仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、初めましての人は初めまして。黒井 福と申します。

この度数多くの作家さん方に影響されて、新作の投稿を行う事にしました。完全新規のオリジナル仮面ライダー小説です。

昭和・平成・令和全てのライダー要素の無い作品ですので、そう言うのが苦手な方はブラウザバックを推奨します。


第1話:扉、開かれる時

都内某所・総合アミューズメント施設

 

 夜も更けた頃、都内にある総合アミューズメント施設に複数の車両が接近していた。黒塗りのSUVだ。

 数台のSUVは半分はアミューズメント施設の正面に、もう半分が地下に続くスロープに入っていく。

 

 停車したSUVからは次々と防弾ベストにシェード付きのヘルメットを身に付けた男達が出てくる。素早くSUVから降りてきた者達は直ぐに車体後部に向かうとトランクを開けた。そこにはアサルトライフルを始めとした銃火器が収納されている。

 一見彼らは自衛隊の様に見えるが、腕章を見ると描かれているのは警察の紋章だった。彼らは警察の組織なのだ。

 

 彼らは警察が秘密裏に組織した特殊部隊『特殊生物災害対策部隊』、通称S.B.C.T.である。彼らはある目的の為に組織され、自衛隊にも匹敵する装備が許可された警察内でも特異な組織であった。

 

 SUVから降り、装備を手にした隊員達は整列し正面入り口前に整列する。その隊員たちの前に、隊長らしき1人の男が立ちヘルメットに内蔵されたシェードを下ろした。

 それを合図に隊員たちは隊列を組んで施設内に突入した。

 

 正面入り口と地下搬入口から施設に突入したS.B.C.T.の隊員は、周囲を警戒しながら内部を進む。施設内の照明は落とされている為暗く、光源は隊員達が装備しているフラッシュライトのみ。施設の大きさに反して、その光源は頼りないと言う他なかった。

 

「こちらAチーム。一階にファッジの姿は確認できない。これより二階に上がる」

『こちらBチーム、了解』

 

 正面入り口から突入した部隊は、階段やエスカレーターで二階に上がっていく。

 

 その様子を、暗がりの中からジッと見つめる者が居た。

 

 一方、地下搬入口から突入したBチームも同様に暗い施設内をフラッシュライトで照らしながら移動していた。油断なく周囲を照らしながら四方八方に銃口を向け何かを探している。

 

…………と、最後尾を歩く隊員の背後の景色が揺らいだ。揺らぎは段々と形になり、次の瞬間そこには人間とは明らかに異なる異形が姿を現していた。まるで蛙が人型になったような怪物だ。

 その怪物は背後から最後尾を歩く隊員を掴むと、舌を使って配管だらけの天井に自分の体を隊員ごと持ち上げた。隊員は声を上げようとしたが、喉を絞められ声を出す間もなく天井の暗がりの中に引き摺り込まれていった。

 

 先を行く隊員達は1人としてその事に気付かなかったが、施設の外で隊員達の様子を見ていたオペレーターは異変に気付いた。

 

『Bリーダー! 緊急事態です! 最後尾に居たB9が、あぁ!?』

「どうした!?」

『B9のバイタル停止!?』

 

 オペレーターの悲鳴の様な声が通信機越しに響いた直後、隊列の後ろに最後尾を歩いていた隊員のライフルが落ちてきた。その派手な音に隊員達は一斉に背後を振り返り、そして敵襲を察知する。

 

「何だ!?」

「敵だ、敵襲!?」

「石上は何処だ!?」

「落ち着け! 総員警戒態勢、敵は上に居るぞ!」

 

 配管が蜘蛛の巣の様に入り組んだ天井を無数のライトの光が切り裂くように走る。しかし光の先には怪物の姿は勿論、引き摺り込まれた隊員の姿すら見当たらない。

 

 暫し天井を警戒するS.B.C.T.の隊員達だったが、次の攻撃は予想外の方向から行われた。

 

 今度の攻撃は隊員達の後方、つまり先程まで隊員達が進んでいた方向から行われた。

 

「ごぼっ!?」

 

 先程まで先頭を歩いていたBリーダーが背後から鋭い爪のついた手で胸を突き刺され一撃で命を刈り取られる。今度は別方向からの攻撃に、だが隊員達はそちらに素早く銃口を向けた。同時にBリーダーを屠った怪物は腕を振って亡骸を床に叩き付けて捨てる。

 

「撃てッ!?」

 

 一斉に銃口から吐き出された銃弾が怪物に殺到する。しかし怪物の強固な甲殻はアサルトライフルの銃弾を全て弾いてしまった。

 

「……フン」

 

 怪物は非力な攻撃しかしてこないS.B.C.T.を鼻で笑うと、両手の爪で次々と切り裂いていく。首や胴体を切断され、隊員達が次々と命を落としていく。

 

 あっという間にBチームの隊員を全滅させた怪物。その隣に、先程と同じように景色が揺らぎ蛙の怪物が姿を現す。

 

「あっけないな」

「ただの人間など所詮こんなものよ」

「上の連中は?」

「そっちはアデニンとグアニンが向かったわ。今頃派手にやってるでしょう」

 

 

 

 

 蜘蛛の怪物の言った通り、地上施設でも既に戦闘は行われていた。

 

「顔だ! 顔を狙って撃て! 攻撃を集中させろ!」

 

 一方的に皆殺しにあった地下のBチームに比べてこのAチームは怪物相手に善戦している様に見えた。隊長の指示の下、全員が的確に目の前の怪物――烏賊がそのまま人の様になった烏賊人間と形容すべき姿――の顔に攻撃を集中させていた。

 これには怪物も流石に怯むのか、顔を腕で守って思うように前に出れずにいる。

 

 このまま行けるかと隊員たちの中に事態を楽観する者が出始めた。

 

 その時、烏賊の怪物の背後から針の様な物が飛んできて隊員の1人の心臓を一撃で貫いた。

 

「ギャッ!?」

「何ッ!?」

 

 何事かと隊長が烏賊の怪物の背後に目をやると、そこには全身棘だらけの新たな怪物が出現していた。その怪物は体から先程と同じ針を抜き取ると、それを別の隊員に向けて投擲した。

 

「ぐふっ?!」

 

 投擲された針は寸分違わず隊員の心臓を貫き命を奪う。その光景に隊長は唇を噛み締めた。

 

 と、通信機から地下のBチームが全滅したことを知らせる報告が届いた。それと同時に、Aチームへの撤退命令も。

 

『権藤隊長、撤退してください! これ以上の戦闘は無理です! 地下のファッジ達も直ぐに上がってきます! このままでは全滅を待つだけです!?』

「くっそ…………撤退! 総員撤退だ!!」

 

 隊長が血を吐くような顔でそう指示を出すと、生き残りの隊員たちは怪物達を牽制しながら後退を始めた。その間にも針の投擲と、先程とは打って変わって攻勢に回った烏賊の怪物の放つ鋭い触手による一撃で更に数名の隊員が犠牲となった。

 

 這う這うの体で施設から出た隊長を含めたS.B.C.T.の隊員達。その数は最初に比べると見るも無残な程に数を減らしており、片手で足りる程度の人数しか残っていなかった。

 

 負傷して動けない隊員を押し込み、最後に隊長が運転席に乗り込みエンジンを入れる。そしていざ発車しようとした瞬間、チラリと施設の入り口を見ると、そこには彼らをここまで追い詰めた怪物が4体並んで彼らの事を見ていた。

 追撃する様子はない。それは即ち、何時でも潰せるから今は見逃してやると言外に語っていた。

 

 それが分かってしまった隊長の権藤(ごんどう) 宗吾(そうご)は、悔しさに血が滲むほど唇を噛み締めSUVを発進させる。

 

 怪物たちはそれを黙って見送るのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

明星大学・図書室

 

 夜の間に死闘が起こっていたなど知る由もない学生達で溢れる、都内有数の科学分野に力を入れている明星大学の図書室。

 

 もうすぐ昼になるというその図書室に、机に突っ伏して寝ている男の学生が居た。短めのボサボサの髪が本の山に埋もれている。時々頭をかく為に腕を動かすが、その度に積まれた本の山が崩れ足元に落ちていた。

 

 そんな彼に、1人の女性が近付いた。栗色の髪を肩の下まで伸ばした、物腰の柔らかな女性である。見た所彼女も学生らしい。図書室の中だという事でか、ただでさえ材質の関係で立ち辛い足音を更に殺して布ずれの音以外立てずに寝ている男性に近付いていく。

 

 女性は男性に近付くと、彼の肩をそっと揺する。優しく揺すられて男性は身動ぎするが、しかし起きる気配はない。ならばと肩を叩くが、男性は小さく唸るだけだ。そろそろ本気で起こそうと言うのか、本の山を崩さない程度に強く揺するが、やっぱり起きる事は無かった。

 

「…………はぁ」

 

 全く起きる気配を見せない男性に、女性は遂に最後の手段に出た。男性の周りに積み上げられている本の山の中から、一番重量のありそうなハードカバーの専門書らしきものを手に取りそれを振り上げると男性の頭に叩き付けた。

 

「ふん!」

「んぐご!?」

 

 これには流石に睡魔も吹き飛んだのか、男性は本の山を崩しながらゆっくりと起き上がった。

 

「いつつ……ん~? 誰?」

「目が覚めましたか、門守君?」

「ん~? あぁ、双星さん? 何の用?」

 

 男性――門守(かどもり) (じん)は、寝ぼけ眼を擦りながら女性――双星(ふたほし) 亜矢(あや)を見上げる。最初彼は女性が亜矢である事に気付いていなかったが、少しして完全に目が覚めたのか亜矢の姿をしっかりと見た。

 対する亜矢は、彼がしっかりと起きたのを確認して床に落ちている本を回収しながら答えた。

 

「何の用って、今日の午後が共同レポートの提出期限だって言うの忘れてませんか? 後は門守君の分だけなんですよ?」

 

 話しながら床に落ちた本を拾い終え、近くの机の上にとりあえず置く。本と机が接触した際にトンと音が立つ。

 

 亜矢が本を机に置くと、それを狙っていたのか本の山からレポートの束を引っこ抜いて亜矢に突き出す。それは彼の担当する共同レポートだった。

 

「あら?」

「こんなのとっくの昔に終わってるよ」

「じゃあこの本の山は?」

「暇つぶし」

「……午前の講義はどうしたんですか?」

「出席日数足りてるし、内容は楽勝だからサボった」

 

 仁の答えに亜矢は思わず溜め息を吐いた。成績は同年代の中でぶっちぎりでトップで、噂ではマサチューセッツ工科大学への留学の話も上がっている程の彼だ。しかも午前の授業は彼が得意とする分野の応用化学に分子生物学。仁なら確かに出席日数さえ稼げていれば、講義に出なくても問題ないのだろう。

 

 しかし――――――

 

「だとしても、こんな所で寝たりしたら風邪ひきますよ。それにその目の下の隈、昨日また徹夜してたんですね? 幾ら鍛えているとは言っても、無理が過ぎれば体を壊しますよ?」

 

 突然始まった亜矢の説教を、仁は欠伸を噛み殺しながら聞き流した。実は彼がこうして亜矢に説教されるのはこれが初めてではない。

 

 亜矢はこと健康管理には特にうるさい。お節介焼きと言ってしまえばそれまでだが、不摂生が過ぎる者を放ってはおけないのだ。だから時に邪険にされると分かっていても、つい口を出してしまう。

 

 対する仁は一度熱中すると寝食を忘れることがしょっちゅうあった。自身の知的好奇心を満たす事に全力を注いでしまう為、夜に海外の論文などを読み始めると止まらなくなってしまうのだ。

 しかも仁は食事にも無頓着で、腹が膨れればいいと適当なもので食事を済ませる事も日常茶飯事だった。

 

 そんな2人だから、口論と言うか亜矢からの仁への説教は頻繁に見られる光景となっていた。

 

 勿論説教されたからと言って生活習慣を改める程、仁の知識に対する欲求は小さくはない。しかし彼女が独りよがりなんかではなく、純粋に厚意で口うるさく言っているのも理解できるので突き放すような真似は出来ない。

 

 結局彼に出来る事と言えば、大人しく彼女の説教が頭上を通り過ぎるのを待つ事だけであった。

 

「――――聞いてます?」

「うんうん、聞いてる聞いてる。次からは気を付けるよ」

「その言葉、もう何度も聞きました」

「大丈夫だって。それよりこれ片付けるから、もう行きな」

 

 いそいそと本を元あった場所に戻していく仁。亜矢はそれを見て、同じく本の山から何冊か持ち出して一緒に片付け始めた。

 彼女が手伝ってきた事に、仁は思わず目を丸くする。

 

「ん? いやこれくらい自分でやるよ」

「一体何分かかるんですか? 午後の講義は出るんでしょ? 早く片付けないとお昼食べ損ねちゃいますよ」

「いやでもさ……」

「いいですからいいですから」

 

 そのまま自分と共に本を片付け始める亜矢の姿に、仁は溜め息を吐かずにはいられなかった。

 

 仁と亜矢の付き合いはこの大学に入ってからだ。最初は同じ講義で顔を合わす程度の間柄だったが、この通り仁はどちらかと言うと協調性がなく我が道を往くタイプだったので気付けばどの講義でも孤立する姿が目立つようになっていった。

 

 そんな彼に臆することなく声を掛けたのが亜矢である。海外の科学誌をアイマスク代わりに外のベンチで仁が昼寝をしていた時に、見兼ねて亜矢が声を掛けたのだ。

 

 曰く、そんな所で寝ていると風邪を引く、と。

 

 それに対して、仁は最初無視を決め込んだ。自分の健康は彼女に関係のない事だし、この程度で体調を崩す程柔な体はしていない。

 亜矢の顔をチラリと見ると、再び科学誌を顔に被せて昼寝を続けようとした仁。その瞬間、科学誌を没収されたかと思うと丸めたそれで鼻っ柱を思いっきり叩かれたのだ。

 勿論その時は文句を言い、それに対して亜矢も反論。お互いああ言えばこう言うを繰り返し、気付けばとっくの昔にその日の講義が終わる時間となってしまっていた。

 

 そこからまた始まる2人の口論。お互いに相手の所為でその日の残りの講義を欠席してしまったと。

 

 その後も何かにつけて互いに相手が目に付くようになり、気付けば互いに相手の扱いや接し方を何となくだが覚えてきた。

 仁は亜矢に対して取り合えず話を聞く様に心掛けた。無視するとその方が面倒になるからだ。

 一方亜矢の方は、仁に対して遠慮は必要ないと行動するようになる。中途半端に距離を置くと無視か反発をされるからだ。

 

 そんな感じに、腐れ縁ともとれる付き合いを続けて今や2人は大学三年生。そろそろ所属する研究室を決める頃だ。

 本を片付け終わり、そのまま学生食堂に向かった2人は食後の茶を飲みながらどの研究室にするかを互いに話し合う。

 

「門守君はどこの研究室にするかもう決めました?」

「うん。白上教授の研究室。あの人の講義面白かったから」

 

 白上教授とは、この大学の名物とも言える教授だ。別名紳士教授。常に杖を手に講義を行い、噂では三時には必ずティータイムを設けているとか。しかも最近は自分が陰で紳士教授と呼ばれている事に気付いたからか、パイプにハンチング帽まで被ると言う有様。そのノリの良さと、分かり易い講義内容で多くの学生に人気のある教授だった。

 

「そう言う双星さんは?」

「実は私は、まだ決めかねてて……」

「ふ~ん……まぁ双星さんならどこでも上手くやれるんじゃないの? 何せこの大学のマドンナだし」

「や、止めてくださいよそんな言い方。結構気にしてるんですから」

「でも人気があるのは事実でしょ。今だって、ほら……」

 

 仁がチラリと周りを見渡すと、自分達に向けて視線を向けている学生がチラホラ居る。大学のマドンナと、大学一の変人と言われる組み合わせに興味津々なのだろう。男子学生の中には――中には女子も――嫉妬の目を向けている者も居るが、仁は特に気にしていない。

 微かな悪意を感じないでもなかったが、直接行動に起こさない限り気にするのも馬鹿らしいし時間の無駄だ。少なくとも仁はそう考えていた。

 

「さってと。俺次の講義に行くから、お先失礼するよ」

「あ! 待ってください、私も!」

 

 そろそろいい時間だという事で席を立つ仁と亜矢。食堂から出ていく2人の様子を、他の学生達は羨望半分嫉妬半分の目で見送っていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、今し方仁が話題に挙げた白上(しらがみ) 源五郎(げんごろう)教授は、講義の時間が近付いていると言うのにまだ自分の研究室に籠っていた。

 いや、ここは本当に大学の研究室なのだろうか? 普通の大学の研究室にしては他の学生が研究をするスペースが見当たらない。室内にはあちこちに何に使うのか分からない機械が詰め込まれ、大学の研究室と言うよりは本格的なラボと言った方が正しいように見える。

 

 そのラボの中で、教授は何かのベルトが繋がった機械のキーボードを叩いていた。その機械には、反対側に大きな試験管の様なものとその中に浮かぶアンプルの様な形のカートリッジがある。

 

 暫くキーボードを叩いていた教授だが、区切りがついたのかキーボードから手を離し椅子の背もたれに体重を預けた。

 

「ふぅ…………これで調整は完了だな」

 

 教授は額の汗を拭いながら立ち上がると、機械からベルトとカートリッジを二つ取り出して普通より頑丈そうなアタッシュケースにそれらを大事に収めた。

 

「雄成……」

 

 ベルトとカートリッジを収めたアタッシュケースを見て、教授は表情を険しくする。まるで何かを悲しむか悔いるようだ。

 

 だが直ぐに気を取り直すと、ケースを閉めて鍵をかけるとそれを手にラボから出ていった。

 

 ラボを出た先は普通の学内の研究室、彼が責任者を務める研究室の中だった。

 彼はそこで自分の研究を熱心に行う四年生や院生達に軽く挨拶をしながら、講義を行うべく研究室を後にした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 研究室から出て講義を行う講堂へ向かう白上教授の姿を、大学から遠く離れた所から双眼鏡で見ている者が居た。全身防具をフル装備で固め、頭もフルフェイスのヘルメットを被った如何にも怪しい出で立ちの人物だ。

 同様の恰好をした者は他にも居り、さらにその中には1人だけヘルメットを被っていない者が居る。女性だ。

 

 そのヘルメットを被っていない女性が、双眼鏡で白上教授を見ている者に話し掛けた。

 

「どう、ターゲットの様子は?」

「……確認できました。大きな動きは確認できませんが、如何いたしましょう?」

 

 問い掛けられ、女性は考え込む。今回彼女が言い渡されたのは飽く迄も偵察だ。目的の人物の行動を観察し、異常が無ければ帰還する。予定通りであれば、この後帰還する手筈になっていた。

 

 しかし…………と女性は考える。このまま帰っていいのだろうか、と。

 

 下手に騒ぎを起こすべきではないと言うのは分かっている。つい先日手痛いダメージを与えたとは言え、S.B.C.T.は依然として監視の目を張り巡らせている。下手な事をして尻尾を見せるのは下策だ。

 だがあそこに明確な脅威が居る事もまた事実。今は無力だが、放っておけば大きな力を得て牙を剥いてくるかもしれない。

 

「…………S.B.C.T.に何か動きはあるかしら?」

「少々お待ちを…………いえ、今のところ大人しくしているようです」

 

 女性はS.B.C.T.の動きを確認した。先日の攻撃は相当に堪えた様で、何か起こったとしても即応出来るだけの余裕はないらしい。

 

 その情報が彼女に決断させた。

 

「……貴方達は撤収しなさい」

「チミン様は?」

「愚問ね」

〈SPIDER〉

「……了解」

 

 チミンと呼ばれた女性は円筒形のカートリッジを取り出すと、それのコックを捻り押し込んだ。そして電子音声が響くと、それを自らの首筋に押し付ける。

 

 するとカートリッジが彼女の体内に入り込み、その体を変異させる。

 

 チミンは全身を毛の生えた甲殻に覆われ、背中からは四本の蜘蛛の脚が生え、顔も蜘蛛の様な複数の眼と鋏角を持ったものとなる。

 

 それを見届けると、フルフェイスヘルメットの集団は音も無くその場を離れた。

 

「さぁ…………行くわよ」

 

 チミンが変異した怪物――スパイダーファッジは、一路明星大学へと向かって移動を開始した。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 昼食を終え、講堂へと向かう仁と亜矢。2人がこれから受けるのは、白上教授の受け持つ遺伝子工学だ。教授の人柄と内容の割に分かり易い講義内容で、大学内でも一、二を争う人気の講義である。あまりの人気ぶりに、定員を余裕でオーバーしてしまいただの講義だと言うのに選考試験が行われるほどであった。

 

 まだ時間に余裕があったのでゆっくり歩いて講堂に向かう2人。その前に同じく講堂に、しかしこちらは講義を行う為に向かう白上教授が通り掛かった。

 彼は2人の姿を見ると、柔らかな笑みを浮かべて軽く手を上げた。

 

「やぁ、門守君に双星君!」

「あ、白上教授」

「今日もよろしくお願いします」

 

 大学の変人とマドンナの存在は教授間にも知れ渡っている為、白上教授は2人の事を当然知っている。しかも仁に関しては、特に熱心な学生として記憶していた。興味のない事に対してはとことん反応が悪い仁だが、反面興味を惹かれた事に対しては打って変わってアクティブに行動するのである。白上教授の講義に関しても、講義内容で気になる事があると仁は彼の研究室に乗り込んであれやこれやと質問攻めする程に熱心な姿を見せていた。

 その姿は、噂でしか仁の事を知らなかった研究室内の学生や院生が目を丸くするほどである。

 

「それで教授、今日の講義内容は何ですか?」

「おいおい、気が早いぞ。講義は逃げたりしないから、始まるまでじっくり待ちたまえ」

 

 早くも白上教授の講義内容に興味津々な仁の様子に、亜矢は思わず苦笑を浮かべた。このアクティブさをもっと前面に出せば、周りからの目も少しはマシになるだろうに。

 

「フフ…………ッ!?」

 

 等と考えていた時、不意に亜矢の中の何かが危険を訴えた。その不思議な感覚に促されるように明後日の方を見ると、手から伸ばした糸でまるで振り子の様に空中を立体起動して迫るスパイダーファッジの姿を目撃した。

 

 それを見た瞬間、亜矢は一も二も無く白上教授と仁を押し倒した。

 

「危ないッ!?」

「双星君!?」

「おわっ!?」

 

 何が何だか分からずそのまま押し倒される2人。彼らと一緒に亜矢が倒れるとその真上をスパイダーファッジの鋭い爪が通り過ぎ、その勢いのまま大学敷地内の地面を抉った。

 

「な、何? 何が……って、えっ!?」

「お、お前は……まさか!?」

 

 突然目の前に現れたスパイダーファッジの姿に、目を見開く仁と白上教授。亜矢もまたその異形の姿に慄くが、周囲の学生達の反応の方が大きかった。

 

「な、何だアイツッ!?」

「まさか、噂の化け物!?」

「逃げろぉぉぉっ!?」

 

 今世間で実しやかに囁かれている噂…………社会の裏で、異形の怪物が人々を襲うと言う噂だ。だがニュースなどで取り上げられた事は無く、情報源はネットの書き込みでの目撃情報のみ。なので仁ですら、その存在を信じてはいなかった。

 

 だが現実に怪物はここに居る。ファッジと言う異形の怪物が、今正に牙を剥いているのだ。

 それは嘘偽りなく抉られた地面が証明している。

 

 その光景を目の当たりにし、周囲は一気に大混乱に陥った。

 

 逃げ惑う学生達。警備員や教授が必死に避難誘導する中、スパイダーファッジはお構いなしに白上教授に迫った。

 

「白上、源五郎……プロフェッサーの大願成就の為、障害は消えていただく」

 

 今だ押し倒されたままの白上教授に爪を振り下ろそうとするスパイダーファッジ。

 しかしその爪を、立ち上がった亜矢が蹴りで弾き飛ばした。

 

「ッ!? コイツ!!」

「――!? え?」

 

 2度目の邪魔に、スパイダーファッジが憤りの声を上げるが亜矢本人も何故か驚いていた。まるで自分が何故こんな事が出来たのかと言った様子だ。

 

 しかしスパイダーファッジにはそんな事関係ない。どんな理由があれ、邪魔をしてくるなら亜矢も敵だった。

 

「邪魔をするな!?」

「あ――――」

 

 再び振り下ろされたスパイダーファッジの爪、しかも今度は背中の4本の足も追加されてのそれは、流石にどう足掻いても避けられるものではなかった。

 迫る5つの脅威に、亜矢の視界がスローモーションになる。

 

 そのゆっくりと動く世界で、彼女を突き飛ばす者が居た。仁だ。

 

 彼は亜矢を突き飛ばし、代わりにスパイダーファッジの攻撃をその身で受け止めた。

 

「門守君!?」

「門守君!! いやぁっ!?」

 

 体をズタズタに切り裂かれ、血を噴き出しながら倒れる仁。亜矢は倒れる仁の体を受け止め、顔から血の気が失せた彼に必死に呼びかける。

 

「門守君! 門守君、しっかりしてください!?」

 

 仁は亜矢の言葉に反応しない。まだ目は薄く開かれ生きてはいるが、体はどんどん冷たくなり呼吸も弱くなっていく。

 

 亜矢の悲痛な声が響く中、スパイダーファッジは白上教授に再び狙いを定めようとした。

 

「ふん、無駄な事を……」

「無駄ではないさ!」

 

 しかし仁の行動は無駄ではなかった。彼の行動によりスパイダーファッジの意識が逸れている間に、教授は手にしていたアタッシュケースから緑色の液体が入ったカプセルと口径の大きな拳銃の様な物を取り出した。

 半分に折れる拳銃――カプセルシューターにカプセルを装填し、至近距離からスパイダーファッジに向け引き金を引いた。撃ち出されたカプセルはスパイダーファッジの関節部に命中し、柔らかい部位からカプセルの中身を注入した。

 

「ぐっ!? こ、これは――――!?」

「お前達専用の制限酵素だ。少しの間大人しくしていろ」

 

 そう言うと白上教授は倒れている仁の方を見た。もう息絶える寸前の彼に、亜矢が血を流す傷口を押さえて涙ながらに声を掛けている。

 

「門守君、駄目!? 駄目です!? 目を閉じないで!? 意識をしっかり持ってください!?」

「はっ…………はっ…………」

「私を見て! しっかりしてください! 死んじゃ駄目です!? 門守君!? 仁君ッ!?」

 

 両手を仁の血で汚しながら亜矢の必死の呼び掛けも空しく、彼の命の灯は消えようとしている。

 

 その彼に、アタッシュケースを手に白上教授が近付いた。死相が浮かんだ人の顔を見て、彼は顔を顰めるとアタッシュケースからベルトを取り出す。

 

「教授、門守君が!?」

「分かっている! 門守君!」

 

 白上教授は亜矢を押し退け、仁の腹にベルトを巻く。ベルトはバックルの上部に2つのソケットがあり、中央に円形の窓の様な物、そして右側にはL字が上下逆になったドアの取手の様な物が付いている。

 

 仁の腹にベルトを巻き、取手――と言うよりグリップ――に手を掛ける白上教授。だが彼は、その瞬間何かを悔いるように目を瞑った。

 

「くっ!……門守君、許せ!!」

 

 だが彼は直ぐに目を開けると、謝罪の言葉と共にグリップを引いた。

 

〈Open the door〉

 

 教授がグリップを引くと、ベルト中央の窓――セントラルドグマ――から光が溢れ出し、仁の体を包み込む。

 そのあまりの眩しさに、教授も亜矢も、そして動けるようになったスパイダーファッジも手で目を覆う。

 

 光が辺りを照らしていたのはほんの数秒。直ぐに光は晴れ、亜矢は目を開けられるようになる。

 

「う、何が……えっ!?」

「くぅ…………なっ!?」

 

 亜矢とスパイダーファッジが手を退けた時、そこに仁の姿はなかった。

 

 代わりにそこには、全身に灰色のアンダースーツと装甲を纏った1人の戦士が立っていた。戦士は己の体を見て、自らの顔を触り、自分の変化を確かめている。

 

「こ、これは……?」

 

 呆然として困惑した声を上げる戦士。だが自分の体とスパイダーファッジを見比べ、そして何かを思ったのか拳を握ると、一気に近付きスパイダーファッジにその拳を叩き付けた。




と言う訳で新規小説の第1話でした。

前書きでも述べましたが、本作は完全に独自設定で描くオリジナルライダーです。と言っても、所々に見た事のある何かを見る事にはなると思いますが。

取り合えず先に述べておきますと、本作の仮面ライダーは仮面ライダービルドの生物学バージョンみたいな感じです。今回は敵しか使ってませんが、変身アイテムもフルボトルっぽい、でもフルボトルじゃない奴です。
これどうするかは散々迷ったんですけどね。

今回は所謂導入編。次回から本格的な物語が始まります。そして、仮面ライダーデイナも本格的に変身します。

尚メインで更新している作品が別にありますので、こちらに関しては不定期になる可能性がありますがどうかご了承ください。

執筆の糧となりますので、感想その他お待ちしています。

それでは。
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