を痛めてしまう。
「あぐっ!? ぐぅ……」
「私を満たすことが出来ないなら…………死んで」
〈CROCODILE Burst〉
ヘテロは今度はクロコダイルベクターカートリッジを押し込んだ。すると彼女の両足にエネルギーが集束していき、さながらワニの口の様になる。
「はっ!」
ヘテロはルーナに飛び掛かると、その状態の両足で何とか立ち上がったルーナを挟み込んだ。
「うぁっ!? あ、ぐぅッ!?」
強烈な力で挟まれたルーナが苦悶の声を上げるが、ヘテロの行動はそれだけで終わらずその状態でバク転しルーナを地面に叩き付けた。
「あ゛――――?!」
強烈な力で挟まれながら更に地面に叩き付けられるルーナだったが、悲鳴を上げる間もなく再び持ち上げられ地面に叩き付けられる。
何度も何度も……捕らえた獲物を弱らせる猛獣の様に、ルーナを地面に叩き付けた。抵抗する間もなく振り回されて叩き付けられるルーナは、まるで犬に振り回されるタオルの様だ。
「あぐっ?! がっ?! あ゛っ!? はぐっ?!」
そうして何度も地面に叩き付けられ、解放された時には彼女は見るも無残なほどにボロボロだった。
「あ…………う、ぁ――――」
全身ボロボロの状態で何とか立ち上がろうとするルーナ。もう変身解除されてもおかしくないレベルのダメージを受けている筈だ。最早気力だけで変身を維持している。
だがそれもすぐに限界が来て、崩れ落ち変身が解除された。
倒れた亜矢をヘテロが見下ろしていたが、直ぐの興味を失ったのか彼女から視線を外した。
「う……く……」
ヘテロが視線を外した瞬間、亜矢がボロボロの体に鞭打って立ち上がった。もう動けない程のダメージを与えた筈の彼女が動き出したことに、ヘテロは若干意外そうに再び彼女を見た。
立ち上がった亜矢は、それでもやはり全身ボロボロで傷や出血が見える。立っているだけでもやっとなのは誰の目にも明らかだ。
にも拘らず、亜矢は足を引き摺ってヘテロに近付くと相手の肩を掴んで拳を叩き付けた。
「……何のつもり?」
最早攻撃とも呼べないような一撃だ。拳を叩き付けると言っても、その動きは弱々しく頑張ってもペチンと言う音がするのが精一杯。その様子は無謀を通り越して滑稽ですらあった。
それでも亜矢は攻撃を止めようとはしなかった。
「私が……頑張るんだ……仁君が、元気になるまで――――!?」
最早自己暗示の域で自分に言い聞かせながらヘテロを殴る亜矢。余りにも痛々しいその姿に、しかしヘテロは何よりも煩わしさを感じ彼女を突き飛ばした。元より力の入らない足腰に鞭打って立っていた亜矢は、それだけで容易く仰向けに倒れた。
「うぁ…………うぅ……」
亜矢は再び立ち上がろうとしたが、彼女の意志に反して体は言う事を聞かず立ち上がることが出来ない。結局自分ではこれが限界なのだと思うと、情けなくて亜矢の目に涙が浮かんだ。
「う、うぅ――――!?」
悔し涙を流す亜矢に、今度こそ興味を失い踵を返すヘテロ。その歩みが突然止まった。
「あんた…………」
「――――?」
何かに驚いた様子のヘテロに、亜矢がどうしたのかとそちらを見た。
するとそこには、険しい顔でヘテロと倒れた亜矢を見る仁の姿があった。
と言う訳で第35話でした。
仁も女の涙には弱いです。特に最愛の女性の涙ともなれば。
今回は希美の変身する仮面ライダー「ヘテロ」の変身シーンをフルでお見せしました。イメージ的には、人工的に作られた実験動物が束縛を破って制御を離れる感じを意識しました。
そして前回と合わせて、必殺技を3つ使用しました。が、実はまだ残しています。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。