仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

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第36話:呼び覚まされる力

 ふらりとその場にやってきた仁は、険しい顔で傷付き倒れた亜矢を見ていた。

 

「じ、仁君――――?」

 

 体の痛みも忘れて、体を持ち上げやってきた仁の事を見て彼の名を呆然と呟く亜矢。痛々しい彼女の姿と、それを成したヘテロの姿を見て、仁は辛そうに俯くと頭をガリガリと掻き毟った。

 

「~~~~!? あ~~~…………くっ!?」

 

 何処か苛立った様子でデイナドライバーを取り出した仁は、それを躊躇う事なく腰に装着しBHエレキテルカートリッジを起動状態にして装填しデイナに変身した。

 

〈BUFFALO + HUMAN Light up〉

「変身ッ!」

〈Open the door〉

 

 仁はデイナに変身すると、エレキテル・ブーストを発動しヘテロに超高速で攻撃を繰り出す。目にも留まらぬ速さでヘテロの周りを動き回り、電撃を伴う攻撃を叩き込んでいく。

 攻撃されているヘテロは、為す術も無くサンドバックにされ右へ左へと跳ね回った。

 

 傍から見ていて、戦闘はデイナが優勢に進めているように見える。ヘテロはデイナの動きに対応しきれず、幾ら防御力が高くても電撃までは防げない。

 彼ならあの強敵にも対抗できるだろうと、亜矢はそう確信を持った。

 

 だがその確信は間もなく裏切られる事になる。

 

 充電が終わり、動きが通常速度に戻るデイナ。

 攻撃を終え、息を整えヘテロを見る。するとそこには、先程と特に変わらぬ様子で佇んでいるヘテロの姿があった。

 首をコキコキと鳴らし、体を解して特にダメージを負った様子を見せない彼女の様子には、デイナも堪らず目を見開いた。

 

「ッ!? 効いてない?」

「ん? 何? もうお終い? 準備運動に付き合ってやったつもりだったけど、まさかあれで全力だった?」

 

 失望したと言いたげな物言いに、デイナが奥歯を噛み締める。今のが準備運動だなんてとんでもない。先程までの攻撃はデイナが“恐竜ベクターカートリッジに頼らないで”出来る最大の攻撃だったのだ。

 だがそれがヘテロ相手には全く通用していない。その事実にデイナは相手の強さを改めて実感した。

 

 デイナは思わず苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「じゃ……次は私の番」

「ッ!」

 

 来る、そう思い身構えるデイナは次の瞬間、目前に迫ったヘテロの強力な一撃に防御ごと殴り飛ばされた。

 

「ぐぅっ?!」

「ほらほら」

 

 一方的、そうとしか言い様の無い戦いだった。

 ヘテロの拳や脚が振るわれる度、デイナは防御の上から大きなダメージを受け後ろに下がらされる。防御が殆ど意味を成していないのだ。両者の間にはそれだけの能力の開きがある。

 

「ふんっ!」

「ぐふっ!?」

 

 ヘテロのパンチが腹に直撃し、痛みと吐き気にデイナが前のめりに倒れそうになる。だが彼が倒れる事をヘテロは許さなかった。デイナの角を掴んで無理矢理立たせ、持ち上げたデイナの顔に自身の顔を近付けた。

 

「何やってんのよ……早く本気出しなさいよ」

「な……にを……」

「恐竜ベクターカートリッジ……あるんでしょ? この間私を思いっきりズタズタにしてくれたアレ。もう一度使いなさいよ」

「あ、あれは――――!?」

 

 ここで漸くデイナは、あの時自宅に突撃してきたデイノニクスファッジは希美であったという事を知った。

 そうなのであれば、余計に恐竜ベクターカートリッジを使う訳にはいかない。あれの制御法はまだ確立していないのだ。今使えば再び暴走してしまう。そうなったら、希美だけでなく近くに居る亜矢達すら殺めてしまう危険があった。

 

「あれは……まだ……」

 

 だからデイナは躊躇した。今最も危ないのは自分であるというのに、周りを傷付けてしまうかもしれないという理由で力に手を出す事を躊躇っていたのだ。

 

 その様子を見て、ヘテロは大きく溜め息を吐き掴んでいる角から手を離した。突然解放され、デイナはその場に崩れ落ちた。

 

「……意気地なし。もういいわ」

 

 ヘテロは踵を返しデイナから離れて行く。彼女が向かった先には……未だ倒れている亜矢の姿があった。

 

 デイナは顔から血の気が引いた。

 

「ま、待て――! そっちは…………」

「あんたが悪いのよ。弱いあんたがね」

「亜矢さん、逃げて――!?」

 

 デイナの警告に亜矢も立ち上がり逃げようとするが、体に力が入らないのか立つ事すら儘ならない様子。彼女が逃げる時間を稼ごうと、デイナが悲鳴を上げる体に鞭打って立ち上がりヘテロに後ろから抱き着き歩みを止めようとするが、直ぐに振り払われ逆に叩きのめされる。

 

 このままでは亜矢がヘテロに殺されてしまう。この事態に、デイナは遂に禁断の力に再び手を出した。

 

「くっ!――――!!」

〈QUETZALCOATLUS〉

〈SPINOSAURUS〉

 

 躊躇いながらも、ドライバーに二つのベクターカートリッジを装填した。

 

〈QUETZALCOATLUS + SPINOSAURUS Reborn〉

「ゲノム……チェンジ!」

〈Open the door〉

 

 覚悟を決め、デイナは現時点で最強の力であるケツァルスピノフォームへと姿を変えた。

 フォームチェンジした瞬間、彼は意識に霞が掛かるのを感じた。このままでは再び暴走してしまう。

 

 そうなる前に勝負を掛けようと、デイナはまだ意識が残っている内にヘテロに自分の意志で攻撃を仕掛けた。

 

「あぁぁぁッ!」

「ん?」

 

 背後から殴り掛かってきたケツァルスピノフォームのデイナにヘテロが振り返る。彼女が振り返ると同時に、デイナの強力なパンチが彼女の顔面を殴り飛ばす。

 

「ッ!」

「ふん! はぁ! あぁぁ!」

 

 一瞬でも気を抜けば意識が途切れてしまいそうになる、まるで酩酊したような状態で戦うデイナ。普段以上に声を上げているのは、そうやって気合を入れていかないと直ぐに意識を手放してしまいそうだからだ。

 

 強化されたデイナの攻撃を、ヘテロは一方的に受けているだけで反撃しない。一見するとデイナの激しい攻撃に今度は彼女の方が手も足も出ていないように見える。

 

 だがそれは間違いだ。ヘテロはデイナの攻撃を敢えて受けているのだ。彼の能力を測る為に――――

 

「……はぁ」

 

 ヘテロの口から溜め息一つ。それはもう十分デイナの能力を計り切ったと彼女が判断した合図。これで彼女は確信した。今のデイナは全てにおいてヘテロを下回っている。

 

 徐にヘテロが手を上げると、デイナの拳を片手で受け止めてしまった。

 

「ッ!?」

「そんなッ!?」

 

 受け止められて動揺したのはデイナだけでなく、彼らの戦いを見ていた亜矢もだった。今の今まで一方的だったと思っていたのに、突然ヘテロがデイナの拳を片手で受け止め、それだけに留まらず逆に押し返し始めたのだ。

 

「ちょっとは期待したんだけど……もういいわ」

 

 次の瞬間ヘテロの拳がデイナの鼻っ柱に炸裂する。いきなり顔面を殴られ後退るデイナに、ヘテロのさらなる追撃が襲い掛かる。下から突き上げるような腹へのパンチに、腰を砕くのではと言う程の回し蹴り。吹き飛びそうになったデイナを掴むと、振り回して地面に叩き付け、衝撃で浮いたデイナを肘鉄で再び地面に叩き付けた。

 

 あまりにも一方的。しかも先程デイナがヘテロを一方的に攻撃していた時と違い、デイナには余裕がない。一撃を食らうごとに意識が飛びそうになり、だがその痛みが逆に彼の意識をはっきりとさせ皮肉にも暴走を防いでくれていた。

 

 これこそはと期待を込めたケツァルスピノフォームが全く歯が立たない状況に、亜矢は言う事を利かぬ体で必死に立ち上がりデイナに近付こうとした。このままでは彼が死んでしまう。

 

「ま、待って……それ、以上は――!?」

 

 亜矢の声も空しく、ヘテロにより散々叩きのめされたデイナはボロ雑巾の様になってしまった。その状態でも辛うじて立ち続けているのは、仁の意志の力かそれともベクターカートリッジに内包された恐竜の遺伝子が為せる業か。

 

「じゃ……そろそろ死のっか?」

〈HORSESHOE × TURTLE × CROCODILE Mixing Burst〉

 

 中央のスイッチ、タートルベクターカートリッジ、そしてクロコダイルベクターカートリッジを順番に押し、ヘテロが構えを取る。

 ボロボロのデイナはそれを見て大技が来ることを察し、しかしダメージにより言う事を聞かない体では回避は難しいと判断し防御の構えを取った。正直、焼け石に水な気がしなくもないが何もしないよりはマシだ。

 

「はぁぁぁぁぁッ!!」

 

 放たれたヘテロの最大の必殺技、その名も『インクリュード・シュート』。両足に多量に産生したATPからなるエネルギーを集束させ、相手に何度も蹴りを叩き込む必殺技だ。連続で放たれる蹴りが、怪物が獲物を徹底的に喰らう様に何度もデイナに食らい付く。

 

「ぐぅっ!? う、ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 強烈な蹴りを何度も喰らい、デイナは叫び声を上げながら蹴り飛ばされ壁に叩き付けられた。そこでガスか何かが漏れていたのか、デイナが叩き付けられた瞬間何かに引火し爆発。デイナは炎に包まれ、衝撃で今度は地面に叩き付けられるとそこで漸く変身が解除された。

 

「う……うぐ、が…………」

 

 意識も殆どないのか、仁は呻き声を上げるだけで立ち上がろうとはしない。ヘテロはそんな彼に、テイルバスターを手に近付いていく。トドメを刺そうと言うのだろう。切先を地面に引き摺り地面に傷をつけながら近付き、肩に担ぐと峰の部分で肩を叩いた。

 

 そして遂にヘテロが仁の目の前に立つ。数回テイルバスターの峰で肩を叩くと、逆手に持ち仁の背中に突き立てようとする。

 

 そこに亜矢が乱入した。彼女は今にも仁に刃を突き立てようとするヘテロに抱き着き、止めさせようとした。

 

「止めて、ください!? 仁君は、仁君は――!?」

 

 必死に止めようとするが、彼女自身満身創痍。ヘテロが軽く腕を振っただけで振り払われてしまった。

 しかしそれで諦める彼女ではなく、振り払われて倒れたまま地面を這うと仁の上に覆いかぶさりヘテロを見上げて懇願した。

 

「お願いします、仁君を殺すのだけは止めてください! その代わり、私はどうなっても良いですから!」

「亜矢、さん……だめ……」

 

 辛うじて意識を取り戻した仁が、亜矢の身を挺した行動を止めさせようとするが彼女は聞く耳を持たない。

 それはヘテロも同様だった。彼女にとって亜矢が仁と一緒に死のうがどうしようが関係ない事なのだ。

 

「くっだらない…………一緒に死にたいってんなら纏めて面倒見てあげるわよ」

 

 ヘテロは2人纏めて串刺しにしようと言うのか、テイルバスターを逆手に持った手を高く掲げた。あれで一思いに突き刺すつもりなのだろう。

 亜矢は光を反射する刃を見て、目を固く瞑り仁にしがみ付いた。せめて最期の瞬間は絶対に離れないようにしようと――――

 

 だが結果的に言えば仁と亜矢は死ぬことはなかった。漸く復帰したスコープ1号が銃撃しながらヘテロにタックルし、彼女を無理やりその場から退かしたのだ。

 

「俺を忘れるなぁぁぁッ!!」

「ッ!? チッ……」

 

 横合いからいきなりタックルされ、バランスを崩し数歩2人から離れるヘテロ。あと一歩と言うところで仁にトドメを刺しそびれた事に彼女は思わず舌打ちをした。

 

「死に損ないが……」

 

 忌々し気に呟くヘテロに対し、スコープ1号は倒れた2人の傍に近寄り助け起こす。

 

「ここは一旦逃げるが勝ちだ」

〈FLASH BULLET set up〉

「撤退だ!」

 

 周囲に指示を出しながら彼がヘテロの足元に銃口を向け引き金を引くと、放たれた閃光弾が凄まじい光を放ち彼女の視界を一時的に奪う。

 ヘテロが目を眩ませている間に、スコープ1号は隊員と協力し仁と亜矢を連れてその場を離れて行く。

 

「くっ…………んん?」

 

 漸く視界が戻った時、ヘテロが周囲を見渡すとそこには仁と亜矢は勿論、S.B.C.T.の隊員すら1人も居なかった。物の見事に逃げられてしまった。

 

「…………はぁ~~~~……」

 

 街中に1人取り残されたヘテロは、大きく溜め息を吐くとベクターカートリッジを抜き変身を解除した。元の姿に戻った希美は、暫し胡乱な目で周囲を見渡した。

 その時唐突に彼女の腹から空腹を報せる音が鳴る。

 

「……帰ろ」

 

 踵を返してその場を後にする希美。その顔は微塵も満たされていなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 S.B.C.T.の手によりヘテロから逃げる事に成功した仁と亜矢の2人は、警察病院へと搬送されていた。他の負傷した隊員達も一緒だ。

 

 その病院のロビーでは、宗吾が顔に絆創膏を貼って椅子に座り誰かを待っていた。

 

 程なくして彼の待ち人は現れた。白上教授だ。宗吾の連絡を受けて、彼もすっ飛んできたのだ。

 

「どうも」

「遅れてすみません。それで、2人の容態は?」

「怪我自体は大した事ない。ウチの連中の方が重傷な位だ。ただ体力の消耗が激しかったのか、未だベッドの上で寝ている」

 

 病室に向かう道すがら、2人は簡単に情報を交換し合う。直近で白上教授が知りたかったのは仁と亜矢の容態だが、2人は打撲や擦り傷などが多数あるが骨を折ったりなどの怪我は負っていない。ライダーシステムが2人の身体を最低限守ってくれたようだ。

 その事に白上教授は一先ず安堵した。

 

 話している間に2人が寝かされている病室に到着した。間を置いて並べられたベッドの上には、仁と亜矢がそれぞれ寝かされ目を瞑っている。

 

「う……」

 

 と、そこで亜矢が先に目を覚ました。ヘテロの『バイトクラッシュ』を喰らった彼女だが、重症は何とか避けられたが故にこうして目を覚ます事が出来た。

 

「双星君! 大丈夫かね?」

「きょ、教授? ここは……病院…………ッ!? そうだ、仁君は!?」

 

 目覚めて直ぐの間はぼうっとしていた亜矢だが、状況を理解すると即座に飛び起きた。明らかに喰らうとやばい攻撃を仁が諸に受けてしまったのだ。どう言う状況なのか知りたくて仕方がない。

 

【亜矢落ち着いて。隣に居るみたいよ】

 

 慌てる亜矢に対し、真矢は視界の端に一瞬映った仁の姿を報せた。

 

「仁君。…………良かった、傷は大した事なさそうね。本当に……良かった」

 

 亜矢と真矢は仁が穏やかな寝息を立てている様子に、安堵の溜め息を吐く。

 彼女が落ち着いたのを見て、白上教授は改めて彼女にヘテロの事を訊ねた。現れた強敵、今はとにかく情報が欲しい。

 

「双星君、早速で悪いんだが……君達が戦った傘木社の仮面ライダーについて教えてくれ」

「えぇ……と言っても、私達は仁君ほど頭が良い訳じゃ無いからあんまり良い情報を期待しないでほしいんだけど……」

 

 真矢がそう前置き、亜矢が答えた。仁の頭の回転速度に比べれば、彼女達の思考は鈍いと言わざるを得ない。しかしそんな彼女にも確実に断言できる情報があった。

 

「あの仮面ライダー、多分ですけどベクターカートリッジを三本使ってます」

「三本?」

「はい。あの仮面ライダー、必殺技を4つ使いましたけど最後に仁君に使った奴を除いてどれも押す部分が違いました。ね、真矢?…………そう。最初の技だけ和訳が分からなかったけれど、カメとワニともう一つ何かの遺伝子を使ってるのは確実ね」

 

「――――カブトガニだよ」

 

 突然仁が口を開いた。全員が一斉に彼を見ると、仁がゆっくりと目を開けた。

 

「仁君!」

「大丈夫なのか?」

「ん……まぁね」

 

 亜矢達に心配されながら仁はゆっくり体を起き上がらせる。亜矢がそれを手助けし、背中に手を回して彼を気遣った。

 起き上がった仁に、白上教授は詳しい話を聞いた。

 

「カブトガニ?」

「聞こえた音声の1つがHORSESHOE(ホースシュー)だった。これは多分horseshoe crab……カブトガニを意味してるんだと思う」

「なるほど……だが何でカブトガニなんだ? 連中は恐竜ベクターカートリッジを手に入れたって言うのに、今更カブトガニなんて……」

 

 宗吾の疑問は亜矢も抱いていた。聞こえた限りではヘテロに使われた遺伝子はカブトガニ・カメ・ワニの3つだが、どれも現代の生物だ。そもそも3つ目のベクターカートリッジは何処にあったのかなど、分からない事は多いが遺伝子のチョイスが最大の謎だった。

 

 その謎の答えに、仁も白上教授も気付いていた。

 

「いや……その3つも立派な古生物のDNAだ」

「え?」

「どれも現代の生き物だろ?」

「いや。カブトガニ・カメ・ワニ……この3つはどれも恐竜が生きてた時代から存在し続けてる。生きた化石と言っても過言じゃない」

 

 正確には、生きた化石と言われるのはカブトガニだけではある。だがワニとカメも、サイズこそ違えどK-Pg境界――恐竜が絶滅した中生代と新生代の境目を示す地質学用語――以前からその化石が発見されている。例えば太古の巨大ウミガメ・アーケロンなどは、大きさが違うだけで姿形は現代のウミガメと全く変わっていない。

 

「現代まで姿を維持し続けてる生物……進化に頼らず生存し続けた遺伝子だ。傘木社はそこに目を付けて、古生物の遺伝子を使ってこの3つの生物の遺伝子の秘められた強さを引き出したんだよ。そりゃ強くて当たり前だ。だってこの3つは、絶滅に負けない遺伝子なんだから」

 

 仁の考察に白上教授も頷いた。

 

 亜矢と宗吾は思わず息を呑んだ。現代の生物に古生物の強さを蘇らせ、更にそれを2つどころか3つも使っているのだから。そんな奴にどうやって勝てばいいというのか。

 

 そこまで話したところで、仁がベッドから出た。靴を履き、まだ少しふら付く体で病室から出ようとするのを亜矢が慌てて引き留める。

 

「ちょ、仁君!? まだ動くのは無茶です、今はゆっくり休まないと!」

「いいんだ……俺は、いいから……」

「何がいいんですか!?」

「門守君、今は休め!」

「門守君!」

 

 亜矢に続き白上教授と宗吾が彼を引き留めようとして、彼はそれを振り払い病室から出ようとする。

 そうすると騒ぎを聞きつけ、医師や看護師も彼を引き留めようと押さえつけに掛かった。

 

「止めろ、ダメだ――!? は、離れろ――!?」

 

 それに対し仁は必死に抵抗する。それが彼らを煩わしく思っているのではなく、心の底から心配して警告しているのだという事に亜矢は気付いた。

 

 咄嗟に仁から亜矢が離れると、それを合図にしたかのように仁の目が豹変した。目の奥に狂暴な光が灯るのを彼女は見逃さない。

 

「ッ!? ダメ、仁君――!!」

 

 仁を止めねばと彼に駆け寄ろうとする亜矢だったが、それより早くに仁が自分を取り押さえようとする医師に襲い掛かった。

 

「あぁぁぁぁぁっ!!」

 

 不運にも仁のすぐ目の前に居た医師が最初の標的となった。仁は獣の様な声を上げ医師に襲い掛かると、馬乗りになって医師を殴り始めた。

 

「ちょ、ま!? が!? や、止めッ?!」

「門守君、止めろ!?」

「何してるんだ!?」

 

 仁の暴挙に、白上教授と宗吾他周りの者達が必死に止めようとする。だが彼は止まらない。例え腕を誰かに掴まれていようとも構わず目の前の医師への攻撃を止める事は無かった。

 

 あっという間に医師の顔が血だらけの無残な見た目になっていく。

 

 そして遂に医師が意識を手放し抵抗が無くなったのを見ると、彼は次の標的に宗吾を選んだ。

 

「がぁぁぁぁっ!?」

「くそっ!」

 

 宗吾は自分に矛先が向いたのを見て、咄嗟に仁の両手を掴んで押え付けた。ここは流石に警察官と言ったところだろう。他人を鎮圧する術はお手の物だ。宗吾の行動により仁は動きを止められる。

 

 そこで亜矢が動いた。彼女は相互により両手を抑えられて、身動きを封じられた仁の背後から抱き着いた。

 

「止めてください、仁君!」

「ッ! ぐ、あ……」

 

 背後から亜矢に抱きしめられ、涙ながらに引き留められた瞬間仁の動きが鈍った。相互に襲い掛かろうとしていた腕の力が緩む。

 

「今だ!」

 

 仁の力が緩んだ瞬間、宗吾は彼の両手から手を離すと無防備な腹に一発、重い拳を叩き込んだ。決して大きなダメージにはならない程度に、しかし相手から抵抗する力を奪う絶妙な力加減で拳が放たれる。

 

「ぐふっ!? あ――――」

 

 腹に叩き込まれた一撃に、仁の足から力が抜ける。腹を抑えてその場に蹲る仁を、亜矢が心配して背中を擦りながら彼の顔を覗き込む。

 

「仁君、仁君? 大丈夫ですか?」

「待つんだ双星さん、今はまだ危ない!」

「ッ、ちょっと放してよ!?」

 

 まだ仁が暴走しないとも限らないので、仁に近付く亜矢を宗吾と白上教授が慌てて引き剥がす。自分の身よりも仁の方が気になる真矢は、そんな2人に抵抗して仁に近付こうとする。

 

「う、ぐ……はぁ、はぁ…………あ――」

 

 真矢が抵抗している間に、仁が意識を取り戻した。暴れる真矢を見る仁の目には、先程あった狂暴な光は無い。

 それに気付いた真矢は安堵に頬を綻ばせるが、当の仁はそれどころではない様子だった。彼は倒れた医師の様子と自分の手に付着した血、そして何より周囲から向けられる視線に自分が何をしたのかに気付いてしまった。

 

「う、ぁ…………あ、あぁ――!?」

 

 混乱と恐怖に顔を歪め、完全に言う事を聞かない脚を動かしてその場を逃げるように去る仁。彼の様子を離れて見ていた看護師らが近付く仁から悲鳴を上げて距離を取る様を見て、亜矢が彼の後を追う。

 

「待って! 仁君待ってください!?」

 

 背後からの亜矢の声を無視して、仁は病院から逃げ出した。亜矢が必死に後から追いかけるが、彼女自身も万全ではないので距離が徐々に離されていく。

 

 そうして彼女が仁の後を追って病院から出た時、そこに彼の姿は影も形も無かった。

 

「はぁ、はぁ……仁、君…………」

 

 届かなかった手、追いつけなかった背中に、亜矢はその場で佇み1人項垂れるのだった。




と言う訳で第36話でした。

恐竜フォームのデイナVSヘテロの第1戦目はヘテロに軍配が上がりました。完全に制御できていない状態で勝てる程甘い相手ではありません。
あと一発で分かるでしょうが、ヘテロがデイナに放ったインクリュード・シュートは仮面ライダー王蛇のベノクラッシュが元ネタです。

ヘテロに使われている遺伝子のチョイスは、作中で述べているように生きた化石的な存在から取ってきました。ドストレートに生きた化石なカブトガニに、大きさが違うだけで恐竜時代から姿がほとんど変わらないカメとワニ。因みにアーケロンの化石は、東京上野の国立科学博物館で見る事が出来ますがマジでデカいです。

さて、ここまで敗北続きで暗い雰囲気でしたが、次回は遂に逆転となります。
ここまでの鬱憤を晴らすような展開になる予定ですので、どうかお楽しみに!

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

それでは。
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