仮面ライダーデイナ   作:黒井福

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どうも、黒井です。

前回のラストには皆さん驚かれたようで。物語も終盤に近付いてきましたから、今後も驚きの情報が出る事になりますよ。


第40話:母は強し

 仁と香苗が再会した翌日、外は暑いからと家でテレビを見ながら談笑したりと2人だけの時間を過ごしていた仁と亜矢の2人。

 

 そこへ峰からの連絡が入った。曰く、ファッジ出現と言う。

 

 折角の2人だけの時間を邪魔され、不機嫌になる仁を宥めつつ亜矢が現場へ赴くと、そこに居たのは先日取り逃がしたメガネウラファッジだった。

 

「あっ、あいつッ!…………昨日逃がしたファッジです!」

「じゃ、楽に倒せるかな。一度は逃げるような奴だし」

「今度は逃がしません!」

 

「「変身!」」

〈〈Open the door〉〉

 

 今度は二人掛りで確実に仕留めようと同時に変身し、メガネウラファッジに向かって行くデイナとルーナ。

 メガネウラファッジは2人に気付くと、破壊活動を止めて2人と向き合った。

 

「待っていたぞ、仮面ライダー」

「また派手に暴れてくれたね。折角ゆっくりしてたってのに」

「今度こそ倒します!」

 

 即行で倒そうと息巻く2人だったが、メガネウラファッジは臆した様子を見せなかった。

 

「デイナ……お前の相手は俺ではない」

「は?」

 

 突然のメガネウラファッジの言葉に、デイナが首を傾げると出し抜けに横合いからヘテロが飛び出しデイナをルーナから引き剥がした。

 

「アンタの相手は私よ」

「くっ!? お前――!」

「さぁ、私を満たして」

「仁くん!?」

「お前の相手は俺だ」

 

 ヘテロの攻撃に否応なく引き剥がされていくデイナを、ルーナが援護しようとするがその前にメガネウラファッジが立ち塞がる。こいつを何とかしないとデイナを援護する事も儘ならないようだ。

 

「邪魔すんじゃないわよ!」

 

 立ち塞がるメガネウラファッジに飛び掛かろうとするルーナだったが、その前にメガネウラファッジが思わぬ行動に出た。

 

 何と自ら変異を解除したのだ。

 

「――えっ!?」

 

 異形の下から現れたのは白人の男性だった。鍛えられた肉体の白人男性は、ルーナに向けて不敵な笑みを向ける。

 

「昨日の礼だ。覚悟してもらうぞ」

「……ふん! 昨日私に追い返されたくせに」

「今度はそうはいかない」

 

 そう言った男性の背後から、もう1人の白人男性が姿を現した。その男性は何と、今目の前に居る男性と瓜二つの姿をしていた。

 

「……は?」

 

「「仮面ライダールーナ、お前は俺達ソニック兄弟が倒してやる」」

〈〈MEGANEURA Leading〉〉

「「進生!」」

〈〈Transcription〉〉

 

 ソニック兄弟と名乗った双子の白人男性達は、同じ動きでベクターリーダーを使い変身する。

 

 アンダースーツに装甲を纏った、トンボモチーフの戦士。片方は赤、片方は青だ。

 

 目の前に立ち塞がる2人――レッドインパクトとブルーインパクト――を前に、ルーナは仮面の奥で冷や汗を流さずにはいられない。

 

 レッドインパクトとブルーインパクトは、マントの様な背中の翼を広げると一瞬でルーナに接近してきた。

 

「ッ!?」

 

 予想以上の速さ、ファッジの時以上だ。あの時は手を抜いていたのかそれともベクターリーダーを用いた事で能力が向上したのかは分からないが、とにかく2人は一瞬でルーナに接近すると一糸乱れぬ動きでルーナに飛び蹴りを喰らわせた。

 

「くっ!?」

 

 咄嗟に防ぐルーナだが、加速と全く同じタイミングで同じ部位に受けた蹴りは想像を絶する威力で防ぎきる事は出来なかった。防御ごと蹴り飛ばされ、ビルの壁に叩き付けられてしまう。

 

「あぐぅっ?!」

 

 蹴られたダメージと叩き付けられたダメージで、地面に倒れ呻き声を上げる。

 そんな彼女の前に降り立つ2人は、同時にベクターリーダーを向けると同じタイミングで引き金を引いた。2人が銃口を向けたのを見て、ルーナは咄嗟に転がって放たれた銃弾を回避する。

 

 転がった先で立ち上がり、リプレッサーショットを抜き応戦するルーナだったが、一糸乱れぬ動きで翻弄され狙いが定まらない。一歩間違えれば互いにぶつかってしまう様な動きで動き回る様子は、まるで航空ショーで空を飛び回る飛行機の様だ。

 

「狙いが、付けられない!?」

 

 翻弄され動きを止めたルーナに、レッドインパクトとブルーインパクトは容赦なく襲い掛かる。前後、左右、全く別々の方向から同時に襲い掛かる2人の攻撃は、防ぐ事も難しい。

 

「うあっ!? ぐうっ?! げ、ほっ?!」

 

 高速で縦横無尽に動き回る2人の攻撃に、ルーナは為す術なく体力を削られ遂にはその場に膝をつく。

 

「う、ぐぅ……」

 

 動きを完全に止めたルーナに、しかし2人は容赦しない。膝をついたルーナを集中砲火で次々と銃弾を叩き込む。

 

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 動けないルーナに2人の銃撃を回避も防御もすることは出来ず、反撃も儘ならない中銃弾を次々と喰らい悲鳴を上げる。悲痛な悲鳴を上げ、体を穿つ銃弾に痙攣したような不格好なダンスを踊るルーナは、銃弾が止んだ時には綺麗な部分が全くなかった。全身の装甲がボロボロに傷付き、アンダースーツはところどころ破れて血が滲んでいる。

 

「あ、う…………」

 

 漸く銃撃が止むと、ルーナはその場に前のめりになって力無く倒れる。それと同時に変身が解除され、その場には変身が解除されて尚全身ボロボロな状態の亜矢がその場に横たわっていた。

 

「うぅ……く……」

【あ、亜矢……大丈夫?】

「(な、何とか……って、言いたいところだけど……ちょっと、キツイ……かな)」

 

 体のあちこちが傷だらけで、手足に力が入らず立ちあがる事も儘ならない。

 

 下に恐ろしきはあの2人のコンビネーションだ。全く同時に攻撃してくるので、どちらか片方を対処してももう片方の攻撃をどうしても喰らってしまう。

 一体どれだけ訓練すればあそこまでの連携を手に入れられるのか。嘗て真矢が1人の人間として生きていた頃も、亜矢とここまでのコンビネーションは出来なかった。

 

 亜矢が疑問を抱いていると、彼女の前に立った2人が口を開いた。

 

「俺達の前には、仮面ライダーも大した事ないみたいだな」

「無理もない。俺達のコンビネーションに勝てる奴なんていないからな」

「当然だ。俺達は特別なんだ」

「あぁ、特別だ」

 

「どう言う、意味ですか?」

 

 しきりに特別を強調する2人に、亜矢が思わず疑問を口にするとレッドインパクトはしゃがんで手を伸ばし、彼女の髪を掴んで引っ張り上げた。

 

「あぁっ!?」

 

 髪を引っ張られる痛みに悲鳴を上げる亜矢に、レッドインパクトは顔を近付ける。

 

「俺達は、会社に改造された双子なのさ」

「そう、一卵性双生児の特性を活かして、俺達は精神を同調する実験に使われた」

「俺達以外にも似たような奴が何人も居たが、生き残れたのは俺達だけだった」

「そして生き残った俺達は力を手に入れたのさ。全く同じ事を考え、相手の行動が手に取るように分かる」

 

「「つまりお前が相手をしていたのはただの2人組じゃない。二つの体を持つ1人の人間なんだよ」」

 

 驚愕の事実に亜矢は目を見開いた。

 彼ら2人がそんな非道の実験の被験者だったという事、その実験で多くの人々が犠牲になった事。何より、彼らはそんな実験に使われながらも傘木社に従っている事に対して、亜矢は驚かずにはいられなかった。

 

「なん、で?……何で、あなた達はそんな目に遭っても尚、傘木社に従えるんですか? 一歩間違えれば、あなた達だって命は無かったんですよ?」

 

 亜矢は純粋な疑問を2人にぶつけた。それに対する、2人からの返答は嘲笑であった。

 

「何で? 分かり切った事を聞く」

「簡単な話だ。もう俺達には、会社しか居場所がないからだよ」

「え?」

 

「俺達は実の両親に売られた」

 

「少なくともそう聞かされた」

 

「嘘か本当かは知らん」

 

「知る気も無い」

 

「そんな俺達の居場所は、もう傘木社しかない」

 

「だから従うんだ」

 

 交互に話すレッドインパクトとブルーインパクトに、亜矢は底知れぬ恐怖を抱いた。この2人は確実に洗脳されている。それも生まれて間もない赤子の時分から、この年齢になるまでの長い年月を掛けてじっくりとだ。

 

 こんな事を平然と行う傘木社と、その所業により生まれたと言っても過言ではないこの2人は、最早人間と呼べるのだろうか?

 

 亜矢が慄いていると、レッドインパクトが手を離して彼女を解放した。

 

「うっ――――!?」

 

 突然解放されて、重力に引かれ地面に倒れ伏す亜矢。レッドインパクト達は倒れた彼女に向けて銃口を向けた。

 

「それじゃあさよならだ、仮面ライダー」

「安心しろ。もう1人もすぐに連れて行ってやる」

「ッ!?」

 

 2人が引き金に掛けた指に力を込める。それを見て亜矢は思わず目を瞑った。体は満足に動かず、避ける事は叶わない。

 

 最早これまでと亜矢が殆ど諦めたその時、2人の横合いから駆けてきた香苗がブルーインパクトに向けてドロップキックを放った。

 

「よいしょっと」

「ぬおっ!?」

「おわっ!?」

 

 ブルーインパクトが蹴り飛ばされると、その隣に居たレッドインパクトにぶつかり結果2人揃って亜矢から離され地面に倒れる。目前に迫っていた死が遠退いた事と、それを成したのが香苗であるという事に亜矢は目を丸くした。

 

「え? じ、仁くんのお母さん!?」

「よっと」

 

 驚く亜矢を尻目に、香苗は亜矢に肩を貸すとその場から離れて行く。当然背後からはレッドインパクト達が逃がすまいと銃口を向ける。

 

「逃がすか!?」

「これあげるよ」

 

 香苗は亜矢を引き摺りながらレッドインパクト達に向け何かを放り投げる。放り投げられたのは火のついた爆竹。導火線の火が爆竹に届いたタイミングは爆竹がレッドインパクトの眼前を落下しつつある瞬間。

 

 着火した爆竹が眼前で激しい音を立てて弾けた。決してダメージのあるものではないが、それでもすぐ目の前で起こった爆発は、例え一つ一つは小さくとも目くらましの効果は十分にある。

 2人は爆竹の爆発に怯み、射撃を中断し香苗が亜矢を連れて逃げる距離を稼がせてしまった。

 

「くそっ!? 何だあの女は!?」

「こんな虚仮脅しで、逃げられるとでも思ったのか!?」

 

 多少距離が稼げたとは言え、相手は速度に勝るメガネウラの能力を持っている。一度飛んでしまえば、その速度は人間の走る速度など容易く凌駕する。と言うか、恐らく普通に走る速度も上回っているだろう。

 ましてや人一人を支えながらでは。

 

 案の定、香苗と亜矢はあっという間に追いつかれ回り込まれた。前方をレッドインパクト、後方をブルーインパクトに挟まれ、退路を断たれる。

 

 前後を挟まれた事に、亜矢は覚悟を決め自分の足で立ち香苗を逃がそうとした。

 

「逃げてください……ここは、私が――!」

「おいおい、無茶を言うんじゃないよ。そんなボロボロの状態で何が出来るって言うんだい? 無駄死にするのが関の山だぞ」

「それでも、仁くんのお母さんを巻き添えにする訳にはいきませんから……」

「古今東西、この手の輩は首を突っ込んできた人間も見逃さないものさ。もう手遅れだよ」

 

 ならば尚の事逃げてくれと願う亜矢だったが、香苗の顔には諦めの色が浮かんでいない事に気付いた。彼女はこの状況を打開できると思っているのだ。

 

 一体どうやって?

 

「もう逃げるのは終わりか?」

「ん……そうだね、そろそろいい塩梅だろう」

「何?」

 

 

 

 

「やれやれ、世話の焼ける息子だ…………仁! いい加減そろそろこっちに来たらどうだい!」

 

 

 

 

 

「言われなくても分かってるよ」

〈ATP Burst〉

 

 突如として、レッドインパクトの背後からケツァルスピノフォームのデイナが飛んできて、エネルギーを充填した両脚でレッドインパクトを挟むとブルーインパクトに向け放り投げた。

 

「「何ぃっ!?」」

 

 実はデイナは、ルーナが悲鳴を上げた時にはこちらに来ようとしていた。だがヘテロが邪魔をしてきた為、なかなかルーナの……亜矢の救助に向えなかったのだ。

 それを遠くから見ていたのが香苗だった。彼女はデイナがなかなか亜矢の元へ向かえないのを見ると、彼がヘテロを振り払うまでの時間を少しでも稼ぐべく亜矢の救助に向かったのだ。

 

 香苗の助力により何とかデイナはこの場に来る事が出来た。彼は強化した脚力でレッドインパクトとブルーインパクトを亜矢達から引き離すと、返す刃で後方に両脚蹴りを放った。背後からヘテロが追ってきていたからだ。

 

 

「デイナッ!!」

「お前にはこっち」

「くっ!?」

〈TURTLE Burst〉

 

 デイナのノックアウトクラッシュとヘテロのシェルブレイカーがぶつかり合う。拮抗する2人の必殺技だったが、デイナはそこに更に回転を加える事で技の威力を増強。抉るような攻撃にヘテロのエネルギーの甲羅は砕け散り、彼女を大きく蹴り飛ばした。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁっ?!」

 

 蹴り飛ばされたヘテロは自動販売機に激突し、破壊された自動販売機からまだ無事な缶やペットボトルが雪崩の様に吐き出された。

 地面に散らばる缶やペットボトルを、ヘテロは踏み潰しながら立ち上がった。

 

「デイナ……デイナァ――――!? もっと……もっと私を満たしなさいよ!? 私は……まだまだ、食い足りないわ!?」

「――――しつこいなぁ。相手してやっても良いけど……今はそれどころじゃないし」

 

 振り返ればレッドインパクトとブルーインパクトも体勢を立て直しつつある。亜矢が満足に戦えず、S.B.C.T.もまだ来ない。そんな状況で更に香苗まで守りながら3人を同時に相手にするのは流石に骨が折れる。

 

 そんな状況で、デイナが選んだのは撤退であった。一応あいつらもある程度は痛めつけた訳だし、戦う相手が居無くなれば引き上げてくれるだろう。よしんば引き上げなかったとしても、時間が経てばS.B.C.T.が来る。流石のヘテロも消耗した状態でスコープ達の相手をするのは酷だから退いてくれる筈だ。

 

「ちょっと我慢してね」

「わっ――!」

「おぉ?」

 

 デイナは亜矢と香苗、2人を両脇に抱えると翼を広げて空へと飛び、大学のラボへと向かって飛んで行った。

 下からはヘテロ達が銃撃してくるが、デイナは下からの攻撃を難無く回避して逃げおおせたのだった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 傘木社からの刺客から逃げた仁は、とりあえずラボへと入った。今はまず亜矢の怪我の手当てが必要だ。病院に向かうのも考えたが、こちらは変身しながら入っても騒ぎにならない。

 

 ラボで変身を解き、香苗を下ろし亜矢をソファーに寝かせる。すると彼が来るのを待っていた峰が救急箱を持ってやって来た。

 

「双星さん、大丈夫ですか?」

「いつつ……何とか」

 

 峰は一瞬香苗に目をやったが、まずは亜矢の手当てが先と傷口を消毒して包帯や絆創膏を貼る。

 

 その横で、白上教授が仁に香苗の事を訊ねた。

 

「今回も大変だったようだね。ところで門守君、こちらの女性は?」

「俺の母さんです。母さん、こちら俺が所属してる研究室の教授の白上教授」

 

 仁が香苗を紹介すると、白上教授は軽く目を剥き峰は亜矢への手当の手を止めて香苗の事を見た。自分が注目されている事に対し、香苗は顔色一つ変えず白上教授に軽く頭を下げた。

 

「どうも。仁の母、香苗です。ウチの息子が世話になっているそうで」

「いえいえ、こちらこそ。彼にはとても助けられています」

 

 仁の母と言う割には丁寧な挨拶に、白上教授も紳士的に応えた。

 

 一見するとごくありふれた教授と、学生の保護者の挨拶に見える。だが峰は、一瞬香苗が白上教授に険しい表情を向けた事に目敏く気付いた。

 

「?…………」

 

 何で香苗が白上教授にそんな目を向けるのか分からなかった峰だが、考えてみれば白上教授は仁を戦いに巻き込んだ張本人。

 母として、息子を危険に巻き込んだ原因に対しては何かと思うところがあるのだろうと1人納得し亜矢への手当てを再開した。

 

「今回も随分派手にやられましたね」

「面目無いです。折角、ルーナの強化までしてもらったのに……」

「気にする事ありません。双星さんはよく頑張っています」

「でも……」

 

 幾ら慰められても、やはり現状で亜矢が足を引っ張っている感はどうしても否めなかった。ありきたりな言葉だが、力が欲しい。

 

 実を言うと、当てがないと言う訳でも無かった。生憎と知識と技術の足りない亜矢と真矢ではどうしようもないが、仁と峰であれば何とかクリアできそうな当てが。

 

「ねぇ仁君、先輩? ルーナで使うキャットベクターカートリッジだけどさ、これをもっと強化する事って出来ないかな?」

「どう言う事です?」

「ヘテロが使うカメとワニのベクターカートリッジは、古生物のDNAから現代にも生きてる生物のDNAを強化したじゃない? そんな感じに、このキャットベクターカートリッジも強化できないかなって」

 

 真矢の言葉に、仁は顎に手を当てて考え込む。確かに、ネコ科の動物の中には過去に滅んだが現代よりもずっと強力な力を持つものが居た。その能力を、遺伝子に刻まれた歴史から引き出す事が出来れば…………。

 

「出来ない?」

「それは……やってみない事には、何とも……」

「……やる価値はあると思う。ただ、制御が難しくなるかもしれないって言うリスクはあるよ?」

「上等よ。仁君だって頑張ってるんだから、私達だってやってやるわよ。ね、亜矢?…………はい。覚悟は出来ています!」

 

 傷付きながらも、強い意志を宿した目に仁と峰は亜矢と真矢の覚悟が本物であるとし、頷き合うと早速作業に取り掛かった。

 仁がケツァルコアトルスとスピノサウルス、そしてキャットベクターカートリッジを機械に繋ぎ、キーボードを叩き二つの恐竜ベクターカートリッジから古生物の遺伝子の特徴――所謂因子の様なものを解析。それをキャットベクターカートリッジに当て嵌め、ネコ科の動物の遺伝子の奥深くに眠る絶滅したネコ科動物の因子を引き出していく。

 

 仁が解析した因子を、峰がアダプトキャットに入力し太古の昔に絶滅したネコ科動物の力を引き出せるようにする。

 

 それは決して簡単な作業ではなく、ディスプレイを見る仁の額にも汗が浮かんでいた。それほど集中しているのだ。

 

 頑張ってくれている2人に感謝と申し訳なさを感じた亜矢は、体力が回復したら2人をサポートする事を決め今は体を休める事にした。目を閉じ、軽く仮眠をとって疲れを癒す。

 

 その様子を見た香苗は、彼らの邪魔になってはならぬとラボを後にした。

 

「仁、私はもう少しこの教授と話したいことがあるから、少し席を外すよ?」

「ん、分かった」

「それじゃあ白上教授、行きましょう」

「そうですね。では……」

 

 香苗は白上教授と共にラボを後にした。今日は土曜日と言う事もあって、表の研究室の方には誰も居ない。

 最初に白上教授がラボから出て、その後に香苗が続く。ラボから出ると、香苗は扉をしっかりと閉め研究室内には誰も居ない事を確認した。

 

「それで、話と言うのは――――」

 

 白上教授が全てを言い切る前に香苗が動いた。

 

 香苗は素早く白上教授を壁に押え付けながら近くの机のペン立てからボールペンを一本引き抜くと、それを白上教授の右の眼球の目前に突き付けた。あと少し彼女が力を入れれば、ボールペンが白上教授の右目を潰していた。

 

「うっ!?」

 

 突然の香苗の行動に為す術なく押さえつけられた白上教授が、何をと彼女に問う前に彼女が口を開いた。

 

「何故あの子があれを持っているの?」

「あ、あれ?」

「あのドライバー……あれの基礎設計図をあの子の父……私の夫の司が

持っていた。それを何故、あなたが持っていた?」

 

 香苗の言葉に、白上教授は目を見開き絶句した。

 何も答えない白上教授に、香苗は苛立ちを隠さず更に問い詰めた。

 

「答えて……あれを何処で手に入れたのかを」

 

 司が何故、デイナドライバーの設計図を持っていたのかは香苗も知らない。司が作ったものなのか、それとも別の誰かが作ったものなのか。

 だがもし、あの設計図の存在が夫の死に関わっているのなら……そして白上教授がそれを知っているのなら、ドライバーを渡された仁も無事では済まないかもしれない。

 

 そう思うと香苗は心穏やかではいられなかった。

 

 絶対零度の視線とはこの事か。香苗の視線は冷たいが、しかしその奥には地獄の業火もかくやと言う灼熱の怒りの炎が燃えていた。

 それは例えるならば絶対零度の炎。香苗は冷静に怒っていた。

 

 背筋が凍るような視線に晒されながら、白上教授は香苗の目を見つめ返しながら答えた。

 

「た、確かに、デイナドライバーは正確には私が作ったものではありません。あれは…………貴女の夫である、門守 司君が作ったものです」

「その事……仁は?」

「知らせていません。司君からも、自分とドライバーの事は誰にも言わないでくれと、頼まれていたので……」

 

 嘘を言っているようには見えない。ただまぁ、この状況で尚嘘を吐けるだけの演技を白上教授がしていたら、それはそれで大したものだが。

 

「もう一つ聞かせてくれ。貴方は仁と司が親子である事は?」

「司君からは、息子が居るなどとは聞いていませんでした。ですので、この大学で彼の名前を見た時は、まさかと思いましたが……」

 

 白上教授からの答えに、香苗の視線が鋭くなる。射殺すような視線を、白上教授は正面から受け止めた。

 

「――――はぁ」

 

 暫く睨み合い、香苗は溜め息を吐くと力を抜きボールペンを下ろして白上教授を解放した。精神的物理的な圧力から解放され、白上教授は安堵の溜め息を吐いた。緊張から解放されたからか、全身から汗がドッと噴き出した。

 

 流石に歳だからか、先程の二重の圧力が体に負担を掛けたらしい。白上教授は少し苦しそうだ。それを見て香苗は彼の背を擦った。

 

「……申し訳ない。少し気が立っていたみたいだ。あれは、司……夫の形見みたいなものだから」

「いえ、人の親として当然の反応です。流石に押え付けられて脅されるとは思ってもみませんでしたが」

 

 香苗は世界中を飛び回り、危険な場所にも足を運んでいる。そこには自然の脅威だけでなく、力が全てを支配する人間同士の諍いに遭遇する事もあった。

 

 そんな状況を何度も潜り抜けてきた香苗は、こう言った過激な手段も必要とあればとる胆力を持っていたのだ。特に今回は、息子と今は亡き夫に関わる事。意地でも何かしら情報を引き出そうと、彼女も必死だったのである。

 

 その結果は殆ど空振りに終わってしまったが。

 

「ところで一つお聞きしても?」

「何です?」

「奥さんはその設計図をどうして知っているんですか? 内容的に司君の持つ情報の中でトップシークレットの筈……」

「単純な話です。司の死後、遺品整理してたら短い手紙と一緒にデータが入ったメモリーが大事に保管されてたんです。曰く、『誰にも見せず、大切に保管してくれ』……と」

 

 見つけた時は何の為の物なのかもわからなかったが、それでも亡き夫の大事な形見と言う事で手紙に書いてある通り誰にも見せる事無く大切に保管していた。それこそ、普段の冒険にも肌身離さず持ち歩いてだ。これの存在は仁にすら話していない。

 

 しかし仁も最早立派な関係者。近々、これの存在を彼に話すべきだろうと香苗は心に決める。

 

「――――仁は、あなたの事を信頼している。あの子が信じるなら、私もあなたを信じよう。あの子の事、宜しく頼みます」

「はい……勿論です」

 

 誰も居ない研究室の中で、香苗と白上教授が硬く握手を交わした。

 

 自分の母親と恩師がそんな一歩間違えば流血沙汰になっていたようなやり取りをしていたとは露知らず、仁は亜矢のルーナを強化する為にベクターカートリッジの強化の為に頭を働かせていたのだった。




と言う訳で第40話でした。

香苗は冒険の先で危険な目に何度も遭っているので、結構度胸有ります。多分過去にはインディ・ジョーンズばりの冒険をしていた事でしょう。

そんな度胸ある香苗だからか、やる時は結構過激な事もやります。かなり強引な白上教授への尋問でしたが、事が夫の死の真相と息子の今後に関わる事だから香苗自身余裕がありませんでした。

と言う事で、ドライバーの制作者は仁の父親でした。でも仁はまだその事を知りません。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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