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傘木社の襲撃を撃退した後、仁は白上教授によって強制的に大学へと向かわされた。当初は傘木社への対策の為にS.B.C.T.と話し合いをするのが教授の当初の目的だったのだが、それどころではなくなってしまった。宗吾達は戦闘後の処理で大忙しだし、何より仁の事で直ぐに確認しなければならないことがある。
先程の戦いで仁は強力な恐竜ベクターカートリッジを2つ同時に直挿しした。その影響がどれほど出ているのか、それを調べなくてはならない。
そんな訳で、大学へと向かった仁はラボにて採血を受けたり体にコードを繋がれたりしていた。
「ふむ…………」
「どうですか、教授?」
採血の結果他様々なデータを見て、白上教授が真剣な表情を浮かべながら唸る。その様子に何か不味い所でもあったのかと、亜矢が横からデータを覗き込みながら訊ねた。様々なグラフが並び数字が羅列されたデータは、流石に亜矢が見ても何が何だか分からない。
「うん、特に問題は無いよ。少なくともデータで見える範囲で異常はないね」
白上教授の答えに亜矢はほっと胸を撫で下ろす。何だかんだで仁がベクターカートリッジを直挿しすると言った時、彼女は彼を応援はしたが同時に心配もしていたのだ。
2人のやり取りを横目で見つつ、仁は峰の助けを借りて体に繋がれたコードを外し服を着直す。
「良かったですね門守君。正直直挿ししてファッジになった時は肝を冷やしましたよ」
「すみません。でもあれ以外に考え付かなくって」
言いながら仁は白上教授の手の中にあるデータを自分でも見た。教授からタブレットを受け取り自分で自分の体の変化を確認する。
「……あの位じゃ目に見えて分かる変化は無いんだな」
「あったら大変ですよ。最悪人間じゃなくなるかもしれないんですから」
「そうですかね?」
仁はタブレットを教授に返す。もう興味をなくしたらしい。
そしてタブレットと入れ替わるようにして亜矢が仁に近付いた。
「何にしても、何時もの仁くんに戻ってくれて良かったです」
「ゴメン。ホント、色々と心配かけて」
「いいんですよ。何時もの仁くんに戻ってくれればそれで」
満足そうに言う亜矢と、そんな彼女を愛おしそうに見つめる仁。
仲睦まじい様子を見せる2人に、峰の心に悪戯心が湧いた。
「……まぁ、こっちが大変だって時に肌重ね合って何やってんだって感じですけどね~」
「……はぅ!?」
「ん……ぅん」
今データ収集の為に上半身を脱いだ仁だが、そうする事で他の箇所にもある赤い斑点――仁と亜矢が互いに愛し合った証であるキスマーク――が露になり、昨夜何をしていたかを嫌でも峰に知らせる事となった。検査中は何も言わなかった峰だが、やる事が終わり空気も緩んだのでここぞと弄り始めたのだ。
「で? どうでした門守君?」
「ど、どうって……?」
「双星さんと一夜を共にした感想ですよ」
「あー……」
目を爛々と輝かせながらの峰の問い掛けに、仁が何かを口にしようとする。だがそれが出てくる前に、亜矢の手により仁の口が塞がれた。
「もが……」
口を塞がれ、目線だけで何をと問う仁に亜矢は顔を真っ赤にして首を左右に振った。恥ずかしさのあまりか、目尻には涙が薄ら浮かんでいる。
彼女の涙を見て、仁は口が塞がれているからという事で頷く事で答えた。その反応に安堵の顔になり、亜矢は仁の口から手を離した。
「……すみません、ノーコメントで」
「え~!?」
仁の答えに心底不満そうな声を上げる峰だったが、仁も端から亜矢との一夜の事を誰かに言う気はなかった。彼女の艶姿は自分1人の物だ。例え話でも、誰にも知られたくない。
亜矢は彼の想いに気付き、嬉しさと恥ずかしさでまた頬を赤く染める。そんな彼女がまた可愛くて、気付けば仁は口元に笑みを浮かべ彼女を撫でていた。
直ぐに2人だけの空間を作る仁と亜矢に、峰は何処か恨めしそうな目を向ける。
「う~~……」
「何変な声を上げてるんだ?」
「うぇっ!? せ、瀬高君!?」
唸り声を上げる峰に、背後から拓郎が声を掛けた。その手にはケツァルスピノフォームに変身していた時のデイナのデータを纏めた資料が握られている。彼は彼で、白上教授からの指示でデイナ自体のデータ収集を行っていたのだ。
纏め終えたデータを、彼は白上教授に渡した。
「教授、これが先程のデイナの戦闘時のデータです」
「ありがとう」
渡されたデータに白上教授が視線を走らせる。教授がデータを眺めている間、手持無沙汰になった拓郎は仁に話し掛けた。
「しかし、よく直挿ししてファッジになるなんて発想に至ったな? 一歩間違えば暴走と同じかそれ以上の惨事になってたかもしれないのに」
特に一番危なかったのは、彼を直ぐ傍で支えていた亜矢だろう。仁が最低限の理性を保っていたから亜矢に危害はなかったものの、仁の心が凶暴性に負けていれば亜矢はこの場に居なかったかもしれない。そう思うと峰も改めてぞっとした。
しかし仁に言わせればそれは逆だった。暴走しなかったから亜矢が傷付かなかったのではなく、亜矢が居たから暴走する事がなかったのだ。
心から愛し合う彼女が傍に居てくれるという安心感が、彼に最後の理性を手放させなかったのだ。
「何て言うか……肩の力を抜いたら、自然と出てきたんです」
そう言って仁は手の中にあるベクターカートリッジを見る。あの時、自分が見た様々な動物達と触れ合うイメージは今でも鮮明に思い出せる。そして思う、あれは妄想などではなく現実なのだと。
デイナドライバーと言うツールを通す事で、彼らと対話する事が出来たからこそなし得た奇跡だ。
「こいつらも、生きてる。ただ生きたいんだって言う、そんな簡単な事に気付けた」
「生きたい?」
「そう……例え遺伝子をインプットされた細胞になっても、こいつらには生に対する欲求がある。それを受け入れる事が出来ただけです」
それに気付かせてくれたのは、間違いなく亜矢と真矢だ。彼女は仁自身が恐れている危険性も何もかもを受け入れてくれた。それが彼に、自分の見た全てを受け入れる事を促してくれたのだ。
ついでに言えば、真矢の存在と彼女と手を取り合う亜矢の姿が遺伝子の可能性を改めて仁に教えてくれたと言うのもあった。
統括すれば、仁が恐竜ベクターカートリッジを制御するに至る要因には亜矢と真矢の存在が不可欠と言う事になる。
改めて彼は彼女に心から感謝し、そして心から彼女を愛した。
そして峰は、仁の意識が亜矢に向いている事に気付いた。
「つまりは、愛の力って事ですね」
「どう聞いたらそうなるんだ」
拓郎は峰の言葉に呆れると、彼女の首に腕を回し片手で彼女の頭をワシャワシャと乱暴に撫でまわした。峰は奇声を上げて抵抗するが、力では拓郎に敵わずされるがままだ。
そんな2人の様子を見て、仁はふと疑問を抱いた。この2人の関係は何なのだろうか? 学友と言うには少々距離が近いような気がする。
「前から気になってたんですけど、瀬高先輩と宮野先輩ってどう言う関係なんです?」
「「えっ?」」
「いや、何か2人って変に距離近いな~って……」
「あ、それ私も思ってました」
仁の言葉に拓郎と峰が固まる。2人は仁の質問に視線を泳がせると、拓郎の方が口を開いた。
「……昔馴染みってだけの話だ。ガキの頃から家が近かったからな」
「そんなに長い付き合いなんですか!?」
「……腐れ縁ですよ」
「そうそう互いに競い合ってたら、気付いたら大学まで一緒だった。ただそれだけだよ」
何てことはない様に答える拓郎だったが、その横では峰が何処か不満そうな顔を彼に向けていた。仁と亜矢の中から見ていた真矢は、それだけで言葉通りの関係ではない事を見抜いた。
が、それを態々指摘するのも野暮かと考え、この場では気付かないふりをして見逃す事にした。
「……ま、そう言う事にしときます」
何かに気付いた様子の仁の物言いに何かを言いたくなった拓郎だが、ここで何かを口にすればボロが出るかもしれないと押し黙るのであった。
***
仁の変身するデイナ・ケツァルスピノフォームに敗北を喫した希美は、敗北感を胸に街の中を彷徨っていた。
「……クソッ」
またデイナに負けた。二度は勝ったが、結局は彼に負けてしまった。その事実が泥の様に彼女の心に広がっていく。
希美は何故自分が負けたのか理解できなかった。自分の肉体……自分のプライド……全てをかなぐり捨てて力を手にしたというのに、仁には力及ばなかった。
愛する者と隣り合い、何を犠牲にする事も無く力を手にした。少なくとも希美にはそう見えた。その事が希美にはどうしても納得できず――――
そして何より、羨ましかった。
彼には彼を認めてくれる人が居る。存在を許してくれる人が居る。対して自分はどうだ?
希美の存在意義は最早ただの飼い犬。会社の言いなりになり、居場所の全てを会社に依存している。会社に不要と断じられたら、彼女に待っているのは野垂れ死にだけだ。
「私は…………」
不意に腹が空腹を訴える。ベクターカートリッジの三本同時使用にすら容易に耐え、常人を遥かに超える回復力を持つ肉体だが唯一の欠点として燃費の悪さがあった。特に戦闘を終えた後は空腹感が酷い。体が早急にカロリーを欲した。
ふと希美が顔を上げると、そこには一軒の中華料理屋があった。店先の看板には『30分で全メニュー制覇出来たら無料』の文字が。
それを見た希美は、誘蛾灯に誘われる虫の様にフラフラと店へと足を運んだ。
***
場所は明星大学に戻り、諸々の検査を終えデイナドライバー共々データを纏め終えた仁は総評を白上教授から聞いていた。
「結論から言うと、門守君は特に問題なさそうだ。デイナドライバーにも異常は無いし、心配する事は何もない」
「どうも」
「ただまぁ、あんな事は金輪際止めてくれ。今回は何ともなかったから良かったが、次も問題が起きないとは限らないからね」
「分かってますよ」
もうあんな無茶はしないし、しようとも思わない。仁自身、あれが割と綱渡りな行動だった自覚はあるのだ。何よりも亜矢にまでリスクを負わせてしまう。
その時、仁の携帯が着信音を鳴らした。教授に一言断って携帯の画面を見ると、ディスプレイには宗吾の名前が表示されていた。
仁はピンときた。そう言えば、今警察には傘木社にとって無視できない存在が居る筈だ。
「もしもし?」
『門守君か? 今大丈夫か?』
「うん。それで、用件ってもしかしてこの間掴まえた3人の護送か何か?」
『鋭いな……』
電話口の向こうで、宗吾が軽く息を呑んだのが分かった。
「傘木社が放っておくとは思えないからね。それで、何時、何処に護送するの?」
『明日の朝には護送を開始する。道中で傘木社の妨害があるかもしれないから、それに協力して欲しい。悔しいが現状傘木社に対する一番の戦力は君だからな。頼めるか?』
「ん、いいよ。明日になったらそっちに亜矢さんと行くから」
『助かるよ。それじゃ』
***
翌日、仁は亜矢を後ろに乗せて仁はトランスポゾンを走らせていた。
その道中、亜矢が仁に話し掛けた。
「よく今まで何のアクションもありませんでしたね?」
「ん~?」
「捕まった傘木社の人達に対してですよ。捕まったのがバレたらすぐに何かしらの動きがあると思ってたんですけど……」
色々とあって気にしている余裕はなかったが、落ち着いた今は傘木社の静かさに違和感を覚えていた。証拠隠滅の為に自社に関係のある人物には始末の為の装置を埋め込む会社が、情報流出するかもしれない捕まった社員(若しくは被験者)を放置するのが意外でしかなかった。
「簡単には情報が出ないように仕掛けられてるのかもね」
「どうやって?」
「さぁ? それはこれから権藤さんに会った時直接聞いてみよう」
そんな事を話しながら仁は警視庁へと向かい、駐車場にトランスポゾンを停めた。
2人がバイクから降りてヘルメットを仕舞うと、2人の到着を待っていたのか慎司が近付き声を掛けてきた。
「どうも。いきなり呼んでしまってすみません」
「大丈夫」
「それより、掴まえた人達から何か話は聞けたんですか?」
「それについては、歩きながら話しましょう」
慎司に促されて2人は警視庁に入っていく。2人が連れて行かれたのは建物の奥にある留置場だ。
そこにはうろ覚えだが先日戦った4体の恐竜ファッジの生き残りの3人が居た。
3人の様子は明らかに普通ではなかった。目はどこか虚ろで、体をゆっくりと揺らしている。まるで酔っ払っているかのようだ。
彼らの様子に亜矢が軽く息を呑み、仁が目線でどう言う事かと訊ねる。
「……彼らを逮捕してから数時間ほど経って、諸々の処理が終わってから取り調べを行おうとした時にはああなっていました。心神喪失状態で、こちらからの問い掛けにはロクに答えません」
「……薬物中毒ですか?」
「恐らく。なので、これから治療も兼ねて警察病院に護送するところだったんです」
なるほど、これなら傘木社が彼らを放置した理由にも納得がいく。直ぐに会社の不正が漏れる可能性が無いのであれば、少しの間放置されても不思議ではない。
「治療、出来るんでしょうか?」
「さぁね。でももしできる可能性があって、話が出来るようになるなら、傘木社が黙ってる訳がないと思う」
「その通りです。ですので護送の護衛をしようという事に……」
「分かりました。この人達の護衛、私達がお手伝いします」
こうして2人はS.B.C.T.による、彼ら3人の病院への護送の支援をする事となった。
2人が警視庁に到着してから数十分後、準備が整い彼らは警視庁から警察病院に向けて出発した。
傘木社の3人を乗せた護送車を中心に、周りをS.B.C.T.の専用車両が囲み、最後尾を仁の乗るトランスポゾンが走っていた。
因みに今、亜矢は護送車の方に乗っていた。理由は単純に、3人を直ぐ近くで守る人物が必要だったからだ。宗吾は全体の指揮を取らねばならないし、仁はヘテロなど敵の強敵を受け持たねばならない。だからと言って3人の護衛を普通隊員にのみ任せてはいざと言う時、3人を守り切る事が出来ない。出来るだけ彼らを近くで守る戦力が必要だ。
一団が警視庁を出て数分。何事も無く病院に向けて進んでいた。思っていたような妨害が無い事に、仁は不気味さを感じていた。
その一団をビルの上から見ている者達が居た。アデニンとシトシンに率いられた傘木保安警察の隊員達。全員武装している。
それに加えて希美も居た。彼女の目は最後尾を走る仁に向けられている。
「……行くぞ。標的はあの護送車の中だ」
「ルーナは俺にくれ。この間のリベンジといきてぇ」
「目的を忘れるなよ」
〈SQUID Leading〉
「分かってるよ」
〈FLOG Leading〉
「「進生」」
〈〈Transcription〉〉
アデニンとシトシンがベクターリーダーで変身するのに合わせて、保安警察の隊員達もアントファッジに変異する。
それを横目で見ながら、希美もブレイドライバーを腰に装着しワニとカメのベクターカートリッジを装填した。
〈HORSESHOE × CROCODILE × TURTLE Mixing Genetic information〉
「……変身」
〈Create, Capture, Out of Control〉
〈Brake the chain〉
希美はヘテロに変身すると、背負ったテイルバスターを抜きトリガーグリップを握ると銃口を護送車に向けた。護送車程度なら容易に装甲を撃ち抜ける。
ビルの上から銃口を向けるヘテロの姿に、最後尾を走る仁が気付いた。
「ッ!?」
下から見ていた仁はヘテロが護送車を狙っている事にすぐ気づいた。今からでは変身も通信も間に合わない。
即座に仁はトランスポゾンの格納スペースからハイブリッドアームズを取り出し、ライフルモードにしてビルの上に立つヘテロに向けて引き金を引いた。
それはヘテロが引き金に掛けた指に力を入れようとした瞬間の事であった。
殆ど反射的に狙って撃った銃弾だが、幸いな事に外れる事無く命中した。当たったのはヘテロの右胸の辺り。今正に引き金を引こうとしていたヘテロはそれにより銃口をずらされ、さらに突然の衝撃に手に力が入り引き金を引いてしまった。
「つっ!?」
銃口がズレた瞬間引き金が引かれ、炸裂弾が発射される。放たれた銃弾は護送車の運転席ではなく、護送車のタイヤを撃ち抜き横転させるに留まった。
「おい何やってんだよ負け犬!?」
「……デイナが邪魔したのよ」
「あぁん、言い訳か?」
「止めろシトシン。護送車は足を止めたんだ。後は目標を仕留めればいい」
「……ふん」
ホワイトカラーズに宥められ、グリーンリキッドは鼻を鳴らしてビルの屋上から飛び降りた。ホワイトカラーズは小さく溜め息を吐いて彼に続き飛び下り、アントファッジ達もワイヤーを使って下に下りた。
ヘテロはと言うと、暫く横転した護送車を見ていた。彼女の視線の先では、護送車の傍にトランスポゾンを停めた仁が窓から車内に入っていた。
「亜矢さん、大丈夫?」
仁が車内に入ると、彼女は横倒しになった座席の陰から頭を押さえながら顔を出した。
「いたたた……あ、仁君」
「大丈夫、怪我はない?」
「はい、何とか……。他の人達もとりあえず大きな怪我は無いみたいです」
見渡せば、亜矢の他に車内で護衛を努めていた隊員にも大きな怪我は無いようだ。ついでと言っては何だが、護衛対象の3人も一応大事は無いようだった。
2人が互いの無事に安堵していると、車外から銃声が聞こえてきた。傘木社からの刺客が3人を始末しに直接攻撃してきたのを、S.B.C.T.が迎え撃っているのだ。横転しているので外の様子は殆ど見えないが、フロントガラスの向こうではアントファッジとS.B.C.T.が激しい銃撃戦を繰り広げているのが見える。
「亜矢さん達はあの3人をお願い。俺が外で護送車を守るから」
「仁くん、気を付けて」
亜矢の言葉に頷いて答えると、仁はデイナドライバーを装着しながら座席をよじ登るようにして外に出た。
「おっと」
仁が窓から顔を出した瞬間、直ぐ傍を流れ弾が通り過ぎていくのを感じ一瞬頭を引っ込めた。流れた冷や汗を手の甲で拭い、改めて外に出た仁は傘木社を迎え撃つべく変身した。
〈BUFFALO + HUMAN Evolution〉
「変身」
〈Open the door〉
デイナが変身すると、セントラルドグマから放たれたスーパーコイルが無数のアントファッジを薙ぎ倒す。敵の行動を妨害しながら変身した彼は、ハイブリッドアームズをハルバードモードにしてアントファッジを次々と切り伏せる。
斧槍を振り回し、アントファッジを次々と倒すデイナが戦いながら周囲を見ると、離れた所でスコープ1号がホワイトカラーズと戦闘をしているのが見えた。
ざっと周囲を見渡して、他の隊員達はアントファッジを相手にいい勝負が出来ているのを見てここでの支援は必要ないと判断。スコープ1号と共にホワイトカラーズを相手にするのが吉と判断してそちらに向かおうとした。
その彼の前に、ヘテロが飛び下り着地と同時にテイルバスターで彼を吹き飛ばした。
「ぐっ!?」
突然の奇襲にデイナは反応が遅れ、ロクな防御も出来ず吹き飛ばされる。壁に叩き付けられたデイナに、ヘテロからの追撃の銃撃が行われた。
「ちっ」
デイナは痛む体に鞭打ってその場を動き、ヘテロの炸裂弾を回避すると同時に恐竜ベクターカートリッジを取り出した。
〈QUETZALCOATLUS + SPINOSAURUS Reborn〉
「ゲノムチェンジ」
〈Open the door〉
現状でヘテロに対抗するのに有効なケツァルスピノフォームにゲノムチェンジし、ハイブリッドアームズを大剣モードにして対峙するデイナ。
ヘテロはそんな彼にゆっくり近付いていった。
「さぁ、私を満たしなさい」
言うが早いかヘテロはストック兼用の柄を持ち、テイルバスターでデイナに斬りかかっていく。対するデイナも大剣モードのハイブリッドアームズで対抗した。二つの刃がぶつかり合い、激しい火花を散らす。
激しい剣戟を繰り広げるデイナとヘテロ。2人の戦いは凄まじく、互いに大きめの武器を使っているにも拘らずその動きは視認するのが難しいほど早い。
互いの武器をぶつけ合わせ、時には体を反らせたり身を低くしたりして相手の攻撃を回避する。
「はっ」
一瞬の隙を見て、デイナが軽く飛んでヘテロに向けて大剣を唐竹に振り下ろす。振り下ろされる大剣を前に、回避は間に合わないと判断したヘテロはテイルバスターを構えて防御の体勢をとった。
そのままデイナの振り下ろした一撃がヘテロの構えた長剣に当たりそうになる。その瞬間ヘテロは体の軸をズラし、振り下ろされた大剣を受け流した。
「あ、くぅっ!」
攻撃を受け流された事にデイナは一瞬思考が停止しかけたが、寸でのところで気を取り直すとヘテロが次の行動に移る前に先手を取る。ハイブリッドアームズから手を離し、攻撃の勢いが完全に死ぬ前にタックルを喰らわせた。
「ぐぅっ!?」
ちょうどデイナの攻撃を受け流し自分の攻撃に繋げようとしていたヘテロはこれに反応する事が出来ず、無防備な胴体にタックルの直撃を喰らってしまった。
至近距離からのタックルにヘテロは近くの街灯まで吹き飛ばされ叩き付けられる。衝撃で街灯はひん曲がり、ヘテロはその場で座り込み咳き込んだ。
「げほっ!? げほっごほっ……くぅ!」
暫し咳き込み、呼吸を整えたヘテロは曲がった街灯に手をつきながら立ち上がる。衝撃でテイルバスターは彼女の手から抜けていた。
「ふ……ふふふ……」
「?」
突然笑い始めたヘテロにデイナが首を傾げる。
「そう……そうよ。もっと、私を見て……私を満たしなさい。あんたには、その義務があるのよ――!」
「何の話?」
ヘテロが何を言っているのか、デイナには全く理解できない。頭の回転が速い彼だが、自己完結された理論までは流石に理解が及ばなかった。
「私に倒されろって話よ!!」
デイナの問い掛けに答えずヘテロは彼に襲い掛かった。無手で迫る彼女に対し、デイナは拳を握り迎撃の体勢を整えていた。
***
その頃、亜矢は守るべき3人をS.B.C.T.の隊員と協力して護送車から引っ張り出し近くの専用車両に移していた。護送車は他の車両に比べれば頑丈だが、横転してしまった今最早ただの棺桶でしかない。敵からの攻撃が残ったガソリンに引火して爆発でもしたら目も当てられないので、少し危険だがまだ無事な近くの車両に移し必要があれば何時でも逃げられるようにしたのだ。
「これで最後ですね」
「えぇ、ありがとうございます」
「いえ――」
3人を別の車両に移し終え、慎司が亜矢に礼を言った。これで多少だが3人の安全が確保でき、必要があれば逃げる準備が整った。
亜矢は慎司からの礼に答えようとして――――
「――――!!」
出し抜けに背後に向けて蹴りを放った。流れるような鋭い回し蹴り、これは真矢によるものだ。
【真矢ッ!?】
突然の真矢の行動に亜矢も慎司も驚いていると、真矢の放った回し蹴りが見えない何かに受け止められた。真矢の足を受け止めた何かは、ゆっくりとその姿を現す。
「へぇ……よく気付いたな?」
姿を現したのはグリーンリキッドだった。姿を消していた奴は、背後から亜矢に襲い掛かろうとしていたのだ。
「くっ!」
真矢は蹴りが受け止められたと見るや、自由な方の足でグリーンリキッドの顔面を踏み抜く様に蹴り飛ばす。この行動は予想外だったのか、グリーンリキッドは思わず彼女の足を手放した。
「ぐぉっ!?」
グリーンリキッドが手を離した事により、真矢は空中で自由の身になった。その隙に彼女はデイナドライバーを装着し、空中でバク転しながらアダプトキャットにベクターカートリッジを装填しドライバーに装着した。
〈CAT Adaptation〉
「変身!」
〈Open the door〉
真矢が着地する時には彼女はルーナへと変身を完了しており、変身すると同時に彼女はアームブレードを展開しグリーンリキッドに斬りかかっていた。
「ハァッ!」
「んのッ!?」
ルーナのアームブレードに対し、グリーンリキッドは銃剣モードのベクターリーダーで対抗する。爪と刃がぶつかり合う。
「しっ! はっ! やぁっ!」
爪が受け止められた瞬間、ルーナは素早く逆の腕の爪を使って攻撃した。ルーナの強みは素早さと手数の多さ。それを彼女は最大限に活かす戦いを心掛けていた。とにかく動き回り、相手に体勢を立て直す隙を与えない。
特にこのグリーンリキッドは姿を消す能力を持っているのだ。一瞬でも姿を消す隙を与える訳にはいかない。
「ちぃ、このアマぁ――!?」
彼女が姿を消す隙を与えないようにしている事には、グリーンリキッド自身も気付いていた。しかしどうする事も出来ない。姿を消すにはそれなりの集中力を使う。彼女が絶え間なく攻撃してきている状況では、その集中力を確保するのも困難だった。
徐々にルーナにグリーンリキッドが押されていく。これ以上はまずいかと彼が危機感を募らせたその時、2人の間をデイナが通り過ぎて行った。
あまりにも突然の事に、ルーナもグリーンリキッドも動きを止めてしまう。
「え? 仁君!?」
「とっとっとっ……あ、邪魔しちゃった?」
「いや、大丈夫だけど……仁君大丈夫なの?」
「ん、へっちゃら」
見た感じ、やられて吹き飛ばされてきた訳ではなく止むを得ず距離を取る為に跳んだら2人の戦いの間を通り過ぎてしまったようだ。
それを証明するかのように、その場に護送車を踏み台にして移動してきたヘテロが降り立った。
「……何よアンタ、まだこの女倒せてなかったの?」
「うるせぇッ!? お前こそ仮面ライダー倒せてねえだろうがッ!?」
「じゃあアンタがデイナを相手してみなさいよ」
合流するなり口論を始めるグリーンリキッドとヘテロを前に、デイナはそっとルーナに近付き例の3人の安全を確認した。
「あの3人は?」
「この後ろの車の中。護送車は動けないから」
デイナとルーナが情報共有をしていると、何時の間にかヘテロが2人の事を見ていた。彼女はルーナの発言から標的の3人が護送車から移されている事を知る。
「……そろそろ仕事よ。シトシン、ガキみたいに騒いでんじゃないわよ」
「チッ! テメェ、後で覚えてろよ」
腹立たしいが弁えてはいるのか、それ以上ヘテロに噛み付く事はせずデイナ・ルーナと対峙した。
そして再び始まる戦闘。今度はタッグでの戦闘だ。殴り掛かるヘテロの拳をデイナが受け止め、その横からルーナがアームブレードで斬りかかる。強固な装甲を持つヘテロにルーナの力では大したダメージを与えられないが、比較的防御の弱い関節部分を狙っての攻撃はヘテロに体勢を崩させるには十分だった。
ヘテロの力が弱まったところを狙ってデイナが彼女の腕を掴み、背負い投げで地面に叩き付ける。背中を強かに地面に叩き付けられ、ヘテロの呼吸と動きが止まった。
「がはっ!?」
「隙ありぃ!」
「ありません!」
デイナがヘテロを地面に叩き付けた隙を狙ってグリーンリキッドがベクターリーダーで斬りかかるが、ルーナがそれを許さない。素早くリプレッサーショットを抜くと、近距離からの早撃ちでグリーンリキッドを遠ざけた。
「がぁぁっ?!」
「チッ、あの口だけ男……」
碌に役に立たないグリーンリキッドにヘテロが舌打ちしながらデイナに反撃を繰り出すが、デイナは翼を盾代わりにして攻撃を凌ぐ。更にヘテロの視界がデイナで埋まっている間に、デイナはスピノサウルスベクターカートリッジをドライバーから抜くとノールックで背後のルーナへと手渡した。
ルーナは渡されたベクターカートリッジをライフルモードに連結させたリプレッサーショットに装填する。
〈Genome set ATP Burst〉
通常のライフルモードの一発では軽く仰け反らせる程度の威力しかヘテロには与えられない。だがバーストブレイク、それも恐竜ベクターカートリッジの力を借りた一撃ならばと期待を込めて、ルーナは狙いを定め引き金を引く。
「あがぁっ?!」
狙いは成功。ルーナの一撃はヘテロを大きく吹き飛ばす程のダメージとなって彼女に炸裂した。
吹き飛ばされたヘテロはグリーンリキッドの傍に倒れる。
それを見たデイナとルーナは、互いに顔を見合わせ頷き合った。
「亜矢さん」
「はい!」
〈〈ATP Burst〉〉
同時に発動したノックアウトクラッシュが、ヘテロとグリーンリキッドに向けて飛んで行く。直後に体勢を整えたヘテロとグリーンリキッドは、咄嗟に迎撃の為必殺技を発動する。
「くっ!?」
〈HORSESHOE Burst〉
「くそがぁっ!?」
〈Genome set Full blast〉
デイナとルーナのノックアウトクラッシュを迎撃する為に、ヘテロのトーンインパクトとグリーンリキッドの『ジェネリック・ブレイカー』が放たれる。
「「ハァァァァァァッ!!」」
「ゼァァァァァァァッ!!」
「オラァァァァッ!」
4人の攻撃がぶつかり合い拮抗する。その時、デイナが無意識の内にルーナの手を掴んだ。
「!」
掴まれたルーナは一瞬彼の顔を見るが、仮面越しに感じる彼の必死さに彼女も仮面の奥で顔を引き締め手を握り返す。
デイナとルーナが心を合わせて力を込める。すると2人の想いが後押しとなったのか、拮抗が僅かに崩れヘテロとグリーンリキッドの攻撃が押し返された。
「なっ!?」
「「ハァァァァァッ!!」」
まさかの事態にヘテロが動揺した。その隙を逃すまいと、デイナとルーナが更に力を込める。
遂に拮抗は崩れ、2人のノックアウトクラッシュはヘテロとグリーンリキッドを押し返し2人を吹き飛ばした。
「あああぁぁぁぁっ?!」
「がはぁぁぁぁぁっ?!」
デイナとルーナのノックアウトクラッシュを喰らい、大きく吹き飛ばされるヘテロとグリーンリキッド。
2人が吹き飛ばされたのは、スコープ1号とホワイトカラーズが戦闘を繰り広げている真っただ中であった。
「うぉっ!?」
「ッ!? お前ら……」
2人が戦闘をしている直ぐ近くに吹き飛ばされ地面に叩き付けられたヘテロ達に、スコープ1号は驚きホワイトカラーズは状況を察した。
「……負けたのか」
「……ふん」
「くそ、がぁ……」
核心を突くホワイトカラーズの言葉にヘテロは鼻を鳴らし、グリーンリキッドは悪態を吐く。
そこにデイナとルーナがやってきた。2人はスコープ1号に並ぶように立ち、傘木社の3人の前に立ち塞がる。
事ここに至り、ホワイトカラーズはこれ以上の戦闘は不利にしかならないと判断し、撤退を決意した。
「……退くぞ。これ以上は無意味だ」
〈Genome set Full blast〉
「…………はぁ、分かったわ」
「この借り、絶対に返してやるからな!?」
2人が納得はしていないが理解はしたのを見て、ホワイトカラーズはデイナ達の周りにジェネリック・ブレイカーを撃ち込んで動きを阻害する。ホワイトカラーズの攻撃が飛んできたのを見た瞬間、デイナは翼を広げて2人を守り、代わりに視界を塞がれてしまう。
「くぅ……」
「仁くん!?」
「大丈夫、それより……」
衝撃と土煙が晴れた時、そこにはヘテロ達は勿論アントファッジ達の姿も無くなっていた。完全に逃げられたらしい。その事にスコープ1号は少し悔しそうにしていた。
「逃がしたか……どうせなら連中もとっ捕まえたかったんだがな」
「二兎を追う者は一兎をも得ずだよ、権藤さん」
「大事な3人は無事なんですから、それで良いじゃありませんか」
「……それもそうだな」
その後、被害の確認を終えた彼らは改めて3人を警察病院に護送する事に成功した。道中では二度目の襲撃なども無く、重要参考人の3人は無事に病院に搬送された。
それは即ち、傘木社の悪事を暴き打倒する為の第1歩であり、局所的な意味ではなく本当の意味での勝利への第1歩でもあった。
***
日本の空の玄関口、東京国際空港……通称羽田空港。
国外から来た人、国外へ行く人達が行き交うこの地に、1人の女性が降り立った。
大きな荷物を背負い、どこか気だるげな目をした、一見すると妙齢に見える女性だ。目は気だるげだが、肌や雰囲気は生き生きしている。
女性は空港ロビーに立つと、背負った荷物を下ろし体を伸ばした。
「ん~~……ふぅ。日本も久し振りだ」
満足そうに周囲を見渡し、日本の空気を堪能すると下ろした荷物を背負い直した。
「さて、久し振りに仁の顔でも拝むとするかな」
誰にともなく呟くと、女性は意気揚々とその場を後にするのだった。
と言う訳で第38話でした。
今回から何時もの雰囲気に戻ります。
峰は一応恋愛とか男女の関係に憧れています。ただその性格やだらしなさから、女性として見てもらえず悶々とした日々を送っています。だから仁と亜矢の関係には興味津々です。
前回の一件もあり、仁は完全復活です。あんなに苦戦したヘテロを相手にしても、互角以上に戦えます。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。